*-Vistaccia the Appetit- [#h27cd05c] Writer:[[Vanilla]] ---- -Vistaccia the Appetit- I. ファースト・インプレッション 俺が奴と最初に出会った時へ記憶を遡らせてみると、それは高等学校1年の時だったなぁ、ということになる。 奴、ベロリンガ種のベルジュを見たときの第一印象は「のっぺらぼう」というところだった。 目があるのかないのか。鼻はどこにあるのか。舌の始点はどこから出ているのか。 目は多分此の辺りだろうと思わせるその線は、果たして目なのかシワなのか。笑っているのか、普通の表情がそれなのか。 そしてぼてっと出た腹に、ピンク色の四肢、だらしなく投げ出された体長ほどもある舌、不釣り合いにも二足歩行をする彼の外観は、どうも俺の感覚からしてみると、絶対的にも相対的にも「ダサい」と言うことだった。 また、俺がそんなのと関わり合いになった切っ欠けもまた最悪と言っても良いような出来事だったので、鮮烈に記憶に刻まれているのだ。 ▼ 俺はその時、シブタニタウンのカフェでコーヒーを飲みながら、怒りのぶつけどころを探していた。 俺の恋人であるプディルが、事もあろうことにヴィジュアル系バンドのライブに行くからと、俺とのデートをドタキャンしたのだ。 プディルというのはプリン種の雌で、まぁ随分な財閥の一人娘だ。 そんな理由で、俺は珈琲を喉に流し込んだり、カップが割れんばかりの勢いでテーブルに叩きつけたりして、ストレスを発散させていた。 その最中に声をかけてきたのが奴、ベルジュだった。 「そこでカップをテーブルに叩きつけているブラッキーのあなた、五月蝿いのでやめて貰えないか。折角のベーグルの旨味が台無しだ」 それは喧嘩をしかけようというよりは、なだめて平和的に解決しようとする口調だったが、そんな要素は俺の中で大した意味を持たなかった。 「あぁん?喧嘩売ってんのか?この舌野郎」 俺はどす黒い声を、黒い喉で、恐怖心を震えさせるように最大限の努力をして響かせた。 舌野郎、というのは俺の中では最も的を射た、最大限の腹立させるための悪口と思われた。 だが、彼はそんなことを眼中に入れずに、続けた。 「僕は君に望むのは、そうやってイライラとしてカフェに居座るのを止めてもらうことだ。分かるかな、僕は静かにカフェを愉しみたいんだよ」 明らかな敵意を目の前にして、ベルジュは至って紳士的な対応を見せた。 そして、俺がここで先に手を出す、というのはどうにも俺のプライドが許さないところがあり、結果として黙って聞くような形になってしまった。 「君の表情は随分と――辛いね。トゥー・ホットだ。そして、どこか酸味がある。甘みが去った痕も見受けられるね。つまり――君の悩みは恋だ」 「――!!!」 グサリ、と現実にも刺されたのではないかと思うほどに重々しい重圧をもって、その言葉は心に釘を刺した。 「……あ、あんたはデタラメを言うつもりなんだろうが……話だけ、聞いてやろう」 などと俺は不安を隠しながら冷静を心掛けるだけで精一杯だった。 俺の更正――などとは愚かしいものかもしれないが、現実にある言葉を借りるとしたら、最も適切な言葉か――は、この時ベルジュが声をかけてくれたところから始まったんだろう。 何と言っても、不思議な奴だった。第一印象も、それからの印象も――殆ど変わらなかったように思う。 「そうだね、是非君の悩みを解決できれば本望だ。ところで、僕は、舌野郎じゃなくてベルジュという名前だ。君は?」 「俺はキィだ。黄色――Yellowの黄、に、異――Strangeの異。黄異――キィだ。分かるか」 そう、大体、こう名乗ると大多数はこう返す。 「……変わった名前だね。おもしろい親が居たものだ。どうやらエイジア系の家系、ということになるのかな?」 「俺は生まれつきエウロピア系の血を引いている。この名はプディルに貰った名だ……文句あるか?」 