ポケモン小説wiki
Fragment-2- の変更点


&size(22){&color(#215DC6){Fragment -2- 旅路の夢現};};  written by [[ウルラ]]
RIGHT:[[BACK>Fragment-1-]] <<< [[INDEX>Fragment]] >>> [[NEXT>Fragment-3-]]
----
#clear



 月明かりに照らし出される道。背の高い草がその明かりを反射して、銀色の稲穂のように風にそよぐ。その様子を見て、ふと立ち止まる。
 レイタスクを後にしてからどのくらい経ったのだろうか。街を発ったのが日が沈み始めたころだと言うのを考えると、あまり多くの距離は歩いていないはず。それなのに体が疲れを感じているのは何故なんだろうか。この分だと、明け方までに港町であるミナミムに着く前に疲れ果ててしまうかもしれない。だがレイタスクから追放される猶予期間もなく、野営の準備など無いに等しい状態。適当な場所を見つけて休息を取るにしても、あまりにもここは見晴らしが良すぎる。夜盗などに襲われるのも面倒だった。

「ん? あれは……」

 ふと辺りを見回した拍子に、遠くに黄色い明かりが点々としているのが見えた。旅団か何かだろうか。泊めてもらえるかどうかも分からないが、あの場所まで行ってみる価値はある。一抹の希望に足が自然と動き、明かりの元へと誘っていく。光に誘われる蛾のようなものだと自分でも思ったが、頼みの綱がありそうならそれに乗らない手はない。


 遠くに思えていたその明かりも段々と近づいてきて、その輪郭を露わにさせる。てっきりテントが複数並べられていて、その中の明かりが点々と見えているのかとも思っていたが、どうやら違ったようだった。目の前にあるのは、荒く切りだした木で建てたような簡素な建物。しかし造りはしっかりとしていて、ぱっと見だとなんら街にあるような木造の家と変わらない印象を受ける。窓から漏れている中の光や、ドアの前にあるランプの明かりがぼんやりして、遠くから見ると点々とした明かりに見えてたらしく。更にはドアの横には立札がつけられていて、そこには黒塗りの字ではっきりと"ギルド『旅人の樹』"と書かれている。レイタスクで名前だけは聞いたことはあるが、どんなギルドかは全く分かってない。立札がつけられているからには、一応入っても大丈夫なんだろうか……。
 その建物の前で立ち往生していると、ふとドアが勝手に開く。中から顔を出したのは、ぷっくりとした体格にオレンジ色の肌。お腹の部分だけ白く、長い尻尾の先には雷を抽象化したようなギザギザの黄色い形のもの。ピカチュウの進化系であるライチュウが、そこにはいた。しばらくこっちを見据えていたが、やがてはっとしたようにこちらに向かってこげ茶の手で手招きしてくる。

「ほら、そないなとこで突っ立ってへんで。入るなら入り」

 ライチュウはそう言うだけ言って中にそそくさと入って行ってしまう。一応入りやすいようにドアは開けてくれているみたいだが。呼ばれたからすんなりと入るというのもまた無防備ではあるが、わざわざドアを開けっ放しにしてくれているのにいつまでも入らないというのも無礼だと思う。そう自分を納得させて中へと入っていくと、控えめに暖の効いた風が頬を撫でた。
 中を見回してみると、まず目に付くのは高い天井だった。二階部分もどうやらあるようで、吹き抜けのようになっている。あの外からみた簡素な建物の面影はどこへやら。

「その様子見るにどうやらあんさん、このギルドの宿は初めてみたいやね」

 中を眺めていた俺の様子を見て誇らしげに笑みを浮かべながら、ライチュウは目の前のカウンター越しにそう言った。その後ろの壁にはいくつかの鍵が掛けられているのを見ると、彼女の言っているとおり宿のようだ。
 ふと、彼女は両手をお腹にあてて一礼した。

「ギルド"旅人の樹"へようこそ。ウチはこの宿の店主や。ま、適当にくつろいでいってや」

 このギルドの挨拶の言葉なのだろうか。そう言ってからライチュウは壁に掛けられた鍵をさっと取ってこちらに持ってくる。だがふと何かに気付いたように俺の体を一通り眺めてから。

