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BCローテーションバトル奮闘記・第八話:接点は育て屋にあり の変更点


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タイショウが帰って来た。
もちろん、介助ポケモン申請が通った上での凱旋帰還である。前もって用意していたエルフーンというプレゼントもばっちりと決まった。
なので、今日は昼食が終わったらキズナの師匠に会いに行って、サーナイトのコロモ君を貰えるというわけだ。
初めての私のポケモン……ポケモンは妹のキズナに先を越されてしまったけれど、私もこれでポケモントレーナーだと思うと少しだけ感慨深いなぁ。
キズナから写真を貰ったけれど、コロモ君は結構なイケメンみたいだし、楽しみだなぁ。

でも、結局エルフーンのセナちゃんはまだ私に指一本触らせてはくれない。タイショウが相手だと本能的に落ち着くみたいなんだけれど、他のポケモンは寄せ付けようとしない。あの馬鹿な妹が相当怖がらせちゃったんだろうなぁ。


RIGHT:7月8日
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LEFT:

 応接室に呼ばれた私は車椅子を動かし、ガラスのテーブルを前に相対する。実はこの道場兼ジムには茶道室なる場所もあって、客人に対しては本当はそこで挨拶をしたかったというのだが、私の体の事を気遣って、こちらで普通に対応してくれるそうだ。
 本来は、仕事などの商談でしか使わない寂しい応接室らしいが、中身は言うほど寂しくもなく普通な気がした。

 クーラーの効いた涼しい空気を感じながら、私はキズナの師匠であるオリザさんが淹れてくれた抹茶の香りを楽しむ。ぬるめに入れられたお茶はあまり香り高くはなかったが、夏という事もあって汗だくの私達にはむしろありがたかった。
 妹はソファに縮こまるように座り(道場では畳に正座の方が落ち着くらしい)、タイショウもそれに倣う。大木のような巨体を誇る師匠のオリザさんもソファに座しているが、元の体がでかすぎてソファが小さく見える。隣にも同じく座しているサーナイトがいて、その子はきちんと膝の上に肘を置く姿勢が様になっていた。
 オリザさんが作ったという小豆の茶菓子はとてもいい香りで、こんなところよりも茶室のようないい雰囲気の元で食べたかったのが恨めしい。私の体を気遣ってくれたのだから、こんなことは言えないけれど。
「まずは、タイショウさんが介助ポケモンの申請を通ったようで……おめでとうございます」
「ありがとうございます、師匠」
 私とキズナが太ももに手を当てたまま、上半身を傾け礼をする。私が手話で促すと、タイショウもそれに倣うので、見ていると本当に人間と差異が無いようにすら思える。

「このジムでは、ポケモンにも礼儀作法を叩き込んでいましたが……それが一部でも生かされたのかなと思うと、こちらとしても名誉なことであります。もちろん、タイショウさんが申請を通った大半の理由は、あなた方の教育と努力の賜物でしょう」
「恐縮です」
 オリザさんに褒められると、まずはキズナが畏まった。姉の立場無いなぁ……
「さて、キズナさんはポケモントレーナーとしても、門下生としても優秀な方でしたが……姉のアオイさんの事はよく知りませんでした」
 そう言って、オリザさんは私の方を見た。
「ですが、キズナさんが貴方の事を語る時は、なんというか、ポケモンを好きなことだけが唯一の長所とまで言われた方なので……半信半疑ながらもそれを信用し、私の子を譲ると約束しました。約束した時は確かに半信半疑でしたが……どうやら、言葉通り大層ポケモンを大事にされておられるようですね」
「はい、ありがとうございます」
 笑みを向けられながらそう言われて、私は緊張した声で返す。というか、そういう風に見えるのだろうか?
「アオイさんのタイショウさんとの手話のやり取りはとても鮮やかです。段差一つ越える時も、逐一手話を交えてお礼を言っているなど、貴方はポケモンの事を信頼していますし、ポケモンも貴方の事を信頼しているようだ。
 正直、介護なんて面倒なことだというのに……面倒と言う感情を全く感じさせないタイショウさんの表情を見て、本来ならいくつかアオイさんに質問しようと思っていたことも意味がないものになってしまいましたよ。
 ポケモンを信頼しておりますかとか、その逆に、ポケモンに信頼されている自信はありますかとか……そういう質問はタイショウさんの様子を見る限り問題ないようですし、私のサーナイト、コロモも……貴方達の元でならば幸福に暮らせるでしょう」
 オリザさんはチラリとサーナイトのコロモを見る。コロモはオリザさんと視線を交差させると、にっこりとほほ笑んで返した。

