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Day of Vengeance‐17‐『素質』 の変更点


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**Day of Vengeance ‐17-『素質』 [#n39ce1d3]
 
 
 城下町の外門を通り過ぎて、レジスタから少し遠のいた、いわば町のはずれとも言うべき場所に、ルフは連れて来られた。とはいえ、街のど真ん中で訓練をするわけにもいかない。来るべき戦いに備えてミシャに特訓をしてもらうのだから、やはり一戦交えるのが一番ということになるのだろう。

「そういえばサ……」

 ミシャは草が生い茂った土の上でこちらに振り返りながらそう言った。「なんだ?」と問い返すと、彼女は目をちらつかせながら言う。

「アセシアに似たエネコロロ……というか、あんたのいう幼馴染みっていうのは、どんな性格してたんだい?」
「性格か……」

 咄嗟に聞かれても、すんなりとこうだ、と言えない。フィアスが亡くなってからもう2年が経っているからなのか、それとも彼女の性格が複雑だったからか。
 実際、彼女は幼いようで大人びたところもあったし、何も考えていなさそうで意外と考えていたり、とにかく一言でまとめるには難儀な性格なのだ。考えるのを抜きにして簡単にしてみると明るい性格だとか、活発な性格だったとしか……。

「答え難いかい?」
「いや。ただ、複雑な性格でもあって、でも明るい性格というか……」

 ミシャはそれを聞いて、目を上にそらす。

「つまるところ、表裏のある性格ってことなのかい?」
「そんな感じ……。でも違うような……」

 歯切れの悪いルフの言葉に嫌気が差したのか、ミシャはため息をつくと左の前足を左右に振った。

「ああもういいサ……。聞いたあたしが馬鹿だったね。さっさと訓練始めるよ」
「……誰から話しかけたんだか」

 ルフはそう呟くと、ミシャの無言の抑圧が彼にのしかかる。技ではない『にらみつける』だが、それはある意味では彼にとって効果は抜群だったのかもしれない。

 ふと、彼の白銀の毛を掠める風の流れが変わった。普通に風向きが変わるのならば別段気にすることはない。しかし今のは不自然すぎる。横から吹き付けていた風は、いきなり方向を変えて真上からの風に変わったのだ。それが詰まるところ何を意味するものなのか。横目で少しだけ見たミシャの表情がにやけるのを見て、何となく理解は出来た。
 上を見上げれば、そこには三羽のピジョンが輪を成して空を飛んでいる。先ほど感じた風の乱れは多分、これだったのだろう。延々と旋回飛行をしてこちらを見張っているところを見ると、いつでも攻撃が仕掛けられるようにタイミングを見計らっているのだろう。もしくは、ミシャの合図を待っているとでもいうのだろうか。

「さぁ! みんな遠慮なくやっちゃいなさい!」

 ミシャのその目一杯に出した大声を聞き、ピジョンが狙いを定めるように目を細める。どうやらミシャはこちらに手を出してくるつもりは一切無いみたいだが、問題はあの空を飛んでいる奴ら。こちらは確かに特殊攻撃の『かまいたち』は出せるが、空を飛んで生活をしている彼らにとっては、俺の攻撃は簡単に避けられてしまうだろう。それにあの技は出すまでに時間が掛かる。……そう試行錯誤を繰り返す自身の足元に迫り来るものを気にも留めていなかったのは迂闊だった。

「……っ!」

 地面の微かな揺れに気付いたときにはもう遅かった。下からえぐるように掲げられた赤い腕は、容赦なくルフの腹中を喰らう。その衝撃に、意識を手放さないようにと堪えている間に、もう一発のパンチが顎下にぶつかる。その慣性で彼は地面の上を転がされた。勿論、それで奴らの攻撃がおさまるはずも無く。

「おらぁ!」

 地面に伏せっているルフに反撃を許さないつもりなのか、更に追撃を食らわそうと猛進してくるリザード。ルフはその体に再度力を込めて何とか立ち上がろうとするが、予想以上に『あなをほる』が大きなダメージとなってしまった為か、なかなかいうことを聞いてくれない。四肢に力を込めてもガクガクと力が抜けて腰が入らず、痛みからか目も思うように開けることが出来ない。これでは臨戦体勢を立て直そうにも無理だった。迫り来るリザードを前にして、自分は無力だということを悟った。そして、ルフは成す術も無く、リザードの真正面からのパンチをもろに受けて吹き飛ぶ。意識が遠のきそうな彼の耳に、ふとミシャの声が聞こえた。

「そんな弱い癖に、“復讐”だの“助ける”だの言える立派な口があるなんて滑稽だね」
「くっ……」

 反論すら出来ない体のルフは、ただ悔しそうに身を振るわせるだけだった。今はただ、ミシャの言葉が痛かった。

「そんな弱いあんたがアセシア助けに行ったところで、無駄死にするだけサ。止めときな」

 確かに自分は弱い。でもアセシアは助けたい。フィアスに似ているからではなく、過去にフィアスを助けられなかった自分へのけじめをつけるためでもなく、“ただ助けたい”という不明瞭な気持ち。それでも、その思い自体は強いのが自分でも不思議なほど分かる。ミシャの言葉に少しでも抗いたくて、少しでも逆らいたくて、諦めた四肢に、再び力を込めた。