「あっ、と。あんさんは四足歩行やから鍵開けられへんやったな……部屋まで案内するさかい、ついてきてや」

 と、勝手になぜか話を進められて泊まることになっている。確かに泊まる気はあったが、是非を聞く前に色々と事を進められてしまうのはどうにも落ち着かない。

「ちょっと待て。泊まるは泊まるけど、一体いくらくらい掛かるんだ」

 カウンターのすぐ横にある階段から2階に上がろうとしていたライチュウを呼び止めてそう問うと、間もなくそれに返してくる。

「ん? そないかかりまへんよ。たったの5フィルやし」

 ライチュウは平然とそう言ってのけると、階段をまた上っていく。たったの5フィル……。それでギルドの経営が持つのだろうか。5フィルというと、飲食店で何か手頃な食事を1品だけ注文するような、それほど小さな額だ。疑問が顔にでも出ていたのか、それを払拭するかのように、聞いてもいないのに彼女は更にこうも言った。

「ウチらのギルドの宿はみな街の外にあるんや。せやから、税収を取られることもない」

 丁度階段を上り終えたところでライチュウはこちらに振り向く。後ろからついていっただけにいきなり止まられて危うく転びそうになったが、なんとかこらえる。

「それに、道中こないな宿があるんだけでも旅の快適さはちゃうと思うんや。そうして人々に喜んでもらうのがウチらのギルドリーダーの理念なんやで」

 ギルドリーダーの理念……。つまるところその考えにこのライチュウも賛同して、ギルドに入ったというわけか。今まで聞いたギルドは大抵危険を冒してでも富を手に入れる探検隊ギルドの話しか耳に入ってこないことが多かったため、こういうギルドの存在があることはなかなか聞かない。ましてや、ギルドの理念など、全くギルドに関心がなかった俺にとっては知る由もない。そもそもフラットもレイタスクも辺境の街ではあるし、ギルドとの関わりも少ない街だったから当然と言ったら当然なのかもしれないが。
 気づけばライチュウが部屋の鍵を開け終わって、ドアを開いているところだった。彼女は「ほな、おーきに」とだけ言うと、また下の階へと戻って行ってしまった。そういえば彼女の喋り方や言葉がやけに独特なものなのは何故なんだろうか。聞くのは野暮と思って黙ってはいたが、なかなか聞きなれない喋り方だからか少し戸惑う。

「気にしても仕方ない……か」

 誰に言うでもなくそう呟いてから、部屋の中へと入った。



   ◇



「助からないよ……私でも分かる……もう身体中の感覚がないもの」

 フィアスに告げられた、別れにも似た言葉。……一体この光景を何度見ればいい。夢だと分かっているのに抜け出せない。それどころか、火の爆ぜる音や焦げた臭い、段々と失われていく彼女の体温すら、鮮明にこの世界は描き出していた。視線は確かにあの時の自分の視線なのに、まるで別の者の視線のように感じるのは、これが夢現(ゆめうつつ)の中で記憶を見ているからなのか。それすら、今の俺には理解できない事だった。何故ならこの後の記憶は、全く思い出せないのだから。

「フィアス……。くそっ……どうして……」

 そう、この後はいつもそこで途切れてしまう。そろそろ自分自身が飛び起きるだろうか。不思議な感覚でしかない、夢だと分かっているのに自分から覚ますことが出来ないというこの状況下は。

「あら、案外しぶとく生き残ってるのがいるのね」

 ……先に進んだ? 今までここで目が覚めた時とは違う。こんな雌の声なんて聞こえてはこなかったはずだ。夢の中の俺自身が、その声に反応して後ろへと振り返る。視線がフィアスから離れて、やがて声の主であろうポケモンにそれは向けられた。額の赤い宝石のようなものを淡く光らせながら、二又に分かれた尻尾を揺らして歩いてくるエーフィ。その隣には、赤い目をこちらに向けて無言のまま立っているルカリオ。だが、その右片方の目には大きな傷跡がある。それを補うために何か特別な力でも使っているのか、後頭部にある房を少しだけ浮き上がらせている。

「やりなさい」

 ふとエーフィから発せられた低い声。その声に呼応するようにルカリオが動き出した。だが動いたのが目に入った瞬間、脇腹に強烈な痛みが走った。何が起こったのか分からないうちに首元に強い衝撃が襲ってくる。その瞬間、視界が歪んだ。思うように態勢を維持出来ないまま、そのまま倒れこむ。体に乾いた土が触れたのを感じた時には、目の前が真っ暗になった。



