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Day of Vengeance-25-『失ったもの』 の変更点


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**Day of Vengeance-25-『失ったもの』 [#d45f615f]
 
 
「は……?」
「え。あ、あの。だから……シェリアです」

 シェリア。目の前のレントラーは確かにそう言った。自己紹介なのは分かる。だが、入ってきていきなり自己紹介をされても訳がわからないし、そもそも、聞いてない。
 多分きっと、その時の俺は白い目で彼女を見ていたかもしれない。

「いやそうじゃなくて、何でいきなり自己紹介してくるんだ」
「い、いけませんか?」
「駄目だとは言ってないって……」

 話しているとどんどんと向こうのペースに持って行かれる。というか話していると、何だか疲れる。
 そんなことなどお構いなしかのように、シェリアは目を二、三度瞬かせると、こちらの方に歩を進めてきた。
 遠巻きに見ると黒い身体に赤と金色の目が相まって雄っぽく見えていたが、近くでみるとところどころに雌っぽさがある。鬣が少し小さく見える。

「まさか海に落ちるなんて思いもしませんでした。助けだしたのはいいのですけれど、心臓が動いてなくて息もしてなくて……」

 そこまで聞いて何となく分かった。とりあえず助けだしたことを誇示したいことが。
 助けるのにどれだけ苦労したとかそういうことを話して、恩着せがましく見返りを求めてくる。多分そういったところだろう。
 しかし、話を聞くと結構危ない状態だったらしい。助けてもらったことに感謝はしてる。ただしそれは恩着せがましくなければの話だが。

「ああ……それは助かった」

 そう適当に返すと、シェリアは笑みを投げかけてくる。その笑みには企みとかそういうものが見えなくて。
 だがそういう仮面を付けるのが得意なのも中に入る。警戒しておいて損はないだろう。

「実はあなたが病院を抜けだしたのを見かけたので、こっそりと後をつけていたんですよ」

 こっそりと? まさか背後に感じた気配っていうのはまさか彼女だったのか。ということは波止場でアセシアと話していたことも、海に落ちるまでの会話全てが聞かれていたということか。そう思うと何だか無性に盗み聞きをされたことに腹がたってくる。しかもそれがああいう話にもなると余計に、だ。

「悪い趣味だな……」
「あ、いえ……盗み聞きするつもりはなかったのですが……すみません」

 そう言ってシェリアは頭を深く下げる。謝るくらいなら最初からやるな。と、言いたくなったところでやめた。
 実際それのおかげで今俺は生きているのだから、俺が言えるところじゃない。だけど、気にするななんて言葉を掛けるつもりも毛頭ない。
 しばらく二人共黙りこんだまま時間が進んでいく。窓から風で落ち葉が部屋に入ってきたところで、シェリアは再び口を開く。

「分かりますよ、何となく。フラれるのって悲しいですもんね」

 ……ちょっとまて。なんでそういう話になる。こいつは話を盗み聞きしていたんじゃないのか?
 だったら失恋とかそう言うのをじゃないのは分かっているはずだとは思うが……まさか遠まきで話自体は聞こえていなかった?

「いや……違うんだが」
「無理しなくてもいいんです。強がらないで下さい」

 面倒だぞ……この手の奴。根本から曲解しちゃって更にそれを元に話を展開させていく。
 いやまあ確かに失恋してその悲しさで海に身投げとかいう展開はよくある話のタネだが。

「何を勘違いしてるのかは知らないが……別に失恋とかそういうことじゃないからな」

 こうきっぱりと言っておかないと話がどうも変な方向に飛躍しそうだった。シェリアはそれを聞いてキョトンとした表情を浮かべると、しばらく固まってから口を開く。

「あはは……ごめんなさい。勘違いしちゃって」
「別にいい」

 さっきからこう話をしていると思うのだが、こいつは本当にお礼とかそういう類を求めて助けたわけではない気がする。
 会話をしていてもそういう話ばかりではないし、何よりも……。天然過ぎて裏がないというかなんというか。
 間違えたことにあたふたとする彼女を見て、さらにその考えは深まるのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――ところどころ地面の舗装が剥がれている城下町と違って、この貴族街はいつも綺麗な舗装路に洒落た街灯が立ち並んでいる。しかし賑やかだった城下町と比べて、ここ貴族街は閑静な状態。見た目は豪華で派手でも、少しだけ物悲しい気がした。今見えるのはたった数匹のポケモンくらいのみ。昔はもっと一杯いた気がするのだけれど、気のせいなのか。

