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Day of Vengeance‐6‐『襲撃』 の変更点


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**Day of Vengeance‐6‐『襲撃』 [#e177667f]


 潮風の匂いが風に運ばれてくる海岸の絶壁。そこに建つ小屋の前に、一匹のカイリュー、ヒースが朝日を浴びながら柔軟体操をしていた。

「おう、早いな」

 やや息の上がった状態でヒースは来訪者にそう話しかける。その目先にいるのは藍色の大きな耳に、クリーム色の華奢な体が相まってよく目立つ存在のエネコロロ。
 彼女……アセシアは小屋の方に目線を移して少し目を細めた。

「リュミエスは?」
「まだ寝てるが……俺が起こそうか?」
「いいわ。私が起こしてくる」

 彼女は首を横に振ってそう言うと、玄関の木製扉を開けて中へと入って行った。



 ――さすが雄の部屋というか、何と言うべきか。アセシアは中に入ってしばらく固まっていた。
 鼻をつくような部屋の空気に、じっとしていられなくなるくらいこみ上げてくる体の火照り。今まで雄が住んでいる部屋に入ったことない彼女には、この光景はあまりにも刺激が強すぎた。そう、なぜなら……。

「き、汚い部屋ねぇ……!」

 まず目に飛び込んできたのは紙の山。何かの書類ではあるみたいだが、所狭しと置かれている。普通に積み上げておくならまだしも、一部の紙はヨレてたりくしゃくしゃに潰れて見るも哀れな現状になってる物もある。
 玄関周りは置かれてはいないものの、奥の方に行くにつれて足の踏み場もなくなっていく。こんなところで一体どうやって生活しているのか疑問が膨らむばかりだった。

「リュミエス、飛ぶ練習するわよ」

 紙の床に四苦八苦しながらもなんとかリュミエスの寝床へとたどり着く。どこに寝る場所があるのか分からなかったものの、かすかに聞こえる寝息を探りながら進んでやっと見つけたのだ。

「んんぅ……もう少し寝かして……」

 彼はそう寝言のように呟いて毛布を抱き寄せ、再び眠りに入ろうとする。それを許さんと言わんばかりにアセシアは毛布を口にくわえると、彼の足の方へと一気に退かす。
 ここが海岸沿いだからか、朝方は気温が低い。つまり……。

「さ……むい」

 今度は足の爪を器用に使って毛布を取ろうとする。勿論、それを彼女が許すはずもなく、無言で前足を毛布の上に乗せてとれないように阻止を図る。
 それでもなお爪で取ろうと一生懸命な姿に、彼女はあきれた様子でため息をついた。そして思い切り息を吸い込む。
「いい加減起きなさいっ!」

 怒号を飛ばすと共に、アセシアはリュミエスの頬を思い切り叩く。さしづめ、『ねこパンチ』といったところだろうか。勿論加減のないそれが痛くないわけもなく……。

「いたっ!」

 そう悲痛の叫びを短くあげると、リュミエスは飛び起きる。しばらく頬をさすっていたが、隣で眼を飛ばしてくる彼女の存在に気付いて目を丸くする。

「な、何でここにいるの?」
「あなたの飛行練習のため」

 アセシアは淡々と言い放ったのを聞いて、リュミエスはまだ起きたばかりの頭を使って考え出す。そして出した結論は。

「あ、昨日の続き……」
「だから早く支度して」

 少し声を低めて言うとリュミエスは彼女を軽く見てからのっそりとした動きでベッドから降りる。寝起きが悪いのか、未だに目は細められて開く気配はない。しまいには欠伸をする始末。そんな様子の彼を見て、アセシアはため息をつく。

(いつ飛べるようになるのか不安になってきた……)

 用紙の山に躓くリュミエスを見て、彼女の不安は一層増すばかりだった。




 ――その同じ頃。ルフは窓から差し込む日の光で目を覚ましていた。起きてから間もないためか、部屋の中にアセシアがいないのにも全く気付いていない様子。
 しばらくぼーっと天井を意味もなく眺め続けてから、大きな欠伸を一つ。そしてベッドの方に目をやり、まず疑問を口からぽろり。

「あれ……アセシアは……」

 部屋の中を見回しても彼女の姿は見あたらない。しばらく座ったまま考えて、ある一つのことを結論づける。

(ヒースのところで飛行練習の続きか……)

 よっ、と小さく力んでルフは立ち上がる。軽く体を解すと、扉を押し開けて廊下へ出る。

 日はそこまで上がってはいなかったが、やはり宿屋に泊まるのは旅をしている者ばかりなのだろうか、廊下には既に荷物をまとめて出て行こうとしている姿が多くあった。
 そこを通り過ぎると二階への階段のある吹き抜けのロビーにつく。すでに朝食の席で賑わっていて、空いている席は無い。もっとも、朝食を食べるほど金に余裕はないのだが。

