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BCローテーションバトル奮闘記・第十一話:新しいローテ仲間 の変更点


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#contents


「そうそう、今日お前に一つ頼みたい仕事があってな」
 キズナ達が帰って、また仕事の続き。疲れたというのに憂鬱である。
「はい、なんでしょう、スバルさん?」
 最近のスバルさんは大体眼鏡を外している。何でも、汗で滑って落ちてしまうから伊達眼鏡をかけるのはうっとおしいそうで。来客がある時は、口調を変えたくないからと無理を押して眼鏡を付けていたが……メガネ一つでそんなに口調が入れ替わるものなのかな?
 よく分からないけれどまぁ、お疲れさまという事で。
「この育て屋は、環境が良くってな。しばしば色んなポケモンがやってきては住みついてしまうのだ。教官のポケモンにはみつけたら処理してくれとは頼んでいるが、そっちの方ばかりに集中してはおれんのでな。
 特にこの夏という季節は池沼エリアでガマゲロゲやメガヤンマが産卵にや交接に来たりするので、非常に迷惑だ。まぁ、片手間で構わんから、追い払うなり駆除するなりしてほしいのだ。今日は森林エリアをお願いするから、その内部にある池沼エリアに警戒してな」 
「あー……そう言えば、昨日もちらほらメガヤンマが産卵してたような」
「そうだ、そういうやつらに繁殖されても迷惑だからな。卵はポケモンに喰わせるでもいいし、近くの池に放すでもいいし、処理は任せる。自分ではどうしようもない時は、教官や私を呼んでくれ、以上だ!」
「分かりました!」
 と、言ったはいいものの、俺の中で何かが引っ掛かる。なんだろうと考え始めると、まず最初に俺のパーティーが嫌いな相手が浮かんだ。

「あの、すみませんスバルさん」
「なんだ?」
「俺のパーティーって岩タイプや炎タイプにすこぶる弱いじゃないですか?」
「すこぶる……変わった言葉を使うな。まぁ、確かに弱いな」
 そう、弱いのだ。ハハコモリのママンとヘラクロスのイッカクは等倍だし、どちらもタイプ一致で弱点技を放てるけれど、バルチャイのトリとストライクのゼロは岩タイプに対してとても弱い。特に、ゼロは元からの防御能力が乏しいこともあって、攻撃力が高い種が多い岩タイプは極端に苦手なのだ。
「ガマゲロゲを入れると、どうですかね?」
「ふむ、そうだな。ガマゲロゲが苦手とするのは草タイプのみ。雨さえ降っていれば大抵の種には負けないだろうが……雨はその草タイプが出しやすくなる状態だ。炎タイプが半減できるし、強化される水や雷攻撃に対しても強いからな。しかし、それと同時に虫タイプのポケモンも出しやすい。分かっておるだろうが、虫タイプは炎に対して弱いから、炎が弱まる雨の時点で出しやすいことは明白。そして、岩タイプは雨の状態では出しにくい……
 ガマゲロゲを雨状態の起点にするのもいいし、雨になどしなくとも水と地面で岩タイプに警戒させることが出来る。草タイプは虫で何とかすればいい……ふむ。いいんじゃないのか? ガマゲロゲはお前のパーティーに入れても違和感なさそうだ」
「分かりました、ありがとうございます」
 流石に、こういうアドバイスともなるとスバルさんは強い。ポケモンソムリエの資格を持っているらしいが、それも納得である。
「それに、もう一つ利点を挙げるとすればローテーションバトルの性質上、極端に苦手なタイプがあるけれど他は強いというポケモンはシングルバトルよりも取り回しが効きやすい。鋼・虫に貰い火のポケモン、ドラゴン・地面に岩や格闘、岩・鋼にゲンガー……とか、そういうのがな。それ自体は相手も一緒だから気を付けなければならんが……良いポケモンをチョイスしようとしているな」
「前々から地面タイプと水タイプが欲しいと思っていたところなので……ちょうどよかったんですよ」
「そうなると、両社の複合タイプのガマゲロゲは渡りに船というわけか……ともかく、捕まえるならば、最低限餌の確保だけは出来るようにしておけ」
「はい、ありがとうございます」
 ガマゲロゲがここに訪れるというのは朗報だ。まだトリはとても実践で使えるような強さじゃないし、即戦力になってくれそうなガマゲロゲが仲間になってくれれば、ようやく俺もまともなローテーションバトルが出来るというものだ。まぁ、ガマガルとかオタマロでも最低限何とかなる。
 しかし、産卵に来るという事は……雌なのかな? 別に性別にこだわりはないからどうでもいいけれど。
 と、言ってもそんなに毎日都合よくガマゲロゲが訪れるわけもなく、俺のパーティー構成は特に進展もないままに一日が終わる。
 日曜もお手伝いが入っているから、帰ってアイルと一緒に狩りをしたら、成果に関わらずレポート書いてゆっくり休もう。

