ポケモン小説wiki
Elopements act33~39 の変更点


&color(red){この小説には、暴行、流血などの表現が含まれています。 閲覧の際にはご注意下さるようお願いいたします。};
----
act33 地下洞

「ん、此処は…」
「あ、気が付いたでやんすね」
目を覚ますロキの目の前にはルシオの顔があった。
ロキは立ち上がって周囲を見回すが、辺りは漆黒の闇に包まれ視界はゼロに等しい。
唯一の光源はルシオが持っているロキのランプのみ。
「此処は一体何処なんだ…?」
「多分あの落とし穴から地下深くに落とされたみたいでやんす…」
上を見上げても暗黒が広がるばかり。きっと相当深い所まで落とされたのだろう。
ロキはルシオからランプを受け取ると辺りの様子を手探りで確認し始める。

「地面は砂で壁は岩…何処かの地下洞か?」
その後数分掛けてロキは今いる場所の構造を大体理解した。
此処は地下洞の一室のようで、別の場所に続くと思われる入り口が二つある。
それらの入り口は正反対の方向に位置していた。
「迷ってる暇はない。行くぞルシオ」
「兄貴…そっちで大丈夫でやんすか?」
「さっさと此処を抜け出してユメルを追う。しっかりついて来いよ」
そうしてロキは何の躊躇いもなく一方の通路に入っていった。ルシオもそれに続く。

緩い上り坂を真っ直ぐ進んでT字路を左折し、十字路を右折、次の十字路は直進してしばらく歩き、三叉路を左に……行き止まりか。
来た道を引き返して三叉路の真ん中の道をとり、次のY字路を右折してしばらく歩くと少し開けた部屋のような場所へ辿り着いた。
「はぁ…道順がややこしいな、この地下洞は。迷路みたいだ…」
「兄貴~…少し休もうでやんす…」
周囲に警戒し続けて精神的に疲れてきた二匹はその場に座り込んで鞄から水筒を取り出す。その時ーー

「あんた達、何者だい?」
二匹のいる部屋のようなフロアの隅から突如声が聞こえ、ロキはとっさに剣を抜いて構える。
声のした方向から現れたのは両腕に鋭い鈎爪を持ち、背中に幾つもの刃のようなトゲを有したポケモン…雌のサンドパンだった。
見たところ年齢は25、6歳あたりだろうか。
「誰だお前は!」
剣先を向けたままロキは相手を威嚇するが、サンドパンは眉一つ動かさずに両腕を上げて二匹の下に歩み寄る。
ロキには彼女がかなり戦闘術に長けているように思えたが、彼女には戦闘の意志が全く見られない。
「普通あんた達から名乗るのが道理なんじゃないのか? それにあたしの部屋に入ってきていきなり剣を抜くのもどうかと思うが……」
剣を持つロキの気迫に負ける事なく彼女は少々呆れたような顔で更に近寄ってくる。
よく見ると確かにこの部屋には生活用品のようなものが幾つか配置されていた。
彼女の領域を犯した事を認識するとロキは戦闘体制を解き、剣を鞘に収める。
「ああ…すまない。オレ達はアース族のポケモンでオレがロキ、こっちがルシオだ。何というか…ふとあることで此処に迷い込んでな…」
「部屋って事は此処はあなたの家でやんすか?」
ルシオの問いかけにサンドパンは両腕を下ろして答える。
「正確に言えば家…じゃない。此処はドヴェルグ族集落さ。
 地面と岩タイプのポケモンで構成されているのは恐らく知っているだろう。
 あたしの名はフラール。ドヴェルグ族の族長を務めている」
----
act34 ドヴェルグ族

