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Day of Vengeance‐19‐『復讐の時』 の変更点


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**Day of Vengeance-19-『復讐の時』 [#d01f9479]


 辺りは騒然とした空気に包まれていた。ミシャは口元をわなわなと震わせて。ルイスは疲弊で荒くなった息を整えつつも警戒を怠らず。クロウは眉間にしわを寄せて怒りに体を震わせている。ただルフは何が起こっているのか把握が出来ずに、何に驚いたのかのかすら分からないのに、ただ驚いていた。

「ねえ。嘘だよねえ……。嘘って言ってよ! アルス!」

 ミシャが発した、アルスへの悲痛な呼びかけに彼はぴくりとも反応を示さない。ただ虚ろな瞳で前を見ている。いや、意識の無い状態で見ているといえるのだろうか。
 彼女の悲痛な叫びを聞いて、エーフィは笑う。

「あはははっ! おバカさん。何度呼びかけても無駄無駄。今は私のマリオネットなんだもの」

 まるでお遊戯でもしているかのように、エーフィは無邪気に笑った。それがまた現状との違和感を生んで、不気味さを際立てている。そもそもエーフィにとっては、本当にお遊びのつもりなのかもしれないのだが。

「さあて、存分に暴れて頂戴!」

 エーフィが頭の赤い宝石のようなものを淡く輝かせると、アルスは動き出す。近付いていたミシャへと、一撃を食らわせるために。唖然としていたミシャはその攻撃をもろに受ける、はずだった。

「ぐっ!」

 アルスの技『はっけい』がルイスの体に直撃する。今の動揺しきっているミシャでは避けられないと判断したルイスが素早く彼女の目の前に出たのだ。ルイスはそのまま大きく吹き飛ばされると、煉瓦作りの家の壁に激突した。やがて彼は呻き声を出して、その場にぐったりとしてしまう。

「ルイス!」

 クロウがすぐさまにルイスの元に駆け寄る。まだ微かに息をしているのを確認して、ただ気絶していることにほっと胸を撫で下ろすと、ミシャに向かって怒号を飛ばした。

「ミシャ! ぼぅっと突っ立ってんな! 戦うのが無理なら引け!」
「でも……アルスが……!」
「分かんねぇのか! 今のお前は戦えねえんだろ!」

 ミシャは次の行動指令を待っているアルスと、クロウの姿を見ると、やがて悔しそうにしながらその場から引いた。その行動を見て、エーフィは怪しく笑う。

「ふふふ……。そう、あなたは見ていれば良いの。アルスを使って、フラット村を崩壊させたときのようにね!」
「なん……だと」

 呆然としていたルフの耳がぴくりと動く。フラット村、崩壊……。まさか。こいつらが……?

 記憶の傍らに残されていた、フィアスの言葉を探る。
『……ルカリオとエーフィが率いてる集団が……』
 ルカリオとエーフィ。目の前にいるアルスと一匹のエーフィ……。

 以外な存在がその言葉に興味を示したのを見て、エーフィは面白そうに言葉を続けた。

「そうよ。フラット村を崩壊させたのは、紛れも無いこのアルスちゃんだから」
「それは違う! アルスを操っていたのはあんたじゃないか!」

 ミシャがエーフィの言葉を遮るように言った。エーフィは首を横に振りながらも笑うと、ルフの方を見ながら言った。

「違わないわ。私はただアルスちゃんの頭の中にある破壊衝動とか殺人衝動とかを増幅させてるだけ」

 そんな細かいことどうでもいい。
 ルフの頭の中で何かが音を立てて崩れ始めていた。

 奴が……村を……フィアスを!

