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1人と7匹の物語・サンダースも走れば・・・・・・? の変更点


 作[[呂蒙]]

 ある晩秋の日のことである。リクソンの家では大掃除が行われていた。
 大掃除をしているといろんなものが出てくる。
「ねー、リクソン。これどうする?」
「ん?」
 チラシが出てきた。どうやら、何かの割引券らしいが、もうとっくに期限が切れていた。
「使えないじゃん。捨てる」
 冷蔵庫からはもっとすごいものが出てきた。
「うわぁ~、このチーズ賞味期限が12月になってる」
「じゃあ、平気でしょ」
「去年の、だよ?」
「捨てろ、今すぐ」
 とまぁ、リクソンはどちらかというと、だらしない、ということが分かる。年に何回かこうやって大掃除をしないとすぐにゴミ屋敷になってしまう。
 本棚もよく見ると、読まない本というのもかなりある。そういうのは古本屋に売っ払ってしまうことにしている。
 机の引き出しも邪魔なものが多い。ほとんど入っているのは健康診断の書類だが、これは取っておく。人間用は捨ててしまっても問題ないのだが、ポケモン用の方は一種の身分証明書のような役割を果たすのでうかつに捨てられない。
 セイリュウ国の場合、野生のポケモンを捕まえたら、まず役所へ届け出て、いろいろと手続きをしないといけない。この手続きが実に面倒で、不備があると受け取ってもらえない。(どんな書類もそういうものかもしれないが) 届出をしたら、年に1回、健康診断を受けさせないといけない。無論、有料。リクソンの手持ちの7匹はそんなに大きいサイズのポケモンではないのでいいが、カイリューみたいなサイズになると、とんでもない額が飛んでいってしまうという。
「あ、そうかそろそろその時期だったな」
 が、今はとにかく部屋の掃除が先だ。
 1人と7匹でやると、そう時間はかからない。
「おーっ、見違えるようにきれいになった」
 と言っても、汚れてしまうのにそう時間はかからない。意図的に汚しているのではなく、普通に暮らしていればほこりは出るし、何よりも、ブースターをはじめ豊かな体毛を持つ種族が家の中を歩き回れば、毛が抜け落ちる。これに関しては何か良い手だてはないものか、といつも思っている。さすがに毎日掃除をするような暇は無いのだ。
「で、リクソン。健康診断のことについて話があるんでしょ」
「あ、そうだった」
 さすがはシャワーズ。しっかりしている。
「予約が要るでしょ。どうするの?」
「んなもん、決まってるだろ。バリョウに頼む」
「あ、やっぱりそうなのね・・・・・・」
 バリョウは長兄に頼んでいるとかで、そのためタダ同然で診断してもらっているらしい。ウィンディだからそれなりにお金はかかると思うのだが、相場の10分の1以下の値段で済むという。ボロアパートに住んでいたときは本当にお金が無く、切羽詰ってバリョウに相談したら快く引き受けてくれた。
 このように、ポケモンを持つというのは実にお金がかかることで、捕まえたらそれでおしまいではない。
「ところで、けんこーしんだんって何をやるの?」
 ブースターは初めてのため、それについては何も知らなかった。かといって、リクソンもそれについて何か知っているわけではなかった。
「え? う、ううん・・・・・・。バリウム飲んでレントゲンを撮るとか・・・・・・? う~ん、よく分からない。シャワーズ説明してやって」
「って、何でリクソンが知らないの? 私たちの主人でしょ、一応」
「(い、一応?) だってオレ人間だもん。受けたこと無いから分かるわけないじゃん」
「何で、そう堂々と答えるの、まぁいいわ。基本的には血液検査、身体測定、レントゲンね」
「何だ、人間と一緒じゃん」
「ごく当たり前のことを言うけど、コイルみたいなのは血液検査は無いから」
「そりゃそうだ」
「まぁ、分かんないことがあったら、バリョウさんに聞いてみるのね」
「分かったわ。ありがとう、シャワーズさん」
 しかし、健康診断は手持ちのポケモンが成長しているのが分かる、その点はリクソンにとっても嬉しいのだが、何だが最近、主人としての威厳がなくなってしまったような気がする。命令しなくても自分のことは自分でできるようになったということなのだろうが、何となくリクソンには寂しいことのように思えた。
 
