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Elopements act27~32 の変更点


&color(red){この小説には、暴行、流血などの表現が含まれています。 閲覧の際にはご注意下さるようお願いいたします。};
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act27 蟻地獄

メルティーナと別れてから一時間後……三匹は未だ砂漠を放浪していた。
砂漠を照りつける太陽は西に傾きかけ、空は橙色に染まりつつある。
「もうじき陽が沈むでやんす。急ぐでやんすよ」
「ユメル、平気か…?」
「はい…なんとか……」
彼女は微笑んでロキに答えるも、その笑みはぎこちなく体力的にも辛そうだ。

「あ、兄貴…あれを見るでやんす!」
ふと、何かを見つけて前を指さすルシオ。
三匹の前方にはうっすらとではあったが、標高1,000m程の連なった岩山が見えた。その距離約1,5km。
「あれがアメンティ山か…」
アメンティ山というのはこの砂漠で一番標高の高い山で、数世紀前にあの山ではあらゆる種族のポケモンが共存していたという。
「何処かに集落の入り口があるかもしれないでやんす!」
ルシオは胸を躍らせて山に向かって走り始めた。
「おい待て、ルシ…」
「! ルシオ、止まって!」
二匹が逸るルシオを止めようとした瞬間、彼が忽然と姿を消した。

「!? 消えた?」
「消えてはいません、こっちです!」
ロキとユメルは慌ててルシオの消えた場所へ向かう。
二匹の眼前に広がっていたのはーー

「これがその正体です…」
「これは…蟻地獄か!」
足元の砂に大穴をあけ、周囲の砂を絶え間なく飲み込んでいたのは蟻地獄であった。
穴の中心に向かってゆっくりと沈む砂の途中にルシオの姿が。
「兄貴~助けてくれでやんす~!」
上半身をバタつかせて必死に助けを求めるルシオ。しかし彼は既に手の届かない距離にいる。
「待ってろルシオ!」
反射的にロキはルシオを救おうと蟻地獄の中に飛び込み、彼のすぐ側に飛び降りた。
そのままロキはルシオを背負うと砂を蹴って脱出を試みる。がーー

「と、跳べねぇ…」
沈んでいく砂は思いのほか柔らかく、後ろ足は無意味に砂を掻くばかり。
地上に向かって泳ごうとするも二匹の体は着実に引き寄せられていく。
流砂の中心ではナックラーが顔を出してカチカチと口を鳴らしていた。
「兄貴、食べられちゃうでやんす!」
「くそ…このままじゃ…」

と、突然二匹の体が青白い光に包まれて宙に浮かび上がる。
「一体何でやんすか…?」
地上を見上げるとユメルが瞳を青く光らせ、両手を二匹に向けていた。彼女が“念力”を使ったのだ。
「上手くいきましたね、良かった…」
ユメルは二匹を地上に引き上げて砂の上に下ろし、“念力”を解く。

「はぁ、助かったでやんす…」
「はは…ルシオを助けるつもりがユメルに助けられちゃったな…」
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act28 絆

「お二人のお役に立てれば私も幸いです」
彼女はそう言って嬉しそうに微笑む。
蟻地獄のナックラーはガチガチと悔しそうに口を鳴らしながら砂の中に消えていった。
「さあ、早く集落の入り口を見つけ…うわ、危ないでやんす」
陽は沈み辺りは暗くなりかけていたが、彼らの周りに沢山の蟻地獄があるのが見えた。
「何だこれ…蟻地獄だらけじゃないか。気を付けて進もう」
三匹は足元に注意を払いつつアメンティ山へと向かっていく。

十数分後、何とか岩山の麓に辿り着いた彼らはドヴェルグ族集落の入り口を探すが、それらしいものは見当たらない。
唯一目に付いたものといえば袋小路になっている小さな洞穴だけだ。

「仕方ないな…入り口を探すのは明日にして今日は此処で休むか…」
三匹は洞穴の中に入り、ロキの持っていたランプに火を付ける。
洞穴の中はある程度広さがあって寝泊まりするにはうってつけの場所であった。
ロキは鞄からモモンの実を三個取り出すと二匹に一個ずつ渡して座り込む。
「明日は集落の入り口を探し出してドヴェルグ族を説得する。まずは第一歩…だな」
決意に溢れるロキの手の中にはキラリと輝く蒼い首飾りのようなものがあった。
「ロキ…それは?」
一見するとそれは表面に氷を纏った小さな石をあしらった銀の鎖の綺麗なネックレス。それは僅かながらも冷気を発していた。
「ああ、これは“凍結した岩”の欠片で出来た首飾りで、オレの母さんの形見なんだ…」
ロキはその首飾りを握りしめて目を瞑り、思い出に浸るように穏やかな表情をする。
彼の放つこの感情……きっとロキは両親の寵愛を受け続けて育ってきたのだろう。
ロキが羨ましいな…私には親と呼べるような人は誰一人としていないのだから。
もう二度とあんな過去には戻りたくないーーー

