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FLYHIGH! の変更点


#include(第十八回短編小説大会情報窓,notitle)

writter is [[双牙連刃]]

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「うぉぉぉぉ! であぁぁぁぁりゃぁぁぁぁ!」

 凄まじい気合いと共に、水中から橙色の魚影が跳び出してくる。この時点で彼は彼の種族の他の仲間とは全く違う事を示してるんだけど、驚くところはそこ以上にその跳び出した高さだ。僕の背の高さを悠々と超えて舞い上がった姿は空中でくるりと翻り、勢い余って地面に降りちゃったみたい。跳ぶ事に全力だから着地まで気が回らないのはいつも通りなんだよね。

「ぐはぁっ! 同士! 今の高さはどうだ!?」
「僕の背はもう安定して超えてるよ! とりあえず水の中に戻すね?」
「オナシャァス!」

 僕が川へ押し戻そうとしてるのは、コイキング。と言っても他のコイキングより大分個性的、というか熱血してるんだけどね。出会った頃から基本叫んでたからもう慣れてきたけど。

「やはり高さを目視してくれる同士が居ると励み甲斐があるな!」
「いやぁ、僕が居なくても君なら頑張ってたんじゃない?」
「それはそうだ! が、憧れは共有すると更に燃え上がる! そういう意味では一匹の限界があったのは確かだな!」

 憧れ、か。僕の場合は憧れって言うより焦り、なんだけどね。
 僕の種族タツベイは、進化するとボーマンダとなり空を飛べるようになる。んだけど、何故か僕は群れのタツベイよりも進化が遅くて、皆が進化した今もタツベイで居たりする。原因は多分、僕が他のタツベイより弱いから。喧嘩とかそれ以前に体が、ね。雨に濡れただけで熱出した事あるくらいだし、根本的に弱いんだよね、僕。
 で、そんな弱い自分に嫌気が差しながら川べりに座って黄昏てた時に出会ったのが、今傍に居るコイキング。出会ったって言うか、川から跳び出してきて救助を求められたんだけどね。

「どうした同士!? 空腹か!? 空腹なのか!?」
「あ、いやそうじゃないよ。君も出会った時より高く跳ねれるようになったなーと思って」
「当然! なんたって俺は、あの空を飛んでみせるんだからな! よぉし、トレーニング再開だぁっ!」
「あ、ちょ、置いてかないでよー」

 とまぁこんな感じで、何故か同士って呼ばれて一緒に体を鍛えるようになったんだよね。原因は、彼と出会った時になんとなく話をして、今も言ったように彼の夢の空を飛んでみせるって言うのを聞いた時に『僕も飛んでみたい』って答えたからなんだけど。あの時は進化出来ない事に落ち込んで、僕はボーマンダにはなれないんじゃないかって落胆してたんだけどね……彼的には同じ事に憧れてる奴って事になったみたい。
 それからは飛ぶ為の訓練だって事で川を全力で逆らって泳いでいく彼を追って走ったり、川に入って彼の跳ねる高さの目標になるついでに落ちてくる彼を受け止めたりしてる。後者の方はもうあんまり無いんだけどね。

「ふぅぬぉぉぉぉぉ!」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

 本来のコイキングって川の流れに逆らって泳いだり出来ない筈なのに、彼はガシガシ川を逆らっていく。最初は全然追い付けなくて、僕の体力コイキング以下なのかって凹んだよ。実際は僕の体の弱さを加味しても彼のバイタリティが異様に高いんだけどね。

「どぅおっせい! ふぅー……また少し川を速く上れるようになったな!」
「少しどころか下手な水ポケモンより断然速いと思うよ?」
「いーやまだまだだぁっ! しかし同士よ! 君もなかなか鍛えられたんじゃないか!? 俺に遅れなくなったじゃないか!」
「まぁ……君に付き合ってると、もうちょっと頑張ろうかなって思えちゃうからね」
「良い事だな! この心に、魂に! 憧れと情熱が燃え続ける限り! 俺達は止まらないのだぁぁぁ!」
「ってちょっとー!? もう少し休んでもいいとは思うよー!?」

 こんな感じで、僕は基本的に彼に振り回されてるんだけど……実際これで体が鍛えられてるんだよねぇ。体力付いた自覚あるもん。進化はまだしないけどさ。
 そんなこんなで彼に付き合ってる内に辺りが暗くなるのももう慣れたもの。そろそろ群れの縄張りに帰らないとだ。

