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Fragment-8- 裂かれた手紙 の変更点


&size(22){&color(#215DC6){Fragment -8- 裂かれた手紙};};  written by [[ウルラ]]
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 ふと目の上に白いモヤのようなものが掛かる。それを染めていくように上から赤と黄色が混ざり合ったような奇妙な色を映し出す。その刺激に目を思わず一旦強くつむると、やがて眠っていたことにようやく気付いて目を開く。
 昨日の廊下から聞こえていた足音も会話も、まるで嘘だったかのように聞こえない静まり返った朝早い病院の空気。一瞬自分が別の世界にでも取り残されてしまったようなその空気に、折り曲げていた四肢をゆっくりと伸ばして立ち上がる。ベッドの上ではあるものの、足の裏は綺麗に拭かれていたので問題ないだろう。
 目の前にはいつ閉められたのか分からない空色のカーテンがベッドを囲むようにして、かすかに揺れている。先ほど気にかけていなかったから聞こえなかったのかは分からないが、カーテン越しに聞こえる寝息。それが誰のものであるのかおおよそ予想はついてはいたものの、その音のする方のカーテンをそっと開けた。

「やっぱりか」

 器用というべきか。背もたれのない丸椅子に、半ば前傾姿勢のまま腕を組んで目をつむっているガブリアスの姿。起きているのではないかと前足を彼――ルイスの目の前で何度か振りはしたが、寝息のタイミングが少しずれたくらいで起きる気配はない。よくこの姿勢で深い眠りにつけるのかと呆れを通り越して感心する。隣のベッドは空いているのだから使わせてもらうことはいくらでも出来たはずだ。
 しかしこれは起こすべきなのか、そのまま自然に起きるまで待つべきなのか。下手に起こしても、彼が寝起きの悪いタイプだったとしたらそれはそれで始末が悪い。あちらが不機嫌な状態で色々と話してもこちらが滅入るだけだ。だからといって、起こさないまま日が昇っていっても困ることには困るのだが。

 ふと、少しだけ開けられていた窓から風が舞い込む。その風でカーテンが煽られ、揺れた。そして鼻に入ってきた海の潮のような臭いに、少しだけ顔をしかめた。さすがに海が近いとはいえ、こんな嫌な臭いがするだろうか。しばらくしてまさかと思い、自分の前足の毛を少しだけ逆立てて臭いをかぐ。海に飛び込んだ時の潮と微妙に傷口から出ている膿とが混ざってなんとも言い難い臭いを発している。これはさすがに気持ちのいいものじゃない。
 ルイスを起こすよりもまず先にこの臭いをどうにかしたいと、ベッドを降りる。海に強く叩きつけられたとはいえ、そこまで重症ではないらしい。昨日よりかは幾分か痛みの引いた足を流し見しつつ、丁度良く廊下から聞こえてきた看護師の足音に向かって歩き出す。横開きのドアのくぼみに爪をひっかけて開けると、一旦はこの病室の前を通り過ぎて行った看護師のタブンネが、その開く音を聞いてこちらへと戻ってくる。そしてこちらの顔を見て、少しだけ眉をしかめた。

「おはようございます。お出かけですかといいたいところですが、もうちょっと安静にしててください」

 タブンネはそう強めの口調で言い放つと、踵を返して奥の廊下の方へと行こうとする。第一声がそれかと思いつつも、さっさと目当てのことを聞こうと彼女を呼び止めた。

「ちょっと待ってくれ。どこか体を洗い流せる場所はないか?」

 彼女はそれを聞いて「ああそういうこと」とでも言いたげな表情を見せて、少しだけ思案する仕草を見せると、やがて廊下の奥の方を指さした。

「この廊下の奥の方にシャワールームがありますよ。ついてきてください」

 タブンネは右手で軽く手招きをすると先ほど行こうとしていた廊下の方向へ向いて歩き出す。彼女の後ろを少し離れてついていくと、廊下奥の突き当たりにすりガラスの横扉が見えてくる。その少し前でタブンネは立ち止まると、こちらに振り返る。

