[[BCWF物語]] [[作者ページへ>リング]] [[前回へジャンプ>BCローテーションバトル奮闘記・第三十七話:ビリジオン・ダークライ感謝祭・本番]] #contents 「ふぅ、暑かったよ……このマスクは」 涼しい顔をしながらギーマさんは言う。いつもの翼を広げた鳥の様な髪形は見事に崩れており、今の髪型はとても地味な髪型になっていた。隣ではアオイさんがものすごく興奮している。イケメンが好きなんだっけ、アオイさんは。 「さて、お久しぶり……スバル君」 「会いたかったぞ、ギーマ。色々語りたいことも在るが……試合も詰まらせちゃ悪い。まずは……」 母さんは審判の方を見る。 「ポケモンバトルで語り合おうか。トレーナーらしくね」 二人は改めてモンスターボールを構え、オリザさんもそれに続く。準備OKと分かった審判は、唐突に始まった大物同士の試合にごくりとつばを飲んで宣言する。 「試合開始!!」 この大会では、一回戦で使用したポケモンをそのまま二回戦でも使用する決まりとなっている。つまり、大きな怪我でもしてしまえば、例え勝利しても次の試合で負ける可能性は非常に高くなると言うことだ。 今回、幸いどちらのポケモンもたいした傷を負っていないが、どのポケモンを出してくるかはお互いに割れている。スバルさんとオリザさんは、トリニティとクイナ。そして、ギーマさんはキリキザンのカットと、ズルズキンのポーカー……どんな戦略で来るのか。というか、全員格闘タイプに弱いんだな……何この試合。 この場合、どちらも格闘弱点だから、特にキリキザンのカットをどうにかこうにかクイナの一撃でしとめたいところ。しかし、彼女はきっちりと気合のタスキを巻いており、矢継ぎ早に攻め立てたくらいじゃ堪えてしまうだろう。ポーカーのほうはといえば、何かのドライフルーツを首から提げている……オボン、だろうか? 「ストレングスだ、頼むよ、2人とも」 ギーマさんが指示を下す。『ストレングス』は、ダブルバトルでの戦略の一つで一人が一方を押さえつけ、もう一方が強力な攻撃を仕掛ける技だ。キリキザンはハサミギロチンが使えるし、ここはポーカーがクイナを押さえつけ、カットがハサミギロチンだとか、そういう作戦だろうか? 「クイナ、捕まるんじゃないぞ!! 動き回って注意をひきつけるんだ」 「トリニティ、追い風だ!」 やはり、ここでクイナに下される指示は、後衛のトリニティを守るという指示。自分は注意をひきつけつつ、飛び膝蹴りやハサミギロチンのような強力な技をやり過ごすと言ったところだろうか。 クイナは、2人の前に躍り出る。確か……いつの間にかオリザさんの切り札になっているクイナは、実力で言えば四天王のポケモンに匹敵するという。だけれど、相手は2人……勝てるのだろうか、もしくは凌げるのだろうか? まずは、1対1を作り出すことが大事だ。2人に挟み撃ちの状況を作られると、クイナはそれを打開するために神速の足でポーカー方面を抜けようとする。棘の生えた手の甲による裏打ちを牽制に、遮るものを退かして走り抜けようとしたのだが、ポーカーの体勢は予想以上に低かった。 ズルズキンである彼女は、その太い尻尾で巧みにバランスを取り、他のポケモンには真似できない低さでテイクダウン。ジャンプしてそれをかわしたクイナだが、着地のタイミングにあわせてカットがサイコカッターを飛ばした。クイナは振り向きざま肩を上げて受け止めて重傷になることを防いだ。だが、痛みに意識が向いてる間に、再度テイクダウンを狙うポーカーがクイナの左足を取って押し倒した。 「トリニティ、キリキザンに悪の波導!」 2人がクイナを構っている間に追い風を纏ったトリニティがフォローに入ろうにも、トリニティは基本的に特殊型。誤射が怖くて、味方に組み付いている相手には特殊技は使えない。ならば、とスバルさんはクイナへの追撃を許さないとばかりに、カットへ攻撃を加える。 キリキザンに対して相性の悪い悪タイプの技を使うのは、決して馬鹿な行為ではない。相手のメタルバーストを警戒しての技の選択だ。しかし、あまりに攻撃の相性が悪すぎた。