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8のココロ、∞のネガイ 一章(一話~四話) の変更点


[[コミカル]]


 ポケモンの世界にも差別はあった。
人間と同じように、種族・容姿や出所の違いだけで。
そのなかでも、特に酷い扱いをうけた種族があった。

 ―――あんなにたくさん分岐進化するなんて―――
 ―――あいつらは、いつかきっと災いを引き起こす―――

 その思想はひろまり、国からその種族のポケモンに賞金が掛かるまでに至った。
捕まえた者には賞金が、捕まえられた者には……。
そんな恐怖の日々を、生き残るために必死なポケモンたちがいた……。


#contents
              
*一話 それぞれ [#k35a1869]

 あるイーブイは歩いていた。
激しい吹雪の止まない、果てしない山の中を。
逃げて、逃げて、逃げて……。そしてここに辿り着いた。
まだ幼く、体の小さいイーブイには、追われている恐怖も、体の酷使も相当の負担だった。

誰が見ても、彼女が衰弱していることは分かるだろう。
無理もない、ここに迷い込んでからもう1時間が経っている。
いくら強い「適応力」を持っていても、それにも限界がある。
「父さん……母さん……ごめん……」
とうとう力尽きてしまったのだろう。
彼女は雪に突っ伏し、目を閉じた……。

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 あるエーフィは準備していた。
国の中すべてが危険なわけではなかった。
中には、差別に反対してかくまってくれるような村も僅かにある。
彼女も、そんな村に隠れ、働きながら過ごしていた。
ここにいればしばらくは安全だった。

 しかし、彼女は決心していた。ここから去ると。
私がここにいることも、いつかはバレてしまう。
そうなったとき、私をかくまったこの村も危険な目にあってしまうだろう。
私を助けてくれたこの場所を、戦場にしたくはなかった。
夜中に内緒で抜け出すのは抵抗があったが、出て行くことを話したら村の人は私を引き止めるだろう。
未練がでてこない内に行ってしまいたかった……。

----
   

 あるブラッキーは焦っていた。
早く、早く「仲間」を探し出さないと。
生き延びるために、いや、何をするにも仲間は必要だ。
同じ境遇の者同士、助け合わなければ、生き残れない。
今も、自分と同じ種族のポケモンが命を落としているかもしれない。
急がないと……!
「敵」の目を欺きながら昼夜走り回り、仲間を探す。
まだ誰も見つかっていない。やはり、相当数が減ってしまっているのだろう……。
これ以上数を減らすわけにはいかない。
体力には自信があった。休まない、休めない。

彼は命を救うため、そして……
「ある目的」のために仲間を探していた……。

---- 

 あるブースターは捜し求めていた。
何を探しているのかは、本人しか知らない。
彼もまた、目的を果たすために動いていた。
「マウント・ブラックねぇ……。また、大変なところに来ちゃったな」
マウント・ブラック。迷い込んだものは出ることができず、激しい吹雪によって倒れてしまう。
ブラックとは「死」を意味するのか、それとも何か別の意味があるのかは分からない。

「……まぁ、仕方ないか。行くしかないよね」
彼は雪山へ足を踏み入れる。

 彼が、雪に埋もれたイーブイを発見するのは間もなくのことだった……。

---- 

 あるサンダースは落ち着いていた。
俺達を捕まえようとする輩なんて、所詮は金目当ての一般人。
襲ってきたって、返り討ちにする力がある。
なのに、どうしてわざわざここを離れなきゃならないんだ?
同族だろうが、他人には変わりない。他人を助ける必要がどこにある?
そもそも、助けてやって何の得がある?
どうせ寿命が少し延びるだけ。1度助けたところで、また逃げるしかない。
そんな無駄なことをしてどうするっていうんだ?

 彼は、横にいるポケモンをちらりと見た……。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―   
 あるシャワーズは呆れていた。
命をなんだと思っているのだろう。
しかも、自分と同じ種族のポケモンなのに。
困っているポケモンを見捨てることなどできない。
なぜなら、私は、昔から……。
今は、その話はいい。とにかく、コイツを説得しないと。
腹違いといえども、私たちは姉弟だ。コイツの性格くらいは知っている。
よし、あの作戦で行くか。

 彼女は、ゆっくりと口を開いた……。

---- 

 あるリーフィアは悩んでいた。
彼女もまた、エーフィと同じように村の中で息を潜めていた。
植物から薬を作り出し、病気の者を治療する代わりに、隠れさせてもらっていた。
しかし、今日は何かが違った。
昨日呼んだ書物に書いてあった事柄が頭から離れない。
あれは本当のことだろうか?もし本当なら……。

 しばらくして彼女は立ち上がった。
あの書物に書いてあったことは本当なのか確かめるために。
行こう。いつまでもここにいるわけにも行かないのだから。
たくさんの薬だけを置いて、村から出ることを決意した。

 しかし、いざ行こうとすると、どこに行けばいいのか分からない。
彼女は、しばらく地図の前で頭を捻っていた……。

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 あるグレイシアは勇み立っていた。
もう我慢できない。許さない。
これ以上、国ごときに好き勝手させてなるものか。
潰す。こんな腐った考えしかできない国を、全部。
俺を怒らせたこと……、後悔させてやる!

