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Day of Vengeance‐11‐『王都・レジスタ』 の変更点


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**Day of Vengeance‐11‐『王都・レジスタ』 [#wfad0336]

 真っ白な敷き石が散りばめられ、舗装された道を歩く二匹の影。
 一匹は藍色の体に、腹の赤い部分に黄色いラインの入ったガブリアス。もう一匹は舗道に負けないくらいの白い毛並みを持ち、顔の横から突き出るような鎌が特徴的なアブソル。
 その二匹は黙ったまま舗道を歩いていく。ふとアブソル、ルフが独り言を呟いた。

「しっかし、港からご丁寧に道があるとはね……」

 ここは王都・レジスタではなく、キタム港から王都の城下町まで続く案内舗道。滑車で物資を引いてくる為の舗道でもあるのだろうが、少なくとも北の田舎にはこんなものはなかった。
 ガブリアスのルイスがそれを感じ取ったのか、少しだけ鼻で笑って「そんなに物珍しいか?」と聞いてきたが、とりあえず無視を決め込んでおく。


 ――やはり商業の要衝と言うだけあって、先ほどからすれ違うのは行商人とおぼしきポケモンばかり。観光気分で来ているのは極少数だろう。もしくは裏事情を抱えた者が来るか……それは考えすぎか。
 そんなことを考えながら少し早足で歩いていると、霧がかった視界の先に何か巨大な壁が見えてくる。あれが城下町の門になるのだろうか。

「多分感づいてはいるだろうが、あそこに見えるのが城下町の入り口だ」

 壁色が違う場所を、ルイスは指をさして説明をし始めた。そこに目を凝らしてみてみると、色が違うというより材質が違う。おそらく銅か何かの金属で作られた扉だろうか。

「入るときに検問されるが、俺についていれば問題はないだろう」

 ルイスの言葉に一瞬疑問が浮かぶが、すぐにこいつの役職を思い出して納得した。軍人、なんだよな。そういうふうにはとても見えないのが何とも言えないが。
 ルイスの姿をそう思いながら眺めていると「どうした?」と問いかけてくるが、何でもないと言ってやりすごす。


 ――やがて着いた門の前。門番のドサイドンにルイスが何やら紋章のようなものを見せると、敬礼をしてすぐ門を開けるように促していた。余程高い位なのだろうか。
 次いで、というように俺の事について門番が訊ねてくるが、彼の「連れだ」という言葉で簡単に頷いてしまう。やはり偉いのか、こいつが。

「さ、行くぞ」

 何だかやや満足げに再び歩き始めるルイスを見て、やはりこいつが偉いとは思えないルフだった。 
 
 
 門から少し歩くと、街の活気溢れる喧噪が耳に入ってくる。
 客に品物を勧める露店の店々に、競りの値を叫ぶ声が辺りに響きわたる。様々な思惑や目的が入り乱れる中、それをかき分けて二匹は奥へと進んでいく。

「一体どこへ向かうんだ?」
「人探しとかする場合は、ここら辺一帯に住んでるポケモンに聞いた方がいい」

 なるほど。確かに行商人とかは様々なポケモンを相手するために通行人の姿なんてあまり見てはいないだろう。それに観光が目的で来ているポケモンも、露店の品物などに目がいって他に目がいかない。
 だとすれば住民に聞くほかないだろう。だが、ルイスには分かるのだろうか……誰がここの住民なのかが。
 
 
 ――次々に目を付けたポケモンに訊ねていくルイス。どうやって判別しているのかは疑問だが、だんだんと証言が集まっていく。
 路地裏、酒場、エネコロロ……。
 集まっていく情報の中で一致しているのはこの三点。どれも先ほど見かけたと言っているのを聞くと、アセシアが連れ去られてからあまり時間は経っていないようだ。
 微かな安堵感を覚えると共に、あまりの目撃情報の多さに不安さえも覚える。それはルイスも同じなようで、ばつが悪そうな表情を浮かべながらこちらに向かって話しかけてきた。

