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Galaxy (story71~75) の変更点


著者[[パウス]]

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**~Story71~ ―衝突― [#gcfe5d3f]

無事カーネリアも復活し、俺達パール一行はハクタイの森の出口に向かっていた。深く薄暗いこの森も、何度も人が出入りしているおかげで草や枝が折れて道になっていて、すんなりと進むことができる。だが想像以上に広いもので、道は分かるがなかなか外に出られない状況が続いていた。
「あー・・・っ、まだ出られないのかよ」
「思ったより深いのね、ハクタイの森って」
俺の帽子を頭に被りながらガーネットは文句を垂れ、ジェオードもガーネットほどではないが、くたびれてきた様子が見えてきた。彼らが苛立った声を出すごとに、ジェオードの背に乗った俺がなだめている。本来ならば一気に走り抜けたいところだが、枝葉が金網のように入り組んでいて難しいところである。
「確か出口の近くに、古い屋敷があったと思う。とりあえずそこまで行って、もう一度休憩しない?」
カーネリアはハクタイの森に入ったことがあるようで、それほどくたびれた様子は見せていなかった。最も、彼女の場合は早くメノウに会いたいという気持ちが一番強いせいだろうが。アルミナに奮い立てられ、彼女の気持ちはこれまでにないほど強固なものになっていた。ちなみに、そのアルミナは現在彼女の身体の中で熟睡中である。融合させられた後の長い眠りから覚めたばかりだが、まだ眠気が覚めていないらしい。
「そうだな、ここを抜けて町まで行くのにも少し歩くみたいだし・・・、そこで一度休憩してもいいか」
ジェオードの背の上で俺は地図を広げ、これから進むべき道を確認していた。だがそれはあくまでも近くの町へ行くための道であって、目標にたどり着くための道ではない。そう、目標とは、今メノウがいる「A・G団」基地への道である。そこまでの道のりも確認しておきたいところだが、よくよく考えれば、俺達はそれがどこにあるのか、どうすればいけるのか、全く知らないのだ。影でこそこそと活動する奴らの情報をどこかで得るというのも難しいだろう。表立って活動しないのは、おそらく自分達の存在を含めたすべての情報を外に出さないためだ。つまり、その存在を知っている俺達はいつ奴らに命を狙われてもおかしくない。
―――いや、まてよ。と俺の頭の上にピンッと豆電球がついた。奴らが俺達を狙いにくるというのなら、そいつらから基地の場所を聞き出せばいい。問題は、そいつらをまず倒してからでないとうまくいかないであろう、ということだが。
とにかく相手と接触しなければどうしようもない。そのためにはまず町に行って準備を整えなければ――――と考えていると、突然俺を乗せているジェオードの動きが止まった。いや、彼女だけではなく全員の動きが止まって、ある一点を見つめて威嚇している。俺もその視線を追って見てみると、幾重にも重なった緑の向こう側に大きな影が見えるのが分かった。その影はどんどん近づいて、俺達とその影を隔てていた最後の草を掻き分け、正体を現した。
「あら?偶然ねえ、まさかあんた達に出会うなんて思わなかったわぁ」
影の正体はペルシアンとライチュウであった。ペルシアンのベリルは自分の爪を舐めながら艶美に笑い、こっちへゆっくり近づいてくる。そんな彼女に向かって、カーネリアは敵意――否、殺意を剥き出しにして、電撃を飛ばした。しかし、それは紙一重でかわされてしまう。カーネリアが攻撃してくることを予想してなければできないほど、俊敏な動きである。
「おっとぉ!久しぶりに会ったってのいうのに、つれないわねぇ」
「ハァ、ハァ、ハァ・・・ッ!できれば、もう二度と会いたくなかった・・。あたしは忘れない、あたしがあんたにされたこと・・・・四年間もあんたに弄られ続けたこと・・!何度も何度も殺されかけたこと・・・!あたしは・・・あたしは・・・・」
あまりの怒りのせいだろうか、息は荒く、身体は震えて、言葉のつなぎ方がおかしくなっていた。心の奥に溜まっていたものを口に運びだすように、暫く震えながら下を向いて―――次に顔を上げた時、いつもの陽気な彼女の目つきではなくなっていた。
「絶対に許さないっ!・・・・殺す!今すぐあんたをコロシテヤルッッ!!」
相手側にはベリルだけではない。もう一匹、ライチュウ―――エバトイルがすぐそばにいるにも関わらず、無謀にも彼女は我を失ってたった一匹でベリルに飛びかかった。中にいるコーラルやクォーツ達が止める間もない。当然、俺達が止めることもできなかった。エバトイルはニヤリと笑い、身体を屈めて、無防備なカーネリアに向かって跳躍した。彼が空中で尻尾を身体の前で水平に伸ばし、そのままなぎ払おうとした。だがその時、何かが彼にぶつかって弾き飛ばした。
「ぐぁっ!」
ぶつかったものは、カーネリアに勝るとも劣らない速さを持つガーネットであった。無防備なカーネリアを狙ったエバトイルもまた無防備であり、体重の軽いガーネットでも軽く吹き飛ばすことができた。
その時、カーネリアとベリルがぶつかり合った。カーネリアの頭突きを両前足で受け止めたベリルは、それを受け止め続けることなく横へ受け流した。カーネリアは最初に飛びかかった勢いのまま、地面に叩きつけられてしまう結果となった。
一方、ガーネットに飛ばされたエバトイルは、地面にぶつかる直前に受け身を取り、すぐに立ち上がった。それからぶつかった時に切れてしまった唇から垂れた血のしずくを吐き捨てる。
「自己紹介をしてなかったな・・・、俺様の名はエバトイル。こっちのペルシアンがベリルだ。さっきの融合体の様子を見りゃわかると思うが、あいつらに戦いを吹き込んだ奴の内の二匹ってわけだ」
「・・・・・・」
ガーネットはゴクリと唾を飲み込んだ。また、ガーネットの横に自然と並んでいたジェオードもまた額から汗を流す。一方のエバトイルは未だ余裕の表情のまま、突然話を変えた。
「ところでお前ら、シェルの野郎から報告が入ってるぜ?お前らのお仲間の中に、融合体じゃないブースターが紛れ込んでるってな」
「・・・っ!」
シェルという人物を、俺の頭の中で検索した結果出てきたのは、クォーツが目覚めるきっかけとなった時のことであった。あの時戦っていた相手のトレーナーの名前がシェルであった。だがそれよりも、俺達の仲間で融合体でないブースターとはもちろんメノウのことである。ジェードが言っていたが、『A・G団』がメノウを探しているというのは本当のことだったらしい。
エバトイルはこっちを威圧しながら「そのブースターを出せ」と、脅すように要求してきた。しかし今は俺の元にメノウはいないし、いたとしても狙われていると分かっていて出すわけにもいかない。今ジェードのところにいると喋れば確実に怪しまれる。
それらの理由から、俺達がとった行動は黙秘であった。暫くして痺れをきらしたエバトイルは一度舌打ちをして、頭をポリポリと掻いた。
「何もしゃべらねえか・・・まぁ、俺は構わねえぜ?お前らを半殺しにして、無理矢理聞き出せばいいことだしなぁ!」
構え無しに仁王立ちしていたエバトイルは、少し身体を屈めて両腕を少し広げた。これが彼の戦闘の構えらしい。迎え撃とうとガーネットとジェオードもまた構えた。俺はすぐさまオニキスの入ったボールを開き、彼らと戦うよう指示をした。
「三対一でも大いに構わねえぜ!この俺様がお前らなんざ、軽くぶっ倒してやるよ!!」
そう叫ぶと同時に、エバトイルの頬にある電気袋にバチバチと電気が帯電し始めた。