「ねーちゃんポケモン好きだからな。ま、好きすぎて男として意識しちゃってるのが珠に傷だけれど。」
 別にタイショウの事を男として意識しているってわけじゃないんだけれどねー……裸を直視するのがさすがに無理なだけで。妹にはそういう風に映るのだろうか。
「ねーちゃんさ、タイショウと風呂に入るの恥ずかしがったり、タイショウが胴着を脱ぐと慌てるんだぜ、師匠?」
「そういう事じゃないでしょーが! タイショウは人間に似すぎているから、一緒に居ると人間の男と一緒に居る気分になっちゃうのよ!」
「だからそれが変なんじゃないかって……」
「あんたはもう少し恥じらいを覚えなさい!」
 あーもう、防音の応接室でこんな大声を上げてしまった。
「ははは……流石にこれはアオイさんの方が正しい気がしますよ」
 私も妹も、恥ずかしすぎる……オリザさんも苦笑しているし、本当にもう。
「私も、雌のズルズキン……静流と一緒にお風呂に入る時はなんだか恥ずかしかったので……普段はほら、パンツを履いたまま体を洗ってあげていますから」
「えー……師匠が? 意外だなぁ……」
「あんたはもう黙ってなさい」
 呆れた。こいつは本当に女を捨てているって感じだ。足元のおしゃれも気にせず裸足だし、今日はコロモを貰ったらすぐ帰ると言ったのに作業着だし……
「まぁ、いくら信頼していても、風呂に一緒に入るというのは……というか、私は中学生と何を話しているのやら」
 オリザさんは苦笑する。
「そ、そうですよね」
 あぁ、そう言えばオリザさんは27歳だった。私よりも倍以上長く生きている男の人に私は何を話しているというのか……本当に恥ずかしい。
「では、本題に入りましょう。アオイさん。これからあなたに私のポケモン、コロモ君を譲るわけですが……このタイショウ君や、アサヒちゃんのように、キチンと育て、大切にすると誓えますか? 自信がないようでしたら、何回か道場に遊びに来て、コロモが慣れてからという方法でも構いませんが」
 コロモ君が乗り気でないのであれば、それも一つの選択肢かも知れない。けれど、出来れば早いうちに慣らしておきたいのも事実。

「これから先、多くのポケモンを育てようとは思っておりますが……なんというか、ポケモンは、手話を覚えると、覚えていないポケモンにも同じく手話を教えることがあるんです。
 私の家に居る、ゴルーグのアキツって子が……アサヒやタイショウにも手話を教えていましたので……虫のいい話ではありますが、ゆくゆくはそんな子になってもらえたらと思うのです。もちろん、コロモさんの意思は尊重しますが……」
 私は言いながらコロモと目を合わせる。相手は真っ直ぐこちらの方を見て来た。格闘タイプの道場で育ったせいか、力強い眼差しだ。
「人間たちの都合で勝手に話を進めてしまいましたが、どうかよろしくお願いします」
 そう、妹はこの子と仲がいいらしいけれど、私はこれが初対面なのだ。お見合い結婚のような慌ただしい出会いで、この子が私を気に入ってくれる保証なんてどこにもない。サーナイトというのは育てやすい初心者向けのポケモンだと聞いたから、そんな単純な理由で譲ってもらうことを望んだけれど……肝心のコロモはどう思っているのか。
 ずっと、視線を交差させるだけの気まずい時間が流れる。私は、自分を受け入れて欲しいとただただ願っていた。すると、その想いが通じたのか(サーナイトは感情を感知するというし、言葉通り通じたのかもしれない)彼は胸に手を当て頭を下げた。よろしくお願いしますという事なのだろうか。
 自分も、同じく頭を下げて見守っていると、タイショウが同じく頭を下げた。タイショウはよろしくお願いしますと手話を交えて言っており、コロモは早速それを真似ていた。記憶力がいいのかどうかはこのやり取りだけでは分からないが、空気を理解するというか、郷に入れば郷に従う能力はありそうな感じはする。