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 今日は、三河キズナ・三河アオイという二人の姉妹に育て屋で出会った。
 俺と合流した後はエリアの説明が主だったけれど、二人とも本気でポケモンが好きなことは伝わってきたし、ポケモンも二人を信頼しているのがすごくよく伝わってくる。コロモって名前のサーナイトも、お姫様抱っ子が様になりそうな王子様系男子で格好いいな。
 特に、アサヒって名前のコジョフーは、キズナに抱かれるだけで上機嫌になったりして、可愛い子だったなぁ。もちろん、可愛いのはアサヒの方がだよ? キズナは可愛いけれど、そういわれても喜ばなそう。
 手話で手際よくコミュニケーションを取ったりしている分、やっぱりキズナとの絆は深いのだろうか? 洒落みたいになっちゃった随分と立派な名前だけれど名前負けしていないってのは、すごいことだと思う。
 ちょっとうらやましいけれど、俺のポケモンじゃ手話出来ないんだよね……素直に諦めよう。

 その後、成り行きでキズナとバトルをした際は、俺が2タテしたところで相手の降参。中々首尾よい結果って感じかな。
 キズナもローテーションバトルをやる気になってくれたみたいだし、面白くなってきたな。ビリジオンをゲットできる可能性は減っちゃうかもしれないけれど、元からゲットできる可能性なんてあってないようなものだし……全力で楽しんで、ゼロ達と一緒に喜びも苦しみも共有できたらいいな。

キズナたちともメールアドレス交換したし、これからは仲良くしていこうという感じになった。俺、友達いなかったし、嬉しいな
RIGHT:7月14日
LEFT:
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 ◇

「師匠、つかぬ事をお伺いしますが、ローテーションバトルって知っておりますか?」
「もちろん、知っていますよ」 
 走りながら手裏剣を投げる、&ruby(やぶさめ){流鏑馬};のようなことをしていた師匠が休憩に移るのを待って、俺は声をかける。
「来年にはビリジオン捕獲祭りが開催されますからね。格闘タイプのジムとして、せっかくなので参加を考えております。スバルさんに誘われていましてね」
「うわちゃー……また強力なライバルが増えちゃった」
「おや、キズナさんも参加する気でしたか? 手加減はしませんが、大会が開催されるまでの手ほどきならばお任せください」
 そんなこと言っちゃって師匠、俺達に負ける気とか、そんなものはないんだろうな。どうにかぎゃふんと言わせてやりたいけれど、一年の時間も無しにどこまで出来るのやら。やるだけやってみるしかないんだけれどさ……
「でさ、師匠がライバルなのは嬉しいんだけれど、やっぱり切磋琢磨できるライバルの様なものが欲しいわけで……もし、ローテーションバトルをやっている、俺達と同じくらいの年齢の子がいたら、紹介して欲しいんだ。
 茶道仲間でも、和菓子仲間でもいいからさー。一緒に競ってみたいんだ」
「あぁ、なるほど。そういう事でしたら……確か、日曜日にいつも教会で礼拝に来る女の子にローテーションバトルをたしなむ子がいたはずですよ」
「そーいや、師匠って教会の方にもつながりあるんだな……多趣味だな」
「あぁ、忍びは僧に化けるのが定石ですからね」
「今の時代じゃそれは関係ないような気がしますが……」
「はっはっは、冗談ですよ。今の時代はこの作業着が一番紛れやすいですがね。作業着ならば、武器となるスパナなどの鈍器や、ちょっとしたカッターやドライバーならば持っていてもごく自然。オフィス街でも歓楽街でも、水道管の点検か何かだと思わせれば、この服一つでどこにでも行ける。色もたくさんあるから、その気になれば隠密行動だってやりやすいときました」
 つまらない冗談だけれど、一応笑っておくかなー。面倒だけれど。
「まさしく、作業着は現代の忍者服というわけですね」
 ふう、やっとこの話も終わりそうだ。どうでもいいけれど、俺間違ってつなぎの作業着を買っちゃったから、おしっこしにくいんだよなぁ……男なら立ちションが出来るからいいんだけれど……
「えぇ、作業着は偉大です。この道場の制服にしたのもそういう意図があるのですよ」
 と、師匠が言う。作業着なら何でもいいんだから、つなぎを着ていた師匠の真似なんてせずに、カズキみたいに上下分かれている作業着を買えばよかったな……いまさら言ってもどうにもならないけれど。あぁ、でもスバルさんも作業着はつなぎだったっけ((キャラ紹介絵参照))……? おしっこしにくくないのかな? いや、どうでもいいか。