カットは悪の波導を喰らうことを恐れず、一切立ち止まらずに悪の波動にクリーンヒットするも、ダメージは軽微。体勢を崩しながらも、クイナを押し倒したポーカーの背後を陣取り、ポーカーごとサイコカッター。 振りぬいた腕からは、ピンク色、三日月形の斬撃が飛ぶ。ポーカーの体ごと切り裂きかねないそれはしかし、ポーカーの体に触れた瞬間消え去って、残った刃がクイナの右肩を切り刻む。これはお手本のような『ストレングス』だなぁ……元はタロットカードで、ラティアスがレントラーの口を押さえつけている絵から連想された戦略の一つだけれど、コレはえげつない。 そして、そこから先もえげつなかった……ポーカーは、クイナの左手の防御がもう機能しないのを良いことに、早速馬乗りになって、右手を右手で交差するようにつかみ。左拳を右頬に叩き込んだ。 尖ったマズルが思いっきり振りぬかれ、クイナは天地が上下する感覚。反撃するべくクイナも拳を振るうのだが、右腕をつかまれたまま、負傷した左腕による下から上への攻撃で威力が出るはずもない。 「諸刃の頭突き!」 スバルさんの指示がトリニティへ飛ぶ。 「カット、メタ……アイアンクローだ!!」 ギーマさんが言葉の途中で指示を変える。その一瞬、隙が出来た。スバルさんはマウントポジションを取っているポーカーを、諸刃の頭突きで引き剥がそうとしたのだろう。そうはさせないとカットが走るが、先に動き出したサザンドラに素早さ勝てるわけはない。あえなく、ポーカーは諸刃の頭突きを喰らってクイナから引き剥がされてしまう。 「ポーカー、ドレインパンチ」 だが、引き剥がされた瞬間のクイナは無防備であった。結局アイアンクローを放てなかったカットは、クイナの左腕を踏み潰し、そのままサイコカッターでクイナの頭上を切り裂く。その最古カッターは少し狙いをずらせば、目をつぶすことも首を刈ることも容易だったけれど、情けでわざと外したと言ったところか。 もう一度カットが腕を振り上げると、クイナは手をかざして降参の意をアピールした。降参を見届けてクイナから目を離したポーカーは、トリニティと戦っている最中のポーカーの援護に向う。トリニティは、まだ追い風を纏って素早く飛びまわっており、ストーンエッジで応戦しようにも手が付けられない状態だ。 トリニティは気合い玉でポーカーを攻め立てており、クリーンヒットこそないものの爆風の衝撃で徐々に削っていっている。だが、それも2対1の状況になってしまえば難しかった。 「トリニティ、囲みを突破して反撃だ」 とにかく囲まれてはまずいからと、トリニティは2人の正面に立ってからの波乗り。 「その技は……っ」 スバルさんが、焦って口にする。何かまずい技なのかと思ったが、すぐにわかった……波乗りの一撃程度ではキリキザンは落ちないから、メタルバーストを決められる恐れがあるということだ。 「メタル……聞こえないか」 風を纏ったままの波乗りは素早く、2人ともその流れに飲み込まれ(悔しそうにうなだれていたクイナも巻き込まれていた)、流されてしまう。ギーマさんの指示は一瞬間に合わず、言い始める前に波にカットが飲まれてしまったが、彼女は命令されるまでもなく、波乗りの中で冷静にメタルバーストの準備をしていた。 波に押し流され、上下左右すらあいまいになりながら揉まれた時間を乗り越えたカットは、その時身に受けたダメージを鋭く光る閃光にしてトリニティへ返す。ラスターカノンにも似た白い光がトリニティを貫くと、その一瞬の隙を逃さずポーカーがトリニティへの追撃の抜き手。ドレインパンチにより指先から精力を吸い取った。 メタルバーストとドレインパンチが見事に決まり、トリニティは無様に後退しながら、気合い玉を放つ。追い風に後押しされた玉が高速でカットとポーカーに向うが、冷静に見切った二人は足元に着弾して生じる爆風に顔をしかめつつも、その程度で致命傷はありえない。 二人揃ってストーンエッジを投げつけると、そのうちのカットが放った分がトリニティの翼にヒット、追い風込みでも機動力が明らかに落ちたトリニティは、そのまま二人に詰め寄られ、ガクリとうな垂れる。トレーナーが宣言を出すまでもない、降参の意であった。 