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Day of Vengeance-23-『孤独』 の変更点


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**Day of Vengeance-23-『孤独』 [#da869658]
 
 
 
 足先が土を掠って音を立てる。何度も、何度も。
 歩くたびに出るその乾いた音をただ黙り込んで聞きつつ、俺は歩いていた。
 すぐ後ろにはアセシアがついて来ている。勿論記憶はまだ戻ってない。
 つかず離れずの距離を保ってついてくる彼女もまた黙り込んでいて、ずっと周りの音ばかりが耳に入ってくる。

「…………」

 無言の状態が続くと何だか道のりが遠く感じてくる。
 レジスタからキタム港へ向かう道のりはそこまで長く感じなかったはずだが。

 ふと、後ろから聞こえていた足音が消える。
 不安に駆られて後ろを振り向くと、どうやらその考えは杞憂だったようだ。
 アセシアがまたさらわれたのかと一瞬だけ疑ってしまったが、彼女は背後で立ち止まっているだけ。
 少しだけ俯き気味な顔からは、表情が読み取れない。

「ア……どうした? フィアス」

 やはり本当の事は隠しにくい。今危うく“アセシア”と呼びそうになってしまった。
 俺自身が記憶を取り戻させてしまうところだったかもしれない。気をつけなければ。

「えと……あの、私って記憶を失う前には何処に居たのかなって思って」

 予想もしてなかった言葉に、頭の中が一瞬真っ白になった。
 しかしよくよく考えてみれば、記憶を失った者が過去のことについて聞いてくるのは当たり前だ。
 それを考えもしないでここまで黙り込むだけ何も考えなかったのは失敗だった。

「あ、答えられないなら答えられないで……構いません」

 俺の表情を見て答えにくい質問だと思ったのか、彼女はそう付け足す。
 どうしようか。俺はアセシアの過去なんて知らないし、第一、知るくらいに仲良くなった覚えも無い。
 今の状態で教えられるのは、フィアスの記憶だけ。

「答えられないことも無いが……」

 思わず答えるのを渋る言葉が出てしまう。
 そんなことをしたら余計に気になってしまうのは必然的だというのに。

「些細なことでもいいんです。教えてくれませんか?」

 アセシアは目を少しだけ輝かせて言った。
 記憶を失った者にとって、やっぱり過去のことは是が非でも知りたいことなんだろう。
 だが、ここでフィアスの記憶を教えてしまったら……。
 いや、もうとっくに後戻りすることなんか。

「お前は、ここからずっと北の方にあるフラットっていう村に住んでいたんだ」

 俺が話し始めたのを見て、アセシアは話が長くなると感じたのか腰を下ろして座り込んだ。それに合わせて俺も腰を下ろした。

「俺は、お前の家の養子として引き取られてた。だから一応はフィアスの義兄ってことになるんだが……幼馴染みみたいな感じで接してた」
「要するにあなたと私は親しい間柄なんですね」
「そういうことになる」

 淡々と俺はそう説明した。アセシアは頷きながらそう纏める。
 やはり、記憶を失ってても本人の性格みたいなものは少し出るんだろうか。
 アセシアとは元々レジスタまでの行動だったから、彼女の性格とか、詳しいことは分からないが。
 だが何となく彼女は深く思案するほうだと思うのだ。丁度、今のように。

「私はあなたのことを兄さんとか呼んでたんですか?」
「普通に名前で呼び合ってた。というよりも、兄さんとか言うなって言ったのは俺なんだけどな」

 そう、俺はフィアスの家に養子として入った際、彼女からのぎこちない「お兄さん」の呼び掛けがどうも気になったから、もう名前で呼んでいいって言ったんだっけか。
 そして、それがフィアスと最初に交わした言葉だったりもするんだよな。

「名前……そういえば、あなたの名前聞いてませんでした」

 アセシアが名前という単語でふと思い出したようにそう聞いてくる。
 今更な感じもするが、記憶を無くして混乱している状態でそれを思いつかなかったのだろう。

「ルフだ」
「ルフさんですね。分かりました」

 そう言って、アセシアは微かに笑みを浮かべる。
 やっぱり、似てる。フィアスが見せる笑みと瓜二つ。だが目の前に居るのは確かにアセシアだ。
 フィアスは確かに数年前に俺の目の前で絶命した。そのはず。

