[[Glacier]] 僕は透き通った蒼空の下、優しい緑の草原の上で寝転がっている。 なぜ僕はここにいるのか、ここはどこなのか。 何一つ分からない。 ただ、懐かしかった。 頬にふわりと何かがかすめた。 横へ視線を向けるとそこには僕の大切な、自分の最も大切な存在がいて そっと微笑んだ。 僕はその微笑みが愛おしくて、触れたくなって。 手を伸ばしたが、彼女は遠のいていく。 視界が狭まってゆく。 やがて、その幸せは淡い夢だということに気付く。 目覚めゆく意識の中で、忘れてしまう夢の儚さを噛み締めた。 ーーーー 「ここは……、」 目覚めると、僕は真っ白で柔らかなものに包まれていた。 それは、とても暖かく、心地が良い。 「目覚めたようだな。」 誰かが僕に話しかけた。とても優しい声だ。 僕を包んでいた、それがそっと僕を地面に下ろす。 「傷も癒えたようだ。」 白いそれ、話しかけてきた正体は海神と呼ばれる者。 ルギアだった。 「ここは私の巣だ。とても大きな爆発があって、見に行ったところ、傷ついたお前さんが沈んでゆくのが見えた。」 周りを見ると水で満たされている。 ドームのようになっている まるでガラスの水槽を切り取ったかのような不思議な空間だった。 「本来ならば、私はポケモンが死にかけていたって助けない。それが自然の理だからな。」 ルギアは目を細めて僕を見つめた。 「助けてくれてありがとう。僕の名前はクロといいます。」ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ 自然と自分の名前を口にした。 なぜだかそうするべきだと感じたからだ。 ルギアは優しい口調でまっすぐに僕を見つめながら。 「クロ、今から私はお前の心を見る、そしてお前を知る。」 僕は自然に 「はい」 と答えた。 その瞬間意識が朦朧とする。 僕は立っていられなくなる。 ルギアは1度目を閉じ、再び目を開くと真剣な表情になり、僕に投げかけた 「お前さんはその呪いをどこでいつ、どうやって受けた。」 「……。」 言葉の意味がわからなかった。 いや、僕は分かっている。 すべてが。 僕はすべて、分かっている……? 頭が痛い、目の奥に火がついたように熱い。 「クロ」 ルギアが僕の名を呼ぶ。 だが僕の耳には入っていてもその声を声と認識できていなかった。 空洞に僕の呻きだけが響く。 僕が耐えられなくなり膝から崩れ落ちた時、ルギアが僕をそっと抱き抱えた。 (クロ) 頭の中にルギアの声が聞こえた。 その瞬間、痛みは消えた。 ---- ぼんやりとした意識の中 頭の中に声が聞こえる 先程ので確信した。それはお前自身が自分にかけてしまった呪いだ。 ルギアは僕を撫でて、続けた ありえないもの、あってはならないもの。 お前さんにかかってるのはそんなものだ。 僕はただその言葉を受け止めた。 ルギアの言葉ひとつひとつを聞く度とても落ち着く かかった呪いは3つ。 命の呪い、死の呪い、そして不死の呪い。 お前さんから感じたもの、ホウオウの恨み、クロ自身の強い願い、プラムの夢。 僕の知らない?事や話していないはずのことまでルギアは話した。 命の呪い、寿命まで生きる呪(まじない)。 死の呪い、これをかけられた者は死ぬ。 不死の呪い、死者を生き返らせ永遠の命を与える。 それぞれ、大きな代償を伴う忌まわしき禁呪であり。 代償を払ったとしても成功するとは限らない。 ルギアは僕の頭をそっと撫でた、 命の呪いはプラムの夢、クロに寄り添い人生を共にするという夢から。 死の呪いはホウオウの恨み、一途な願いの為に殺されたホウオウの怨念から。 そして不死の呪いはクロの願望、愛する者を蘇らせたい、そんな強い願望から 僕は言葉が出なかった。 