 彼は走った。煮えたぎる思いを胸に。
彼もまた、信念によって動く者の1人だった。
彼は、自ら危険の中に飛び込んでいこうとする。
その目には正義の炎が宿っていた……。



*二話 変化の兆    [#gc17b9ee]

 目が覚めた。ここは……洞窟のような……。
暖かい。明るい。そんな……。私は雪の中に倒れて……。
ということは、ここは天国……? 
「やほ。起きた?あ、早めに行っとくけど、キミ死んでないからね」
突然、明るい声が聞こえた。驚きながら、声のした方を向いてみる。そこには、1人のポケモンがいた。
オレンジ色の体。私より一回り大きくて、体毛も多い。
私が死んでない……ということは……
「あっ、あのっ、あのっ、え、えと……あっ、ありがとうございますっ、あの、ほんとに……」
「気にしないで。たまたま通りかかって見つけただけだし。あと、落ち着け」
彼は笑顔を崩さずに話す。親しみやすくて、元気が出るような笑顔だった。
きちんと喋れていないことを指摘されて恥ずかしい。
「今なんか作ってくる。おなかすいてるでしょ?」
「いや……そこまでしてもらうのは……」
「じゃあどうすんのさ?この中、1人で歩いて帰れるワケぇ?」
彼が外を指差す。猛吹雪。もうあの中を彷徨うのは嫌だ。怖い。
「気にしないでいいからさ。そこで待ってて」
そういって彼は私から遠ざかって言った。
何から何まで、申し訳なかった。何もできない自分に少し腹が立つ。

「ごめーん、嘘ついてた。作るんじゃなくて、缶詰あけるだけだったー」
そう陽気に言って、数種類の缶詰を持ってきてくれた彼。数分後のことだ。
「本当にすいません……ありがとうございます」
「いいからいいから。あと、そんなにカタくならなくていいよ。なんか距離感感じるし。
そうだな、敬語禁止!」
「え、いや……、そんな」
「異論は認めない! 僕達はもう他人じゃない。……『仲間』なんだから」
仲間。 大切な……仲間。彼の言ったその言葉に、私は惹かれるものがあった。
そうだ。仲間なんだ。お互いに助け合って……生き延びるんだ。
今日の食事は、缶詰を開けただけの物だったけど、とてもあたたかかった。

「えっと……何か、私にできること、ありませんか?」
「そーだな、寝袋1つしかないから、『会ったばかりの雄と同じ布団で寝ること』の許可証を発行してほしい。あと、次敬語つかったら焼く! こんがり。すごい熱い!」
「あ、その……ごめんなさ……ごめん」
「……で、いいの? 暑苦しいしむさ苦しいと思うけど」
「うん、構わないよ。きっと、その方が暖かいし」
少し気を使ってしまうけれど、彼との会話は楽しい。
私たちは、寝袋に入った。やっぱり、彼はとても暖かい。

 私を助けてくれて、親切にしてくれた。
彼も……’’ブースター’’である以上、安全ではないはずなのに、明るく振舞ってくれた。
何か恩返しがしたい。今はまだ世話になる身だけど、いつかきっと。
だから絶対に生き延びる。私のために、……彼のために。
イーブイは、まどろんでいく意識の中で決意した。
そういえば、まだ名前を訊いていないな。
そんなことを考えながら……。

  2人の出会いは何かを変える。
 2人は気づいていないけど。
  世界が変わるきっかけとなる。
 2人は気づいていないけど。

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 暗い闇。その中で、ひっそりと建つ赤い城。
ここなら大丈夫。見つからずにすむはず……。
ゆっくりと城の中に入っていく。油断はできない。
邪魔になる物を念動力で動かし、都合のよさそうな場所を探す。
たくさんの部屋を、額の珠の光で確認する。右、左……。
入って、右奥の部屋。中を覗くと……倉庫のようだ。
よし、ここだ。
木箱の陰に隠れることもできるし、なにか使える物があるかもしれない。
しばらくは安全にすごせる。今日はもう眠ってしまおう。
そう思って、隅の方で目を閉じる。とても静かだ。

 しかし。この静寂と……安心が崩れ去るのは、思っていたよりも早かった。
私の耳が微かな情報をとらえた。入り口の門が開き、空気の流れる音。
まずい、逃げる準備をしないと……!
足音もする。もう少し木箱の陰に隠れて、隙を見て逃げ出さなくては。

 足音は……こっちへ……!?
不運は重なるものだ。間違いなく、こちらに近づいてきている。
とにかく、陰に潜んで、一瞬の隙を突いて逃げるしかない。隠れろ、気配を消せ……!

 もう疑いようはない。足音は、この倉庫の中に入ってくる。
不意に、額の珠が光っていることを思い出した。
まずい、この光でバレてしまう。咄嗟に手で覆おうとした。 ――その時。

  ガタンッ

「……! そこに、誰かいるのか……?」
何者かの声が暗闇で木霊した。
そう、私はとんでもないことをしてしまったのだ。木箱の1つに手が当たってしまった。
もう隠れきれない。逃げろ!
本能がそう叫んだ。
陰から飛び出し、''何者か''の横をするりと走りぬけ、入り口のほうへ駆ける。
「きっ……君は……まさか!」
''敵''の声がする。逃げるんだ。速く、速く!
「待ってくれ! 頼む、止まってくれ!」
誰が止まるものか。あれは''敵''だ……!
「待つんだ! 私は、君の敵じゃない! 私も、君と同じだ!……『仲間』だ!」
騙されるな。止まっちゃいけない。つかまったら終わりだ。

