[[目次>Day of Vengeance]] &color(red){※この話には一部会話に官能的表現が含まれます}; **Day of Vengeance‐18‐『再会』 [#f31ae5aa] 暗い部屋。そこにあるのが不釣合なほどに白いベッド。そこだけが照らされて、あとは真っ暗闇だった。 ベッドの上に、私はいた。疲れきった体、回らない頭の中。そして、昨日の行為がありありと頭の中を走馬灯のように駆け巡る。 「…………」 私はアイツに……あのブラッキーに犯された。やらされたくもない責め苦を味わい、挙句の果てには未だ監禁状態。鎖こそつけられていないものの、この暗闇の中じゃ迂闊に歩くことすらままならない。ここで待っているしか、私には出来なかった。仮に動いたとしても、その仕置きにまたなにかをされると思うと体中が震えだす。いますぐにでもここから抜け出したいのに、それすらも恐怖に阻まれる今の状況は、最早足に鎖をつけられているも同然の様。 「起きてたんだ」 「……!」 暗闇から聞こえた声に思わず体を強ばらせる。だが、それがあのブラッキーの響くような低い声ではないことを確認すると、少しだけ気を緩めることができた。それでもまだその声が味方だという保証はどこにもない。私は黙ってその声の反応を待った。 「もう、こっちだってば。……あそっか。こっちから見えてもそっちからは見えないんだっけ」 そう言ってゆっくりと歩いてきたのは、スレンダーな体型に紫の体。透き通った藍色の瞳に、額にある朱色の宝石(のようなもの)がついたポケモン。エーフィだった。 睨みつけているこちらを気にせずに、終始笑顔を見せ続ける。しかしそれが今の私にとってはあまり心地の良いものではなかった。 「初めまして、だよね。昨日はお兄ちゃんがお世話になったね」 「…………」 このエーフィはあのブラッキーの妹らしい。可愛らしい喋り方はしているものの、あの変態ブラッキーのことを『お兄ちゃん』呼ばわりするところや、行為を『お世話』とか言っているあたり、こっちの味方じゃないことは確定に近い。 「お兄ちゃんったら、いつもは私を欲しがるのに。昨日だけはあなたが相手みたいだったけど」 エーフィは私の体を舐めるように見る。まるでそれは何かの品定めをしているかのように。やがて顔を離すと、彼女は顔をむすっとさせて言った。 「お兄ちゃんが私を差し置いてあなたとするくらいだから、もっと別嬪さんかと思ってたのになぁ。なんか拍子抜け」 その言葉を聞いて、私もむっとなる。そりゃ確かに私はあなたみたいにスレンダーじゃないし耳も可愛らしくないし、胸だってそこそこだけど……あんなのに犯されるくらいなら別嬪じゃなくて結構です。 そんな感情が顔に出ていたのか、エーフィはニヤリとして耳元に顔を寄せた。 「気持ちよかったでしょ? お兄ちゃんのアレ」 「……!」 彼女の言葉を聞いた途端、その場面が頭の中によみがえる。喘ぐ私自身。そして、緩急をつけて攻め立てるブラッキー。思い出したくもないのに、このエーフィは……。 不意に、隣にもうひとつの気配を感じ取って、すぐ背後に振り向いた。 「……!」 「あ、噂をすれば……」 エーフィは笑みを見せてそちらを向く。その視線の先には、紛れもないあのブラッキーがいた。相変わらず何を考えているのか分からない無表情な顔で、そして小柄な割には低い声でこう言った。 「スコル。前に話したとおりだ。そろそろレジスタへ向かえ」 「えー。もう?」 罰が悪そうに悪態をつくスコルと言われたエーフィ。二股の尻尾をくねらせて否定はするが、ブラッキーは手馴れた感じで彼女の顔に軽く口付けをした。 「行け」 「はいはい。お駄賃しっかりいただきましたよー、だ」 スコルは嫌そうにしながらも笑みを見せて身を翻すと、再び暗闇の中に消えていく。残ったのは私とブラッキーの二匹。早く、早くどこかへ消えて欲しい。 そんな願いも虚しく、ブラッキーは私の方へと視線を向けた。吸い込まれそう真っ赤な目。ポーカーフェイスのブラッキーの顔からは、何一つ思惑が読み取れない。 「お前はしばらくそこでじっとしていろ。