何となく言ってから恥ずかしいような気がしたが、俺は少なくとも彼女の付けたこの名前を気に入って仕方がなかったし、後に引けない部分がかなりあった。 「なるほど、ね――君がそう説明するときの声は、どうも甘さが混じっているように聞こえたのは、気のせいではないのだね」 「甘いだと酸っぱいだの、と変な説明をしやがって……まぁ分からんでも無いが、あんたはコックか何かなのか?」 大雑把な比喩だとは思うが、その分分かり易さを備えているように見えた。 何よりも恋は甘い味がする、というのはどこか定説じみたところがあるように、俺には思えたからだ。 「僕は料理人じゃない――強いて言うなら、食べる係、ってところかな。つまり、僕は食の道楽人というところか」 飄々とした感じでベルジュは空いているのか良く分からない口をもごもごさせて、その割にはどもらずにすらすらと言葉を繋げて行く。 俺がベルジュの感想を味で表現するなら――渋い、という一言に尽きるかもしれない。 彼の言葉はどこまでも渋いように俺には見えたし、たまたまシブタニで出会ったからかもしれない。 II.ボン・ナペティ 「それで――彼女、プディルさんと言ったけれど……察するに、彼女が君に何かをしたのかい?」 「いいや、違う。プディルはあろうことか、俺との付き合いを無視してヴィジュアル系ナントカのライブに行っちまったんだ!あんなケバケバした奴らの何が良いんだか!俺には理解できねーな!ちきしょう!!」 気が付けば俺はドン!と大きな音を立ててテーブルを叩きつける寸前だった。 それはベルジュのぷよぷよとした大きな手によって阻まれたのだ。 全く関係ないが、そのぷよぷよさは何となく心地の良い感触であった。 「まぁ、落ち着いて。彼女は君に愛想が尽きたということではないだろうさ。いいかい、まず――彼女のそのライブは、今日しかできないことだ。その点だけでも、君とライブを取捨選択の天秤にかけた時に、そのライブは天秤を傾ける重りとしては十分なものだと思うがね。 そしてもう一点。バンドミュージックというものを君は全く理解していないね。彼女はライブ――つまり、実演というところにこだわっていたということじゃないかな。 ライブというのは、髪の毛の先からつま先までの全ての神経を尖らせて、自身をファンから見て最善の状態に保つことが重要な要素のひとつだ。 良い演奏が聞きたい人は、何もコンパクト・ディスクでも良いわけだ。それで満足するヒトは、演奏者の表情だとか、そういったところには無頓着なのだろう。 ヴィジュアル系、というメイクスタイルも、僕から言わせて貰えば『イケてる』と思えるけどね――まぁ、君がどう思うかはまた別だけどさ。 かく言うキィ君だって、充分にパンクスタイルだか知らないけど、その服装のセンスは『キマってる』んじゃないかな」 ベルジュの口調は実に落ち着いたもので、妙に俺は『分かる』ような気がした。 彼女はつまり、彼ら自身に惹かれたのではなく、彼らの奏でる音楽全てに惹かれたということだろう。 彼女の気持ちが必ずそうなのだとは限らないだろうが、少なくとも自分が思っているほどに深刻な問題ではないのかもしれない――彼の言葉を聞いて、そんな安堵の気持ちがこみ上げてきた。 しかし、パンク云々と言われて気が付いたのだが、ベルジュは洋服というものを一糸纏っていないのだった。 それ自体は、この国ジャポネに於ける宗教価値観の多様性から見て、さほど不自然なものではないのだが――今は何と言っても冬である。 TPOという言葉もある。冬の最中、体毛が生えているわけでもないコイツが裸族スタイルを貫いているのは、何だか『家無し乞食』のような、貧相な印象にしかならなかった。 それから俺たちは何処に住んでいるか、職業は何なのか、先ほどの真剣さは無くなり、だらだらと談笑することになった。 「僕はマチダタウンに住んでいる。マサラ私立高等学校3年生だ」 ――という説明を受けて、俺は含んでいた珈琲を噴き出しかけた。 学生?こいつがか?俺にはどうも、中年のおっさんの老け具合を感じてならないのだが。 「う……あ゙、ぅん。ゴホゴホ、いや、びっくりしたよ。