 さて、話を戻そう。
「その子、名前は何というのでしょうか?」
「えーと……フランチェスカ=&ruby(みどりね){緑音];=&ruby(カナ){華奈};さんだったかな。教会以外ではフランチェスカはつけませんが」
「クリスチャンネームはともかくとして……なんかボーカロイドみたいな名前だなー……確か、緑音サナとエルっていうボカロいたよな……」
「あぁ、ボカロ見たいな名前というのは本人が気にしているので、本人には言わないでくださいね?」
 へぇ、気にしているんだ。いっつもこういうところで地雷を踏んでしまってねーちゃんに何か言われるから、その前に注意して貰えてよかったかも。
「明日はちょうど日曜日。恐らく礼拝に来ているでしょうから、一度会いに行っては如何でしょうか? 彼女も同じく、ビリジオン捕獲祭り大会に参加するつもりのようですよ」
「おー、これぞライバルって感じだな。そんじゃ、お言葉に甘えて、明日は俺も一緒に教会に行かせてもらいます」
「分かりました。聖書は基本的に持参ですが、古いのがありますので、私はそれを使いますよ。明日、キズナさんは私の物を使ってください」
「ありがとうございます、師匠。本当に色々お世話になります」
「いえいえ、ジムリーダーたる者、やる気のある若者をサポートするのは当たり前ですよ。ところでどうです、キズナさん? スバルさんの育て屋は如何でしたか?」
 うーん、育て屋ねぇ。あそこは色々素晴らしいところだったけれど……
「そうだな。俺達のポケモンが、意外に高い値段で売れそうなのが嬉しいような、寂しいような……少し複雑だったかな。タイショウやアサヒは売る気がないけれど……でも、ねーちゃんは夢を目指すのであれば、いつかは育てたポケモンを売らなければいけない立場につくわけだ。それを想うと、少し寂しいなって……そんな風に考えてしまいました。
 ですが、命を売るという事はそういうことだと思いますから、非情だとか……寂しいとか、そういうことを考えちゃいけないんだと思います。姉さんには、誇りを持って仕事をしてもらえればいいと思いました」
 あーあ、最後の方の口調を最初から出来ていれば……師匠は怒ったりしないけれど、俺もまだまだだなぁ。
「若いのにもう、仕事ですか。私が貴方のお姉さんくらいの頃は、何も考えずに修行に没頭していたというのに……親としては複雑でしょうね。貴方達のように、速く大人になってしまう子は」
「親の立場からすれば、もっと子供でいて欲しいとか? 俺は、逆に子供のままでいたいよ……」
 オリザ師匠ってば、まだ28なのに微妙におっさん臭いこと言うなぁ。
「私は少なくとも、大人になりたがってましたよ。私の場合は大人になりたがっている子供でしたけれどね。ですが貴方は、私と比べるとちょっと大人びていらっしゃる」
「そう、ですか……」
 それは褒め言葉と受け取っていいのだろうか、俺には分からなかった。それに俺は、子供のほうが良かった……子供のままだったら、ねーちゃんの裸を見てもあんな気持ちなんて抱かなかったはずだ。
「ま、寂しいところもあるでしょうが嬉しいところもあるんじゃないでしょうかね、親としては。私は親になったことがないので分かりませんが、ポケモンも手のかかる時代を過ぎると嬉しいと同時になんだか寂しくなるものです。でも、無理せず大人になって行くというのはいいことだと思いますよ。
 貴方の姉さんの夢、キズナさんは応援してあげてくださいね」
「言われなくとも、そのつもりです。大切の家族ですので」
 うんうん、師匠の後押しはなんというかありがたいね。結構元気が出る。

