&color(red){この小説には、暴行、流血などの表現が含まれています。 閲覧の際にはご注意下さるようお願いいたします。}; ---- act45 災厄光臨 注)これより先は暴行、流血などの描写が登場します。閲覧の際はご注意下さい。 「ファーブニル…まさか、この砂漠の風習の礎を築き上げた奴…か?」 今ある砂漠の風習はファーブニルという名のカイリューが事の発端だ、と昔エイル族長から聞いた記憶がある。 三百年前…まだ種族に関係なくポケモン達が自由に暮らしていた頃、種族の違いによってポケモン同士の些細な争い事が起きた。 そんな揉め事を見かねた温厚な性格のファーブニルは両者の仲裁を買って出たが、突如として豹変し、争う二匹の命を一瞬にして絶ち切った。 その後彼は種族ごとに集落を作って住み分ける案を強要し、反対した当時のポケモン達の生命を容赦なく奪っていった。 残された者達はその提案を渋々受け入れて皆が個々に離れて暮らすようになり、現在に至るという。 “災厄”の名は恐らくその出来事から付けられたものだろう。 その龍が今、こうして目の前にいる。 ただでさえ押し潰されそうな奴の威圧感に全身の筋肉が強ばり、麻痺したかのように体が動かない。 二匹はガノッサが龍の下に歩み寄るのを黙って見ている事しか出来なかった。 「遂に災厄までもが我が尖兵となるのじゃ…」 ガノッサはファーブニルに両掌を翳(かざ)し、複雑な呪文のような言葉を唱え始めた。 すると、ファーブニルの体が暗紫の闇に覆われ始める。がーー 「き、効かぬじゃと…?」 「ほう、性懲りもなく我が精神を操ろうとするか。だが、我はお前達に使役される存在ではない……滅せよ!」 ファーブニルは眼下のガノッサに向けて顎を開き、そこに橙色のエネルギーを圧縮させ始めた。 「まずい、避けろ!」 ロキはとっさにカシェルの体を砂から引き抜いて横方向へ投げ、すぐさまユメルとルシオを抱えて後方へと跳ぶ。 「ま、待て…儂ではな…ぁああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」 直後、龍の口から放たれた“破壊光線”はガノッサを飲み込んで貫通、一瞬にしてロキ達のいた地面を焦がした。 ガノッサは断末魔の叫び声を上げながら熱線にその身を焼き尽くされ、灰塵となった。 「ガノッサが一瞬で…なんつー威力だよ……」 避けなければ消えていた。ロキの一瞬の判断で助かる事が出来たものの、災厄の実力をかいま見た彼は悟った。 ファーブニル…奴はロキ達に敵う相手ではない。 幸いにも奴は今、技の反動で一時的に行動が不可能となっている。ロキはその隙に脱出口を探そうと周囲を見渡した。 この辺り一帯を囲う岩山は傾斜がきつい上に高度もあり、よじ登るのは困難を極めそうだ。 更には出口らしい穴も一切無く、身を隠せそうな場所も見当たらない。 「くっ…ルシオ、目を覚ませ!」 「う…ん………はっ、兄貴…此処は何処で……わあぁ! あのデカいカイリューは何でやんすか!?」 ロキに体を揺すられて意識を取り戻したルシオはファーブニルの姿を見つけ、驚愕する。 「ガノッサの言動、カイリュー自身の発する気迫から察するに、あの龍は“古の災厄”本人です。 ロキ、ごめんなさい…私の“テレポート”では二人を連れて飛ぶ事が…」 頭の触覚からロキの恐怖心理を感じ取ったユメルも“念力”で周囲に探りを入れるが、彼女の表情からしてやはり此処からの脱出は不可能らしい。 「逃げようにも逃げられない…どうするか、この状況ーー」 ---- act46 真実 「周囲の岩山は高く、逃走経路も皆無。奴から逃げ延びる事は不可能だね…」 ロキの背後に立っていたのは前髪を掻き上げているカシェルであった。 しかし彼の目からは赤みの無い通常種のものと同じ薄紫色で、なおかつ今まで見られた邪悪なオーラが欠片も残さず消えている。 口調にも威嚇的な雰囲気が全く見られない。そう、まるで別人のようなカシェルがそこにいた。 「お前、カシェ…ル…か?」 「…そうだ。不思議に思うのも仕方ないだろう。 僕らヴァン族は皆、ガノッサが族長に就任した時からあいつに洗脳され続けてていたんだ。 術者のガノッサが死んだ今、ようやく奴の忌々しい呪縛から解放されたんだよ」 集団洗脳…ヴァン族は数十年前までは危険性の無い平穏な種族だったが、ある年から“災厄”のように突然変貌し、他種族を襲い始めたのは砂漠では有名な話である。 彼の話は辻褄が合ってはいるものの、未だに事態が飲み込めないロキ達は半信半疑であった。 「洗脳…だからヴァン族はみんな瞳が紅かったでやんすか?」 「ご名答。ドヴェルグ族集落にいる同胞も恐らく僕のように洗脳が解けている頃だろう」 カシェルはそう言いながら振り返って前髪を掻き上げ、ファーブニルの姿を見つめる。 「それに過去のファーブニル暴走の原因も僕らと同じ、ガノッサと同様の心を持った当時のヴァン族長による洗脳魔術だ。 ガノッサが消えた今、上手くゆけばあの龍を味方に引き入れられるかもしれない…」 何処か自信ありげな態度でそう呟くカシェル。 