「ここがシャワールームです。どんなポケモンでも使えるようにバルブの高さが色々あるので、ご自由にどうぞ」
「それはどうも」

 タブンネはそそくさと踵を返して、廊下を曲がっていった。上流階級の者のような扱いを望んでるわけじゃないが、どうにも放られた感が否めない。とはいえ、動けないほどに怪我を負っているわけではない上に昨日のこともあってか俺に対してあまりいい心象を持ってはいないのだろう。後は一匹の患者に構っていられるほどそこまで暇じゃないか。多分、向こうにも色々と事情はあるだろう。
 仕方ないと目の前のドアを開けて中へと入る。まず目に入ってきたのは奥の方にも同じようなすりガラスの横扉。すりガラスの奥は白い壁や床のようなものしか見えない。全体的に清潔感のある白に統一されているのだろうか。奥の方がどうやらシャワールームのようだが、こちらの部屋は床が格子状に組まれた木で出来ていて、両横には田の字が並んだ多くの棚。床の木は結構丈夫なようで、軽く押しても動かない。格子状に組まれた細い隙間から奥を見てみると、凹凸の少ない石が見えていた。どうやらここで身に着けているものや持っている物を置いて、シャワールームに入るらしい。格子状に組まれたこの木の床は、シャワールームで払いきれなかった水気を落とすためのものだろうか。
 朝早いからだろうか、シャワールームの方には他のポケモンがいる気配はない。それはそれで他の目を気にしなくてもよくなるわけだから、俺自身にとってはむしろ好都合ではある。早いうちに済ませてしまおうか。
 まず先に右後ろ脚についている包帯を外す。首元が痒いときに後ろ足で掻く体勢になり、そのまま後ろ足についている包帯を噛んで、布に引っかけているフックを外す。そうしてだらしなく伸びた包帯の先端を回すようにして後ろ足を振ると、後ろ足についていた包帯は取れた。包帯は多少赤く滲んでいる程度で、そこまで出血しているような様子はない。後ろ足の毛をかき分けて見ても、若干大き目の切り傷があるだけで大した怪我では無さそうだった。
 問題は胴に巻いてある包帯の方だ。前足でフックの部分に届けばいいんだが、どうやっても届かない。後ろ足でもやってみようとはしたが、無理矢理動かせばまた傷口が開きそうでどうにもならない。仕方なしに持ち物を入れる棚の縁にフックを当て、何回か押し付けて上下させることでやっととれた。後は巻きつけてある包帯を取るだけだが、どうにも四苦八苦しそうだ。
 前足を背に回そうとしてもふらふらしてる包帯の端には届かない。後ろ足も同様に届かない。他に誰もいなくてよかったと思いつつも、面倒くさい方法で取ることには変わりないとため息をつく。
 床に一旦しゃがみこんでからごろりと横に寝そべり、やや勢いをつけて反対方向へと転がる。この様子を他のポケモンが見たら滑稽な様子だろうと起き上がりつつ苦笑した。先ほどよりも長く垂れ下がるようになった包帯の先端を揺らして前足の指の間に挟み込むと、頭の上を通して右側へ落とす。それを足元を通してまた左側へ。この繰り返しで巻かれた包帯が徐々に解けていく。
 しばらくの格闘の後、包帯を取り終えると棚の中へと入れる。巻くときのことをすっかり失念してはいたが、シャワーを浴びようとしても看護師のタブンネに何も言われなかった上、見たところそこまで酷い傷口ではなさそうだからもう外してもいいのだろうと勝手に判断する。
 シャワーを浴びにすりガラスのドアを横に滑らせて開くと、ひんやりとした空気が流れ込んでくる。ざらざらとした床の感触を気にしつつも、仕切りごとにあるシャワーのバルブの位置を確認していく。中には相当低い位置にバルブやシャワーのあるものや、仕切りの空間が広く取られていてシャワーの口の大きさが広いものもある。たしかにタブンネの言ったとおり大小さまざまなポケモンが苦労することなく利用できるものになっているようだ。
 その中で丁度良い場所を見つけてそのシャワーのバルブを回す。しばらく冷たい水が流れた後、徐々に温かいお湯に変わっていく。少しだけ熱いと感じたため、水色のバルブの方を軽く捻る。丁度よい温度になったシャワーを浴び、毛にこびりついてしまった汚れや潮水を落としていった。