 そう思っていたはずなのに。 ……私は、立ち止まって、振り返っていた。
仲間。その響きが、私の足を止めた。
それは、暗闇の中で赤く光る眼、黄色く浮かぶ輪を持つ者――’’ブラッキー’’。
紛れもない、私と同じイーブイ族のポケモンだった。

  突然であったこの2人。
 出会いは偶然? それとも必然?  
  目には見えない小さな変化。
 いつかは世界を変えるのだけど。

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 コバルト・シティは、この国で最も栄えていて、大きな街だった。
&size(7){「ったく……だりぃめんどいうざい」};
たくさんの店があって珍しいものも売られている。
&size(7){「なんでこんなことに……ちくしょう……」};
本来ならここも危険で……とても、私たちのようなポケモンが安全に通れる場所ではないはずなのだけれど。
&size(7){「向こう側の奴等に袋叩きにされたら逃げられないかもしれねぇじゃねぇか……」};
私たちに味方してくれるポケモンたちと、その逆のポケモンたちとで口論になり、今は名前は同じでも2つに分かれてしまっている。そのため、片方は安全なのだ。
&size(7){「俺らの賞金はガンガンつりあがっていってんだから、いまにこっちも危なくなるんだよ……」};
青い空。白い雲。豊かな緑。気持ちのいいところだった。
&size(7){「あぁもうさっさと帰りてぇ……」};
……コイツさえいなければ。
「うるっさいわねぇさっきから! ブツブツブツブツと! 男のくせに!」
「声がでかいのはてめぇだろうが! まったく、なんで俺はこいつと来ちまったんだっ……!」
周りの目が気になったので、声のトーンを落とすことにする。
横にいる黄色のポケモン――サンダースを見て、私は呆れのため息をついた。
「あんたが自分で行く行くって言ったんでしょうが。このロリコン」

―――「今も、幼いイーブイの女の子が両親を失い、自分も恐怖に耐え切れなくて泣き叫んでいるかもしれないのに……それを見殺しにするなんてできないわよね……?
それに、自分を助けるために颯爽と現れたポケモン。これって、とっても格好いいんじゃないかしら……?その娘も喜んで、なんでも言うこと聞いてくれたり、とか」―――

 ここに来る前、コイツを連れ出すために使った言葉である。
どうせ、最後の一文を聞いて、良からぬ妄想でもしたんだろう。あっさり旅に出ることに同意してくれた。
「ロリコンじゃねぇっ! 俺は別に変な妄想なんかもしてないし……! 男は誰しも、ヒーロー願望があってだな……。自分より弱い者を護りたがるんだ! たったそれだけでロリコン呼ばわりされてたんなら、世界中の男すべてがロリコンであることになり、この世界にはロリコンなんて言葉は存在しないのであって……」
「大声でロリロリうるさいわよ。恥ずかしくないの?」
「とにかくっ! 俺がそんなやましい心に動かされてついてきたんじゃないことは分かってもらおうか! ただ、お前の言うとおり『仲間』の命を無駄にするのはよくないと思ってだな……」
「はいはい、分かった分かった。    &size(5){……あんたが私なんかに興味ないことはよく分かったわよ……};」

  2人の旅立ち運命ならば、
 世界の変化も運命だった。
  世界の変化が運命ならば、
 2人の旅立ち運命だった。


----

 船着場が見えてきた。すなわちポケモンが増えて危険が近づいてきたということなので、一層警戒を強めないといけない。

 仲間がいそうな場所はどこか。それは、少しでも安全な場所だ。
この国は2つの島から成る。南の「ブラウナー」と、北の「カルパード」。
国の本拠地はブラウナーにあるため、そちらに長居するのは得策ではない。
そう考えた『仲間』たちは皆、北に逃げ込むだろう。なら、北にいれば仲間に会える。
不運なのは、私の元いた場所が南だったということか。
2つの島を往復しているのは、一度にたくさんのポケモンを運べる大きな船である。
もちろん普通に乗るわけにいかないので……隙を見て船倉に転がり込み、着いたらすぐ飛び出して逃げるしかないだろう。

 ちょうど、船がこっちに向かってきている。
降りる客がいなくなったら近づき、船が出る瞬間に飛び乗る。
木の陰から様子を見る。どうやら到着したようだ。
そろそろだ……え?

 すぐ横を、1人のポケモンが走り抜けて行った。
美しい水色の体に、氷の結晶のような菱形の模様。耳元から垂れる毛。
あのポケモンはっ……船から……?
「待ってください! 待って!」
私は、反射的に走り出した。それでも、あのポケモンは止まってくれない。
一度こちらを見たはずなので、分かってくれてはいると思うが……。
「お願いします! 止まってください! 待って!」
大声を出しては、狙われる可能性が高まるのは分かっていた。
しかし、声を出さずにはいられなかった。
「はぁっ、お願いします……! 話を、話を聞いて!」
私は必死に走った。もうそろそろ体力も限界だ。

 その時、私の思いが通じたのか、諦めたのか……彼が立ち止まってくれた。
「一体、何の用なんだ……?」
低い、重い声が発せられた。それは、睨みつけるような目つきと相まって、私を少し怯えさせた。
あれだけ走ったのに、息があがっていない。逆に、私はへとへとだった。
「はあっ、はあっ……仲間が……必要なんです……はぁっ……」
息も絶え絶えに、言いたいことを手短に伝えた。
「それで、俺を追っかけてきたのか? ……いや、それよりもだ。何のために仲間がいる?」
「え、いや……協力して、生き延びるために……。仲間は多いほうがいいじゃないですか」
「協力、ね……」
そこで彼は、私の前にぐいっと顔を寄せた。
「いいか、お前の考えは甘い。同族がすべて味方だと思うな。俺だったら、敵に囲まれて危険になった時、お前を置き去りにして1人で逃げる」
そう言い放つ彼。辺りに少し沈黙が訪れた。
言葉を失ってしまった。確かにそうだ。他人を信じても、自分が生き延びるための道具として使われたらおしまいだ。

