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Day of Vengeance‐8‐『大陸へ』 の変更点


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**Day of Vengeance‐8‐『大陸へ』 [#pded45d1]

 何なのだろう。この嫌な胸騒ぎは……。
 ルフは竜の運び屋へと足を進めながら、さきほどから来る不快感を気にせずにはいられなかった。アブソルという種族柄、何かと災厄や危機を察知しやすい。そのためだろうか、足取りは次第に早くなりつつある。
 一体何なんだ、と頭の中で考えたところで埒があかない。アセシアが狙われていた事もあるため、早くヒースの所へ行くしかない。
 ……そう考えるより先に、ルフは小屋に向かって駆け出し始めていた。
 
 
 ――潮風が通り過ぎる中、リュミエスはアセシアを背に乗せて小屋を目指して飛行を続けていた。上手くバランスを取りながら風を切るその様は、先ほど飛べるようになったとは思えないほど。
 その慣れの早さにアセシアは感心しながらも小屋が見えて来たために考えを中断させる。段々と近づいていくと、ヒースの隣には白い何かが見える。恐らくルフだろうと思案していると、リュミエスはやがてゆっくりと下降を始めた。
 その音に気づいたのか、ヒースとルフはこちらの方に顔を向けて驚いたような表情を見せる。そんな二匹の様子をみてリュミエスが「ふふふっ」と喜びの声を小さくあげたのがアセシアの耳に入った。

「まさかたった二日で飛べるようになるとはなぁ……」

 ドスっと重たい着地の音を辺りに響かせると、ヒースがそれに続けるようにそう呟く。心なしか嬉しそうな表情をしているのは跡継ぎが出来たというより、彼が飛べるようになったことの方が大きいだろう。
 しかしルフの方はというと、なんだかよく分からない表情をしている。不快感を訴えるかのように眉間に皺を寄せ、頻りに周りを見渡していた。
 だが、それよりも今はあのことをルフに伝えなくてはならない。出来れば早めにこの大陸から離れたいから。

「ルフ。あのキュウコンがまた襲ってきた。しかも今回は連れもいた」
「……ならリュミエスも飛べたことだし、早くミーディア大陸に行った方がいいな」

 私の考えを察してくれたのは素直に嬉しかったものの、先ほどからそわそわして落ち着かないルフ。一体なにがあったのか。
 そんな私の心情など知るはずもなく、ヒースが何かを思い出したように小屋の中に駆け込んでいく。その場にいた全員で小首を傾げて待っていると、やがて両手に短い金属の取っ手がついた籠を持ったヒースが出てきた。

「何だそれ」

 ルフはその籠を見て目を細める。どう見てもポケモンが一匹乗れそうなくらいの大きさがある。まさかと頭の中で思案するルフだったが、それは見事に的中した。

「ん? これか? これはお前さん達を運ぶための運搬用の籠だ」

 ヒースは意気揚々とそう説明する。しかし明らかに不安げな表情を浮かべている目の前の二匹に、彼は更に説明を付け足した。

「決して脆くはないからお前さん達みたいな軽いポケモンなら大丈夫だ」

 ルフとアセシアは思わず顔を見合わせる。たがすぐに視線を反らす。やはり昨日の気まずさをまだ引きずっていたのかもしれない。そんな様子など気にすることなく、ヒースはもう一つの籠をリュミエスに手渡していた。

「もう任せても大丈夫だよな」

 ヒースの言葉に、リュミエスは力強くうなずく。それを確認した彼はアセシアの方に向いて口を開いた。

「とにかくあの事は後回しだ。そっちのお嬢さんはリュミエスの籠でいいな?」
「ええ。構わないわよ」

 あの事……?
 ルフはヒースの一言に疑問を持つ。それに後回しとは一体何なのだろうか。しかもそれを気にすることもなく頷いてそう言うアセシアに、更に疑問が増していく。多分聞いても答えてはくれないだろう。
 ふとヒースがルフの元に籠を持ってくる。それを怪訝そうな表情で眺めていると、ヒースは言った。