学生だったなんて……しかも同じ高校じゃねーか。まさかこんな偶然があるとは……」 「ほう、君もマサラか。面白い、世界というのは余りに狭いね」 マサラはマチダタウンでも随一のセレブ校であり、入学金と授業料は一般的な私立大学と比較しても桁が一つ多いほどだ。 それゆえに、その学校に通っているだけで、それだけで富豪の息子・娘である、というステイタスを付与するのだ。 そのステイタス欲しさにここを選ぶ者も少なくは無く、俺とて動機の一つとして持っていた。 「それなら話は早い、僕はそろそろ帰ろうと思っていたんだが、一緒に帰らないかい?」 「あぁ――?まぁ、そうだな。俺も暇を持て余しているところだ。ぼちぼち帰るか」 と、必然のような偶然は余りに些細な事から始まったりすることを身に染みさせた俺は、ベルジュの大きな体の横を歩き、帰路に就いた。 シブタニからマチダへは、トンキン急行の田園都市ラインで帰るのが一般的だ。 昼間は比較的空いていることもあって、俺はベルジュの乗りこむ二足歩行専用車両について行く事にした。 ▼ 「――僕はね、甘さの残った、辛くて、苦くて、渋くて酸っぱい何か――そんな感覚が、いずれ自分に訪れる日が来るんじゃないかな、なんていう妄想に取り付かれた哀れな所があるんだ」 ベルジュは、ふざけているような事を至って大真面目に、いきなり電車内で語りだした。 「哀れ……?ねぇ。ふふっ、自分で言ってるうちはまだシアワセだと思うけど」 「キィには分かるかい?そんな感覚が、何を示しているのか」 「うーん……何だろーか。さっぱり分かんねーや。っていうか、それって味覚の全てを同時に味わうってことか?そして、それは料理なのか?それとも出来事の印象か?」 「どちらとも言える。僕はどうやら、何となくだが『味覚で予知をする』とかいう能力があるみたいでね。まぁ、気のせいなのかもしれないし、誰も信じてはくれないが」 「はははっ、そりゃそうだろ。ってコトは何か?俺と会うことも実は予知していた、とか?」 「へへ、実はそうさ。僕は君の印象について、今朝からじわりじわりと舌に感ぜられていた」 「はは!冗談は程々にしておけって。そんなのは気のせいだね、第一、証明できないだろ?」 「ふぅむ……そこまで言われると、僕も黙っていられないよ。僕の能力はきっと、使い方次第では有益なハズだ」 「有益ねぇ……ギャンブル……とか?」 気が付けば俺もベルジュの能力について半信半疑なところまで気持ちが傾いていた。 とはいえ、それは好奇心による一時の迷いのようなものだが。 「なるほど……僕はそれまでギャンブルに興味を示したことが無かったから分からなかったけど、もしかすると何処かに『甘い印象』が潜んでいるかもね」 「……面白ぇ、やってみる価値はありそうだな」 「決まりだね」 と、意気投合した俺たちは早速――ゲームセンターへと向かうことにした。 俺の予定が大いに空いていたこともあって、暇つぶしとして適していることもあり、プディルとの一件は一旦忘れられそうだ。 しかし、悲しいことに俺たちは、賭博の場に入るために年齢が満ちていない――特に俺は見た目で分かられてしまう――のであった。 それゆえ、現金を賭博に使用しない、言わば仮想賭博の場所に行かざるを得ないのだ。 そして、流行の過ぎたような『ダサい』ネオンが煌くゲームセンターの店内に入ると、まずはゲーム機器の爆音に耳を覆いつつも、ベルジュは適当に競馬のメダルゲームをやってみると言った。 「メダルゲーね……まぁ俺にはサッパリだわ。その7.0倍の馬とやらで良いんじゃねーの?」 「いや、この馬はダメだね。そうだな……今回は倍率こそ1.5倍だが、この馬のような気がする」 「んーそうかい、良く分かんねーや。俺はポーカーでもやってくるわ」 思ったよりもベルジュはゲームが好きなのだろうか?真面目一辺倒なところがあると思ったのだが、人にはやはり側面があるものだ。 ……で、結局俺のポーカーは2000円の投資がすっからかんで、最高手はフルハウスの上にダブルアップの4回目でディーラーがワイルドカードで大爆死。 