   ◇



「ん……朝か」

 窓から入ってきた潮風のにおいに鼻腔をくすぐられ、ルイスは目を覚ます。いつの間にか椅子の上で寝てしまった彼は、昨日の夜中の見張りをしていたこともあり疲れているのだろうと自身を納得させる。そしてアブソルが寝ているはずのベッドを見て、言葉を失う。本来そこにいるはずのアブソルの姿はそこには無かった。そこへ丁度看護師のタブンネが病室へと入ってくる。

「あら、起きていらしたんですね」
「ここにいたアブソルは?」

 少しばかり焦った口調でそういうルイスの姿に、怪訝そうな表情を浮かべながらもタブンネは発した言葉に笑みを含ませながら答える。

「彼ならシャワーを浴びに行きましたよ。少しばかり毛が汚れていたのでそれを気にしたんでしょうね」

 その言葉を聞いて、彼は肩に入った力がすっと抜けていくのを感じた。放っておけばそのままアセシアというエネコロロの行方を捜しに行ってしまうのではないかと思うほどに切羽詰まった様子だったために、ルイスがそう思ってしまうのは仕方のないことではあるはずなのだが、一瞬だけ焦ってしまった自分を彼は恥じていた。タブンネは部屋の見回りに来ただけらしく、失礼しますとだけ言い残して病室を出て行った。
 ルイス以外誰もいなくなった部屋の中で、彼はルフが戻って来てからのことを考え始める。とはいえ、ルフが寝ている間にもう既に部下の一人が目撃情報を持ってきているために行動することは決まってはいた。
 どうしてそこまでして彼に加担するのかはルイス自身はっきりとしたことは分かってはいないのだが、騎士団という組織を誤解されたくはないというのが本音だろうと自身の中で彼は結論付けていた。しかし、反政府派が世の中に闊歩する中で少しでも敵を増やしたくはないという考えもあれば、単になぜ護衛の依頼を受けただけの彼がそこまで必死になるのかを気にかけているということもある。彼の中で色々と思うことがあるのは事実だった。

「……起きてたのか」

 そう言いながら背にタオルを乗せて病室へと戻ってきたルフ。若干まだ毛が湿っているようではあるが、粗方の水気はタオルでふき取ってあるらしく、そのうち乾くだろうと彼は思ったのだろう。

「すっきりしたか?」
「ああ、だいぶな」

 ルイスは唐突に件のことを話すのを避け、話の取っ掛かりにそう声を掛ける。一晩経って落ち着きを取り戻したのか、ルフに昨日のような焦りの様子は見られない。この様子であれば例のことについても話せるだろうと、彼は話を次へと移す。

「昨日、お前さんの連れについて部下に色々と情報を聞きに回らせていたんだが、一応の目撃情報があった」

 その言葉にルフの表情が険しくなる。ルイスは更に続けた。

「気を失っていたエネコロロを担ぎ上げて滑車に積んで、王都方面へと去っていたルカリオとキュウコンを見たという住民がいたらしい。その滑車を引っ張っていった姿を見かけた他の住民もいるとの情報もあるから、信憑性は高いだろう」

 そう言ってルイスは椅子から立ち上がり、軽く腰を捻って体をほぐし始める。ルフは元々包帯の巻いてあった足の箇所を見ながらルイスに向かって問いかけた。

「俺は一応もう退院できるのか?」
「ああ。昨日お前さんが寝た時点で医者からそう言われた。入院の必要はもうないとのことだそうだ」

 ルフはそれを聞くと、背の上に置いていたタオルをベッドの上に放り投げ、ベッド脇に置いてあった自分のバッグを咥え上げる。ルフはもう既に王都へと向かう気らしく、その咥え上げた荷物を勢いづけて背の上へと乗せると、踵を返そうとする。

「おい」

 ルイスは特に自身に対して何の言葉もなしに行くとは思っていなかったために慌てて一旦引き止める。まだ何かあるのかとでも言いたげなルフの表情を見てため息をつきつつも、ルイスは腕を組んだ。