「決まり、ですかね……寂しい気分もしますが、キズナさんの家族なら、仕事で忙しい私よりもコロモと構ってくれるでしょうし。それがコロモにとってよりよい環境であるならば、私はそこにいる事を願おうと思います」
 オリザさんの視線が私の方を見る。
「もちろん、そのつもりで育てていこうと思います。ですから、その……コロモさんを私に下さい」
「わかりました。コロモをよろしくお願いします」
 私の真っ直ぐな言葉に、オリザさんは力強く頷いて了承した。……なんか、娘さんをください的なノリになってしまってすごく恥ずかしいんだけれど。
「よかったな、ねーちゃん」
「うん……私の初めてのポケモン……よろしくお願いします、コロモ」
 私は車椅子を漕いでコロモの元に向かう。片手でバランスを取るのは力のない私には大変なことだったけれど、震える左手で体を支え、私はコロモに握手を求める。
 すると、彼は私の手を取ると、魔法のように私を引っ張り立ち上がらせてくれた。なんだか、膝は少し曲がっているし、つま先の形も少々変だが、サイコパワーで浮かしているのではなく、私は下半身できちんと上半身を支えている。
「え、え?」
 コロモは戸惑う私の右手を高く掲げさせたまま、私の腰に左手を当てて支え、おもむろに手を強く握った。相変わらず私の足に感覚はなく、あるのは重く鈍い鉛のような倦怠感だけ。なのに、どうして私は立っているのか不思議でならなかった。
 目を凝らせば、サイコパワーが働いていることを示す青い光が膝と足首の関節にそれぞれ灯っていて、それによって支えられている事が分かる。
「すごいな……フーディンやサーナイトはサイコパワーで自分の体を動かしていると聞きましたが、他人の体にまでそれをできるとは……」
 オリザさんが感心するが、正直私は久々に感じる視点の高さに少々感動を覚えるばかりでそんなことを考える余裕はないだ。まさか、こんな風に立ち上がることが出来るだなんて……ポケモンだからという事であまり気にしていなかったが、こうして掴まれたまま近くで見つめてみると、コロモは相当顔立ちが整っているし、う、美しい……ハッ! 何を考えているんだ私は。

「えと、その……ありがとう、」
 なんだか、すごいことを考えてしまったせいか恥ずかしくなって、私はコロモと目を合わせるのが辛い。
「スゲーな、コロモ。介助ポケモンとしての才能ありありじゃねーか」
 妹は純粋な目で私を見てくる。アンタは本当にもう少し不純になりなさい。そっちの方が恥じらいも生まれてちょうどいいわ! そんなことを思っていると、コロモはタイショウに目配せをする。
「『人間』『動き』『たくさん』『見る』『だから』『出来た』……そう、人間の動きをたくさん見ているから、こういうことも出来るのね?」
 すると、タイショウはそう言った。コロモの言葉をわざわざ訳してくれたのか。
 なるほど、ここは格闘タイプのジム。人間の動きやバランスのとり方を幾度となく見て来たわけだ。だからと言って、即席で出来るというのは中々すごい事なんじゃないかと思うけれど……これがシンクロの特性の力なのだろうか。
 少しばかり足の形というか姿勢が変だけれど、こんな芸当も出来るとは。そういえば、介助ポケモンとしてサーナイトが優秀だという記述は、手話を学ぶ本にちょこっと乗っかっていただけ。ポケモンに手話を教える本を書いた堀川さんの著書には、介助ポケモン育成の専門書などもあるだろうから、機会があればそれも購入して勉強するべきかもしれない。
「ね、ねぇ……このまま歩かせることって出来る?」
 こんなことが出来るならば、と期待したのだが、コロモは目を逸らした。
「あ、出来ないのね」
 そりゃまぁ、ロボットを立たせるのとロボットを動かすのじゃ難易度違うものね……まぁ、仕方ない。ごめんとばかりに頭を掻いたコロモの仕草が何だかかわいいし、久々に立ったような気分になれてうれしかったわ。
「それじゃあ、このまま車椅子に座らせてくれるかな?」
 私がそんなことを頼むと、コロモは腰に手を当てて、力の入らない下半身を労わるようにそっと車椅子に乗せてくれた。
「おー、スゲーじゃん。師匠、あんなよく出来た子を貰ってしまって、本当に良いのでしょうか?」
「私にはあの子は宝の持ち腐れですよ。適材適所と言います」
 適材適所、か。私は、まだコロモが私の手持ちだという実感に乏しいから、いつか胸を張って同じセリフを言えるように、いい子に育てなくっちゃね。
「では、お互い慣れますように、少々道場内を散歩しましょう。畳の部屋以外は車椅子でも問題ありませんので……」
「はい、有難うございます」
 私の後ろでは、コロモが車椅子を押している。今までタイショウやキズナにばっかりそれを押させていたけれど、それらよりはるかに背の高いサーナイトのコロモに押させると、振り返った時の景色がわずかに違って見える。
 言われるがまま道場を見学していると、日曜でも門下生ちらほらといる。日曜は宗教の関係でジム戦こそないが、様々なトレーニング器具や、バトルフィールドは弟子に解放されていて、そこではポケモンたちがトレーニングに勤しんでいる。