まだ若い彼女が一族の長……そうは思いもしなかった二匹の表情は完全に意表を突かれ、驚きを隠せないといった様子だ。
しかしロキには附に落ちない点が一つあった。
「ドヴェルグ族は…確かアメンティ山の中腹に集落を構えてるって聞いたけれど……」
「確かに少し前まではそうだった…ヴァン族に集落を奪われるまではね。
 一週間程前、あたし達はヴァン族の襲撃を受けたのさ。
 勿論あたし達も必死に抵抗したけれど奴等の強力な超能力の前に多くの仲間が倒された。
 生き残ったあたし達は命からがらこの地下洞に逃げ延び、なんとか全滅は避ける事が出来た。
 そして今、地上の集落ではヴァン族が我が物顔であたし達の住処を乗っ取っているのさ……」
彼女の声には除々に怒りが込められているように聞こえた。
「奴等の目的は……集落奥地にある封印されし“古の災厄”の復活だ。
 それを防ごうにもヴァン族は少数民族とはいえ個々の戦闘能力が高く、あたし達も手が出せない状況なんだ…」
「オイラ達の集落もつい昨日襲われたやんす。でも兄貴が一人でヴァン族を追い払ったでやんすよ!」
「だけどそいつらにオレ達の大切な仲間が連れ去られたんだ。儀式の生け贄にするとか言ってな…
 それでカシェルという名のエーフィを追っていたら落とし穴の罠にかかって此処に辿り着いたんだ」
フラールはロキの言葉を聞いて目を見開き、体を震わせて動揺する。
「その生け贄というのは…ロキと同じ位の年齢をした雌のポケモンか?」
「そうだけど…何故その事を?」
ロキはユメルのことをずはり言い当てられて更に驚愕したが、フラールは腕を組んで何やら深刻そうな表情で考え込む。
「まずいな…儀式によって“あいつ”が目覚めてしまう…!」
「ど、どうしたでやんすか?」
「…行こう。地上への道はあたしが案内する。詳しい話は歩きながらでもいいだろう」
彼女はすぐに冷静さを取り戻すと早々とした足取りで部屋を後にする。
二匹も慌ててフラールの後に続いた。

ロキとルシオは迷宮のような地下洞をフラールの先導でひたすら歩いていく。
暗所で目が利かないロキ達のために地下洞の松明が付けられ、通路は明るく照らされていた。
松明の明かりで見えた彼女の体の土色は濃く、背中のトゲは赤褐色をしていた。いわゆる『色違い』というやつだろう。
その後フラールから聞いた話によると、ドヴェルグ族はヴァン族が復活させようとしている力…通称“古の災厄”の監視者であること、
その災厄の復活には龍の血を継ぐ若い雌のポケモンが必要であること、
カシェルはヴァン族で二番目の位を持つ『副長』であること、
そして現在ヴァン族に制圧されている集落にはヴァン族全てのポケモンと族長のフーディンがいるということだ。
そんな話を聞きながらロキ達も自分達に起きた出来事や旅の目的を話していく。

「たった三匹で砂漠の未来を変えようとするのか……確かに種族を越えた共存ってのも面白そうだね。
 あたし達も協力するよ。あたしも以前からこの風習は変えるべきだと思っていたし、それにヴァン族は倒すべき存在だからね」
フラールは期待と感心の入り交じったような眼差しで嬉しそうに二匹を見つめる。
「本当ですか? フラールさん、有り難う御座います!」
「いや、礼には及ばないよ。
 話は変わるが、そのユメルというキルリアが龍の血を引く者なのだな?」
「そうでやんす。おじいちゃんがガブリアスと聞いているから間違いないでやんす」
「ならば急ごう…奴等の儀式がもう始まっている可能性が高い」
----
act35 潜入