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**~Story72~ ―殺意と怒声― [#e066aa98]

「そんなに怖い顔しないでぇ、せっかく久しぶりに会ったんだからいろいろ話でもしない?」
「ふざけんなァァ!!」
もはやいつものカーネリアではなく、怒気を通り越して殺意にまで昇華した彼女の気迫は以前彼女を襲おうとしたヘルガーやグラエナの時とは比べ物にならなかった。それは彼女が完全に我を失っていることを意味する。
それほどまでになるのは仕方のないことではあるのだ。四年もの間、何度も何度も殺されかけた相手が目の前にいるのだから。そういうオレも、クォーツも、コーラルだって今まで笑顔で旅できたのが不思議なくらいの地獄を経験してきたのだ。オレも目の前に奴が現れたのなら、きっと今のカーネリアのようになってしまうことだろう。
カーネリアは足をそのままに身体だけを斜め後ろに下げるように構えると、元の位置に戻ろうとする反動を利用して一気に加速した。相変わらず素晴らしいスピードだが、その突撃はあまりに単調すぎた。さらに相手の前で跳躍し、隙を見せた訳でもないのに真正面から飛びかかっていくその様は愚かとしか言いようがない。確かに当たればダメージを与えられる上に優位に立てるが、ベリルがそんな単調な攻撃を避けられないほど弱いとは思えなかった。
「つれないわねぇ・・・」
ベリルは身を屈め、案の定簡単に避けられてしまった。それだけではなく、着地の姿勢まで考えていなかったカーネリアはそのままベリルの後ろの地面に激突し、受け身も取れずに転がると言う目も当てられないような状況。本来ならばここでもう勝負はついたようなものだが、ベリルは余裕を見せつけるようにゆっくりと後ろを向いただけで、攻撃するそぶりを見せなかった。
「全くダメねぇ、カッとなって突っ込んじゃダメだって教えなかったかしら?」
「・・あんたに教えられたことなんて思い出したくもない!!今すぐあたしに殺されて、さっさとあたしの記憶の中から消えろっ!!」
カーネリアは休まず突撃し続けた。しかし一度もかすりもしない。相手が余裕の笑みを浮かべながら反撃しないせいで、ますます頭に血が上っていっているのがよくわかる。
オレ達はただ虐められていた訳ではない。おそらく融合した後の戦力を期待してだろうが、ほとんど戦いとは無縁だったオレ達に戦い方を教えたのは「A・G団」なのだ。ひと並以上に戦うことができるのはそのためである。無論カーネリアもそのはずであるが、憎き相手を前にして完全に忘れてしまっている。―――いや、意地でも奴らに叩きこまれた戦い方をしようとしていないのだ。その戦い方を、教えられた相手に対してしていれば、当時の地獄のような苦痛の記憶が蘇ってきてしまうのだろう。だがその結果として滅茶苦茶な戦い方になってしまっている。我を失っているのもあって、まるで戦いになっていなかった。
オレはカーネリアも自分の力でベリルを倒したいだろうと思って口を出さなかったが、あまりにひどいので居ても立っても居られずに融合体の器の外に飛び出した。
「馬鹿っ!落ち着けカーネリア!・・・・あっ!!」
暫くして、カーネリアが何度目かの突撃を始めた時だった。外に飛び出したオレの目に映ったのはベリルの周りに大量に浮かぶ白い光、そしてそれに気付かずに突っ込んでいくカーネリアである。その光の正体は、自分の気を岩のように硬質化、巨大化させて相手を攻撃する技――“パワージェム”と呼ばれていた。いくら言ってもオレの声は彼女の耳に届かず、その光はまずカーネリアを囲むように飛ばされ、最後に逃げ道をふさがれたカーネリアの上に、地響きと轟音と共に落とされた。
「カーネリア・・・っ!!」
希望も、絶望も全てを吹き飛ばしてしまいそうなほどの轟音と共に、彼女の姿はその光と砂煙に覆い隠されてしまう。ベリルも薄ら笑みを浮かべて勝利を確信し、さっきまでの轟音が嘘のように静まり返ったあとにそれは起きた。
「うおぉぉぉぉおおおおーーーーーっ!!」
