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-存在意義- Chapter1 生を求めて の変更点


&color(#567890){''significance of existence -存在意義-  Chapter1 生を求めて''};


作者:[[トランス]]

前話:[[-存在意義- Prologue]] 


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#contents

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**#1 はじまりという名の朝 [#s136a831]


──暖かい陽射しの温もりを感じて、僕は意識を取り戻す。ゆっくりと目を開くと、木の天井が映った。自分で建てたにしては結構しっかりしてるな~と、「やっぱり僕は天才だね」って思った。窓が少しだけ開いてて、隙間から入り込んでくる風が落ち着いた色の翠のカーテンを揺らしてる。風に運ばれて鳥達の楽しそうな囀りも聴こえてくる。そんなに楽しそうに鳴いてると、こっちまで楽しくなっちゃうよぉ♪…はぁ、でもやっぱり眠いなぁ。
「んーっ…ふー」
僕はベッドの上で一回伸びてから、おすわり姿勢で見える限り部屋の中を見回す。リビングに通じる階段に続いてるドアから見て、正面の壁にベッドがぴったりくっ付いてて、左側の壁全部が窓になってる。…他には何も無いんだ。実は追われている身で、荷物少ない方が好都合なんでね。…うん、進入されたりとか、異常は無いみたい。
枕元に置いたホーホー型の時計を見ると、針は午前7時18分を示してた。
(もう朝かぁ…早いなー…今日はいい天気だなー)
伸びてみても覚めない眠気を、頭をぶるぶる振って少しだけ飛ばすと、僕はベッドから降りて寝室を出る。

僕の名前はペアル=ラネティ。見てのとーりのエーフィだよ。自分の事は全く話せないけど、目的だけは持ってる。僕の目的は、『自分の生きている“イミ”を探す』こと。どうしてこんなことが目的か、話すと長いけど、聞いて欲しい。
僕は記憶喪失で、昔の事はよく判らない。どうして記憶を無くしたかも、判らない。だから僕がどんな奴かは全くもって判らないんだ。僕のことを無理に説明するとしたら、ここに存在してはいるけど、生きてる“イミ”を持ってない、そんな奴。記憶が無いから、自分がどうやって生きたいのかすら思い出せない。生きている実感が、まるで無い。生きていても、なにも楽しくないんだ。その上、頭の中に隠されちゃった昔の記憶が死ぬのを拒んでるみたいで、死ぬことすら叶わない。記憶を失ってる分、そういう感情に逆らってまで目的を達成できる強い精神力は、僕には無かった。初めは辛くて仕方がなかったよ。生きる希望も無く、死ぬことすら出来なかったから。けど、悩んでいるうちに気が付いたんだ。ただその場で悩んでいたって生きている事実は変わらない。なら自分がこの世界に産まれた意味を持てるように、自分の生きている意味を、自分で見出さなくちゃいけないんだ、って。だから、初めに目的をつくったんだ。生に実感の無い僕が、少しでも意味を持てるように。勿論見せかけの目的なんかじゃなくて、ちゃんと世界中を旅して回ってるんだよ。未だに目的は果たせていないけどね。旅に少しだけ、楽しさを感じるようにはなったから、昔のような辛さは無くなったんだよ。
だけど、その旅も今はイミを探すためなんかじゃなくて、最初にちょっと言ったように、安全な場所に逃げるために強制的にやらされてるみたいになってるけどね。あ、大分説明に入っちゃったね。このことは気になるだろうけど、またあとで詳しく話すことにするよ。

1階に降りて洗面所で顔を洗います。ちょっとは眠気が取れたかな。一息ついて顔を上げてみると、鏡に映る自分の寝癖だらけの顔と目が合った。跳ね上がった毛を前脚で弄って苦笑い、けど直すの面倒だからそのままにしとく。取り敢えず僕は念力で鏡の横にある棚から歯ブラシとコップを取り出して、歯を磨く。朝起きた時って何だか口の中気持ち悪い時ない?起きたら歯を磨くの、僕の日課になったんだ。少しは生活にイミを見出せてきてる証拠なのかな?
寝癖の僕と睨めっこして磨くのもどうかと思って、歯ブラシとコップを(念力で)持ってリビングに行く。リビングも朝の眩しい光で溢れてて、窓に付いた水滴が光ってきれいだった。昨日の夜は嵐だったから、タイフウイッカとかいう現象かな?シックなテーブルにコップを置いて側にあるソファに腰掛けながら、僕は種族柄晴れたことに喜びを感じた。自然と歯磨きに気合入っちゃって、リズミカルにブラシを操ってる自分がいた。取り敢えず、僕はテレビに念派を飛ばしてボタンを押す。つくづく思うけど、念力って便利だよね~。
つけてみたはいいものの、どのチャンネルも特にこれといったものはやってなかった。仕方ないから初めのチャンネルに切り替えて、僕はただぼーっと歯磨きを続けた。…けど、暫くして僕の耳に入ってきた言葉に、僕は歯ブラシを動かすのをやめた。
『…次のニュースです。ゴッド地方南端に位置する神聖な地、リネスの森で、またも死体が発見されました。』
リネスの森。色々な神様をそれぞれ信仰する人達が集まっているゴット地方で、一番神の住む聖域に近いと言い伝えられている場所のことだった。…今、僕が住んでいる場所でもある。僕は黙って、テレビの中に映ったゴチルゼルの女性の言葉に耳を傾けた。お姉さんは早口で話し始める。
『発見されたのは森の警備員の1人と思われるジュカインさんの死体で、死因は胸部から腹部にかけて鋭利な物により裂かれた事による出血多量、とのことです。昨晩の嵐の豪雨の影響で死亡推定時刻の調査に遅れが出ている模様です。また、付近の土砂の荒れ方から、ポケモンによる殺害と見て、警察は捜査を進めています。…あっ、新しい情報が入ってきました、犯人についてですが──』
僕はそこでテレビを消す。歯ブラシをテーブルの上に下ろすと、僕はソファに寝転んで、思った。
(…また、やっちゃったんだ…僕…)
「…派手に動くと目立ちますから、もう少し控えられませんか?」
ぼんやり考えてた時、僕の耳が聞き覚えのある声を捉えた。よく通る、幼い響きを持った丁寧な言葉を並べる声のする方に、僕はなんともいえない表情で振り返りながら、言葉を返した。
「…サック。僕だって、好きで人を…殺してる訳じゃないんだ。僕自身も、何でこんな事をしちゃうのか判らない。同じ自分の事なのに、どうしてなんだろうね…」
「そんな事、聞かなくても判っています。ただ、そろそろ警察にも感付かれますよ。少しは抑えられないのですか?人間達が何時攻め込んでくるかも分からない状況で、警察にまで追い回されたら逃げるのも難しくなるでしょうし…それに」
僕の視線の先の、螺旋階段の中間にある窓の淵に座った一匹の子ネズミは、そこまで中空を見つめて話していたが、一呼吸おいて此方を見下ろすと、少しだけ恥かしそうな表情で、でもはっきりと、声を発した。
「僕としては…あまり貴方を巻き込みたくないんですから…ね。」