「おはようございます。よく眠れましたか?」

 受付のジュカインがこちらを見てそう話しかけてくる。結構込み合っているロビーでわざわざ話しかけてくると言うことは、やはり昨日のことがあったからなのだろうか。

「お付きの方から伝言を預かっています」
「と、いうと?」
「先に竜の運び屋に行っているとのことです」

 相変わらず雄か雌か分からない中性的なトーンで淡々と話すジュカイン。まぁ、業務上差し障りがないのだから問題はないだろうが、なかなかこういった声質のポケモンは滅多にいない。そのために一言一言に妙な違和感を覚える。
 それはさておき、先に竜の運び屋に行っているということは、案の定リュミエスの飛行訓練に行ったわけか。朝早くからリュミエスも大変そうだ。アセシアのことだから何だかスパルタ指導でも始まりそうな気もする。
 そんなことを頭に浮かべながらも、ルフは宿を出て竜の運び屋に足を進め始めた。



 ――緩やかな傾斜に青々と茂った草が風になびいて揺れるなか、アセシアとリュミエスはひたすら飛ぶ練習をしていた。

「駄目。もうちょっと後ろに風を回しながら羽ばたかせなさい」
「そんな後ろに風を回したら浮けないよ」
「それでいいのよ」

 ルフが心配するほどのスパルタ指導ではないものの、決して練習方法を妥協しない彼女は、リュミエスにとっては十分にきつかった。
 軽く頬を膨らませて彼女に反論するものの、断固としてその羽ばたかせ方を勧める彼女に不満がつのるばかりだった。

「はあ……なんか不満そうな顔してるから説明しておくわ」

 彼女があくまで風を後ろへと流す飛び方をさせるのか気になっていたリュミエスは、思わずその言葉に耳を傾けて興味深そうに目を向ける。それを確認したのか彼女は口を開いた。

「昨日も言ったと思うけど、本来カイリュー種は鳥類種……そうね、オオスバメやオニドリル、ピジョットとかとは違う方法で飛んでるの」

 彼女の説明に首を傾げながらもリュミエスは次の言葉を期待しながら待つ。アセシアはそれを見て話を続けた。

「鳥類種は羽で飛ぶ。でもカイリューは思念で飛ぶの」
「思念……?」

 聞き慣れない単語が出てきたのか、ぼそりと呟くようにリュミエスは言った。アセシアは自分が難しい言葉を使ったことに気づき、急いでその言葉を説明し始める。

「思念っていうのは思うことや念じること。つまりカイリューは飛ぼうと思うから飛べるの。ハクリューが羽もないのに空を飛べるのは、その飛ぼうとする意思があるからなの」

 それを聞いてリュミエスはしばらく黙ったままだったが、アセシアは一つここで疑問が浮かんだ。
 普通ならハクリューの時、無意識のうちに飛べるようになるはず。なのにカイリューになっても飛べないのは、飛ぶ本能さえも遮ってしまう何かがあったのか。

「ねぇ……ハクリューの時、飛べたことはある?」

 分からないなら試しに色々と聞いてみるしかない。そう思ったアセシアはリュミエスに向かって話を切り出す。
 質問を聞いた彼は少しだけ思い出すように目を泳がせると、やがて答えた。

「飛べた覚えはないよ。蛇ポケモンと同じように体をくねらせて動いてた」

 ハクリューの時にも飛べていないということは、ミニリュウの時に何かあったのか。とにかく質問してみないことには分かりそうもない。

「ミニリュウの時に、何か嫌なことでもあった?」

 かなり幼い時のことだから覚えていないだろうと思いつつも彼女は聞いてみる。もしかしたら過去の出来事になにかあるだろうから。
 リュミエスは少し眉間にしわを寄せたが、やがて口を開く。

「崖から落ちた記憶ならあるけど……」

 アセシアはそれを聞いて確信した。
 リュミエスが飛べないのはそれが原因かもしれない。ミニリュウの時はまだ上手く飛ぶことが出来ないため、崖から落ちたのも頷ける。

「もしかしてその記憶が飛べない原因になってる?」
「多分。でも崖下を見るだけなら恐くはないんだけど……」

 どうやら話を聞いていくと高所恐怖症というよりかは飛ぶことだけがトラウマになってる可能性があるみたいだった。実際、この草原に来る前に谷が深い吊り橋を渡ったが、リュミエスは全く動じていない。
 とはいえ、まずは飛び方の練習から入らなければ意味がないのは確かだった。直るか分からないトラウマより、今直せる羽の動かし方を優先した方がいい。本格的に飛んで練習するのはそれからだ。

「さてと……練習再開するわよ」
「え? 今のが休憩時間?」
「そうよ。さあ、始めるわよ」

 折り曲げて座っていた足を再び起こしてリュミエスの方を見る。
 ふとその時、視界の隅に何かの影が映った。いや、もう既に姿を現していた。金色の煌びやかな毛並みに、九本の尾。間違いなく以前襲ってきたキュウコンだった。

「おはよう。アセシアさん」

 だいぶ軽快な足取りで向かってくるキュウコンの後ろには、青い毛並みに目の回りに黒い帯が巻かれたような顔、体には黄色の毛並み。そして両手の甲と胸の境についたトゲのようなもの。この姿は誰が見てもすぐに分かるだろう、ルカリオだった。
 
 
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