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Day of Vengeance‐3‐『竜の運び屋』 の変更点


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**Day of Vengeance‐3‐『竜の運び屋』 [#j35f62df]

 鬱蒼と草の生えた草原を抜け、辺りの風景はだんだんと樹々が多くなっていく。さきほどまで隣を見れば砂浜が見えたのだが、高台へと向かっているためか青々とした海しか見えない。
 海から視線を外し、自身より少し前を歩いている一匹のエネコロロへと目を向ける。彼女は相変わらずこちらを警戒しながら歩いている。視線こそ後ろに向けないものの、周囲の様子に全く気を抜いていない。……あのキュウコンに襲われたばかりだから、無理もないか。
 しかしこうも彼女がフィアスに瓜二つだとなんだか気が狂う。スタイルが全くフィアスと変わらない。歩き方の癖や性格については違うが、逆にそれが妙な違和感を感じる原因にもなっていた。
 そういえば……名前聞いてなかったな。このままだと名前呼びにくいし、聞いておくか。

「そういえばあんたの名前、聞いてなかったな」

 彼女は薄紫色の毛に覆われた耳をピクリと動かすと、歩くスピードを少しだけ落としながら口を開いた。

「アセシア・ローゼルト。アセシアで構わないわ」
「アセシア、か……」

 俺がそう呟くと、アセシアは足を止めてこちらに振り向き目を細めた。

「変な名前?」
「いや、普通だが」

 少し睨むように聞いてくる彼女に向かってそう淡々と答えると、彼女は勝手に納得したのか再び歩き出す。なんか妙に動揺してたような……。
 そんな事考えても無駄か、と頭の中でひとりごちると、先にさっさと歩いていくアセシアに追いつくために少し小走りで彼女に駆け寄って行った。
 
 
 しばらく道を歩いていると突然辺りの樹々が無くなり、視界が開ける。その道先にある切り立った崖の上に小屋が一つ。恐らくあれが『竜の運び屋』なのだろう。
 目的の場所を目視できたからなのか、アセシアは先ほどよりもやや早めに歩いていく。後を追っていくと、小屋の前に誰かが居るのがわかった。

「……さっきのキュウコンか?」

 遠くにいるからか姿形がはっきりしない。分かるのは黄色っぽい色くらいだ。隣にいるアセシアに聞いてみると、彼女は歩きつつも目を細めて遠くを見る。しかし彼女は首を横に振った。

「違うみたいよ」

 小屋の方へと歩いていくにつれて、その黄色いシルエットがはっきりとしてくる。どうやら二匹いたようで、片方は大きいが片方はやや小さめ。だが明らかに二匹とも俺やアセシアより大きい。

「こんな辺境にわざわざご苦労様だな」

 黄色……というよりかはクリーム色のような滑らかな鱗を持つポケモン、カイリューがそこにはいた。二匹いるうちの大きい方がそう無愛想に挨拶をする。それを軽く鼻で笑いながら、アセシアはそれに返した。

「フフ……随分と暇そうね。配達の依頼がきていないかしら?」
「いんや、休業してるだけだ」

 アセシアの煽るような言葉を特に気にせず、カイリューは首を横に振った。アセシアが怪訝そうな表情を見せたためか、彼は続けた。

「息子の飛行訓練の最中でな。あんた達、おおよそミーディア大陸に運んでほしいとでも頼みに来たんだろうが……悪い。また今度にしてくれ」

 そう彼は言うと隣の一回り小さなカイリューを連れて崖の方へと向かっていく。……また無駄足になってしまった。確かに竜の運び屋があったが、まさか休業中とは。あのリザードンに一杯食わされたか。
 そう頭の中で思考しているこちらを後目に、アセシアは小首を傾げて言った。

「おかしいわね。普通、ハクリュウに進化した時点で空は飛べるはずよ?」

 その言葉を聞き取ってか、カイリューの親子の足取りが止まった。そして大きい方のカイリューがこちらの方へ振り向くと、口を開いた。

「少し事情があってな」
「良ければそのこと、私たちに話してくれないかしら?」

 ……ん? “私たち”? つまり俺もか……

「っておい、ちょっ……」

 制止の言葉も虚しく、アセシアはカイリューの方へと近づいていく。ため息を一つ漏らすと、俺は仕方なく彼女の後について行った。

「だってよ。話していいか? リュミエス」

 リュミエスと呼ばれた小さい方のカイリューは、アセシアとこちらを数回見ると、やがてゆっくりと頷いた。それを確認した大きい方のカイリューは一息おいて話し始める。

「こいつは俺の養子なんだが、空を飛ぶことがトラウマみたいなんだ。過去に何かあったんだろう」
「なるほど。さっきのは飛ぶ練習ってわけね」
「まあそんなところだ」

 アセシアは「ふーん」と呟くと、こちらに顔を近づけてくる。軽く後ろに首を反らすと彼女も理解したようで元の体勢に戻った。
 おそらく何かを話そうとして顔を近づけたのかもしれないが、俺自身誰かに顔を近づけられるのは好きではなかった。仕方ないといった感じでアセシアはカイリューの方へと視線を戻した。

「これは一種の取引なんだけど、その子が飛べるように私たちが練習を請け負う。でも、その子が飛べるようになったら、無料で私たちをミーディア大陸まで運んでくれないかしら?」

 さっき顔を近づけてきたのはそれを相談するためだったのか。……でもこうも勝手に物事を決められるのは何だか落ち着かない。今も勝手にリュミエスの飛行練習につきあうことにされてるし。
 しばらくの沈黙の後、カイリューは軽くうなって口を開いた。

「うーむ。こいつを飛べるようにすることが出来る確証があれば首を縦に振れるんだがな。しかも、そちらのお二人とも空を飛べる種族じゃないだろう」

 やはり一筋縄ではいかないと感じたのか、アセシアは意を決したかのように一つ息を吐くと、カイリューの元に歩いて行って耳元で何かを囁いた。聞こうとしても声がかなり小さいために、なにを言っているのか聞き取れない。
 時折、カイリューの目が見開かれたり、驚いたような表情になってはいたものの、話の内容が分からない今はただ首を傾げるだけ。カイリューの近くにいるリュミエスには聞こえているらしいが、内容が理解できないのか小首を傾げている。
 やがて話が終わったのか、アセシアはこちらの隣に戻り、カイリューは下げていた首をもたげた。そしてカイリューの口からある言葉が発せられた。

「分かった。あんたらに任せよう」
「交渉成立ね」

 一体彼女はあのカイリューに何を吹き込んだのだろうか。あんなに頑固そうな者を簡単に頷かせてしまうとは。……でもあんた“ら”ってことはやっぱり俺も含まれるのな……。

「あなたもそれで構わないわよね?」

 不意に彼女がこちらの方へ顔を向けた。

「あ、ああ……」

 とっさにそう反応してしまったが、船がいつ出るのか分からない。それなら、構わないか。
 しかし、彼女はどうやってあのリュミエスを飛べるようにするつもりなのだろうか……。
 
 
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