[[目次>Day of Vengeance]] &color(red){※この話は官能表現が含まれています。}; **Day of Vengeance‐16‐『重なる身体』 [#r3060f1b] 月明かりに映し出される部屋の隅々。この部屋は窓の位置が丁度良いためか、月光が満遍なく差し込まれている。その上、それを巧みに跳ね返す化粧台の鏡が神々しく輝いているため、明かりが無くても十分に歩くことが出来る。更にはその部屋に真っ白な毛並みを持ったポケモン、金色のポケモンがいれば尚更の事。 何故かその二匹のポケモンは何も喋らずに、ただずっと床と睨め合いをしていた。その沈黙を破るかのように扉のノックする音が聞こえてくる。白いポケモン、つまるところルフは慌てたように金色のポケモン、キュウコンのミシャに隠れるように指示をした。 「何で。別にやましいことなんてしてないんだから、隠れる必要なんてないだろう?」 「いいから早く隠れろ!」 ルフの最小音量の、かすれた怒声を聞いて、ミシャは不満そうな顔を浮かべたが、やがてベッドの下に潜り込む。それをルフは確認した後、「入っていいぞ」と廊下に続くドアに向かって言った。 重たい足音だったために、ルフはそれがルイスなのだと思い込んでいた。だが、実際にドアを開けて入って来たのは違うポケモンだった。黒く巨大な体を縫うようにして走る青いラインに、黄色い嘴、そして頭の象徴的な王冠のような角。ルイスの同期でもあるエンペルトだった。 「……? あんた、何の用なんだ?」 「あれ~。おかしいなぁ、ここにあの別嬪キュウコンさんが来てた筈なんだけどなぁ」 その一言を聞いて、ルフは「ああ~なるほど」と、そのエンペルトに聞こえないように呟く。とりあえず、ミシャには窮屈な場所に隠れていてもらっているわけだから、さっさとこいつを部屋から追い出してミシャもこの部屋から追い出さなければ……。 「あのキュウコン、というかミシャはついさっき出て行ったよ」 「あれ? じゃあ、どっかですれ違いにでもなったのか……見つけたら、俺が呼んでいたとでも伝えてくれ」 そういい残しながら、案外あっさりと部屋を出て行くエンペルト。ミシャを探していたと言うのは、廊下で話していた『例のこと』なのだろうか。どちらにしろ、ルフには関係は無かった。彼の元へ行くかどうかは、今ベッドの下から這い出てくるミシャに任せるしかない。 「ぷはぁ! いくらこんなに部屋が豪華でも、ベッドの下は埃っぽいなんて洒落にならないよ! たくっ!」 窮屈なベッドの下に潜らされた上に、金色の毛並みに所々ついた灰色の点々が、彼女の怒りを助長させていたらしい。まぁ、俺もベッドの下に潜るのはごめんだが、実際あんないきなりこられたら、そうするより他には無かった。つまり、隠れるような場所が他にはないのである。ある意味、対侵入者用にはなっているのかもしれないが。 「とりあえず。あたしはこのままあのエンペルトのところに行く」 ということは、彼と……。ここから先はあまり想像したくないので止めておく。少なくともこいつの前でそんな妄想をしたくもなかった。 「はいはい。さっさと行った」 厄介払いをするように(というか実際に厄介な奴ではあるのだが)前足を振ってシッシッと彼女を部屋から追い出す。ミシャは不服そうな顔をしていたものの、ドアを閉めれば関係なし。ぴしゃりとドアを閉めると、辺りは再び静寂が包む。 ……はずだった。 「ふぃ~。食った食った」 どっかの親父のように、鉤爪を使って器用に歯の掃除をする様を見て、こんなのが本当に軍人なのだろうかと思うと、翼を焼かれたヒースが可哀想でならない。 「ん? なんだ。いきなり溜息ついて」 「……なんでもない。俺はもう寝る」 疑問符を頭の上に浮かべているルイスを余所にして、ルフは二つある内の一つのベッドに沈み込んだ。 「あれ……」 「今度は何だ?」 ルフは不意に疑問を持ち、自分が寝ているベッドとはもう片方のベッドの方を見る。何故この部屋は二つもあるのだろうか。ルイスがこの部屋に泊まっているのだとしたら、本来ベッドなど一つで構わないはず。……ここで聞くのは野暮だろうか。 「なんでベッドが二つもあるんだ?」 ルイスは首を微かに動かし、眉をひそめた。 「ああ、それか……」 やがて彼はルフが乗っているものとは反対の方にあるベッドに腰を掛けると、天井を仰ぎながら口を開く。 