出せなかった。 それぞれの強い、強過ぎる想いからそれはクロに降りかかった。 代償として、ホウオウは炎を失い、プラムの遺体は消滅、そしてクロは死んだ。 ルギアが述べた事、混乱しそうで、 僕はまた頭が痛くなりそうだ。 呪いはすべて術者としてのクロへ。死の呪いを受け死んだクロは不死の呪いで生き返り、命の呪いで死ななくなってしまった。しかし、死の呪いはクロが生きていることで強さを増し、周りへ死をもたらす。 「クロ、この呪いは解けない。」 ルギアは申し訳なさそうにそう言った。 「解く方法が無いわけでは無いが、この呪いを解いた場合、お前は死ぬんだ。」 「そう、か……。」 僕は…… 「呪いがお前さんの命を蝕んでいる。それほどホウオウの死の呪いは強い。心当たりがあるだろう。」 ルカリオに不覚をとったり。 キリキザンとニダンギルの攻撃に耐えられず エッジの命を奪われた。 「クロ、お前は弱い。」 大切な人を、失い、殺された僕は弱い ルギアは僕を降ろして、 「クロ、もう一つ。お前は恐らく力の使い方がわからなくなってしまったのだろう。」 「それは……」 覚えがある。 そもそも僕はあんな小細工くらい少し力めば解ける。 「お前さんは平和と安息を願ったのだろう。それに長い時の中で世界も少し変わってきた。所謂、平和ボケだよ。」 平和ボケ……。 やはり僕は自分の力に頼り、傲りがあったのだ。 「クロ、私がお前の力を取り戻す手伝いをしてやろう。」 ルギアから思いがけない言葉が飛び出した。 が、僕にそれを断る理由は無い。 「そうか。よろしくな。」 返事をしていないのにルギアが心を読んだかのように僕の思ったことに対して返事をするので少し戸惑ったが。 ルギアは仮にもエスパータイプ。 それくらいは出来るのだろう。 「お願いします」 僕は改めてルギアにそう述べ、今は取り敢えず眠りたい気分だった。 「私の翼で眠ると良い……。おやすみ、クロ」 暖かい、心地が良い。 僕はこの感覚になんだか懐かしさを感じた。 ---- 目覚めると周りは明るかった。 どうやら昼間のようだ。 眠る前は暗かったので夜だったのだろう。 「起きたか。」 ルギアも寝ていたのか、首を持ち上げ僕を見る。 「僕が寝てて邪魔じゃないです?」 ふとそんな疑問を感じたが ルギアは微笑んで 「邪魔どころか、愛おしいくらいだ。」 「……実を言えば、私も長く生きてはいるが。ひとりは寂しいものでな。深海には他のポケモンもいるのだが、私を見ると怯えて逃げてしまう。」 ルギアは溜息をついて、顔をあげた。 「クロ、食事は何が良い。」 食事、か。ここのところ、全くものを食べていなかった気がする。 「幾ら餓死をしないと言っても、食事は大切なものだ。木の実ならある。食べると良い。」 ルギアはオボンとモモンを差し出してくれた、 僕はそれを食べる。 モモンの実は甘くて、その爽やかとも言える程良い甘さは僕の頭を冴えさせてくれた。 「ところで、力を取り戻すって言っても何をやるの?」 まさか、1から鍛え直すとかはあるまいときいてみる。 「昨晩話したように、お前さんは力の使い方を忘れているだけだ。その小さな体に目一杯の力は詰まっているから鍛える必要はあまりない。」 「で、具体的にはどうすれば。」 「簡単だ、お前さんの肉体は朽ちることが無い。では何がダメかと言えば、心だ。親しい者の死や、不条理への怒りがお前の心を弱くしていったんだ。」 言われてみれば、僕の性格はここ数100年で大分変わった。 前は、もう少し、自己中なところがあったものだ。 「自己中かどうかは別として、呪いを抑え込む程度には力を手に入れる必要があるだろう」 /執筆中……。