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Day of Vengeance‐13‐『影』 の変更点


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**Day of Vengeance‐13‐『影』 [#q4452ef3]
 
 咽せかえりそうな悪臭の中で、ルフ達は足を進めていた。首都なだけあって汚水はかなりの量だが、さっき来た時よりも更に水かさが増している気がする。
 そういえば今は何時なのだろうか。酒場に入った時には既に日が傾いていたような覚えがあるが、だいぶ地下にいた為に感覚が狂いそうだ。
 歩く度に背後に気を使っているミシャを見ながら、こちらも警戒を怠らないようにする。たとえ今は休戦中だとしても、アセシアを狙っていたのには変わりない。

「ルフ。ミシャに対して警戒心むき出しよ」

 ふと隣にいるアセシアに指摘され、それが聞こえたのかミシャがこちらに顔だけを向ける。

「ま、警戒されるのは当たり前だからね。気にしちゃいないよ」

 そう言ったミシャの表情はどこか暗い。アルスという仲間がいないことが原因なのか、それとも信用されていないからなのか……。おそらくは前者だろうが。
 
 
 
 ――ただ足音と水音が反響するこの地下水道を、どのくらい歩いただろうか。行きの時より長い道を歩いている気がする。ルイスもそれに気づき始めたのか、しきりに辺りを見回していた。

「おかしい……道はあってるはずなのに」

 ふとミシャはそう呟くと足を止める。足を止めて気付いた。そこまで暗くもないはずなのに、少し遠くの道が真っ暗になっている。先ほど来た道も、だ。

「危ない!」

 ルイスが叫ぶと同時に、横から強い衝撃がはしる。その勢いを保ったまま、ルフは壁に叩きつけられてしまう。衝撃の正体は黒く歪んだ球体、シャドーボールだった。

「ルフ! 早く立ち上がって!」

 アセシアがこちらの方を向きながら言う。心配は一応してくれているみたいだが、臨戦状態だからか何だか素っ気ない。しかしこちらもそんなことを気にしている暇もなかった。暗闇からシャドーボールが来るのを確認すると、素早く立ち上がってそれを横に避ける。

「さすがに二発目を食らうほど、馬鹿ではないようだな」

 暗闇からそう声が聞こえ、やがて姿を現す。ルフよりかは一回り小さく黒い体。その体にある黄色い輪っかがうっすらと光っている。闇に溶け込むようなブラッキーの姿を確認して、思わず目を細める。

「一体、あたしたちに何の用……?」

 ミシャはそのブラッキーを鋭く睨みつけながら、どすの利いた声でそう問う。しかしブラッキーは鼻で笑った。それ同時に、周りに気配が集まりつつあるのをルフは感じていた。

「おまえ達に話すことは何もない」

 ブラッキーがそう言うのを合図に、暗闇に隠れていた気配が飛び出してくる。それはブラッキーの姿形を模してはいるが、黒く塗りつぶされたみたいなもので、顔がない。正にあのウインディが言っていた“影”のようだった。

(10……20……いや、もっといる!)

 かまいたちで薙ぎ払っても、アセシアがアイアンテールで応戦しても、ルイスやミシャの強力な技で倒していても……その数は一向に減らない。それどころか、更に増えている気がしてならなかった。

「どうした? もうお手上げか?」

 時折そんな挑発的な言葉が、影の向こうにある暗闇から飛んでくる。段々苛々してくるのだが、相手がどこにいるのか分からない以上、下手に影に向かってつっこむわけにはいかない。

「くっ……きりがない!」
「本当にこれはどこから沸いて出てくるのかし……ら!」

 ミシャとアセシアもだんだんと疲弊してきている。このままでは全滅は免れないかもしれない。ルイスは軍にいるからかまだ体力的には持ちそうだが、さすがに一匹でこの数を相手にするのは無理だろう。また、影とはいえ一匹一匹が攻撃を仕掛けて来るから尚更に分が悪い。こちらが劣勢であることは目に見えていた。

「ふざけやがって……くそ! いい加減隠れてないで出てこい!」

 ルフは叫びながら頭の鎌を振り下ろす。かまいたちでかなりの数は削ぐことが出来るもの、無尽蔵に沸いてくる奴らに大して意味はないだろう。むしろ、ブラッキーが暗闇で笑みをこぼすだけだ。

「では、出てきてあげよう」
「……!」
「アセシア!」

 突然、背後から響いた声に背筋が凍るような感覚が走る。後ろを振り向くとそこにはアセシアを人質に取るブラッキーの姿があった。ミシャがすぐ近くにいたはずだが、何故か彼女はそこから少し離れたところまで吹き飛ばされていたのだ。

「この小娘は必要だからな。もらっていくぞ」
「おい! 待て! ……くそ」

 最後の言葉が聞こえないか聞こえるかの辺りで、ブラッキーはアセシアと共に姿を消す。それと同時に、周りの影が音もなく消えてしまった。

「問題解決したと思ったらまた連れ去られて……一体何なんだよ! くそっ!」

 煮え切らない感情を壁にぶつけながらルフはそう叫ぶ。ただ単に物事が整理できていないからかもしれないが、実際分からないことが多すぎる。

「とりあえず、変な小細工は消えたみたいだな。一旦外へ出よう。話はそれからだ」

 ルイスが辺りを見回した後、ルフとミシャを見て言った。
 確かに、先ほどより周りが暗くはなくなっている……のだが。

「アセシアはどうするのサ。あと、あたしとの約束を忘れたわけじゃないよねぇ」
「それも全てひっくるめて整理して考える。まずは外に出るのが先決だ」

 歩きだそうとしたルイスを止めるようにミシャがそう問うが、ルイスは断固としてまず外へ出ることを優先させようとする。確かに、彼の言う通りかもしれない。何をするにせよまずは外に出なければ行動は出来ない。それに……。