 ルフは駆け出した。憎き奴に向かって。顔の横にある黒い鎌を光らせ始めたのを見て、エーフィは面白くなったとでも言うように笑みを見せる。そして、再びアルスが動き始めた。

「待って! ルフ! 誤解なんだ!」

 ミシャの言葉を無視して、ルフは走りながらも首を大きく振るい、光らせていた鎌から『かまいたち』を放つ。しかし距離が離れてしまっていたためか、アルスは容易く避けてしまう。違う。ルフはそれが狙いだった。彼はアルスの避ける先を予想して、もう二つのかまいたちを放っていた。アルスはやはりそれを見切っていたようで、高く跳躍して避けてしまう。

(なんだ……あの技)

 空中にいるアルスが反撃の動きを見せた。両掌を向かい合わせ、その間から何やら球体のものが形成されていく。見慣れない技だけに、ルフは次のかまいたちを放つ構えを取った。
 アルスが着地した瞬間を狙って、ルフは四度目のかまいたちを放つ。アルスも手の中の球体をこちらに投げ込んできた。だが……。

「ぐっ!」

 かまいたちは球体に砕かれ、そのままルフの懐に直撃した。ルフはそのまま吹き飛ばされて、地面に背を打ちつけた。呻き声が、辺りに響く。彼はなおも立ち上がろうとするが、ただでさえ疲労が重なったところに格闘タイプの技を食らったのだ。立てるはずも無く、しばらく地に伏せっていた。
 エーフィはその様子を特に表情を変えるでもなく見つめていたが、これ以上は動かないと思ったのか、つまらなそうに踵を返す。

「あ~あ。なんか拍子抜け。すんごく修羅場な気がしたから戦わせて見たけども。弱いじゃん。か~えろ」

 二又の尻尾をふらふらと揺らしながら帰ろうとするエーフィの後を、今まで下がっていた狡猾なる牙のポケモン達がついていく。アルスも例外なく。
 しかしその進路を、ミシャが遮った。その怒りに震えた形相に、いつもの彼女の面影は無い。

「アルスを……あたしのパートナーを返せ! スコル!」

 スコルと呼ばれたエーフィは二、三度だけ尻尾を揺らつかせると、やがてふっと笑って額の赤い宝石を輝かせた。アルスがミシャの前に立つ。

「どうぞ。でも、あなたなんかにアルスちゃん。“直せる”のかぁ? あはははっ!」

 スコルが妙な高笑いを発すると、アルスが動き出す。ミシャはアルスに警戒もなしに近付いていく。
 ……刹那。

「ぐぅっ! げほっ……けほっけほっ……!」

 アルスの拳がミシャの脇腹を抉った。ミシャが咽かえっても、アルスの表情は変わらない。ただ虚ろな瞳で、スコルの命令を聞く人形と化していた。それでも、ミシャはスコルの前から退かなかった。スコルはやれやれといったように首を横に振ると、再びアルスに命令を下す。

「がぁ! あぐっ!」

 一発、二発。次々にミシャの両方の脇腹に痛みが走る。次第にミシャの足がふらふらとしてくる。もう、彼女は限界を迎えていた。あと一発で、彼女は地に崩れるだろう。誰もがそう思ったとき、アルスの腕がふと止まる。

「あれ……?」

 おかしいな、とスコルは怪訝な声を上げた。アルスの表情を見ても、変化は見られない。彼女はため息をつくと、痛みに耐えながらも四肢を踏ん張って立っているミシャの横を通り過ぎる。過ぎる去るときに、彼女は目を細めてミシャに耳打ちをする。

「今日はコレくらいにしてあげる。でも、私があの時受けた痛みは、こんなものじゃないからね……」

 ミシャはその言葉を聞いているか分からないうちに、倒れこんでしまう。スコルは高笑いを浮かべると、他のポケモン達とその場から消え始める。ルフはゆっくりと立ち上がると、スコルに向かって叫んだ。

「待ちやがれ!」
「あらしぶとい。でも今日はコレでおしまい。また今度ね~」

 ルフが走ろうとした時には、もう彼女らは街から消えていた。ルフは地面を前足で強く殴った。

「ちっくしょぉぉおおお!」

 街の一端で、多くの者が倒れ伏せる中で、その叫び声が虚しく響いた。









 ――暖かい陽気の中、風に揺れる花畑。その波打つ様を、二匹のポケモンがその中で眺めていた。
 白銀のような毛並みを風になびかせながら、ただ無表情にその光景を眺めるポケモンと。
 紫色の大きな耳で葉揺れの音を聞きながら、嬉しそうに屈託の無い笑みを浮かべるポケモン。