   ◇



 目を開けた。心地よい眠りから覚めるようなゆっくりとした目の開け方ではないことが、起き抜けの自分でもよく分かる。脈の音も耳に伝わってくるほどに心臓の鼓動も早い。できる限りの深呼吸をして何とかそれを落ち着かせたはいいものの、あまりいい気分にはならなかった。
 それにあの夢。もしあの夢の出来事が本当に"記憶"であるのなら、フラットはただの大火災で崩落をしたのではなく、あのエーフィとルカリオがフラットを崩落にまで追い込んだということ。……ただ気になるのはあれが本当に"記憶"なのだろうか。それとも本当は"夢"の中のでっち上げにすぎない事なのだろうか。今は全く分からない。判断するためにはあまりにも情報が足りない。

「……」

 ふと思う時がある。二年前の事件を今にまで引きずっているのは自分だけなんじゃないかと。レイタスクの人々もいつしかフラットの"悲劇的な事件"を話さなくなったし、慰霊碑に手向けられる花の数も段々と減っていっているのが嫌でも分かっていた。そんな中でも忘れることが出来ないのは、このいつくるか分からない記憶の夢と、幼馴染みでも家族でもあったフィアスという身近な存在が亡くなったこと。それが、忘れることが出来ない一番の要因だった。
 だが本当に忘れてしまってもいいんだろうかという疑問の考えもある。フィアスが亡くなったことも、フラットが崩壊したことも。全て疑問が残る形で終わってしまっている。そんな状態で忘れようとしても、かえってもやもやした気持ちになるのがオチなのだ。
 ……そう一通り考えて、考えるのをやめた。結局は何も分からないまま、何も理解できないまま考えたところでそれは堂々巡りの状態にしかならない。今はとりあえずミナミムへ向かって新しい住居や仕事を探す方が先決だろう。
 包まっていた毛布から抜け出して、窓から差し込む朝の日差しを浴びながら、体を解すために伸びをする。いつまでもここに長居している暇はない。足元に置いたバッグを咥えて拾いなおすと、勢いをつけてそのまま背中の上に乗せこんだ。

「そろそろ行くか……」

 誰に言うでなくそう呟くと、そのままその部屋を後にした。



 少しばかり急な階段を前屈みになりつつもゆっくり降りていくと、カウンターには昨日と同じライチュウが暇そうに頬杖をついていた。やがてこちらの姿に気が付いたのか、頬杖をつくのをやめて顔を上げた。

「おはようさん。よう寝れたん?」

 ライチュウはカウンターの引き出しを開けて何やらあさりつつもそう問いかけてくる。俺は適当に返事をしたもののそれに対しての返事はなく、代わりに差し出されたものは地図だった。前足が器用ならそのまま受け取れたかもしれないが、生憎軽く折り曲げられるだけで物を掴むのには適していない。仕方なくそれを咥えると、一旦床にそれを広げてみた。何故これを渡したのか疑問に思っていると、それを察してかライチュウはカウンターから身を乗り出して地図を指差した。

「あんさん見とるとなんちゅうか、旅慣れとらん気がしてな。これ、一応このギルドの宿の場所示した地図やから、持っていき」

 確かにところどころ赤い筆か何かで丸いマークが書かれている。意外と小さい丸で、よくよく目を凝らさなければ見えないようなものだが、どうせ旅をするときにはその近辺の情報しか見ないのだから、これはこれで丁度いいのかもしれない。

「……助かる」
「あははっ。ちょっと声小さいんちゃう?」

 自分では普通にお礼をしたつもりだが、ライチュウにとっては小さく聞こえたらしい。客商売をしているライチュウにとっては確かに小さい気がしないでもないが……。
 返す言葉も分からず、地図を無言で畳んでいく。バッグに入れるときはそれなりに小さく畳まないと、次使う時にクシャクシャになってしまいそうだ。