「それでは、私もそろそろ休憩を終えて演習に入ろうと思います。どうですキズナさん、一緒に手裏剣でも投げませんか?」
「ご教授願えるならば、是非」
 ねーちゃんのことも頑張らなきゃだけれど、俺のこともだな。ポケモンバトルも、鍛錬も勉強も、全部頑張らなきゃ。

 ◇

7月15日

 宗教施設というから、なんというか大きなステンドグラスから太陽光が差し込むような荘厳な物を期待していた。実際は、隣にガギィィィィンとやかましい音を立てる金属加工の工場があるという、何とも風情の無い場所で、しかも外装は鈍色の地味なペンキ塗り。
 申し訳程度に屋根の十字架があるが……まぁ、贅沢するのが宗教の役割じゃないからこんなものなのかもしれない。
 オリザさんが扉を開けると、二人か三人ほど座れそうな横長の机が二列、五行ほど並んでいる。奥には一段高くなったところに大きな机、その後ろに十字架と救世主の絵。左側にピアノがあるが……壁紙は真っ白で、しかも照明がやたらと明るいためか、神聖とか荘厳という雰囲気ではなく、なんだか学校の一室のようにも見えた。

「おや、オリザさん。その子は?」
「門下生です」
 老若男女揃ったこの一室でも、デカくてたくましすぎる師匠はよく目立った。教会のようなものに行くのだと思って、姉に白いへそだしのアウターと白いTシャツ、裾の締った黒い半ズボンにハイソックスといういまどきな服をコーディネートしてもらったというのに、普通に大人も子供も普通に普段着である。俺もこんなに気合い入れた服じゃなくって、普通に半そで半ズボンに裸足……は流石に迷惑そうだからサンダルで来ればよかったかもしれない。
「今日は、ポケモンバトル関連で少しあわせたい人がいるので連れてきたのです……特にここで同じものを信じる気があるわけでもないので、勧誘はほどほどにお願いしますよ?」
「なるほど、ジムの子ですか」
「えぇ、まぁ」
 師匠は知り合いらしい男性に声を掛けられ、お茶を濁すようなあいまいな返答をする。勧誘とか……証人も大変だな。
「ところで、カナさんはいますか? この子を会わせてみたいのですが……」
「まだ、来ていないようですね」
「いつもギリギリに来ますからね、仕方ないと言えばそうですね」
 師匠はそう言って苦笑していた。
「ねぇ、君始めて来たの?」
 と、俺が師匠を見上げていると、年齢が近めなせいなのだろうか、今度は師匠を通してではなく俺が直接話しかけられる。
「まあな」
 と、返事をすると、俺と同年代らしい男の子は宗教に興味がないらしく、こんなものよりもゲームをやりたいと愚痴をこぼしていた。俺はその愚痴に付き合いつつ、カナという娘の情報を聞き出す。どうやら、彼女はジャローダが大好きな子らしい。
 蛇はここでは悪魔の象徴じゃないのかと問うと。ここの人たちはメロメロボディの特性を持ったミロカロスを誘惑者とも世界の支配者とも呼んで悪魔として敵視しているらしいが、蛇に例えられるのは悪魔だけではないらしく、救世主もまた蛇に例えられるのだとか。彼女が親からツタージャを譲ってもらったのもそういう理由らしく、自慢のポケモンとしてパートナーに据えているそうだ。