 数日後、健康診断の結果が家に届いた。いたって、健康だから問題無いといえば無いが、元気すぎるのも考え物だ。
「さて、と・・・・・・」
 リクソンが上着を羽織った。
「あれ? リクソンどこ行くの?」
「バリョウの家だ。診断のお礼に行くわけだ」
 シャワーズの問いにリクソンが答える。
 お礼もあるが、実は、ウィンディの診断結果を見たいだけだったりする。やはり、他人のポケモンの診断結果は気になるものなのだ。リクソンには多くの知り合いがいるが、その中でもポケモンを持っているものは少ない。あまり考えたことは無いのだが、
(誰が、いるかな?)
 バリョウとその弟バショク。同級生のカンネイ。恩師 諸葛恪・・・・・・。そんなところだろうか? 自分の兄弟やその他にもいそうな気もするのだが、すぐに思いつくのはその4人だった。しかし、4人いれば良い方かも知れない。この国ではポケモンを持っている人自体少ないし、そもそも、面倒な手続きのため、ポケモントレーナーとして食っていく志のある人々は、ほとんどが海外へ武者修行へ行ってしまう。
 テレビやゲームではトレーナーが旅をする設定で、リクソン自身も自立する前は憧れが無いわけではなかったが、そのことをそれとなく、シャワーズ、サンダース、エーフィ、ブラッキーに言うと、一様に「ムリでしょ」といった主旨の言葉が返ってきた。リクソンが理由を聞くと、
「じゃ、リクソン。例えばフランスに行ったら、まずどこへ行くかしら?」
「オレだったら、ヴェルサイユ宮殿とか・・・・・・」
「でしょ?」
「って、シャワーズ、それが何か?」
「リクソンの場合、重点が観光旅行になって、武者修行どころじゃなくなるわよ、絶対」
 あの時は、そんなこと無いぞと思っていたが、大学に入って、長い休みなると海外へ貧乏旅行、というのがほぼ毎回であった。その内、武者修行など、どうでもよくなっていた。しかし、7匹を連れて世界一周旅行はしたいな、というささやかな野望はあった。まぁ、日本国のとある作家の本に影響されてのことだが。
 外は北風が冷たく、上着の上にさらにコートを羽織らないと、冷たい風が服を貫いて、皮膚に刺さってしまいそうな感じがする。
「ああっ、せっかくお手入れしたのに・・・・・・」 
 強い風のせいで、リーフィアの毛並みはめちゃくちゃになってしまった。
「別に留守番しててもいいけど?」
「大丈夫です」
「無理しなくてもいいよ」
「大丈夫です。私はもう主人のもとから離れるようなことはしたくないんです」
「・・・・・・」
 リクソンは返す言葉が見つからなかった。リーフィアの茶色い瞳の奥に秘められた出来事、それはもう二度と口には出したくなかった。次にリクソンの口から出た言葉が、
「・・・・・・行こう」
 ただ一言であった。

