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Day of Vengeance‐15‐『二者択一』 の変更点


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**Day of Vengeance‐15‐『二者択一』 [#c27b9e87]


 ――アセシアとどういう関係か……。
 それは単純に知り合った仲、としか言えない。他に考えたところで何かが出てくるとも思えない。一体ミシャは何を考えて俺を縛っているのだろうか。彼女の表情を見たところで感情を読めるほど俺は器用じゃない。その沈黙のまま睨み合いが続いていたが、それを破ったのは彼女の方だった。

「さっさと答えないと、あんたの身がどうなるか……」
「ああ、分かったから。まずこの状況をどうにかしてくれ。話すにも話しにくい」

 神通力で縛られた状態で、しかも地から少し浮かんでいる状態ではどうも落ち着いていられない。だが、彼女の方は下ろしてくれるつもりは一切ないらしい。相変わらず何を考えているのか全く読み取れない表情で段々とこちらを苦しめていく。

「くっ……あいつとは特に何も無いといったら?」
「じゃあ仮にそうだとして、何であんたはあんなにアセシアに拘るんだい」

 ……確かに、何故なんだろう。よくよく考えてみれば、ただ行きたい場所が同じだったというだけでしかもその道中は一切詮索はなし。攫われても、自分から探しに行こうと普通は思わないはず。やっぱり、アセシアがフィアスに似ている……からだろうか。ミシャは俺が考え込んでいる表情を見てか、軽くため息をついて俺を地面へとゆっくり下ろした。そして身体の拘束がやっと解かれる。

「はぁ……。まさか、よく分からないとかで片付けるんじゃないだろうね」
「いや、それしか言いようが無いし」
「ったく。ただの御人好しに邪魔されてたなんて、我ながら滑稽だよ」

 ミシャはこちらを睨みながらも、深くため息をついた。
 いつも思うのだが、彼女は何故か盗賊とか暗殺を行なうような性格には思えない。依頼を受けたことは絶対とする割には、依頼人(クライアント)が依頼を打ち切れば何事も無かったのかのように接してくる。本当に不思議なポケモンだ。

「じゃあ聞くけど、何であんたはあの後もアセシアと一緒に居たんだい? 関係が無ければ一緒に居る必要性はないじゃないか」

 『あの後』というのは多分、アセシアを助けたあの時の後のことだろう。その後、リュミエスとヒースにこの大陸に運んでもらうのを手伝ってもらったとき、再度ミシャたちはこちらに襲ってきたことがあった。多分その時に気付いたのかもしれない。でも、あの時俺はアセシアと一緒に居なかったはずだが。まさかつけられていた?

「アセシアとは行き先が同じだったから、一時的に一緒に居ただけだ。というか、あの後も俺があいつと一緒に居たことを知っているってことは密かにつけてたな?」
「当然。クライアントの依頼を遂行するなら、それくらいはするサ。ただ、空飛ばれた後は追いつけないから、船で来たんだけどサ。まさか軍に間違えられて撃ち落とされたと知ったときには、あたしも依頼失敗したかと思ったよ」

 次々に自分の過去の行動経緯を明らかにするあたり、こちらに対する敵対意識はもう無いということだろうか。それとも油断させるためにそういう話をしているのかもしれない。

「で、ふと思ったんだけど、それじゃあんたの元々の旅の目的って何なのサ」

 今の旅の目的……。今までアセシアの騒動で忘れかけていたが、フラットの村を壊滅させた奴への復讐だ。それを簡単に彼女に話していいものなのか。……だが、よく考えてみれば彼女はその手の情報ならかなり知っていそうな気がする。仮にも「狩人の爪(ハント・ネイル)」に所属しているから裏の情報には詳しそうだ。

「ある奴を探しているんだ」
「へぇ。人探しかい。で、どんな奴なのサ」

「俺の育った村……フラットを壊滅させた奴を、な」

 予想外の言葉だったのか、ミシャは一瞬だけ目を大きく見開く。しかしさすが狩人の爪に所属しているだけあって、すぐに表情はいつものように平然としたものに戻ってしまう。

「まさか、そんな理由があったとはねぇ……」
「……まだ情報の一つも、掴めてないけどな」

 そう呟くように言ったのを聞き、ミシャはからかうように笑う。

「アハハッ……。それ以前に、あんたのその強さじゃ復讐なんて到底無理だろうけれどね」
「うるせぇ……」

 確かに俺は弱いかもしれない。ミシャに軽々とあしらわれてしまったし、何よりも犯人が分かったとしても、勝ち目は無いだろう。そんなことは旅を始めた当初から自分自身がよく分かっていた。それでも、何もせずに入られなかった。元々、フィアスや町を無くした俺には何も無かったからかもしれない。復讐のために動き始めたのは……。