彼女は二匹が到底覚えられないような道順でどんどん進んでいく。
途中に数回上り坂があった所を見ると地上への道のりはこれで合っているのだろう。
「着いたぞ、此処だ」
それから十数分程歩いただろうか、三匹の目の前に現れたのは大きく重厚な石の扉だ。
彼女はそれを開けると二匹を部屋の中へと誘う。
この部屋は比較的狭く、天井がやたらと高い。唯一目につく物といえば天井に届く程まで伸びた急斜面の上り階段位だ。
「この階段を上って正面の岩壁を壊し、目の前の梯子を登れば占拠されたあたし達の集落に着く。
 儀式中なら殆どの実力者が集落奥の祭壇に集まっているから外の警備も手薄だろう」
「なら今が忍び込むのに絶好のチャンスという事でやんすね?」
「ああ…その通りさ。出来ればあたしも一緒に行きたい所だが、あたしはドヴェルグの仲間を連れて後からあんた達を追うよ。
 標的はヴァン族長…フーディンのガノッサだ」
フラールはルシオの問いかけに頷き、そして作戦を再確認するように二匹の顔を交互に見つめる。
「了解でやんす! 兄貴、早く儀式を止めて姉貴を救い出すでやんすよ!」
「ああ…急ぐぞ!」
二匹はフラールにお礼を言うと目の前の長めの階段を駆け上がっていった。
「あたしよりも若いというのにたった二匹でヴァン族に立ち向かうのか…あたし達も負けてられないな……」
残されたフラールはそう呟くと足元の砂に飛び込むようにして潜り、姿を消した。

「よし、上りきった……」
「ハァ…ハァ…疲れたでやんす…」
全速力で階段を踏破した二匹の目の前は岩壁があり、行き止まりのように見える。がーーー
「うぉぉらあぁぁ!!」
躊躇う事なくロキは眼前の岩壁に後ろ蹴りを叩き込み、すぐにそこから飛び退く。
直後に壁は音を立てて崩れ落ち、新たな道を開いた。
「さて、何処に出るでやんすかね…」
「水の匂いがする…この先は井戸の中か?」
蹴り壊した瓦礫を踏み越えて目の前に垂れ下がっていた縄梯子を登り、二匹は筒状に組まれた井戸の石垣の中から外へと出る。
外は無為な状態の岩が幾つもあってやたらと狭苦しい岩場でとても歩きづらかったが、二匹はそれでもユメルを救うべく足を進めていく。
しばらくすると岩場が開け、奥に集落のような建造物が見えてきた。
見た限り集落らしき建物は小高い丘に囲まれ、集落入り口付近の様子を伺う事が出来ない。
ただ一つある入り口の門は門番らしきスリープが門のアーチを塞ぐように見張ってーーもとい立ったまま寝息を立てていた。
「スリープなだけによく寝てるでやんす」
「……門からは入れそうにないな。あの丘を登るぞ」
二匹は音を立てないように集落を囲う丘をなんとかよじ登って頂の崖の上から顔を覗かせ、集落の様子を観察する。
大岩をくり抜いたような建物の外観はアース族集落と何ら変わりはないようだ。
しかし集落自体が大きく、入り口が三ヶ所もあるので何処から入り込めばいいのかが全く分からない。
「構造は随分と複雑そうだな…フラールさんに祭壇の場所を聞いとけば良かったか…」
「あ、兄貴…あれを見るでやんす!」
ルシオが指さしたのは一番左側の入り口でそこから出て来たのはカシェルの配下のユンゲラー。
彼の手には頑丈そうな鉄製のワイヤーの端が握られていて、それは後から続くニャース、ピカチュウ、ゴンベの体を縛り付けている。
彼ら…といってもゴンベだけが雌であったが、見慣れない三匹のポケモンは首に青いバンダナを巻いていて、ニャースは肩から青いバッグを下げていた。
----
act36 潜入II

