前話は[[こちら>FREEBIRD 01]] TAOの作品置き場は[[こちら>TAOの作品置き場]] 諸注意等は一話目にありますのでそちらをご覧下さい。 ---- 「にっひっひ……それー!」 「ん? ぷわっ! 冷たっ!」 ドラグニールが見つけてくれたのは普通に川だったよ。水も綺麗だったし、着てた服を洗って干してるところ。 ドラグニールの装甲にのっけてるだけだけど、天気も良いし気温もあったかいから一時間もすれば乾く算段。 で、今は俺達自身を洗濯中って訳さ。悪戯でディルに水掛けられてるけど。 「やったなー? お返し……だ!」 「ひゃー♪ 冷たいって兄貴ー♪」 こうやって遊んであげるのも久々かな。遺跡の中じゃこんな風に遊んでられないし、移動中もドラグニールの中だから話しか出来ないしね。 たまにはこうやって普通に遊ぶのも良いもんだ。疲れもとれるし。 「ふぅ……さて、そろそろ服も乾いただろうし、上がろうか」 「うん! あー楽しかったー」 ディルも満足したみたいだし疲れも取れて汚れも落ちた。良い事尽くめだね。 服の方も……お、良い感じに乾いてる。日光でドラグニールの装甲も温まってたから流石に早いよ。 体の水気を切って服を着て、っと……着る時にちょっとこの長い耳が邪魔になるんだよねー。これのお陰でゴーグルも外せないし。ま、慣れたから特に問題は無いんだけどね。……付けたまま進化したのは失敗だと思ったけど。 「準備良し。ディルー準備出来たー? ……あれ? 居ない?」 「兄貴遅いよ。早く乗りなよー」 ありゃ、もう中に入ってたのか。まぁ、ディルは穿くだけで終わりだし、俺より早くて当然か。 ハッチからするっと中に入る。ディルはドラグニールと話ししてるみたいだな。 「お待たせー」 「あっ、兄貴。ドラグニールが見つけてくれた町みたいのってこの川の上流だって。結構離れてるみたいだよ?」 「えっ、そうなの? 夕飯ぐらいまでには着きたいんだけどなぁ」 「それならば問題ありません。私の推力で移動すれば約二時間。現時刻が13時27分ですので、16時までには到着する計算です」 「それなら大丈夫だね。よし、行こうか」 「はーい」 「了解しました」 アクセルレバーを倒して……ドラグニールが動き出す。操縦桿はもちろん操縦席の俺が握ってるよ。 キャタピラが地面を掴みながら前進していく。これが結構揺れるんだよね。これだけの重量の物がなかなかの速度で走ってるから仕方ないけどさ。 因みに外部の様子はドラグニールの外部カメラでモニターに映し出されてます。じゃないと操縦なんて出来ません。 それにしても機械って凄い。じっとしてても周囲360度ぜーんぶが見えるんだから。多少操作は要るけど、俺達の場合はドラグニールに何処を映してほしいか言うだけだから楽チン楽チン。 「兄貴見てー。川が日の光反射してキラキラしてるよ。綺麗だよねー」 「ディルは暢気だねぇ。俺は運転してるんだから余所見出来ないの。突然前に何か出てくるかもしれないんだからさ」 「それならば心配ご無用です。周囲に動体センサーは働かせておりますので何かあればすぐにお伝えいたします」 「いつも悪いね。さっきも広域検索してもらったのに」 「システムである私に疲れは存在しません。何時でもなんなりとお申し付けください」 「ドラグニールは頑張り屋さんだね。いつもありがと!」 「い、いえ、お役に立てるのならば光栄です」 「ははは……」 ドラグニールってやっぱりちゃんとした意思があるよね。だって、何も考えたり感じない機械が声を詰まらせたりなんてしないだろうしさ。 俺達の旅はいつもこんな感じ。三人で楽しくやってるのさ。辛いなんて思ったことは……食事や金銭面以外では無いね。こっちはドラグニールでもどうしようも無いし。 この分だと、こんな感じで話してたら二時間くらいあっという間だね。景色を楽しみながら行くとしようか。 ……あっという間って言ったけど、これドラグニール無しじゃ町があるかもわからないし、ホント、ドラグニールさまさまだね……。 ---- 川のふちを大分さかのぼって来たよ。ドラグニールのセンサーは本当に偉大な発明だよー。 「兄貴町だよ! うわー、川が真ん中に流れてる町なんておいら始めた見た!」 「俺もだよ。それにあの外壁。護りも堅そうな町だな」 「リバーサイドタウンですね。大多数の動体反応があります。確実に機能している町である事は確かです」 「りばーさいど? なぁにそれ?」 「川沿いと言う意味です。川からの恩恵を受ける為にはもっとも適した形式の町と言うことです」 「へぇ~、ドラグニール物知り~」 「これは学習したのではなくプログラムされた情報の一部なので、物知りと言うのが正しいのかは判断しかねますが……お褒めにあずかり光栄です」 固いよドラグニール……もっと素直にありがとうって言えばいいのに。まぁ、本人の自由意志だから何も言わないけどさ。 「よし、町も近くなってきたしそろそろ降りて歩こうか。隣が森だからドラグニール隠す場所には困らないだろうし」 「了解しました、マイスター」 「ごめんねドラグニール……いつも留守番させて」 「私は機能停止状態にあるので問題ありません。……気遣って頂きありがとうございます、ディル様」 「町で何か使えそうなパーツとかあったら買ってくるよ。行くよ、ディル」 「うん。じゃ、行ってくるねドラグニール」 「お二人の無事を願っております。行ってらっしゃいませ」 嬉しい事を言ってくれるね。申し訳ない気持ちはあるけど、ホールからガンを取り外させてもらった。 モニターの画面も消えたし……よし、これでドラグニールは俺以外の奴には動かせない状態になった。幾ら力自慢のポケモンでもこれは動かせないだろうからね。 「あーあ。ドラグニールも連れて行ければ良いのにね」 「無茶は言いっこなし。ドラグニールは特殊な遺産なんだ。他のフリーバードに見つかったら大変だし、それに大き過ぎるしね」 「だよねぇ」 意思を持って喋る機械なんて他では聞いた事も無いしね。研究の為、とかで持ってかれたりしたらたまったもんじゃないよ。 まぁ……俺が動かさない限り持ってかれることはまず無いけど。でも、装甲引っぺがす事ぐらい出来るか。それもやだな。 「さて、と。クリスタルは持ってかないとね。あれ? ディルどっかにやった?」 「へっへーん。もうこの袋の中に入れたよ! はいっ!」 俺がいつも使ってる袋……ディル何時の間に……渡されたから一応確認。あぁ、入ってる入ってる。 じゃ、紐の所を持って肩に掛けて……クリスタルのシルエットが目立たないかな? さっさと換金しちゃうしいいか。 「うん、準備良し。ハッチの鍵も閉めちゃうからディル先に出てね」 「は~い」 ハッチ上部にあるトリガーホールを操作。軽く引いてみて……よし、閉まってる。 「お待たせ」 「うん! じゃあ行こうよ兄貴!」 「あぁ分かってるって。走ったら転ぶぞー」 川のせせらぎを聞きながらゆっくりと歩く。もう町はすぐそこなんだ。焦る事はない。 上手く『ギルド』があると良いんだけどな。そうじゃなかったら少し面倒になるか……まぁ、なんとかなるでしょ。 ---- 「あ、兄貴……なんか……変じゃない?」 「う~ん、初めて来た町だからなんとも言えないけど……これは変、だよなやっぱり」 とりあえず一つしかなかった門から中に入ったのは良いんだけど……道にポケモンが居ない。まだ日は高いし、妙な光景だなぁ? 結構大きい町だし、家の煙突から煙は出てるから住民は居るみたい。どうなってるんだろう……? とりあえずギルドを探さないとな。 あ、ギルドって言うのは遺産を管理、運用するのを目的とした奴らが集まってる場所。って言ったら聞こえは良いかな? ようは遺産関係の問題を解決する町の何でも屋ってとこかな。 