ユメルは湧き上がる感情を誤魔化すように受け取ったモモンをかじる。
かじられた部分から甘い香りの果汁がにじみ出て滴り落ち、辺りはモモンの濃厚な香りに包み込まれた。
「ユメルの姉貴、なんか調子が悪そうだけど…大丈夫でやんすか?」
ふと、ルシオが心配そうにユメルの顔を覗き込んできた。きっと彼女の感情を多少なりとも汲み取ってくれたのだろう。
「う、うん…大丈夫よ」
ユメルは感情を振り払うといつものように明るく振る舞う。
「そっか、ならいいでやんす。明日からは頑張らないといけないでやんすからね」
「そうですね…それに三人一緒ならロキの夢もいつか叶えられると思います…」
二匹は真剣な表情でロキを見つめていた。
最初はヴァン族に狙われるユメルを助けるためであったが、真の旅の目的を見い出した三匹の志は強く、そして固い。
ロキは形見の首飾りをかけ、首周りのふさふさした毛でそれを覆い隠す。

「…オレはこの砂漠を一つにまとめ上げ、種族の壁を越え皆が共に暮らせる理想の世界を作り出す。時間は掛かるかもしれない…でも砂漠の未来のためにも皆が手を取り合って一つになる必要がある。そのためには二匹の力が必要なんだ……」
「勿論オイラは兄貴に一生ついていくでやんす!」
「私も…ご一緒させて下さい…」
そう言って手の平を重ねる三匹の間には『仲間』という断ち切る事の出来ない絆が出来ていた。
ロキは滲み出る涙を拭うと呟く。
「すまない…オレの勝手で二人に迷惑をかけて…」
「そんなことはいいでやんす。それよりも明日のために今日は早く寝るでやんすよ」
そろそろ夜も更ける時間帯。ロキは二匹におやすみを言うと体を丸めて眠りにつく。ユメルとルシオも横たわって寝息を立て始める。

闇の帳の中、満月は今日も砂漠を朧気に照らし続けていた。
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act29 帰還

陽が沈み、夜空に星が瞬き始めた頃ーー
空を舞う一対の翼はアース族集落の最上階…二階に位置する大窓から突き出たテラスに上手く降り立つ。
「族長!」
そしてメルティーナは部屋の中にいたハピナス…エイル族長を呼んだ。
椅子に腰掛けて考え事をしていたエイルはテラスの方を向いた。
「メルティーナ、久しぶりですね。無事に帰ってこれて何よりです。…しかし私達はヴァン族の襲撃にあってーー」
「それに関してはロキ達から話を伺いました。何故彼らはあんな砂漠の中心部を放浪していたのですか?」
前置きも無い単刀直入なメルティーナの質問にエイルは表情を曇らせ、彼女から目を背ける。
「…彼らに対し私は集落を襲われる原因となったキルリアを見捨てて集落に残るか、またはキルリアと共に集落を追放されるかの選択を迫りました。
 メルティーナ…あなたが砂漠を放浪していたロキ達を見つけたのならば彼らはこの集落を出てまでもあのキルリアを守る道を選んだという事になります…」
「族長…何故アース族でないポケモンを受け入れる事が出来ないのですか?
 私はこの四年間、世界中を巡って様々な地域でタイプに関係なく共存しているポケモン達を目にしてきました。ファーブニルが姿を消した今、私達も風習に捕らわれずに手を取り合う道をとるべきではないですか?」
メルティーナは間発入れずに族長に向かって彼女自身の…ロキ達の抱く真剣な思いをぶつける。
「…ですが、数世紀も前から守られてきたこの風習を簡単に変える訳にもいきませんし、今回に至ってはあのキルリアが原因でヴァン族に襲われて死者まで出てしまいました。
 ですから私はアース族の全滅を避けるためにキルリアを追い出すという結論に至ったのです…」
族長は更に憂鬱そうな表情をしてうつむく。ロキ達を追い出す事は彼女にとって苦渋の決断だったのだろう。
確かにキルリアを此処に残し続けていればそれを狙うヴァン族の度重なる襲撃に遭い、全滅は免れない。
しかしそれはアース族が一つだから。ロキの唱える通りに他の種族と協力すればヴァン族にも対抗する事が出来るだろう。
「…ロキ達はたった三匹でヴァン族に立ち向かう覚悟を決め、この砂漠を風習の束縛から解放するべく他の集落を渡り歩いて皆を一つにしようとしています。
 今頃彼らはきっとドヴェルグ族の集落に向かっている筈でしょう」
その言葉を聞いた族長は突然座っていた椅子を後ろに倒して立ち上がり、驚愕した様子で目を見開く。
「ドヴェルグ族といえば一週間程前にヴァン族に集落を制圧され、集落は現在ヴァン族の住処に…」
「え……そうだったのですか!? 私、その事を知らずに…」
ドヴェルグ族集落は今はヴァン族のものーーもし彼らに何かあったらそれを知らなかった私の責任。
しばらく考え込んだメルティーナの頭にある答えが浮かんだ。
「…ならば私がロキ達を助けに行ってきます!」
「メルティーナ、待ちなさい!」
族長の制止を無視して彼女は翼を広げて羽ばたき、闇を切り裂くような速さでアメンティ山へ向けて飛ぶ。

