作者:ベボーイ(pixivでは彩風悠璃と名乗っています) 作者:彩風悠璃 ゼクロム(♂)×レシラム(♂) レシラムの日に書いたSSです。 #hr 「ゼクロム」 「何だ? レシラム」 「貴様の尻を叩かせろ」 喉に流し込んでいた珈琲を咽返し、ゼクロムは目を瞠って片割れを見遣る。戯言の色が一切感じられない蒼白の双眸に射止められた。 内容とは不釣り合いな程に決然とした物言いに己の耳を疑う。 ……俺の聞き間違いか? 「…………は?」 「貴様の尻を叩かせろ」 ――どうやら俺の耳ではなく、片割れの頭がおかしくなっちまったらしい。 「い、いや復唱しろっつってる訳じゃなくて、どうしたんだよ急に」 「拒否しないということは良いということだな」 そう言ってこちらの思惑をよそにゼクロムの後ろに回るレシラム。首を捻ってその様子を見守るとレシラムはキリッと勇ましい表情を浮かべて手で風を切る。一切の淀みも逡巡も感じられないその手の行き先は―― 「っ! た、タンマタンマ! 何マジで俺の尻叩こうとしてんの!?」 「貴様が拒否しなかったからだ」 「拒否もなにも、まず訳が分かんねぇんだけど!? どういうことなの!?」 「今日が何日か分かるか?」 その声に操られるかのように、ゼクロムは視線を壁掛けカレンダーへと注ぐ。 ――4月6日? 記念日とか、ましてや知り合いの誕生日ですらないと思うのだが。怪訝な面持ちを携え、再び蒼の虹彩へと視線を戻す。 「……それがどうしたってんだよ」 「今日は4月6日だ」 「見りゃあ分かるっつーの。だから、それがどうしたって聞いてんだよ」 「だから貴様の尻を叩かせろ」 レシラムは真実を信条とするポケモンだ。故に間違ったことや虚偽を口にすることはない。 ……その躊躇のない発言に頭を悩まされることも少なくはないが。 「だ! か! らぁ! 今日の日付と俺の尻を叩くっつー謎の欲求と何が関係あるんだよ!?」 「私の日だ」 「……はぁ?」 突拍子のないレシラムの発言を耳にし、ゼクロムはカレンダーに向けていた視線を彼の方へ流した。 「4月6日、0406、レシラム。つまり私の日だ」 「いや、レシラムさん。俺はそういう事を聞いてる訳ではなくてですね」 「今日は私の日だからゼクロム、貴様の尻を舐めさせろ」 「あれ? 『叩く』から『舐める』に悪化してる!?」 冗談など感じさせない真摯な眼差しのレシラムがにじり寄ってくる。特性が危険予知という訳でもないのに身体が戦慄してしまうのは生存本能が身の危機を察知しているからだろうか。 ――危ない! 特に俺の尻が……! 何とかしてレシラムを落ち着かせねえと……! 「貴様はいつも私の尻を撫でたり舐めたりしている」 「ちょ! それ今言うこと!?」 「それだけでなく私の――」 「ああああ! 悪かった! ごめんって! もう無理やり襲ったりしねえから! だから頼むレシラム! 俺のケツだけは見逃して……っ!」 「何をいうゼクロム。貴様に撫でられたり舐められたりするのは気持ち良くて好きだ。むしろこれからもどんどんして欲しい」 「堂々と何告白しちゃってんすかレシラムさん!?」 「だから貴様にも私と同じ快楽を味わってほしい」 ……そういう事か。 毅然としたレシラムの眼差しを浴び、ゼクロムは肩を竦める。 悪意や恨み、冗談の類でゼクロムの尻を狙っていたわけではなく、彼はあくまで善意で言っていたのだ。それなら言葉に甘えて好きにさせて――そこまで考え、ゼクロムは息を呑んで練った構想を振り払うかのように頭を振る。 「い、いやいや、俺はお前とは別の部分で十分満足してるっつーか……な、何言わせんだよ!」 「……む。ならば私を抱き締めろ」 憮然に唇を尖らせ、レシラムがようやく構えを解いた。ゼクロムは安堵の息を紡いで、くるりとレシラムの方へと向き直す。稲妻を想わせる蒼白の眸と視線が交錯して―― 「……ほらよ。これで満足か?」 レシラムの華奢な身体を肩口へと引き寄せ、力強く抱擁する。ぽふ――と抵抗なくゼクロムの腕に収まるレシラムの身体は仄かな熱をともっていた。 ……身体が熱いのはレシラムの体温のせいか、それとも―― 「…………っ」 「ったく、抱けっつったのはお前だろ。何で黙るんだよ」 頬を朱に染めて口を一の字に引き結んでしまったレシラムを視界の端に入れ、口許を苦笑で歪める。己の口から紡がれた溜息は呆れからきたものか、それとも胸の鼓動で息苦しくなって吐いたものなのか。 本当に自分は片割れに振り回されてばかりだが不思議と悪い気はしなかった。 #pcomment(レシラムの日,10,below)