「僕達はこの砂漠のポケモンじゃない! 偶然この集落に迷い込んだだけなんだ!」
そう必死に弁明するのは18歳前後と思われるニャース。他の二匹…ゴンベとピカチュウは13、4歳といったところだろうか。
ロキには彼らがとても悪事を働くようなポケモンには見えなかった。ヴァン族にとって危険因子に該当するのかどうかは別として。
「お前達はどうせ他の集落の回し者だろう。さあ、さっさと歩け!」
「ち……わかったからせめてもう少し丁重に扱ってくれよ…」
「いいから早く来い!」
ピカチュウの願いも空しく、三匹はユンゲラーに半ば引きずられるようにして右側の入り口へと連れて行かれる。
その間、崖の上の二匹は黙ってその様子を見ていた。
四匹が姿を消すとルシオが何か考え込むような口調でロキに尋ねる。
「兄貴、あのポケモン達も儀式に関係してるでやんすかね?」
「どうかな……でも儀式が行われてるこのタイミングに捕縛されるって事はもしかしたら彼らは祭壇の場所や儀式について何か知ってるかもな」
「兄貴もそう思うでやんすか……ならさっきの三匹を追うでやんす!」
「決まりだな。見張りがいなくなった隙を狙ってあいつらを追うぞ」
数分後、二匹は見張りのブーピッグが真ん中の入り口に入っていったタイミングを突いて目の前の崖を滑り降り、ユンゲラー達を追って右側の入り口へ駆け込んでいった。

集落に入って数分は経っただろうか。松明の付けられた通路を二匹は歩いていた。
幸い真夜中という時間帯のせいか通路を彷徨くヴァン族の姿は無い。
それでも二匹は物音を立てないよう気配を殺し、体勢を低くして慎重に歩いていく。
ドヴェルグ族の集落はアース族のそれより複雑な構造をしていて方向感覚のないポケモンならすぐに迷ってしまう位だ。
しかし通路の床に敷かれた砂に先程の四匹の足跡が残されていたのでこれを辿っていれば迷う事はまず無いだろう。
足跡を辿る二匹はやがて一つの部屋の前に行き着いた。
『牢獄』と書かれたこの扉の前で足跡が消えている。この部屋に彼らが幽閉されているのは明白だ。

「牢獄…此処か?」
少々重い鉄の扉を開けて中へと入る二匹。
入ってすぐさま部屋最奥の大きな鉄檻に捕らわれていた三匹の姿が目に入る。
その檻は中に入れられたポケモンのあらゆる力を完全に封じ込めてしまう特殊なもので、こういったタイプのものは外側から鍵または鉄格子を破壊するしかない。
檻の中のニャースは突然の訪問者に対して恐る恐る口を開く。
「…君達は誰だい? 見たところヴァン族ではないようだけれど……」
今の彼らには先程まであった活力が見られず、逆に倦怠感と疲労感に支配されていた。差し詰めこの檻の影響といったところか。
「オレ達はアース族のポケモンなんだが…ある仲間を助けるために此処の祭壇を探してる。
 もし儀式について何か知っているなら教えてくれないか?」
「儀式についてはよく知らないけど祭壇の場所なら知ってるよ。でも私達がこんな状態じゃ…」
そう呟いて俯くのはニャースの隣にいたゴンベ。
確かにその状態では二匹を案内するどころか檻を壊す事も不可能だろう。
「それに俺達は現地のポケモンには極力手を出さないようにしてる。お前達に危害を加えるつもりは更々無ぇよ。
 俺達を此処から出してくれるならなおさらだ」
そう言うのは二匹の背後で腕を組んでいた、少々ガサツな口調のピカチュウ。
「わかった、オレ達を祭壇まで案内する事を条件にあんた達を助けよう」
「ふぅ…君達がヴァン族のように悪いポケモンでなくて良かったよ。
 檻の鍵は君達にお願いする。道案内は僕達に任せて貰おうか」
----
act37 セイバーズ