 たとえば、様々なトレーニング器具が置いてるトレーニングルームでは、殺意すら感じられるほどサンドバックを叩く音が凄まじい、やたらとあらぶっているズルズキン。あの子の名前は&ruby(シズル){静流};といって、最近私たちの家族の一員となったセイイチの母親らしい。
 妹も本当はリオルではなくズルッグが欲しかったそうなのだが、雌のズルズキンが強いストレスの影響下で子作りをしたせいか、ズルッグが生まれる羽目になってしまったらしい。
 素人にはよく分からないことだが、あの荒ぶりようもストレスのなせる業なのならば、そんな異常があっても仕方のない事なのかもしれない。格闘道場としての門下生や、ポケモントレーナーとしての門下生の手持ちはその意気に呑まれることなく、ついて行けるように奮起しているようだ。
 ベクトルは違うが、同じように熱くなっているというのはよい傾向なのかもしれない。とても話しかけられる雰囲気じゃないのが怖いが。

 その部屋の隅っこでは、このジムのアイドル、ルカリオの&ruby(クイナ){杭奈};とエルレイドの&ruby(ハカマ){袴};が互いにゆったりとした動きで戦いあっている。私でも簡単に避けられそうなくらいゆっくりだが、そのゆっくりとした動きでも、全く崩れることなくバランスを取っているのがそもそも信じられない。
 ハイキックの体制に移行するためにゆっくりと脚を上げて動いていくさまは、体の柔らかさもさることながら、バランスのとり方が神懸かりだ。
「格闘タイプのポケモンってすごいな……足が動いても、あれは真似できないわね」
「俺は出来るぜ」
「あんたは柔軟運動を真面目にやっているからね……と、それよりも……あのエルレイドは……」
「はい、コロモの弟です」
 私が尋ねると、オリザさんはそう答える。
「なら、挨拶していかなきゃね」
 兄を奪っていくような形になるわけだし、ね。
 私がコロモを連れて行くと、ポケモンたちは軽く挨拶をして、何事かを話し合っている。私が挨拶をすると、杭奈と袴は礼儀正しく礼をして、その後コロモと何かを離しあっている。やっぱり、どこか寂しげな彼の雰囲気を見ると、ちょっとばかし悪いことをしたような気になるが、いつかは別れも来るものだし、そこは割り切ってもらうしかなさそうだ。
 他にも、バトルフィールドで後輩を指導しているエンブオー(どうにも、初心者ポケモン配布のためにメタモンと交配したらしく、静流のイライラの原因らしい)や、屋外演習場で森を駆け回っているカポエラーやキノガッサなど、オリザさんの手持ちに一通り挨拶を終える。
 最後、森を行くときは車椅子を降りないととても歩けないような足場のため、お姫様抱っこをしてもらったのだが。その時見た顔はやっぱり美しかった。コロモが話をするときは、オリザさんに体を預けられることになったり(岩で出来てるのかこの人)もした。恥ずかしいから妹に抱えて欲しかったけれど、その言葉はぐっとこらえて飲み込むことにした。