カーネリアを押しつぶしたと思われる光が少しずつ持ちあがっていくのが見えた。下にあるものを必死に抑え込もうとするように揺れ動くその光は、下からの予想外の力に耐えきれずに放りだされてしまう。下から出てきたのは“パワージェム”に押しつぶされる直前にカーネリアと入れ替わったと思われる、クォーツであった。彼は並はずれた馬鹿力の持ち主で、おそらくベリルの技をその身体ひとつで受け止めたのだろう。しかし無傷とは流石にいかず、背には痛々しい打撃痕が残り、頭から頬、顎を伝ってポタポタと血が流れていた。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・」
当然息は荒く、今にも倒れそうなほどであったが、それでもまだ相手が生きていることが予想外だったベリルの目は見開いている。小さな舌打ちも聞こえたような気がした。
「・・・・おい、カーネリア・・・」
若干かすれた声でクォーツはカーネリアを呼んだ。入れ替わって身体の中にいた彼女はそれに応じて出てきたが、その表情はさっきまでの殺意にまみれたものではなく、驚いているような、申し訳なさそうな顔のような、邪魔をするなという顔のような、さまざまな感情が交じっていた。
「お前よぉ・・・ちょっと前まで塞ぎ込んで泣きべそかいて消えちまいそうな顔してたくせによぉ・・・・今度は何だ?怒りで周りが見えちゃいねえ、まるで戦いになってねえ、ただ死に急ぐようなことしかしてねえんだよ・・・っ!」
そう言って振り返ったクォーツの顔は血でまみれていて、いつもの数倍は迫力があった。それは殺意ではなく、ただ単に怒りの表情をしていた。
「いい加減にしろよ!!てめえは一体何がしてえんだ!?死にてえのか生きてえのかハッキリしやがれ!!てめえの感情の起伏に振り回されてるこっちはいい迷惑なんだよボケがっ!!」
先程の“パワージェム”による轟音に勝るとも劣らないほどの怒鳴り声だった。ただそれはいつものように子供のようにムキになって怒っているのではなく、仲間の致命的な間違いを叱咤するものであり、全くの別の怒りである。つい先日、パールではなく自分に別れの言葉を言ったメノウに対する怒りと同種であろうか。
言葉は乱暴で厳しいものだったが、今のカーネリアの胸には痛いほど染み入ることだろう。彼女の表情は明らかに申し訳なさそうな顔のみに変わっていた。同時に仲間の身体を張った行動のおかげで頭も冷えたようである。
「ごめん・・・私わがままだよね、皆を振り回して迷惑かけてるってことも分かってる。・・・・でも、ありがとうクォーツ。おかげで頭が冷えたよ。」
さっきまで怒鳴られていたのとは不釣り合いなほど明るい笑顔を見せたカーネリアに対し、クォーツもクールダウンしてきたようだ。
「・・まぁ、俺もあんな地獄を体験してきたしな、あいつらが殺したいほど憎いのもわかる。だから・・・」
「うん、絶対勝つよ!」
自分が言いたいことを先に言われて驚いたクォーツだったが、すぐに男らしい笑顔に変わった。カーネリアがクォーツの中に入ると、純白の光に包まれながら二匹が入れ替わっていく。
「待たせて悪かったわね、さぁ再開しようじゃないの!」
その気持ちとは裏腹に、彼女の身体には相当なダメージが残っている。融合体は身体は一つに複数の魂、誰かが身体に傷を負えばそれは別の者に入れ替わってもそのまま残るという特徴があった。つまり、さっき“パワージェム”を受け止めたクォーツのダメージがそのままカーネリアにも残っているということである。その証拠に、さっきのクォーツと同じように彼女の身体は時々ふらついてしまい、今にも倒れそうであった。
「・・・・いい仲間を持ったわね・・。でも、もう遊びはこれまでよ。あなた達と一緒に行動してたブースターの情報はあの人間から聞き出せばいい。だからあなたにはここで消えてもらうわ・・・っ!」
余裕の表情をしていたベリルの雰囲気が一変した。それに呼応するようにざわざわと草木が躍る。カーネリアをここまで鍛えた彼女の本当の実力が、今発揮されようとしていた。

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**~Story73~ ―絶対不利― [#b2520710]