「どうかしました……?」
「いや、別に……なんでもない」

 首を傾げる動作も一緒。なんでこうも似てるんだ。アセシアの記憶があるときは、あんなに違ったのに。
 彼女を眺めていると本当にフィアスとして見てしまいそうだった。

 ……そろそろキタム港へ向かう足を再開しよう。
 そう思って彼女から背を向けるように踵を返す。
 
 
 
 
 
 その刹那の出来事だった。
 何処からか飛んできた青い球体にぶつかったと思った途端。目の前には空があった。
 すぐに起き上がると、驚いた表情でアセシアが少し離れた場所でこちらを見ていた。

「だ、大丈夫ですか!」
「ああ。大丈夫だ……」

 体中が痛む。どうやら結構な距離を転がされたようだ。
 だが、技を仕掛けてきた張本人を見つけることは、難い事ではなった。
 ご丁寧に目の前にいるのだ。せせら笑いを浮かべて腰を下ろしているエーフィと、ルカリオが。
 まさかまたアセシアを攫いに来たわけか。

「あーらら。気配にも気づかないで一撃目を早速食らっちゃうなんて拍子抜けしちゃうわ」

 スコルがわざとらしい挑発を仕掛けてくる。だがそれで苛立ちを感じている俺自身も俺自身だが。
 目を細めて、四肢を構えの体勢にする。戦闘体勢に入れば、一応はあの遅い球体の技は見切れる。

「フィアス、下がってろ……」

 アセシアにそう言うと、彼女は心配そうな表情を浮かべながらも頷いて後ろに下がっていく。
 それを確認した後に、俺はスコルを睨みつけた。

「また狙いにきたのか?」

 なるべくアセシアの名前を言わないようにと、遠まわしにそう言った。
 目の前にアルスという宿敵がいる。だからといっても後ろにはアセシアがいる。
 何故か今は復讐よりもアセシアを守ることが優先なことのように感じていた。
 ……と、考え込むのはここまでだ。次いつ攻撃が飛んでくるのか分からないのに、いつまでもぐだぐだと考えている余裕なんて無い。
 スコルは俺の言葉の意味が一瞬分からなかったのか、首を少しだけ傾げる。
 やがて意味が通じたのか、奴は笑いながら言った。

「もうその子は目当てじゃないからね~。あなたのところまでわざわざアルスちゃんを連れてきたのはちょっとした私の楽しみなの」
「楽しみ……だと」

 アセシアは狙いではない。とすると俺?
 だが一体何故……。スコルの表情を見ても苛立つ笑みばかりで何も読み取れない。
 くそ……一体何だって言うんだ。
 俺の心境を読み取ったのか、それとも予想でもしていたのか。
 スコルは口元を嫌味ったらしく吊り上げて言った。

「アルスちゃんとあなたを戦わせてみたいだーけ。宿敵なんでしょ? だから面白そうと思ってさ」

 明確な目標もなく、ただの興味本位だと……? 一体何なんだ……こいつは。
 二叉の尻尾をゆらゆらと揺らしながら笑う様は不敵と言ってもいい。
 念のために戦闘の準備をしておいた方がいいな……。
 さわり、と、風が頬を撫でて通り過ぎる。
 ――それを合図にするかのように、アルスは動きを見せた。

 てっきりお得意の“波導弾”で牽制してくるのかと思ったが、どうやら一気に間合いを詰めて近接戦に持ち込んでくるつもりらしい。
 近くに来れば来るほどこちらの技も当たりやすくはなるが、格闘タイプである相手の方が近接戦には一日の長がある。あまり間合いを詰められすぎるのも厄介だ。
 だからといってこちらが離れれば波導弾が飛んでくる可能性もある。つかず離れず……といったところか。
 そんなことを考えつつ、面前から向かってきた“インファイト”をかわすと、反撃するべく自分の鎌に力を蓄えていく。
 比較的広範囲かつそれなりに遠方まで届くこの技なら、例え避けられてしまったとしても必ず隙は出来るはずだ。
 何かの技の準備をしていることに気づいたのか、アルスはこちらから距離を取ろうと後ろに飛び上がりつつも後退しようとする。だが……。