**#2  家族はあったかい [#w0910bab]


「ペアルさんはそうやって何時も何時も自分1人で抱え込んで…1人じゃないんですから、たまには僕に…頼ってくれてもいいんですよ?僕だけ頼りきりだなんて、納得がいきませんよ。」
サックの言葉を聞いて、僕は少し、気持ちが和らいだ。けど、同時に自分が情けなく思えた。彼には悪いけど、僕は彼に助けを求めるような真似はしちゃいけないと決めている。幼さを隠そうと敬語を使っていても、この子はまだ誰かに頼らなくては生きていけない。頼るべき僕が、彼に頼ってしまったら、護ることなんて出来やしないだろうから。それなのにこの子は、あんな経験をした上に昔の幸せだった記憶がある分、僕よりもずっと辛い筈なのに、僕を気遣い、頼らせようとしてる。…頼っていなくても、それを求めさせてしまうような自分に、自分で腹が立った。

この子はサック=ラプチャー。黄色の短い体毛に覆われてる、おっきな耳を持ったそのピチューだよ。さっき僕が逃げるために旅をしてるって言ったよね?それはさっきから話してる通りこの子を護るためなんだ。
サックは、普通のピチューでは考えられないような姿をしてる。前髪のくせ毛が僕の寝癖よりも酷いって事とか、服を着てて上がセーラー服、下が短パンっていう事も凄いけど、そんな事よりももっとずっと凄いんだ。背中はゴルバットみたいな羽。普通のカクッと曲がった短い尻尾が、ヘルガーみたいな先の尖った長い尻尾になってる。この姿は、勿論変異種な訳なんかじゃない。彼は、人間に兵器として改造されたことがあったんだよ。辛うじて逃げ出したから精神まで改造されなくてすんだみたいなんだけど…サックは、帰る処を奪われていたんだ。
サックはゴッド地方のある集落で、家族や仲間と一緒に幸せに暮らしてたらしい。けど、ある日突然人間達が襲撃してきて、人間のいいなりに動くポケモンに…大人達はみんな殺されてしまった。残された子供達は何処かも解らない研究施設に連れて行かれて、実験に使われたり、サックと同じように兵器化される改造をされて、はっきりとは解らないけど、ほとんど死んでしまったらしい。助かったのに、結局彼はどうすることも出来なくなっていたんだよ。あの時、僕がたまたまあの場に居合わせてなかったら、サックは死んでいたんだ。
彼は僕の目的を始めて認めてくれた存在でもあるんだよ。サックに会う前も、いろんな人に出会ったけど、頭がおかしいと思われて、僕の話を真面目に聞いてくれる人なんていなかったから。でも、サックは「今の自分もそうだから」と言って、僕の旅に付き合わせて欲しいって、自分で言ってきたんだ。幼い彼を放っておく訳にはいかなかったからどちらにしても連れて行くつもりだったけど、その時は本当に、嬉しかった。僕にとってサックは、掛け替えの無い存在なんだ。

そうしてサックと一緒に旅を再開したんだけど…すぐに悲劇に追い回されることになった。逃げ出したサックを捕まえに、人間達が襲って来るようになったんだよ。しかも、武器を持ってる。ただ人間が襲って来るだけなら逃げるのも楽だけど、人間の科学力の前では油断は出来ない。ドードー並みの速さを出すことも出来る機械や、遠距離からでも致命傷を与えることが出来る武器もある。その上用心深い人間達は予めサックの耳に発信機を取り付けていて、どんなに逃げたとしても何れ見つかってしまうのだ。壊そうとすれば、サックの耳が無くなる。本当に悪どいやり方だった。発信機を通して脳内に伝わってくる感覚で、サックの方も人間達の居場所を特定できるのが唯一の救いなんだ。
リネスの森には、人間は悪魔だという宗教があって、人間が立ち入れば忽ち教徒達に襲われてしまう。
迂闊には近付けないから、暫く此居座ることにしてるんだ。また何時襲ってくるか分からないけど、少しでも休息は必要だからね。
おっと、またまた長々と話しちゃったね…でも、少しでもいいから、僕達のことを分かってもらいたいから…
「それとも…僕ってそんなに頼りないですか…?確かに僕は子供ですけど、少しでもペアルさんの役に立ちたいって、何時も考えてるんですよ…?」
サックは少し悲しそうに、僕の方を見下ろしていた。サックは幼いながら、結構プライドが高い。この丁寧口調も、自分の幼さを隠すための心の表れで、実際はまだまだ幼さが残っているんだよね。兎に角、僕はサックに甘えることは出来ない、それを伝えないといけない。
「…そんなんじゃないよ。僕は君を護る身なんだから…誰かに頼っているようじゃ、誰かを護る事なんて出来やしないから…」
…そうだよ、僕は誰にも頼ってはいけない。頼ったら…何でかは分からないけれど、どこかにいる誰かが、死んでしまうような妄想に駆られるんだ。だから、絶対に──
「ペアルさんって心配性なんですか?」
「え…?」
顔を俯かせて考え込んでいた僕の耳が、自棄に近い位置からの声を捕らえて、驚いた僕は顔を上げる。そこには、何時の間にかこっちに降りてきていたサックの姿があった。サックの表情はどこか、怒っているように見える。
「僕は一度だって、護って欲しいだなんて言ってません。確かに僕はペアルさんに頼りきりですけど、だからといって、自分の身が護れない訳じゃないですよ。そんなに僕の事見縊らないで欲しいです。」
不機嫌そうな声で言いながら、サックは背伸びをして僕のおでこを小突く。そうして、一回ゆっくりと瞬きをすると、真剣な表情になってまた口を開いた。
「ペアルさんは、僕にこれ以上怖い思いをさせたくないって思ってくれているみたいですけど、僕はそれよりも…もっと普通にペアルさんと過ごしたいです。」
突然の言葉に驚いた僕の顔を見て、サックは少しだけ微笑む。その時ある事に気付いた。よく見るとサックの目は心なしか潤んでる、僕に泣いている姿を見せないように、必死で堪えてるんだ。
僕はサックに言葉を返そうとした、そしたらサックがいきなり手を伸ばしてきて、僕の口元をそっと抑えてきた。サックの目にまた焦点を合わせてみると、サックも僕の目をじっと見つめてた。
「…始めてあった時は楽しく笑って一緒に過ごしましたよね。あんな事の後だったかもしれないですけど、凄く安心したし、何より幸せに感じていたんですよ。人間達に追われるのが怖くなかったと言えば、嘘になりますが…ペアルさんが…新しい家族がいてくれたから。あまり気にならなかったんです。」
僕と過ごしてきた毎日の事を思い出して、嬉しそうに話すサック。けどそこまで話した時、僕の目から視線を逸らすと、寂しそうな表情を俯かせてまた話し始める。
「だけど…人間にしつこく追い回される内に焦ったペアルさんは、僕を心配し過ぎてまともに話してくれなくなった気がするんです。僕はただ…ペアルさんと過ごせればそれでいいのに…ペアルさんと笑っている時、僕は自分が生きているんだって実感してもいるんですよ?ペアルさんと過ごす事が、僕の生きる意義に、少なからずは繋がってると思うんです。」
「サック…」
まさか、サックがそこまで考えてたとは思ってもみなかった。見知らなかった僕と過ごして、まだ精々五年程しか経ってないのに。サックは幼いのに、僕よりもずっとずっと大人だったんだね…
「僕の事は心配しないで下さい。これでも成長しましたし、“これ”の扱いも大分慣れましたから。人間なんかどうって事ないですよ!」
サックは僕の心配を少しでも和らげようと思ってるのか、小さな腕で胸をどんと叩いて見せると、得意げに背中に背負った&ruby(さんさそう){三叉槍};((ポセイドンがもっていたとされる先が三つに分かれた槍。))の持ち手の部分を擦る。確かにサックの一族の中で奉られていたらしいこの神具を操れるようになれば人間達を退けるのは容易くなるだろうけど…危険な事は変わりない。僕は1つ深呼吸すると、改めて自分の考えを伝えた。
「やっぱり僕は心配だよ…サックが追われてるのはホントのことだし、サックは見縊らないで欲しいかもしれないけど、僕は君を助けた以上、君につらい思いはさせたくない。僕が誰かに頼るのは心に弱さがあるから。心の弱い奴に誰かを護る資格なんてないもん…」
「…誰かに頼っちゃいけないだなんてそんな事、絶対にないですよ。兄さんがよく言っていました、人は1人では生きていけないんだって…頼り頼られて、人は成長するものなのでは、無いのですか?」