静かだった。ベリルの気でざわめいていた緑も静まり、これから激しい戦いが始まろうとしているのに、それに不釣り合いな静けさだった。まるでカーネリアとベリルの拮抗した気に、他の全てが押しやられているようだった。
「・・・あいつ大丈夫なのか?」
「っ!いつの間にこっちに戻ってきてたのか!」
いつの間にかカーネリアの中に入っていたクォーツがこっちに戻ってきていた。彼は眉間に皺を寄せながらカーネリアを見つめている。
「やっぱり痛かったですか・・?」
これほど緊迫した戦いに慣れていないアメシストは、クォーツに対しても少しビクビクしていた。いくら戦いができない彼女といえど、さっきの“パワージェム”の直撃がかなりのダメージになってしまったことくらいは理解できていた。
「あぁ、正直めっちゃ痛かったぜ。あいつだって立ってるのすら辛いはずだ」
「潰されなかったのは、貴様の馬鹿力のおかげだったってわけだな」
「・・・お前、それ褒めてんのか?」
しかし事実である。融合体のなかで一番力の強いクォーツだからこそ致命傷を避けられたのだ。それよりも褒めるべきは、彼の機転の良さと勇気だろう。自分が痛い目見ることは確実だというのに、よく一瞬の判断で表に出てこれたものである。
そんなことを思っているうちに、戦いの場に変化が訪れた。様子見でカーネリアの体力が回復してしまうことを防ぐためか、先に動いたのはベリルであった。鋭い爪を光らせ、駆け寄ると共にそれを前に突きだす。それに対し、カーネリアは近寄られる前に電撃を放った。黄色い閃光が不規則に小刻みに曲がり、軌道上の全てを焼き焦がしながら飛んでいくが、ベリルはスピードの減少を最小限にしつつ、サッと横に避けてしまった。
「くっ・・・!」
ベリルの接近は止まらない。カーネリアは一か八か、ギリギリまで引き付けてからベリルの頭上を飛び越えた。
「あら、まだ動けたのね」
着地したカーネリアの表情は一瞬歪んで見えた。しかしそれが何故かはすぐに分かった。
「やっぱりかなり痛むんだな・・・」
クォーツが呟いた通り、着地の衝撃で激痛が走るほどダメージを負っているのだ。それにベリルが気付いていないはずはない。カーネリアが何とか耐えたから隙こそ曝さなかったものの、このままでは少しの衝撃を受けただけで激痛が走ることになる。激しく動けないということは、確実かつ圧倒的に不利である。
「どんどん行くわよっ!」
ベリルの声に呼応して彼女の額の飾りが一瞬赤く輝いた。すると大小様々な“パワージェム”が形成され、上空に浮かんでいく。彼女が前足を前に突きだすと同時に、それらが一斉に飛びかかる。カーネリアの表情に焦りが見えた。それでも何とか、流星群のように降り注ぐ無数の光の間を縫うように避けていく。
しかしベリルも巧妙だった。大きめの目立つ光をわざと避けやすいように飛ばし、それによって生じた死角から小さめの光が襲いかかるように操作している。加えてカーネリアを襲う痛みが彼女の動きを鈍らせ、徐々に避けきれなくなっていった。直撃しないまでも掠るようになり、小さな傷をつけていく。
「あぶねえっ!!」
クォーツの声が響いたと同時に、カーネリアの目の前にボーリングの玉ほどの大きさの光が襲いかかっていた。すぐに頭を下げて顔面が潰されることは避けられたものの、背中に直撃してしまった。
「ぁうっ!!」
骨が砕けたのではないかと思うほど鈍い音がした。幸いなのは、彼女に当たった光が相手の飛ばした最後の“パワージェム”だったということだった。
しかしカーネリアは耐えた。足元がふらつくどころか身体全体がガクガクと震え、口から、全身から血を垂らしているがまだ立っている。この根性には私達だけではなく、ベリルすらも驚かせた。
「な、何で倒れないのよ・・・?どうしてそんなに頑張るの・・?」
「・・・あんたに・・・・負けたくないからに決まってんでしょ!」
あえて本当の目的を言わなかったが、ベリルに負けるということはメノウに届かなくなるということであり、ベリルに負けたくないということはメノウにまた会いたいという気持ちの表れである。今の彼女を奮い立たせる理由としては充分だった。
初めてベリルが動揺を見せていた。そのチャンスをカーネリアは逃さず、今負っている傷からは信じられないようなスピードで突進していく。ベリルが我に返った時にはもうすでにカーネリアの頭が目の前にあった。―――次の瞬間、ベリルが吹き飛んでいた。
「ああああぁぁーーーっ!!」
バチバチと弾ける音が耳を劈き、地面を転がったベリルに黄金に輝く大蛇のような閃光が更に追い打ちをかけた。それが彼女の身体に触れると当時に大きく鋭い音が鳴り、電撃が全身を貫いていった。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・ッ」
ベリルが地面に倒れ込むと同時に、辺りは一気に静寂に包まれた。カーネリアは息を荒げ、普通の呼吸とは違うような呼吸音がしている。確かに相手が倒れていると確認した後、カーネリアは小さくうなり声をあげてその場に静かに倒れた。
一方のベリルには、まだ身体に残っている電流がバチバチと身体を包んでいた。そのままぐったりと倒れ込んだままと思いきや―――ふらりふらりと立ちあがった。あれだけの放電を受けておいてまだ立ち上がれるのは、やはり相手の方が格上だったからなのだろうか。―――いや、そうではない。
「やっぱりあの身体じゃ、全力で放電できなかったんだわ!」
そう叫ぶと当時に私はカーネリアの方に駆け寄っていた。しかし何者かの大きな白い輪郭が目の前に吹き飛んできたせいで遮られてしまった。
その白い輪郭の正体は、少し離れたところでベリルと共に現れたもう一匹のポケモン―――エバトイルと戦っていたジェオードであった。彼女が吹き飛んできた方向を見ると、堂々と仁王立ちしているエバトイルの足元に、ジェオードと共に闘っていたガーネットとオニキスが倒れているのが、そして立ちつくしていたパールの姿が見えた。
「ちったぁ骨があったけどな。まぁ恥じることはねえぜ?相手が俺様なんだからな、クハハハハハッ!!」
自慢げに高々と笑っていたエバトイルは、こっちの状況を見るや否やすぐに駆け寄ってきた。そしてフラフラになっているベリルを見て、フンッと鼻で笑う。
「何だよベリル、ざまぁねえなぁ」
「・・・うるさいわね、ちょっと油断しただけよ」
「まぁお前は休んでな、キッチリとどめ刺しといてやるよ」
エバトイルの視線が、倒れ込んだままのカーネリアの方を向いた。魂の状態のままで無力な私はその様子を見ていることしかできず、まさに絶対絶命だった。
―――しかし、その瞬間エバトイルの顔が青ざめた。ベリルも同様である。その様子を見た後、私もこの場の空気が変わったのを感じた。その冷たくて重いような空気は私の後ろの辺りから感じるような気がして、すぐに振り返った。そして空を覆う緑の葉の屋根を見上げると、その隙間に不自然に大きくて黒い影があった。その影は禍々しく目を光らせると、そこから飛び出して空中で一回転し、カーネリアとエバトイルの間に着地した。
「こっそり付いてきてよかったわぁ。あなた達二匹に任せるのはぁ、ちょっと不安だったのよねぇ」
ところどころ間延びする特徴的な口調の彼女は、エバトイルよりも一回り小柄で、一回り華奢な見た目をしていた。黒い体表、頭の上にある耳の片方にだけ大きな紅色の飾りと、って足に生えた鋭い爪が一層彼女の禍々しい雰囲気を引き立てる。その種属はニューラと呼ばれていた。
「レミオル・・・っ!」
エバトイルが小さく呟いたのは、そのニューラの名前だった。ニューラ――レミオルは私の方を振り返ると、小馬鹿にするようにニヤッと笑った。