だが相手はガノッサを一撃で消し去る強大な実力の持ち主。ロキからすれば話が通じるような相手とは到底思えなかった。 そのうえ彼の言う通りこの場に逃げ道は無い。やはり戦うしか方法が無いのかーー 「悪しきフーディンの下僕よ、消え去るがよい」 威圧の眼光で四匹を見据えたまま次第にこちらに接近するファーブニル。 「くっ、ならば…」 先ずは相手の出方を見るべく、ロキは闘気を星の形状を描くように右掌へと集中させてファーブニルの前に立ちはだかった。 直後、額の紅玉を輝かせたカシェルが前髪を撫で上げ、ロキの隣に並ぶ。 どうやら洗脳が解けてもナルシストな性格は変わっていないようだ。 「ロキ、僕も協力しよう。此処から逃げ延びたいのは僕も一緒だし、それに先程君に命を救われた借りもあるからね」 この言葉に満更でもない様子で僅かに口元を綻ばせ、闘気を一層強く右手に凝縮させるロキ。 「まさかお前と手を組む事になるとはな…“スピードスター”、お前も使えるだろ?」 「当然だろう、僕はエーフィ種だからね。行くよ、ロキ!」 言葉でタイミングを合わせた二匹は同時に輝く星をファーブニル目がけ、狙い撃つ。 一斉に放たれた無数の金色の矢は確実に標的を捕らえていたが、それらは彼の右腕の一振りで全て弾き反らされる。 「な…片手で…?」 「チッ、やっぱ一筋縄じゃいかなそうだな…」 ロキはそう言うと背中の鞄を足元に下ろして身構える。 「畏怖する心を知らぬ低俗な者共よ、後悔するがいい……」 ---- act47 執念 だが、ファーブニルは突如として自らの頭を両腕で押さえ、何かに悶え苦しむかのように天に向けて吼え出した。 「グ……ガアアアアァァァ!」 「な、何が起きた?」 するとファーブニルの身体が紫色の靄のような光に包まれていき、その光は段々と自らの体内に吸い込まれるようにして消えてゆく。 同時に彼の瞳も靄の影響を受け、紅く輝き始めていった。 「まさか……ガノッサの洗脳魔術が今になって効いてきたとでもいうのか?」 カシェルはファーブニルの様子を見るなり、深刻な表情でそう呟く。 やがて暗紫の靄が完全に吸い込まれる頃になるとファーブニルを蝕む苦痛も頂点に達する。 狂乱状態のファーブニルは吼え哮る声と共にロキ達に向けて再度口を開き、口腔内にエネルギーを凝集させる。 (“破壊光線”か? ……いや、違う。奴が溜めている光はさっきの橙色じゃなく青色だ。という事はまさか……) 「“龍の息吹”か……!」 ロキがその言葉を口にするや否や、彼の口腔から左から右へと前方一帯を薙払うように青い炎が放出される。 砂上を滑るように疾走する蒼炎は砂粒すらも焼き焦がしながら標的の周囲を蒼の世界に染め上げていく。 ロキは付近の大岩にすぐさま身を隠し、ユメルも“テレポート”でロキに続く。カシェルは前方に強力な“光の壁”を張って息吹を眼前で遮断する。がーーー 「しまった、ルシオが!」 発狂した龍に恐怖して回避行動が遅れたルシオを灼熱の業火が襲う。 息吹にその身を晒されたルシオは助けを求める声を上げる間もなく、ロキ達の目の前で瞬時に……焼失した。 「嘘……でしょ……?」 「なっ……ルシオぉーー!」 先程まで彼がいた筈の場所には何も残っていない。その場に残された円形の焦げ跡がルシオの死を強く物語っていた。 「“テレポート”か、無駄な足掻きを!」 脳の殆どをガノッサに支配された影響で口調までもが変化したファーブニルは二匹が身を潜める岩の頭上まで瞬時に飛来し、右拳を振り上げた。 「小童が、潰えよ!」 そうして振り下ろされた龍の拳はいとも容易く大岩を砕いて貫通し、衝撃で砂の大地を凹ませる。 その拳は確実にユメルとロキを捕捉していた筈であったが、拳の下に二匹の姿はない。 背後に気配を感じ取って振り返るファーブニルは、両腕でユメルを抱えて俯いているロキを視界に捕らえた。 「ありがとう、ロキ……でもルシオが……」 「わかってる……くっ……」 ロキの瞳から小さな一筋の雫がこぼれ、頬を伝う。彼は自らの無力さをただ嘆いていた。 「ふはははは、貴様等のおかげでようやくこの災厄も我が支配下となった! せめてもの礼だ、貴様等全員は苦しまぬよう一瞬で葬り去ってやろう!」 ファーブニルの精神を完全に奪い去ったガノッサは自分の力に酔いしれながら三匹を睨み付ける。 「災厄ファーブニル、もとい執念深きガノッサ。永きに渡るヴァン族の苦しみ、君にも味わってもらうよ……」 「……ガノッサ、テメェには今此処で消えてもらう!」 カシェルは超能力で生成した一本の剣を取って構え、ロキは怒りに全身の体毛を震わせ、瞳に涙を浮かべたまま戦闘体勢をとる。 砂漠の歴史に名を残す戦いが今、始まろうとしていたーーー ---- 感想など何かありましたらどうぞ。 - カイリューに勝てばいい。 どうやって!? -- &new{2009-02-20 (金) 08:02:02}; - 賄賂を渡s(殴 とりあえずwkwkする展開w -- &new{2009-02-20 (金) 18:04:57}; #comment