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Elopements act18~22 の変更点


&color(red){この小説には、暴行、流血などの表現が含まれています。 閲覧の際にはご注意下さるようお願いいたします。};
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act18 刺客

その頃、アース族集落の広間ではーーー

「探せ! 此処に奴がいるかもしれん!」
広間の中央で長めの前髪を掻き上げているのは血塗られたような鮮赤色の瞳のエーフィ、カシェルだった。
彼の命令で同じく赤い目をした配下のユンゲラー達がそこから散るように別々の通路へと入っていく。

広間には既に戦闘馴れしたアース族の大人達と逃げ遅れた子供が数匹、それぞれ倒れていた。恐らくカシェル達の手にかけられたのだろう。
すると一匹のユンゲラーがハピナスを連れて広間に戻ってきた。ハピナスはカシェルの前に押し出されて地面に倒れ込む。
「エスパータイプのポケモン…やはりヴァン族でしたか……」
「これはこれはアース族長のエイル殿。貴女に一つ聞きたいことがあるのだが…」
族長のエイルにカシェルは少々皮肉を込めた態度で接する。
「そんな事の為に私達を傷つけるというのですか!」
エイルは立ち上がって“気合いパンチ”をカシェルに放とうとするも、彼の“サイコキネシス”に体の動きを封じられてしまう。
「くっ……」
「……正直に答えて貰おう。此処にユメルという名のキルリアが来なかったか?」

キルリア? そもそも此処はノーマルタイプの集落。エスパータイプのポケモンがいる筈が無い。それにキルリアが集落に来たという報告も耳にしていない。

「…知りません。キルリアは見てはいませんし、そんな報告も入ってません」
「本当か? まさか誰かがかくまっているのではないだろうな…」
険悪な様子のカシェルはエイルから目を逸らさず数歩、詰め寄る。
「本当に知りません! ユメルという名のポケモン自体聞いた事がありません!」

この顔、声、脈拍…偽りを述べているようでは無いみたいだなーーー
「ふん…まぁ、何れにせよそのうち分かる事だ……」

その瞬間、広間に現れる土色の疾風。
「おい、これは一体どうなって………なっ!?」
彼の目に映ったものは息絶えた大人達、地に伏す族長、そしてそれを見下す赤い瞳のエーフィーーー

「何だ…これは……」
広間は今までにない位に荒れ果て、日々戦いの腕を共に競い合った大人達は皆倒れ、子供達まで傷つけられている。
今まで見たことの無い悲惨な状況に愕然とし、我が目を疑うロキ。

「ほう…まだ戦える者がいたか…」
「お前がこんな事を……!」
ロキは全身の体毛をザワザワと逆立て、憤怒の眼差しでエーフィを睨む。
「そうだ。我々ヴァン族の世界征服という野望を成し遂げる為に先ずは砂漠の異種族に消えてもらう必要がある」
再び前髪を掻き上げてロキを見つめるカシェル。ロキは既に戦闘体制に入っていた。
「許せない……そんな事で他人の命を奪っていいとでも思ってるのか!」

向かい合い、カシェルも額の紅玉を鈍く光らせる。
二匹の間に緊迫した空気が張り詰める。
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act19 対峙

しかしその空気は突然の叫び声に破られた。
「ユメルの姉貴を離すでやんす!」
「……ルシオか?」
その声はロキの部屋に続く通路からであった。
直後、そこから姿を現したのはユンゲラー達と捕らえられたユメル、そしてユメルを掴んでいるユンゲラーの足に噛みつくルシオ。
ユメルは縄で手足の動きを拘束され、口には猿轡がされていた。
彼女はロキを見つけると体を捩らせ、目で助けを訴える。
〈ロキ…助けて……〉
「くっ、ユメル!」
探し求めていた標的を目にしたカシェルは思わず口元を綻ばせる。
「やはり此処にいたか……こいつさえいればこの集落にもう用は無い。帰るぞ」
「はっ、カシェル様。こいつ…離れろ!」
ユンゲラーが足を振り上げると噛みついていたルシオが離れ、宙を舞う。
そのまま彼は地面に落ちて転がり、ロキの前足に当たって止まる。
間近で見て気付いたが、彼の全身の体毛は念力のダメージの影響で異様なまでに逆立っていた。
普通の念力程度の威力ならば体毛が逆立つことはまず有り得ない。だとすれば彼はユンゲラーの強い念力を何度も受けた事になる。
「兄貴…オイラじゃ姉貴を守りきれなかったでやんす……」
「ルシオ、よく頑張ったな……後はオレに任せろ…」
息も絶え絶えなルシオの頭を一撫でするとロキは静かな怒りをその身に携え、今まさに広間を出ようとしていたヴァン族達を呼び止めた。
「おい、そこのエーフィ! 今すぐそこのキルリアを返して貰おうか!」
「ふっ、こいつは災厄の導き手。そう易々と返す訳にはいかーーー」