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**~Story74~ ―再開― [#xf3321a3]

―――もう、数えられないほど長くここにいる気がする。部屋に灯りを灯すたったひとつの電球も、妙に綺麗でふかふかしているベッドも、耳の奥に残るような重い音をたてて回っている換気扇も、何度目を向けようが変わらずそこにある。A・G団基地は入り口を残してほぼ地下に作られているせいで窓もなく、外の様子はいっさいわからない。雨に日には唯一外と繋がっている換気扇から雨が降り注ぐ音くらいは聞こえるんだろうか。もし自分が捕まってしまったらどうなるんだろう、そもそもどうして追われているんだろう、そうジェードに問いかけても何も教えてくれない。「そんなことは知らなくていい」の一点張りでいつも濁されている。しかし崖にかかったボロボロの橋を渡るような危険をおかしてまで僕を匿ってくれているということは事実であり、同時にそこまでして隠さなければならないほど重大な秘密が僕にあるということを裏付けていた。
―――ふと、扉が軽くノックされる。僕はそっとベッドの下に潜り込んで隠れた。僕以外に誰もいない部屋から返事が返ってくるわけもなく、ノックした者はしばらくそこに立ち尽くす。

――――コンッ、コンッ・・・ココンッ

今度は奇妙なリズムでドアを叩き始めた。それを聞いて、僕はベッドの下から顔を出す。このリズムでノックをするということが、僕の仲間であるということを示す合図であるからだ。返事する前に扉が開き、中に入ってきたのはいつも通りキルリアに変身したままのセルロースと、小柄なマッスグマとピカチュウの三匹だった。本来僕達以外の者を部屋に入れてはいけないのだが、マッスグマらがここに入ってこれた理由は―――
「アクア、マリン・・・」
マッスグマのアクアとピカチュウのマリンは、ベッドの辺りから聞こえた小さな僕の言葉に耳をピクッと動かし、こっちに目を向けた。ベッドの下から顔だけ出している僕に気がつくと、驚いたと同時に喜色を浮かべる。
「メ、メノ・・・・・っ!?」
アクアが声をあげる前に、素早く彼の口を前足で閉じた。僕がここに存在していることを「A・G団」に知られないようにしなければならないというのに、僕の名を大声で叫ぶなど言語道断である。それを十分承知なアクアは、口を抑えられながら小刻みに頷いた。前足を話すと、彼は一旦深呼吸してからもう一度口を開いた。
「本当に来てたんだな、メノウ。お前が銀河団から脱走してから、もうどれだけ経った?いやー、また会えて嬉しいぞ」
今度は囁き声よりも少し大きい程度の小さな声だった。僕はベッドの下から這い出して、久し振りに会った親友に笑顔を見せた。
「まさかアクアとマリンもジェードに協力してたなんて驚いたよ。ホントに久し振りだね、二匹とも」
僕とアクアは片前足で拳を作り、互いの拳と拳を軽くぶつけ合った。アクアとマリンとは、僕が銀河団に所属していたときからの親友である。
銀河団が表立って行動を始めたのが約一年前、融合体の実験のためにカーネリアらを捕らえていたのは四年前だが、その時には既に僕やアクアやマリンは銀河団の中にいた。それにも関わらず融合体の存在に気づけなかったのは不覚である。もし気づいていたのなら共に脱走する方法を考えていたのに。
「一年とちょっと前くらいよね、あなたが脱走したのって。その間何してたの?」
そう聞いてきたのはマリンである。
「・・・あの後、なんとか追手を振り切ったのはいいんだけど・・・」
銀河団から逃げ出し、その追手に追われるという恐怖、それを体験したからか、その時のことはハッキリと覚えている。あのまま逃げ出さなかったら、その後何をされていたのわからない。
僕が銀河団から逃げ出したのは、その先A・G団になっても奴等がホウエン地方で僕を探し続けたことからも分かるようにホウエン地方でのことである。奴等は裏で当時ホウエンで既に解散しかけていた「マグマ団」残党と手を結び、勢力を拡大しようとしてホウエンまで渡っていたのだ。
しかしどうしてA・G団はこれほど血眼になって僕を探し続けているのだろうか。一体僕に何の力があるというのだろうか。何らかの力を持っているというのなら、どうして僕がそんな力を持っているのだろうか。
―――それとも、僕が気づかないうちに奴等に何らかの力を与えられたのだろうか。
「・・・?おーいメノウ、どうした?」
様々な思考が絡み合い、いつの間にか自分の世界に入っていた僕をアクアの声が呼び戻した。
「あぁごめん。えっと・・・そう、僕が逃げてから何があったか、だったね。
追手をなんとか振り切った後、しばらくどうするか困ってたら・・・・・・偶然彼らに出会ってね。・・・いや、あのときの僕の心境からいって、見つかっちゃったって言うべきかな」
「彼らって?」
「・・・・・・『心謳隊』だよ」