「え…?」
すぐに返された言葉を理解するのに、僕の頭は自棄に長い時間を使っていた。気付くと、僕の目からは涙の雫がぽろぽろと流れ落ちていて、心に熱い感情がじんじんと湧き上がってきていた。その感情は…喜び。それも、心の底から湧き上がってくるほど、大きな。
僕はどうして泣いてるのか判らなくて、当然泣き出した僕を見てサックも驚いてて。

どうしてだろう?悲しいわけでもないのに、涙が止まらない。止まらないのに、異常なほどに喜びを感じてる。そんな矛盾した感情が恐ろしくなって、僕は身体を震わせて縮こまって、必死で涙を止めようとする。
止まる様子の全く無い涙。僕はとうとう、訳が判らなくなって…



──いきおいのまま、サックに抱きついてしまった。


サックはびっくりしてたけど…短い手を必死に伸ばして、僕の震える背中を優しく抱きしめてくれた。

──あったかい…

そんな感覚が僕の神経を通り越していったとき…僕は漸く気付いた。同時に、僕はなんてわがままなんだろうと、自分を嘲笑ってしまった。

僕は、誰かに頼りたくて堪らなかったんだ。頼っちゃ駄目だと強く思ってたから、ホントは頼りたくて堪らなかったんだ。自分の中に植え付けられた“彼”の行動が恐ろしくて、同じ存在であって影である彼を無意識に否定してしまってるのが、ホントは苦しくて苦しくて堪らなかったのに。
僕の心は素直じゃなかったんだ。自分よりも幼い、自分が護るべきサックに、自分が護られるように助けを求める事はいけないことだと、勝手に思い込んでただけ。
僕はその考えが間違ってるって、誰かに言ってもらいたかったんだと思う。こうして誰かに指摘してもらわなかったら、これから先もずっと変われなかった。自分から求めずに、誰かに求めてた。意地を張っていたのは僕の方だったわけだ。

&ref(サック…小さいn言わないでっ.jpg,,noimg,挿絵1);

「ごめんね…ごめんね…ぼくは…」
僕はサックの背中に抱きついて泣きじゃくった。僕がどれだけサックを傷付けてきたかを考えると、どうしようもなく涙がとまらないんだ。謝ろうと声を漏らしても、涙に邪魔されて上手く伝えられない。それでもサックは。
「大丈夫ですよ。今は…全部流しちゃえばいいんです…」

僕のことを受け止めて、笑ってくれたんだ。


──家族って、こんなに暖かかったんだね──

僕は、ただただ家族の大切さを、思い知らされた。



**#3 変わらぬ部下と三枚部長 [#qfe682a6]


神聖なる森の小さな木造の家の中で抱き合うピチューとエーフィ。その姿を、彼らの現在の住居の外から監視している者達がいた。
1人は犬の様な顔立ちをしている青と黒の体毛を持つルカリオ。ルカリオは家の側に生い茂る草むらに潜み座禅を組みつつ、両掌を向い合わせその間に波動を具現化させた弾を形成している。それはルカリオの&ruby(おはこ){十八番};の波動弾とは違いサイズも小さく、蒼い光で薄暗い茂みの中をぼんやり照らす弾にはうっすらとサックとペアルの抱き合う様子が映し出されていた。これは一部のルカリオにしか出来ない『波動晒し』という技で、感じ取ったものの波動を映し出す事が出来るという、言わば透視能力である。淡い光を放つ玉に映像が浮かぶ光景、まるで水晶玉のようだ。
その水晶玉を覗き込むのは、ルカリオの真上に来ている低木の枝に止まって見下ろす派手な色合いの羽毛に爬虫類の様な皮膚を持つ鳥アーケオスと、ルカリオの横でぐにゃぐにゃと桃色の身体を動かすメタモン。3人はそれぞれ腕、首、頭に青い無地に星形がついたバンダナを巻いている。リーダー格らしいルカリオの巻いたもののみ、星の数が二つだ。

彼らは世界に複数存在すると言われる“&ruby(ポケモン){携帯獣};警察”の一員であり、バンダナはその証なのだ。3人はリネスの森で最近立て続けに発生している殺人事件について捜査中であり、目撃者の証言からイーブイ系統の可能性が高いとの事で、最近住み着いた上に誰とも関わりを持っていないペアルは異様に怪しまれてしまったのである。(実際に犯人ではあるが。)兎に角、彼らは事情聴取に入る前にまず相手の事を少しでも理解しておこうと、ペアルをこうして監視しているのだ。
運の悪い事に、ペアルは先程自分が犯人だと話してしまった為、ルカリオは彼が犯人だと確信し、現在は突入のタイミングを伺っているのだった。

&ref(覗き警察.jpg,,noimg,挿絵2);







…私は様子を伺いつつも何時でも奴らの家に神速で飛び込めるよう精神を集中させる。私の部下達も何時もは私の足を引っ張るばかりだが、流石に現行犯を狙っている時は態度を弁えているようだ。私は少し安心した。
それにしても…巡査達が数週間前から捜査をして手掛かりすら掴めなかったからといって、何故漸く1つの大規模な事件を解決した私が捜査に加えさせられたのか。上は「広いリネスの森を探索するには波動を扱えるお前が適任」などと言っていたがレントラー((レントラーは透視できる眼を持つ))なのだから自分だって行けるだろうに。ようは面倒なだけなのだ。全く、漸く休暇が取れると思っていたのに。