 しかし、バリョウの家につくころにはいつものリクソンに戻っていた。
「おお、まぁ、上がってくれよ。でっかいストーブがいるけど」
「いや、うちにもかわいいのがいるからそれはね・・・・・・」
 何故、知り合いの手持ちは炎タイプが多いのか? 謎だった。偶然なのかもしれないし、炎タイプの個体数が多いのかもしれない。
 バリョウがコーヒーを出してくれた。
「あ、グレイシアには熱すぎるか。アイスコーヒー作ろっか?」
「大丈夫よ、自分で冷ますから」
 グレイシアはこごえる風を使って自分好みの温度に変えた。それは、すごいのだが、コーヒーカップでアイスコーヒーを飲むのはどうなんだろう。
 バリョウはコーヒーを一杯すすると、
「あー、そーいえばね、検診のことなんだけど」
 バリョウが話を始めた。
「リクソンとこのサンダース、他のヤツに比べて丈夫なんだってさ」
「そりゃ、そうだろう。風邪とか引かないし。バカだから」
「ミサイル針、乱射用意・・・・・・」
「悪い、今のは冗談だ」
「いや、そういうことじゃなくて、体のつくりっていうのかな。他のサンダースに比べて防御能力がかなり高いらしいんだ」
「ふ~ん、遺伝かなぁ?」
「さぁ・・・・・・。でも、もともとサンプルの個体数が少なすぎて研究もロクに進んでないから、安易に検診結果として書くわけにはいかなかったんだって」
 さしもの、白眉バリョウも答えは出せずにいた。
「まぁ、でも丈夫だと思うぞ。こいつの小さい頃のビデオがあるから見るか?」
「え? そんなのがあるんだ」
「15年ぐらい前だったかな、近所の人が撮ってくれたんだよ」
「おいおい、それじゃオレ進化してないぞ」
「ま、でもいいだろ。確かウチにあったから取ってくるよ」
 リクソンはコーヒーを飲み干すと、再び寒空の下へ駆けていった。

  長針が一回転した頃、リクソンが戻ってきた。
「いやぁ、悪い。待たせたな」
 コートのポケットからビデオテープを取り出した。
「ビデオカメラってあるか?」
「ああ、多分あると思うぞ」
 バリョウが持ってきたビデオカメラにテープを入れて、テレビに繋いで、と・・・・・・。
「これでいいかな」
 再生のボタンを押すと、テレビに映像が現れる。リクソンいわく実家近辺で撮られたものだと言う。
「木々の葉っぱが落ちているから、冬に撮られたんだろうね」
「だろうな、正確な日時までは覚えていないけど」
 画面には1匹のイーブイ。散歩の途中だろうか? 楽しそうに走っている。
「これが、オレ?」
「お前以外いないだろ。こんなに走るのは。オレも苦労したぞ。こいつの散歩のとき」
 やがて、交差点に差し掛かる。交差点と言っても大通りではなく、住宅街の幅数メートルの道が交差するだけのところだ。
「なんかヤな予感がするんだけど」
「お、鋭いなエーフィ」
 エーフィの未来予知はまたしても当たった。もっとも、外れることなどまず無いのだが。
「あっ!!!!」
 画面を見ていた誰もがそう叫んだ。イーブイが交差点に飛び出したとき、運の悪いことに・・・・・・。
「お、おいピザ屋のバイクにはねられたぞ!」
 自分のことなのに、サンダースが一番驚いている。
「まさか即死しちゃったんじゃないだろうな」
「そしたら、本人はここにはいないわよ?」
 対照的にシャワーズは冷静だった。
「あ、バイクのドライバー、逃げたぞ」
「ひでぇ、ひき逃げだぞ。よく事件にならなかったな」
 しかし、画面のイーブイは何事も無かったかのように、また走り回っている。
「何と、タフな・・・・・・。鋼タイプもびっくりだな」
 ここで、映像は終わっていた。
「どうだった?」
 リクソンが感想を求めた。
「短くても内容がすごかったです」
「多分、サンダースを撮るというよりも、決定的瞬間を撮る為にサンダースを選んだんじゃないかしら」
「だろうな」
 リクソンも否定はしなかった。何だか本当にそんな気がしてきたのである。
「ま、まぁ、あれだ。あーやって走り回ってたから、これだけの素早さを身につけられたわけで・・・・・・」
「そこだけは、認めてやるよ」
 バリョウは何も言わずにまじまじとサンダースを見つめていた。
「え?」
「実に興味深いな。同じ種族でもそれぞれ個性があるって事だね」
「え? ああ、まぁ・・・・・・」
 正直、サンダースはバリョウのような冷静な性格のやつとはどうもそりが合わないな、と思っている。嫌いというわけではないのだが、自分のやることにブレーキをかけられるような感じがする、言い換えると、調子が狂わされてしまうのである。
「むぅ・・・・・・」
 サンダース不満そうな声を出すと、それから黙ってしまった。