フリーバードが見つけた遺産を買い取って研究もしてるし、町の中の遺産を使った物が壊れたり暴走したらそれの修理をやってるんだってさ。俺の方は売るばっかりだから良く知らないけど。 多くは元フリーバードがやってる事が多いかな。それに遺産に興味がある奴が集まって出来てる感じ。 研究はもちろん町によって違うんだよね。で、研究結果は一番大きなギルドって事になってる『マスターズギルド』に送られる。言わば、世界の研究の中心部にね。 ギルドの目印は水色の生地に白い翼が描かれた旗。世界で始めてのギルドがこれを掲げたらしくてね。それ以降に出来たギルドは皆これを掲げるようになったんだ。目印にはぴったりでしょ。 「あ、兄貴あそこ! あれギルドじゃない?」 「ん、どうやらそうっぽいね。早く見つかって良かった良かった」 これで収入が得られる! 実は朝から何にも食べてないから結構空腹感がピーク。早く何か食べたいよ……。 ついでにこの町についても聞いておこうかな。これだけ様子が変だと流石に気になる。 「すいませーん。遺産の換金してもらいたいんですけど」 「!? お、お前ら、フリーバードか!?」 「? そうですけど……」 普通遺産なんて換金しに来るのフリーバードしか居ないでしょ。遺跡に入るの基本的にフリーバードだけだし。 ギルド内、恐らく接客用のカウンターだと思われる所には一匹のカイリキーさんがきょとんとした顔でこっちを見てる。ここってギルド……だよね? なんかフリーバードが来るのが不思議みたいな反応だな? 「あの、ここって……ギルドで良いんですよね?」 「あ、あぁそうだ。換金だったな。何を持ってきたんだ?」 「これです。幾らくらいになりますか?」 一先ず換金だ。持ってきたクリスタルをカウンターに置く。 「こいつは凄ぇ! 傷も曇りも一つもないこんなでかいクリスタルは始めて見たぞ! そうだな……二万、いや三万レクでどうだい?」 「3万! よし、売った!」 「うわぁ! おいら達一気にお金持ちだ~!」 予想では二万レク位だと思ってたからこれは嬉しい誤算だね。本当に金持ちだよ。一時的にだけど。 レクって言うのはこの世界の金銭の単位。全部硬貨で、1レクが白い石を丸く小さく削った硬貨。それ以降は10、100、1000レクごとに銅貨、銀貨、金貨の順になってる。 3万レクがどれ位の価値かって? そうだな……リンゴ一つが大体20レクだろ? で、高い宿に泊まるのに掛かるのが、ピンからキリまであるけど約1,000レク……一般庶民が一ヶ月は楽に豪遊出来るくらいの価値だと思ってくれれば良いかな。良い表現が思いつかないし。 俺達だと、高い買い物さえしなければ二ヶ月くらいは困らないはず。いやぁ、嬉しいね~。 「は~っ、お前達若いように見えるがたいしたもんだな。こんだけのもんだ、相当苦労したろ」 「まぁ、程ほどにね。えっと、29……30。うん、3万レク確かに受け取ったよ」 「わー、財布の中がキンピカだぁ」 財布代わりに使ってる小振りな巾着袋が重くなった。はぁ、幸せな重み……。 一先ずこれはクリスタルが無くなった袋に入れて、この町についてでも聞こうか。食事出来る所も知りたいし。 「よしっと。ねぇ、親父さん。この町で食事出来る所とか無いかな? 無いなら買い物出来る所でもいいんだけど」 「……お前ら、悪い事は言わない。今のうちに町を出ろ。ここまで何事も無く来れたんだから出る事も出来るはずだ」 「えー? どういう事? おっちゃん」 「もしかして、町に人気が無いのと関係してる感じ……かな?」 親父さんの顔が曇った。どうやら図星みたいだな。 「とにかく、手遅れになる前にこの町を出ろ。それで……出来れば、配達員にこの手紙を渡してくれ。旅してるお前達じゃ難しいかもしれないけどな」 配達員って言うのは文字通り、物や手紙を配達する者の事を言ってるよ。 