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Elopements act23~26 の変更点


&color(red){この小説には、暴行、流血などの表現が含まれています。 閲覧の際にはご注意下さるようお願いいたします。};
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act23 放浪

数時間後……此処は何処かも分からぬ砂漠のど真ん中。
周りを見ても目に入るものは地平の果てまで続く砂ばかり。
普段は生物がいるような環境ではないこの場所を三匹のポケモンが歩いていた。

「暑い…」
地を歩く三匹の足取りは重い。砂漠の暑さに体力を奪われ、滴る汗が体毛を湿らす。
「これだけ歩いても何も無いでやんすか…せめて岩場とかがあればいいでやんすが…」
ロキの鞄一杯に入っていた木の実は殆ど食べ尽くしてしまった。このままでは明日には食料が底をついてしまう。

「残りの木の実も少なーーーッ!」
その時、ロキは周囲からただならぬ気配を感じ、腰の剣を抜いた。
「止まれ、ルシオ」
「兄貴、どうしたでやんすか?」
「いつの間にか大勢のポケモンに囲まれてる。恐らく野盗だろうな…」
「二人共、来ます!」
ロキが剣を構え、ユメルがそう叫んだ直後、周囲の砂中から数十匹のサボネアが飛び出してきた。
砂埃を上げるそれらは三匹を囲うように迫ってくる。
三匹は既に野盗に包囲されていた。逃げ場は無い。
ロキは飛びかかってきた最初の一匹を斬り捨てると野生のサボネア達を睨み付ける。

「皆、行くぞ!」
一斉に攻撃を開始したサボネア達にロキ達も必死に立ち向かう。
ロキは剣で、ユメルは念力で、ルシオは頭突きなどの打撃攻撃でサボネアに抵抗する。
奮戦する彼らは着実にサボネアの数を減らしてはいたが、襲い来る野盗は一向に減る気配が無い。
それに攻撃にまとまった統一性がある。どこかにサボネア達を指揮しているノクタスがいるに違いない。
ボスさえ倒せば野盗は烏合の衆。だが…敵の数が多すぎる。視界の殆どがサボネアに埋め尽くされてボスの姿を確認出来ないこの状態では三匹が力尽きるのも時間の問題だ。

突然五匹程のサボネアがロキに向かって腕を向け、“ミサイル針”を飛ばしてきた。
ロキはその幾つかを剣で弾き返すが、弾きそびれた一本の針がユメルの脇腹に当たり、彼女はその場に倒れ込む。
「ユメル、大丈夫か!」
「はい…何とか……」
念力が止まった隙に彼女に飛びかかってきたサボネア数匹を一薙ぎに斬り倒すと、ロキは彼女の前に立ち塞がる。
「数が多いな…だが何とかしないと……」
しかし無情にも三匹を取り囲むサボネア達が両腕を構え、こちらに狙いを定めた。
「! ロキ……」
「おいおい、マジかよ…」
幾ら戦闘に手慣れたロキとはいえ、数十匹のサボネアが放つ“ミサイル針”を弾き返すのは不可能に近い。
ユメルが倒れ、ルシオは疲労困憊したこの状況で唯一ロキだけが戦闘体勢を保っている。
その三匹を囲んで一斉に攻撃しようとする野盗達。絶体絶命とはまさにこの事を指すのだろう。

「これまでか……」
ロキは死を覚悟した瞬間、何処からともなく吹いてきた一陣の突風がサボネア達を吹き飛ばした。
砂に落ちるサボネアの体には鋭利な刃物で切られたかのような傷がある。
普通ならばサボネアを吹き飛ばす程の強風はこの砂漠では吹かないし、ポケモンを傷つける風なんて聞いたことがない。
「これは…技でやんすか?」
サボネア達は構えていた腕を下ろし、上空に現れた影を見上げる。

ロキの目に映ったものーーそれは肩から鞄をさげた雌のピジョットであった。

「メ、メルティーナさん!?」
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act24 再会

「誰かと思えばロキじゃない! 久し振りね~!」
このピジョット…メルティーナはアース族集落の展望台に住むポケモンで、過去に身寄りのない二匹の親代わりになって世話をしてくれたことがあった。
彼女は四年程前から単身の世界旅行に旅立っていたのだが、こうして今此処にいるということは旅を終えて家路に就く所なのだろう。
「メルさんお久し振りでやんす!」
「ルシオも大きくなったみたいね。でも二人はどうしてこんな砂漠の真ん中にいるの?」