「だがな……俺が言いたいのはそんなことじゃない」
「えっ……?」
「お前が俺を追いかけてきた理由……本当に、それだけか?」
「ど、どういうことですか……?」
「味方につけたかったというだけで、大声で騒ぎ立てたら余計に危険だろうが。それに、お前が最初に言った、仲間が''%%%必要%%%''という言い方も少し引っかかる。 ……何か別の理由があるんじゃないのか?」
私を見据える彼。体中を探られるような感じがして、背筋が寒くなった。
鋭い。確かに……違う理由はあった。むしろ、そっちがメインでもある。
しかし、こんなにあっさり見抜かれるとは思っていなかった。
「……まあいい、とりあえずお前についてってやるよ。その別の理由とやらはあとでじっくり聞かせてもらう。とにかく、これ……お前が作り出した状況なんだから……なんとかしてくれよ?」
気がつくと、周りには数人のポケモンがいる。どれも体格のいい奴ばかりだ。
なるほど、叫ぶ私に気づいて、2人一緒になってから襲おうとしていたのか。
「ごめんなさい。一応、なんとかはしますけど……。走るのは走ってくださいね?」
私は、持っていたカバンから小さな瓶を取り出す。また走らないといけないのか……。

  出会いの変化は良いほうへ?
 歪みない場所で平和に暮らす。
  出会いの変化は悪いほうへ?
 絆は引き裂かれ、バラバラに。


*三話 動きだす世界 [#dd8607a2]

「やったね。僕ら、最強コンビなんじゃない?」
横にいるポケモンをちらりと見ると、鼻歌交じりだった。
今、私たちは、綺麗で静かな海――エメラルドオーシャンを通り抜けている。
噂には聞いていたけど、こんなに澄んだ青色の海ははじめて見た。

 死の山を降りたときは、本当に嬉しかった。
雪が降らず、暖かくて。生きて帰れたんだと思うと、思わず涙が出たのは内緒。
そのあと、彼から船に乗る旨を告げられて。あまり知らなかったが、こっちの島は、国の本拠地に近くて危険らしい。そのため、むこうの島に渡る、ということだった。
もちろん乗り逃げ。とても怖かったけど、彼だから信じることができた。

 でも……昨日から、どうしても気になることがある。
今のうちに訊いておくかな……
「あの……1つ訊いていいですか?」
「いくつでも~」

 何のために、あの山に来たのか。
通りかかって、私を助けて、翌日にはもう帰る。
それじゃあ、この山にきた目的がない。
もしかして、私のために、当初の目的を諦めて……? 
それがどうしても気になった。

「えっと……名前を……教えてくれま……くれる?」
しかし、私の口から出た言葉は、思ったものとは別の内容だった。
「あれ? そういえば名前、言ってなかったね……。スティールだよ、スティール・リムさ」
「あ、私はイブ・トレイルだよ」

 彼は、間違いない、ブースターだ。ということは……彼も命が危ないはずだ。
思い返せば、彼は――スティールさんは、私の過去を訊いてきていないではないか。
きっと……辛い過去を思い出さないように気遣っているのだろう。
そんな優しさに気付かず、彼の過去を軽率に尋ねようとした自分が嫌になる。
昨日彼は、「たまたま通りかかった」と言った。
あんな所を通りかかるなんて、普通では考えられない。
きっと……逃げてきたんだ。ここなら見つかる可能性は低いと考えたんだ。
その途中で、倒れた私を見つけた。
自分の命が危険なら、無関係なポケモンなんて無視するはずなのに。
彼は私を助けた。よりによって、逃げる際にお荷物になる「イーブイ」を。

「ん? もしかして……。イブ、あれ! ほら、見て!」
急に、スティールさんが大きな声を出した。
彼が指差す方向を見てみる。一匹のポケモンが、塀に寄りかかって腕組みをしている。
黄色い体。白色の毛は鋭くて……。
「僕らって……すごくついてるみたいだね……。さ、行くよ!」
スティールさんが私を引っ張って走り出した。

 あのポケモンも私たちに気付いたらしい。
「え!? お前ら……マジで?」
「いや、僕らまだ何も喋ってないから。マジでって何さ。でもまあ、君の思ってる通りかな。……生き残りだよ」
「へぇ……。なら、他にもまだいるかもしれねぇな」
出会ってすぐに打ち解けた雰囲気で会話ができるのが羨ましい。そんな彼は、荒い口調ながら、優しい雰囲気が感じられた。
よかった。まだ、私たち以外にも生き残ってるポケモンがいたんだ。

 でも……ちょっと気になることが……。
「とりあえず、まず訊いていいかい? ……そのバッグは何? 何で女物なの? ……もしかして、そういうシュミありですか?」
うん、見事にスティールさんが代弁してくれた。
「え? あ、いや! こいつは俺のじゃねぇ! もう一人いんだよ、ほら、あいつだ。今こっち向かってくる」
そういって、彼、サンダースは生い茂る森の方を指差した。
その方向から、もう1人ポケモンがゆっくり歩いてくるのが見えた。