彼らは銀河団の存在に誰よりも早く気がつき、何年も前から銀河団と対立してきた少数精鋭の義勇軍である。まだ世間が「ロケット団」や「マグマ団」に気を取られている時、下手に銀河団の存在を悟られてパニックが起こるのを防ぐために、義勇軍「心謳隊」もまた水面下で活動していたのだ。また、一年前にようやく表に顔を出した銀河団と戦ったのも勿論彼らである。あまりにあっさりと銀河団が撤退したため、それほど有名になっていないが。
「そんな状況になって、あなたよく無事でいられたわね」
「逆だよ、そんな状況にならなかったら無事でいられなかったかもしれない」
「心謳隊」は隊が結成されたシンオウ地方のシンオウと、ひとりひとりが自分の正義の“心”を“謳い”主張することで悪を更正させるという方針を掛け合わせてつけられた名である。敵であろうと無駄に殺生はせず、なるべく罪を償わせて更生させることを目標としていた。
「彼らはみんな僕に良くしてくれた。特に隊長のハエンさんはなかなか心を開けなかった僕にずっと話しかけてくれたり、僕に戦いかたを教えてくれたり、本当にお世話になったよ」
彼らは強さと優しさの両方を兼ね備えていた。銀河団の一員だったことなど関係なしに接してくれていた。それがどれだけ僕を救ったことか、言葉では説明できない。
「ハエンか・・・一度彼が戦っているところを見たことあるけど、あれは強いというより別次元だったな・・・。彼に鍛えられたってことは、そうとう強くなったってことだろうなぁ、メノウ?」
「いや、僕が教えてもらったのは本当に基礎だけだよ」
「・・・?あの、私戦いのことはよくわからないけど・・・今まで一年以上一緒にいて、基礎しか教えてもらえなかったの?そういうものなの?」
マリンは首を傾げて、答えを求めるようにアクアの方を向いた。しかしアクアにも分からず彼もつられて首を傾げるのみ。
「いや・・・一年も一緒にいられなかったんだ・・・。そのあとすぐに銀河団と衝突になって、その時に僕をなるべく戦線から遠ざけたいってことで、僕は一人の隊員だったトレーナーの家に送られちゃったんだよ。それでそこのパールっていう、そのトレーナーの息子さんの手持ちになって、ジェードに連れてこられて今に至るってわけさ」
「まぁ・・・なんだ、お前も大変だったんだなぁ」
アクアは僕の肩をポンッと叩いた。その肩に乗った彼の前足に自分の前足を添えて、「今も充分大変だけどね」と苦く笑うしかなかった。
「・・・それで、アクアとマリンはどうだったの?」
「ん?あーっ、こっちはまぁ・・・・・・こんな感じさ」
そう言うと、アクアは隣のマリンと目を合わせた。そして何をしたかというと、なんと突然彼女を抱き寄せたのだった。それに対してマリンは嫌な顔一つせず、離れようとするどころか頬をほんのり赤らめて、少し恥ずかしそうに身体をくっ付けていた。
「・・・・・・えっ!?あの・・・その・・・・・・まさか・・・」
こんなものを突然見せつけられては、こっちは唖然とするしかなかった。開いた口が塞がらないとはまさにこの事であろう。
「へへへっ・・・まぁ、そういうことだ。お前がいなくなってから、こっちでもいろいろあってな」
「フフフッ、ごめんねメノウ」
二匹の周りからピンクのハートが浮かんでは消え、浮かんでは消え――とても甘ったるい空気が光のように一気に広がっていく。ベッドの上に座っていたセルロースがクスッと笑ったような気がした。
「あっ・・・そ、そうなんだ・・・・おめでとう・・」
こんな不安と恐怖に満ちたこの場所で、幸せそうな彼ら二匹を前にしてはこう言うしかなかった。かつていつも行動を共にしていた二匹がくっついているとは妙に複雑な気分ではあるが、だからこそ彼らの幸せを祈るべきなのだろう。
笑うマリンを見ていると、やはりどうしてもカーネリアのことを思い出してしまう。彼女もまた僕のそばでこんな風に笑ってくれていた。もし僕がこんな立場に立たされていなかったら、アクアとマリンのように傍にいるだけで笑いあえるような関係になっていたのだろうか。最早妄想とも言える想像が膨らんでいくが、今はもう後には引けない状況に立たされているのはまたとない事実である。彼女に会いたいという気持ちが大きくなっていく中、ここから動くことが許されないというジレンマが大きくぶつかってくる。
自分から去っておいてこんな気持ちを抱くなんて自分勝手だと言うことは分かっている。しかし大きくなっていくこの気持ちをこのまま抑えられるかどうか、徐々に自信を失っていくのが分かった。そんなことなど誰にも言えず、表面上には出せないような複雑な気持ちを、そっと自分の心の中にしまっておくしかなかった。
―――僕は、僕はどうすればいいんですか・・・ハエンさん
この場にいないような者にも助けを求めたくなる、そんなことを思いながら目の前に広がっている友人の幸せを、ただ茫然と眺めるしかなかった。