  ◇◇◇

 それから、しばらくして大学でのこと。
 この日は特別寒い日で、雪が舞っていた。天気予報では、しばらくの間この寒さが続く、というようなことを言っていた。
「う~、寒い寒い。リクソン、早くラウンジに行って温まろうぜ」
「あ、そう。行けば?」
「ん? 待て待て待て。ずるいぞ自分だけ」
 リクソンはブースターを抱いていた。だから寒いはずが無いのだ。
「あ~。あったか~い。もふもふ」
「うふふ、そうでしょ。私の体毛の保温性はどんなポケモンにも負けないから」
 しかし、これでは誰がどう見てもブースターとイチャついてるようにしか見えない。
「やれやれ、見てらんねーぜって、うわああぁ、な、何だぁ!?」
 サンダースが走って校舎に入ろうとしたときに、上から大量の雪が落ちてきたのだ。どうやら、木に積もった雪が、運悪くサンダースの上に落ちてきたらしい。
「ああ、もう、くそう、オレ先に行ってるからなっ」
 ラウンジのエアコンは、暖かい空気を室内に送り込んでいる。
 そこには、バリョウとウィンディがいた。
 そこには、バリョウとウインディがいた。
「あれ~? 随分と寒そうだね」
「ああ」
「リクソンは?」
「もう来るでしょ」
「ふ~ん」
 それだけ言うと、バリョウは再び本を読み始めた。
「ちょっと待てよ」
「はい?」
「それだけ?」
「と、言うと?」
「バリョウさんのことだから、さっきオレに何があったか察しはつくだろ」
「ん? んん」
「心配してくれないのかよ」
「はぁ~、やれやれ。いい? 優しいリクソンのことだ。もしここで、オレがサンダースをいたわっているところをリクソンに見られたら、リクソンは自分がしっかりしてなかったから、友人にまで迷惑かけたと、自責の念に駆られてしまうかもしれない。まぁ、苛まれるわけだな。これでも、リクソンに気を使って、ああいう応対をしたわけだよ。人には良心の呵責っていうもんがあってね・・・・・・」
 短い間に、バリョウの口からは、機関銃の弾丸ように言葉が飛び出した。その内、サンダースには何を言っているのか分からなくなってしまった。もっとも、バリョウもサンダースに何かあったことは察しがついたが、心配しなくても大丈夫だろうと思っていた。が、「心配してない」とは言えなかったので、思いつくままに言葉を並べただけなのだ。
「え? んーまぁ、はぐらかされているような・・・・・・」
 サンダースは返す言葉が見つからず、何となく不満そうな顔をしていた。
 やがて、ウィンディがバリョウに小声で言う。
 やがて、ウインディがバリョウに小声で言う。
「おいおい、ちょっとサンダースのこと適当にあしらい過ぎじゃないか?」
「いやぁ~、あの不満そうな顔がかわいくってつい。それに、サンダースに理詰め攻・・・・・・と話している何だかあったかい気持ちになるんだよね。こいつがいるから、リクソンの家はにぎやかなんだね。なんて言うんだ、笑いが絶えない? うん」
「それで、上手くまとめたつもりか?」
「ふふっ」
 バリョウはカプチーノを一口すすり、本のページをめくった。
「いやぁ~、すごい雪だ」
「そうだな」
「何だ? グレイシアの大群が出てきそうだな」
「バリョウ、頼むからもうちょい分かりやすい形容を使ってくれ」
 雪は当分収まりそうに無かった。
 

 1人と7匹の物語・サンダースも走れば・・・・・・? 完結
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