落胆と怒りに揺れながらも監視することは忘れずにしていた時、ふいに部下の1人──メタモンが私に近寄ってきた。その途端に私の中の怒りや落胆の感情は消え、彼に対する期待の感情が心を支配する。
彼とは何度か同じ事件を共に捜査した事があるが、普段は警官らしからぬ発言はするわ、私の足を引っ張るわで心底呆れていた。そんな彼がここまで真剣に事件に取り組んでいる姿は初めて見る訳で、こんな緊迫した状況で私にどんな発言をしてくるか気になっている自分がいるようだ。
波動のコントロールを誤らないようにしながら彼を見る私の視界の先で、どこか不満そうな表情をさながら、ついに彼は口を開いた。
「…リオスさぁん、何時までこな映画見続けんだすかぁ?そろそろあっしらも仕事に戻りましょうよぉ。」



…この言葉を聞いた時、私は始め理解できずにいた。一体彼は何の事を言っているのかと。そして意味を理解した時、コイツに一度でも期待した自分が馬鹿馬鹿しく思えた。思わずガクッと頭が下がる。要するに彼は波動晒しの光景を休憩時間に映画を見ていると勘違いし、長い間同じ映像を見ていた為に飽きたから仕事をしようと言っている訳だ。結局珍しく静かにしていただけで、コイツの仕事振りは相変わらずらしい。この光景を映画だと考えるのは彼ぐらいだろう。
うねうねとだるそうに身体を揺らすピンクの軟体生物。独特な訛りを含んだその口調は、私の感情を逆撫でした。犯人の監視だとは思っていない彼の声量に対しても自然と苛立ちが込み上げる。私は目を閉じると、すぐ側にいるであろう部下の惚けた顔を思い浮かべながら言い放った。とはいえ状況が状況の為声量は抑え気味に。
「…フラックス。これは今回の事件の犯人の監視です。これから隙を突いて突入するんです。解かりますか?と・つ・にゅ・う。捕まえるんですよ。映画だと思う人は貴方くらいですよ、というよりニュースの内容やこのエーフィの発言で気付くでしょう?休憩だと考えていただけでもありえない事だというのに、ここでも話を聞いていないとは…
…兎に角、解かったら声量も落としてください。感付かれて逃げられては元も子も無いでしょう。それから…」
私は目の前のメタモン、フラックスになるべく怒りを抑えて話していたが、ふと目を開き横目で見てみれば、今まさに彼は話を聞いていなかった。そんな部下の態度に耐えられる筈もなく、怒りが爆発した私は波動を瞬時に消し飛ばしフラックスの肩の様な部分を力を込めて掴み、私の顔の目の前に持ち上げた。そして森中に響き渡るような声で、監視中だということも忘れて怒鳴る。
「私の事は巡査部長と呼べと何度も言っているでしょう!貴方は前回の事件の時もそうですが、私の部下としての自覚が全く無い!そもそもそのマイペースな言動や行動で何故採用試験に受かったのか──」
「ぶちょーさん、ぶっちゃけぶちょーさんの方が煩いと思うんだけどー」
思わず本音が漏れそうになった矢先、ねとつくような女の声が私を制した。しかし溜りに溜まった日頃のストレスが爆発した私の怒りがそのような発言で落ち着けるはずもなく、むしろ改めて見たその酷い容姿と口調に更に苛立ちが倍増した。私の怒りの矛先は真上にいる鳥に向く。若さゆえに洒落っ気が異常なほどあるそのアーケオスは、種族柄ただでさえ目立つ容姿をしているにも拘らず爪にはマニキュア、目には付け睫といったいわゆるギャルのような派手さをしていた。おまけに何時の間にやら臭いのキツイ香水までつけたらしく、気付けば酷い臭いが茂みの中を充満していた。
「黙りなさいファウザー!貴方もそうです!その目立つ化粧を止めなさい!こうして隠れていても、貴方の姿を完全に隠すのは無理なのですよ!?それなのに更に目立つようにして、どういうつもり──」
「あ、ぶちょさん!あれ見て下さい!」
心底、心底呆れきってしまった私は感情にまかせて真上、ファウザーに向けて暴言を吐き続ける。ファウザーは喧しそうに長い首を引っ込めていたが構いはしない。そんな中、やはり全く反省の色を見せていないフラックスが突然声を上げ、私に呼びかけてきた。まだ解からないか、とばかりに私は彼の方を振り返ったが、そこであるものが目に付き、私の荒ぶっていた心は瞬時に浄化した。
彼が示す先を、足早に駆けて行く1人のポケモンの背中。その背は淡い黄色で、辛うじて確認できた尻尾はまるで葉の様な形をしていた。
「あれは…ファウザー、貴方はあの者を尾行しなさい。」
「…え?あ、はぁ…で、でもぉ、現行犯はどうs」「早く行きなさい!」
ファウザーは突然冷静になった私の言葉に付いていけないというようにきょとんとしていた。全く、警官たるもの如何なる事態が起ろうとも瞬時に対応しなければならないというのに情けない。怒鳴りつけてやると、ファウザーは素っ頓狂な声で返事をし羽ばたき飛び立ち、先程森の奥へ消えた者の後を慌てて追っていった。
あの後姿は間違いなくリーフィア。確かにあの家のエーフィは自白していたが万が一という事もある。それに…リーフィアという事は上の言っていた“ある組織”と関連があるかもしれない。だとすれば…
私は上から聞かされた言葉を思い出しつつ、横で私の顔色を窺うフラックスに視線を移した。
「貴方への説教と罰は後にします。それより、これからエーフィを捕らえに入ります。気を引き締めて下さい。でなければ罰を増やします。いいですね?」
上が言っていた事が本当ならば、早急に情報を伝えなければならない。その為出来る限り早く星を捕らえなければならない為、やはり話に付いていけないというような表情で硬直した彼のバンダナを掴み、引き摺りながら家の方へ歩き茂みから出ようとした。
「ああ、リオスさん待て下さい!まてください!」
しかし、自棄に激しく抵抗してくるので仕方なくバンダナを離してやると、フラックスは焦った様子で口を開いた。
「へぇ、へぇ…あげな怒鳴り上げた後に突入なんて出来っこねぇじゃねぇですか!ぜってぇ感付かれでますって!」
「…」
…私は大きく、溜息を吐き出すと、黙ってフラックスの両肩に腕を乗せる。そして──

「誰のせいでこうなったと思ってるッ!私がその事に何も考えず無闇に突っ込んでいくようなド素人だと思ってるのか!!このばか者がぁぁ!!」

──私に大きく身体を揺すられ情けない悲鳴を上げる彼は、やはり昔と全く変わってなどいなかった。彼を揺する私の中には多大なる怒りと。
コイツと2人で本当に犯人を捕らえられるかという、不安だけであった。



**#4 深緑の薫り [#i19ba735]

「あー、もうっ!何でアタシだけハブられなきゃなんないのよぉー!」
アタシは説教ばっかりで面倒事は部下に押し付ける自己中上司に対しての愚痴を溢しながら森の中を飛ぶ。先の道が見えないくらいたくさん生えてる木を避けるのは、飛ぶのが苦手なアタシにしたら難しくって、上司への不満もあったからかだんだんイライラしてきた。その上追うように言われたリーフィアはたぶん前にいるだろうケド、こんな草だらけのところじゃどこにいるかもわからないっつーのッ!
イライラを露にしながら何度も羽ばたいて緑の中を突っ切る。そこまで朝早くってワケじゃないのに、ヤケに静かで気味悪い。アタシの羽ばたく音くらいしか聴こえないから、風で葉っぱが擦れたりする他の音に余計に反応しちゃう。なんか緊張する。