「すっかり忘れるとこやったわ。お客さん、代金払って貰わんと」
「ああ。そうだった……」

 今更になって宿の代金を払う。ある意味で昨晩は信用買いで泊めていたようなもの。こんな営業の仕方で大丈夫なのだろうか。そう思いつつもバッグを半ば振り落すように背から床に置くと、中から小気味良い金属音がする小さな袋を咥えながら取り出す。袋の口に爪を入れて引き開けると、中にはいくつかの銀貨と銅貨が詰まっていた。レイタスクで使う必要性がなかったために"貯まってしまった"お金。とはいえ、次の住居を探すためにもあまり無駄遣いも出来ない。財布をまじまじと見つめていてもしょうがない。中から銅貨を6枚ほどはじき出すと、財布を再びバッグの中へ。四足のポケモンのことを把握しているだけもあって、ライチュウはカウンターから出てきてわざわざ床に置いた6枚の銅貨を拾いに来た。そもそもそっちの方が早いだろうし。

「ん? 6フィルもいらんで?」
「地図の分だ」
「あははっ。あれはサービスみたいなもんやから別に気にせんでええっちゅうのに。ほんま、おーきに」

 ライチュウはそういいながらもちゃっかりと1フィル分自分の懐に仕舞い込んでいるのを見て思わず苦笑いを浮かべてしまう。気を取り直してバッグを再び背負うと、ライチュウの方に向き直ることもせずにドアの方へと歩いていく。なぜか入口のドアだけは四足のポケモンでも開けられるように上に一つ、下に一つの押し下げる形のノブがついている。どうやらそれも連動しているらしく、下の方のノブに前足をかけるとすんなりドアは開く。宿を後にする際、後ろからライチュウの威勢のいい声が聞こえた。



   ◇



 朝日を受けてその光を控えめに反射し続ける純白の街並み。海辺から吹き付ける潮風が、起き抜けであろうガブリアスの体に当たる。首に結ばれた青と白色のスカーフもそれに合わせてなびく。キタムの港町の朝はいつものように清々しく、そして静かに過ぎ行く。朝日を浴びてそのあとのんびりとしながら騎士団の支部に戻ろうとしたそのガブリアスは、その支部の建物の入り口からポケモンが慌ただしく出てくるのを見て目を細めた。

「問題が起きたみたいだな……」

 半ば面倒くさそうに呟いたガブリアスは、そのポケモンの元へと歩き出す。

「ルイス隊長!」

 駆け寄ってきたのはラグラージ。ルイスと呼ばれたガブリアスと同じように青と白のスカーフを首に巻いていて、それが風に揺れていた。ラグラージの面持ちは切迫したような表情で、彼に向かって言った。

「ミナミムとここキタムの中間海域にて、狡猾なる牙(シフティファング)が反王政の暴動デモを行っています。大至急、支部に戻って鎮圧作戦の準備をして下さい」
「分かった。すぐいく」

 ルイスの返事を受け取ると、ラグラージは先に支部の方へと戻っていく。ルイスもそちらに向かって歩き出す。
 反王政組織、狡猾なる牙。ここ最近は活動が激化して、他の街でもデモを行っているとの情報が相次いでいる。その原因は王政にあると言っても過言ではない。ただでさえも国の保護下にある街では税収を取られるというのに、段々と政府はそれを上げていっている。これでは市民が暴動を起こすのも無理はない。挙句の果て、そのしわ寄せが来るのはそれを鎮圧する騎士団。役目が役目だけに仕方ないことではあるのだが。市民を守るための騎士団なのか、王を守るための騎士団なのか。時折、ルイスはそのことに深く憤りを感じていた。そしてそれに対して自分自身が何も出来ないことが、更に彼を苛立たせることにもなるのではあるが。

「国も民も共倒れ……か」

 ルイスはある者の言葉を反芻するようにそう呟いた。



   ◇



 ギルド「旅人の樹」の宿を後にしてから、ただ何もない広い草原を歩いていた。こうやって行く宛もなく、ただミナミムへと足を向かわせている現状を見ると、今まで自分がレイタスクにいたことや、フラットにいたことが夢だったかのように錯覚してくる。フラットが崩落をしたのも、レイタスクから追放されたことも。だがそれは事実であるということを思わせてくれるのは、フィアスという今まで身近な存在がいないことだろうか。
 気付けばまたフィアスのことを考えている自分自身に、思わず嘲笑した。忘れられないのは、自分が過去に必死に追いすがっているからなんだろうか。今の状況と、あの時の自分を比べて、またあの時に戻りたいと、心のどこかでたそがれているのだろうか。