俺達フリーバードとは違いちゃんと組織化されてる役職。自由では無いけど、世界中を飛び回ってるのは同じかな。 これもフリーバードのギルドみたいに各町に配達員の詰め所があって、毎日決まった時間に配達が行なわれてる……らしい。根無し草の俺達にはあまり関係無いものだよ。 手紙を出したいなら、基本的にその町の詰め所に出せば良い筈なんだけど……なんでわざわざ俺達に渡すんだろ? 送り先は……マスターズギルド? う~ん……さっぱり事情が分からない。 「こういうのは配達員の詰め所に出すんじゃないの? なんで俺達に?」 「時間が無いから今は説明してる暇がねぇんだ。頼む、人助けだと思って!」 「……なんか分かんないけど頼まれたんだからやってあげようよ兄貴。渡すだけなら他の町とかでも出来るじゃん」 「そうだけど……なんで早く町を出なきゃいけないかだけでも聞かせてくれないかな?」 「町を出た後にでもその手紙を読んでくれ。それに、この町で起こってる全てが書かれてる」 ん~、封は別にされてないし、読もうと思えば読めるけど……読んでいいのかな? 本人が良いって言ってるから良いのか? 「危険な物では無さそうだし、まぁいいか」 「すまねぇ、こんなチャンス滅多にねぇんだ。お前たちは今、この町で唯一自由に動けんだからな……」 「……よっぽどの理由、みたいだね。分かった、この手紙は預かるよ。行こうディル」 「は~い」 「ありがてぇ。おかしな事を言ってるのは分かってんだ。だが、こうするしか今はねぇんだ。すまねぇ」 むぅ~、親父さんの必死さに乗せられて受けちゃったけど正直何もしないでこの町出るのは自殺行為なんだよな……。蓄えが無いから。 とりあえず入ってきた門の方へと歩は向けたけど、出来れば食料を調達したいなぁ……。 「兄貴……ご飯どうしようか?」 「途中に店があると良いんだけどね……時間が無いってどういう事なんだろ?」 「分かんないよ~、でもあのおっちゃんすっごい必死なのは分かったよ」 「だよね。わっかんないなぁ……」 時間が無い……つまり、時間が経つと何かが起こるって事か? それとも、まさかとは思うけど門が閉まるとか? 昼間からそれは無いか。 おや、なんか騒がしくなってるな? あれは……。 「ちょっと何よあんた達? あたしはギルドに行きたいだけなの! そんな訳の分からない所には行かないったら!」 「ギルドなんかよりずっと良い所に連れて行ってやるって言ってんだろ? 領主館に来ればフリーバードなんかやってるのがバカらしくなる様な生活が出来るんだぞ? おまけに……お前みたいな上玉なら稼ぎ放題だろうしな!」 「それってもうやる事決まってんじゃない! ふざけないでよ!」 「うるせぇ! いいからきやがれ!」 一匹のキュウコンに群がる九匹のポケモン。九匹の方は黒いフード付きのコートを着てるから何かは分からないか。今キュウコンを捕まえてるのはエレブーみたいだけどね。 キュウコンの方は……ポンチョだったかな? あの着てるのは。背中にリュックサックも背負ってるし、フリーバードかな? 前脚捕まれて無理矢理何処かに連れて行かれようとしてるみたいだな。……気に入らないな、無理矢理自由を奪うようなやり方は。 「あ、兄貴! あそこ……って、兄貴早っ!」 ディルが話しかけてくるだろうとは思ってたけど先に動き出させてもらった。 囲んでる八匹を走り抜けて、そのままの勢いで体当たり。電光石火はもちろんエレブーを直撃、キュウコンから引き剥がすのには成功だね。 「な、なんだてめぇ! 俺達にたて突こうってのか!」 「別に? あんた達のやってる事が気に入らなかったから邪魔してやろうかなーって思っただけだけど?」 「なんだと!?」 「……君、大丈夫? 何処かに怪我は?」 「無いわ。あー、あったまきたわ! あんた、一緒に戦ってくれるって事で良いのよね? 