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Day of Vengeance‐12‐『理由』 の変更点


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**Day of Vengeance‐12‐『理由』 [#q3c75961]
 
 
 暗いというより明るく、明るいというには暗い。二匹は、そんな微妙な明るさの地下水道を歩いていた。地図があり明かりもあるということはやはりキュウコン、ミシャがここをよく通るのだろうか。
 苔むした岩肌がややむき出しになっている壁。すぐ隣を流れる、お世辞にも綺麗とはいえない濁った水が異臭を放つ。目的地に着く前に、臭いに鼻がどうにかなりそうだ。
 
「ああ〜。ひでー臭いだなこりゃ」
 
 ルイスが後ろでふと愚痴をこぼす。こんな形容しがたい臭いに晒されていては、確かに愚痴の一つや二つは言いたくもなる。
 今歩いているのが凸した部分の足場なため、下水に足をつける必要性がない。それだけが唯一の救いだった。
 
 
 ――鼻を微かに撫でる香り。ほんのりと甘いそれに誘われるように目を開けると、キュウコンがティーカップを念力で浮かせて飲んでいるのが見える。
 何故寝ていたのかを思いだし、そして手紙を、文面を思い出して寒気が走る。それを否定したいかのように、首を横に振って頭を両足で抱えた。

「目が覚めたみたいだね。手紙のことまだ気にしてるみたいだけど、まぁさっきの発狂ぶりに比べればマシだからいっか」

 キュウコンは私の方を見てそう言うと、ティーカップを元の位置に戻す。そしてすっと立ち上がると、こちらの方へと歩いてきた。

「もうそろそろであんたのお仲間がここにくるわよ。その時に詳細を話す。いいね」
 起き抜けでなかなか回らない頭で考えるが、彼女の言ったことがよく分からない。その様子を見かねてか、キュウコンは言った。

「あたしが何故あんたを狙っていたのか。その理由をね」

 私を狙った理由……。
 思い当たる節はたくさんあるけれど、どれもこのキュウコンの行動とは矛盾している。
 もし誘拐して身代金を要求するのなら、お仲間――たぶんルフのことだと思うポケモン――がここに来るようにすることはないと思う。
 暗殺の依頼であればすでに殺されてもおかしくはないはず。本当にこのキュウコンが私を狙った理由は何なのだろう。

「あ、そうそう。あたしはミシャ・ルーファー。ミシャと呼んでくれればそれでいい」

 ……本当に何を考えてるか分からない。
 いきなり名乗りだしたミシャに、アセシアは困惑するばかりだった。 
 
 
 ――地図のとおりに左に曲がったり、下水を跨いで右に曲がったり。地図上ではだんだんと近づいてきているはずなのだが、扉らしきものがどうも見当たらない。
 地図と周りを見比べても、構造は一致している。軽くSの字に曲がりくねった道は過ぎたし、十字の道をその後二回通った。となると地図のとおりに進んでいるはずだ。

(なのに何で肝心な部屋の扉が見当たらないんだ?)

 地図にはこの場所に、そして目の前の壁には扉があるはずなのだ。しかしそれはない。隠し扉なのか、または……。

「騙されたのか……?」

 ルイスが不意にそうボヤいた。どうもやはり考えつく先はそういうことになってしまうようだ。ミシャが騙したのか、あのウィンディが騙したのかは定かではないが……。

「ん? これは……」

 ふと目の隅に何か白いものが見える。自身の毛でもなく、ルイスの鉤爪でもない。それは一枚の紙だった。壁と床の間に挟まっているそれを軽く引いてみると、ずるずると出てくる。横幅はそこまで広くはないものの、長さはルイスの背の高さまでありそうだ。ルイスはそれを興味ありげに眺めて、壁と床を交互に見た。そして口を開く。

「もしかして隠し戸なのか?」
「……そうっぽいな」

 この目の前の、何の変哲もない壁が隠し戸だとすれば、この白い紙は目印というわけだろうか。
 ……しかし、どう開ければいいのだろう。
 試しに軽く叩いたり、二匹がかりで押してはみたものの、一向に開く気配はない。