 ふと、不規則に並んだ草たちが風でさわさわと揺れる音を聞いて、立ち止まる。何か悲鳴のような甲高い声が聞こえたような。だが今は風で揺れる草の音が遮っていてなかなか遠くの音を拾えない。もう少し風が弱まれば聞こえてくるかもしれないと、更に聞こえてきた方向に耳を澄ます。
 風が徐々に弱まっていく。聞こえなかった音がやがて聞こえるようになり、声の正体もはっきりしてきた。

「悪いけど、素直に従うつもりなんてないわよ」
「往生際が悪いねえ。今のあんたの状態だと降参するしかないでしょうが」

 何やら言い争っているようにも聞こえるが、どうもおかしい。従うとか降参とかいう言葉を聞くに、お互いにあまり良い雰囲気ではなさそうだ。少なくとも、知り合い同士というわけでもないといった様子。
 何にしても、港町であるミナミムへ向かうには声の方角へと足を進めなければならない。鉢合わせてしまうだろう。あまり厄介ごとには巻き込まれたくはないのだが、この場合は仕方ないだろう。見て見ぬふりをして横を通り過ぎればいい。何かと言いがかりをつけられたり、口封じなどと言って攻撃してこなければいいのだが……。


 巻き込まれる心配をしつつも、ミナミムの方へと足を再び進める。言い争うどころか技を繰り出しているような、炎が舞うような音が次第に近づく。やがて背の高い草をかき分けて出てみると、そこには二匹のポケモンがいた。
 金色のさらさらとした毛を身に纏い、相手を惑わすかのように揺れる九本の尻尾。そのキュウコンの目先にいるのは、薄紫の大きな耳にクリーム色の華奢な体つき。猫のようなすらりと伸びた足。見間違うはずもない、エネコロロの姿だった。
 偶然にしてはあまりにも嫌なタイミングで訪れるものだと、そう思った。エネコロロの方は酷く傷ついていて、まるでフラットのあの時のフィアスを見ているようで。今目の前にいるエネコロロに、違うと分かりながらもフィアスの姿を重ねてしまっていた。
 ふと、こちらに気付いたエネコロロの方が顔を向けてくる。それをキュウコンが見逃さないわけがない。危ないと俺自身が感じた時には、すでに足が動いていた。

「よそ見は……」

 そう叫んでキュウコンは口に炎をため込むようにして一気に吸い上げ、そして。

「命取りだよ!」

 キュウコンの口から凄まじい威力の炎が吐き出される。エネコロロがその火炎放射の存在に気付いた時には、もう目前に迫っていた。俺は走る勢いをそのままに、エネコロロを強く突き飛ばす。勢いを殺さずに当たったためか、半ばエネコロロに飛び掛かるようにしてそのまま地面に伏せこんだ。背中に強烈な熱が通り過ぎるのを感じ、そのまま伏せた態勢を保つ。
 熱が無くなり、技が来なくなったところですぐに起き上がり、自身の鎌状の角に力を込める。いつでもそれを放てるように臨戦態勢を取ると、キュウコンは目を細めた。

「なにサあんた。他人事に首突っ込むつもりかい?」
「何だかあまりにも怪しい雰囲気だったんでね」

 このキュウコンは、恐らく自分よりも強い。それは先ほどの火炎放射を見れば十分に分かることだった。しかしエネコロロを助けてしまった以上、今は対峙するより他はないだろう。
 キュウコンはこちらがどう動くかを見ているのか、そのまま何も話さず何もしてこない。足を一歩も動かさず、口も閉じたまま。あちらは何もしていないというのに、こちらが気押されている。しかし相手が強いと理解しているだけに、迂闊にこちらは行動出来ない。相手が行動するまで、このままの状態を維持せざるを得ないのだ。

「さすがに二対一だと分が悪いようね」

 いつの間にか起き上がったのか、エネコロロの声が後ろから聞こえた。キュウコンから目は離せないため、今の彼女の状態を知り得ることは出来ないが。ただ起き上がったことは草を踏む足音で予想することはできた。
 エネコロロの声を聞いてキュウコンは微かにだが奥歯に力を込めたのが見えた。どうやら、彼女の言っていることはあながち間違ってはいないようだ。

「確かに、あたしの方が分が悪いね……悔しいけど、ここは一旦引くよ」
「ご勝手に」

 エネコロロはそう言い捨てると、キュウコンは踵を返してそのまま走り去って行ってしまう。どうやら、あのキュウコンを相手にするという面倒なことは避けられたようだった。その事実にほっと胸を撫で下ろすようにため息をついたのも束の間。