「ふぅむ! 今日も励んだな!」
「そうだねぇ……真っ暗になる前に、帰ろっか」
「うむ! また明日だ、同士よ!」

 そう言うと、川を割るように水飛沫を上げながら彼は泳いで去っていく。一応彼もコイキングの群れに帰ってるらしいけど、前に帰っても仲間は熱意が足りなくて詰まらん! って言ってたっけ。いや、彼みたいなコイキングが他に居ても大変そうだけどさ。仲間から浮いてるって言うのは僕にも気持ちは分かるから、寂しく思ってないのかなとは思ってる。聞く機会が無くて尋ねた事は無いんだけどね。
 で、彼を心配してる僕の方はと言えば、群れの縄張りの端の方に帰ってきてはそのまま夜空を眺めながら眠るだけだよ。別に親が居ないって訳じゃないんだけど、言っちゃえば僕は落ちこぼれだからね。親が進化も出来ない子供の親として縄張りから疎まれかけてたから僕の方から離れちゃったんだ。子供、僕だけって訳でもないしね。あぁ、兄弟はもうとっくに進化してボーマンダに成る頃なんじゃないかな? 会う度に馬鹿にされるから、もうずっと会ってないから知らない。群れも僕の事なんか興味無いだろうしね。

「……なーんで僕、今更頑張ってるんだろ」

 正直に言うと、生きるだけならこの辺りってタツベイの僕でもひもじい思いしないで暮らせる豊かな所なんだよね。これが痩せた土地とかなら僕はとっくに口減らしされてると思う。そうされてないし、別に頑張らなくても生きてはいけるんだよ。僕の体が弱いのもとっくに群れ中に知れ渡ってるしね。だから僕も彼に、コイキングに会うまで進化も頑張る事も諦めてた。諦めてたのになぁ……。

「憧れ、か」

 僕だってタツベイの一端だから、空を自由に飛ぶ親の姿に憧れた事が無いとは言わない。けど、僕の体はその憧れに耐えられない。そう思ってた。
 でも、世界一弱いって言われてるコイキングの彼が、ただ全力で飛ぶ為に鍛えてる姿を見てるとさ、諦めてる自分が本当に情けなくて、嫌になったんだよね。
 だからかな。彼に同士って呼ばれると、頑張らなきゃって思うんだ。少なくとも彼が頑張るその隣に居られるくらいには、ってね。

「なんて、都合が良過ぎるかなぁ」

 彼に今のぼやきを聞かれたら多分、都合が良い事の何が悪い! 空を飛ぶ事に近付けるのなら悪い事など無いぞ! なんて言うんだろうな。よし、明日もしっかり訓練に付き合えるように休むとしようかな。

 そんな日々がまた数日続いて、相も変わらず彼はコイキング離れしたバイタリティを発揮し続けてる。ついて行けるようになったとは言え、走ったりしてるだけで僕は息切れしてるのに彼は平気な顔してるんだもん。参っちゃうよ。

「うむ! 今日も体に力が漲っているぞぉ! 跳ぶ高さを更新出来そうだ!」
「ふぅ……実際毎日ちょっとずつ高くなってる気がするしねぇ」
「それだけ空に近付けているという事だ! ぬぅおぉぉぉ! 燃えてきたぁ!」

 う、うわぁ、目に炎が灯ったように感じる。本当、凄い熱意だよ。空に近付く、か。なんだか放っておいたらコイキングの姿でも飛んじゃいそうだよね。
 そこまで思ってふと疑問に思った。彼って、進化はしようと思ってるのかな? 確かコイキングも進化出来るって噂で聞いた事はあるけど。
 熱意のままに跳び出して空中で翻る彼。飛びたいとはずっと聞いてたけど、進化の事まで気にした事無かったや。落ちてきたし、聞いてみようか。

「ねぇ、そう言えばだけどさ」
「む!? 何かあったか同士よ!?」
「いやね、聞いた事無かったけどさ、君って、進化はしたいと思ってるの? 出来るって聞いた事はあるんだけど」
「ふぅむ、進化か。出来ればする! 程度だな」