おとなしくしていれば、危害は加えない」 「……もう十分に加えたじゃないの」 ブラッキーの言葉に苛立ちを感じ、折角立ち去ろうとしたアイツの足を私の言葉で止めてしまう。 「大丈夫だ。子は出来ない」 そう一言だけ残すと、スコルと同じように暗闇の中に消えて言った。遂に一人になった私は前足をわなわなと震わせた。 何が『子は出来ない』だ……! それでも初めての相手があんな変態ブラッキーだなんて十分過ぎる“危害”でしかない……! 怒りたくても怒れない、何もできない自分自身に苛立ちを覚えずにはいられなかった。 ---- 「んぅ……」 小さく呻き声を上げて、白い毛玉がのっそりと起き上がる。体をほぐそうとして、身を捩らすと、何か腹の部分に違和感を覚える。そのまま捩ってみてみると、包帯が巻かれているのが目についた。ミシャの部下たちが襲ってきた後、俺は気を失って……。 「ははは……結局負けちまったんだ」 あの戦闘が訓練なのは分かっていた。それでも、負けたということは、もうすでに死んでいてもおかしくはない身。自分が本当に弱いんだということを思い知らされたように感じ、自分自身に腹がたってくる。 ふと、誰かがドアを開けて入ってくる。ドアの形で気づいたが、ここはあの軍の宿舎みたいだ。でも、ここはルイスの部屋ではないようだが……。 「起きたね」 「ミシャ……」 金色の尾を重たそうに持ち上げながら、こちらへ近づいてくるミシャ。自分の身体に巻かれている包帯と、ミシャの顔を見ると、彼女は首を縦に振った。どうやらあの後、彼女がこちらに運んできたらしい。 「……弱いよな、俺」 ミシャを前にして、ちっぽけな自分から出た言葉は、自虐の言葉だった。淡々と、しかし微かながら憤りを含んだ言葉。ミシャは目をゆっくりと瞑ると、首を横に振った。 「あいつらを相手にして、最後の一匹まで追い詰めたんだからねぇ。民間者以上の力はあるサ」 彼女の、彼女のなりきの、励ましにも似た言葉。だが、それを素直に受け取れない自分がいた。包帯を巻かれた痛々しい自分の姿を鏡の中に見て、その中の顔が揺らぐ。 「“民間者以上”じゃダメだ……」 「なぜだい?」 「あのブラッキーは強い」 「そうだね」 自分の言葉を何とも思わない返答をするミシャに、さらに苛立ちを感じておもむろに立ち上がった。そして、眉間にシワを寄せて叫んだ。 「今の俺の力じゃ、アセシアを助けるどころか、誰かの足を引っ張る……!」 精一杯の抵抗だった。励ましてもらわなくていい。ましてや、過大評価なんていらない。そんな意味をも含めたその言葉を、ミシャは笑って一蹴した。 「アンタは今一匹なのかい?」 「え……?」 ミシャの言葉に耳を疑う。彼女は、窓の方まで歩いていって、外の子供たちのはしゃいだ声に耳を傾ける。 「あたしにだって、一匹じゃ出来ないことなんて、目一杯あるサ。でも、アルスがいたから、それを成し遂げることが出来た」 アルス、という名を聞いて思い出す。彼女も、自分の仲間を奴らに捉えられてしまっていた。彼女も、奴らに相当な怒りを覚えておかしくないはずなのに、いつもは平然を装っている。それはひとえに、彼女が強いからなのだろうか。 「あたしが苦手とする素早い立ち回りも、アルスがフォローをしてやっと克服出来た。でもそれは、彼が居るとき限定」 そこで彼女は言葉を切ると、こちらに視線を向ける。瞳に一切の揺らぎがない彼女を見て、無意識に生唾を飲んだ。 「あたしが言おうとしてること、分かるね」 「……何となく」 「それでいい……」 そう、今はルイスもミシャもいる。彼らの強さに完全に頼りっきりになるつもりはないが、今の自分にはフォローくらいしか出来ない。それでも、ミシャは自分が力になると認めてくれた。 だから、今はそれに答えるだけだ。 「ん……? もしかしてお取り込み中だったか?」 ――不意にがちゃりと扉を開けて入ってきたのはルイス。黄色い目を瞬かせながらこちらとミシャを交互に見る。疑問に思って目の前を見ると、気づかないうちにミシャの顔がかなり近い位置にあった。 「うおっ!」 「なにサ。