「あなた。確かフラットの慰霊碑にいたアブソルよね。何でこんなところにいるのかしら」

 いきなり天地がひっくり返ったと思ったら、首筋に爪を掛けられる。もう片方の足で体を押さえつけられて、身動きが取れない。後ろ脚だけが唯一自由に動かせるが、体重をかけられていてはどうにも起き上がれない。その上、エネコロロにはそんなことを問われる始末。フラットにいたのを知っているってことはこのエネコロロはあの時の。

「こっちにだって色々あるんだ関係ないだろ」
「私を追ってる連中じゃないでしょうね」
「だったら助けるかよっ」

 彼女の問いに息が苦しくなりながらも答える。すると彼女は特に何もないと判断したのかやがて掛けていた爪をそっと首から離した。掛かっていた体重が無くなり、息を大きく吸い込む。そもそも助けたはずなのになぜこんな目に合わなければならないのだろうか。仮にも助けた者に向かってする態度なのかと。そんな風に思っていても、警戒心を強くしているこのエネコロロの前では言えそうにもなかった。
 彼女は息を整えているこちらを見てしばらく考え込むように目線を宙に向ける。そんな様子を気にしないで、俺はぶら下げているバッグの位置を直して、改めてミナミムへと向かおうと足を踏み出し始めた。

「ちょっと待って」
「……なんだよ」

 再度出発しようとしたところで呼び止められ、苛立った声を思わずあげてしまう。しかしそれを意にも介さずエネコロロは言った。

「私を王都レジスタまで護衛してくれない?」

 いま彼女はなんといったのだろうか。聞き間違いではないだろうかとエネコロロの方を見る。しかし彼女は至って平然としていて、こちらをまっすぐ見据えていた。

「なんで……」
「報酬はきっちり渡すわ」

 他に話すことはないと言わんばかりに、こちらの発言を遮ってそう言ってくるそのエネコロロ。しかし、彼女の発言にはある違和感を感じていた。
 少なくとも彼女が簡単に組み伏せることの出来る俺を護衛にするというのも変な話だ。彼女は十分に自身を守れる力がある気がする。それなのに俺に護衛を依頼するのは何故なのだろう。……何を考えているのだろうか。
 そもそも、俺に彼女を守って報酬を貰うにしても、先ほどのキュウコンの件もあるし、得体の知れないこのエネコロロを護衛するということはあまりにもデメリットの方が大きすぎる。

「お前ひとりでも十分に奴を退けられるくらいの力を持っていると思うが」

 何を考えているのか。その腹を一度探る必要性がありそうだった。彼女はこちらの言葉を聞いて、やがて自分自身の酷く傷ついた体を見て何かを訴えた。それだけでは俺には全く理解できなかったため、首を軽くかしげて見せると、ため息をついて彼女は説明を始めた。

「さっきのキュウコン一匹追い払うのに、結構手傷を負ったのよ。しかも今回はあなたが出てきたわけだから、次は相手も複数でくるかもしれない。単体よりも複数でいた方がいいと思うから」

 エネコロロは淡々と、そしてそう他人事かのようにあっさりと説明を終えた。
 つまるところ遠回しに『俺の所為』とも言ってもいるわけで。彼女がそう言っていないにしろ、俺にはそう取れた。
 何故ならあの時勝手に助けたのは俺の方なのだから。

「だから、あなたには王都までの護衛を頼みたいのよ」

 念を押してそう頼み込んでくる彼女の最後の一押し。これでも首を横に振ればよかったのかもしれないが、その時俺は何を思ったのか。

「分かった。ただ両者に身の上について詮索しないことが条件だ」
「それでも構わない」

 単に根負けしてしまったのか。それとも、王都までなら大丈夫とでも思ったのだろうか。
 当初行く予定だったミナミムへの旅路は、意外な形で延長されることになってしまった――。





----
CENTER:[[BACK>Fragment-1-]] <<< [[INDEX>Fragment]] >>> [[NEXT>Fragment-3-]]
----

#pcomment(below)

IP:123.225.68.3 TIME:"2013-04-02 (火) 01:41:14" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&amp;page=Fragment-2-" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.22 (KHTML, like Gecko) Iron/25.0.1400.0 Chrome/25.0.1400.0 Safari/537.22"

トップページ   編集 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.