 ありゃ、なんだかいつもより落ち着いてるね。いつもなら飛ぶ為に必要ならば是が非でもする! とか言いそうなのに。

「我々コイキングが進化する姿はギャラドスと言うのだがな、進化をする為には強い怒りが必要だと言うのだ」
「怒り……?」
「そう! 弱い自分に、弱者を喰らう世界に、コイキングを馬鹿にする者に、怒る! そう言った荒々しいエネルギーが進化の糧になるそうだ!」

 うーん、なんだか彼には似合わない、かな? 燃えてはいるけど、何かに怒ったりって全然しないからね、彼。

「だが、俺の中にあるのは空を飛ぶ夢と憧れと熱意だけだからな! 仲間にも絶対進化しないと言われた!」
「あぁ、そうなんだ」
「だがな? 私はそれでも空を飛ぶ! 進化出来ないと言われようと、この情熱は止まらなかった! 故に俺は『諦める』事を諦めた! 俺は俺の憧れのままに進み、進化だろうが何だろうが、必ずあの空を飛んでみせるとな!」

 底無しの熱意だねぇ……ちょっと羨ましいよ。僕にはそこまでの熱意なんて無いもんなぁ。今だって彼に引っ張られて頑張ってるだけだもん。

「はは……そこまで飛びたいと思うのって、何が切っ掛けなの? きっと凄い事あったんでしょ?」
「うん? ふーむ、そうだなぁ……生まれて初めて木から飛び立つポッポを見て、それを追って空を見た事だな!」
「え、そ、それだけ?」
「うむ! 夢を追うのに大層な理由は必要無いさ! 色褪せない憧れだけで十分だっ!」

 本当、眩しいくらいに真っ直ぐだなぁ。……僕も、彼みたいに諦めなかったら、進化出来たりするのかなぁ。

「僕も、諦めなかったら……進化出来るかな?」
「君は進化したいと願ってるのか? ならば後は絶対にやってやると心を燃やすだけだ!」
「心を、燃やす」

 そんなのどうやって? ……いや、僕はもう知ってる。そのやり方を。だって……傍で見てきたじゃないか。心を、情熱を燃やす彼の姿を。
 彼が僕の事を見つめてる。それは仲間が僕に向ける哀れみや見下しなんかじゃない。出来ると信じてくれているって感じる。出来る、かな。いや、出来るかなじゃない。絶対に出来る、やるんだと心に誓い諦めず進む事。それが彼が見せてくれた、心を燃やすという事!

「僕も、やる。絶対に進化して空を飛んでみせる。もう体が弱いからなんて、諦めない!」
「そうだ、それだ! 俺には見えるぞ! 君の心が燃えて輝きだしたのが! ……うん?」
「ん? どうかした?」
「いや君……実際に輝いていないか!?」

 へ? ……あ、あれぇ!? 本当だ、体が光り出した!? 何これ!?

「それはまさか、体が進化しようとしてるのではないか!?」
「そ、そーなの!?」
「すまん、分からん! だがそうだとしたら、心が燃えたのが切っ掛けだな!? ならば恐れてはいけない! もっとだ、もっと! もっと輝くんだ!」
「か、輝けって!? え、えと……ぼ、僕は進化する! 絶対に、するんだぁぁぁぁ!」

 ……よく分からないながら叫んでみたら、体の奥から力が溢れて来る感じがした。それが落ち着いてきたかなと思う頃には、なんだか全身に違和感がある。ど、どうなったの僕?

「おっ、おぉぉ! 姿が変わった、変わったぞ!」
「ほ、本当!?」

 何とか脚を動かして彼の居る川を覗き込むと、そこに映ったのはタツベイじゃなく、コモルーの姿だった。僕、本当に進化したんだ!

「つまり僕に足りなかったのって、気持ちだったって事!?」
「分からないが、情熱は全てを押し進める原動力だと言う事が実証されたな! 俺も未だ進化しないのは、まだ熱意が足りないという事か! ぬぅぅ、もっと、もっと燃えねば!」
「い、いやぁ、君の熱意は足りてるんじゃないかなぁ……?」

 なんて言ってる間に叫びながら川を遡っていったー!? ちょ、まだ僕コモルーの体に慣れてないんだけど!? あーもう、頑張って追っ掛けるよもう!