あそこで止めていれば1600枚だったわけだが……どうも引き際とやらが俺には理解出来なかった。 舌打ちしながらベルジュのところへ向かうと、意外や意外……既に画面のクレジット表示には、数万枚の富が表示されていた。 「は……はは、はははっ……!??」 俺は目の前の光景を疑わずには居られなかった。イカサマがどこかで働いたのでは、としか思えない光景だった。そしてそのイカサマは、彼自身が先程説明した通りのものだろうということはすぐに理解できた。しかし、それで尚俺にはその非現実を受け入れることを拒もうとする気持ちが湧き上がるのだ。結果として、俺はどうして良いのか全く分からなくなり、ただヘラヘラと笑うことに終始していた。 「はは……まさか、僕の能力にこんな使い道があるとはね……。助言に感謝するよ」 ベルジュもこれが現実のことなのか、半信半疑といった表情のように見えた。のっぺらぼうの顔では表情など見えるようで見えぬものだが。 そして、暫く「この馬の味は……」とか、「3択までは絞れるんだ……高順位に入る馬は、それだけで美味しい思いをしているからね……」とか、色々と馬定めの理論を聞かされたような気がする。 そんな理屈など抜きにしても、彼がギャンブルに於けるとてつもない勝者となった事実は目の前で確たるものとなっているわけで、これを信じぬというのは重力など無いと言い張るようなものだった。 兎に角、俺は彼に圧倒されていた。 斯くして、二人はとてつもないメダルをカウンターに預けると、店を後にして別れた。 どうでも良い話だが、彼の今日の晩飯もまた外食でステーキなのだという。 自分で料理を作らないのは、ものぐさな一面を表しているのか――別れた後で何となく考えてしまった。 III.ラブ・イズ・スウィート そして、家の前の上り坂まで来ると、ふとプディルはどんな味がするのだろう?とひたすらに考えてしまった。 プリン、とは甘いもの……だが、その種族名の表す甘味がそのまま味として感ぜられるということは恐らく無いだろう。 少なくとも、彼の確たる理屈が、そんな種族名という先天的なもので語られるのだとしたら、どうもそれは胡散臭いということになる。 それは次に逢った時にでも聞くことにしよう。 我が家に帰ると、俺は一番に精神を落ち着ける最良の場所、自室のベットに身を預けた。 暫く思考を停止させて、四肢が布団の柔らかさに埋められ、ただただその海に浮かぶかのような気持ちの良い感覚で遊んでいたのも束の間――携帯電話の着信メロディが彼女からの通信を伝えると、思考を再起動させた。 「今日はゴメンなさいね。でも、あなたも来れば良かったのに。まぁ、あなたが来たくないというのに連れ出すのは身勝手かしら。今日は楽しんで来ることにするわ」 と、プディルのメール文面にはそう書かれていた。 どうも俺は納得が行かなかった――先ず、俺との予定を破棄したことを謝罪していない。そして、俺という存在を無視して独りで楽しんでくるということ――俺のプライドはどうなる。嗚呼、考えることが面倒なほどにネガティブな思考が止まらなくなってきた。 全く、どうしてこんなに面倒な感情とやらが俺には宿っているのだろう、と良く考えるものだ。 何となく俺は思考を逸らすために、学校で習った「ヴィスタチア・ストン」と呼ばれるヘンテコな石について思い返すことにした。 ▼ ヴィスタチア・ストンについて、教壇で威勢の良い声を張り上げて論じていたのは、まるで俺から言わせて見ると「言葉と容姿が一致していない」としか言いようのないビーダル種のビバルディ教授だった。 教授はハルヒベとやらの町から通う、それなりに権威があるとかなんとか言われている教授なのだが、その口調や容姿は余りにも穏やかで張りやアクセントに欠けているため、講義を受ける生徒としては、彼の全ての言葉が子守唄となって、睡魔に餌を与えているというのが現状だ。 