「ふー、皆さんおはようございます」
 そんな話を興味深く聞いていると、礼拝開始の時間1分前といったところで最後の来客だ。
「お、来た。あのポニーテールの子」
「あいつか……ってか、本当にギリギリだな」
 指示された女性は、茶髪にポニーテール。茶色い上ブチの眼鏡を付けた女の子だ。一瞬遅れてその母親と思われる女性が遅れて足を踏み入れる。少しくらいは話をしておきたいところだったが、先程師匠が言っていたように、本当に時間ぎりぎりだ。家が近いそうだからそうなってしまうのかもしれないが、これでは迂闊に忘れ物も出来なそうだ。
 結局、俺は聖歌を歌ったり、聖書の解説本を捲りながら、聖書の一節を読んでみたり。お祈りしたりと、そういったことに一通り付き合わされた後に話しかけることになってしまう。少々面倒なのは、さっき話していた男の子の言った通りだ。
 宗教に興味がないのにこう言うことに付き合わされたら文句の一つも言いたくなるというものだ。おまけに、分厚い聖書と聖書の解説本も押し付けられてしまった。これをどうしろというんだか……。

「では、今日の礼拝はこれで終わりとしましょう」
 この言葉を聞くまでが長かった。俺はため息をつきつつ、隣にいてくれた師匠に一瞥し、カナの元へ向かう。
「こんにちは」
「あら、こんにちは。キズナさんでしたっけ……あ、母さん。ちょっと待ってて……」
 先ほど自己紹介をさせられてしまったために名前を憶えて貰えたらしい。手間が省けたわけではないが、わざわざ教える必要もなくってよかった。母親に待ってもらうように言ってもらえたけれど、あんまり待たせちゃ悪いし、少しで済ませよう。
「あぁ、うん。その……今日ここに来たのは、ちょっと貴方にお尋ねしたいことがありまして……フランチェスカ=ミドリネ=カナさんでよろしいですか?」
「えぇ、はい。何かご用でしょうか?」
 カナは、無理して言葉づかいを矯正している俺と違って、どうやら天然でこの口調らしい。教育の賜物なのだろうか、いつもはラフな口調の俺とは対照的だ。
「俺の師匠……カグノールド=サチバネ=オリザさんより、貴方がローテーションバトルをたしなんでおられると聞きまして」
 洗礼名をつけて呼ぶのは……なんか新鮮。師匠のことなのに師匠じゃないみたいだ。
「あらあら、貴重な同年代なのですから、無理して畏まらなくてもよろしいのですよ」
 無理しているつもりはないんだけれどな。どこか硬いのだろうか。
「いや、1歳年上みたいですし……それなのにそんな風に喋っている相手にタメ口では色々まずいかなと」
「そうですか、では私がどうこう言ってもやりづらいでしょうし……自分が納得いくようにお話しください」
 こういう時、変にため口でいいなんて言われるよりかは、こうやって言ってくれた方がよっぽど心地よい。とりあえず、仲良くなれるまでは年上だという事を意識して話すようにしよう。
「さて、あなたのご用件ですが、私は貴方の言うとおりローテーションバトルを楽しんでおります。あまり競技人口の多くないバトル形式ではありますが……ポケモンの力をフルに生かすことが出来るため、唯のシングルバトルよりもよっぽど楽しい物であると思っています……それに、もしもビリジオンを手に入れられたなら……」
 ん、何か理由があるのか? 俺としてはビリジオンはやっぱり強くて格好いいから欲しいけれど、そういう理由だけじゃないのかな? そこまで気になったのだけれど、カナさんはそこから先黙して語らなかった。言いたくないのかな?
「そっかー……俺は、ローテーションバトルなんて、なんだか小難しそうだから敬遠していたけれど……」
「なんなら、やってみますか?」
「え、いいの?」
 やべっ、素の口調が出ちゃった……
「えぇ、ちょうどジムリーダーの方もいらっしゃいますし……」
 師匠を見てから、カナは振り返る。
「と言うわけで母さん。昼食までには戻るので、先に帰っててくれる?」
「あら、熱くなりすぎちゃだめよ?」
「分かってるわよ、放っといて」
 そこまで会話すると、母親は『はいはい』と娘に言い残し、踵を返して家へと返った。
「さて、そういうわけなんですがオリザさん。今日は審判をしてもらってもよろしいでしょうか?」
 カナは、師匠を見上げて頼む。
「もちろん、今日はそのために連れて来ましたからね。ですが1戦だけですよ? 私も片付けるべき仕事がありますので」
 やはり師匠は太っ腹だ。ポケモントレーナーを育てることは好きなんだよな。
「ありがとうございます、師匠」
「ありがとうございます、オリザさん」
 2人とそろって礼をして、俺達は向き合う。
「では、近所に公園がありますので、そちらへ……」
 カナに連れて行かれるままに、俺は炎天下の公園に移動した。近所の公園などと言っても、あるのはベンチと木陰くらいなもので、芝生の手入れすらされていないここは草ぼうぼうの荒れ地である。周りは畑と田んぼと用水路ばっかりで、子供たちが畑でポケモンバトルをしないための配慮という事なのだろう。水飲み場すらないのはきついが、広い場所で戦える場所が近くにあるだけでもありがたい。