「クイナ、トリニティ、戦意喪失により、ダーテング仮面……ダーテング仮面の勝利とします」 四天王のギーマの戦いぶりに会場が沸きあがった。当然だ……あれだけ強く、実際に一回戦でも強さを見せ付けたスバルさんが、ほとんど何も出来ずに負けてしまったのは、それだけギーマさんの実力がすごいということに他ならない。 「ふふ、ギーマで良いのに。わざわざダーテング仮面と呼ぶだなんて律儀だねぇ」 ギーマさんは、自分のことをどう呼ぶべきか迷っている審判を見て、苦笑していた。しかし、なんて見事な……そりゃ、俺達のポケモンはまだまだ鍛える余地のある弱い子達ばっかりだけれど、基礎体力が上がってくれればあんなことも出来るのか。 そして『ストレングス』……味方が敵を押さえつけている間に強力な技を叩き込むというオーソドックスな戦法だけれど、いやはや恐ろしい。例えばセイイチやクイナのような鋼タイプならば、ヘドロウェーブとか。サミダレのような地面タイプならば電気技とか。悪タイプなら、あんな風にサイコカッターを放つという手もある。 今回ダブルバトルをやるに当たって、ストレングスは一応気に留めておいた戦略の一つだ。その戦法自体はありふれているけれど、持っていくまでの流れがすごかったと思う。完璧な連携でクイナを押し倒すまでの手腕が見事すぎて、どう褒めればよいのかもわからない。 さて、負けた2人を見てみると……バンジロウさんに負けたときは悔しそうな顔をしていたスバルさんが、普通に笑っている!? 「ありがとうございました……」 なんというか、とても満足そうな顔をして深く頭を下げている。いつもだったら絶対にそんな態度を取らないような人なのに……それだけ、スバルさんにとってのギーマさんは特別な人ということだろうか。 「こちらこそ、対戦ありがとう……オリザさんもね」 そう言って、ギーマさんは握手を求めるように手を差し出す。二人で固く握手をしあった後、ギーマさんが口を開く。 「スバル。ゆっくりと話をしよう……」 言い終えて、ギーマさんはこちらのほうを見据える。 「君もね、カズキ君!!」 まさか、四天王にご指名を受けることがあるだなんて夢にも思わなかった俺は、一瞬なにがなんだか分からなかった。にこやかな顔で見上げていたギーマさんへ向いていた視線が、一気に俺のほうへと向く。 「……は、はい」 声を出そうとしたが、簡単には声が出ず、唾を飲み込んでからようやく声を出すことが出来た。やばい……今の俺、ものすごく緊張してる。 「カズキ、四天王からのご指名だぜ!?」 茶化すようにキズナが言う。声が笑っているのが憎らしい。 「大物に目を付けられたものね……頑張って! むう、私が隣に行きたいくらいなのに」 アオイさんもこんな調子で、他人事だと思って気楽なものである。というか、アオイさんってギーマさんのファンなんだなぁ。うぅ、緊張するなぁ…… ギーマさんからの御氏名とあって、俺とスバルさんはは否応無しに注目された。人だかりを抜けても、目が追ってくる。ギーマさんは、サインなら後でねと、居合わせた軽くファンを軽くあしらっており、俺達は落ち着いて話が出来るよう&ruby(こくびゃく){黒白};公園の噴水広場回りのベンチで一休み。膝には、屋台の商品であろう紙のパックが置かれている。 次の試合まではそこそこ時間がかかるから、長い話でもなければ問題ないだろうし、念のためオリザさんに試合が始まりそうになったら連絡するよう頼んである。だから心置きなく、長い話ができると言うわけなのだが……ギャラリーがすごい。 カミツレさんを軽く下したジムリーダーの恋人に、四天王が話しているという状況……まぁ、気になる状況ではあるよね。その中に、俺のような一般人が紛れ込んでいるのであれば、なんというかすごく肩身が狭い思いだ。ギャラリーはこちらを見ることはすれど、立ち止まってじろじろと観察したり写真をとったりするようなことはしない。 許可なしに写真撮影をすると、ギーマさんがトランプのカードを投げてくるので(オボンの実が真っ二つに裂ける威力)危険だという事をファンは知っているのだ。 