いきなり素っ頓狂な声出して」 さっき話していたときは窓からベッドまでの距離はあったはず、いつの間に間合いを詰めていたなんて思いもしなかった。考えこむと周りが見えなくなる癖をどうにかした方がいいかもしれない。ミシャはこちらを睨みながら不服そうな顔をしている。 「その気はなかったけどサ、こんな別嬪の顔を見てそんな声上げるなんて失礼だよ、全く……」 俺の態度に気を悪くしたのか、そんな風にぶつぶつと何かを呟いている。ルイスはそんなミシャの様子など気に掛ける様子もなく、一旦息を吐いてから言った。 「……取り敢えず話があるんだが、いいか?」 「話?」 「ああ」 ルイスの誤解は解けたみたいだが、すぐに険しい表情をした彼を見て、こちらも自然と背筋が張る。やはりそこは軍人らしいと言えるかもしれない。 「地下水道で襲ってきたあのブラッキー……実は」 「奇襲だー! 総員迎撃体制に入れ!」 ルイスが何かを話そうとした瞬間、廊下から大声が聞こえた。それは、ルイスの仕事の合図でもあった。 「……たく、こんなときに」 ルイスが珍しく悪態をつく。切り出そうとしていた話はそんなに重要なものだったのだろうか。ミシャは窓の外を眺めていて、何が起きたのかを見ているようだった。やがてスタスタとこちらへ戻ってくると、目を細めた。 「多分軽く見る限り、市民の暴動ってわけじゃないみたいだよ」 「どういう意味だ?」 ミシャが言ったことに些かながら疑問が沸く。市民の暴動なんてここ最近起きてはいないはずだが。それに、暴動沙汰を起こさせるような政策でも、王はしているのだろうか。自分の住んでいた場所が田舎だったために、ここ最近の王政事情は全く聞かないのだ。それだけに、ミシャの言葉に疑問を持ってしまう。本題はそこではないのにも関わらず。 「多分あれは、“狡猾なる牙”だろうねぇ。ほら、マークのついたスカーフを巻いてるだろう?」 ミシャに首で促されて窓の近くまで行って見てみると、確かに全員赤いスカーフを身体のどこかに身につけている。 狡猾なる牙(シフティ・ファング)。表沙汰では『反王政組織』と銘打たれてはいるが、王政も軍も実質の組織の大きさなどは一切分かっていないというのがもっぱらの噂だ。しかし、こうやって活動を起こしているところを見ると、ミシャのいる狩人の爪(ハント・ネイル)よりも実害はあるかもしれない。 ふと、ルイスが廊下に出ていこうとする。ドアノブに爪をかけると、彼は言った。 「行ってくる。お前らはここで待ってろ」 ミシャはフンっと鼻を鳴らすと、ドアの方までスタスタと歩いていった。不敵な笑みを浮かべた彼女は、ルイスの横顔を睨んだ。 「冗談。あたしもついていくわよ。“狡猾なる牙”(やつら)に目にもの見せないとねぇ……」 「お前なぁ……まぁいい」 ルイスは続けて何かを言おうとはしたが、呆れたのか途中で言うのを止めてしまう。そして、その視線はやがてコチラの方にも向けられた。 「お前はどうする?」 「……行かないわけないだろう」 両者とも行くと口を揃えて言っているのに、自分だけ『俺はここで待ってる』など言えるはずもなかった。それに、ここで待っていたところで何かあるわけでもない。ただ退屈な時間を過ごすよりも、少しは戦って鍛えた方が後のためにもなる。 そんな考えを知ってか知らずか、二人とも反対はしなかった。ただ、ルイスは廊下の方を向いて一言だけ呟いた。 「無理だけはするな」 「分かってる」 こちらもそう小さく返すと、ルイスは頷いてから廊下へと歩を進めた。唯一ミシャだけはその光景を見て、ほんの少しだけ微笑みを見せた。 「……何だか親子みたいだねぇ」 ミシャにしてはそう独りごちたつもりだったのだろう。しかし、その声はルフに少しだけ聞こえていた。 「ん? 何か言ったか?」 「何でもないサ。ほら、行くよ」 ミシャはそう言ってルフを外へ外へと押し出す。迷惑そうな顔をしたルフだったが、すぐに自分の足で進み始める。ミシャはその後ろをついていきながら、どこか遠い目をして、そして俯いた。 (あたしの両親……どんな感じだったんだろ……) そんな考えを思い浮かべても今更意味はないと、彼女は首を横に振って振り払う。