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**~Story75~ ~負けられない戦い~ [#i388846c]

A・G団の所有するポケモンの中でも、特に戦力が期待できる者は裏庭と呼ばれる広大な場所で待機することになる。基地に帰ってきてから、パイロープとルベライトはそこでお互いに高めあっていた。俺がそこに来たのは、その自分の手持ちの二匹と会うためだった。特別な用事があるわけではないが、シェルに待機しろと言われている今、やれることが限られているのである。もちろん自分をここに送り込んだ人物への定期報告は欠かしていないが、正直な話暇なので、久し振りに彼らと他愛もない話でもしようとやってきたのだ。
しかし裏庭の広さは大変なもので、探すのも一苦労である。地下に作られたこの基地の中でも最下層に位置する裏庭と中庭は、表に顔を出さずに空間をいくらでも広げられるのだ。それを可能にしているA・G団の技術にちょっとした感心を抱きつつ、どこから探そうかと周囲を見回していると―――
「オーッス!」
突然近くから大きな声で声をかけられた。全身の毛が逆立ったのではないかと思うほど驚いたが、それはよく聞き覚えのある声だった。そう、この能天気な声の主こそパイロープである。その隣にはルベライトも静かに立っていた。
「こんなところに何の用だ?」
「いや特に何も・・・。やることがねえから、ただ何となくブラブラしてただけだ」
やることがないというのは、正確には嘘である。俺にはメノウを護るという重要かつ重大な任務がある。しかしだからといって、ずっと部屋に籠っているのも不自然だ。だから時々メノウのことはセルロースに任せて、俺は色々と動き回らせてもらっている。セルロースには銀河団時代のメノウの友であるアクアとマリンを連れていくように頼んであるので、これで少しは彼の気も紛れるだろう。
パイロープとルベライトは相変わらずスイクンにしごかれたことを思い出しながら鍛え合っていたようだが、今は丁度休憩中らしい。どうやらメノウ捜索に動いているせいで裏庭も中庭もポケモンの数が少なくなっているという。そのおかげで広々と特訓出来るそうだ。
「まぁこれからのことを考えると、強くなって損することはな―――」
『ジェード様、ジェード様、至急頭領室までお出で下さい』
話をしようとした途端無機質な電子音が鳴ったと思えば、基地全体に届けられる放送が響いた。それは俺を呼び出す内容だったが、不可解なのはその場所が頭領のいる頭領室だということである。いつもならシェルに呼び出されて頭領の命令を伝えられたり、色々と説教じみたことを言われるのに、何故か今回は頭領室なのだ。
「・・・・何だか嫌な予感がするな・・・」
しかし呼び出された以上、無視するわけにもいかなかった。このタイミングでこの場所にいたのは幸いというべきか、もしもの時に備えてパイロープとルベライトを連れていくことにした。腰のベルトにつけられたボールを彼らに向けると、ボールがそれぞれ入っていたポケモンを感知して赤い光を放ち、中に引き込んでいった。パイロープ曰く「この引っ張られる感触はなかなか慣れない」らしい。
「じゃあ行くとするか。・・・何もないことを祈るぜ」
俺はボールの中に入ったパイロープやルベライトとそれぞれ目を合わせ、気合いを入れてから裏庭を後にした。