不意に背後から空中のメルティーナに向けてサボネア達が“ミサイル針”を放つが、彼女の振り返り様の“風起こし”に易々と跳ね返されてしまう。
「でも今はそれどころじゃないわね……皆まとめて片付けてあげる!」
彼女は大きく羽ばたいてサボネア達に向かって突風を繰り出す。
幾度と放たれたその風は殆どのサボネア達を吹き飛ばしてロキ達三匹の包囲を解く。
弱点を突かれて仲間の大半を失った野盗達は彼女を恐れ、火の粉を散らすように逃げていった。

「逃げた…か」
辺りからサボネア達の姿が消え、胸を撫で下ろすロキ。
握っていた鉄剣を腰の鞘に収めるとすぐさまユメルを介抱する。
「これだけ痛めつければしばらく野盗達は再起不能ね…」
メルティーナは折り重なったサボネア達に紛れて倒れていた頭領らしきノクタスを見て呟く。
ユメルの傷は浅く、メルさんから貰ったオレンの実一個で簡単に治療する事が出来た。

「それで、あなた達は何故こんな砂漠の真ん中を放浪しているの?」
ユメルの傷も塞がって少し落ち着いてきた頃、砂に降りて座り込んだメルティーナが口を開く。

「…実はオレ達ーー」

ロキとルシオは何故放浪の身になったのか、その経緯をメルティーナに説明した。
昨夜柵の内側に倒れていた彼女を助け出して自らの部屋にかくまったこと、それを狙うヴァン族が集落に攻め入ってアース族が数匹命を落としたこと、ユメルの存在が受け入れられず集落を追い出されたことを洗い浚い彼女に伝えた。
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act25 希望

「ーーーそう、そんな事が…」
話を聞き終えた彼女の表情は暗い。
「…でも少なくとも私はロキ達の味方だよ。共に暮らすのに種族なんてのは関係ない。大切なのは種族の壁を乗り越えられる強い心を持つ事だよ」
「メルさんはオイラ達の事を分かってくれるでやんすね?」
メルティーナはロキ達の考えを理解してくれた…ルシオは目を輝かせて彼女の片翼を両手で握りしめた。
彼女も大きく頷いて話し続ける。

「うん。私も世界中を巡ってあらゆるタイプのポケモンが手を取り合って共存して生きていた光景を沢山見てきたの。彼らは皆、目が生き生きとしていたわ。それを見て思ったの。私達も過去の風習なんか捨てて種族を越えた共存の道を選ぶべきだってね」
外の世界のポケモン達はお互いに協力しあって生きている……ロキはその世界が羨ましく思えた。
この砂漠では種族間の共存はおろか、他種族を滅ぼさんとする独裁民族まで現れる始末。
こんな状況で「共存しろ」と言っても無理な話だろう。
でも…もし砂漠のポケモン達が一つの場所で共に助け合って暮らしていたとすれば、今よりもっと充実したよりよい暮らしになっていたかもしれない。

「共存…か。確かにこのままだと砂漠のポケモン全員がヴァン族に滅ぼされてしまうかもしれないな…」
更には“強大な力”の復活を企て、その力で砂漠を統一せんとするヴァン族。
その過程で砂漠のポケモン達が皆殺しにあうのは目に見えている。
「確かにメルさんの言う通りでやんす。なんとかしてヴァン族を止めないと砂漠はいずれヴァン族のものにされてしまうでやんす…」
ヴァン族を止める…しかし奴らはアース族の大人を倒す程に強い。前髪の長いカシェルとかいうナルシスト野郎は何とか追い返せたから良かったものの、ヴァン族は奴だけではない。他にも戦闘能力を持ったポケモンが大勢いる筈だ。
「ヴァン族を止めるっていってもな…今のオレらじゃ戦力不足だ。三匹で正面からぶつかっても返り討ちにあうのがオチだろう」
「はぁ…どうすればいいでやんすかね……」
このまま黙って砂漠が統一されるのを見過ごす訳にはいかないが、たった三匹では戦力不足なのも事実。
二匹は大きくため息をついてうつむく。

