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Day of Vengeance‐4‐『竜の翼』 の変更点


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**Day of Vengeance‐4‐『竜の翼』 [#k5354ffe]

 森の中をまっすぐ進んだ先に、開けた草原がある。少し傾斜になってるから、いつもそこで飛ぶ練習をしてる。なに、真っ直ぐだから道に迷う事なんてない……――。
 竜の運び屋のカイリュー、ヒースから聞いた言葉を頭の中で反芻(はんすう)させながら、ルフ達は練習場所の草原に向かって森の中を歩き続けていた。
 しかし、実際はYの字に分かれた道を左に曲がったり、大きくカーブしている道もそこにはあった。

「何が“真っ直ぐ”だ……。さっきから道曲がってるじゃないか……」
「アブソル、さっきから一々うるさいわよ。少しは黙って歩いて頂戴」

 地面から突き出た根に足を取られながら、ルフは呟くように愚痴を洩らす。これが森に入って初めての愚痴ではない。先ほどから『木の根が邪魔くさい』だの『疲れた』など口数は前を歩いているアセシアより多い。
 その様子を見かねてか、この問題の原点であるヒースの養子のカイリュー、リュミエスが口を開いた。

「あともうすぐでいつもの場所につきますから……すみません」

 最後に付け足した謝罪の言葉に何となく違和感を覚えながら頷くも、ルフはまた木の根に足を取られてしまう。

「ああ……木の根嫌い」
「……勝手に言ってなさい」

 アセシアはため息をついてそう言うと、リュミエスと共に先へと進んでいく。ルフも遅れをとらないように早足で追いついた。ふと、先ほどのアセシアの言葉を思いだし、彼女に向かってルフは訊ねる。

「そういえば……アセシアに俺の名前、教えてなかったな」

 前を歩くアセシアは耳を動かした後に一度足を止めて、後ろへと振り向いて頷く。

「ええ。私はあなたに名を教えたけど、あなたは私に教えてない。興味もないけど」

 最後の一言が余計だと頭の中で思いつつも、種族名で呼ばれるのはなんだか慣れない。

「ルフ・アストラル。ルフでいい」
「そう、ルフね」

 アセシアは軽く頷きながら視線を前に戻し、再び歩き出した。相変わらずな反応にルフは目を細める。しかし、彼女とはあくまで道中知り合っただけのこと。ああいった反応をするのは当たり前かもしれないと頭の中で軽く済ませ、足下の木の根に留意しながらアセシアとリュミエスについて行った。


 ――鬱蒼と木々の茂る長い森から、ふと開けた草原へ出る。今まで葉で隠れていた日差しが目に当たり、思わず瞼を閉じた。

「……ここか」
「うん。ここだよ」

 リュミエスの方に向いて問いかけると、彼は草原の方を見たまま頷く。

「確かに、飛ぶための練習としては最適な場所ね」

 アセシアがふとそうつぶやいた。
 生えている草はどれも背が低く、助走をつける時に邪魔にならない。その上、ゆるやかな傾斜になっているから、自身の体を羽で浮かすのには丁度良い。

「リュミエス君。早速だけど始めるわよ?」
「あ、……うん」

 アセシアに突然話しかけられてリュミエスは少し驚いていたが、すぐに頷く。


「じゃあまずは羽ばたかせてみて」

 リュミエスは頷いて、背にある小さい羽を動かし始める。見たところ特に問題ないみたいだが……。

「駄目ね」
「はぁ?」

 アセシアの口から出た言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。リュミエスではなく、近くにいた俺が。

「なんであなたが驚くの」
「いや……見た感じ特におかしくないと思ってたから……」

 その言葉に彼女はため息を一つした後、リュミエスの翼のある背へと回り込んだ。

「リュミエス君の羽ばたき方じゃ、上手く風を受けられないの」
「……?」

 羽を上下に動かす。それだけでいいわけではないのだろうか。そもそも“風を受ける”とは一体どういう意味なのか。理解していないのが分かったのか、アセシアは軽くため息をついてリュミエスの羽を見る。

「本来カイリューは羽で飛ぶ種族じゃない。でもリュミエス君は羽で飛ぶように羽ばたいてる。……分かる?」
「……なんとなく」

 そう答えると彼女は説明するのが無意味だと判断したのか、リュミエスの方に向いて口を開いた。

「リュミエス君。下に風を流すやり方じゃなくて、風を後ろに流すような羽ばたき方をしてみて」
「う、うん……」

 リュミエスはアセシアの言葉に戸惑いながらも頷き返し、羽を動かし始める。確かにさっきとは違う動きに見えるものの、どこがどう違うかまではよくわからない。彼女はそれをしばらく見ていたが、やがて前足でその羽の動きを強制的に止めた。