だが、そんな中で俺は気まぐれで、この『ストン』の話だけはどうも聞き逃してはならない情報のように思えて、その日は珍しく真面目に話を聞いていた。 「ヴィスタチア・ストン――有史以来、我々の体の一部に吸い付くように発生・寄生し、以後「理性」の象徴とされていた、石の様な体の一部分。 ストンは、触ったり見たりした限りでは本当にただの石だ――ワシの場合はどうも恥ずかしい場所にあるからここで見せることは出来ないが、別に触られたからと言って特別な感覚を得るという事は無い。 これの意義というものは現代科学の水準では『不明』というのが結論だ。ただ、持たざるものと持つもので差異を比較して見ると、その差は明らかとなっている。 それは時に『ニンゲン』と『ヤセイ』などと呼ばれて区別されることになった。我々の言葉にも二人、二匹と区別をして漢字表記することがあるように、これらには差異があるのだ。 それをどうやって判断するか、というと、ストンの有る無しがそれに関わってくる。ストンを持っていれば理性を持ち、持たなければ持たない。話も出来ぬのだ。 では、ストンは有益となり得るのだろうか?という、ある意味では哲学的な疑問について、どう思うかな。確かに我々はストンがあるお陰で、理性的かつ平和的に生きる術を今日(こんにち)見つけ、世界に平和を齎すなどと大義を掲げるまでに至っている。 更に、ストンを持つものは寿命が非常に長くなるという特徴がある。これはつまり、ストン自体が体内の代謝活動・限界の水準というものに抑制をかけて、無理の出来ない体を形成すると推測されている。 しかし、これを逆に考えてみれば、我々はストンを手にした代わりに、野性味という生物的に非常に原始的な生活を手放して進化を遂げた、ということだ。 君たちがストンによって幸せになったと、どうして言えるのかな?と、ある哲学者は問うたそうだ。 『君たちは今、幸せかい?考えて生きていくことが楽しいのかい?考えなければ、楽になれるのにね』と。 そうだ、今日の課題は君たちがヴィスタチア・ストンについて、『これのお陰で幸せだ/こんなものは無い方が良い』という立場を明らかにして、それについて考察することにしよう」 ▼ ――と、ビバルディの天然パーマは言っていた。 要するにそんなわけわからん「石」が「意志」を齎してる~だなんて、安っすい駄洒落じゃないんだから、とかそんなところだろうか。 ……俺もよく分かってないが、いちいちこうして悩むのは紛れも無くストンが関わっているのだろう。 恋にしろ、友人にしろ、勉強にしろ、人生にしろ――理性があるということは、それだけ悩むことが可能であり、悩まぬことが寧ろ難しいということなのだ。 これが、熱い時は手を引っ込める、などといった反射行動で全ての行動をする『野性』とやらを比較した時、悩むことも可能、というストンの特性は、果たして有益なのだろうか。 俺は今の気持ちだけで言うのなら、何も考えないで寝てしまいたい、というのが正直なところだった。 考えると言うのは往々にして面倒くさいことだ。 だが、眠りはそんな面倒くささから精神を解き放つ素晴らしい行為だ。 少なくとも今の俺にはそう思えて仕方が無かった。 ▼ 翌朝。朝を告げるポッポのけたたましい喚きに覚醒を促されて、俺は目を覚ました。 朝とは今日を告げるものだが、今日など眠りのために貪ってしまいたい、という衝動も同時に引き起こす、不思議な矛盾を孕んだ時間のような気がする。 もっとも、そんなことに頭を悩ませている暇があれば、さっさと身支度を整えて学校へ行け、というのも尤もな話なのだが。 朝ご飯はプレーンヨーグルトにジャムを適当に混ぜたもので、あっさりと胃を満たすに留めて家を出ることにした。 学校自体は8時半に始まるのだが、何よりも8時にはプディルの家の前に居なければ彼女に怒られるのだ。 そして、7時57分。 俺はプディル邸宅前に到着し、プディルもやがてそれに気が付いて、庭に敷かれた長い赤絨毯の上を歩いてくるのが見えた。 プディルの体には、人によっては嫌味とも取れるほどの「優雅」が見に染み付いていた。 