「ダーテング仮面改め、ギーマ=グリムと申します。よろしく、カズキ君」 手馴れた様子で甘いマスクを作って、ギーマさんは俺に握手を求める。 「よろしく、お願いします……」 触れてみたギーマさんの手は、キズナやスバルさんとは対照的に、女性のように綺麗な手だった。ギャンブルに置いてはイカサマをするにせよしないにせよ手の器用さは重要だろう。それを求めた結果がこうして綺麗な手になるのだろうか? こっちの方がよっぽど女性らしい。 ぎゅっと握ってみると、ちょっと汗ばんでいた。 「君の戦いを見たけれど……まぁ、なんていうのかな。スバル……君は意地悪だね」 俺に向けていた視線をスバルさんのほうへずらしてギーマさんは笑う。 「よく言う。お前だって、私に容赦なく負けを味合わせては、叩いて強くしたんじゃないか」 「おやおや、昔の事は忘れたね。私は未来を向いて生きているんだ」 スバルさんに反論されると、ギーマさんはわざとらしく笑う。 「おい、見ろよカズキ。これが白々しいと言うやつだ……こいつ、私が弟子だった時代は毎日のように私を負かせていたんだぞ? そんでもって、『話にならないね』ってドヤ顔で言うんだ」 「スバルさんとどことなく似ているような……」 「くっ……言うようになったなカズキ」 スバルさん、自覚があるんなら貴方も白々しいんじゃ…… 「おやおや、この調子じゃ、ひ孫弟子あ出来た時が楽しみだ。そのころのカズキ君は僕に似ているのかな?」 つまりそれは、俺も意地悪になるって事ですか? なんかやだなぁ…… 「ま、そんな事はともかくとしてだ。これ、みんなで一緒に食べようか」 ギーマさんはにこやかに、膝に置かれた紙パックを開封する。中身は、フランクフルトソーセージと、フライドポテトとか、たこ焼きなど。フランクフルトソーセージはすでに串から外されており、輪切りになって紙パックの中に横たわっている。 「さて、食べながら話を聞いて欲しいな、カズキ君」 「は、はい……」 「君のポケモン、やっぱり基礎体力がスバル君のポケモンに比べると低すぎるね……ただ、君のポケモンもキズナちゃんのポケモンもまだ若いし、年齢にしては強いほうだと思うから、基礎体力の低さは君の責任でもポケモンの責任でもないと言う事を胸にとどめておいて欲しい」 「ですよね。あと一年早くポケモンを始めていれば……」 「大丈夫。君の事は聞いているよ……来年のビリジオン捕獲祭りに参加するんだろう? それまでに強くなれば良いさ。それが出来た子も、何人も見ている……トウヤ、チェレン、N、メイ、キョウヘイと……そういう猛者たちはいつの時代も存在する。君がそういう天才に並べるかどうかは分からないけれど。まだ初めて数ヶ月でこの域に達しているのならば、才能はあると思う」 「そういうものなんですか?」 「お前、自分で自分に才能があることを気付いていないのか?」 ギーマさんに話しかけたというのに、スバルさんが横槍を入れる。 「今のお前なら、まぁ……バッジ五つ分くらいの実力はあるだろうな」 「おや、そこまで強いのかい?」 「先程のダブルバトルではわからんだろうな。だが、つい最近行われたローテーションバトルを見る限りじゃ、それくらいの領域には十分達していると思うぞ?」 なんと、まぁ……スバルさんが俺をそこまで評価してくれるとは。 「だ、そうだよ、カズキ君。すごいね」 ギーマさんが俺の頭に手を置いた。 「妹のような年齢の優秀な弟子が出来た時、僕は少しだけ誇らしかった。多分、スバルも同じ気持ちだろう。君がいて誇らしいだろうよ」 「ふふ、どうだろうな。まだお前の気持ちと言うのが私はよくわからんよ」 なんて、スバルさんは言っているけれど、結構誇らしげじゃないか。 「で、だ。私も孫弟子が出来て嬉しいからね……もしよければ、カズキ君に何か、選別余りのポケモンをあげようかと思っているんだけれど……いるかい?」 「そりゃまた、藪から棒に……えっと、そうですね……ギーマさん、バンギラスを持っていましたけれど……その、ヨーギラスとか、いません?」 「ご、ごめん……あいにく今はズルッグとサボネアくらいしか……ごめんね。」 