「あんたの言うとおり、俺は確かに弱い……」
「……」

 ミシャは立ち上がり始めたルフを見ても表情を変えずに、その様子を見ている。ルフはよろけて倒れそうになったが、持ちこたえた。

「それに加えて、出来もしないことをほざく……ただの雑魚かもしれない……」

 徐々に立ち上がり始めたルフを見て、リザードは目を瞬かせた。ルフは続ける。

「でも、ここで諦めたら……一生後悔するっ……そう思うからっ……!」

 今度は倒れないように、二度と地に背を着けないように、四肢に力を込めて、目の前のリザードをキッと睨みつける。地に立った自身の脚に確かな感触を感じると、息を整えて、右の黒い鎌へと意識を集中させた。

「あんたはそこでしばらく……眺めてろ!」

 そう叫んだのと同時に、ルフの鎌から真空の刃が放たれる。それは轟音と共に地を削りながら、リザードへと迫っていった。突然の出来事で咄嗟の判断が聞かなかったのか、リザードはそれをもろに受けてしまう。その威力で吹き飛んだリザードは、ミシャの横を通り過ぎていく。それでも彼女はその表情を変えなかった。まるで、今起こっていることがさも当たり前かのように。

 ルフはリザードが立てない状態になったことを確認すると、未だに上空を飛び回っているピジョンたちに目を向ける。ピジョンたちは顔を見合わせた後、ルフを囲むようにして上空から襲い掛かった。彼はその場所から走り出し、三羽の急降下を避ける。標的がそこにいなくなったピジョンたちは方向転換をするために失速をし始める。そして、列をなして彼の方に向かう。しかしそれが、ピジョンたちにとって仇になった。ルフはその並んでいるピジョンたちに向かって、水平にかまいたちを放つ。三列に並んだ真ん中のピジョンは他の二羽が退避をするまで動けない。結果、そのピジョンはかまいたちを避ける余裕すらなく、地に伏せてしまうことになる。残りは二羽。しかし、一羽がやられた時点で、もう既にルフは動き始めていた。
 体勢を立て直す為に低空で飛んでいたピジョンに不意打ちを仕掛けて沈めると、その際に力を溜めていた鎌を振りかざす。それはもう片方のピジョンに飛んでいく。しかしそう何回も上手く決まるわけもなく、それは軽々と避けられてしまう。同じ手は通用しないということだろう。そこまで相手も馬鹿じゃない。ただ、相手も単体になった以上、こちらにもまだまだ分はあった。次に掛かってきた時を狙って……。

「あれ……」

 そう思った瞬間に、急に目の前がくらくらし始める。足元をよく見ると、さきほどリザードに喰らった傷から血が滴っているのが見えた。知らないうちにかなりの血を失ったんだろう。歪む視界が途切れる寸前、ピジョンがこちらに鉤爪を向けて襲い掛かってくるのが見えた……。
 
 
 
 
 ――ミシャはその光景をただ表情も変えずに見ていた。……神通力を使っていること以外は。

「ちょ……姉御さん……冗談きついっす」

 そこには、ミシャの技によってに『空中で』止められた哀れなピジョンの光景。鉤爪はあと少しでルフの首を刈るところであった。

「冗談? あたしは冗談を言ったつもりはないけど。それに、今回はただの“訓練”って言っておいただろう?」
「いや、そんなことクロウの旦那からは一言も……」

 その先を言い切ろうとしたピジョンは、そのまま地面にどさりと落とされる。ぐっと、小さな声を上げた部下を余所に、ミシャは目を細めた。

「あの性悪の糞犬に言付け任せたのが失敗だったね。後でたっぷり……」

 口元を吊り上げて、しばらく危ないことを口走っているミシャ。勿論、そんな様子にピジョンたちや、いつの間にか起き上がっていたリザードも身を縮込ませるしか出来ないのであった。
 ミシャはルフを神通力でゆっくりと持ち上げると、自分の背に乗せた。部下達に撤退を促した後、彼女は背で意識を失っているルフを見て眉をひそめた。

(ちょっと揺さぶっただけであそこまで戦闘の能力が浮き彫りになるなんて……案外素質があるのかもねぇ)

 いつの間にか血は止まり、寝息を出し始めたルフを見て、彼女は軽く笑いを見せてその場を後にした。
 
 

 
   
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 太陽が空の真ん中に差し掛かったのを、窓から少しだけ確認すると、ガブリアス、もといルイスは再び書物へと目を向ける。ふと机の上に置かれた顔写真と手元の書類を見比べて、その顔は険しいものに変わる。

「まさか……。いや、あいつは、確かに……」

 顔写真に写る一匹のブラッキーを見て、瞳孔をちらつかせる。頭に浮かぶのは、地下水道で会ったあのブラッキーの姿。そして、過去の英雄の勇士。過去の親友とも言えるべき者の存在……。
 そして、そのブラッキーが得た特異な、異質な能力、更には性格まで変わってしまった親友、“ハティ・リカール”……。まさかと何度も首を横に振るが、ルイスの不安は依然として根深いところで燻ぶっていた。

「きちんと片を付けたと思っていたが……いや」

 徐々に商業都市としての賑わいを見せていく街を窓から見つめながら、ルイスはしばらく何かを呟いていた。
 
 
 
 
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