「そうそう、忘れる前にお話したいのですが……」
 オリザさんが突然話を切り出した。
「はい、なんでしょうか?」
「貴方達に紹介したい人がいるのです……その、アオイさんは最終的にポケモンを売買する職業に就くようですし、何らかの参考になればと思いまして、育て屋を経営する女性を紹介したいのですよ。
 その人、預かったポケモンを育てるだけでなく、育て屋の中で生まれた子供の内、引き取り手の見つからないものをある程度まで育てて、ブラックシティでの護身用や騎乗用に、個人用から企業用まで販売する商売をしておりましてね。値段設定や、販売の方法など、教われることがあればと思いましてね。
 あちらの方としても、手話でポケモンと話す貴方達二人に対して大変興味を持っておられますので」
 育て屋、かぁ。確かに、ポケモンを育てるプロだし、参考になるようなことはあるかもしれない。
「その育て屋って、もしかしなくてもセイイチを生ませるのを協力してくれたり、クイナやハカマを育ててくれた人だっけか?」
「えぇ。開業で忙しい時に、バッジの少ない初心者を相手にするためのポケモンを育ててもらおうと思ったのですが……ただ、預けたポケモンが予想以上に強くなりすぎて、結局エースポケモンを入れ替えするレベルになってしまったという。そんな、腕も信頼できるブリーダーです」
 それは、すごい。普通、ジム戦というのは挑戦者のバッジの数に合わせて挑ませるポケモンを変え、バトルフロンティアなどで使われるフラッターと呼ばれる装置でレベルを調整したりもするが、フラッターにも限界がある。だからこそ、ある程度発展途上のポケモンを用意しておくべきなのだが……それを出来なくさせてしまったとは、罪深いまでの優秀さだ。

「その人ってさ、確か素手で野性のオノノクスに勝てるんだろ? スゲーよな」
 いやいやいや、なによそれ。イッシュ無双に出てくる武人ですかいな。
「いや、素手ではなく、拾った石と、ウチでも使用しているイトマル製糸工業(株)製の作業着のおかげで勝てたのですよ。以前ブラックモールでデートした時も、エサ目当てに襲ってきたボーマンダ相手にはきちんと鉄扇使ってましたし、ほかにもバールのようなものも使うとか」
 おかしいおかしいおかしい! オリザさんのこの逞しさならばオノノクスやらボーマンダに素手で勝つというのも分からなくはないけれど、女性が勝つって……我が妹でも、流石に無理よね? キズナはナゲキを四人抜きしたって言うけれど、あの辺ナゲキはノホホンとした弱い奴らばっかりだからあてにならない。野性のオノノクスは外敵も多いから、成獣になるころには強いはずだし。
「あー、そーだっけかー……でも、強いことには変わりないんだろ? ちょっと会ってみたいかもー」
 やはりそう来るのか妹よ。
「どうやらキズナさんは乗り気のようですね。アオイさんはどうでしょう?」
 妹がこんなに乗り気では、断れる気がしないし、別に取って喰われるわけでもないし……。
「いいですね……ちょっと、訪ねてみたいと思います」
「決まりですね」
 あぁ、決まっちゃった。どんなゴツイ、テラキオンみたいな女性が出てくるのか激しく不安だけれど、取って喰われるわけでもあるまい。どんな顔なのだか拝んでやろうじゃないか。
「ちなみに、こんな人なんです」
 拝もうとする前に拝まされたぁぁぁ……なにそれ、そういえばさっきデートって言っていたけれど、恋仲ですか?
 そう言って、スマートフォンを差し出されると、待ち受け画面にはダサい眼鏡をかけて作業服を着た女性が。冬服のためか筋肉も目立たず、この体のどこにオノノクスを倒すパワーがあるのかは知らないが、化け物どころかオリザさんの体格ならば守ってあげたくなりそうな女性だ。
「やっぱりいつ見ても美人だよなー……メガネ外せばいいのに」
「これ、伊達眼鏡なんですよね。わざとダサくして見せているのだとかで」
 オリザさん、『いつ見ても』ってことは、門下生に彼女ののろけ話しているんですか……日常的に。何をやっているのやら、ねぇ。
「あー、でも、好きな人にだけ素顔を見せたいっていうのはありますよ」
 そういう心理で普段は眼鏡を付けているというのならば、納得できる気がする。
「そういう事だとしたら、もう少しはずしてほしいかなーと思います。ポケモンの相手をするときは、激しい動きが出来るようにメガネをはずしておりますが……デート中は、全然はずしてくれませんから」
「もう、ラーメンでも食べに行っちゃえよー」
「眼鏡が曇っても外してれないんですよ、それが。汗が滴りそうなときとか、会話するときは外しますが」
 うわー、この二人、楽しそうに話し始めているし。10歳と27歳でしょうに、あんたら。
「キスするときに邪魔だからって言って、外してみるとか。強引に」
「そんなことしたら、数秒後には私の手首が外れますよ」
 オリザさんの手首が外れるとかなにそれ怖い。こんな調子で、二人は育て屋について話していた。彼女はもともと悪タイプのジムリーダーを目指していたけれど、面接での受け答えがまずすぎたとか、そんな会話に一切入れない私はどうすればいいものかとポケモンたちを見る。コロモとタイショウは、仕方がないさと苦笑していた。