「……そうですかぁ」 俺が残念そうに呟くと、ギーマさんは笑う。 「なるほど……防塵のハハコモリとバルチャイに、ガマゲロゲ。それにバンギラスが加わるなら悪くはないし、砂嵐の状況でなら地面に耐性があり鋼・岩に効果抜群を取れるヘラクロスも良く刺さる。悪くない選定だ……ごめんね、バンギラスはあの子だけでしばらく代わりは要らないんだ」 「あ、いえいえ……俺のほうも、いきなりわがままでした」 「言うだけいってみるのも大事だよ。勝負は強気にね」 ギーマさんは、俺の事を気に入ってくれたのか、やけにやさしい口調でそう言ってくれた。 「おい、ギーマ……」 それが、何か気に食わなかったらしい、スバルさんはいさめるような口調で言う。 「ギーマ、男まで誘惑するなよ?」 え、俺誘惑されているの、スバルさん? 「何を言っているんだい、スバル。僕が男を愛するとしたら、それはポケモンだけさ。ポケモンなら、男同士でも受け入れてくれるしね」 「それも十分問題な気が……」 ギーマさん、ポケモンに対してどういう性癖持っているんですか……? 「というか、こいつは問題が服を着て歩いているようなものだぞ、カズキ?」 「うわ、すっごい言い草だねスバル。私が傷ついてもいいのかい?」 ギーマさん絶対に傷ついていない。 「カズキ。私がどれだけ恋心を伝えても、ギーマは『私は博愛主義だからね』の一点張りだ。『一夫多妻制の国じゃなきゃ、君の想いは受け止められない』と来た……だから、ポケモンならどんなに愛しても罪じゃないとな、ほざいているんだ」 「うわぁ……」 俺は思わず声を上げてしまった。 「その言い方、好きじゃないなぁ。私は人間の女性も、結構な量を愛しているよ? ただ、一人に絞れないだけで」 いやそれ、何股もかけているということじゃ……違うのかな? 「それはそれで問題だろうに、ギーマ……まったく、私は、お前のせいで何度ポケモンになりたいと思ったことか」 スバルさんの言うとおり、それは問題だと思う。 「そしたら可愛がってあげるのに……スバルちゃんならきっと、レパルダスが似合うよ。その時は、マタタビで酔わせて可愛がってあげるよ」 あぁ、母さんがレパルダスになったら可愛がるんだ……お幸せに。 「すごい会話……俺はついていけないな……」 しかし、スバルさんにとって初恋の人だと聞いたが……なるほど。ギーマさんは一応優しい人っぽいし、この恋愛の駆け引きが上手そうなギーマさんと一緒に居れば、女性なら結構惚れてしまうのかもしれない。 今はもう、オリザさんと付き合っているスバルさんだけれど……昔は振られて泣いたりとかしていたのだろうか? 想像が出来ないけれど、その本性を隠すようになったのだとしたら、なんか複雑な気分だなぁ。ギーマさんと再会したときに見せたあの笑顔のように、本性を隠さないで済むスバルさんのほうが素敵だと思うんだけれど。 謎のある女性っていうのも、たまにはいいけれどね。 「何を言うか、カズキ。愛するもののためならば獣に姿を変えてでも……というテーマの戯曲は昔から定番だぞ? 逆に、獣が人間になるお話も多いのだ」 「うんうん、ライモンのミュージカルホールでは、結ばれない運命の女性のそばに居たいがためにユンゲラーになった少年の話を一緒に見たよね」 と、ギーマさんは笑う。 「それを本気で考えちゃうのは……うーん、まぁ、純愛ってことでいいかぁ」 それでいいよね、うん。 「大人になれば、分かるかもしれませんよ」 俺の意見に、スバルさんは微笑み混じりに答えた。 「というか、カズキ君はキズナちゃんを大事にしないといけませんよ? あの子、いい子だと思いますし、貴方に仲良くしてくれる貴重な人物なんですから。性別なんてこだわらずね」 スバルさんが言う。 「そ、そりゃもう大事にしますよ……絶対に」 その言葉に対する返答は、これ以外ありえなかった。 「おや、その年で同性愛かい? その年齢だと普通はそういうのは忌避するはずなのに、羨ましいことだね」 そしたら、なぜかギーマさんに反応される。多分、この人キズナが体は女性だってわかってて言っているよね。 「同性愛……なのかな。