5:4で4の方頼める?」 「もちろん! 因みに……3:3:3、だよ」 「え?」 どういう事かわからなそうにしてるけど、もうすぐ理由は分かるさ。 「このっ!」 「ぐわっ! 何!? 上から!?」 黒コート達を飛び越えながらディルが放ったのは氷の飛礫。どうやら飛び越えてた二~三匹に当たったみたいだね。 「置いてくなんて酷いよ兄貴。で、こいつらはやっつけちゃっていいんだよね?」 「あぁ。ディルは右の三匹、君は……エレブーは君が倒したいでしょ? あいつを含む左の三匹を頼むよ。俺は残りを叩く」 「ビックリしたー。そのニューラ君はあんたの連れで良いのね。オッケーそれでいいわ。あんた達! 私にケンカ吹っ掛けた事後悔させてやるわ!」 「ちっ、黙ってついて来れば痛い目見ないで済んだのにな……覚悟しやがれ!」 九匹が一斉に襲い掛かってきた。正直言って負ける気がしないな。動き方が大した事無いもん。 飛び上がりつつ最初の一匹を避ける。俺の最初の狙いは……その次の奴! 一瞬俺を見失ってるところに打ち下ろしの飛び蹴りをお見舞いする。俺の一番得意な技さ。 当たったのは……ペルシアンだったか。顔面を捉えたし技とのタイプ相性もバッチリ。一撃で気絶させられたみたいだな。 そこに飛び込んでくるのがもう一匹。良かった、こっちの思惑通りに三匹に別れてくれたみたいだ。 黒コートの中から鋭利そうな刃が顔覗かせた。なるほど、こいつはストライクか。なかなか早い。 それならば俺自身がもっと早くなればいい。意識を集中して全身が軽くなるイメージを作る。そしてそのイメージを全身に反映させる。 技名は高速移動。これなら……いける! 「遅いよ……」 鈍く光る白刃のような腕を避けてそのまま後ろに移動する。相手の動きが遅く見える……これも、高速移動で加速した事の恩恵だね。 軽く一呼吸置いて丁度腹の辺りにまた蹴りをお見舞いしてあげよう。ミミロップの脚力で繰り出される蹴りのお味は如何かな? 「なっ! ごはぁっ!」 悶絶するほどお喜び頂けたようだね。こっちとしてもやりがいがあるよ。 さて、そろそろ最初に避けた奴がまた来る頃……おっ、来た来た。 「この一瞬で二匹がやられた!? くっ、ヒョロヒョロのくせしやがってぇ!」 「ヒョロヒョロで悪かったね。ミミロップは……こういう見た目なんだよ!」 見た目と力は違うけどね。遺跡探索で鍛えた力は伊達じゃないよ! 振り返ってきた奴の被ってたフードが取れた。げっ、エビワラーか。タイプ的にはこちらが不利。隙を突かれたくはないから飛び蹴りは狙わないでおこうか。 「これでも……喰らいやがれ!」 「くっ!」 マッハパンチ……何とか反応出来て防御は出来たけどやっぱり辛いな。何度もは受けられない。 「おらどうしたどうした!」 切り返しでバレットパンチか。高速拳のラッシュとか反応しきれなくなりそうなんだけど。ちょっと不味いかな。 こういう相手は調子付くとより厄介になるから早めに流れを断ち切らないと……。 「まだまだいくぜぇ! さっさと喰らって楽になっちまいな! 身ぐるみだけで許してやるからよ!」 身ぐるみ? つまり、この持ってる3万レクも持ってくって事? ……お前は今、俺の闘争心に火を付けた。容赦は……しない! 連続パンチがこっちに迫ってきてる。でも一発一発が見てとれる。今俺の集中力はかなーり上昇傾向にあるね。掠る気すらしない。 「調子に……乗らない方がいいよ!」 「なっ、うぉっ!?」 その拳の一つを選んでこっちの拳を合わせる。鍛えが足りないね。技でもない俺のただのパンチで弾かれるなんて。 弾かれた所為で動揺したな? 無理もない。ミミロップにエビワラーが拳で負けたとあったら格闘タイプの名折れだし。ま、ショックを受けてようが拳が痺れてようが俺の追撃は止まらないけどね。 無防備になってる胴体に電光石火で肩から体当たり。腹から体がくの字に曲がった。