「遅いんだよ!」

 そう叫んで、俺は宙にいて無防備なアルスに向かって“鎌鼬”を放つ。アルスはそれを防ぐために波導弾をその斬撃にぶつけた。
 スカッっという空を切るような音がしたと思うと、波導弾が真っ二つに割れて鎌鼬は消える。そして割れた波導弾から漏れたエネルギーが爆風になって草原を大きく揺らした。
 その爆風で土煙が上がり、周囲が見渡せなくなる。これを予想していたわけではなかったものの、好都合だった。これなら、仕込んでいたあの技を確実に当てることが出来る。
 依然として煙の中でアルスが何処にいるかは分からないものの、俺はそれで焦ることなどなかった。
 復讐するべき相手と戦いを始めて、俺はアセシアを守ることなど既に頭の隅に追いやっていた。

 段々と煙が晴れてくる。もうそろそろだ。
 俺は自然と笑みをこぼしていた。
 アルスの背後に突然現れたもの。それは……。

「くらえ……“未来予知”」

 そう呟いた頃には、アルスの背後にその技が迫っていた。技の存在に気づく頃にはもう当たっている。そんな避けようの無い距離だった。
 しかし、アルスはその技が当たる直前に跳躍した。そして虚しくも未来予知は地面を抉っただけとなった。

「なんだと……」
「あれ? 知らないんだ。ルカリオは視界が利かなくても、気配で察知できる種族固有の能力があるの」

 スコルが驚いている俺を見てけらけら笑いながらそう言う。
 自分が一度確信した、確実に出来ていた一連の流れ。それがこうも簡単に突き崩されて……。
 彼女は更に言葉を続ける。

「なんだか思ったより弱くてなんだか拍子抜けしちゃった。レジスタの時は疲れててもあれだけ機敏な動きしてたから、てっきり結構な腕前だと思ったのに……」
「言わせておけば……!」

 拍子抜けだとあいつに言われる筋合いなんてない……!
 彼女に向かって鎌鼬を放とうと、鎌に力を集中させる。だが、背後に立つ存在には全く気づいていなかった。気づいたときには、もう遅かった。
 避けようとしても、レジスタの時にアルスから食らった波導弾のダメージがそうさせてはくれなかった。

「ふふ……やりなさい」
「しまっ……!」
「“インファイト”」

 そうだ。アルスを操っているのはスコル。
 視界に関しても、戦況に関しても、一つ上から見定めることの出来る位置にいる。
 ルカリオの固有能力はただのブラフ……。別所から見ていて、更にエスパータイプである彼女には何もかもが『お見通し』なのだ。

 横腹に強烈な一撃をお見舞いされ、身体が宙に浮かんだと思った瞬間に地に叩き伏せられた。身体から鈍い音が聞こえたと思うと、段々と視界が歪む。

「あーあ。つまらないつまらない。かーえろ」

 そんな嘲笑う言葉を最後に、段々と視界が閉じていく。
 こんなところで俺は終わるのか……。ただ何も出来ないで……このまま……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――くた、としてそのまま力なく倒れてしまうルフ。
 次はきっと私の番かもしれない。そう思ってスコルを見る。