そりゃ、キズナの事は好きだけれど……うん、男が好きだっていいよね」 「おやおや、その年で同性愛を開き直れるとは、素晴らしい。私が初恋をしたのは中学生を過ぎた年齢だからね。早熟な子だ、私の弟子にならないかい? 女の子だけじゃなく、男の子を誘う秘訣を教えるよ?」 ギーマさん、それは俺みたいな小学生に振る話題じゃないです。 「つ、謹んでお断りします」 ギーマさんの謎の提案にまじめに返すと、ギーマさんは笑っていた。 「残念、男と女のこましかたを教えてあげたかったのに」 「ギーマ、カズキを変な道に引き込まないでくれないか?」 「変な道だって? あのスバル君が……そんな事を言うなんて。ふふっ……はっはっは!!」 ギーマさんが嬉しそうに高らかに笑った。 「スバル。君も、立派な親になれそうだ。私なんかよりもずっとね……育て屋が天職だと思っていたが、君は育てられればそれがポケモンでなくとも、人間でもなんでもいいのかもな、案外」 多分、スバルさんはギーマさんの言うとおりなところがある。人間の子供だろうと、ポケモンだろうと育てるのが大好きと言う感じ。 「かもな、ギーマ」 スバルさんは素直に認めた。すごく嬉しそうな表情をしていた。 「だからアレだ、お前が私を拾ってくれて本当に良かったと思うよ、ギーマ。お前のおかげで、カズキも救われた」 「そうだね……」 謙遜するでもなくギーマさんはスバルさんの言葉に肯定する。 「感謝してよ、カズキ君。スバルを育てたのはこの僕だからね」 「ギーマさん……それ、偉そうに言っちゃうと台無しです」 「おや、こりゃ厳しい」 なんというか、ギーマさんもスバルさんとどこか似ている……というよりは、きっとスバルさんがギーマさんに似ているのだろう。いつもおどけていて、本音で話そうとしないような、本当の言葉がどこにあるのかわからないような……そんな感じだ。 2人の本音や本性といったものがどんなものなのかは分からないが、2人は本当の自分を隠すためにどこか仮面をつけているような……2人を見ているとそんな気がするのだ。 「カズキ君は私を相手に、最初こそ緊張していたものの、それもほぐれているみたいだね」 「あ……えぇ。ギーマさんには、こんな風に話しても大丈夫だと思ったので……」 「優れたポケモントレーナーはね」 俺の言葉を聞き終えると、ギーマさんは思わせぶりに語りだす。 「ポケモンによって適切な付き合い方というのが分かるものだ……人間とポケモンの距離感の計り方は勝手が違うけれど……そういう距離感の取り方、見極められるように大事にするといいよ。ポケモンとの距離感のつかみ方がいいのかどうかは分からないけれど、人間との距離感は悪くないみたいだし」 これは、褒めているのかな? 「あ、ありがとうございます」 「ギーマ。こいつはポケモンとの距離感の取り方は良くできている。だから才能があると、私は思うぞ」 すまし顔でスバルさんは言う。 「そうじゃなきゃ、こんな子供を引き取ったりはしないからな。私は自分にプラスになる事しかしない」 言ってることがちょっと酷いけれど、ある意味正直でよろしいって感じ。スバルさんらしいよね。 「それもそうか。カズキ君の才能を疑うのは、君の目を疑うような、野暮な質問だったかもね……」 そう言って、ギーマさんは、着物の懐から親指ほどの幅の、細い短剣を取り出す。なんだか落ち着いた輝きのある刀身と、柄の部分にあるエメラルドや刀身にあるルビーなど、小さいながらもものすごく値が張りそうな短剣だ。鞘だって金銀で装飾された美しい代物だ。ギーマさんはそれを使って輪切りにされたフランクフルトソーセージを突き刺し、口に運ぶ。 「ギーマ……変わった串だな、それ」 スバルさんが呆れ気味に言う。 「130年位前の職人が作った純銀製の串さ。高いよ?」 ギーマさん、それは串とは言わないです。 「こういう食べ物に、こういう串を使うのも、乙なものさ」 「すごく贅沢な趣味……ですね」 「そうだね。君も稼げるようになったら出来るさ。下品な趣味だけれど、下品を極めてみるのも悪くない」 上機嫌そうに咀嚼しながらギーマさんは言った。それから先は、ギーマさんとスバルさんで反省会だ。 