「あら……? あなたたちは……? ……って、それは訊く必要はないわね。ここは危険かもしれないから、ちょっと向こうへ行きましょうか」
青色の体はまるであの海の水のよう。澄んだきれいな声が聞こえてきた。
新しい仲間が2人も。これからは、みんなと協力して過ごせるんだ。
……私は、足を引っ張るだけなんだろうけど。
それがやっぱり悔しかった。

 それから、自己紹介をした。
サンダースはサンさん。シャワーズはシャインさん。義姉弟。よし、覚えた。
「まだこんなに幼いのに、命が危ないなんて……大変だったでしょう?」
「あ、はい……。でも、スティールさんが助けてくれたおかげで、大丈夫でした」
シャインさんが私を気遣ってくれた。
この2人には、敬語を使ってもいいだろう。いや、使わないと失礼だよね。
「ん、たまたまだけどね。あとイブ? 次さん付けで呼んだら……焼くよ?」
「あ、ごめん……」
しまった、こんなところに穴があったなんて、危ない危ない。これからは、呼び捨てにしておいた方がいいかも。
「私たちは、強制はしないけど……でも、気は遣わなくていいわよ。あんまりカタくならずにしてちょうだいね」
そういってシャインさんが小さく笑った。
うーん、この人たちにも敬語を使わないほうがいいか。
間違えてスティールさ……スティールに言っちゃっても困るしね。   &size(7){……正直、サンさんって言いにくいし。};
「うん、ありがとう……」

「ところで、キミ達は何をしてたの? 追われているようには見えなかったけど」
「仲間を探してたの。協力して、助け合える仲間をね。だから、あなた達がすぐに見つけられて、私は運がよかったみたいね」
「私ってどういうことだよ。俺も一緒について来てんのに蚊帳の外かよ?」
「あんたも運がよかったわね?早速、私の言ったとおりになってるじゃないの。このロリコン」
「へー、ロリコンねぇ……。イブ、1人であいつに近づいちゃいけないよ。……喰われるよ」
「てめーまで何なんだ! あんまり調子乗ってっと、同族だろうが容赦しねぇぞ!」
何の話かは分からないけど、とても賑やかで楽しかった。
みんなといたら、今自分の置かれている状況もそれほど怖く感じなくなってきた。
これから、どうするのかな。他の仲間を探しに行くのかな。
そうだ、みんなのお荷物にならないよう、技の特訓をしておこう。
明日はちょっと早起きしようか。

「……まぁとにかく。これからよろしくね。イブに、……スター」
「んーと。ちょっと僕耳が変だったかな。僕はお星様なんかじゃないはずなんだけど……」
「だって、そんなドロボウみたいに呼ばれるの嫌じゃない? ニックネームよ、ただの」
「んー……。まあ、鋼タイプでもないしね。別に構わないよ。悪い気はしないしね。イブもそれがよかったらどうぞ」
「うん、分かったよ。スター」

 今日は、ここで野営するらしい。
外で寝るのは無防備なので、サンが見張りについてくれている。
「あの、ごめんね? 私だけ何も役目がなくて……」
「お前は気に病まなくてもいいんだよ。人一倍辛い思いしたんだろうからな。俺らにまかせとけ。……もう寝ていいぞ」
「うん、ありがとう……おやすみ。」
サンも優しく言ってくれた。こういうところに2人が姉弟であることが伺われる。
たくさんの優しさに包まれた日だった。私って、幸せだな。
ずっと緊張していたからか、すぐに眠りに落ちてしまった。

----

「さっきはごめんなさい。いきなり逃げ出したりして……」
「いや、あの状況では仕方がないさ。こちらこそ、驚かせてしまってすまなかった」
「でも、これからどこへ行くの?」
「む、それがな……。非常に言いにくいが、当てがないんだ。どうする? ここに残るか?」
「そうだろうとは思ってたわ……。でも、いいわ。ついてく」
「すまないな」
「謝らなくていいわよ。私が勝手に決めたことだし」
彼――ブライトと、城の出口へ向かっているところ。まだ外は少し暗い。
見つけたばかりの隠れ家を捨てるのは惜しかったけど、ついていかない訳にも行かないしね。
落ち着いていて大人な彼とは話しやすい。

ちょうど、門から出る瞬間に足を止めた。それは、彼も同じのようだった。
「……やっぱり謝ってくれるかしら?」
「……うむ。本当に申し訳ない」
ここから1歩踏み出した瞬間に襲う気なんだろう。数人の気配がする。
ブライトが大声を出したから、集まってきたのね。……私が逃げようとしたのが原因か。
「とにかく。……走り抜けて、林を通るわよ!」
ブライトが分かったと言うが早いか、勢いよく飛び出す。数秒遅れて、後ろから追いかけてくる音がしたけど、そんなに速くないみたい。
ブライトも大して疲れていないようね。   &size(7){……それなりの歳だと思うんだけど。};

「前にも影が見えるわ。数は……2人。蹴散らしていったほうが安全ね。行くわよ!」
「待て! よく見ろ、あのシルエット……!」
「あなたは見えるかもしれないけど! 暗くてよく見えないわ!」
朝方の私には、ほとんど見ることができない。
影は見えるが、何のポケモンなのかは判別できない。
しかし、だんだん近づいて……声が聞こえた。
「前方に仲間。たった1日で、連続で仲間を見つけられるなんて、私は相当幸運なようです」
「前方に敵。たった1日で、連続で敵に追い回されるなんて、俺は相当不運なようだな……?」
会話の内容がはっきり分かるようになった。あ~あ。こんなタイミングで? まったく……
正確に何のポケモンかは分からないけど、仲間であることは疑いようがなかった。
仲間探し中のブライトには悪いけど、巻き込むわけにもいかないし。
「あんたたち、すぐ逃げなさい! 見て分かるでしょ!?」
「何で逃げなきゃなんねぇんだよ……? 直線状の敵くらい……ツブしゃいいだろ?」
そういって、1人、男性の方が臨戦態勢に入ったようだ。
返事は意外なものだった。逃げずに戦う、そんなポケモンは……グレイシアかしら?