カシェルが振り返りかけたその時、ロキの姿が消え、少し遅れてユンゲラーの腕の中にいたユメルも瞬時にして姿を消す。
その際、一瞬ではあったがカシェルは体毛が僅かに風に靡くのを感じ取った。
「!? カ…カシェル様! キルリアが…」
「な……」
カシェルは慌てて周囲を見渡し、少し離れた場所にユメルを横向きに抱き抱えていた彼の姿を見つける。
ロキはすぐさま猿轡とロープを解き、彼女を助け出した。
「ユメル、大丈夫か…?」
「あ、ありがとう…」

「“高速移動”を織り交ぜた“電光石火”か……速い…!」
ユメルを掴んでいた筈のユンゲラーは一瞬の出来事に目を見張っていた。
「小僧、少しはやるようだな。さあ、そのキルリアを大人しくこちらに渡して貰おう。さもなくば痛い目を見る事になるが……」
カシェルの問いに答えるようにロキはユメルを数メートル後ろに避難させると彼女の前に立ち塞がり、再度身構える。

「NOだ、と言ったら?」
「ふ…融通の利かない奴だ………やれ」
カシェルがロキに向かって右腕を上げるとユンゲラー達が両腕を前に突き出して一斉に“サイケ光線”を放つ。
それらはロキのいる場所の地面に当たり、派手な地響きと土煙を上げた。
「兄貴ぃーー!!」
ルシオとユメルは絶望の表情で立ち上る土煙の中心を見つめていた。
あれだけの攻撃を受けて生きていられるポケモンがいる筈はない。
「ふふふふ……あーっはっはっは! 口ほどにも無い貧弱なイーブイだ! この程度の力で我らの邪魔立てをするなどとはよく言ったものだ!」
カシェルはロキのあまりの弱さに高笑いすると土煙の反対側のユメルを捕らえるようユンゲラーに命令を下す。
その時ーーー

「……弱いのはどっちだ?」
土煙の方向から聞こえた声……彼らの耳に入ったものは紛れもない、倒した筈のロキの声だった。
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act20 実力

「まさか…あれを受けて生きているだと?」
カシェルは自分の耳を疑った。だが先程の声は間違いなくあのイーブイのものだ。
僕は辺りを見渡してイーブイの姿を探す。
奴はーーーいた。土煙の上だ。
恐らく“サイケ光線”をギリギリでジャンプして避けたのだろう。
「上か……!」
僕はとっさに“サイコキネシス”で空中のイーブイを攻撃しようとしたが、奴はそれよりも早く手から無数の目映い光線のようなものを放つ。
空を裂く光の矢にも似たそれは全てユンゲラー達に命中し、皆が倒れた。
ユンゲラーの体に刺さっていたのは黄金色に輝く星。それも全て急所を的確に射抜いている。
「な……イーブイが“スピードスター”を扱うだと?」
「戦いの最中によそ見なんかしてていいのか?」

僕が気付いた時、既に空中に奴の姿は無かった。
それにこの声は僕の後方、それも近距離から。
僕が目を離した一瞬の隙に奴は背後に回り込んだというのか?

「……ッ!」
直後、奴の足払いに四肢が掬われて僕は無様な格好で仰向けに倒れ込む。
そこに奴は鞘から抜いた長剣を僕の喉元にめがけて突き立ててきた。

ガッーーー


「雑魚ばっか…弱いのはお前らの方だったな」

奴の剣は僕の首のすぐ横に突き立てられていた。僕は怪我一つ負っていない。

奴は……強い。
無駄なく素早い動きと熟練した剣技、本来なら覚えない筈の技の使用、そして多人数を相手にしても臆することのない勇気と度胸。
剣を突き立てる時に見せた奴の殺気を帯びた鋭い眼光に威圧され、僕は一瞬だが死を覚悟した。
このイーブイは先程倒した大人のアース族とかけ離れた圧倒的戦闘能力を有している。
今の僕では奴には絶対に勝てない。ここは大人しく逃げた方が賢明といえよう。