ロキ達…お願い、無事でいてーーー

窓辺に佇むエイルは東に向けて飛翔する影を見つめて呟く。
「ロキ…そこまでして砂漠を変える決意を………確かに彼の言う通り種族間の共存を考えてみるのもいいかもしれませんね…」
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act30 花畑
「ふわぁ…」
大きな欠伸をして目覚めたのはロキ。体を起こして伸びをするが…
「ん、ここは…」
ロキの目に入ったのは見た事もない色彩豊かな花、花、花。
彼は一面に広がる花畑の中に佇んでいた。辺りは見渡す限り暖かい陽に照らされた美しい花で埋め尽くされ、今までに無い爽やかな風が彼の体を撫でていく。
そして彼のすぐ隣にいたのはーー

「ユ、ユメル!?」
ロキの右隣に座り込んで髪を弄んでいたのは雌のキルリア…ユメルがそこにいた。
彼女はロキに気付くと髪から手を離してロキの方を向く。
彼女のエメラルド色の髪には黄色いタンポポの髪止めが付けられていた。
「あ、ロキ……」
気のせいか? いや、気のせいではない。今日のユメルはいつもより一段と可憐に見えた。
「隣…座る?」
ユメルは微笑んで自分の左側に手をかざす。
ロキは少し戸惑いつつも彼女のすぐ左に腰を降ろした。

そこから沈黙の空気ーー
ユメルが隣にいるせいか、ロキの心臓は自然と高鳴っていく。
彼女を前にして何を話せばいいのか分からない。
「あ、あの……」
風に吹かれる花の騒めきを破って口を開いたのはユメル。
「な…何だい、ユメル?」
ロキは彼女の顔を直視する事が出来ず、正面を向いたまま返事を返した。
ユメルは俯いて頬を薄紅色に染める。
「あの…ロキはこんな私のために自分の家まで失ってしまって…でもあんなに楽しく過ごせたのは初めてです。本当にありがとうございました」
「そうか…なら良かった」
ユメルはオレ達の暮らしに満足していた…ロキはそれだけで嬉しかった。

「それで…その…私は……」
彼女は更に下を向き、頬の紅色を一層強くする。
(? 何であんなに赤くなってるんだろ…)

「え…と…ロキの事が…その……好き……になってしまって…」
(オレの事が好き……ってええええ!?)
ロキは頭に血が上ってくるのを感じた。多分顔もかなり真っ赤になっているだろう。
何せこんな風に告白されるのは初めてだったし、ロキもユメルの事を「こんな娘と親密になれたらいいな」と気に掛けていたからだ。
それがまさか向こうから気持ちを打ち明けてくるなんてーー

不意に吹き抜けた一陣の風が二匹の周りに花びらを舞い上げる。
「オレも…その…ユメルの事が好きだ…」

「ふわぁ…」
大きな欠伸をして目覚めたのはロキ。体を起こして伸びをするが…
「ん、ここは…」
ロキの目に入ったのは見た事もない色彩豊かな花、花、花。
彼は一面に広がる花畑の中に佇んでいた。辺りは見渡す限り暖かい陽に照らされた美しい花で埋め尽くされ、今までに無い爽やかな風が彼の体を撫でていく。
そして彼のすぐ隣にいたのはーー