頭領室の扉は、他の部屋の扉とは明らかに異なっている。他のは錆び付きかけた鉄の扉なのに対し、こちらは立派な木製で両開きの大きな扉である。その扉を手の甲で少し強めにノックし、扉の向こうまで聞こえるように少し大きめな声でこう言った。
「ジェード、ただいま参りました」
すると突然両開き扉が内側から開かれた。それほど重くない扉のはずなのだが、妙に重い音を奏でているように感じるのは、やはり胸の内にざわめく嫌な予感が拭いきれないからだろうか。扉が開かれて最初に目に入ったのはシェルの短めな青い髪と、最近ホウエンから帰還したもう一人の幹部ストーンの肩まで届くか届かないか程度の長さの白髪である。この二人は扉を開いて俺を招き入れた後、扉の正面にある大きな机の左右にそれぞれ移動していった。そしてその机の上で手を組んで座っているのは―――
「来たか、ジェード」
紛れもなくA・G団頭領だった。この部屋の中にいるのは分かりきっていたことだが、いざ目の前にするとその威圧感に思わず後退りしそうになるほどである。
まるで人間とは別の何かを目の当たりにしているような気分だ。A・G団という組織でいくつもの人間やポケモンの運命を狂わせていることを考えると、あながち人間ではないというのは間違っていないのではないのかもしれない。
「さて・・・お前をわざわざ呼び出したのは、お前に少し聞きたいことがあるからだ」
「聞きたいこと・・・?」
頭領は自分の座っている椅子を回し、俺に背を向ける形となった。そしてそこに飾ってある一枚の絵を見上げた。黒く塗りつぶされた空間の中に点々と白く輝く星が描かれ、地球や月、火星や木星など様々な衛星や惑星がリアルに描かれている。まるで銀河そのものを一枚の絵に写したような美しい絵だった。銀河と名の付く組織として、一応銀河というものを意識しているということだろうか。―――実際に彼らがやっていることは銀河とは何も関係ないような気がするが。
それを見上げながら、頭領は驚くべきことを言いはなった。
「先程リオンから報告があった。お前とお前がいつも連れていたポケモンらから異常な波動の残滓が感じられる、とな」
「・・・・っ!」
―――しまった!喉のもっと先、舌の根元の辺りまで声が漏れかけた。何とか飲み込んだものの、それは俺の中でそのまま焦りに変わる。
波動とは森羅万象全てのものが無意識のうちに漂わせているオーラのようなもののことである。リオンの種であるルカリオはそれを自在に操る戦士として有名で、それを読み取ることで目を瞑ってでも周囲の様子が手に取る様に分かるらしい。つまり、俺と最近触れ合った者の波動の残り香のようなものでも読み取ることが可能なのだ。それは野生に生きるポケモン達の嗅覚よりも精巧なものであった。
「異常な波動?」
なるべく焦りを表面に出さないように俺はこう聞き返した。しかしただ白を切るために聞き返したわけではない。頭領の言おうとしていることには勿論心当たりがあるものの、ただその『異常な』という表現が純粋に引っかかったからだ。俺がメノウについて聞いたことがあるのは彼が元銀河団だったということ、それから逃亡したということ、そして現在A・G団に追われているということだけである。しかしまるで頭領は、俺が化け物と接触したとでも言うような口ぶりだった。
「そう、異常なものだ。普通では決して発生することのないものだとリオンは言っている。つまり何者かに造られたか、もしくは造り返られたか・・・」
二人の幹部が俺に焦点を定める。一人は睨みつけるように、もう一人は口元を笑わせながら、しかし僅かながらも敵意のようなものが感じられる。そして頭領は椅子から腰を上げ、少し定位置からずれていた置物を片手で直しながらうっすらと笑みを浮かべていた。
「メノウだ。お前からメノウの波動が読み取れたのだよ、ジェード・・・!お前はつい最近メノウと接触しているな?・・・それとも接触しただけではなく、すでに捕らえているのか?」
「・・・・・・」
「・・・・図星ということか。何故今まで私に報告しなかった?」
最早適当なことを言って逃れられるような状況ではなくなってしまっていた。いつまでも隠しておけることではないと思っていたが、こんなに早く感づかれるとは思いもよらなかった。リオンという精巧なレーダーのことを頭に入れていなかった俺の完全なミスである。
しかし言い逃れできないとはいえ、そうやすやすとメノウの居場所を言うわけにはいかない。彼がどうしてA・G団に追われているのか分からない分、奴らにに捕らえられればどうなってしまうか想像できないからだ。覚悟を決め、しっかり顔を上げ、頭領から目を離さないまま腰のベルトのボールに手をかけた。
「そりゃ勿論、お前達からあいつを匿うために決まってるだろ?」
「・・・ほう」
「あいつをお前らに渡すわけにはいかねえ!命を弄ぶような改造を行い、多くの人やポケモン達の人生を狂わせるお前らなんかにはなぁ!!」
今まで抑えてきた奴らに対する怒りが沸々と湧き上がってきた。嫌がるポケモン達を無理矢理戦力にさせ、融合体のような実験隊を無慈悲に生みだし、今度はメノウにその毒牙を浴びせようとする奴らが無性に許せなかった。その怒りを込めて、ボールの開閉スイッチを押すとほぼ同時に身体を覆っていた上着を翻した。そこから光となって飛び出してきたパイロープとルベライトは、光が消えると同時にそれぞれ臨戦態勢に構えた。
しかし頭領やシェル、ストーンはその態度を変えなかった。こうなることを予測していたかのように至って冷静なままだった。
「やはり貴様は本物の団員ではなかったか・・・」
「あっはは!シェルは前からスパイかなんかじゃないかって疑ってたわね」
幹部二人の手にはすでにポケモンの入ったボールが握られていた。それがそれぞれ開かれ、中から飛び出してきたのは―――
「オウッ、出番かぁ!?」
「やはり・・・こうなったか」
A・G団が誇る最強の精鋭「頭領の手持」の二匹、アンハイドとリオンであった。
「命令する。できる限りこの私の部屋を荒らさず、速やかに裏切り者を始末しろ・・!」
頭領の下した命は、こちらにとっては屈辱的ともとれるような内容だった。本来戦うほどの広さがないこの部屋で荒らさず壊さず戦うには、到底全力など出せはしないだろう。それが分からない頭領ではない。すなわち本気で戦わせずとも自分の勝利は揺るがないと考えている、ということである。だがこれは同時に相手は全力を出せないというチャンスでもあった。
これ以上はもう自分の相棒達のことを信じるしかなかった。この戦いに負ければメノウがどうなるかは言うまでもないだろう。灯台下暗し思って基地内の自分の部屋に彼を置いてきたのが裏目に出てしまった。俺が止めなければ、奴らは必ずメノウを見つけてしまう。
「ホントにやっちまっていいのかぁ?今はこいつらしかメノウって野郎の居場所は知らねえんだろ?」
「波動の残滓はそれほど長時間残るわけじゃない。だが奴の身体にそれが残っているということは、ここ数日以内の間に必ず接触しているはずだ。つまりかなり近い場所にいるってことだ。・・・案外、この基地の中にいるのかもな」
「なるほど、流星の波動様がそういうのならそうなんだろうな。なら遠慮なく行かせてもらうぜぇ・・・!」
「貴様、部屋を荒らすなという命令を忘れたか?」
「わーったよ!仕方ねえなぁ!!部屋を荒さないで、こいつらを八つ裂きにすりゃいいんだろ!?」
戦いの直前だというのにこの余裕は、流石というべきか。だがこちらも絶対に負けられない。俺はパイロープ、そしてルベライトの背を見ながら人差し指を前に突きだし、気合いを入れる意味も込めてこう叫んだ。
「行くぞお前ら!メノウは俺達で護るんだっ!!」



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