丁度その時。耳に意識がいってて忘れてた鼻に、爽やかな植物の匂いが入り込んできた。鼻はあのアホ上司みたいな犬と比べたらよくない。でも、さっきからしてるのとは明らかに違うくらいは分かる。たぶんリーフィアのなんだよねぇ…さっきから緊張してるせいか嫌な予感がするぅ。
「どっかに止まったのぉ…?」
アタシはちょっと速度を落として上昇、木の葉っぱの天井すれすれをゆっくり飛ぶ。視界に入る限り周りを見渡して、とりあえず様子確認。そしたら、少し先の木の合間に何かがキラキラ光ってるのが見えた。…って、思ったらいきなり視界が明るくなって木の無いひらけた場所に思いっきり飛び出してた。
超即Uターンで一番近くに生えてた木に隠れる。ビビって高ぶった気持ちを抑えてからそーっと覗いてみたら、結構な広さがある湖が見えた。さっき光ってたのはこの湖の水だったのね。
(なによコレぇ、こんなの聞いてないしっ!)
森についてのコトはケモノ臭い上司から聞いてるケド、湖があるなんて話は聞いてなかった。匂いに忘れてたイライラがまた沸き上がってくる。けど、あることに気付いて、イライラの感情は薄れる。
「リーフィアどこよ…?」
匂いはしてるしこんなに見晴らしいいのに、緑のブイはどこにも見当たらない。嫌な予感はする。でも何で姿が見えないかの方が気になって、アタシはおそるおそーる木から飛び降りた。
湖は自然には関心の無いアタシでさえ見とれちゃうほどキレイだった。湖の形に合わせたように辺りを取り囲んでる木々の碧と、底まで見渡せる程澄んだ水の蒼のコントラストがヤバイ。緑の天井がないから水面には直に光が射してて、弱い波が立ってるのがよく見える。気持ちが安らぐっていうか、なんだか和む。今はそれどころじゃないんだけど。
アタはほわほわした気持ちを追い払うように首をぶるぶる横に振るってから、改めて周りを見た。…やっぱり湖以外は何も見当たらないし、リーフィアらしいのはいない。けど…さっきから強くなり続けてる、この何ていうかツンとした匂い、スゴく気になるのよね…アタシは匂いが気になって、尾行してるのも忘れて湖の周りを歩いたり、飛び上がって湖の辺りを見渡したりしちゃった。心のどっかじゃ目立ちすぎとは思ってたんだけど、いつの間にかアタシの中には、匂いの正体を突き止めることのでいっぱいになってた。






──あれ?アタシ何してたんだっけ。

気が付いたら匂いを辿って、湖の中まで調べてた。けど、何で匂いを追ってるか、何処でこの匂いを嗅ぎ付けたのか、アタシが何をするつもりだったかが思い出せなくなってた。
(アタシは携帯獣警察の巡査のファウザー。アーケオスの女。犬上司と軟体な同期の奴がいる。自分のことは覚えてるケド…)
アタシは翼を使って水をかいて水中を泳ぎながら頭を捻って考える。けっきょく思い出せなかったケド。

そうやってなんやかんや水中を彷徨ってた。水の中でも分かる強い匂い。ずっと嗅いでる内にアタシはちょっとずつ不安になってきた。最初っからこんなにキレイなのに人1人見当たらない事自体気味悪かったしね。
「このままじゃラチあかないしぃー…とりあえず上がろぉ…」
アタシは1人呟くと、水を叩くみたいに羽ばたいて水面に上昇する。底に生えてる花みたいな海藻が、水に押されて揺れてるのが下に見えた。
首だけ水から出してみる。森の様子は覚えてる限り特に変わってなくて、アタシも特に何も思い出せなかった。溜め息を吐いて水から上がる。緑の新芽が多いふかふかする地面に足を着けて、身体についた水を振り払う。羽根は水を弾くんだけど、脚とかを包んでるのは羽根じゃないからびちゃびちゃ。やんなっちゃうわねぇ。そんなカンジで、何をしてたかも忘れてたアタシは完ッ全に警戒心を解いてた。

頭に強い力を感じて、アタシはその場にへたりこむ。
気を失う前、咄嗟に振り返って見たのは、赤と黄色のもふ毛に包まれたポケモンだった…







ファウザーがいる湖から少し離れた小川。岩に取り囲まれた川の流れは穏やかで、時折ポケモンが水面に顔を出している。そんな静かな自然の中で岩に座る1人のリーフィアは、ファウザーが気を失うと共に身体から漂わせていた芳香を消す。植物の力を使って草花から彼女の様子を窺っていたのか、眩い光に暫く開いていなかったらしい目を細めていた。ふぅ、と息を吐くと岩の上に立ち上がり伸びをする。若葉色の葉に似た尻尾はきもちよさからか自然に左右に揺れていた。
伸びをしおえたリーフィアは再び腰を下ろすと川に目を落とす。光を反射する水面は湖とはまた違った輝きを放っていた。辺りに生える紅葉した紅葉や銀杏の葉の鮮やかな色も混じって、より一層美しい。

しかしリーフィアは、自然の美しさに感嘆する様子は無く、風に揺られてそよぐ、岩肌から根を出し深紅の花を咲かせている彼岸花を、酷く悲しげな瞳で見つめていた。
「…また思い出してるの?姐さん」
そんな彼女の後ろに夕陽の様な色合いの暖かそうな体毛に包まれたポケモンが、そっと現れる。彼が現れただけで太陽が少し近付いたかのように周囲が暖かくなった。リーフィアは声の方へ耳を傾け、顔は動かさずただじっと&ruby(まんじゅしゃげ){曼珠沙華};((彼岸花の別名))を見詰めている。自分に構ってくれなかったのが気に食わなかったのか、そのブースターはリーフィアに歩み寄り、緑の葉が芽を出している彼女の肩を片前肢で叩いた。
陽射しの暖かさに加えて、体温の温かさを感じる。リーフィアは視線を足元に落とした。
「…私だって、思い出したくはない。けどね、あの花を見ると…どうしてもあの人の顔が思い浮かんでしまうのよ。あの花は…」