「え……」

 だけど、こちらには目もくれずにそのまま何処かへ歩いて行く様子を見て、私はほっと胸をなでおろしていた。

「…………」

 でも問題は別にあった。倒れているルフを再度見ると、少しだけ白い毛から血が滲んできてるのが分かる。素人目でもこれは危ない。そう思った。だけど。

「どうして私をフィアスって呼んだの……?」

 その問いかけには勿論気を失ってるルフが答えないのは分かっていた。でも声に出さずにはいられなかった。
 記憶なんかもうとっくに取り戻してる。レジスタを出た辺りから既にもう。
 それでも、ルフが私をフィアスと呼んだ時、何となく分かってしまった。その幼馴染みだったフィアスと私を重ねて見ているってことを。
 思えば最初に会ったとき、私をフィアスと呼んだのも、私を助けようとしてくれたことも。全ては重ねてみているからだった。そうに違いない。
 こんなやつの命なんて、本当は助けたくなんて無い。でも見殺しにすれば……今の父を非難することなんて到底できない。……だから助ける。
 私は倒れてるルフの下に頭を潜り込ませると、一気にそのまま持ち上げて背の上に乗せた。華奢な体つきではあるけれど、決して軽いわけなんかじゃない。
 初めの歩き出しは多少ふらふらしていたものの、段々と歩きなれてきて。やがて安定して運べるようになってくる。
 レジスタに戻るよりもこのままキタム港に向かった方が早い。そう判断した私はさきほど進んでいた道の方向へと歩き出した。
 
 
 
 
 
 
「ん……」

 体の痛みでふと目が覚める。辺りを見回すと、日が落ちてすっかり暗くなってしまった病室の中だった。病院……? 誰かが運んできてくれたのだろうか。
 不意に隣から寝息がかすかに聞こえる。少しだけ目を動かすと、ベッドの下で丸まって寝ているアセシアの姿が目に入った。そうか……アセシアが。
 結局、復讐など果たせずに終わった。力が違いすぎた。強くなってきたつもりでいた。それでもまだ足りないっていうのか。自分の力が。
 包帯を巻かれた自分自身の前足や胴体を見て、無性に苛立ちが募る。弱いのは分かってる。自覚もしてる。それでも強くなろうとしたのに、結果はこれだ。また傷を増やしただけだ。見るだけで、虚しくなって、情けなくなってくる。強くなれない自分自身が。

「はは……」

 自傷気味に笑った。それで傷がどうにかなるわけでもない。ましてや強くなんてなれるわけでもない。そうでもしないと、この自分自身への苛立ちをどうにも抑え切れそうになかった。
 ふと寝ているアセシアが目に入る。記憶喪失だからといってフィアスの名を教えてしまったこと。そろそろ打ち明けるべきだろうか。もう今なら、何を失ってもどうでもよかった。
 そう思って、ただ思うだけだった。今更お前は実はアセシアで……とか言えるわけがない。
 ……少し夜風に当たってこよう。そうすれば少しは落ち着くかもしれない。

 アセシアを起こさないようにゆっくりとベッドから降りると、俺はそのまま病室をこっそりと抜け出した。
 本来夜中に外出などしてはいけないというのが病院の規則ではあるが、見回りの看護士も居なさそうだから大丈夫だろう。それに夜明け前に戻ればいいだけの話だ。
 小さな灯りがぽつぽつと点いているだけの薄暗い廊下を歩き、やがて階段に突き当たる。そこを下りていけば外へは一応出られるようにはなっている。

「痛っ……」

 あの戦闘で受けた傷がまだ痛む。階段を一段一段下りる度に鈍痛が身体に走るのだ。それでも何とか階段を下りきると、目の前に大型のポケモンを搬送してくるための二つ扉のドアが見える。本当なら左の廊下の先にある受付で外出してくる旨を伝えなければならないのだが、そんなことをして今の時間に許可がもらえるわけが無い。
 ノブも何も無い。とりあえず押してみると案外すんなりと開いた。出た後は勝手にバネの力でまた元の位置に戻った。こういう扉もあるんだな……。ノブのよりも開けやすくて楽だ。

「さすがにこの時間は誰もいないな……」

 日が落ちているため、外に居るポケモンはいない。ただ民家の窓からもれてくる灯りがほんのりと街路を照らし出していた。
 街を出るのも面倒だから、とりあえずは波止場のところで潮風にでも当たってこようと、海辺の方向へと足を進める。
 少し歩いただけでもう波止場が見えてくる。船が細波に揺れているのを眺めつつ、海に突き出した場所について座り込んだ。
 波の音が耳に心地いい。波の音を聞くと、よく心が洗われるようだと表現する者がいるが、まさにその通りかもしれない。……だけれど、何もかもが水に流れて消えるわけじゃない。