「ユ、ユメル!?」
ロキの右隣に座り込んで髪を弄んでいたのは雌のキルリア…ユメルがそこにいた。
彼女はロキに気付くと髪から手を離してロキの方を向く。
彼女のエメラルド色の髪には黄色いタンポポの髪止めが付けられていた。
「あ、ロキ……」
気のせいか? いや、気のせいではない。今日のユメルはいつもより一段と可憐に見えた。
「隣…座る?」
ユメルは微笑んで自分の左側に手をかざす。
ロキは少し戸惑いつつも彼女のすぐ左に腰を降ろした。

そこから沈黙の空気ーー
ユメルが隣にいるせいか、ロキの心臓は自然と高鳴っていく。
彼女を前にして何を話せばいいのか分からない。
気恥ずかしさに心臓が飛び上がりそうだったが、ロキは緊張に震える手で彼女の両手を握って自分の想いを口にした。
「ロキ…嬉しい…」
「うわぁ!?」
突然ユメルは身を乗り出してロキに抱きついてきた。その勢いで彼は仰向けに押し倒されてしまう。

折り重なって花畑に倒れ込む二匹。ロキの目の前にはユメルの白い顔があった。
互いに体が密着していて彼女の温もり、鼓動、息遣いが直に伝わってくる。
ロキの緊張は頂点に達していた。

「ロキ…」
「ユメル…」

二匹は目を閉じてお互いの顔をゆっくりと近付けていく。
これでユメルと結ばれるのかーー


〈ロキ……助けて!〉
突如頭の中に響いた彼女の声。周囲の景色が渦巻き、ロキの意識が引き戻されていく。
そして彼は現実世界に戻り、目を覚ました。
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act31 再来

そうだ、此処はアメンティ山の洞穴の中…あれは夢かーー
ロキは跳ね起きるとすぐさま辺りを見回す。
すぐ隣ではルシオがいびきをかいて寝ていたが、ユメルの姿が見当たらない。

「また会ったね、アース族のロキ」
彼の背後から少々ナルシスト気味でトーンの高い、聞き覚えのある声が。
「ッ! テメェは…」
洞穴の奥にいたのはユンゲラー達を従えた二十歳前後のエーフィ、カシェルだった。
配下のユンゲラーの一匹が猿轡をされてロープで体を縛られたユメルをしっかりと抱えている。
とするとさっきの声は恐らく助けを求める彼女のテレパシーだろう。
「全く懲りない奴らだな。またオレに倒されたいのか?」
「…お前達は先に行け」
カシェルはロキの言葉を無視してユンゲラー達を洞穴の奥に行くよう指示する。
「はぁ? そっちは行き止まりだーー」 ガコンーー

先頭のユンゲラーが洞穴の行き止まり部分の岩壁に念力を送ると壁が扉のように開き、別の場所へ続くと思われる通路の入り口が現れた。
「な…と、扉だとぉ!?」
壁が開くなりユンゲラー達は扉に駆け込んでいく。
ユメルを抱えていたユンゲラーも扉を抜けて姿を消した。
「ちょ…おい、待てっ!」
ロキはユンゲラーを追って扉に向かって走り出すも、彼の行く手を不敵な笑みを浮かべたカシェルが遮る。
「そこをどけ…カシェル」
「ふっ、僕が足止めをしよう…」
再び向かい合って対立する二匹。やはり簡単には通してくれないか。
カシェルは前髪を掻き上げると額の紅玉を輝かせ、ロキを睨み付ける。
直後、紫色の鈍い光がロキを包み込んで彼の体は宙に浮かび上がった。
「ぐ…“サイコキネシス”か……」
宙で必死に抵抗を試みるも、手足が押さえつけられたかのように全く動かない。どうやら全身が拘束されてしまったようだ。
「くくく…はーっはっはっは! これで君は終わりだ!」
カシェルはそのままロキの体を硬い岩壁に叩き付けようとする。がーー