「ま、別にあたしが稽古をつけても構わないんだけどサ」
「……遠慮しておく。小賢しい事も覚えこまされそうだ」
「それどういう意味だい……」

 丁重に断るとミシャは目を細めてそうため息をつきながら言った。まぁ、ある程度は予想していたのだろう。彼女は表情をまた戻すと、話を本題に戻した。

「で、それ聞いて一つ思ったんだけど。あんたは何でアセシアを助けようとするんだい?」
(……くどいな)

 何でこうもアセシアのことについて興味を持っているんだろうか。クライアントの依頼で攫うはずの『標的だったから』というのもあるが、それにしては少し深入りしすぎている気がする。
 でも、聞かれてみれば意外に疑問に思う。何で俺はこうもアセシアのことを助けようとしているのだろうか。本来なら目的のレジスタについたのだから、もう既にアセシアと行動する意味は無いはず。やはりフィアスに似ているのが一番の要因なんだろうか。自分自身でもよく分からない。単なるお人好しなのか、それとも無駄に正義感があるからなのか。どちらも何故か当てはまらない(というか、当てはまりたくない)。

「なんか。よく分からないって顔してるねぇ」
「本当に自分でもよく分からないんだ」

 その言葉を聞いて、考え込むかのように俯くミシャ。相変わらず彼女は何を考えているか分からない、まさにポーカーフェイスといった感じだろうか。何か考え事をしている素振りなどは見せるのだが、それはどちらかというと上辺の表情で、本当の感情が読み取りにくい。彼女が狩人の爪(ハント・ネイル)に所属していたからなのかもしれないが、ここまで感情が分からないとなると不気味にさえ思えてくる。
 やがてミシャは一つ考えを浮かばせたのか、ふっと顔を元に戻してこちらをずーっと見てくる。一体何なんだと眉をひそめると彼女は口を開いた。

「あんた。もしかしてアセシアの容姿が、村に住んでいた誰かに似てるから、妙に助けようとするんじゃないのかい?」
「……っ」

 図星、としか言いようが無かった。アセシアはフィアスに似ている。それが確かに助けようとする要因になっているのかもしれない。……本来の旅の目的を忘れるほどに。
 ミシャはこちらの表情を見て当たりだと判断したのか、更に言った。

「でも、アセシアを助けることがあんたにとってマイナスに作用するかもよ?」
「……何でだ」

 ミシャは呆れたようにため息をつくと、窓の外に見える月を眺めながら言った。

「アセシアは良いとこのお譲さまだからねぇ。助けてもあんたが被害を被るかもしれないんだよ」
「良いとこのお嬢さま? それにしたって、狙われすぎだろう」

 良いとこ……つまるところ貴族出身ということなのだろうか。それを考えると、彼女がリュミエスに飛び方を教えるときにかなり詳しかったのにも納得がいく。貴族は全員英才教育を受ける、と聞いたことがある。多分、彼女もそれを受けていたのだろう。
 ミシャは目を細めながらこちらを向く。

「質問をそらさないで欲しいね。あんたは自分の旅の目的を達成させることと、アセシアを助ける方。どっちを取ろうとしてるんだい」
「まるでアセシアに関わるな、とでも言っているようだな」
「……怒るよ」
「はいはい。答えればいいんだろう」

 ……旅の目的と、アセシアの救出。どちらを優先させれば良いかなんて、あまりにも難しすぎる。
 利害で考えるなら、当然旅の目的を優先させるべきだと考えるが……。それじゃあまりにも冷たすぎる。まるで今までやろうとしておいて、分が悪くなると逃げ出す臆病者の縮図だ。というかこれじゃ、自己保身なんじゃないかとも考えてしまう。

「あんたねぇ……そういう風にいちいち深く考えるから深みに嵌るんじゃないの? もう少し直感的に答えを出してみなよ」

 直感的といわれても、これはそう簡単に決められる問題でもない。だが、ミシャの言葉にも一理あるかもしれない。俺が本当にしたいこと……。
 そういえば、フィアスにもさっきみたいに言われたことがある。深く考えずに、きっぱりと答えてみて……と。

「俺は……」
「ん……?」

 フィアスを俺は助けられなかった。そのことを悔やんでも悔やみきれなかった。自分が許せなかった。でも……。

「今は、アセシアを助けることを、優先させたい」

 今度だけは救えそうな気がするから。だから、その答えを選んだ。
 
 
 
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 なんというベタな展開。今回はちょっと短いです。
 感想などありましたらコメントどうぞ。
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