「ここにいたんですね」

 不意に後ろから掛けられた声。聞き覚えがある声だけに咄嗟に身構えることはしなかったが、後ろに向くとやはりそこにいたのはアセシアだった。後ろからこっそりとつけていたのだろうか。

「駄目よ。病院から勝手に抜け出したら」
「ああ。分かってる。少しの間だけだから」

 アセシアにそう言って、だが彼女の言葉に何かが引っ掛かった。今までの話し方と違う微かな違和感。それに気づいた時、自然と俺は彼女にこう言っていた。

「なあ……。本当は記憶、戻ってるんだよな」
「……」

 アセシアの表情が暗くなる。そして俯いて、言った。

「そうよ。記憶はとっくに戻ってる。多分、短期的な記憶障害だったってこと」

 俺から返す言葉はなかった。戻っていて、それなのに記憶喪失を演じていた。多分、俺がアセシアをフィアスと呼んだからだろう。
 アセシアは近くまで歩いてくると、やがて止まった。

「記憶喪失になってるのをいいことに、私にフィアスって名前を教え込んで。それで私がフィアスになるとでも……?」

 その叱責を含んだ問いに、俺は無言で首を横に振った。
 違う。そんなんじゃない。フィアスは戻ってこない。そんなこと分かってる。

「あなたが私をフィアスと重ねていてもそれはそれで構わない。でも、私はアセシアよ。勘違いはしないで」

 何も、言えなかった。言えるわけが無かった。
 あれだけのことをして、今更何を言い返せるだろうか。
 ただ、無言の状態が続くばかりと思っていた。
 アセシアは海から目を離して俺の方に向くと、さっきとは違う少し落ち着いた口調で言った。

「私を助けようとしたのも……私がフィアスに似てたから?」

 ……彼女は何でそんなことを聞くんだろうか。
 俺はただ助けたいから助けようとしただけで、他意はなかったはずだ。
 フィアスに似ているから助けるなんて思ったことは無かった。無意識に重ねていたとしてもだ。

「それは……違う」
「違わないわよ。じゃなかったら赤の他人も同然だった私を助けようなんて普通は思わない」

 もう一度違うと言おうとして、止めた。
 信じてくれないのも当然のことだった。
 アセシアは一度冷めた目で俺を見下ろすと、踵を返して言った。

「元々あなたとはレジスタまでの行動だったから。……さよなら」

 そう言い放って。アセシアは走り去って行った。
 追う必要なんてない。今更弁解の余地なんて俺には無いから。
 
 
 
 これで元通りだ。結局は独りになる。
 むしろ独りの方が煩わしさなどがなくていい。
 何も言われない。歩幅をあわせる必要もない。
 そんな自分を正当化するにも似たような考えが浮かぶが、そんな自分が浅ましく感じて止めた。
 もういい。戻ろう、病室に。傷が癒えたらまたどこかにいけばいい。
 そう思って立ち上がった途端、目の前が霞む。無理をしたのが間違いだったのかもしれない。
 病院の方へと足を運ぼうとはするが、思うようにまっすぐに歩くことが出来ない。

「あ……」

 視界が大きく揺らぐ。左の前足が地についていなかったのだ。そのまま体勢を崩して、吸い込まれるように海に勢いよく落ちた。
 泡が勢いよく浮かび上がっていくのと対照的に、俺は段々と沈んでいく。上がりたくとも足が動いてくれない。
 ……情けない。でも……ついてはいけない嘘をついた者の末路としてはお似合いなのかもしれない。
 水が勢いよく口の中に入ってくる。息など当然出来るわけもなく、ただこのまま意識を手放すだけで後はゆっくりと死んでいくだけなのかもしれない。
 薄れていく意識の中で、耳に何かざわついた音が聞こえた。それでも、瞼の重みでそのまま意識を手放した。
 これで、楽になれるなら。それはそれでいいのかもしれない。
 
 
 
 
 
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