「元々、そっちのベッドは俺の同期の奴のだ……もういないけどな」 「……」 ルフは何と返せばいいのか分からなかった。ふと疑問に思ったことを聞いただけだったので、まさかこんな重たい話に発展するとは思わなかったのだ。 「俺が軍に入ったのは金の為だ。誰かを守るとか、そんなこと考えたこともない。……そしてそういう奴ほど簡単に死ぬんだよ……あいつみたいにな」 そのとき、ルイスは今までで一番軍人らしい表情をしたのかもしれない。発した言葉とは裏腹にその顔には、俺には分からないような、深い後悔のようなものが垣間見えた気がした。というのも、すぐにルイスは表情を戻し、首をもたげていたからだった。 「しけた話をしちまったな。寝るんだろ?」 「あ、ああ……」 ルフは言いようのない罪悪感を抱えながら、壁の方を向いて横になり、そして目をゆっくりと瞑った。だが、あんな話をして寝につけるはずもなかった。 しばらく目を開けたままで壁を眺めていると、ルイスは大きく息を吐く。 「ルフ。まだ、起きてるか?」 どうやらルイスの方も眠れなかったらしく、向きを変えずにこちらにそう聞いてくる。 「あ? ああ。一応」 そう答えると、ルイスの方から一度息を吸う音が聞こえてくる。そして何を言うのかを決めたのか、やがてゆっくりと話し出した。 「お前はアセシアを助けたいんだろ? 明日、俺があのブラッキーについての情報をあさる間、ミシャに稽古でもつけてもらうといい」 「分かった……てか、明日頼むつもりだったしな」 ルイスはそれを聞いて頷く。実際に頷いたかどうかは分からないが、毛布が擦れる音がしたから何となくそれで分かった。その後も無言状態が続いていたから、多分「寝ろ」ということなのだろう。こちらも明日の稽古が出来るようにもう寝たほうがいいかもしれない。 そう思って目を閉じると、意外と早く夢の中に放り出されるのは何故なんだろうか……。 ---- ふと目を開けると、そこには暗闇が広がっていた。少なくとも、この暗さと湿度の無さから、あの下水道じゃないことくらいはひとまず理解できた。 「んっ……」 長く寝入っていて固まった体を伸ばすと、足の方からジャラジャラと鬱陶しい音が聞こえる。薄々感じてはいたけれど、私は拘束されてしまうことに慣れてしまってるのかもしれない。もう足に何かを括り付けられるのに違和感を感じなくなってしまっていた。 深い紫色の耳から聞こえてくるのは私自身の息遣いと、静寂をありありと感じさせる、あの甲高い音しか聞こえない。目に見えるのは何処まで続いているのか分からない遠い暗闇と、自身の足元に見える僅かな床のみ。 「お目覚めかな?」 「……!」 それは本当に刹那、としか言いようが無かった。途端に現れた、黄色く光る輪を全身に貼り付けたかのようなポケモンが、そこにはいた。あの下水道で、私たちを襲ったブラッキーだった。私はいつのまにか逆立っていた自分の毛並みを押さえ込むと、何とかそのブラッキーと対峙することが出来た。だが、その様子をありありと見ていたブラッキーには、逆に手玉に取られてしまう破目になる。 「そんなに警戒をしなくても構わないだろう。もっと肩の力を抜いたらどうだ?」 ブラッキーはそういいながら更にこちらに歩み寄ってくる。……自分の体が震えていることが嫌でも分かる。それほどまでにこいつは嫌な覇気があった。言い知れない何かが……。 「こんな風にな……」 「あっ……」 そいつがした行動に、私は思わず声を上げてしまった。それと同時に、強張っていた体の力が急に抜けていった。正直、そいつが何をしたのか、信じたくは無かった。そいつは尚も言う。 「いくら私が敵とはいえ、体は正直と言うことか」 「……そういう趣味?」 ブラッキーに向かって鋭い視線をむけたつもりだったが、そこでそいつがしている行動にうろたえてしまう。そいつはその黒い前足を舐めていた。そう、私の恥部を撫でたその手を。 「ふむ。さてと、これから何をしてもらうか、分かるな?」 「……」 私はそいつをただ睨みつけるしか出来なかった。技としてではなく、自分の意地として。でも、それがそいつにとって全く無意味であることはよく分かっていた。あの下水道で対峙したとき、あり得ない速さで私の目の前に現れ、そして気付いたらここ。並大抵のポケモンが出来うることじゃないのは十分なほど分かりきっていた。