 それからも僕等の特訓は続いてる。当たり前だけどコモルーじゃ飛べない、どころか体が重くて跳ぶのも一苦労だったよ。まぁ、彼に付き合って鍛えてる間に多少なら跳べるようになったけどさ。あぁ彼? 彼は……。

「ふんぬらばぁぁぁ!」
「お、おぉ! 木! 木の高さだよ!? てかどうやって跳んでるのそれ!」
「体のヒレというヒレを全力で動かすのがコツ、だぁぁぁぁ!」

 と言いながらヒレを動かしてちょっと滞空してる!? い、一瞬だけど確かに彼は飛んでた。こ、コイキングって鍛えまくったらこんな事出来るようになるんだ……いや極めて特殊な例だよね? 例であって下さい。
 とまぁこんな感じで、彼の成長には限界が無いかのようにビルドアップしてます。この前彼を狙って襲ってきたピジョットを尾ヒレでぶっ叩いて撃退したのは流石に軽く引いたよ。
 あ、久々に着地地点を間違えて地面に落ちちゃった。レスキューの出番だね。

「ぐぬぅ! 川から跳び出せるがまだ地面には勝てんか!」
「その内勝てそうなのが君の怖いところだよね……とりあえず、川に戻すよー」
「オナシャス!」

 グイグイと押して、彼は無事川に戻った。こんな感じで僕達の日々は進んでおります。流石に心を燃やすだけじゃボーマンダにはなれないみたいでね、彼にも今は力を蓄える期間なのだろう! って言われたから粘り強く訓練を続けてるよ。

「ふぅっ! うーむ、滞空は出来るようになったが未だ飛ぶには至らぬな!」
「寧ろ滞空出来るようになった君に僕は驚きしかないよ」

 ちょっと前に他のコイキングを見掛けたんだけど、跳ぶどころか静かーに川の流れに乗せられて流れてたからね。その横で彼は水面を割るかの如く勢いで川を遡上してました。その勢いで吹き飛ばされて陸に上げられちゃったコイキングさんは可哀そうだから僕が丁重に川に戻してあげた。これが普通のコイキングなんだなぁって妙な感動を覚えたよ。
 今日の跳躍訓練も終えて、少しだけまったりとした休憩時間。流石の彼も全力の跳躍をすると草臥れるようで、川に流されはしないけど遡上するような事はせずに停滞してる。彼だって休む時は休むのよ。

「しかし、これ以上の高さを出すにはこの川では手狭だと言わざるを得んな!」
「あー、今も限界まで潜ってから跳び出してるもんね。横に跳ぶならまだ大丈夫だけど、縦に跳ぶのは厳しいか」
「ふむ……この辺りに湖のような場所は無い! となれば、下るしかないか!」
「下る? そうか、海だね」

 海か……流石に僕も海まではついて行けない。けど彼の力はもう川では狭過ぎる。彼が憧れを追い掛けるには、もうここから旅立つしかないんだね。

「そう! 広大な海ならば、俺一匹が跳ぶ事など造作も無い! だが、一つ問題がある!」
「問題? どんな?」
「君は海までは来れないだろう! これは重大な問題だ!」

 彼の言った事に思わずキョトンとしちゃった。だって、彼なら迷わずに海に行く! って言うと思ったもん。

「いや、君は海に行くべきだよ。君の夢を追うにはもうこの川じゃ足りない。僕の事は気にしないで……」
「それは違うぞ!」
「え?」
「俺の夢は、憧れは空を飛ぶ事だ! だが……だが! それを叶える時には君に、友に隣に居て欲しい! これは、俺が君に出会って抱いた願いだ! ……改めて言うと少々照れ臭いな!」
「友……僕、が?」
「す、少なくとも今の俺はそう思っている! 俺には君以外にそう呼べる者が居ないしな!」

 ずっと同士って呼ばれてたから、てっきり同じ夢を持ってる奴くらいの認識なんだろうなーと思ってた。だって、彼って態度とか全然変わらないし。けどそっか、友達だって思ってくれてたんだ。
 それを聞いて、言おうと思った『これからはそれぞれに夢を追おう』って言葉を飲み込んだ。だって挙動不審になってる彼に言ったら落ち込ませちゃいそうだしね。代わりに、こう言おう。

「……君がいいって言ってくれるなら、僕もまだ君と一緒に居たい。同じ夢を追っていたい。だって僕にとっても君は、大切な友達だから」
「う、うむ! そうか! そうなんだな! であれば、これからもよろしくだ!」
「うん!」