 家に帰ると、歓迎のポケモン用サブレ、ポブレを母さんが焼いていて、家族で一緒になってそれを食べた。甘い物が好きなコロモは、モモンの実で作った木の実を気に入ってくれたようで、美味しそうに食べている。
 母親は、大きな子供が出来たようで嬉しそうにしていたが、そろそろ家計が苦しくなってきそうとも漏らしている。全部ではないけれど、私のために家も改装したし、手術とかにお金も使ったからなんだろうな。私も、苦労かけたぶんを何かお返しできればいいのだけれど。
 家事を私が出来れば、もう少し楽させて上げられるんだけれどなぁ……。
 それが出来るに越したことはないけれど、もし家事を手伝うなんてことになったら妹に頼んでしまうことになる。結局私たちがお金を使わせないように、贅沢を封じるしかない、かな。
 私は、オシャレや遊びよりもやりたいことが見つかったんだ。興味を変えたことで浮いたお金を、コロモに回してもらえばいい。


「コロモ。歓迎のポブレの味はどうだった? 美味しい時は右手で頬を二回叩いて、『美味しい』だ」
 キズナは言った通りの動作をコロモに見せつける。
「ま、うちのクッキーに限ってまずいなんてこたぁないだろうけれど、まずかったら……指を折り曲げて、相手に手の甲を向けながら口元で手を左右に振る……そうすれば『まずい』だ」
 こうやって、日常会話からポケモンに覚えさせるのが手話の基本だ。最初は記憶しようにも難しく、覚えようとしても出来ないことも多いが、徐々に言える言葉、出来る動作を増やしていければ最高ね。
「『美味しい』」
「そうか、『美味しい』か! そう言ってくれると『俺』も、『嬉しい』!」
 『嬉しい』と言うために、広げた手を胸の前で互い違いに上下させていた時、コロモは角に指を触れる。相手の感情を感じるあの胸の角で、嬉しいという感情の意味を図っているらしい。人間というのはある程度、お世辞で言っている事もあるから、本当に自分が嬉しい気分になっているのか不安だったが、多分今のキズナは嬉しいと思っているはず。
 伝わったのか伝わっていないのか、コロモもまた『俺』『嬉しい』と答えてくれた。うんうん、上々ね。しかし、喜怒哀楽の言葉については、こいつには迂闊に教えられないかもしれないなー……結構苦労するかもしれない。
 私は、妹がやることなすことを見守りながら思う。こいつは格闘タイプのジム出身なおかげか、拳で語ろうとすることが多い。こうして言葉を教えるのにも飽きてくると、アサヒやセイイチに対してそうしてきたのだ。だから、手話を打ち切るタイミングを自身で決めるために、こうして先手を取るのだ。
 私のポケモンなんだから、私が一番最初に……と言いたいところだけれど、そこはお姉さんの立場もあるし、我慢しておこう。大人なところを見せなくっちゃ。
 まずは、先程のポブレについての味を問う質問から、日常の挨拶まで。タイショウと一緒に丁寧に教えている。
 ふと、私は気になった。教えられる子から教えていくのは大事なことだと思うけれど、キズナはあのエルフーンをどうするつもりなのだろう? &ruby(セナ){瀬那};と名付けられたあの子は、いまだに食事を受け取ろうとしないし、タイショウ以外には近づこうともしない。いまだに見ているだけだ。
 コロモも、仲間に入れない彼女の事をしきりに気にしているんだけれど。