やや遅れ気味だった脚を早めて、ルフたちについて行く。 (あたしの両親は……どうせもうこの世にいないんだから) ミシャは心の中で、もう戻らないと、記憶の扉を再び閉じるのだった。 ---- さすが軍。と、言ったところだろうか。てっきり律儀に整列してから対向するのかと思いきや、こういう緊急事態の時は各々で現場に赴くらしい。既に街の中央に位置する噴水では交戦が始まっていた。住民はもうあらかた上の地区に逃げおおせたようで、見えるのは肩に紋章をつけている軍の者だけだった。先程まで明るかった街の風景はもう、無くなっていた。 「総員各個撃破でかかれ! 上層区には行かせるな!」 時折、別の隊長が指揮を取るために叫び声を上げる。勿論、それはルイスも例外ではなかった。 「民間者が残っていたら避難を優先させろ! その際は一匹(ひとり)で行動するな!」 いつもののんびりして余裕の表情をしていた彼の面影はなかった。むしろ、軍人として相応しい姿とも言える。指揮を取りながら面前にいる敵を“ドラゴンクロー”で容赦なく叩き落すルイスを横目に、ミシャも“火炎放射”で応戦した。ルフもかまいたちで次々に敵を退けていた。 「おらぁ!」 「くっ!」 突如戦っている中をすり抜けるようにマニューラが飛び出してくる。その狙いはミシャ。彼女は神通力を使って後転したが、それは先を読まれていた。マニューラはミシャの背後で、自身の爪についた血を舐めとると、にやりと笑った。 「何だ雌か。雌は雌らしく、さっさとお家に帰るんだな!」 マニューラは爪を振りかざしたが、それがミシャに当たることはなかった。その攻撃を防いだのは、エンペルトだった。自らのその巨躯を覆う巨大な翼を硬質化させて、マニューラの爪を受け止めていた。 「帰るのは……お前らだっ!」 エンペルトは翼を叩きつけてマニューラを飛ばす。それはルフの相手していたヘルガーに当たった。何事かとルフは辺りを見回して、そしてあの時のエンペルトだということを知ると、すぐにまた視線を戻した。ミシャはまた襲いかかってくる敵を神通力で片付け始めている。 「ありゃ、お礼も何もなし?」 「突っ立ってないで戦え!」 勿論、助けられたら礼をするのは当たり前ではあるが、ミシャはあえて無視をしていた。エンペルトは呆然と立ち尽くしていたが、ルイスにドヤされてしまう。手の爪でぽりぽりと困ったように頭をかくと、エンペルトは呟いた。 「世知辛い世の中だねぇ……」 そんな事を言っている間にも、しっかりと“つばさでうつ”で敵のテッカニンをなぎ払うエンペルトだった。 ――交戦が始まってからどのくらい経ったのだろうか。もう軍の者たちは疲弊していて、大分勢いが減っている気がする。しかし、それはこちらも同じだった。ルイスの腕を振るう力も先ほどの勢いはなく、ミシャも息が上がってきている。ルフも戦闘になれていないために、疲労が溜まってきている。顔には苦痛の表情を浮かべ、体には切り傷や打ち傷が見て取れる。 そんな状況を嘲笑うかのように狡猾なる牙(やつら)は未だに勢いを失わない。不思議を通り越して恐怖すら覚える。こちらは回復のサポートを行う役がいても手一杯な上に追いつかないというのに、やつらの方はその回復を担う役すら見当たらない。……いったい何がどうなっているというのだろうか。 「なんだい、あいつらは……まるでバケモノじゃないか……」 ミシャが肉薄してくるやつらを睨み付けながら、疲れて震えた声で呟く。ルフが疲弊をしているのはまだ戦い慣れていないからに他ならないが、手練の軍や狩人の爪に所属しているミシャ、それにあれだけの強さを見せたルイスであっても、劣勢を見せている。 「ふい~。こりゃヤバイな」 さきほどまで余裕の表情を見せていたエンペルトにも、だんだんと疲れが見えはじめていた。勿論、ルフも例外なく。 「くっそ……」 ルフの目の前にはストライク。鎌を大きく振り上げたその顔には、獲物を狩る狩猟者の笑みがあった。ここで反撃をしないとやられる。そう分かっていても、彼の体には避ける力さえも残ってはいなかった。狩猟者の腕が、力強く振り下ろされた――。 