「クイナ、シズル! 出てきなさい」
 師匠は公園につくと、まず最初に自分のポケモンを出す。ルカリオのクイナと、ズルズキンのシズル……この二人は、セイイチの父親と母親だ。
「おぅ、セイイチ……パパとママに挨拶して来い」
 育て屋で産んだ子供は母方の姿を持って生まれすはずだというのに、セイイチは何の間違いか父方の種族で生まれてきてしまった子だ。だが、ポケモンにはそんなの関係なく、愛する息子に変わりはないセイイチの晴れ姿を見せようという事らしい。
 セイイチはボールから出されると、本能的に安心するブルーの体毛に包まれたクイナにすり寄り、腰のあたりに頬ずりして甘えていた。嫉妬するかのようにシズルもセイイチの頬にキスし、顎の下を撫でてあやしている。父親と母親に目一杯甘えているセイイチは幸せそうな笑顔を振りまいている。
 やがて、満足したセイイチは俺の元へ戻ってくる。セイイチの授業参観とは、師匠も粋な計らいだけれど……そんな計らいをされたからには、無様な姿は見せられないな。
「『パパ』と『ママ』が、『見て』いる……セイイチ。『頑張ろう』」
 手話を交えて言葉をかけると、セイイチは頼もしい鳴き声を上げる。
「よし……」
 振り返れば、カナもまたモンスターボールに向かって話しかけていたが、俺達の話が済んだのを見るや腕を下してこちらを見る。
 二人とも準備が出来たところで、師匠は息を吸う。

「それでは私、オリザが審判を務めさせていただきます。勝負形式はローテーションバトル。交代は体の一部をタッチすることにより認められ、一度交代すると、10秒以内の交代及び交換は認められません。人数は3対3、ポケモンは個別に棄権させることが出来、3体すべてが棄権もしくは戦闘不能になった場合決着といたします」
 お決まりの定型文を口にして、オリザさんは俺達を見る。
「準備はよろしいですか?」
 準備なんてもちろんとっくのとうさ。
「押忍!」
「どうぞ、始めてください」
 おしとやかな口調でカナが言う。
「では、勝負はじめ!」
 俺はボールを3つ同時に投げる。相手もボールを3つ投げ、その姿があらわになる。ジャローダ、トゲキッス、ラッキー……中々強力なポケモンが揃っている。ってか、酷くね?
「では、チャリス。行きなさい!」
「アサヒ、行ってくれ!」
 相手がけしかけるのはジャローダのようだ。アサヒは簡単にやられるような奴ではないが、どこまで抵抗出来るものか
「チャリス、とぐろを巻きなさい」
「アサヒ、とりあえず、お前の身軽さ見せてやれ!」
 昨日のカズキとの戦いで分かったのだが、カズキは技名で直接指示するようなことはしなかった。そっちの方が、ポケモンも臨機応変に対処しやすいし、相手も何を仕掛けてくるか分からず、心理的に優位に立てるのかもしれない。
 アサヒが駆ける。とぐろを巻いたその体を、階段を上るように右足で一撃。そのまま左足でもう一撃。あの体勢で攻撃の威力を逃がしているのか、何ら堪えた様子がない。大丈夫。アサヒのアクロバットは三撃目が本番だ。最後の一撃は思いっきり蹴り飛ばして間合いを突き放すだけに、涼しい顔もしていられまい。
 最後の一撃を――と思ったら、チャリスは首を後ろに傾け最後の一撃の手ごたえを皆無にした。踏み外した格好になったアサヒは、落下しながらも受け身を取り、相手に足を向けて仰向けになる、オープンガードポジション。これは相手が特殊型だったら意味がないわけだが……相手はとぐろを巻いているという事は物理型なのだろう。