「終わるのはテメェの方だ!」
「なっ……ぐあぁ…!」
突如カシェルの背後からロキが現れ、彼の横顔に鋼と化した自らの尻尾を叩き込む。
死角から“アイアンテール”を喰らったカシェルはその勢いで洞穴奥の扉の前まで吹き飛ばされた。
“サイコキネシス”で拘束されていたロキの姿は徐々に薄くなって消える。
「お前が捕まえてたのはオレの“影分身”だ。そんな事も気付かないのか?」
「く…やはり今の僕では敵わないか…一旦退く……」
カシェルは起き上がると逃げるように洞穴奥の入り口へ入っていく。
直後に岩の扉が音を立てて閉じ、扉は周囲の岩壁と同化してしまった。
「おい…待て、カシェル!」
ロキは岩壁に駆け寄って扉のあった部分を押したり引いたり叩いたりしてみたが、扉はびくともしない。
やはり先程のユンゲラーのように念力を使わないと扉は開かないようだ。
しかし何とかして力ずくでも扉を開けなければユメルの身が危うい。
「…ならばアレを使うしかないかーー」
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act32 追跡

ロキは急いで自分の鞄を開けてごそごそと中を探り、木の実とリンゴに紛れて一つだけあった赤くて小さい種のようなものを取り出す。
彼はそれを躊躇う事なく口に放り込んで一思いに噛み砕き、飲み込んだ。
ロキが口にしたもの……これは“猛撃の種”と呼ばれるもので、食べた者の攻撃力を最大まで高める効果がある。
これはアース族の集落で採れたものだがこれもオボン同様砂漠の乾燥した気候ではとても育ちにくく、集落ではオボン以上に貴重なアイテムとされている。
それ故ロキはこれを口にするのは初めてだった。

口の中に広がる飾り気のない淡泊な味に一瞬不安を感じたが、効果はすぐに現れた。
「凄ぇ…力が漲ってくる……これなら…!」
ロキは沸き上がる力を後脚に集め、岩壁に“二度蹴り”を決める。
「ハアッ!」
高めに振り上げた右脚の初撃で眼前の岩壁は今にも崩壊しそうな状態まで大きく凹む。
「ラストォ!!」
回し蹴りの要領で続けざまに放った左脚の二撃目で岩を奥に吹き飛ばし、扉を完全に崩し去る。
直後に上昇していたロキの力が段々と抜け、遂には通常時同様に戻った。
「ふぅ、こいつの効果は一瞬か…まぁ、結果オーライだ。早くヴァン族を追いかけよう」
そうして岩壁に立て掛けてあった鉄剣とランプを詰め込んだ鞄を背負い、扉をくぐろうとする。
「兄貴~…何の音でやんすか?」
彼のすぐ後ろではルシオが眠い目を擦っていた。恐らく先程の壁が崩れる音で目を覚ましたのだろう。
「おっと、危うくルシオを置いてく所だった…」

ロキはルシオにこれまでの経緯を説明し、ヴァン族を追わなければならない事を伝える。
「それにしても何でこんな隠し通路が…」
「寝込みを襲うなんてひどい奴らでやんす! 兄貴、急いで姉貴を助け出すでやんすよ!」
「扉を開けるのに手間取ったからな…急ぐぞ!」
二匹は目の前の細くて暗い上り坂の直線通路に駆け込み、洞穴を後にする。
「はぁ…随分長い通路でやんすね…」
扉を抜けて数分は経っただろうか、二匹は同じ通路をひたすら走り続けている。
と、彼らの前方10m程に複数のポケモンの影が見えてきた。あのシルエットはカシェル達に間違いない。
「! 見えてきたぞ、ルシオ」
「ようやく追いついたでやんす~…」
追っ手に気づいたカシェル達は立ち止まって赤い目をロキ達に向ける。
「ほう…ヴァン族にしか開けられないあの扉をこじ開けてくるとはね…」
「さあ…カシェル、今度こそ大人しくユメルを返しーー

ロキがそう言い掛けた瞬間、丁度二匹のいる場所の地面が突如として崩れ落ちた。

 ってうおおああぁぁ~……」
「ぎにゃ~でやんす~……」
突然の出来事に二匹は為す術もなく落下し、地底の闇に誘われて消えた。
カシェルはその様子を見て二匹を侮蔑するように高笑いする。
「はははは! 詰めが甘いなロキ! 最後はやはり我らの勝利で終わるのだ!」
「カシェル様、早くガノッサ様の元へ!」
ユンゲラーに急かされたカシェルは地面に空いた大穴に一瞥をくれると前髪を掻き上げ、ユンゲラー達と共に早足で通路を進んでいった。
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感想など何かありましたらどうぞ。
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