「俺も同行する。勿論これは騎士団での決定でもない、俺の独断だがな」

 その発言がにわかには信じ難かったようで、ルフは眉をひそめる。ルイスは続けた。

「今回の件は騎士団の誤認で起こったことだ。その上、攫われたことから事件性も高い」

 他にも考えはあった。まだこのルフが完全にシフティファングの一員ではないと決まったわけではない。別段ルイスは彼をその線で強く疑っているわけではないが、念の為にそうするつもりでもあった。最も大きな理由としては彼がなぜそんな得体の知れない依頼を請け負ったのか、そしてどうしてその依頼主であるアセシアが攫われたのか。そこがどうにも腑に落ちないことだった。

「で、それで大隊長さんが直々に同行か……。そんなに暇なのか」
「暇と言うほど暇じゃないが、今は上に任せておいても問題はないだけだ。もう既に許可も取ってある」

 ルイスは大隊長というそれなりに上の位ではあるが、それよりも上はいる。またこの近辺にシフティファングが現れたということで別の支部からも一部の隊が派遣されてくるため、ルイスがここを離れたところで大きく戦力は下がらない。その為、一応の許可が出たのだろう。

「お前さんが拒否をするというのなら俺は同行しないつもりだが、どうする」

 ルイスはその言葉を掛けて様子を見る。先ほども彼自身が言った通り、騎士団としての仕事でも何でもなく私情での行動である以上、無理強いは出来るはずもなく。最終的にはルフ自身の判断に委ねるしかないと考えたのだろう。
 ルフは暫し目を余所へと向け思案しているようだった。やがて決めたのか再び扉の方へと体を向けると、背の上のバッグを背負い直してからルイスの方を向かずに口を開く。

「お前さんじゃない。ルフだ」

 そう答えた彼の表情を見るに、それはどうやら肯定の言葉であるらしいことをルイスは悟った。答え方がぶっきらぼうで生意気ではあったが、ルイス自身あまり気に留めることはなかった。

「王都への道案内を頼む」
「分かってるさ」

 ルフに言われるまでもなくそうしようとしていたルイスは、ルフの横を通り過ぎると同時に彼の頭を軽く二、三叩いた。ルフの横顔は、心なしか穏やかだった。



  ◇



 荒削りされた岩を煉瓦積みしたような壁に、岩肌のむき出しになった状態のままの床。その空間が丁度立方体になっているだけ部屋としての体裁は保っているものの、お世辞にもここは綺麗とは言えず、誰かが住むような場所でもない。天井に刺さりこんだいくつかの杭に掛けられたランタンの明かりが微かに揺れる。薄暗いその奇妙な部屋には不釣り合いな真っ白なベッドの上で、アセシアは目を覚ました。
 彼女は周りを見渡してから、足枷が自分にはめられていて鎖で壁に繋がれていることを知る。自身の置かれている状況を飲み込むと、彼女は体を起こしてベッドから飛び降りた。鎖はある程度の長さがあるため、少しだけなら動けるためだろう。

「……くっ、駄目ね。届かない」

 目についた近くの鉄扉に前足を伸ばそうとしても、あと少しのところで足枷の鎖が邪魔をして全く届かない。恨めしそうに足を一回踏み鳴らして鎖を波立たせるが、部屋の中に無機質な金属音が響き渡るだけだった。ふと、その鉄扉が少しだけ軋んだ音を立てて開きだす。そこから出てきたのはあのキュウコンであった。

「おや、やっとお目覚めかい」

 足枷と鎖で繋がれているところから好意的な相手ではないことはアセシア自身考えてはいたが、リュミエスとの飛行練習の際にも表れたあのキュウコンだということを知ると、一気に怒りが込み上げてくる。一体どこまで彼らは自分を付け狙うのだろうかと。

「そんなに睨むことないだろうに。元々あんたが家出しなきゃ、こんなことにはならないと思うんだけど。違うかい?」

 アセシアは彼女の言葉を聞いて目を見開く。どうして家出のことを知っているのか。そしてそれが指し示すことが一体なんなのか、アセシアは分かってしまったからだった。それを見てキュウコンは腕につけていた小さなポシェットから手紙を"ねんりき"か何かで取り出し、それをアセシアの目の前へと差し出す。