一陣の風にあおられ、色付いた赤や黄の葉が宙に舞う。ゆっくりと顔を上げたリーフィアは、それを見詰めて、悲しげに呟いた。
「私とあの人の…思い出の花だから…」



**#5 強行突破! [#z2218500]

「サック、聞いた?」
「あんな大きな声、聞こえない方がおかしいですよ。」
外から大きな声がして、朝食の準備をしてた僕とサックは手を止めた。聞き覚えがないし、サックは何も言わないからたぶん追っ手じゃ無いんだろうけど…
え?さっきの続きはどうしたって?べ、別に何もないよ!?何を期待してるのさ!?大体サックはまだ子供だし、記憶がないからってショタコンに目覚めるわけじゃあ…
「? どうかしたんですか、ペアルさん?顔赤いですよ?」
「ふぇ!?い、いやぁー何でもない何でもない!」
そっ、そーだよ!今はそれどころじゃないよ。声の正体を突き止めるのが先!というかサックはその純粋な瞳で僕を見つめるのやめなさいっ!!
けど…実は僕、何となく正体分かったんだよね…『巡査部長』だの『事件』だの、『採用試験』だの言ってたから、大分予測はつくよね?サックに目を向けてみると、サックも分かってるみたいで、僕の目を見て頷いて見せた。ただ、1つ問題がある。
「どうします?声は1人のものでしたけど、喋っていた内容だけでも恐らく3人はいます。逃げるにしても待ち伏せされたりしたら意味がないですし…」
「そうなんだよね…せめて正確な人数でも分かればいいんだけど…」
僕達が予測した相手、それは警察のこと。『事件』に関連してる輩なんて、警察くらいしか思い当たらないし、今の僕の所に来るのは追っ手の人間達か警察だけだと思う。リネスの森に居るからといって、人間達に少しでも情報がいかないように、僕は殆ど他の人とは交流を持ってないから。サックも此処の屋根裏部屋に住み着いてるみたいだしね。なんでか僕に隠してるっぽいけど。
警察だとしたら逃げなきゃいけないけど、サックの言う通り迂闊に外には出られない。かといって攻め込まれる前に何とか策を考えないと…

けど、運の悪いことに相手組はもう動き出してたみたい。
「「!」」
部屋中に鳴り響く独特な電子音。中にいる人に対しての呼び掛けの音は、僕達を焦らせる。この状況で呼び鈴を鳴らすのはさっきの声の主と、その仲間2人(2人だと前提して)だとしか思えない。リビングから玄関の方を覗いてみても、扉の向こうからは嫌な予感しか感じられない。
「…まだ警察と決まった訳ではないですし…取り敢えず覗き穴から見てみませんか?」
「そ、そうだね…」
取り合えず僕達は玄関にいる相手に気付かれないように、抜き足差し足で玄関扉の前に行く。外からは何の物音もしない。一応僕もエーフィだから、一枚の壁越しの相手の息遣いとか動いて毛が擦れるのとか解らなくもない。なのに全くそれが感じられなかったから、余計に恐ろしさが倍増した。
ごくり、と息を飲む。耳の裏から聞こえるその音さえ、相手に筒抜けなんじゃないかって思い込んじゃうほど其所は静かだった。けどこんな所で何時までもくよくよしてる訳にはいかない。ひょっとしたら扉を蹴破って入ってくるかもしれない(相手が警察だというぜn(ry)。取り合えず、相手の正体くらいは確かめないと。
じゃあ僕が覗くよ、と尻尾で覗き穴を指し示してサックに伝えると、僕は扉に前肢をそっとかけて後ろ足で体重を支える。安定した所で、僕は覗き穴に顔を近付けて、反対側を覗いた。…反対側にいたのは、腕に青いバンダナを巻いたルカリオ。うわっやっぱり警察だ。そう思って僕が顔を顰めた時だった。気が付くと、ルカリオが僕の目をじっと見詰めているのに気がついた。や、やだなぁ。そんなに見られたって困るよ…?
…え?ちょっと待った。覗き穴は外側からこっちの様子は見えない筈。何で目があってるの?ってよく見たら、ルカリオの頭の後ろの4つの房がぶるぶる震えてる。そういえばルカリオって…っと思い出そうとしたのとほぼ同時に、ルカリオが片手の掌をこっちに向けて、後ろに腕を引いた。まずいっ、と思った僕は咄嗟に扉に掛けていた前肢で扉を軽く蹴って左後ろ足を軸にターン、そして仕上げにその軸足で床を蹴ってそのままサックにダイビング。
サックは驚いて声を上げてたけど、その声は後ろからの轟音にかき消された。反射的に閉じてた目を薄く開いてみると、床には壊れた扉だったと思われる木屑が散らばってた。全く酷いなぁ。幾ら波動で僕達が見えたからって、挨拶が乱暴すぎるよ。って、そんな暢気な事考えてる場合じゃなかった。僕はいきなり飛び掛かられて状況が今一解ってないサックの耳元に顔を近付けると、小声で声を掛ける。
「やっぱり警察だった、アイツは僕が引き付けるからその隙に裏口から逃げてて」
それを聞いたサックはえっ!?とした顔をしたけど、相手の力が判らない以上何時までも隙を見せてる訳にはいかない。僕は立ち上がるとサックの身体に尻尾を巻き付け持ち上げて、リビングの方にアイアンテールの要領で投げ飛ばした。それからすぐにまた左の後ろ足を軸にしてターンすると、素早く玄関先から入ってくる陽射しの力をおでこの珠に集めて一気に解き放った。目の前が真っ白な光に包まれる。ただの目眩ましだけど今はいい時間稼ぎになるからね。
でも、油断しないのが僕の性分。光を放ち終えると同時に、念力で足元に散らばった木屑を浮かせて腕で顔を庇ってるルカリオに飛ばす。あの不意打ちを防いでるあたり、やっぱり油断は出来ない相手だ。
次の動きを見てもそう思った。波動で腕越しに木屑を確認したのか、膝を曲げて床を蹴りバックステップで一度距離を取る。それだけじゃなく、自分に迫ってくる木屑をきっ、と睨むと両腕に拳を作って腰を落とし、構える。木屑が攻撃の射程範囲に入った瞬間、目にも止まらぬ速さで拳と蹴りを連続で繰り出し木屑を瞬く間に粉砕していった。

やっぱり一筋縄ではいかないね…僕は玄関だった場所から外に出ると姿勢を低くして身構える。出来たら僕も軽くやり過ごして逃げたい処だけど相手は中々のやり手らしい。波動を見れるから隠れていなくなるのを待つのもムダだし、遠くに逃げないとすぐに見付かっちゃう。簡単には逃げられない。今は兎に角、サックだけでも逃がしてあげることが先決だ。僕は自分にそう言い聞かせると、一息つきながら構えを直しているルカリオに視線を向けた。
あれ?よく見るとルカリオの眼は充血してて、元々瞳が赤いこともあってもう真っ赤になってる。しかも目のしたには隈まで出来てて、何だか疲れきってるようにも見えた。敵にこんな事思うのはおかしいけど…何だか不憫そうだなぁ。きっと仕事でも押し付けられたんだなぁ。とか考えてたら、無意識に目を閉じてうん、うんと頷いてたみたい。それを見てたルカリオは僕が何を考えてるのか大体分かったみたいで、眉間に皺を寄せて睨んできた。やばっ、怒らせちゃったかな?僕が苦笑をしてると、ルカリオは乱暴に捲し立てた。
「先程の話は全て聞いていますッ、詳しい話は署でじっくりとお願いしますよ!抵抗するのなら動きを封じるまで!逃がしはしませんよっ!!それから貴方に同情される筋合いは無いッ!」
あぁ…一個一個言ってほしいなぁ。一気に言われるのキライなんだよねぇ。あんまり喧しいと耳伏せちゃうぞ。僕は耳をぺたんと伏せて聞く耳を持たないのをアピールする。僕がちょっと同情したのを見ただけで怒るような相手だ、今度もつっこんでくれる筈。こーして闘うまでの時間を稼いでおけば、突破口が見付かるかもしれない。そう思って、出来る限り平静を装ってルカリオがつっこんでくるのを待った。けど──
「聞く気がないのなら力ずくでいかせてもらいますよぉ!」
考えが甘かったぁ!疲れてる分さっさと仕事を終わらせたかったみたい。平和的に僕を捕まえるのは無理だと判断したのか、ルカリオは別の意味で僕に突っ込んできた。もうこうなったら仕方ない。出来る限り食い止めて、運が良かったら逃げる。これが先決だ。そう自分に言い聞かせると、向かってくるルカリオに対して僕も真っ直ぐ駆け出した。