「多くの住民が見かけてるから、その情報を疑うまでもないとは思うが……いくらなんでも気が抜けてやないか?」
「俺もそう思う。ただでさえ誘拐をしてるっていうのにこの無防備さは怪しいな」

 ……とはいえ、他に情報がないのは事実。罠だとしても行くしかないだろう。その考えが同じなのか、ルイスは細い路地を眺めながら口を開いた。

「一か八か。路地裏の酒屋にでも足を運ぶか」

 その言葉にこちらが頷くのを彼は確認すると、やがて家と家の間にある道――つまりは路地――に向かって歩き出した。
 
 
 
 住居が所狭しと並ぶこの城下町の下層部では、家と家の間が非常に狭い。とはいえ、中型より小型のポケモンなら一応通れそうな道だ。
 ルフがするすると道なき道を通るのに対して、ルイスはガブリアスというやや大型に近い体型を持つためにそうはいかなかった。
 ぎこちない横歩きをしながらよっちよっちとおぼつかない足取りで向かってくる彼の姿に、思わずルフは笑う。その後赤面したルイスがふてくされたのは言うまでもない。
 やがてルイスでも通れる位の開けたスペースのある場所へとたどり着く。実は他にルイスが悠々と通れるような広い道もあったようだ。その道と先ほど通ってきた道を見比べながら彼はふんっと鼻息を吹いた。

 とにかく、目当ての路地裏の酒場にはついたようだ。雨風に曝されたのだろう、ところどころ欠けた木の看板に、掠れてはいるものの小さく“クロウの矛穴”と書かれている。

「ここ、か?」
「おそらくここだろうな」

 ルイスが広い道から酒場の扉に目を移してルフの問いに答えた。ルフも彼から目を離し、再び酒場の方へ視線を移す。
 中からはうっすらと話し声が聞こえる。夕方とはいえまだ完全に日が落ちきっていないのに酒場に来るのは大抵訳ありが多い。王都という場所であるが故にそういうポケモン達も多いのだろう。

「入るぞ」

 ルイスはこちらを見ながらそう聞いてくる。その言葉に頷くと、彼は扉の取っ手に鉤爪をかけて手前に引いた。
 
 
 
 ――薄暗く、お世辞にも広いとは言えない部屋の中に、酒のむせかえりそうな臭いが漂う。慣れていない者ならこのにおいだけで簡単に酔うことが出来るだろう。
 実際、ルフはすでににおいだけで気が滅入っている状態だ。そんな様子のルフを横目で確認しつつも、ルイスは店の中を見渡す。
 見かけない客に警戒をしているのか、はたまた何か秘密を抱えているのだろうか、店の中にいる者全員がこちらに神経を研ぎ澄ましている。
 目こそ合わせようとはしないものの、その突き刺さるような気迫に、ルフの背にピリピリとするような感覚が走った。

「生憎と、ここは常連客の招待でしか来れない酒場なんだ。あと、未成年はお断り」

 カウンターのウィンディが(まわりとは比較的)愛想良い顔をして二匹を出迎える。おそらく未成年とはルフのこと。彼は今17歳。酒を飲めるのは18だが、どうして未成年だと分かったのだろうか。

「いや、俺は嫌いなんだ。酒は飲まんよ」
「じゃあとっとと帰ってくれ。客でないなら来る必要はないはずだ」

 ルイスが酒を飲まないことには驚きだが、急に表情が険しくなったウィンディに少しだけ足が竦む。何なんだ、このウィンディ……。

「用事があるんだよ。ここにエネコロロを連れたキュウコンが来たっていうことで、ちょいと聞きたいことがある」
「なるほどねぇ……」

 ウィンディは相変わらず細めた目を元に戻そうとしない。ただならない雰囲気が漂う中、背後で動く気配に気づく。

「おらぁぁぁああ!」

 周囲を警戒していたためにストライクの一振りは避けることが出来たが、これで何かがはっきりしたような気がした。アセシアを連れ去ったキュウコンに、少なからずここの酒場が関わっていることを。