「くそっ。なんなんだよ」

 ルイスが苛立ちを隠せずに、その壁へ蹴りを入れた。反響したような低い音がなる。つまり中は空洞か。

「……さっきからうるさい。今開けるから、待ってなよ」

 聞き覚えのある声……。
 中から喋っているからか、ややくぐもって聞こえたが、それは確かにあのキュウコンの声だった。
 少しだけ間をおいてからゆっくりと横に動き始める壁。あれだけ色々な方向に動かそうとしてもびくとしなかった壁が、いとも容易く動いていく。やがてガコンと一際大きな音を通路内に響きわたらせて、壁は止まった。代わりにそこには扉が一つある。

「入ってきて、早く」

 ミシャの声に催促され、扉を押して中へと入る。やや遅れてルイスも中へと入ってきた。 
 
 
 
 ――まず目に飛び込んできたのは清潔感あふれる白いカーテン。床はきちんと舗装されていて、加工板が敷き詰められている。しかも丁寧に白色の壁紙も張っていて、全体的に医務室のような印象を受ける。
 カーテンをくぐって――ルイスは退けて――奥へと向かうと、そこには金色の尾を揺らめかせて座るミシャの姿があった。

「とりあえずいらっしゃい。クロウから説明があったと思うけど、あたしはミシャ。そしてここがあたしの隠れ家サ」

 ミシャはそう言うと、アセシアの方をちらりと横目で見た。アセシアは意外と落ち着いていて、こちらを見て目を細めるだけ。ミシャは言葉を続ける。

「アセシアを助けに来たんでしょ? でもサ、そんなに簡単にこの子を解放するわけにはいかないよ」

 その言葉にルフはミシャに食ってかかろうとするが、ルイスが鰭で彼の目の前を遮り、制止する。いきなりの行動に、ルフは何をするんだと言わんばかりにルイスを睨んだ。それはあっさりと無視され、彼はミシャに案外落ち着いた様子で話しかける。

「一つ聞きたいんだが……何故あのウィンディにここの場所を伝えた? そこのエネコロロの足の鎖を見るところ、何か裏があるとしか思えんな」
「裏はあるわよ。でもそれは後回し。まずは状況から話していかないとあんた達が混乱するからね」

 裏があるということを言ってしまうところが更に怪しくなってくる。いや、これがミシャが出来る最大限の譲歩なのだろうか。とにかく話を聞かないことには事が進まない。黙って聞くしかないだろう。
 ミシャは息を大きく吸うと、やがて口を開く。

「まず一つに。あたしがアセシアを縛っておく意味が、今さっきなくなった」

 よく分からない節が有りすぎて、何を言おうとしているのか掴めない。それでもルイスはある程度納得しているようだが、ルフにはそれが理解出来なかった。
 そんな様子を把握したのか、仕方ないといったようにミシャが軽く目を細めて言う。

「依頼を突然切られたのよ。つまりはアセシアの身柄の引き取りはなし。だからあたしがアセシアをここに軟禁する意味はないんだ」

 なら早く解放しろと言いたかったが、考え直してみると恐らく次が、その解放の条件かもしれない。

「そして次に。アセシアを未だに軟禁状態にしているのは、ある交換条件をするため」

 案の定、交換条件を突き出してくるミシャ。自身が出来る精一杯の抵抗として睨みを彼女にきかしてみるものの、やはり効果はないみたいだ。

「アセシアを解放する代わりに、あたしのパートナーのアルスを助けるのに協力してほしい。……道中アセシアにも戦力になってもらうけど」

 一瞬、自分の耳を疑った。今までアセシアを狙っておいて、それはあまりにも虫が良すぎる話だ。
 ……だが一つ疑問が浮かぶ。アルスとは一体何者なのだ、と。それをルフが問いかける前に、ルイスが神妙な面持ちで口を開いた。