ペアルが立ち向かっていく数分前…

「痛たた…全く、もう少し優しく投げてほしいものですね…」
何が何だか解らない内に投げ飛ばされて、テーブルに頭をぶつけた僕は頭を擦りながら身体を起こす。取り合えず一度状況を整理してみないと、正確に動けない。僕はペアルさんにさっき言われた言葉を、もう一度思い出してみる。“警察だった、裏口から逃げて”。成程、扉を破壊したのは警察で、ペアルさんは僕を逃がす為に時間を稼いでるってわけですか。 しかし、ペアルさんを置いて逃げるだなんて絶対に出来ない。かといって僕がいけば足手まといになるだけだ。一体どうすれば…
その時だった。突然鍵が開く音、続けて窓を開ける音が聴こえて、僕は咄嗟にテーブルの下に隠れる。今の僕から見て右側にソファがあり、その奥に大きな窓が付いていた筈だ。庭がある訳ではないけれど、中からは外へ、外からは中へ出入り出来る大きさは十分にあった。恐らくはさっき襲ってきた警官の仲間だろう。僕は気付かれないようにそっとテーブルの下から顔を覗かせ、ソファの陰に隠れている相手を確認した。…はっきりとは解りませんが、黄色っぽい体毛と所々に生える葉が見えたので、恐らくリーフィアでしょうね。リーフィアはソファに寄り掛かって座っていて、ふいに大きな溜め息を吐いたかと思うと1人呟いた。
「ふぃ~、取り合えず進入はかんりょだすな…」
な、何だかくさい方言だすな。あ、ですね。姿がリーフィアの分、口調のギャップが強すぎて思わず吹き出す処でした。よく見ると、片方の前肢に生えている葉が鋭く伸びている。あれを使って外から鍵を開けたようですね。敵地で暢気に座り込んだり、もったりとした口調で1人ごちたりと雰囲気は何だかぱっとしないですが、進入して来たからには十分気を付けなければ。僕は一旦気を引きしめ直した。
リーフィアは頭に青いバンダナを巻いている。青いバンダナは警察だから気を付けて、と前にペアルさんが言っていた気がする。やはり、さっき襲ってきた警官の仲間という可能性が高そうだ。だとすれば余計に見付からないようにしないと。僕は一旦テーブルに身を隠すと、どうするかを考える。相手はリーフィアだから飛べる分僕の方が恐らく機動性では有利、このままテーブルの下から這い出て、直線上にある階段端の窓まで飛べば逃げられるかもしれない。けれど、相手の力量が解らない内は迂闊に動くと危ない、そうペアルさんから教わってきたし、実際前に何度も危険な目に遭ってきた。僕の存在に気付いていないようで本当は気付いていたとしたら、飛び出した時点で危ない。一度相手の動きを見ないとどうにもなりませんね…
僕は別ルートでの逃走も色々とシュミレーションしてみたけれど、結局まず相手に関する情報を少しでも手に入れなければ安全とは言い難い。そう頭の中で纏めると、僕は再度テーブルから顔を出して、相手の様子を窺う事にした。
リーフィアは相変わらずその場に座り込んだまま。特に何の動きも見せない。勝手に人の家に侵入して寛いで、あのリーフィアは一体何が目的なのでしょうか…。と、また疑問が浮かび上がってきた処で漸くリーフィアが動いた。腰を上げたリーフィアは斜めにずれたバンダナを尻尾で直すと、突然此方を向いて家中を見回し始めた。幸い動きがゆっくりとしていた為、何とかテーブルの下に身を隠す事が出来ましたが…先の動きの読めない人ですね…。

「さぁて…リオスさんが本丸を捕まえてる間に、あっしはあのコスプレ鼠を見付けねぇと。」
誰がコスプレだ!僕だって好きで着てる訳じゃ無い!色々理由が…っと、今はそんな事を言っている場合ではないですね。つい激情を口に出してしまいそうになり、慌てて口を抑える。そのまま高まってしまった感情が鎮まるまでじっと耐えた。ここで冷静さを欠いては終わりですからね…。僕は取り敢えず一旦テーブルの奥へ潜り込み、此方側に来られてもすぐにはリーフィアの視界に入らないようにする。そして物音を立てないようにして這い出ると、ソファの上に飛び乗り上からそっとリーフィアを覗き見た。
リーフィアは首を捻ったり伸びをしたりと何やら準備運動のような事をしている。まずいですね…このままでは家の中を回られて、見付かるのも時間の問題になってしまう。何とか策を見付けないと…。焦りそうになる気持ちを落ち着けながら、僕は目を閉じ必死に考えを巡らせる。けれど、中々いい考えは見つからなかった。流石に少し不安が芽生えてしまう。

「しっかしぃ、中々広いどすなぁ。どぅせならあのエーフィに変身した方が探しやすいかもだすな。」
丁度その時、ふとリーフィアが呟いた。その言葉に、僕はハッとして閉じていた目を開く。すると視界にタイミング良く、窓の外で闘っている2人のポケモンの姿が映り込んできた。一方が追撃性のある星形弾をとばせば、一方はその場で独楽の様に回転し尻尾を振るい、連続で真空波を放ち相殺させる。1人はお馴染みのペアルさんで、もう1人はバンダナを巻いたルカリオ。言っていた通り相手は警察らしい。相手のルカリオは僕から見ても強者なのが判った。心なしかペアルさんも苦戦しているように見える。
リーフィアもその騒ぎに気付いたのか、外の方に向き直っていた。前肢を振り上げルカリオを応援しているところをみると、2人は仲間であり上下関係があるのが見てとれた。僕も追い詰められているペアルさんを応援して、何とか助けたかったけれど、動けばかえって迷惑になるのは明白。ここは大人しくしていなければならない。それでも、何か出来ないかと考えてしまう自分がいた。
そんな僕を余所に、すっかり観客に成り代わっていたリーフィアはその高揚したままの状態で「よっし」と掛け声を1つすると、身体を縮こませるようにしゃがむ。すると驚いた事に、身体の表面が蠢動し始め、少しずつ形を変え始めた。淡い黄色も、だんだんと桃色に変わっていく。
その光景を目の当たりにして、僕は先程抱いた僅な考えに確信を持った。発言からしてもあのリーフィアが変身を使えるのは明白。しかし変身を覚える事が出来るのは全てのポケモンの中で二種だけだと、前にペアルさんが教えてくれた。突然変異種とも思ったけれど、確信が持てるよう何もせずにいたのだ。結果は見ての通り、突然変異などではなかった。それならば──