「止めろ! 誰が攻撃を仕掛けていいと言った!」

 一瞬だけその場の空気が大きく揺らいだ。その怒号の主は、カウンターにいるウィンディだった。

「ですが、クロウさん……」
「ここで争っていいと誰が言った!」

 再び飛んだ怒号に、襲いかかってきたストライクはひぃっと情けない声を上げて渋々後ろに下がる。まるで生きている心地がしないとでも訴えかけるその表情に、ルフは背筋が寒くなった。

「どういうことだ?」

 ルイスの問いかけに、ウィンディは一度ため息をついてから口を開いた。

「お前等が察してるとおり、ここにいる奴らの大半がそのキュウコンを知っている。勿論、エネコロロのこともな」

 そう言うウィンディの表情は先ほどとは違い、穏やかな表情をしている。しかし言っていることはルフを奮い立たせるのには十分だった。先ほど感じた恐怖など忘れ、彼は叫んでいた。

「なぜアセシアを狙う! あんたらは一体何なんだ!」

 まるで煩い小蝿を見るかのように、ウィンディは目を再び細め、こちらを睨みつけてくる。だが、ルフも負けじとそれにかえすように睨みをきかした。
 それを見てウィンディはほぅ……と口から声を漏らす。威勢の良さに感心したのか、それとも恐いもの知らずの性格に呆れたのか。
 どちらとも取れるその言葉に奇妙な感覚を覚える。どう考えてもこのウィンディの掴み所がないのだ。

 やがて睨み合いが終わり、ウィンディは何やらカウンターの裏をごそごそと探り始める。何を考えているか分からないため、その一つ一つの動作に警戒をする。

「いちいち身構えるな。鬱陶しい……」

 それが分かっているのか、ウィンディは未だにカウンターを探りながらもそう言い放つ。
 警戒することを表に出せば、暗に自身が劣等であることを証明していることになる。その為、恐怖の感情を表に出さないようにしていたのだが……どうやらこいつには通用しないらしい。

「あった。……これを持って行け」

 ウィンディが口でくわえてこちらに投げたのは、一枚の丸められた用紙。それを床に一旦置いて前足で広げると、地図のようなものが描かれていた。

「地下水道路の地図だ。6番とかかれた場所にキュウコンはいる。勿論、エネコロロもな」

 確かに地図には6番と書かれている場所があり、そこだけ四角い部屋のようになっている。つまりそこに……いや、待てよ。

「キュウコンの知り合いの割にはだいぶあっさりと売るんだな」

 ルイスがルフの考えを代弁するかのようにそうウィンディに訊ねる。一方、ウィンディの方は軽く笑って言った。

「ミシャ自身が、お前が来たら通せって伝言寄越したんだよ。……ああ、ミシャってのはそのキュウコンの名前な」

 来たら通せ……何だか罠のにおいがするが、これ以上の情報もない。選択肢はそれしかないようだ。

「行くのか。よし行こう」

 ルイスがそうつぶやくように言った後に酒場から出て行く。どうやら考えることが大体同じようだった。すぐにその後についていこうとするが、後ろからかかった声に呼び止められる。

「ああそうだ、一つ忠告しておく」
「……?」

 後ろに軽く振り返るとウィンディがこちらに向かって真剣な面持ちを見せていた。

「黒い影を見たら逃げろ。対峙すればお前らに勝ち目はない」
「意味がよく分からないが……とりあえず頭の隅においておく」

 謎掛けなのだろうか。しかし、あのウィンディの真剣そうな表情を見ると、大事なことのように感じてならない。
 よく分からない忠告を頭の隅におき、ルフは踵をかえしてその酒場を後にするのだった。
 
 
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 意味深なキャラって良いよね。うん。
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#pcomment(コメント/DOV-Story11,10,below)


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