完璧に、曇り一点無いほどに、彼女の振る舞いは「姫君」の座が適切、という印象を皆に振り撒くような芸術性があって、それは俺としても外見的に「最高」としか言い表せない、そんな物腰をしている。 だが――彼女は一頭身の背丈であり、それは同時に彼女に不満を齎すのも時に事実としてあった。 そして、その日の話題も、昨日のライブの話ではなく、こんな怒声から始まるのであった。 「全く、アタシは何時になったら進化が出来るというの!?今のボディに不満は御座いませんけども、プクリンとしての腰つきに憧れてなりません!キィったら!アナタはどうやって進化したの!?教えなさい!!!」 ……などと率直に俺を頼り、解決策を捻り出そうとするのは、彼女の恋人として定められたならば避けられぬ運命だ。 「プディル!キミはまたそんな事を言って、今の自分の何処に欠点があると言うんだい!?キミはパーフェクトなんだよ。キミは自身を愛するに足るほどに美しいと、自覚を持って言うべきだ」 俺はそんなに普段と変わらず、姫様は完璧だから、という率直であり飾り気の無い言葉で応えることにした。 これの相手が彼女でなければ、こんな褒め文句は言う事が出来ない。 そこには必ず虚飾がついて回るからだ。 「そんなのは所詮、気休めですけど……あなたがそう言うなら、そういうことにしておいてあげますわ……今回は。……さ、さぁ、そこまで言ったんだから、口付けの一つくらいしなさいよ」 俺はそうしてひとつの解決策を出すと、彼女に感謝をされては、言われるが儘に美味しい思いをすることもあるのだ。 たまに自分が至らない解決法を提示してやいないか、と思い返してしまうのも事実だ。 恋とは何とも面倒なもので、しかしやはりベルジュの言うとおりに甘いものなのだろう。 その甘みを食すために、四苦八苦して恋を調理する、とまぁ彼の言うところではこういうことなのだろうか。 何にせよ、彼女の唇を食す時に感ぜられる俺の味覚は、紛れもなく『甘み』で満ちていた。 それは如何にヒトが価値を見出す『甘み』の全てを超越する甘さであり、俺の生きる価値などこのためにある、と言って過言ではない瞬間であった。 朝の甘いひととき、恋人とのキス。 その時だけは、ポッポ達の喧しい鳴き声が祝福の喇叭(ラッパ)に聞こえた。 ▼ そして、通学路の途中にて。 「結局、プディルは昨日俺とのデートをすっぽかしたわけだけど、何か言う事は無いのかな」 と、俺は昨日からの思いを吐き出した。 「まぁ!そんな事を気にしてらしたの。ごめんなさい、でもライブは昨日しかやってないのよ?アタシとアナタなら、何時だって年中無休じゃない。一日くらい何てことは無いでしょう?」 ……嗚呼、俺の苦悩は一体何だったのだろうか。 彼女の答えはあっさりとした味わいのように感ぜられた。 恋と言うものは、往々にして面倒くさいものでもある。 ---- 作品名】 -Vistaccia the Appetit- 【原稿用紙(20x20行)】 29.9(枚) 【総文字数】 9520(字) 【行数】 217(行) 【台詞:地の文】 38:61(%) 【ひら:カタ:漢字:他】 57:7:32:3(%) 【平均台詞例】 「あああああああああああああ、あああああああああ。ああああああああああああああああああ、ああああ」 一台詞:49(字)読点:29(字毎)句点:49(字毎) 【平均地の文例】 あああああああああああああ、ああああああああああああああああああああああああああ。 一行:42(字)読点:29(字毎)句点:45(字毎) 【甘々自動感想】 わー、いい作品ですね! 短編だったんで、すっきりと読めました。 男性一人称の現代ものって好きなんですよ。 一文が長すぎず短すぎず、気持ちよく読めました。 それに、台詞が多くてテンポよく読めました。 っていうか、地の文だけですね。渋い! あと、文章作法を守ってない箇所がちょくちょくあったように思います。 あと、英語のタイトルはちょっと覚えにくいです。 あと、個人的にひらがなで書いたほうがいいと思ってる漢字がいくつか使われていました。 