 自分達が友達だって事を改めて確かめて、お互いに笑っちゃった。もう結構長く居たのに、ようやく友達になった気がするんだもん。

「けど場所問題はどうしよっか? 一緒に夢を追うって決めてもそれは解決しないしね?」
「うむ、確かにそうだが……何とかなるだろう! 俺の、俺達の夢は!」
「こんな所で終わらない! だよね」
「ふははは! その通りだ友よ! いいぞ、昂ってきた!」

 うん、僕達ならどんな場所でも頑張れる。だって彼の……うぅん、僕達の憧れと情熱は、この心で燃え上がってるんだから!
 ……ん!? 燃えてきたぞぉぉぉ! って叫んでる彼の体、光り始めてない!?

「ち、ちょっと君! 体、光ってるよ!?」
「何ぃ!? というか、友よ! 君もだぞ!?」
「えっ、あれぇ!? 本当だ!」

 コモルーになった時みたいに、僕の体も光ってる! え、今のやり取りのどの辺に進化する要素あったの!?

「友との絆が、進化を引き寄せたのか!?」
「そ、そういう物なのこれ!?」
「知らん! だが俺は、君が共に夢を追うと言ってくれた時に今までに無い程の熱い心を感じたぞ!」
「そ、そりゃあ僕も今までに無いくらい嬉しいし盛り上がりはしたけど、それで行けちゃうものなの!?」
「実際になったのだからいいじゃないか! 俺達の情熱は、進化を引き寄せる程に今! 燃え上がっているぞぉぉぉぉ!」

 うわ!? 叫んだら彼の体が更に強く光った!? ……あ、まさか! コイキングの進化の条件って強い怒り、感情の力が必要だって言ってた。今それを、彼の情熱が満たしたって事!? 本当、出鱈目に底無しのパワーだね彼の情熱って!?

「行くぞ友よ! 俺達の輝きはこんなものじゃない! 更に高められる筈だ!」
「さ、更に!? うーん!? ど、どうやるの!?」
「君にならもう分かる筈だ友よ! さぁ、行くぞぉぉぉ!」

 いや分からないけど!? え、えーっと気合いを入れる感じ!? あ、なら彼が僕が進化した時に言ってくれたあの言葉! あれを彼にも贈ろう。聞いてただけでグッと体に力が増したような気がしたし!

「もっとだ!」
「もっと!!」
「「もっと!!! 輝けぇぇぇぇぇぇ!!!!」」

 ……僕と彼の叫びが重なって、体から凄まじいって感じるくらいの力が溢れ出した。体、爆発するんじゃないかと思ったよ。
 けどそんな事も無く、溢れ出した力が落ち着く頃には体の違和感にも気付いた。コモルーの時の数倍は強い力を感じる。

「わぁぁ……あ、そ、そうだ彼は? お、おぉ!?」

 一緒に進化した筈の彼の姿を探すと、視線の少し上の方にポケモンの気配を感じた。そっちを向いてみると……見た事の無い凄く強そうなポケモンが宙に浮いていた。まさかこれが、彼? あ、大きく息を吸い込んで吐いた。意識はあるみたい、かな?

「ね、ねぇ、君なんだよね? コイキング、なんだよね?」

 返事は、無い。目を瞑ったまま、静かに体のヒレを動かしてる。大丈夫、なのかな?

「……漲る」
「え?」
「迸る程に滾る力! なれど尽きぬ空への憧れと情熱! 今も俺の心に、夢と憧れと熱意は燃えているぅぅぅぅ!」
「あ、いつも通りっぽいね」

 カッと目を見開いた彼の開口一番の言葉に安心したよ。彼は間違い無く友達のコイキング、いや進化したからギャラドスだっけ? とにかく彼は彼のままみたいだね。

「ん? ぬぉぉ!? き、君なのか友よ!?」
「うん、僕だよ。どうやら僕も進化してボーマンダになれたみたい」
「おぉぉ! 浮いているではないか! 飛べる! 飛べているぞ友よぉぉぉ!」
「えーっと、喜んでくれてるのは僕も嬉しいけど、今君も浮いてるよ?」
「何ぃ!? ……うぉぉぉぉ!? 飛んでいるではないか俺よぉぉぉ!」

 うわぁ、空中で体を回転させてみたり宙返りしたりしてる。いきなり進化した体使いこなし過ぎじゃない? 僕まだよく自分の体の動かし方分かってないんだけど?