「違う。変わってきてはいるけど、まだ駄目。ほら、もう一回」

 彼女はそう言うと、また動き始めた羽の動作を目で追っていた。

 ……しかし何故アセシアはここまで詳しいのだろうか。彼女自身が空を飛ぶことの出来る種族なら分かるが、アセシアはエネコロロ。どう考えたって一生空を飛ぶことはない。
 とは言え、本人に聞いたところで恐らくは答えないだろうし、互いの身の上については干渉はしないという条件でここにいるわけだから、彼女に聞くことさえ無理だ。

「ん……?」

 背後の森の方に多少の気配を感じ、振り返るが目を凝らしてもそこには誰もいなかった。確かに何か視線を感じたのだが、それはもう消えてしまったようだ。疑問を持ちながらも、ルフはリュミエスの練習光景へと再び視線を戻した。


 日がだんだんと落ちてくる頃もリュミエスとアセシアは羽の動かし方をチェックしては訂正し、また羽を動かす。それが依然として続いていた。

「お、まだやってたのか」

 ふと背後から声がかかる。後に振り向くとそこにはリュミエスの父であるヒースがいた。先ほど感じた気配はヒースだったのだろうか。もしそうだとしても、とても聞く気にはなれないが。

「羽の動かし方を練習してました」
「そうか。まずそこからか」

 アセシアの言葉にヒースは頷くと、一息おいてから再び口を開く。

「とりあえず、今日はもう遅い。あんたらも家で泊まっていくといい」
「いえ、私とルフは港町に戻って宿に泊まります」

 一瞬、アセシアの言葉に反論しようとは思ったが、ヒースの住んでいた小屋の大きさを思い出して考えを改める。恐らく中に四人が寝泊まり出来るほど広くはないだろう。それなら、少し遠くとも港町の宿で泊まった方がいい。

「遠慮しなくても構わないんだが……まぁ無理にとは言わんが」
「では、また明日」
「おう。道中気をつけてな」

 ヒースはそういって歩いていくルフとアセシアの背を見て手を軽く振る。アセシアはそれに気づいているのかいないのか、振り返ることは一度もなかった。
 
 
「……」
「……」

 町に着くまでの道のりを歩く二匹。お互いの身の上については無干渉ということにしているから当たり前と言えば当たり前になるものの、終始無言なのは何だか落ち着かない。かといって話しかける内容で思いつくのは互いに干渉するものだけ。名前の由来くらいなら、大丈夫か……。

「あのさ……」
「あの……」

 名前、誰につけてもらったと続けて言おうとしたが、それはアセシアの言葉によって遮られてしまった。声が重なってしまったため、互いに黙り込んでしまう。でもアセシアが話しかけようとしたということは、彼女もこの気まずい空気に耐えかねてのことだったのだろうか。
 とはいえ今のこの空気、さっきより気まずい。両方とも話しかけようとして押し黙ったために、話しかける前よりも酷かった。心なしかアセシアが早歩きになっているような気もする。

 ――その沈黙をずっと保ちながら二匹は港街に着いた。一応入り口にまで着けば、話すことはある。だが、アセシアの方はそそくさと街中央にある宿屋へと向かっていってしまう。

(俺、何かした……?)

 そう思わざるを得ないほどに無言のままのアセシアに、自分自身を疑うルフ。しかし、実際何もしてはいない。そんな彼の心情など知らないと言わんばかりにアセシアは宿へと足を動かす。彼女の背からは何を考えているのかは分からない。
 色々と考えているうちに無言のまま宿屋の前につく。三階建てで他の家に比べると一回り大きい。外装は清潔感のある白にまとめられていて、出入り口の二つ扉はまだ受付をしているためか開かれている。
 外観を眺めていると、アセシアはそそくさと中に入っていく。もう半分慣れつつもルフはため息をつくと、続いて中に入っていった。

「いらっしゃい」

 と、カウンターから中年のジュカインが声をかけてくる。アセシアはカウンター方に歩いていき、少し上を見上げた。

「二部屋空いてますか?」

 彼女の言葉にジュカインがばつの悪そうな顔をする。手元の紙を確認している時点で何となくそんな予感はしていたが……。

「……一部屋しかありませんね」

 案の定、悪い予感は見事に的中した。
 
 
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