「これ。今回のクライアントからあんたへの手紙だよ」

 アセシアは眉をひそめながらも文を前足で受け取った。床に置いて広げて行くと、そこには見紛うはずもない見慣れた字が彼女の目に飛び込んでくる。

「これは……」
「その様子だと差出人を言わなくても分かるみたいだね。それにしても達筆だねえこれ」

 キュウコンは手紙の字をアセシアが読んでいるところを覗き込みつつそう呟く。それを気にもとめずにアセシアは手紙を読んでいく。そして最後まで読み終わったのか、彼女の文字を追う目線がピタリと止まる。そして足をわなわなと震えさせて手紙に爪を立てた。

「……嘘だ」

 アセシアがそう呟く。明らかに手紙を読む前と比べて様子がおかしい彼女の様子に、キュウコンは目を二、三ほど瞬いた。

「こんなの嘘っぱち。だって父は、変わってしまったはず……!」

 どこか虚ろな目でそう呟き、手紙を爪で真っ二つに裂いてしまったアセシアをみて、キュウコンは只ならぬ状況ではないことを把握する。即座にアセシアの目に向けて"さいみんじゅつ"を掛けると、彼女はそのまま床に突っ伏すような形で寝てしまう。キュウコンはその状態のアセシアの体を"じんつうりき"でベッドに寝かせた。そして裂かれた手紙を注意深く眺める。

「どう見たってただの懺悔よね、これ」

 読んでから思わず疑問を口からこぼすと、彼女はアセシアの方へと視線を移す。仕事で誘拐するポケモンに対して今まで興味を一切持ったことがなかったキュウコンにとっては不思議な感覚だった。

「興味持つなんて、あたしらしくないな……ったく」

 アセシアの静かな寝息しか聞こえない部屋の中で、そうぽつり、キュウコンは呟いた。

「ん。通信か……」

 ふと、足元のポシェットの中身が光りだす。キュウコンは光っているそれを手を使わずに"じんつうりき"で持ち上げる。青く半透明な結晶石であるそれを額につけると、そこから彼女の脳へと直接言葉が流れ込んでくる。

『クロウだ。ミシャが受けた依頼のことだが、今さっきクライアントから依頼破棄の連絡が入った』

 その言葉を聞いて、ミシャと呼ばれたキュウコンは眉をひそめる。これの返信についても声を発する必要性はない。送りたいと思う言葉を念じて送る。通信石と言われるそれを額につけつつも、彼女は不機嫌な感情と共に言葉を送り出す。

『どういうことか詳しく説明してくれないかい。あたしは飲み込みが遅い方なんでね』
『詳しいことについてはあの場所で話す。一旦こちらへ戻ってこい』

 相手からの通信はそこで一旦切られてしまう。ミシャは深くため息をつくと、通信石をポシェットの中へとしまい込んだ。
 クライアントが依頼を破棄してきたことは今までにあまり例がない。ミシャはこのタイミングで依頼が破棄されてしまったことを悔やみながらも、さいみんじゅつの効果でぐっすりと眠っているアセシアの方へと視線を移す。
 今回の依頼は本当に訳の分からないことが多いとミシャは感じていた。依頼の届き方が不可思議なのは他の依頼でも毎回のことだが、依頼をしている最中にクライアントから攫うターゲットに対しての手紙が送られてくることや、明確な目的がそもそも不鮮明なことが今回の依頼は多い。元々そういう仕事を請け負う身であることを自覚はしながらも、今までの経験からしても今回の依頼は何かが違う。
 彼女は一旦アセシアから視線を外し、鉄扉を開けて外へと出た。目の前に広がるのは石畳で作られている水路。一段階高さの上げられている水路の点検用通路から入れるようにして作られたその部屋の鉄扉を閉めると、彼女は大きく、深くため息をついた。

「なにがどうなってるんだか……」

 ミシャの悪態は、静まり返った部屋の中で空しく反響していた。




RIGHT:to be Continued......
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