「あぁ、ああ! ダメです、ダメダメ! こんなところで吹雪なんか放っちゃダメです!」
もう1人、温厚そうなリーフィアが、私のイメージを崩しながら叫んだ。てか、普通今制止するかな、この状況で。
「木々が枯れてしまいますっ! 絶っ対に許しませんよ!」
「だぁ~もう! わぁったよしゃらくせぇなぁ!」
呆れたように言い返すグレイシアは吹雪の体勢を止め、透明な壁――バリアーを作り出した。
広範囲に壁が広がり、足止めに有効そうだった。
こんなに広いバリアーは見たことがない。このグレイシア、かなりのヤリ手のようね。
「とにかく、まだ安心はできん! もう少し走るぞ!」
少し影の薄かったブライトが口を開いた。彼にとっては、仲間を失わずに済んだのが大きいだろうな。
とりあえず、向こうのあの洞穴まで走るか。
休憩と作戦会議は、そこですることにしよう。

「今日はとんだ災難だぜ……走りまわせやがって……。 何が木々が枯れるから吹雪はするなだ! 俺達の命が枯れかけてるってのによ……」
「そんな粗末に植物の命を扱うなんて……! それじゃあ、国の外道な考えとまったく同じですよ!」
「草原、それも公衆の面前で大爆発起こしたような奴に言われたくねぇよ! つーか……あれは何だったんだ?」
「ばくれつの種って呼ばれる物です。……あれは威嚇のために上空で破裂させたのと、一匹に投げつけた2発だけですから、自然には何の影響もありません!」
「種にしちゃ爆発力がハンパねぇだろ……」
物騒な会話が耳に入る。
……彼らも、いろいろあったらしいわね……。
たくさん走ったから、疲れて……眠い。もともと夜は苦手なほうだし。

「……! そうだよ、忘れるとこだった……! 話してもらうぜ、理由ってのをな……!」
「理由? 一体何のことかしら……?」
「こいつは、仲間を探してるんだが……。ただ救助隊として活動してるんじゃなくて、何か別の理由があるらしくてな。そいつを喋ってもらう約束になってるんだ」
彼は睨みつけるようにリーフィアをみた。
別の理由……。正直、仲間を探し回るのは危険な行為でしかない。理由がある、となると興味を引かれるわね。私も聞かせて頂こうかしら。
しかし、そのとき彼女の表情が少し曇った。
「できれば……もっと後にしてもらえませんか? まだ仲間が足りません……」
「何だと? お前、あの状況から脱したら教えるって言ってたじゃねぇか……!」
「それでも、この人数に話したところで何の意味も成しませんから……」
「そんなことを言って、ずっと先延ばしにする気だろうが。これ以上、もう仲間がいなかったらどうすんだよ……!」

「……まあ、待ってやれ。シックルとやら」
ここで、今まで黙り込んでいたブライトが口を開いた。
「私も仲間探しをしている。単純に救助隊目的だがな。……それに、私はまだ仲間が残っていると信じている。私たちも、彼女の納得のいく人数を集めるのに協力するから、もう少し猶予をあたえてやれ」
「あと3日。3日でいいですから、待って下さい。そうしたら必ず話します」
「チッ……できるなら、俺は1人がいいんだ。つまらない内容だったら、俺はメンバーから抜けてやるからな」
少しだけ険悪なムードだったが、なんとか収まったようだ。
私が空気になってるような気がするんだけど。
まぁ、仲間を探すっていう目的は変わってないからいいか。
ただ逃げるだけなのもつまらないから、逆に何か仕掛けてやるのも面白そうじゃない。
どうせ散るなら、仲間同士で結託して、何か大きな事して国を驚かせてからでもいいわね。
考えているうちに、睡魔に襲われ、私は眠ってしまった。



*四話 宣戦布告 [#if0ea44c]

 いつもよりは少し遅い時間に起きた。それでも、かなり早い時間ではあるが。
種族柄、朝には強いし、好きだ。
まだブライト達は寝ているみたい。昨日は大変だったから、もう少し寝かせてあげよう。
彼らを起こさないように洞穴から出てみる。風は涼しいし、葉の擦れる音が心地いい。だんだん昇ってくる朝日も綺麗だ。
昨日は暗いし焦っていたから気付かなかったけど、とても居心地のいい森だった。
新鮮な空気をたっぷりと吸う。フィオナじゃないけど、この雄大な自然は大切にしたいわね。