「負けたよ……イーブイ、お前の名は?」
「……ロキ、だ」
「僕はカシェル。覚えておこう…君の名を」
ロキ…か。僕はいつか強くなってこいつを倒してみせる。そう心の中で呟くと僕は立ち上がって前髪を掻き上げ、“サイコキネシス”で気絶しているユンゲラー達を浮上させてロキに背を向ける。
「今は退く。だが災厄の導き手…そのキルリアはいずれ取り戻してみせる…」
そう捨て台詞を残すとカシェル達ヴァン族はアース族集落から引き上げていった。

彼らの姿が見えなくなるとロキは戦闘体勢を解く。
「あいつら口ほどにも無かったな…」
彼は何か物足りなそうな顔をして地面に突き立てた剣を引き抜き、鞘に収める。
「やったでやんす兄貴!」
「ロキ…ありがとう…」
そんな彼のもとに駆け寄るルシオとユメル。彼女の笑顔に自然と心が緩む。
「あ、相手が弱かっただけだ…うん」
顔を少し赤くして照れ笑いをするロキ。どうもユメルの笑顔には弱いな…
ロキが一人でヴァン族の刺客を撃退し集落を守り抜いた事にこの上ない喜びを噛みしめていた。
共に喜びあう三匹。これで一件落着かと思われたが…


「ロキ、これは一体どういう事ですか?」
三匹の背後から放たれた厳格さのある聞き慣れた声。
ロキはハッとして振り返るとそこには族長のハピナス…エイルの姿があった。
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act21 壁

「族長…」
「私はキルリアが此処にいるという話は聞いていませんが…詳しく説明して貰えますか?」
威厳のある彼女の突き刺さるような視線が二匹を射抜く。
「か、彼女は昨日の夜に柵の中で倒れていたのをオレが助けたんです。真夜中に族長の部屋を訪れる訳にもいかなかったので報告は後回しし、近いうちにするつもりでした」
いつになく刺々しい表情の族長に怯みつつも、ロキは震える声で言葉を紡ぎ出す。
「すぐに報告しなかったのは謝ります。でもどうかユメルが此処に住む事を許してあげて下さい!」
「オイラからもお願いするでやんす!」
ロキはエイルの前に行き必死に頭を下げる。ルシオもそれに続いた。
「なりません。そのキルリアのせいでこの有り様…それにヴァン族が再び攻め入ってくればアース族は次こそ確実に滅ぶでしょう。それに此処はノーマルタイプの集落。あなたは砂漠の風習をお忘れですか?」
砂漠の風習……タイプごとに集落を作らせて隔離する事により、異種間の争いを避けるというものだ。
古の時代より受け継がれてきたこの風習は砂漠に住む者なら誰だって知っている筈。
「忘れた訳じゃありません。でも目の前で助けを求めるそんな彼女を見捨てる程オレも愚かじゃない。族長はそんな下らない風習や掟に縛られたたまま危険に晒されている彼女の命を見過ごすというんですか!?」
ロキは次第に顔が熱くなっていくのを感じた。しかしエイルの態度は依然として変わらない。
「勿論です。さあロキ、彼女を砂漠へと帰してきなさい」
エイルは冷淡にそう言い放つと集落出口を指さす。
さすが一族を束ねるだけあって族長の判断は迅速で的確だ。常に一歩先を見据えたこの指揮判断力のお陰でアース族は砂漠でも生き残れているのだ。
恐らく彼女はユメル一人の命よりも集落に住む民全ての命を優先したのだろう。ユメルをかくまえばヴァン族に襲撃され、此処の民が命を落とすという事はオレだって危惧している。
しかし今回ばかりは族長の意見に納得がいかない。ならば例え一人になろうとユメルを守り続けていくしかない。

「族長…見損ないました…何と言われようとオレは反対です…」
「…仕方ありませんね。バルドル、この三匹を連れて行きなさい」
その時、不意に三匹の体が宙に浮かび上がる。カビゴンのバルドルが背後から三匹を持ち上げたのだ。
「あなた達には今日一日柵の外で頭を冷やして貰いましょう。明日の朝になってそのキルリアと別れていればあなた達は集落に戻れます。しかし別れずにまだ共にいるようであればそのまま集落追放とします」
「な…追放だと?」
ユメルを手放さなければ追放…その言葉はロキの心に深く突き刺さり、ただ愕然とした。

「兄貴、追放ってどういう意味でやんすか?」
「集落を追い出されるって事だ…」
「それってかなりヤバいでやんす! どういう事でやんすか?」
ルシオは今自分が置かれている状況を察し、慌ててバルドルの腕から抜け出そうとするが、さすが集落の力仕事を担うポケモン。その腕の力は思いのほか強く、動くことすらままならない。