これで意識を腹の方に向かせる。 案の定腹を押さえ込んだ。さっきの高速移動の効果はまだ生きてる。さらに連撃だ! 「そ~っれ!」 「はぶっ! れ……あ? 目の前が……ま~わ~りゅ~?」 よし、無事に混乱してくれたな。名前はいまいちアレだけど、結構便利な技だよこの『ピヨピヨパンチ』は。相手がエビワラーだからちょっと威力は落ちてるけどね。 さてと。ふらふらしてる間に決めさせてもらおう。勢いを付けて……顔面を狙い定めて一気に飛び掛る! 「ゆっくり……寝てなよ!」 「がへぇ! …………」 飛び蹴りの顔面直撃でエビワラーの沈黙を確認。決まったね。目立ったダメージも無かったし、快勝でしょう。 こっちは片付いたけど、他の二人はどうなったかな? ディルは負けないだろうけどあのキュウコンの子は実力を知らないからちょっと心配かも。 「あじぃ! あじ~い!」 「やっと一纏めに出~来た♪」 ……大丈夫そうだな。見事にエレブー含む三匹のポケモンが炎の渦の中でもがいてます。あの渦……多分大きさを一匹分よりちょっと大きいくらいに調整してる。ギリギリで体が渦に触れるように。え、えぐい……やり方が……。 「あたしにちょっかい出した事を後悔しながら逝きなさい! はぁぁぁぁ!」 「ぎゃぁぁぁぁ! あちっ! 燃えっ! ぐっ、がぁぁぁぁ……」 う~ん、見事な火炎放射だ。倒れないような甘っちょろい火力ではなく、なおかつ命までは取らない火加減って感じかな。(逝きなさいってもろに言ってたけど) もうこれで決着だろうね。まとめてKOか、俺には出来ない芸当だな。俺も何か特殊技覚えれたら出来るかもなぁ。 さて、こっちは終わったから後はディルか。俺と一緒に旅してきたんだ。この程度でやられるような鍛え方じゃないよ。 「よーし! 変な奴ら討ち取ったりー!」 ほらね。ディルの足元には、ディルの爪で切り傷だらけにされたポケモンが三匹転がってます。モココにリングマ、後あの青いのは……ガマガルとか言うポケモンだったかな。確か、皆一度は進化してるポケモンだよな。それを圧倒するんだからディルもよくやるよ。 さて、囲んでた九匹はこれで綺麗に全部のびた事になるね。俺の相手した奴は服無事だけど、他の二人が相手した奴のはもう原型無いな……片やビリッビリ。もう片方は燃えてボーロボロ。ま、他者を襲ったらこうなる事もあるって事の授業料としておこうか。 「終わったね。二人とも、怪我とかは無い?」 「おいらは平気だよ! ぜーんぜん強くなかったもんね!」 「全くね。こんな奴らに連れて行かれそうになったなんて腹立つわー」 こっちは全員ほぼ無傷か……なんとも襲い損だねこいつら。 「くっ、せめて……一撃くれてやらねぇと気が済まねぇぇぇぇ!」 「……! 危ない!」 「へ?」 まだあのエレブー動けたのか!? 迂闊だった。ちゃんと確認しておけば良かったか! 電撃を纏った拳がキュウコンに襲い掛かろうとしてる。あいつがやられたのはキュウコンにだからそこを狙ったのか。……まだ、間に合う! 牝の子が傷付くのは見たくないから……間に滑り込ませてもらう! 「くぅぅっ!」 「きゃああ!」 「ぐぅっ! 邪魔しやがってぇ!」 なんとかガードは間に合った……。両腕交差させて受けたから衝撃は何とかなったけど、そのまま力で押し込まれてキュウコンにぶつかっちゃった。 不味い、腕が痺れて反撃に移れない! 追撃される前に動かないといけないけど後ろにはこの子が居るし……動くに動けない! 「邪魔すんならお前から倒す! もう一発くらえ!」 エレブーのもう片方の腕が電撃を纏った。出来ればちょっと待って! まだ腕の感覚が戻ってないんだって! こうなったらもう一発耐えるしかないか。次食らって反撃出来る状態である事を祈ろう……。 「うらぁぁぁ! あ? が……? 体が……うご……か……」 「ないでしょ? もぅ、兄貴も慣れない事しちゃ駄目だよ。