「あの…この砂漠にある全ての種族を一つにまとめて皆でヴァン族に立ち向かう…というのはどうでしょうか……」
おもむろに立ち上がってそう言うのはユメルであった。
「砂漠の種族を一つに………それだ!」
彼女の言葉を聞いたロキは勢いよく立ち上がる。
「そうだ、ユメルの言う通りだ。砂漠のポケモンが力を合わせればヴァン族を打ち破れるかも…」
団結。この砂漠の十種程の種族が一つになれば確かにヴァン族に立ち向かうのも容易い。
「それに事が上手く運べばみんな一緒に暮らせるかもでやんす!」
「そうだな。砂漠の未来のためにもオレ達は手を取り合わなくちゃならない。メルさんの話を聞いてオレも考えが変わった。オレは…これから他種族の集落を巡って皆を説得しようと思う」
そうだ。この際オレが砂漠を巡って共存するよう皆を説き伏せればいいんだ。
時間はかかるかもしれない。でもヴァン族の野望を阻止するためにはやり遂げなければならない。
現実から逃げていては何も変わりはしない。オレが砂漠を変える事が出来ればーーー
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act26 目標

「例え何年掛かろうともオレはいつか砂漠を一つにして皆が共存出来る理想郷を作りたい…」
そう言い終えるロキの目は光を宿したかのように輝いていた。
打倒ヴァン族、そして理想郷ーーこの目標はロキ達三匹を大きく動かす事になる。

「それでこそロキよ。例え不可能に近い事も成し遂げようとするその性格は昔と変わらないわね…」
ロキの抱く強い志の前にメルティーナは彼に対する畏敬の念さえ覚え、それと同時に二匹が心身共に成長した事にも感動していた。
「ロキ…ルシオ…本当に成長したね……うん。二匹じゃ無理なら私から直接エイル族長の方に掛け合ってみる。ロキは大望を抱けり…ってね。それに族長は私のような大人の意見を少しは聞き入れてくれるかもしれないじゃない♪」
そうしてメルティーナはウィンクをしてみせた。
確かに彼女のような成人した大人の意見…ましてや集落の情報屋のメルティーナからならエイル族長も耳を傾けてくれるかもしれない。
この時、ロキにとって唯一の理解者の彼女が希望の光に見えた。
「メルさんなら安心でやんす。オイラ達の考えもきっと受け入れてくれるでやんすよ」
「…確かにオレ達はまだ子供だ。集落はメルさんに任せてオレ達は他種族の集落を巡ろう。ヴァン族に立ち向かう力を蓄えなきゃな…」
「なら決定ね。それじゃあ私はすぐにでも集落にーーあ、そうそう。あなた達にこれをあげるわ。私からの餞別よ」
彼女がバッグから取り出したものはリンゴ六個だった。
ロキはお礼を言ってそれを受け取ると背中の鞄にしまう。
「ここから一番近い位置にある集落はアメンティ山のドヴェルグ族ね。東…つまり向こうを向いて歩いていけばいいわ」
メルティーナは片翼を広げて東の方角を指す。
ドヴェルグ族とはアメンティ山の中腹に住処を構えている地面・岩タイプの種族である。
「さて、私はエイル族長に真意を問いただすためにすぐに集落へ向かうわ。あなた達も気を付けてね!」
「メルさんありがとうでやんす。オイラ達も頑張るでやんす!」
彼女は立ち上がって三匹に別れを告げると両翼を大きく広げて羽ばたき、アース族集落を目指して飛び去っていった。
彼女の姿が見えなくなるまで三匹はそれを見送る。

「さて、これから大冒険の始まりだな…」
「兄貴と一緒なら怖いものなしでやんす!」
「きっと砂漠が一つになる日もそう遠くない筈です…!」

三匹は新たな決意を胸に秘め、再び砂漠を歩み始めた。
その目標は遙か彼方。だがこの三匹ならいつかはその夢もきっと叶えられる……そんな気がした。
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