「チャリス、蛇睨み」
 そのままアサヒはじりじりと後退する。オープンガードポジションは、倒れている相手に攻撃するのが苦手なポケモンには効果てきめんだ。
「あ……」
 その手があったかと思っている間に、アサヒが一瞬の硬直。
「チャリス、弾きだしなさい」
 そして、チャリスがアサヒへ放つ技はドラゴンテール。
「その体勢、口を近づけるのは少々厳しそうですね」
 というか、オープンガードポジションの優位な点が、ジャローダ相手だと完全に殺される。あの体勢は、近づいてきた相手の足を上手く蹴り飛ばすことが出来るから強い体勢だ。しかし、それは相手が立っていればの話であり、地を這っているジャローダが相手では、最初から条件が互角じゃないか。
 蹴りと尻尾のぶつかり合い。だが、体重差がありすぎた。アサヒは吹っ飛ばされる。寝転がっていたせいか上手く飛ばせず、タッチの寸前で踏みとどまったが、今のコンボは中々痛い。まだ戦えそうなアサヒだが、ここは一旦退かせよう。
「退け!」
「ヤドリギの種」
 アサヒに交代を命じると、すかさずカナは追撃を命じる。
 ギリギリのところでタイショウにタッチすると、タイショウは肘でそれを弾き飛ばす。エルフーンの背中の綿で作られた服は、ヤドリギの種を寄せ付けることなく弾き返した。
「ほう、やりますね。ならばリーフブレード」
 チャリスは指示に呼応して、上半身を地面に置き、とぐろを巻いたままの下半身を潰したばねの如く伸ばす。尻尾の葉が鋭く光り、タイショウの首を狙う。
 タイショウは、その尻尾を左腕でいなし、そのまま抱きかかえる。これがナゲキならば、あるいは勝負がついていたのかもしれない。
「かかとおと……」
 タイショウへの命令が伝わる前に、タイショウはチャリスに対して膝蹴り。
 しかして、鞭のようにしなるジャローダの体は、タイショウの攻撃などものともしない。かかと落としだったら、衝撃が地面に挟まれて逃げ場も無くなったであろうが……膝蹴りでは力なんて逃げ放題だ。
 チャリスは掴まれたのをいいことに、体を持ち上げることでバランスを崩す。あんなに長い身体でそのまま体を起こしたのだ。俺がものすごい筋力だと感心するまもなく、つんのめったタイショウの体にチャリスが巻き付いた。
「タイショウ、唾を吐きかけてやれ……」
「チャリス、ヤドリギの……え、ちょ……」
 このままいくとヤドリギの種を植え付けられる。そう思った俺は挑発を命じる。カナはやはりヤドリギの種を命じたが、その前に唾が顔に掛って、チャリスは烈火のごとく怒り出す。
 締め付けるのはそのままに、チャリスは自分の顎を外す。樹上で待ち構え、あのまま獲物を丸呑みにしてしまう恐ろしい顔になっている。
 それで、腕が封じられたタイショウの頭を塞ぐ。窒息させる気なのだろう……これじゃ命令すら下せないが、それまでに、タイショウが何か打開策を見つけられればいいのだが。と、思っていたら、いきなりチャリスが苦しみだして、タイショウの顔を解放する。
 どうやら、タイショウがつねっているらしい。ナゲキほどの握力はないが、パンチを放つ時は拳を固く握りしめるもの。格闘タイプが拳を握るための握力を総動員しているのだ、痛かろう。歯を食いしばって締め付けに耐えるタイショウと、つねりに耐えるチャリス。ジャローダの身長ではタイショウの体はせいぜい二周しか出来ない。つねりを嫌がって尻尾を振られた時、緩んだ拘束からタイショウが抜けだす。
 立ったまま締め付けられていたタイショウは、そのままチャリスの頭を右手で掴んで、転ぶように前方へとジャンプしながら地面に叩きつけた。顎を外したまま戻していないチャリスは、カスタネットの如く上顎と下顎を叩きあわされ、小気味よい音が鳴る。
「そのまま、何度もだ」
「ちょ、やめ……チャリスは棄権します棄権!!」
「タイショウ、ストップ!」
 さすがに、あの攻撃を何度も喰らい続けるのはやばいと判断したのだろう。すぐさま試合を中止するのは正しい判断だ。
「チャリスは棄権により、戦闘不能とみなし退場します。カナさんは控えのポケモンを出して戦闘を続行してください……」
 師匠が宣言する。アサヒは少々ダメージを貰っているが、まだまだ戦える。次のポケモンは何が来るのか分からないが、何が来たって問題無いように頑張らなくっちゃな。
「クイナ。癒しの波導で傷を癒してあげなさい」
 師匠は自分のポケモンに命令して、前に向き直る。ずるずると地を這いながら戻ってくるチャリスを労わるクイナを見送り、カナはこちらに向き直った。
「お強いですのね……ですが、それならそれで私も、本気というか……相性で優位なポケモンを選ばせてもらうとしましょう」
 と、言うことは……出すポケモンなんて決まってる。よな。