「いける、いけるぞ! 今の俺ならば、空の果てにでも飛んでいけそうだ!」
「あ、あのーごめん。僕まだ自分の体の使い方分からないんだ。飛び立つの、ちょっと待って貰える?」
「む!? それは一大事ではないか! 安心しろ、君を置いて飛び立ちはしないぞ友よ!」

 とりあえず前進すら出来ない状態はなんとかしないと……って言うか元々の脚が折り畳めるようになっててなんだかとっても違和感。あれ? ボーマンダってそんな事出来たっけ? いや出来てるんだからそうなんだろうけどさ。
 彼になんでそんなに進化したてで体動かせるのか聞いてみると、彼の方はコイキングの時に泳いだりするのと感覚は変わらないから大丈夫だったみたい。思えば彼、空中でヒレ動かしてたもんね……訓練の効果バッチリ出てるの凄いな。

「後はそうだな、体を動かすと後方に向かって浮く力が流れて行ってるように感じる! それを掴むんだ友よ!」
「掴めって言われても……えーっと、前に進むように?」
「難しく考える事は無いぞ友よ! 胸に燃える憧れに従うのだ!」

 憧れに従う? ……僕は飛びたい。あの広い空を速く、遠くまで、彼と一緒に!
 念じるやいなや、僕の体は加速した。僕の想定以上の速さで。そして僕の目の前には空……の前に真正面にあった木が迫ってきていた。迫るって言うか、全力で僕がぶつかりに行ってるんだけど。

「にょわぁぁぁぁぁ!?」
「と、友よー!?」

 当然勢いの殺し方なんて分からない僕は盛大に木に衝突して目を回した。僕の意識が途切れる前に見たものは……僕の事を心配してオロオロしている、見た事の無い珍しい彼の顔だった。

 それから数日が経って、ようやく僕も安定した飛行が出来るようになった。待たせちゃった彼には申し訳無い事したなーと思って一度謝ったんだけど、君と空を飛ぶ期待と喜びが募るだけだから問題無いっ! ってきっぱり言われました。真っ直ぐ過ぎる物言いに言われた僕が恥ずかしがると、その様子を見て彼もちょっと恥ずかしくなったみたいだった。何だか楽しくなって、その後二匹揃って暫く笑ってたよ。

「ふふ……」
「ん!? どうした相棒!?」
「いや、ようやく君と空の旅に出られると思うと、何だか楽しくなってきちゃって」
「はっはっは! なるほどそれは笑みも零れる! そして滾ってくるな!」

 相変わらずな彼に僕は相棒と呼ばれるようになった。友以上の、大切な者だからこそそう呼ばせてくれって言われてね。気恥ずかしい以上に、そう呼ばれるのが嬉しい。なんだかんだ言って、今までは水の中と陸の上でちゃんと隣り合って居られた事って無かったからね。今は呼ばれる通り、相棒として彼の隣に居られる。彼の隣で進んでいける。

「相棒! 準備はいいか!?」
「勿論。君も、心の準備は出来てる?」
「聞かれずとも、いつも以上に俺の心も魂も燃え盛っているっ!」

 だろうね。僕も同じ気持ちだ。

「よし!」
「うん!」
「「行こう!」」

 空に向かって、僕達はグンッと加速する。地面が遠ざかっていって、何処までも広がる青の中へ突き進んでいく。

「行くぞ相棒! もっと速く!」
「うん! もっと高く!」
「「何処までも、飛んで行く!」」

 こうして僕達の宛ての無い、けれども何処までも行ける旅は始まった。折角飛べるようになったんだもん、飛ぶだけじゃなく、色んな物も見たくない? って僕が提案すると彼も当然だなっ! って二つ返事で答えてくれた。だから、旅をする事にしたんだよね。
 お互いに今まで居た群れから離れる事にはなるけど、まぁ未練なんて無かったし。今じゃあ居心地が良いのは彼の隣だし。

「気持ち良いなぁ相棒! 俺達、憧れに届いたんだぞ!」
「だね! でもまだまだこれから、でしょ!」
「あぁ! 俺達の憧れは!」
「熱意は!」
「空の果てでも、止まらないのだぁぁぁぁぁ!」

 まぁ、実際果てなんか無くて、世界一周とか色々やる事にはなるんだけどね。それは別のお話でって事で。

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