「ふー……」
 私の心配をよそに、走るとか飛ぶとか、そんな動作なんかも手話で教え、色んな言葉を教え終えたキズナはため息をついた。一回で覚えられるようなポケモンは少ないが、繰り返し教えてあげれば、覚えるのにそう時間はかからないだろう。
 喋り疲れたらしく、集中力も散漫になってきたのだろう。しかし、手話を教えるにしてもわざわざ熱い炎天下の下でやらなくとも良かろうに、クーラーの効いた部屋でやるのではなかったのは、ひとえに外でポケモンバトルをやるつもりであったからだろう。
 コロモと交流を図りたいキズナは、最初からバトルをやる気満々で庭に出していたのだ。
 そのキズナの闘争心を敏感に感じ取っているのだろう、コロモは助けを求めるようにこちらを見る。ごめんなさい、私からは諦めてくださいとしか言いようがないです。
「よし、コロモ。やっぱり、男なら手話もいいけれど、拳で語りあおーぜ!」
 キズナ……あんた女でしょ。突っ込むのも面倒臭いから言わないけれど。
「と、いうわけで出てこーいみんな!」
 そう言って、キズナはコジョフーのアサヒ、リオルのセイイチ、そしてゴルーグのアキツを繰り出す。
「みんな、今日はコロモの歓迎という事でポブレを一緒に食べたけれど……やっぱり、俺らジム生だからな。戦うことで、親睦を深めようと思うんだ。コロモは、どうかな?」
「どうかなって……コロモはまだ手話もまともに覚えていないんだから、答えられる訳ないじゃない……」
「そーだな……なぁ、なんて言っているか分かるか、アキツ?」
 キズナは前に立つゴルーグを見上げ、訪ねる。
「『少し』『であれば』『はい』」
 手際よく簡潔に、アキツは手話で示す。
「ちょっとなら大丈夫……か。それなら、誰と戦う?」 
 コロモは、アキツを指し示す。この家のポケモンの中では年長者で、戦闘用に鍛えていないからそんなに強くないとはいえ、巨体と生きた歳月のおかげか弱くはない。
 かといって、コロモは腐ってもイムリーダーが育てたポケモン。専門のタイプでなくとも、門下生のエスパー対策のためにそれなりに実用性があるようには育てている
 アキツとコロモならば、それなりに良い戦いになるだろう。

「よし、それならアキツ……行けるか?」
「『了解』」
 と、アキツは言う。
「じゃあ、ねーちゃん審判頼む」
「分かったわ」
「俺はアキツに指示を出すから。コロモは……指示なしでも動けるな?」
 こくりとコロモは頷いた。やっぱり、なんだかんだで戦い慣れているだけあるわね。構えを取ったら、別人みたい。家の庭では狭すぎるので、近くの空き地に場所を移して、両者並び立った。