これからもがんばってください! 応援してます! ---- あとがき どうも、Vanillaです。 何となく区切りが付いたので、この辺りで終わっておこうかね。 という感じで、勢いだけで書きました。 文法作法を守らないのは仕様です。行頭下げとか面倒です。(蹴 何となくこだわったところ。 世界観。これはおよそ現実世界を模倣しました。 私は都内住みとかいうことで、鉄道やら地名やらも知っている人はニヤリとしてみて下さい。どうでもいいですけど。 人間らしさ。不思議力で日本語自由に喋る、というその不思議力を”ヴィスタチア・ストン”とやらで描写してみました。 これが作品のテーマとも言っていいのですが、こんな話を淡々としていては文字通り眠たくなってしまうので、恋物語のような感じにしてみました。 恋愛ってこういうものなんでしょうか。私には良く分かりません(笑 味覚。これはこの話を書くに当たって、一番の核としたところです。 味覚を印象とするとある小説のキャラクターの模倣と言えば模倣なのですが……まぁ、一応自分なりにアレンジはして個性らしきものも出せたような、どうなんでしょうね。 ベルジュ、というのは何も「アーベルジュ」とかそちら方面ではなく、ベロリンガ→ベロ……ジュ?→ベルジュ! という単純な思い付きです。 プリン→プディング……→プディル! ブラッキー→……ブラ、キィ……→キィ! みたいな感じです。 名前を覚えるのが自分でも苦手なので、自分でも混乱しない名前を付けたかったのですよね。 花の名前などから凝った名前をお付けになる作者さんのセンスには全く及びません(笑 恋は甘いのか? よく分かりません。私はそういうものなのかな、と各メディアから聞いています。 恋って結局なんなんだろうね?とかなんとか。二次元云々言うとまた腐ってくるので終わる。 次回作? 私は何だか随分と壮大な構想だけは練れる奴なので、この話は続きも考えてあります。 しかしながら、それをしっかりと言葉で描写する日が果たして来るのか否か。 今はとりあえず、「書き終えたぜ!」というよく分かんない余韻に浸ることにします。 あと、やっつけ推敲なのでミスがあったり日本語がオカシイのはご愛嬌です。 そんなわけで、閲覧お疲れ様でした。 もし良かったら感想などいただけると筆者歓喜します。 ありがとうございました。 ---- #pcomment(Vistaccia the Appetit 米) ---- 次回予告(予定は未定) 彼は君を愛しているぞ!確かに!ずっとそう言っていたんだ! 未亡人にしたいとでも?この私を? でも、あなたはもう居ない…… 援軍が来るぞ!気張って行け!まだ勝てる! 勇気の血 優しさの涙 全て自殺行為だ!彼女を頼む! さようなら!プディル!君は立派に生きるんだ! そして我々は散ろう! 君は生涯を喪に服して生きるというのかい? 今でも2人の世界で逢えるの 不滅の愛が二人を放さない。 私には彼が見えているの――誰も私から彼を奪うことはできないわ。 君は寂しさと貧しさに取り憑かれている――。 いいや!ちがうね!彼女は自由なだけだ。 嗚呼、私は彼が羨ましいね。 立派な人生を平和に歩いても 後ろめたい思いとプライドが 過ぎ去った幻と、痛恨の気持ちが! その考えを大切になさって。きっとあなたは答えを見つけられる。 まさかの急展開! ごめんなさいまだ脳内がぐちゃぐちゃですwwww IP:125.13.222.135 TIME:"2012-07-17 (火) 18:12:03" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=-Vistaccia%20the%20Appetit-" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 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