「じゃあ、危ないからちょっと下がってな」
ロキは三匹を檻の奥に行くようにそう促すと、目を閉じて剣の柄に手を当てて居合いの構えをとる。
直後、彼の放った一閃は檻の南京錠を綺麗に真っ二つに切り落とした。
ニャース、ゴンベ、ピカチュウの三匹は檻の扉を開け、外に出ると二匹に礼を述べる。
「ありがとう…君達。本当に助かったよ。
 おっと、自己紹介が遅れてしまった。僕はニャース種のリンだ。よろしく」
「私はシグルーン、種族は見ての通りゴンベよ」
「俺はピカチュウのヴェイグだ。よろしくなっ!」
「ああ…オレはイーブイのロキ。こっちこそよろしく」
「オイラはピッパのルシオでやんす!」
そして五匹は互いに向かい合って握手を交わす。
檻から出て活力が見られるようになった三匹はそれぞれが皆、半端ではない戦闘経験を感じさせてくれた。
だが彼らはそんな強さの他にも何か人を引きつけるような魅力も合わせ持っている。恐らく彼らを慕う人も少なからずいる筈だろう。
リンは部屋の隅に放置されていた青い鞄を大事そうに肩に掛けると部屋の鉄扉を開ける。
「さあ、行こうか。見回りのヴァン族に見つからないように…ね」
五匹は牢獄部屋を後にすると祭壇を目指して音も立てずに走り始めた。

「次の階段を降りて右だ!」
先頭を走るリンの指示で彼らは迷宮のような集落を無音の風の如く駆け抜けている。
床に敷き詰められていた砂はいつの間にか消え、平らに均された岩肌が露わになっていた。これで足跡を残さずに済みそうだ。
ロキは速度を上げて彼らの横に並び、ふと気になった事を尋ねる。
「そういやあんた達は何故ヴァン族に捕まっていたんだ?」
「…僕達はこの三人でチームを組んで探検隊をやっているんだ。これがその証さ」
リンはそう言って首に巻いている青いバンダナを見せてくれた。
そこには金色の糸で「サーナイトギルド『セイバーズ』」と美しい刺繍が施されていた。
「俺達はチーム『セイバーズ』。俺達の所属するギルドのサーナイト…フレイヤ大隊長からの依頼でこの砂漠の調査に赴いたんだ。
 それでこの集落に辿り着いて偶然にもヴァン族の野望を暴いたのは良かったんだが、それをギルドに報告すべく帰還しようとした所を奴等に捕まってな…
 さすがの俺達でも集団で襲ってくる奴等を傷付ける事なく逃げ切るのは無理だった…って訳だ」
「私達は現地のポケモンにはなるべく手を出さないって言ったじゃない?
 でも野生のポケモンと私達に危害を加えたポケモンは別なの。
 これまで私達はヴァン族を傷付けないようにしていたけれど彼らは私達を牢獄に幽閉して命の危険に晒した…」
「つまり僕達は今の時点でヴァン族に対しての攻撃が可能になったことになる。
 まぁ、これはフレイヤさんが決めた事なんだけどね」
三匹がロキ達に分かりやすいように説明してくれたお陰で二匹は彼らの素性を理解することが出来た。
直後、五匹は立ち止まって通路の角に隠れて見回りのヴァン族をやり過ごし、角の向こうの扉を抜ける。
しばらく走ると通路の左側に昇り階段が現れた。
「そうだな…ここから二組に分かれて別行動を取ろう。
 シグルーンとヴェイグは先に集落を脱出して出口を確保。僕はロキ達を案内し終え次第二人を追う」
リンは慣れた様子でシグルーンとヴェイグに今後の行動を指示する。リンはセイバーズのリーダー的存在なのだろうか。
「わかった。三人も気を付けてね!」
「リン、またヴァン族に捕まったりするなよ~?」
二匹はロキ達に別れを告げると階段を駆け上がって姿を消した。
----
act38 守護者