「お前さんはこっちの籠だ。なに、運び慣れてるから落としやしない」

 そう最後に心配を払拭させるかのようなことを言い、ヒースはルフに乗るように手で指示をした。アセシアの方はもうとっくにリュミエスの籠に入っていて、こちらの準備を待っている。またいつ襲われるか分からないのだから彼女が急ぐのは当たり前といえば当たり前ではあるが。
 先に両前足を籠の中に入れると、後足で地面を軽く蹴って足をすべて入れ終える。それを確認したヒースはリュミエスと顔を見合わせて頷くと、籠を両手で持ち上げて崖から勢いよく飛び降りた。それに続くかのようにリュミエスも助走をつけて飛び降りる。

 ふわりと自分自身の体が浮かぶような感覚がした後、すぐに籠底へと押さえつけられる。それは急激な下降と上昇のために起きた重力の変化。ルフはやっと安定した籠の中から顔だけを覗かせ、海を眺める。
 日の光を反射させて煌めく水面の上を駆けるようにしてヒースは速度を上げていく。勿論、ルフに負担が掛からない程度に、ではあるが。その後を追うようにリュミエスも後ろから段々と近づいてきた。

「これならすぐにキタム港に着きそうねっ」

 リュミエスがぶら下げるように両手で持っている籠の中から、アセシアが顔を出してヒースにそう叫ぶように言う。ヒースはその言葉に頷くと、彼女より大きい声を出した。

「早くて半日弱だ! 着く頃には夕方だろう!」

 ヒースはそう言うと少し速度を上げる。しかし依然として籠自体はあまり揺れることがないため、もしかしたら船より快適かもしれない。

「……?」

 そんなことを思案していると、何かがこちらに近づいてきているのが目の端に入る。それに首を傾げていると、ふとこちらを向いたヒースが問いかけてきた。

「どうした坊主。向こうに何かあるのか?」

 ヒースはそう言いながらルフの視線の先を目で追う。その先を見るために軽く目を細めた途端、彼の顔色が変わる。そんな様子に気付いたのか、リュミエスも先ほどからこちらの方を微かに見ている。やがて、ヒースの口が開いた。

「やべぇ。空軍隊じゃねぇか……」
「空軍隊……?」

 聞き慣れない単語に思わず首を傾げて問いかける。ヒースはいまだにそちらの方を向きながら言った。

「王国のデカい警察みたいなもんだ。村の交番みたいなものとは規模が違う」
「空軍ってことは空中専門ってことか」

 ルフが最後に付け足すように呟く。それにヒースは険しい表情見せ、そして頷いた。
 今とてつもなく危ない状況になっていることは分かったが、こちらはなにもしていないわけだから少なくとも攻撃を受けることはないだろう。

「……!」

 刹那、ヒースの目の前を火の粉が通り過ぎる。予想がついていたのかヒースは素早く下降してそれを避けたが、それに続くようにして氷のつぶてが襲ってきた。

「リュミエス! 避けろ!」

 その言葉を聞いてリュミエスは加速をしながら下降をしてそのつぶてを避ける。しかしそれで攻撃がやむはずもなく。

「ぐぁぁああ!」

 ヒースが突然声を上げる。はっとして上を見上げると、別のポケモンが飛んでいるのが目に入る。それと同時に、ヒースの翼膜が焼けているのも……。

「父さんっ!」

 リュミエスが隣でそう叫ぶのが聞こえた。ルフはだんだんとバランスの崩れていく籠の中で必死に状況を把握しようとする。だがはるか上空に炎を纏った鳥が飛んでいるのが見えた途端、ヒースは翼が焼ける痛みで気を失い、急降下を始めた。

「父さぁぁああんっ!」

 リュミエスの悲痛な叫び声を最後に、ルフの意識は落ちていく籠の中で手放された。
 
 
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