「では、行きましょうか、ブリューナク」
 ブリューナク、と呼ばれて出てきたのはトゲキッスであった。格闘タイプにとって苦手な飛行タイプで、しかもあいつ……
「こだわりスカーフ……素早さが上がるあれか」
「ええ、スタンダードに行かせてもらいます。では、スタンダードに、エアスラッシュ」
「ストーンエッジ!!」
 エアスラッシュとストーンエッジが交差する。タイショウがストーンエッジを撃ったころには、すでにブリューナクは回避の準備を始めており、その一撃はかすっただけに終わってしまった。
 しかし、まともに受け止めてしまったタイショウはきつそうな表情を浮かべている。どうやら怯みはしなかったようだが、後一撃あれを喰らえばやられてしまうだろう。だけれど、こっちも出せるカードなんてストーンエッジしかないわけで……
「さぁ、畳み掛けましょう」
「もう一発だ!」
 再び、ストーンエッジとエアスラッシュが交差するが、フラフラになったタイショウのストーンエッジは明後日の方向へ飛んでいた。対して、あちら側のエアスラッシュはきっちりとヒットしている。立ったまま、首と顔面を守ったタイショウだったが、そのまま膝から崩れ落ちる。
「……タイショウ、すまない」
「ダゲキ、戦闘不能。キズナさんは控えのポケモンを出して戦闘を続行してください」
「あぁ、キズナさん。チャリスは回復技を使えるので、その子はチャリスに抱かせてあげてくださいな……」
「あれ、ジャローダってそんなの出来たっけ?」
「ロイヤルヒールという技が……先ほどは挑発されて冷静さを欠いておりましたが、チャリス、出来ますね?」
 ロイヤルヒールという技がどんな技かは分からないが、それを命令するカナは有無を言わせない口調であった。『出来ますか?』ではないところが、トレーナーとしての威厳を保つコツなのだろうか?
 ともかくタイショウを出してやると、チャリスの体を枕にするように、横たわった状態でモンスターボールから出る。先ほどは激高していたチャリスも、戦闘が終わって頭が冷えたおかげなのだろうか、それともクイナの治療を受けている最中だからか、不本意ながらもロイヤルヒールとやらを使い始めたようだ。







**コメント [#qe8ee5d1]
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[[次回へ>BCローテーションバトル奮闘記・第十二話:バトルの決着]]

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#pcomment(BCローテーションバトル奮闘記コメントページ,5,below);
IP:49.98.130.230 TIME:"2014-01-14 (火) 22:49:57" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=BC%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%88%E3%83%AB%E5%A5%AE%E9%97%98%E8%A8%98%E3%83%BB%E7%AC%AC%E5%8D%81%E4%B8%80%E8%A9%B1%EF%BC%9A%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%86%E4%BB%B2%E9%96%93" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Linux; U; Android 4.2.2; ja-jp; F-04E Build/V08R39A) AppleWebKit/534.30 (KHTML, like Gecko) Version/4.0 Mobile Safari/534.30"

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