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Day of Vengeance‐20‐『爪痕』 の変更点


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**Day of Vengeance-20-『爪痕』 [#q23fc0f8]




 オレンジ色の灯りで照らされ、壁や天井や床すべてが鉄板で出来た薄暗い通路の中を、一匹のポケモンが歩く。
 紫色の、先が二又になっている尾を立てて、左右の足を交差させるように歩くその姿はきっと雄のポケモン達を魅了するだろう。
 しかし、薄暗い通路でそのエーフィの勝ち誇ったような笑みを見たら、きっとその印象など消え失せるに違いない。

「邪魔されるのは想定内だったけど、まさか“狩人の爪”が出てきちゃったのは正直想定外だったなあ~。ま、ミシャに思う存分仕返しが出来たからいいけど……」

 ふと、スコルの足が止まる。何かを察知したのか、怪訝そうにしながら耳をしきりに動かして辺りを見回している。

「何かあったのかな。何だか奥が騒がしいけど……」

 妙な胸騒ぎでもしたのだろうか、彼女は通路を駆けた。方向はポケモンを拘束するための小さな部屋へ。その部屋の前にたどり着くと、彼女はサイコキネシスで扉を開ける。そこには一匹ぽつんとブラッキーがいるだけだった。部屋の中にいるべきはずのエネコロロの姿が全く見当たらない。

「お兄ちゃん。これ、何が起きたの?」
「……スコルか」

 部屋に入ってきたスコルを見るや否や、そうブラッキーは静かに言った。そして見れば分かるだろうといわんばかりに部屋の隅に片付けられている鎖を首で指す。
 スコルは目を細めると、ため息をついた。

「つまり、逃げられたんだ。部下に追わせる?」
「いや、問題ない。血は採ったんだろう?」
「しっかり保管してるよ」
「なら、いい」

 ブラッキーは踵を返すと、そのまま部屋を出て行ってしまう。残されたスコルは鎖を睨みつけると、呟いた。

「私から逃れようとしたって、そうはいかないんだからね」

 そう……私から逃れようとしても結局は私の手に戻ってくる。孤児院にいた頃からみんなそうやってまとめてきた。たった一匹のポケモンだけを除いて。あのロコン……ミシャにだけは何故か私のこの特異な能力が効かなかった。
 今やあいつはキュウコンになってるみたいだけど、相変わらず私の邪魔をする。あいつがロコンであったときもそうだった。孤児院でみんなを正気に戻させて、そして最終的には私を非難した。私が非難されることなんて何もない。だってこうでもしておかないと、みんな私を置いていくから。
 それを見事なまでに邪魔をしてくれたミシャに一番の苦しみを与えられるのは、アルスを操ってアイツを困惑させること。挙句の果てにはパートナーに攻撃をされる。これ以上の屈辱はないはず。
 だけどやっぱり今回も邪魔が入った。まさかアイツが“狩人の牙”に入ってるとは思いもしなかった。でも嬉しい誤算もあった。アルスもそこに所属をしていて、なおかつそのリーダーと親しいこと。これならあちらも迂闊には手を出しては来ない。
 あとは、お兄ちゃんの計画を成就させるのみ。そうすれば私たちは……。

「家族になれるんだもんね……」

 スコルは誰もいない部屋で穏やかな笑みを浮かべてそう呟いた。











 ――壊れた噴水から流れ出ている水が、石を敷き詰めた道のくぼみに沿って流れていく。その水の冷たい感触が踏み出した足の裏に広がった。しかし、そんなことをいちいち気にかけている心の余裕など彼にはなかった。
 崩れた家々の壁。焼け落ちた屋根。ところどころが抉れた地面。辺りに残る戦いの爪あとが全てを物語っている。それも、いずれは直されるんだろうが……。

「……」

 目の前にあるのは家だったレンガづくりの壁。そこに向かって、俺は勢いよくかまいたちをぶつけた。
 元々崩れかけていたのもあるんだろうが、それはいとも容易く崩れ落ちた。脆い壁だと思った。


『そんな弱い癖に、“復讐”だの“助ける”だの言える立派な口があるなんて滑稽だね』


 アルスがフラット村を壊滅させたことを分かっていながらミシャの口から出たその言葉が、酷く頭の中にこだまする。自分の中で見直しはじめていたミシャに対する考えは、とっくに消え去っていた。今は憤りしかない。今まで知りながら、分かっていながら黙っていた彼女が。ただ怒りの矛先でしかない。
 しかし、それを彼女にぶつけることは出来ない。彼女自身が村を滅ぼしたのではない。
 滅ぼしたのはアルスだ。そう、復讐の対象がアルスであることがはっきりした今、遂げるべき目標は一つ。
 アルスを……。あのルカリオを……。


 ふと、町の入り口の方から足音が聞こえた。そちらの方に目を向けてみると、大きな影が二つ。
 何でかは分からないがその影に少なからず見覚えがあった。

「ルフ? ルフじゃないか」
「ヒース? それにリュミエスまで……なんでここに」

 そう、だ。確かヒースは右翼の治療のためにしばらく病院にいるはずだったんじゃ。まだリュミエスのほうは目立った外傷もなかったからもうここにこれるのはなんとなく分かるが……。

「レジスタの城下町が襲撃されたって聞いてすっ飛んできたんだ。ルフ、お前さん怪我はないか?」
「あ、ああ……。だけど、いくらか負傷者は出た」
「そうか……いや、お前さんや仲間が無事ならそれでいい」

 それを聞いてヒースは暗い表情を見せるが、すぐに表情を戻した。

「ここは俺の生まれ故郷なんだ。だがまさかここまで被害が出てるとは思ってもなかったな」
「……」

 ここがヒースの生まれ故郷……。
 自分の怒りばかりに目を取られてしまったが、この下町も誰かの故郷であることには変わりないのだ。その故郷を失うことがどれだけ苦しいことか、自分でも分かっているはずなのに。

「まあ、ここは王のお膝元だから修復も早いんだろうが、今の王じゃあまり期待はもてねぇかもな」
「……どういうことだ?」

 ヒースは壊れた噴水の近くまで寄ると、流れている水を見ながら言った。

「今の王は俺たちの生活になんて興味なんか無え。ってことだ」
「それであんな『&ruby(シフティ・ファング){狡猾なる牙};』みたいな反王政組織みたいなのが出来るんだな」

 俺の問いかけにヒースはゆっくりとうなずくと、「そういうことだ」と続けて言った。

「ん? どうしたリュミエス」

 リュミエスがさきほどからキョロキョロとあたりを見回しているのを見て疑問に思ったのか、ヒースが彼に問いかける。彼は戸惑いながらも答えた。

「あの姿って、もしかして……と思って」
「ん?」

 リュミエスが指を差した先に見えたのは、夕日の逆光でよく見えない誰かだった。だが確かに彼の言うとおり、なんだか見覚えのあるシルエットだった。
 ……こちらに近づいてくるたびにその姿かたちがはっきりしてくる。だが、その光景を信じることが出来なかった。そもそも彼女はあいつらに捕まっていたはず……なのに何故。

「アセシア……?」
「ル……フ……」

 よろめきながらもこちらに近づいてきたのは、紛れも無いアセシアだった。
 
 
 
 
 
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 ルフの復讐はどうなることやら。
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