 しばらく朝を満喫して洞穴に戻ると、全員起きだしていた。なんと、夜型であろうブライトまで起きている。長い時間寝ているのは危険だから、自然と早起きになったのだろうか。
「フォール、おはよう。昨夜はよく眠れたか?」
「おはようございます。散歩に行ってたんですか? 朝の自然って、輝いていると思いません?いいですよねぇ……」
「えぇ、おはよう。この状況で言うのはアレだけど、とてもよく眠れたわ。」
待てよ。昨日私はすぐに眠った。もしそれが皆同じだったなら。
「もしかして私達……昨日、かなり無用心に寝てたってこと?」
「あはは、さすがにそれはないですよ~。……彼ですよ、彼」
フィオナが、入り口のところを指差す。グレアムが、壁に寄りかかってつまらなさそうにしている。
「アイツが、夜見張っててくれたの?」
「それは私の仕事だって言ったんだがな。聞く耳持たずで外を眺めていたから、御免被って寝させてもらったよ。昨日はなかなかに走ったからな……」
ブライトが苦笑いを浮かべながら言った。
私達に協力する気がないみたいな事を言ってたのに、見張りを?
本当かしら、何かあるような気がする……。

「それで、これからどうするのだ? 闇雲に探したところで見つかるとは思えんが」
「えぇ、向こうの島に逃れている可能性が高いと思うので、行ってみたいのですけど……」
「この人数で船に乗るのか?流石に無謀だと思うぞ」
「そうでなくても、4人でフラフラするのは危険だわ」
頭を寄せ合って考えるが、いい案は思い浮かばない。
何しろ、自分たちの身も護りつつ他のポケモンを探すのだ。並大抵のことではない。

「どうだ? 何か浮かんだか?」
先ほどまで黙り込んでいたグレアムが口を開いた。からかうような口ぶりなのが腹立たしい。
「見りゃ分かるでしょ? それより、アンタも参加しなさいよ」
「おぉ、なら、いい案教えてやろうか? 完璧な案をな。 ……ここから動かねぇ事だよ。いるかも分からねぇし、いたとしても動き回ってやがる。さらに時間無制限ならともかく、放っておけば捕まって死ぬんだ。そんな奴等、俺達が出しゃばったくらいじゃ助けられねぇんだよ」
「……じゃあ、見殺しにしろって言うんですか!? ……そんなの、酷いですよ……!」
「あぁ、その通りさ。俺達が探し回ってる間にくたばっちまうだろうよ。俺達も近いうちにそうなろうとしてるんだ。生きてる間、人の心配なんかしないで自由に過ごして何が悪い」
「待ちなさいよ……!」
そろそろ我慢ができなかった。
確かに良案などないが、あの命を粗末にすることを平然と話してのける態度が許せない。
「私達が探し回っても見つからないなら……」
もう自分を抑えられない。何を喋っているかさえ、よく分からないような状態だった。
「ここに呼べばいいじゃないのよ……!」


「そうよ、そうすればだれも生き残ってない場合でも無駄足にはならない」
「なっ……! 落ち着くんだ! そんなこと、できるわけないだろう!? 」
「できなくなんかない。私のタイプを忘れたの?」
「ふん。それでどうすんだよ? 聴いてやるよ、お前の馬鹿げた作戦を」
「この国全域に念波を送る。事情と、この場所を伝えるの。もし他にエーフィがいるようなら、返事もしてもらうわ。そして、合流すればいい」
「そんなことをすれば、当然敵にも聞こえてしまうだろう? 大勢でここに攻めてくれば、とてもじゃないが防ぎきれない」
「私達はそう簡単にやられないわ。それに、呼びかけた仲間が来てくれれば戦力も増える」
「いや、しかし……」
「もう、うるさいわね! あんたも仲間を探してるんでしょ? そんなに引き気味だから見つからないのよ! 黙ってないでこっちからも仕掛けないと、国の言いなりのまま! それで少し寿命を延ばすくらいなら、立ち向かって潔く散る方がいい!」
そう言って岩壁を叩いた。壁に穴があき、その周りがバラバラと崩れる。前足を打ちつけたときの大きな音が洞穴内に響いた。
「これは戦争よ。私達をこんな目に合わせた事を、後悔させてやるのよ!」

自分でも息が荒いのが分かる。ちょっと一気に喋りすぎたか。体が熱い。
「私は……それでもいいと思います……! どうせ残された時間が少ないなら、やってみる価値はあると思います……!」
「そうだな。それが一番効果的な作戦かもしれん……。だが、最後まで諦めるなよ? 命を護ることに徹するんだ。でないと、仲間を探す意味がないからな……」
「……俺に似てやがる……。死ぬなら、国の奴等をビビらせてからがよかったからな。しょうがねぇ、手伝ってやるよ。だが、俺は人の命までかまわねぇからな」
「ありがとう。やるなら早いうちがいい。だから……準備はいい?」
私は3人の表情を伺った。以外にも、グレアムもやる気がるようだ。今から、戦争の始まりだ。
死を恐れる気持ちなど微塵もない。
ただ、絶対にやり遂げるという自信だけがあった。

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 ――聞こえる? 私は……ある1人のエーフィです。 いや、他にも、3人いるわ。
  私達は今、仲間を集めています。ある目的のため、そして生き延びるために。
  だから……これを聞いたイーブイがいるのなら、私達に協力してほしいの。
  もちろん、そんなことをして危険な目に遭うのは嫌だと思うなら強制はしない。
  もしできるなら……ブラウナー中央部の森の中に来てください。
  そこは戦場になっているだろうから、十分に注意して……。
  それから、協力者にもしエーフィがいるなら、返事を返してほしい。

  あと。今これをきいてるポケモン達……。
  私達は、そう簡単には捕まらないわよ。
  こんな目に合わせた事、後悔させてやるんだから、覚えておきなさい!――

おい、大丈夫か!?
えぇ、最大出力で念波を出したから、ちょっとね。でも大丈夫……
始まったな……。吉と出るか、凶と出るか……。
とにかく、耳を澄ませろ。重要な返事があるかもしれない。

 ――貴様等っ!そんなに死にたいのかっ!――
 ――待っていろ。今すぐ望みどおりにしてやる!――

くっ……、やはり敵しかいないのか!?
諦めてはダメです、信じればきっと……!