「とうとう……って感じね」

 私はレジスタの貴族街に来ていた。目的は決まってる。あとは心の問題。
 ミシャに攫われたときに見せられた、父からの懺悔の手紙。あれが本当なら、父に今会いたい。会って話がしたい。
 色々と変な集団に狙われたりして、少しだけ遠回りになってしまったけれど、戻ってきたのだからそれでいい。
 ……今更、ルフのことなんて関係はない。
 今はただ、父に会いたい。それしかなかった。たった一人手で育ててきてくれた、唯一の親。血はつながってはいないけれど、確かに優しく面倒を見てくれた私の父。
 それが人が変わったようになったのはなぜなのか。今は元に戻っているのなら、それ一体原因は何なのか……。とにかく、いろいろ聞きたい。

 私は貴族街の道を眺めながらゆっくりと深呼吸をすると、その道の先にある巨大な建物に向かって歩き出した。
 街の中で一番巨大で、なおかつ豪勢で。そして王の住まう場所。そこに私の父はいる。
 私は、踏みしめた一歩から、更に一歩、一歩を踏みしめるようにして向かった。真相を確かめたい。ただそれだけのために。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――朝食が運ばれてきて、シェリアは看護師との約束通り病室を追い出された。
 あの後からほとんど会話は彼女の方からの一方的なものになっていたから丁度良いといえば丁度いいのだが。
 だが、どうも彼女が過ぎ去った途端、空虚な病室になった。白い壁に白い床……ほとんどが白で統一されているからか、更に何もない様を見せつけている。
 唯一色を持つことを許されたはずの朝食は、本当に質素なものだった。まあ入院費すら払っていないのだから当たり前と言えば当たり前かもしれない。治療してもらっているだけありがたいと思っておくしかない。

「……」

 二口くらい食事を口にして、止めた。今は何も食べたくはなかった。原因は何となく分かっていたが、認めたくなかった。
 隣に誰もいない。それだけが、今の自分自身の中で渦巻いていた。
 孤独。その二文字が空虚になった身体の中に突き刺さるような感じがした。苦しいけれど、耐えられる痛み。そう思っていた。
 一度孤独を失えば、再び孤独に戻ったときにそれが苦痛になるとは、思っても見なかったことだった。
 フラットでは日常茶飯事だった程に慣れた孤独も、今となっては苦痛を与えるだけの環境にしかならない。

 これからどうする。
 復讐? 一人で勝てる見込みもないだろう。帰る? だが一体どこに。
 元々フラットという居場所とフィアスを失った時点で、俺には何も残されてなかった。ただ呼吸するだけの肺と、全身に脈を打たせる心臓があるだけ。
 残ってる物なんて何一つない。財産も知恵も力も。そして生きていく術すら知らない。あるのは自尊心(プライド)だけ。
 今まで復讐のためだけに生きてきたってことだ。情けない。

「……何やってんだか」

 自分にそう投げつけるようにつぶやくと、自傷気味に軽く笑ってやった。そうすれば少しは楽になるような気がして。だが何もおこらなかった。
 元々こんな状態を作ったのは俺自身だ。アセシアに嘘をついて、ルイスやミシャたちから自分で離れて。それで孤独に苦しめられて。

 止めよう。考えるだけ意味ないことだ。もう現状は誰にも覆せない。
 朝食をベッドの脇にある小棚に退けると、そのまま横になる。寝ていれば、考えることなんてしなくて済む。
 やがて眼を閉じる前に意識が薄れていく。ああ、やっぱり疲れていただけか。だからあんなどうしようもない事を……。
 そう思いながらも、ゆっくりと意識を手放す。次に見えてくるのは真っ暗になった世界だった。
 
 
 
 
 
 
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