波乗りをあの状況で使わせることはまずいので、きちんとメタルバーストを警戒させたほうが良かったとか、クイナに後衛を守る事を固執させすぎるのは良くないとか。そんな話をしながら、屋台で買った食糧を次々と胃袋に収めてゆく。 話を終えた頃には食料もあらかたなくなっていた。 「さて、と」 ギーマさんはそう言って立ち上がり、俺を見下ろす。 「カズキ君。後で君と戦おう。もちろん、まともに戦うと君に勝ち目がないから、ハンデをつけつつ、しかし手加減はしないけれど……いいよね? 君の実力を見てみたい。」 「は、はい……よろしくお願いします」 有無を言わせない物言いと共にギーマさんは怪しく微笑む。 「明日のお祭りにも参加しなきゃいけないからね。だから、明日の朝もこの街にいるから、さ。明日戦おう。楽しみにしているよ」 『明日の祭にも参加しなきゃならない』。それはすなわち、ギーマさんが祭りで重要な役職についているということだ。よそ者のギーマさんがこの祭りで重要な役職につくということは特別な条件でもなければありえない。優勝すればその役職に就く事が出来るが、それはとどのつまり優勝宣言だ。 優勝すれば、明日に行われる奉納の儀式に、自身のポケモンを参加させなくてはいけないのだから……さすが、四天王は違うってことかな。 ギーマさんと別れて、バイプを組んだ即席の観客席に戻る。 「ねぇ、キズナ。ギーマさんがさ……ズルッグとサボネアの選別余りが居るって言っていたんだけれどさ……どうする?」 俺はキズナの隣を陣取り、話しかける。試合が行われるバトルフィールドは毎回変わるが、次にギーマさんの試合が行われるフィールドはすでに満杯。有象無象のトレーナーの試合は、みんな興味がないようである。キズナはといえば、アオイさんがあそこまですごい人ごみだと車椅子じゃ迷惑だろうからと、人の少ないバトルフィールドで観戦中というわけだ。 それで、ギーマさんと話した内容をキズナとアオイさんにあらかた話し終えると、最後にポケモンを譲って貰えたかもしれないということについて話した。 「んー……ズルズキンとサボネア……か。流石に、これ以上格闘タイプはいらないし、それに草タイプはセナが居るしなぁ……」 少しだけ考えて、キズナはそういった。 「やっぱりいらない……?」 俺が尋ねると、キズナは困った顔をして笑う。 「うん……セイイチを貰う前だったら、喜んでズルズキンを受け取っていただろうし……スコルピがいたら欲しかったかな」 「そっか、残念」 俺は苦笑する。 「うーん、でもズルズキンかぁ」 俺達の話が終わったところで、アオイさんが口を出す。 「ねーちゃん、確かにズルズキンは群れで暮らすポケモンだけれど、多分人間の介護には向かないんじゃないかな?」 「うーん、確かにそうかもね……でも、それを差し置いてもギーマさんのポケモンならちょっと欲しかったかも」 それ、まじめな表情をして言うことじゃないと思うのだけれどなぁ。 「ねーちゃん、ミーハーだな……」 「ほんと、アオイさんミーハーだよ」 あーあ、キズナも呆れちゃってるね。 「い、いいじゃないのよ……ギーマさん格好いいんだし」 「そ、それがミーハーって言うんだよ、ねーちゃん……」 キズナはため息をついていた。それにしても、仲のいい姉妹だな。 「いいじゃないのよー。ミーハーでも……もぅ、コシ。ちょっといいかしら?」 「どした、ねーちゃん?」 拗ねた……わけじゃないよな。 「トイレよ……なんとなく、そういう気配なの」 なんとなくそういう気配……あぁ、感覚がないから行くべきタイミングが分からないのか。大変そうだなぁ……というか、仮にも男の子がいる前でおおっぴらに言うべきことじゃないような。 「すまん、聞くんじゃなかった……」 と、キズナは言う。 「あ……」 アオイさん、いまさら気付いても遅いよ…・・・聞いたキズナよりも、アオイさんのほうが問題なんじゃ? 肝心なところで抜けているんだから……。 「と、とりあえず行ってくるわ」 恥ずかしそうに顔を背けながら、アオイさんはコシに頼み込んで、宙を浮く車椅子でトイレのほうへと向っていった。