「大丈夫か? 坊主」 聞いたことのあるどすの聞いた声に、ルフは閉じかけていた目を開いた。橙色の巨大な体躯に、黒色の縞模様。ところどころが毛並みの良い毛で盛り上がっているその姿に、見覚えがあった。そこまで言葉を交わしたわけじゃないが、彼にとっては強い印象を与えたポケモン。しかし一番驚いているのはミシャだった。 「クロウ! なんであんたがここに!」 「街を守る為だ。流石に俺らの仕事の収入源をめちゃくちゃにされたらかなわん」 クロウ、と呼ばれたウインディは当たり前だと言わんばかりに首を鳴らしながらそう答えた。ルフにとどめを刺そうとしていたストライクは、いつの間にか地にふせていた。よく見るとところどころ焼け焦げたような痕が残されている。ルフはクロウを睨みつけると、苛々したような声で言った。 「俺は坊主じゃない。ルフだ」 「ほぉ、そうか。遅めの自己紹介ありがとう」 そういえば名前言ってなかったな、とルフはそう思って更に苛々する。クロウには何だか敵わないと、彼は抜けていた体の力を再び入れなおして敵の方を見た。いつの間にか、あの酒場で出会ったポケモンたちも参戦している。 「ここは俺らに任せてしばらくお前らは休んでろ。こんな数、俺らの敵じゃねぇ」 クロウはそう言って笑みを見せる。確かに“狩人の爪”の所属なら任せても構わないとは思う。だが、奴らは何故か衰えを知らない。いくら戦いに長けているからといっても、体力には限りがある。ルイスをふとルフは見た。首を横に振ると、クロウの方に近づいていく。 「感謝したいところだが、お前らに任せっきりなのは軍人として癪に触る。それにあいつ等は全く持って勢いをなくさないんだぞ?」 そう言うルイスの顔にははっきりとした疲労が見て取れた。その様子を見てクロウはやれやれといったように肩をすくめた。 「相変わらず固い上に弱気なんだな、お前」 「こんな時にお前なあ……!」 「あいつ等が疲れない理由。種明かししてやろうか?」 「……?」 クロウの不可解な言葉に、ルイスは首をかしげた。ルフもその言葉に疑問を抱く。種明かしということは何かあるのだろうか。下水道で襲ってきたブラッキーの“影”のように。クロウは敵の方に向かってふと叫んだ。 「いい加減出てこいよ。いつまでも姿隠して何がしてぇんだ」 ふと、敵が後退をし始める。何かを諦めた……いや、まるで今までのが前置きだったかのようにぞろぞろと後ろへ引いていくのだ。 「あ~あ。やっぱり勘の鋭いのがいるのね」 そう言って敵の中から出てきたのは、紫色のほっそりとした、この場には不釣合いとも言えるポケモンだった。そのポケモン、エーフィは笑みを見せると、言った。 「もっとみんなが弱ってから、このお人形出したかったんだけどなあ~。仕方ないか」 次に現れたポケモンに、ミシャの目が見開かれる。クロウも同様に表情を険しくした。そして歯を強く締めて威嚇するように言った。 「てめぇ……アルスに何しやがった!」 「嘘よ……そんな、ねえアルス!」 ルフには、何が起こっているのか、なぜミシャが悲痛な顔をしているのか。全く分からなかった。ただ分かるのは、アルスというポケモンは、エーフィの目の前にいるルカリオだということを。エーフィはただ笑った。本当にこの場に不釣合いなほどに凛々しい笑みを浮かべて、こうも言った。 「無駄よ? だって、ここにいるのはみーんな私のお人形。私が念じるだけで、みんなそのとおりに動いてくれるの! 勿論、アルスちゃんも例外じゃないよ?」 エーフィが念じるだけで、そのとおりに動く……? そんなこと、聞いたことも無い。それそれがもし本当だとしたら、ミシャのパートナーのアルスは……。 ルフはただ目の前に起きている出来事に、立ち尽くすことしか出来なかった。 ---- CENTER:[[前の話へ>Day of Vengeance‐17‐『素質』]] [[次の話へ>Day of Vengeance‐19‐『復讐の時』]] ---- 感想などありましたらどうぞ。 ---- #pcomment(コメント/DOV-Story18,10,below)