間に入る前に倒しちゃった方が早いじゃん」 エレブーが……倒れた。倒れた後ろにはディルが居る。そうか! エレブーが動くより早く一撃決めたって事か。元々弱ってたんだから倒すのには大きな技は必要無かった筈だし。 そして俺も怒られたし。まぁ、ディルの言うとおりだけどさ……やっぱりああいう状況では、まず牝の子を守ったほうが良いように思うじゃない。 それにしても、我がパートナーながら良い仕事してくれるよディルは。助かった~。 「ふぅ……助かったよディル。良いタイミングだった」 「でしょ! 兄貴大丈夫?」 「まだ腕は痺れてるけどね。ダメージ的には心配無いよ。あっと、そうだった。君は大丈夫?」 「う、うん。あたしは大丈夫。ごめん、あたしがちゃんとやっつけてなかったから……」 「ん? 気にしないで。俺も見てたけど、まさかあの火炎放射受けて動けるとは俺も思ってなかったから」 痺れた両手をプラプラ振って痺れをとばそうとしてます。ついでにちょっと落ち込んじゃってるキュウコンに笑い掛けた。心配要らないって意味でね。 「……ありがと。結局二回も助けられちゃったね。あ、あたし名前言ってないね。あたしはアリム・トーチェ! ソロでフリーバードやってるんだ!」 「アリムね。俺はロディンス・アーミティッジ。長いからロディって呼んで。同じくフリーバードだよ」 「おいらディルティム・コルボナー! ディルでいいよ! 兄貴と一緒に旅してんの!」 やれやれ……そういえば挨拶もせずに戦ってたの忘れてたよ。よく俺も名前も知らない相手を身を盾にして助けたもんだ。 やっぱりフリーバードだったか。牝の子でソロって言うのは珍しいな……。旅も結構危険だから、大抵のフリーバードは俺達みたいにコンビかチームを作ってるのが普通なんだけどね。 ……おっと、道の真ん中で話してるのも目立つな。この黒コート達……仲間が居る可能性が高いし、移動するに越した事は無いか。 「ここに居るのもあれだし、とりあえず移動しようか」 「それもそうね」 「兄貴ー。おいら達もう町出るところだったんだよ? 行かないの?」 「あー、そうだった。アリム、俺達もうこの町離れるんだ。一応、安全な所まで送ろうか?」 「あ、そうなんだ。なんだー、折角知り合ったのにね。あたしは大丈夫。とりあえずギルド探しするから」 「そう……ギルドなら俺達が来た方にもう少し行けばあるよ。気を付けて行ってね」 「分かったわ。助けてくれて本当にありがとう二人とも。じゃあね!」 前脚を振って、アリムはギルドの方へと歩いていった。多分大丈夫だと思うけど、ちょっと心配かな。襲われたばかりだし。 「ちょっ、兄貴あれ!」 「どうしたのディル? そんなに慌てなくて……も……」 ありえない。これがもう日が沈んで夜になってるなら俺も納得するよ。でもまだ日は高いし、町も平和そのものなんだ。 なのに……町の門が、閉じていく。どういう事? まさか、あの親父さんが言ってた時間が無いって、本当にこういう事なのか!? 「ふん、騒ぎが起こってると聞いて来てみたが……お前らか。我々の仲間を倒したのは」 「!? ……誰だいあんた」 「俺はここの領主、オルディリオさんに雇われてる自警団の頭をやらせてもらってるガンズ・ヴァンドと言う者だ」 門にあっけに取られてる内に俺達は黒コートに囲まれてた。幾らビックリしてたと言っても油断し過ぎてたな。 で? さっきアリムを襲ってたのが自警団? やれやれ……悪い冗談だ。 あ、さっき俺達が倒した奴らがこいつらに運ばれてる。マジで仲間なのね……。ピンチって奴なんじゃないのこれ。 なんとか誤魔化すか……。 「ふーん、自警団ねぇ……」 「何か可笑しな点でもあるかな? え? 大暴れしてくれたお二人さん」 わお、周りからの敵意が凄いんですけど。……おかしいのは、このガンズってドンファンだな。 