「それじゃ……勝負、開始!」
 の、合図とともにコロモは走り出す。彼の手にはシャドーボールが握られている。それを至近距離で放とうとでもいうのか、ものすごい前傾姿勢で迫っている。
「アキツ、蹴り飛ばせ」
 冷静にキズナは命令する。うちのアキツのすごいところは、体重が重いせいもあってか、蹴りと踏みつけの動作を行った後に、その流れのまま地震が放てるという事。これはアキツに限ったことではないのだが、この近距離から中距離まで対応する三連攻撃は初見回避が難しい。
 と、言ってもそこはジムで毎日戦いを見て、体験してきたポケモンである。軽く上げただけの前足の蹴りがコロモの頭の高さまでカバーしたが、コロモはサイコパワーと自身の体のバネを活かして、飛び上がると同時に上空からシャドーボールを投げつける。
 いや、上空ではなかった。せいぜい目の高さが同じになるくらいの高さというべきか。やはりゴルーグの物凄い大きさのせいで距離感が色々と狂ってしまう。投げつけたシャドーボールはアキツの胸にヒットし、暗黒の塊は霧散して消える。
「アキツ、まだいけるか?」
 と、妹が尋ねると、アキツは妹が言い終える前に頷き返す。
「アキツ、シャドーパンチ」
 キズナが命令する。必中と称されるシャドーパンチは、拳を振り抜き終わると獲物に向かって霊の波導が追尾していく技だ。効果は抜群の技であるし、サーナイトのコロモが受ければ無傷では済まなかろう。
 そう思うが早いか、コロモは手にサイコパワーを集めて、伸びた拳の影を打ち払う。アキツはわずかに拳が痛そうに顔をしかめたが、その一瞬に思いをはせる間も無くコロモはシャドーボールのチャージを始める。
「アキツ……掴みかかれ。相手の動きを捉えないと、どうにもならない!!」
 追い詰められたアキツを見て、キズナが指示を下す。アキツは下半身をロケットに変形して、ヘッドスライディングでコロモを捉えに掛る。
 冷静に見切られ、背中の上まで跳躍される。そこで、アキツは止まってしまったのがまずかった。
 止まることなくロケットを噴射し続け、安全圏まで離脱しておけば良かったというのに。
「ダメだアキツ!! そのまま飛び……」
 警告が届く前に、コロモのシャドーボールはアキツの背中にクリーンヒットした。
「続けろ……って、言う前に、これか」
「まだ動けそうだ……けれど、勝負ありでいいわね、キズナ?」
 アキツは立ち上がろうとしているが、実力の差は圧倒的だ。やはり、ジムリーダーが育てたポケモンだけあって基礎体力や膂力の違いだけで勝てるような相手ではないらしい。
「だな、このまま続けて勝てる相手でもないようだし……。すまんな、アキツ……無理させちまった」
 立ち上がろうとするアキツに駆け寄り、キズナは優しい言葉をかける。アキツは気にするなとばかり手を振っている。
 そういえば、こんな拳での語り合いも、まだセナはしていない。エルフーンのセナ……あの子の事、キズナはタイショウに任せるつもりなのだろうか? 他人任せだけじゃ上手く行かない気がするのだけれど……。セナのことも、いろいろ観察して、これからなかなか懐いてくれないポケモンを飼うときのためにまとめておこうかな。
「そろそろ部屋に戻って、レポートを書くかしらね」

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譲り受けたコロモ君は、とっても格好いい上に、器用だし強いしでもう最高。特に、私を立たせてくれたときのあの動き……歩かせることは出来いみたいだけれど、それができるようになればいいのにな。

ともかく、オリザさんはこんなに素敵なポケモンを用意してくれたんだ……絶対に無駄にしないように、この子は私のパートナーとしてじっくり働かせなくっちゃね。
取り敢えずは、アキツと同じく後輩のポケモン達に手話を教えたり、介助ポケモンとして皆の模範になれるように、世話の仕方を覚えてもらおう。そして、私自身の介助ポケモンとしても役立ってもらえると嬉しい。
そうそう、コロモのモンスターボールはGPS機能が付いているらしい。これで、モンスターボールを紛失しても、どこにあるのかがスマートフォンのアプリで一目瞭然なんだってさ。使う機会はないと思うけれど、オリザさんは粋なものを用意してくれるもんである。

で、いまだに懐いてくれないセナだけれど、ポケモン同士でバトルによる交流を続けていると、興味があるのかよく覗いてくるみたい。
皆活き活きと戦っているからなぁ……私は体が万全の状態でも参加できる気はしないけれど、一緒にはしゃぐことくらいは出来たのがもどかしい。もこもことした後姿を観察するのも良いけれど、やっぱり私はポケモンと楽しみを共有するのが好きなのだろう。この上なく。
まぁ、眺めているだけでも幸せな気分になるし、それでいいか。早くセナもあの輪の中に入られると良いな。


RIGHT:7月8日
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LEFT:






**コメント [#c7010c46]
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[[次回へ>BCローテーションバトル奮闘記・第九話:再会する2人]]

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#pcomment(BCローテーションバトル奮闘記コメントページ,5,below);


IP:223.132.197.24 TIME:"2014-01-08 (水) 01:16:40" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=BC%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%88%E3%83%AB%E5%A5%AE%E9%97%98%E8%A8%98%E3%83%BB%E7%AC%AC%E5%85%AB%E8%A9%B1%EF%BC%9A%E6%8E%A5%E7%82%B9%E3%81%AF%E8%82%B2%E3%81%A6%E5%B1%8B%E3%81%AB%E3%81%82%E3%82%8A" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 10.0; Windows NT 6.2; WOW64; Trident/6.0; MALNJS)"

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