「ねえ、ルフ。この花畑って、毎年春には100年前と同じように花を咲かせるんだって」
「そうか……」

 エネコロロが突然、アブソルに話を持ちかける。しかしアブソルの素っ気無い反応に、エネコロロは怪訝そうな顔をして、しばらくして理解したような顔をして。

「ごめんね。村の人たち、説得できなくて」
「あれは、フィアスの所為じゃない」
「うん……ごめんね」

 謝ることは無いというように否定をしたのに、なおもフィアスは謝る。ばつが悪いと感じたのかルフは頭を前足で軽く掻くと、話をすり替えた。

「なあ、俺がフィアスの家に引き取られた時のこと、覚えてるか」
「うん。覚えてるよ。あの時のルフ、何が何でもっていうくらいに、私に顔を合わせないようにしてたよね」
「え……そ、そこが一番記憶に残ってるのな……」
「だってあの時のルフったら、孤児院の係員さんの後ろに必死隠れちゃって……今思い出してもちょっと笑っちゃうかな」
「お、お前……」

 話を切り出したのは彼の方。でも、笑いながら話す彼女を見て、彼はうろたえながらも笑っていた。座り込んでいたフィアスはふと立ち上がり、ルフの目の前に立つ。そして、大きく息を吸って、しばらくして息を吐いた。振り返った彼女は、満面の笑みを浮かべていた。

「これからもルフとずっと一緒だよ……ね?」

 いきなり切り出した言葉に、ルフは戸惑いの表情を見せた。しかしそれが改めてよろしく、という意味だと汲むと、彼はまだぎこちない笑みを浮かべて。

「ああ……!」

 力強く、そう言葉を返した。










 ――負傷したポケモンを乗せた担架の滑車がカラカラと音を立てて運ばれていく。痛みに呻く者もいれば、軽症で済んだ者もいる。突然すぎる『狡猾なる牙』の襲撃だったにも関わらず、民間者の怪我人はないに等しい。しかし、軍のポケモンたちは重症の者ばかり。ミシャやルイスも、例外ではなかった。特にミシャの傷は酷く、横腹には痛々しいアザがいくつもつけられていた。……その元凶は、彼女のパートナーであるアルスのもの。
 病院の待合室。他のポケモンに比べれば軽症だったルフは、待合室でチリーンの『癒しの鈴』の治療で事足りた。しかし、待合室もすでに患者で溢れていて、ここももうじき病室状態になるだろう。胴体を包帯でぐるぐると巻かれたルフの隣に、クロウが座り込んだ。

「坊主」
「ルフだ」
「なあ、ルフ」
「何だ」

 クロウの言葉に、不機嫌な感情を露わにして答えるルフ。クロウはため息をつくと、未だに混雑している病室の中を見渡して口を開いた。

「お前、本気でアルスがお前の住んでいた村を滅ぼしたと思うか?」
「事実だ。村が無くなった事も。……フィアスが亡くなった事も」

 ぎり、と音が立ちそうなほどに、ルフの爪が病院の床を掻く。クロウの方を一度も向かず、ルフは言葉を続けた。

「たとえそいつが本心で村を壊したんじゃないとしても、俺はアイツを殺す。フィアスはもっと生きたかったはずだ。俺が殺されれば良かったくらいにな」

 そう言ったルフの声には、はっきりとした怒りが含まれていた。唇を噛み締めて眉間にしわを寄せる彼の顔を見て、クロウは眉をひそめた。

「そのフィアスは、お前に復讐なんてこと、して欲しくないんじゃないか」
「お前に俺のなにが分かるんだよ……。フィアスの……何が分かるんだ」

 クロウはうつむいてしまう。返事がないことを確認すると、ルフはふっと笑って立ち上がる。クロウは首をもたげてルフを見る。

「……どこへいく。待つんじゃないのか。ミシャやルイスを」

 ルフはその言葉に一度だけ足を止めると、しばらくしてまた歩いて行ってしまった。












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 戦闘描写って本当に難しい。
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#pcomment(コメント/DOV-Story19,10,below)


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