「アルスが誰だかは知らないが、助けるならお前だけでもいけるはずだろう。ましてや狩人の爪(ハント・ネイル)に所属してるお前の強さならな」

 ルイスの言葉を聞いて、ミシャは一瞬だけ目を見開いた。しかし、すぐに表情を戻して不敵な笑みを浮かべるのは流石といったところか。ミシャはルイスの言葉に笑いながらこう答えた。

「あらら、あたし達の組織を知ってるのか。……だとしても、あたしの力は奴らには到底及ばない。だから恥を忍んであんた達にお願いしてるんだよ」

 恥を忍んで、とは色々と語弊が生まれそうだが、気になるのはそこではない。狩人の爪だとか、奴らとか。一体二匹は何の話をしているのだろう。
 完全に蚊帳の外だったルフに気づいたのか、ミシャが横目で軽く彼を見ると、やはり仕方ないといったように説明をし始める。

「坊やが分からなそうな顔してるから一応説明しておく。狩人の爪、つまりハント・ネイルは、暗殺の依頼を受けたり、誘拐の依頼を受けたり。……まぁ、つまり裏事情の取引って奴サ」
「……だいぶ汚いことやってんだな」

 自分なりに最大限の皮肉を込めてそう言った。それをミシャは鼻で笑って華麗にかわすと、一回だけ息を大きく吐いてから言葉を続ける。

「確かに、あたし達がやってるのは汚いかもしれない。……でも、あたしたちにだって一応ポリシーはあるわよ? 政治を担う王の暗殺は受けないとか、貧民から金品を盗まないだとか……。ま、血生臭いことやってるのには変わりないけどサ」

 微かに見えた。ミシャの目に何か切実な思いが込められていたような気がする。言葉にするにはもやもやとして輪郭がなさすぎるが、何となく、そんな感じのものが。
 ミシャはしばらくの沈黙の後、切り返すようにいつもの表情に戻し、再び口を開いた。

「話がそれたね。……次に、奴らっていうのは、最近巷で騒がれてる反王政組織、狡猾なる牙(シフティ・ファング)のこと」

 ――狡猾なる牙。ルイスが追っていたはずの過激派の組織。しかしそれが何の関係性があるのだろうか。そんな事を頭の中で思案しているうちにも、ミシャは話を続ける。

「何故だかは知らない。でもその組織があたしのパートナーであるルカリオのアルスを連れて行ったんだよ。だから、それの救出を……手伝ってほしいんだ」

 しばらく沈黙が流れる。恐らくルイスも思案しているのだろう。とはいえ軍人という立場など多分気にしない性分だろうから、自分の事としてどうするか思案しているのかもしれない。
 そんな沈黙にミシャはもう一度口を開いた。

「むしが良すぎるのは重々承知の上だ。それでもあんた達に手伝ってほしいんだ!」

 そう訴えるミシャの目は微かだが震えていた。一度ルイスと顔を見合わせるルフ。
 これは本当にどうしたらいいのだろうか。と、いうか果たしてこれは俺やルイスだけで決めてもいい問題なのだろうか。

「なぁ、アセシア」
「……?」

 ルフの掛けた声に、今まで俯いていたアセシアが首をもたげる。やはりこういう判断は本人に任せなきゃならない。そんな考えで彼はアセシアに再び言った。

「お前はどうする? いや、お前ならどうする?」
「私は……」

 彼女はそうつぶやくように言った後、俯いてしまう。色々と考えているのだろう。何だかんだいっても狙われたのは彼女自身だし、俺らはあくまで第三者でしかないのだ。
 しばらくの沈黙の後、アセシアはゆっくりと顔を上げた。その表情には何かを決めたような、意思の強い感情が表れているように感じる。そして、彼女は言った。

「協力するわ。ただし、私も着いていく。いいわね」

 その言葉にミシャは微かな笑みを見せる。仕方ないといったようにルイスが頭の後ろをかく。
 ルフとアセシアは顔を見合わせて、微かだが笑みをこぼすのだった。
 
 
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