急に……途絶えたな……。
こっちに向かって来始めたのかもしれません……。
待って!微弱だけど、感じる……。今にも消えそうなのが……。
そうなのか? なら、君に任せる。皆、静かにしろ!

 ――あなた達の熱意は伝わりました。私達も、4人のグループです。
  時間はなさそうだから、今からすぐに行きます。
  だから、それまでなんとか生き延びて下さい。
  私達も、死への覚悟はできていますが、死ぬつもりはありません。
  
  これが伝わっているかは心配だけれど。
  とにかく……協力しましょう。生き残るために。――

----

「王への冒涜行為……! 極刑に値する重罪……! この場で打ち首にしてくれよう……!」

 その言葉で我に返った。状況の整理はすぐにできた。
私は捕まってる。目の前のストライクが、私の首に刃を当てている。
ああ、そうか。私は死ぬのか。命を賭けた勝負も、失敗した。
さっき見た記憶は、走馬灯というものだろうか。
走馬灯は、生まれてからの記憶が全て巡るのではなかったか?
その答えもすぐに出る。
――私の昔の記憶など思い出すに足らなかったということか。
種族の違いから迫害を受け続けてきただけ。そんなもの、思い返す必要がない。
思えば、さっきの光景――仲間と結託したとき、あのときが一番輝いていた。
だから、あの瞬間だけが走馬灯として蘇ったのかもしれない。

 ああ、あの仲間達はどうしているのだろう。
私と同じような目に? それとも、まだ戦っているのか?
私の勝手な意見に振り回してしまって申し訳ない。
それに、最後に通信できた相手――まだ幼いであろう、微弱な念動力しか持たぬエーフィを含むグループも、ここに来てしまえば巻き込むことになる。
いっそ、あの相手が私達の味方を偽った敵だったならいいのに。

 ああ、私はここで死ぬ。
死ぬなら、潔く。目を背けたりなんてしない。
怯えない。目を閉じない。最期まで。
私の首が飛ぶ瞬間まで、この世を見届ける。汚い差別の心に溢れた世界を最期まで恨む。

……飛んだ。ストライクの体が宙を舞った。
「約束どおり、来てやったぜ」
ストライクに蹴りを放った黄色の足の持ち主は、身を翻して私の後ろに電撃を放つ。
生きている。
「お前らは、あっちに走れ! そこにもう1人、案内役がいるから! 俺は、残り2人を捕まえてから行く!」
その言葉を聞いて、仲間の安否が心配になった。どうやら、ブライトは、私の後方、そう遠くないところにいたようだ。
電撃が、戦っていたオーダイルに当たる。不意の助太刀に驚いたようだが、こちらを向くとすぐに事情を察したらしい。
協力を決めた仲間をおいていくのは抵抗があるが……
「フォール、行くぞ! 今は、任せておいたほうが邪魔にならないはずだ!」
その言葉で、強烈に生への執着が蘇った。
死にたくない。死なない。生きる。絶対に。
私はサンダースに一瞥をくれ、走り出した。

「はいはい、2名様ご到着~。こっちこっち、ちょっと走ってね」
えらく陽気なブースターと出会った。こんな状況なのに、笑顔でむかえられた。
向かっているのは、北の方かしら。
でも、こっちに何があるのだろう?
「&size(10){大丈夫かな……。短い時間だけど、間に合ってるかなぁ……。};みんな、できるだけ走って、今のうちに体重減らしといてくれる? 2……じゃない5名様」
ブースターがなにやらつぶやいている。最後の言葉を聞いて振り返ってみると、もうフィオナとグレアムがいた。もちろん、私を助けてくれたサンダースも。
本当に、全員無事なんだ。うまくいった。ようやく実感がわいた。
青空と太陽が輝いていた。

 しばらく走り、森を抜けて開けた場所にでた。
海岸線が見える。砂浜に、更に2人のポケモンが……。
「おーい! どう!? 行けそう?」
「分からないわ! いざとなったら、何人か泳ぐことになるかも知れない」
青の体、もう1人はとても小さい、まだ幼かった。2人は、何かの作業をしている。
会話の内容と、海に近づいていくにつれてようやく飲み込めてきた。
船だ。乗り逃げという危険を避けるために、自力で作り出した船。
「どう!? イブ、無理かしら?」
「一応終わったけど、やってみなくちゃ分かんないよ!」
「後ろから来てやがるんだ! こうなりゃ賭けだ、はやく乗れぇ!」
気がつくと、後方からは狂ったような大声が聞こえる。しかし、逃げ切れそうだった。
全員で木製の船に飛び乗る。
シャワーズのハイドロポンプは後方の敵を蹴散らし、そして船の動力源となった。
船は急発進し、海原をかきわける。

国との戦いは、始まった。



太陽が、愚かな私達を嘲笑っているように見えた。



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更新時の一言コメ

遅くなりすぎました。すみません。
とりあえず一章終了。雑……だなぁ……。

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ショボい小説ですが、コメントありましたらどうぞよろしくお願いいたします。

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