「それに、今のでだいぶ二人とも疲弊してるはずだ。少し休んだ方がいい」

 ルイスとたまに考えが被るのは何故なのだろうか。しかし実際疲れているのは当たっているし、ルイスもやや疲れ気味のように見えた。それにこんな臭いの中にいるのは健康上あまりよろしくない。彼の言葉に頷くと、ミシャも渋々といったように頷いた。

「分かったよ。あたしはここから近い出口を知ってる。とにかくついてきて」

 ミシャはそう言いながら歩き出す。彼女はここにあんな部屋があるのを知っているから、ここら一帯には詳しいはず。
 ルフとルイスは軽く顔を見合わせると、やがて彼女についていくのだった。 
 
 
 
 ――ミシャに案内されて歩いていくと、やがて視界の先に苔生した石の階段が見えてくる。やっとついたという安堵感を感じたが、アセシアが連れ去られたという事実を思い出すとそれに浸っているわけにもいかなかった。
 どこにいったのかさえ分かれば、今すぐにでも向かうことが出来る。しかし相手がテレポートで消えた以上、どこに行ったかは分からない。……それ以前に、何故ブラッキーがテレポートで消えたのだろうか。本来その種族はテレポートを使うことが出来ないはずだ。別に何者かが控えていたのだろうか。

「ここを出れば、街の裏道につくはず」

 ミシャは階段の一番上を見ながらそう言った。裏道なら誰かに見つかりにくいから好都合。というか地下水道から出てくるところを見られたくないというのが本音ではあるが。

「ならそのままあの『クロウの矛穴』という酒場にいかないか? あのウインディに少し聞きたいことがあってな」

 ルイスの言葉にミシャは頷く。“聞きたい事”というのが気になるが、今はとりあえずここを出て、その酒場に行くのが先決だろう。
 
 
 
 ――階段を駆け上がると空気が一瞬にして変わる。臭いがしないということもそうだが、何より風が気持ちよかった。
 外に出たということを認識すると、目の前にある鉄格子に打ちのめされそうになる。しかしミシャやルイスが端にある隙間から出たのを見て、ルフもそれに続いた。
 中にいる間にすっかり日が落ちていたようで、もう辺りは暗くなり、街灯や家の明かりが点いている。

「ここを真っ直ぐ行けば酒場に着くはずだよ。行こう」

 ミシャはそう言いながら歩き始める。何というか俺よりもアセシアの身を案じているような気がする。何故そんな彼女が「狩人の爪(ハントネイル)」に所属しているのかが疑問に上がる。しかし聞いたところで話してくれるほどお人好しでも無さそうだが……。

「で、ルイス。聞きたいことって何なんだ?」
「酒場に着いてからどうせ聞くんだ。少し待ってろ。……見えてきたぞ」

 ルイスが指(正確には鉤爪)を向けた先には、見覚えのある場所があった。今は夜だから、地下水道に入る前よりも雰囲気が少し違っては見えるものの、看板を見ると確かに『クロウの矛穴』と書いてある。

「さて。入るぞ」 
 
  ――扉を開けた途端、鼻につんとするにおいが漂ってくる。やはりこのにおいはいつまで経ってもなれない。いや、慣れたくもない。

「お、戻ってきたか。……ってあれ、ミシャまでどうした」

 カウンター越しにあのウインディが愛想良く話しかけてくるが、周囲にいる柄の悪い奴らの冷たい視線と、彼のドスの利いた声を聞いているルフとルイスにはとてもじゃないが愛想良く見えない。つまるところ、偽りの表情というやつだろうか。

「クロウ。手紙にも書いたけど、依頼主(クライアント)がいきなり依頼を破棄したんだ。だからここに戻ってきたのサ。ま、別の用事もあるけどね」
「ほぅ。その“野暮用”とは何だ?」

 そのウインディ、クロウが野暮用といったのを聞いて、微かにルイスの眉間にしわが寄るのをルフは見た。

「その言い方からすると、俺らが何かを質問してくることを分かってるな?」
「ご名答。さて御託はいいから用件を聞こうか。誇り高き連隊長さん」

 そうさらりとした顔で言うクロウに、ルイスは半ば苛立った様子を見せる。だがすぐに表情を戻して話を続けた。

「“影”に気をつけろと言っていたが……お前は最初から俺たちが襲撃されるのが分かっていたのか?」

 クロウはその質問を聞いて笑った。

「さあな。ただ最近見知らぬ奴が裏道を歩いているのを見かけただけだ」
「それがブラッキーだから、“影”というわけか」
「まぁそういうことだ」

 その会話をルフは聞いていたが、どうも言葉の裏にねちねちした嫌味や原のさぐり合いが行われているような気がしてならなかった。……実際そんな会話ではあるが。

「ルフ、ミシャ。行くぞ」
『は?』

 いきなりの指示に、ルフとミシャは思わず変な声を上げてしまう。ルイスはため息をつくと出入口に向かいながら言った。

「……あいつと話していても埒があかない。宿泊施設に行って今日は休むぞ」

 ルイスが柄にもなく苛々するのはやはりクロウがなかなか隙を見せないのと、人を小馬鹿にしたような物言いが原因だろうか。とりあえず先に出て行ってしまった彼を追うことにした。
 
 
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