多目的トイレ、空いているといいんだけれど。 「ところでさ、カズキ……」 アオイさんがいなくなったところで、キズナが俺に声をかける。 「ん、なに?」 「俺達の関係、ギーマさんに冷やかされていたな。俺もちょっと盗み聞きしてたんだ」 「ま、まあね……スバルさんにも『キズナの事を大事にしなければいけませんよ』って言われてさ……。もちろん、俺は大事にするって答えたよ……友達、だしさ」 「ふふ、そっか……」 キズナの肩が……俺に、触れた。 「あ、キズナ……?」 「嬉しいなー」 キズナは棒読みで、しかし表情は本物にしか見えないままに、俺に肩を寄せる。気付けば、俺が膝に置いていた手に、キズナの手が覆いかぶさってきて…… 「茶化されたって事は、俺ら2人がそういう風に見えるってことだし……しかも、大事にするかぁ……カズキのセリフ、嬉しいぜ。男同士、ちょっと気持ち悪いかな?」 「あ、うん……周りにはそう見えるかもしれないけれど、そういうのが好きな人もいるんじゃないかな」 「はは、なら大丈夫だな。そうだな、俺も大事にするよ、カズキ。男同士の友情ってやつだな!」 キズナは、俺の手をぎゅっと握ってそういった。突然のことに驚いて。背筋がこわばる感覚は、きっとキズナにも伝わったはずだ。 そのままじっと方を寄せて、数十秒。 「さて、次の試合だな……」 なんてことのない、無名選手の試合の開始をきっかけに、その夢のような(嬉しいというよりも信じられないという意味で)時間は終了した。 去年も、格闘タイプ部門では実質の優勝決定戦が2回戦目にあったように、今回の戦いも本当に一方的なものだった。ギーマさんが使役するポケモンの強いこと強いこと。大体の相手はすでに結構な手負いになっているというのに、ギーマさんのポケモンたちは涼しい顔で戦闘に入り、優れた『ストレングス』の連携で相手をことごとく葬っている。 その鮮やかな手腕は、芸術的とも言えそうなくらいだ。結局、彼は圧倒的な強さで優勝をもぎ取ってしまった。この大会は元四天王のカトレアさんが参加したこともあるらしいし、何故だか四天王が良く参加するお祭りだよなぁ……バンジロウさんあたりも参加してくれれば面白くなったのに 何はともあれ、ギーマさんは宣言どおりビリジオン・ダークライ感謝祭で明日の日程にも参加する義務が生じたわけだ。 明日の朝……というか、それは普通に平日なわけだけれど、ギーマさんは俺が学校に行っていないこと知っているのか、それとも放課後に戦うつもりだったのだろうか……? **コメント [#s8476a5b] ---- [[次回へ>BCローテーションバトル奮闘記・第三十九話:ギーマとの対戦]] ---- #comment(below); #pcomment(BCローテーションバトル奮闘記コメントページ,5,below); IP:49.98.130.230 TIME:"2014-01-14 (火) 23:10:15" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=BC%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%88%E3%83%AB%E5%A5%AE%E9%97%98%E8%A8%98%E3%83%BB%E7%AC%AC%E4%B8%89%E5%8D%81%E5%85%AB%E8%A9%B1%EF%BC%9A%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%81%A8%E5%BC%9F%E5%AD%90%E3%81%A8%E5%AD%AB%E5%BC%9F%E5%AD%90" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Linux; U; Android 4.2.2; ja-jp; F-04E Build/V08R39A) AppleWebKit/534.30 (KHTML, like Gecko) Version/4.0 Mobile Safari/534.30"