「いや別に? 自警団って言うのはフラリと現れた旅する牝のキュウコンを無理やりどこかに連れて行こうとする集団なのかなーって」 「何? ……ちっ、あれほど派手に牝を連れて来るなと言っておいたのに、馬鹿な奴らめ……」 「どうしたのさ? 声が小さくて聞こえないなぁ?」 嘘です。バッチリ聞こえましたよ。伊達に耳が大きい訳じゃないんでね。 「こちらの話だ。お前達、腕は立つようだな。フリーバードか?」 「そうだけど?」 「ふむ……あいつらよりは使えそうだな。どうだ? 自警団に来ないか?」 うわっ、手の平返したように今度は勧誘? 周りの奴からも敵意は消えてるし、本当に勧誘しようとしてるのか……。こいつからだけこっちに攻撃してこようって様子が無かったのはその所為かな? 「ふーん……良いの? 自警団がついさっきここで暴れた俺達を迎え入れるなんてさ?」 「別に構わん。優れたフリーバードが居れば自警団に迎え入れろと雇い主から言われているからな。似たような経緯で入団した奴も居る事だし」 囲んでる奴らの何匹かは、どうやらそうらしいね。明らかにさっき相手した九匹より強そうなのが混じってるよ。 それにこのガンズって奴の言い方だと、恐らくこいつらもフリーバードだったんだろうね。これは流石に戦って切り抜けるのは止めておいた方が良さそうだ。 「フリーバードで構成された自警団ね……面白そうな話だけど止めておくよ。何処か一つの場所に留まるのって性に合わないんだ」 「ほぉ……それは残念だったな。お前らはこの町から出られんぞ。町で暴れた者を、みすみす見逃すとでも思ったか?」 「……なるほど、門が閉じたのはその所為か」 「くくく……じっくりと考える事だな、あのキュウコンも含めて。このままこの町の住人になるか、俺達の仲間になるか、をな……。引き上げるぞ!」 流石自警団リーダー。一言で俺達の包囲は解けて自由の身に……なってないから困りもんだよ。 アリムの事も知ってるあたり、ぜーんぶ見てたって訳ね。何処からかは知らないけど。 「兄貴……どういう事なの?」 「うーん……騙された、とは違うけど、どうやら俺達はこの町に閉じ込められたみたいだね」 「やっぱり? なんかそうじゃないかなーとは話聞いてて思ってたけどさ。これからどうする?」 「ん~……多分ギルドの親父さんが話してた事はこれと関係ありそうだし、もう一回行ってみようか」 「そだね。あーあ、変な町だなーとは思ったけどさ。なんか嫌な町だね」 「……嫌な町、か……。ディル、随分落ち着いてるみたいだけど、俺達なかなか厄介な事に巻き込まれたかもよ……」 「え……い、嫌だな兄貴、脅かさないでよ。町の事なんて俺達フリーバードが関わる事じゃないでしょ?」 「相手が『フリーバードを雇って出来た自警団』だとしたら話は変わってくるでしょ。現に俺達は目をつけられた。向こうは出入り口である門を操作出来るみたいだし、あの自警団をなんとかしないと町から出れないのは確かだね」 「そ、そんなぁ~……」 それに、ガンズって名のったあいつは……この町の領主に雇われたって言ってた。領主って言うのは、この町を治めてる者の事。それがあいつらの後ろに居る事になるよね。 ドラグニールに罪は無いけど、不味い所に来ちゃったみたいだな……。なんにしても、情報が少なすぎる。上手い事親父さんから色々聞けると良いんだけどな。考えるのはそれからだ。 町から出られそうに無いって聞かされてしょげたディルとまたギルドに戻る。とりあえず……誰か、俺達に食事を取る暇を与えて下さい……マジで倒れるよ。マジで。 ---- 中途半端かもしれませんが第二話はここまでとさせて頂きます。 中途半端かもしれませんが第二話はここまでとさせて頂きます。 次が出来ました! 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