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Day of Vengeance‐7‐『飛翔』 の変更点


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**Day of Vengeance‐7‐『飛翔』 [#adbdde48]
 
 
 互いに睨み合い、どちらも隙を見せようとしない。唯一隙を見せているのは状況を把握出来ていないリュミエスだけ。一度隙を見せればどうなるか。それは相手が攻撃をするチャンスでもあり、攻撃を誘うチャンスでもある。だが、その期待はキュウコンの後ろにいるルカリオが砕いてしまう。
 リュミエスは戦えないだろうから、実質二対一。ルフがいてくれるだけでも囮役として十分役立つのだけど、さすがにリュミエスを囮とするわけにはいかない。
 アセシアの葛藤を読みとったのか、キュウコンは不敵な笑みを浮かべる。

「あら、今回は随分と焦ってるね〜」

 キュウコンの口車に乗せられてはいけない。返答すれば隙が生まれる。そこを臨戦態勢のルカリオにつかれれば簡単に私は不利になってしまう。いや、もうこの状況からして十分に不利なのだけれど……。

「さすがのあんたも二対一では分が悪いのかい?」

 その問いにアセシアは答えなかった。隙が出来るからではなく、自分自身の意地を保つために。昨日は何とも思わなかった目の前のキュウコンが、今はただ憎かった。その後ろに構えるルカリオすらいなければ、すぐに飛びかかっていただろう。

「痛い思いをしたくないのなら、あたし達についてくるしか方法はないよ」

 キュウコンがなるべく声を落ち着かせてそう言った。しかしアセシアは首を横に振り、否が応でもついていくような素振りは見せない。
 そんなやりとりを見てリュミエスは不安そうにアセシアを見る。そんなリュミエスに彼女は小さく耳打ちをする。

「……逃げなさい」

 でも、というような表情のリュミエスを説得するかのように首で指図をする。リュミエスは彼女から離れた瞬間、その時を待っていたかのようにキュウコンが口から火を放つ。その狙いは間違いなくアセシアに向けられていた。
 軽い足取りでそれを避けていくアセシアを見ながらキュウコンは笑みを浮かべる。彼女の背後には、先ほどまでキュウコンの後ろにいたルカリオがいた。つまり、隙を見破られて回り込まれたのだ。
 だが、それを予想しないほどアセシアは馬鹿ではなかった。素早く後ろ足を蹴り上げてルカリオのわき腹に当てる。小さい呻き声が聞こえたのを確認すると、ルカリオから距離をおくように跳躍し、着地した。

「あらら、いくら世間知らずのお嬢様とはいえ強いわね」
「甘くみないでちょうだい」

 アセシアはキュウコンを睨むと、ルカリオの動きに注意を払いながら出方をうかがう。火炎放射で地の葉は赤くなり、そして黒くなっていく。食らったら火傷を負うことは確実だった。

「でもさすがにお城の傭兵みたいには強くないみたいだねぇ?」

 キュウコンはけらけらと笑いながら挑発するようにそう言う。挑発は軽く無視すればいいだけなので問題はないが、いつ攻撃が来るか分からないのが厄介だった。
 キュウコンのレベルが高いからなのかは分からない。しかし火炎放射を出す時の隙が全くなかった。息を大量に吸い込む前兆すら確認出来ないのだから、余程戦闘に慣れているのだろう。

 問題は別にもあった。二対一の状況下であることも問題だけど、ルカリオが鋼タイプを有していること。ノーマル技が効きにくいばかりでなく、格闘タイプの懐に入るのは自殺行為。何をどうやっても不利な状況であるのは変わりようがなかった。
 キュウコンの火炎放射を誘導してルカリオに当てるという策が思いつくものの、そんな簡単な策にハマってくれるほど二匹は弱くないだろう。先ほどの火炎放射やルカリオの素早い回り込みをみれば嫌というほど分かる。