それでも、雌としての意地は私にもあった。 「その目、どこまで持つか見ものだな」 「う……あぁっ……」 再び撫で上げられたことで声を上げてしまう。こんな奴に喘ぎ声を上げてしまうのが本当に情けなくなってくる。しかしそんな思考を続ける暇を私に与えるつもりはさらさら無いようだった。ブラッキーはそのしなやかな体をくるりと反転させると、私をころりと押し倒す。……そしてその口先を私の秘部に向かわせた。 「んっ……くぅっ……!」 わざとらしくぴちゃぴちゃと音を立てながら舐めるブラッキー。ふと私の目の前に、そいつの一物が差し出された。 「舐めろ。でないと、お前のここが赤く染まることになる」 「んんっ……ふっ……!」 舐めながらもそう要求してくるその器用さに呆れながらも、今はそれに従うしかなかった。鎖で完全に縛られている今、私に……為すすべは無い。 ---- 誰に起こされたわけでもないのに、ルフはゆっくりと目を開ける。寝ぼけ眼で窓の方を見ると、まだ日が出ていない。少し起きるのが早すぎたのだろうか。 「あれ……」 ふとルイスが寝ていたベッドに視線を向けると、そこに彼の姿は無い。もう起きたのだろうか。まぁ、そこは『軍人だから』で片付けておくことにする。 「……」 起きたからといって別段何もすることは無く。稽古をつけてもらうためにミシャのところに行こうとしても、今の時間では早すぎる。いくらなんでもこんな朝早くに起こすのは気が引ける。……というより、殺されてしまうかもしれない。 「あら、案外起きるの早いね」 仕方なくもう一度寝に入ろうとしたが、それを遮るようにミシャがドアをノックもせずに入ってくる。 「なんだ。起きてたのか」 「毎日この時間には起きてる。それより、ルイスはどこに行ったんだい」 「俺が知るか」 「知ってると思って聞いたんだけど……まぁいいさ。……さて」 ミシャはルイスのベッドの方からこちらの方に視線を変えると、段々と歩み寄ってくる。昨日のこともある、少なからず警戒をしながら彼女を見ていた。彼女はため息をつくと、目を細めていった。 「……なに露骨に警戒してるのさ。あたしは別にそんなつもりはないよ」 「俺は別にそんなこと……ん」 彼女はいきなり俺の口に前足を添える。何も言うなとでも言いたげな表情のうちに、何故か笑いを堪えているような気がした。それはあながち間違ってはいなかった。ミシャはもう片方の前足で俺の……を指した。 「立ってる……プふッ……」 「……!」 笑いを堪えながらそういうミシャ。自分でそれを確かめた途端、顔が赤面していくのがありありと分かった。今自分の顔を見ようものなら、それはもう滑稽だっただろう。彼女は更に言った。 「ま、欲求不満ならさ……別にあたしが相手してもいいんだけど? ……っぷ」 「……遠慮しておく」 口を尖らせながらその『冗談』に対して断りを入れておく。ミシャはハーッと息を吸って呼吸を整えると、前足を今度は彼女自身の口に当てた。 「ちなみに言うと、昨日の夜はエンペルトとはしてないよ。あたしはそんなに尻軽じゃないからね」 ミシャはそう付け足すと、あ……と、何かを思い出した顔をして言った。そんな恥ずかしい話題から反らそうとしてか、ルフはミシャからわざと視線をはずして言う。 「それよりも、お前に頼みたいことがある」 「はいはい。稽古に付き合いますよ」 「……!」 今しがた頼もうとしたことを糸も簡単に当てられ、いかにも図星といったような素っ頓狂な表情を浮かべるルフ。それを見てミシャはくすくすと笑うと、やがて踵を返して言った。 「さて、行くんだろう? さっさと町の外れにでも行くよ」 「あ、ああ……」 あまりにも話の早いミシャにおされ気味になっているのは仕方が無いことだとして、何故彼女は俺が稽古を頼むことが分かったのだろうか。もしかして、ルイスが手配でもしたのだろうか。そうだとしたら、何らかのお返しでも考えておかないといけないかもしれない。 ---- CENTER:[[前の話へ>Day of Vengeance‐15‐『二者択一』]] [[次の話へ>Day of Vengeance‐17‐『素質』]] ---- やっと来た官能シーン。でも水際で止める。 感想などありましたらコメントどうぞ。 ---- #pcomment(コメント/DOV-Story16,10,below)