僕は素早くソファの背凭れの上で立ち上がると、そのまま踏み出すようにして後ろに飛び降りる。相手の正体がメタモンと判れば此方にも勝算はある筈。変身しきる前に攻撃をくわえれば僕の技でも少なからずダメージを与えられる筈だ。僕はそう信じて、少しずつエーフィの身体を形造り始めた“それ”の背を睨み付けながら右手で拳を作った。それと同時に、体内の電気を右腕に集中させ凝縮すると、体外に放出して眩い閃光と弾ける音を辺りに飛び散らせた。


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そこで漸く僕の存在に気が付いたようだ。メタモン…上半身は既にエーフィに成り変わっていたが、また不完全な状態のまま振り返ったそれは僕の姿を捉えると驚愕の表情をした。そんな顔をされると何だか申し訳ないけれど、容赦する気は無い。僕は翼を開いて落下速度を落とすと、右側に身体を捻りながら腕を後ろに引く。そして、十分に力を込めると、全身を左側に向けるようにしながら右腕を突き出した。突き出すと同時に電気が綺麗な放物線を描き…そのまま拳は狙い通り、偽者のペアルさんの左頬を捉えた。
視界を眩い光が覆う。結構な電気を右腕に送り込んでいたから、衝突した拍子に弾ける電光はそれなりになったという訳ですね。それでも、何とか目を凝らして見ると、メタモンの姿に戻りつつある1人の不格好なエーフィが、窓を突き破り飛んでいくのが僅かに見えた…








全くキリがないったらありゃしない!ルカリオの攻撃は結構特徴的なものが目立つから空気の流れを読みやすくて、思ってたより避けるのは苦じゃなかった。けど、幾ら攻撃してもお互い消し合っちゃうんじゃ、何時まで経っても決着が着かないよ…。おまけに逃げようとしても必ず回り込んでくるし…そろそろ僕も、体力的に限界だよ。息を切らしながら、僕はうんざりしていた。
けどうんざりしてても気は抜かない。迫ってくる骨の武器を硬化させた尻尾で受け止めると、チャージの少ない小さなシャドーボールをルカリオの顔面に向けて撃つ。でもすぐに顔の前に手を翳してメタルクローで防いでくるから、目眩まし程度しか意味を成さないんだよねぇ。とか何とか考えてたら、知らない間にちょっとだけ気を抜いてたらしい。

「わっ」
不意をつかれて、脚をとられた僕は体勢を崩してしまった。伏せるような体勢の僕に、ルカリオは問答無用とばかりに骨を振り上げる。もうだめだ、そう思った時だった。横から何かが割れるような音がして、いきなり視界の隅から勢い良く何かが飛んできて。それは、両手で骨を掴み無防備になっていたルカリオの顔にびたっと張り付いた。おまけに“それ”は電流を纏っていて、張り付いた拍子にルカリオの顔面にも電気が走る。流石のルカリオもこれには驚きを隠せなかったみたいで、変な声を上げながら顔に張り付いた“もの”を必死になってひっぺがそうとした。
これ幸い。僕は一瞬何が起こったのか解らなかったけど、こんなチャンスを逃がすわけにはいかない。直ぐ様身体を起こすと脚に力を込め、勢い良く前方に駆け出す。おでこの珠から念力を出して頭に覆わせると、これまた無防備状態の胴体に向けて渾身の頭突きをかました。ルカリオはぐぅっ、と小さな呻き声を上げると、視界が遮られていた事もあり受け身を取れず背中から倒れ込んだ。

「ペアルさんッ!」
僕がやっと一息をついたところで、聞き覚えのある声が。見ると、割れた窓の向こう、家の中に、右腕をバチバチいわせてるサックの姿があった。なーるほど、雷パンチで侵入者を撃退した訳だね。にしてもさっきのメタモン、身体の表面焦げてたけど…ちょっとやり過ぎな気が…まぁでも助かったのは事実だし、相手は警察だから許すか。僕の名前を呼んだサックは、割れた窓から外に飛び出して此方に低空飛行で向かってくる。うんうん、サックも状況判断が上手く出来るようになったよ。僕は感心しながら、この大きなチャンスを見逃すまいと、此方に向かってくるサックに背を向けて自分も今の全力の力で走り出した。
振り返った時に視界に入ったルカリオは、まだ顔にメタモンが張り付いたままだった、それでも頭突きが当たったお腹を抑えて、何とか身体を起こしてた。流石精神力のある格闘ポケモンだなぁ。けど、メタモンがぶつかった時に流れた電気で麻痺しちゃったみたい。精神力が強いといえやっぱり神経の痺れには敵わないみたいで、動かそうとしてる手足はぶるぶる震えて、動き自体もすっかり鈍ってた。気の毒だけど僕達にとっては好都合。僕はその脇を駆け抜け、森の奥に続く一本道に一直線。後ろからもごもご何か聞こえたけど、僕は無視して疲れで痛む脚を必死に動かした。途中で追い付いてきたサックは、僕の横に移動して速度を合わせ、並ぶように飛ぶ。すかさず僕はサックに声を掛けた。

「ペアルさn「サックは僕に乗って!あいつらから逃げる為には出来るだけ目立たないように行かなきゃっ!」
丁度サックが話し掛けてきたから、言葉を遮っちゃったけど、今は兎に角逃げる事に専念しなきゃ。サックは一瞬驚いた顔をした気がしたけど、言われた通りに僕の上に飛んでくると、背中に跨がった。すると首に填められた“僕の家系の象徴”であるリングが軽く後ろに引っ張られる。落ちないようにしっかり端を掴んだみたい。よしっ、これで大丈夫だ。
「行くよっ、サック!」
「はいっ!」
僕はサックの声を聞くと、更にスピードを上げて、広大な森の中へと脚を踏み入れていった…

あぁ…唐突な旅再開も波乱始まりかぁ…何か、先が思いやられるなぁ。でも──どんな事があっても、僕の目的は変わらない。どれだけの月日が経とうと、どれだけ危険な目に遭おうと。

僕はただ、生への“イミ”を求めて駆けるだけ──



Chapter1end.
[[-存在意義- Chapter2 表の陰と裏の陽]]に続く

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ペアル「いやぁ、さっきは助かったよサック!ありがとね。それにしても凄いなぁ、あんな上手く敵を倒すなんて。僕でも難しいよ。」
サック「え!?あ…ま、まぁ僕の手に掛かればあの程度の事はどうって事ありませんからねっ!(本当はたまたまなんですけど…)」

※三叉槍というのは海神の神具ですが、これは雷神様が海神様と闘って撃ち取った物、という設定です。

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