「大人しくあたし達についてくれば、痛い思いなんかしなくて済むんだよ。さぁ、選択肢は二つに一つだよ」
「知らない連中に軽々ついていくほど、私は易くないわよ」

 変わらないアセシアの返答に、呆れた表情を浮かべて仕方ないとキュウコンは呟いた。ルカリオの方は相変わらず表情を変えず、何を考えているのか分からない。

 ふと目の端にリュミエスの姿が目に入る。逃げなさいと言ったのに、戸惑ったようにその場にいる彼をみてアセシアは再び叫んだ。

「早く逃げなさい!」

 だがリュミエスは戸惑うばかりで一向に逃げようとはしない。そんな彼の様子を見てキュウコンは怪しげにクスリと笑う。

「こんな状況下でも逃げないなんてなかなか勇敢だねぇ、坊や。でもね、逃げることも一つの勇気なのさ」

 その言葉にアセシアは耳を疑う。普通盗賊なら周りの者さえも巻き込んで目的を達成させるはず。なのに彼女らはリュミエスに危害を全く加えないし、人質にとろうともしない。本当に目の前にいるキュウコンとルカリオは何者なのか。
 だけど警戒する相手であることは確かなこと。例え幼子には優しくとも、最低限目的を疎かにはしないはず。少なくとも私が今まで見てきた賊はそうだった。

「さてと、坊やが逃げないのならそれはそれで構わないけど。アセシア、あんたは今回の依頼主から連れ帰るように言われてる。悪いけど怪我させてでも連れてくよ!」

 キュウコンはそう言い放つとこちらとの距離を縮めてくる。近づいてきたら来たで技を出せる好機ではある。けれどルカリオが臨戦態勢にある以上、迂闊に技を出せば隙が出来てしまう。


 ――絶対的に不利な状況に苦悩の表情を浮かべる最中、なにやら重たい足音が近づいてくるのが聞こえた。

「リュミエス……っ! 来ちゃ駄目!」

 咄嗟にそう叫ぶものの、リュミエスはこちらに向かう足を全く止めようとはしない。キュウコンはまさか彼がこちらに向かってくるとは思わなかったのか、走るのをやめた。

(……?)

 アセシアは走って来るリュミエスを見て気づく。
 羽を教えたとおりに動かしながら走っている……。私の後ろは丁度崖。つまり彼がしようとしていることは一つ。

「掴まって!」

 リュミエスはそう言って私の方に手を伸ばす。やれるかどうかは分からないが、私は今彼を信じる他なかった。
 彼の手を取ると、体が持ち上がる。そして大きな二つの手に抱きかかえられるようにして、私は彼に持たれた。そして……。

「……っ!」

 思わず全身に力を入れて身構えてしまうが、落ちることはなかった。その心配さえ杞憂だったのかもしれない。

「やった! 飛べたよ!」

 リュミエスは翼をアセシアに教えてもらったとおりに羽ばたかせながら海の上を飛んでいた。若干ふらふらしながらも飛んでいるのを確認すると、アセシアはリュミエスの顔を見て言った。

「よく飛べたわね! ……でもどうしていきなり……」
「僕にもよく分からない!」

 耳を掠める風の音に声がかき消されないようにアセシアとリュミエスは叫ぶような声でそう会話をする。アセシアは目の端に映るキュウコンとルカリオの姿を見ながらリュミエスに言った。

「とりあえずあなたのお父さんに報告ね。そのまま小屋まで飛べる?」
「うん!」

 よほど飛べたのがうれしいのか、満面の笑みを浮かべながら彼は頷く。そしてゆっくりと方向転換をしながら、その草原を後にするのだった。
 
 
 
「アルス……どうしてあたしの技を制止したのよ」

 草原に取り残されたキュウコンは、隣で二匹の飛んで行った方向を見ているルカリオ、アルスに迫る。しかしアルスは表情を変えずに口を開いた。

「飛行中に火炎放射など放ったら、あの二匹はそのまま海へ真っ逆さまだ。余計な犠牲を出したくないと言ったのはどこの誰だったか、覚えているか?」

 その言葉を聞いてキュウコンは「あ〜……」と呟いてからばつが悪そうな表情を浮かべる。特にそのことに対してルカリオは責めたりもせず、踵を返してキュウコンの方に向いた。

「確かアセシアはミーディア大陸に行くと言ったそうだが……。ミシャ、それは本当なんだよな」
「はいはい、何度も言わせて頂いて光栄ですよ。しかとこの耳で聞きました。&color(silver){……逃げるときだけどね……};」

 ミシャと呼ばれたキュウコンは、眉間にしわを寄せながらぶっきらぼうにそう答える。最後に呟くように言ったが、それがアルスの耳に聞こえたかどうかは定かではなかった。

「ミナミム港の運行規制が解けたと、先ほど仲間から言霊を受け取った。その船に乗って私たちもミーディア大陸に行く。異論はないな?」
「異論はないよ。それでいい」

 ミシャは表情を元に戻してそう言うと、アルスと共にその草原を後にしたのだった……。


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