「んじゃぁ、さっさと行くぞぉ~!」
バルドルは振り返ると出口の洞穴に向かって歩き始めた。

彼らが広間から姿を消すとエイルは悲しげにうつむいて呟く。
「ロキ、ルシオ…ごめんなさい…アース族が生き残るためにもこうするしかないのです…」
彼女の頬を一筋の雫が伝う。
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act22 始まり

現在午後二時半過ぎ。砂漠は相変わらず35℃以上の熱波が続く。
外に出たバルドルは柵の前に着くと扉を開けて三匹を外に放り出す。
「うぉあ!」「きゃっ!」「ぎにゃっ!」
ロキとユメルは砂の上に倒れ込む。ルシオは勢い余って顔が砂に埋まり、逆立ちの体勢になる。

「外で頭を冷やすだよぉ~」
そう言ってバルドルは扉に鍵を掛けると洞穴に向かってのしのしと歩き始める。
「おい、オレは間違った事は言ってない!」
ロキはすぐさま立ち上がると扉の木の格子を掴んでバルドルを呼ぶが、彼はそれを無視して洞穴の中へと姿を消す。

「おい…おいっ! 人の話を聞ーーー畜生っ!」
そのまま両手の拳で扉を強く叩くと扉に寄りかかるようにその場に崩れ落ち、座り込む。
「風習がなんだ……種族がなんだ……最初から種族の壁なんて作らず皆が共に暮らしていればこんな事にはならなかったのに……」
悲しみに暮れる彼の目からは涙がこぼれ落ちる。
過去の風習は捨てるべき…ロキのその考えは理解して貰えず、逆に異物扱いされる始末。
何故頑なに拒まれるのか、ロキには全く訳がわからなかった。
「ロキ……」
背後ではユメルが心配そうに彼を見つめていた。

それから少し間を置くとロキは何か思い立ったかのように突然立ち上がって涙を拭う。
振り返る彼の顔からは悲しみが欠片も残さず消えていた。
「…行こう。こんな女の子一人も助けられないような連中からは抜け出して砂漠の外の世界に行ってやる…」
アース族から抜け出す…つまりここ、二匹の生まれ故郷を捨てるということになる。
彼の家も、友達も、仲間も、思い出も全て。
「え…いいの? 此処はロキ達の大切な居場所じゃ……」
「居場所なんかどうだっていい。此処にいたってどうせオレの考えは分かっちゃ貰えないだろう。それにヴァン族から逃げる意味でも丁度いいだろうし、明日になって追放されるのを待つよりは今此処を出ていった方がいい」
「え…でも……」
まだ心残りがありそうなユメル。ロキはそんな彼女の手を取ると目を合わせて話し続ける。
「心配するな。オレはもうこの集落のポケモンじゃない。オレは下らない風習なんかに捕らわれてユメルを見殺しになんて出来ない。ユメルを救うためならオレは全てを捨てる覚悟だ。
だから…ユメル…オレは周りに非難されて例え一人になろうとも、これからずっと君を守っていく……」
ユメルの目を見つめるロキ。彼の瞳には決意の焔が宿っていた。
彼女はロキの真剣な思いを受け止め、ゆっくりと頷く。
「うん、ありがとう…ロキ」

「…じゃ、そろそろ行こうか。いつまでも此処にいたってしょうがない」
彼はユメルの手を離すとルシオの方を向く。
「ほら、ルシオ…行くぞ」
ジタバタしていたルシオの足を片手で掴んで彼の顔を引き抜く。
「ぶはぁっ! 窒息するかと思ったでやんす~」
「お前…何で顔だけが綺麗に砂に埋まるんだか…」
ロキはそのままルシオを前方に放り投げる。彼は見事に砂に着地した。
「で、兄貴…これからどうするでやんすか?」
「ああ、オレは此処を出る。例え一人になってもユメルを守っていくことにした」
「ならオイラも兄貴についていくでやんす! 二人よりも三人の方が姉貴も安心でやんすよ!」
そう言う彼の目はキラキラと輝いていた。
やはり長年共に暮らしていただけあって考える事も一緒か…
「さあ、早く今晩の寝床を探すでやんす!」
一人張り切った様子のルシオは柵を背にして歩き始めた。

「行こう…ユメル」
「ええ、ロキ」
ロキは腕を伸ばして彼女の手を握り、連れていくようにしてルシオの後を追う。

こうしてロキ、ルシオ、ユメルの三匹は種族の檻に閉じこめられることのない、「本当の自由」を求めて集落を後にし、広大な砂漠へと歩き出す。
三匹の間には種族を越えた強い絆が生まれかけていた。
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