二匹と別れた後、ロキ達は通路を再び走り始めていた。
二匹の先を行くリンは突然ハッとした表情をして二匹に顔を向ける。
「おっと、ギルドや探検隊についての説明がまだだったね。二人共、『探検隊』という言葉は聞いた事があるかい?」
「探検隊とはギルドという機関に所属していて捜し物や他のポケモンの救助、更には未開の地の探検などをこなすと聞いた事があるでやんす」
探検隊…これについては過去にメルティーナから聞いた事があった。彼女は長旅から帰ってくると沢山の土産話を聞かせてくれるのだ。
ギルドについての話もその一つであった。
三匹は階段を駆け下りながらなおも会話を続ける。
「お、知っているみたいだね。ならば詳しい説明は略そう。
 僕達『セイバーズ』はヴァン族の野望…“古の災厄”の復活を企てている事を早急にフレイヤ大隊長に報告しなければいけないんだ。
 事が上手く運べばギルドの総力を以て此処を叩く事になるだろう」
「そうか…で、その『だいたいちょう』ってのは一体どういう人なんだ?」
「ああ、大隊長というのはギルドの頂点に就いている人の事だ。
 任務の指示や書類の処理、道具屋の仕入れルートやギルドで消費する食料の確保、ギルドと周囲の環境の向上など、ギルドの運営管理をするのが主な仕事なんだ。
 ギルドの他のポケモン達はみんな彼女の事を『オヤカタ様』と呼ぶのだけど、僕には才色兼備な女性であるあの方をそう呼ぶのに少し抵抗がーーーッ!」

階段を下りた先の左に折れた通路の角を曲がって少し開けた場所に出たその時、三匹の目の前に一つの影が現れる。
それは鋼の身体をしていて四方から丸太のような太い腕を生やし、奥の扉を塞ぐように鎮座するポケモン……メタグロスであった。
三匹に気付いたメタグロスは赤い目をこちらに向け、ロキ達はとっさに身構える。
「オ前達ハ…侵入者カ! ソレニソコノニャース…オ前ハ牢獄ニ捕ラエタハズ…」
「困ったな…祭壇へ行くにはあの扉を通らないといけない。ここは戦うしかないのか…?
 それに相手は鋼タイプ……僕達じゃ少々不利か…」
「ルシオは下がってな。オレが行く」
ロキはルシオの前に回り込んで腰の鞘から剣を抜く。
リンは自らの爪を出して構え、ロキの隣に並んだ。
「ロキ、僕が行こう。それにこのまま黙って君達を見ているというのは僕の考えに反するからね」
リンはそう言うと左手の爪を鋼へと硬質化させ、メタグロスの方へ一直線に駆け出してゆく。
恐らく相手の素早さの低さを突いて一撃で勝負をつける気だろう。

飛び込み様に放った彼の“メタルクロー”は確実に標的を捕らえていた。
が、彼の左手はむなしく空を掻く。そこには既にメタグロスの姿は無い。奴は瞬時にして10m程右に平行移動したのだ。
「愚カ者ガ。我ハガノッサ様ノ魔術二ヨリ“高速移動”ノ技ガ数倍二モ強化サレテイル。オ前達ノ攻撃ヲ避ケル事位容易ナノダ」
着地したリンは思考を巡らせ、今ある状況を確認する。
祭壇へ続く扉は超能力で封印が成され、扉に触れる事すら叶わない。
その扉を守護せしメタグロスは尋常ではない素早さを有していて、僕達の直接攻撃はまず当たらないだろう。
出来れば道具を使いたい所だが、このバッグに入っている物は殆どが食料品で戦闘に使うアイテムは数少ない。
その上ギルドへの帰路もあるため、今アイテムを浪費する訳にもいかない。
僕が相手に必ず命中するような技を覚えていればーー
----
act39 共闘

「だが、もしオレが必中攻撃を使えるとしたらどうする?」
ロキは相手の敏捷性に全く怯むこと無く、自信に満ちた表情でメタグロスを睨んでいる。
直後、彼が右腕を水平に振り払うとそこから幾多の光り輝く矢が放たれた。
ガギィンーーー  「グッ……」
技の相性上、“スピードスター”は鋼の体に弾かれてしまうもののそれらは全て標的の前足に当たり、その衝撃にメタグロスは少し体勢を崩す。
そこに生まれた一瞬の隙…リンはそれを見逃さなかった。
松明の炎を映した額の小判の反射光が一筋の光となり、尾を引いてメタグロスへと向かう。
しかし、標的の懐に飛び込んだのはリンだけではなかった。

ザンッーーー
鋼を弾いたとも切ったとも言えないような斬撃音が周囲に木霊する。
メタグロスの背後にいたのは爪を硬質化させたリンと剣を構えたロキ。ロキは剣撃の反動による手の痺れに少し苦しんでいる。
標的の顔には大きなバツ印の決して浅いとは言えない程の深い切り込みの跡があった。
「ナ…ナンダト……?」
メタグロスはその場に崩れ落ちるようにして力尽きた。
これを見たルシオは嬉しそうに二匹に駆け寄る。
「兄貴、リンさん、やったでやんす!」
「くっ、なんて硬さだよ…刃こぼれとかしてないだろうな…」
「ふぅ…ありがとう、ロキ。君のおかげで奴を倒す事が出来た。
 しかし驚いたな…まだエーフィに進化していないイーブイの君が“スピードスター”を使えるとはね…」
リンは左腕の爪を元に戻し、何やら興味深そうな目付きでロキを見つめる。
ロキは手の痺れに苦しみながらも剣を鞘に納めた。
「ああ、これはオレがまだガキだった頃…エーフィ種の父さんが教えてくれた技なんだ。元々イーブイが使える技じゃないから習得するのに三年も掛かったんだけどな」
「兄貴と同じ位リンさんも強いでやんすよ! “メタルクロー”で鋼鉄を切り裂くのも凄すぎるでやんす!」
「もしかすると他の二人もリンのように強かったりするのか?」
ロキは手の痺れと格闘しながら、ルシオは期待の眼差しでリンを見つめていた。
「鋼タイプのポケモンに“メタルクロー”を使うのは反動で手を痛めてしまうからあまり好きじゃないんだ。
 それと僕達『セイバーズ』はそれぞれメンバーの専門分野が違うから一概に強いとは言えないけれど、二人共それ相応の実力はちゃんと持っているよ」
そう答えるとリンは躊躇う事無く封印の解けた扉を開ける。
「さ、君達は急いでいるんだろう? 祭壇はもうすぐだ」
「よし、じゃ行くか」
手の痺れが治まってきたロキはルシオと一緒に扉をくぐり抜け、暗く細い通路をリンに付いて進んでいく。
しばらくすると三匹の前に長い下り階段が現れた。
「…此処を下りればヴァン族の祭壇に辿り着ける。君達とは此処でお別れのようだね」
「ああ、案内ありがとう。助かったよ」
「そうだ、君達にこれを渡しておこう」
リンは名残惜しそうに振り返ろうとしたが、突然何かを思い付くとトレジャーバッグを漁って青い小さな水晶のような物を取り出し、ロキに手渡す。
「これは…?」
「それは“敵封じダマ”といって、ある程度の時間だが複数の敵の行動を封じる事が出来るアイテムだ。
 恐らく祭壇には族長配下のポケモン達が集まっているからそこで使うといい」
「この小さな玉にそんな力があるでやんすか…」
「君達…幸運を祈る。じゃ、僕はこれで!」
リンはそう言って微笑むと踵を返し、暗い通路を戻っていった。
「リンさんありがと~でやんす!」
「さあ、オレ達も行くぞ。族長のガノッサを倒して儀式を止めてみせる!」
二匹も意を決し、ユメルを救うために階段を駆け下りていった。
----
感想など何かありましたらどうぞ。
#comment

トップページ   編集 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.