黒物語 8話 「黒く染まって。」 [[Glacier]] 僕は、エッジの亡骸をとある島の岬に埋葬した。 ここは、そこまで大きな島ではないが、 自然が多く、木のみも沢山ある島で、ポケモンや人間はいない島だ。 ここは僕以外はまずたどり着けない秘境だ。 故に僕は長年この島を住まいにしている。 家と言うには少し質素だが、小屋なんかも建ててある。 モルとフレイヤにここを目指すように書き置きを残してから5日が経った。 僕の頬にはまだ涙の跡があった。 ---- 軽率だった。 守れると確信してしまっていた。 怠慢だった。 エッジの顔を見れなかった。 声を、聞いていなかった。 エッジは何も悪くなかった。 僕の助けになろうとしただけだ。 なのに、僕のせいで命を散らしてしまった。 僕が殺したようなものだ。 そんな考えが頭の中を駆け巡る。 心を落ち着かせようにも、大切な人が死んだ時はそうもいかない。 自然と動悸も早くなる、死なないはずではあるが、死にそうなくらいだ。 息も荒い、正常な判断が出来なくなる。 自分の腕に思いっきり噛みついて無理やり心を落ち着ける。 痛みで落ち着き、頭が冴えてくる。 どうやら、僕の力はどうやらかなり弱くなっているらしい。 それに、あの人間の体が重くなる様な嫌な感覚にさせてくる、あのスタイラー。 そしてあの人工的な改造が施されたポケモン達。 あれは人道的なものではない。世はあれを悪と言うのだろう。 20年。 僕が本格的な戦闘を行わなかった期間だ。 この間に僕は弱くなり、敵は強くなった。 もっと前の僕なら、メガシンカしたルカリオの攻撃程度、なんともなかったはず。 やらなくてはなるまい。 鍛える必要がある。 前よりも、最も力を持っていた頃よりもっと。 神さえも超えなくてはならない。 そして、徹底的な復讐が必要だ。 仇討ちで終わるものなら。 世界中を敵にしてでも。 僕は、 ---- ……そうだ、これは。 過去にも1度経験したものだ。 僕は最初から死なないポケモンだったわけじゃない、ただ寿命はちょっと長かっただけだ。 それは、僕が死ななくなったきっかけでもあり、ぼくのこれからを大きく狂わせたものだ。 思えばあれ以来涙というものを流していなかったかもしれない。 僕が地上で生活を始めて20年ほど経った頃だろうか。 ぼくはその頃にはこの島を見つけていた。 この島は最初はポケモンが住んでいた。 この島で僕はひとりの素敵なイーブイに出会った。 彼女はプラムって名前で、優しくて、僕にとっての天使のようだった。 僕はこの島で生活するようになった。 知識だけではわからない愛情なんかも知れた。 彼女は僕の希望で生きがいだった。 やがて僕と彼女は番になり、子供もいたんだ。 ただ、彼女は病に侵されていた。 でも、治らない病じゃなかった。 その頃だ、この島に密猟者がやってきたのは。 密猟者の人間はこの島でポケモンを殺したり、捕獲していったりした。 そして、僕らの子供のイーブイにも手がかけられた。 プラムは最後までイーブイを守ろうと必死だった。 僕はその時、そばにいてやれなかったんだ。 必死で力を使いながら走って、まさにプラムが殺されそうになった時。僕はそこで始めて人間を殺した。 島のポケモンは僕とプラムだけになった。 ほかのポケモンはすべて死ぬか、島の外につれさられた。 そして幼いイーブイは死んでしまった。 彼女はそのショックと、イーブイを守るために無理をしたせいからか、病気が悪化して。 すぐに息を引き取った。 泣いた、叫んだ、行き場のない怒り、悲しみ、後悔をそこらじゅうに吐いてぶちまけた。 時間が経って、落ち着いてくると、僕は禁忌に手を出そうとした。 プラムを生き返らそうとしたんだ。 旅の途中で呼んだ書物。ホウオウについての伝説だ。 聖なる灰、それがあれば死者を蘇らせることが出来るがそれはホウオウの命と共にあるものだ。 だから僕は、ホウオウを探し出し殺した。 ホウオウの尾羽、血液を青い炎で燃やし、彼女の遺体に振り撒いた。 その時もだ、僕は過信しすぎていた。 儀式は失敗した。 彼女の遺体は焼失し、僕は不老不死になった。 書物の儀式は間違っていたものだったのだ。 彼女の遺体とホウオウの生贄により僕は禁忌を侵してこんな意味の無いことをしてしまった。 故に僕は家族を本当の意味で無くした。 僕は本当にひとりになってしまった。 心の中にあったのは悲しみよりも憎しみだ。 人間が憎い、いつも唐突に僕らから大切なものを奪っていく。 許せない。 許せない。 許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない。 復讐だ。 僕は絶対に悪を許せなくなった。 ---- 今までいくつの命を奪ってきただろうか。 悪い人間、邪魔をする人間、そのポケモン。 数百、数千、数万 覚えきれない、数え切れない命を奪った。 借り物の力で、殺しをしたんだ。 もしかしたら、そのせいで力が弱まってるのかもしれないのだが。 もともと対して強くないのを無理やりここまで積み上げてきたんだから関係ない。 ---- あのポケモンレンジャーは政府管轄下のものではない。 僕の記憶では北のさらに北。 氷河に施設がある。 今の僕の力では、ひとりで乗り込むのは自殺行為であろう。 いくら死なないとはいえ、捕獲されて研究材料のモルモットにされるのは御免だ。 そのためにもなにか、決定打になる武器が必要だろう。 と言っても、人間の作り出した銃なんかを使うのはあまり好ましくない。 僕はこれまでのすべての知識を使って復讐を果たすことにした。 とある本を読んだことがある。 ポケモンの体から採れた素材を使いいろいろなものを作りだすという、大昔に書かれた本だ。 ポケモンの体はとても強いものだ。 ギルガルドの鋼はこの世のどの鋼よりも硬くしなやかで折れない。 バンギラスの表皮はとても硬く、銃弾程度なら跳ね返せるほどだ。 死んだポケモン達に体を貸してもらい、復讐を果たすのも悪くない。 先日葬ったニダンギルの死体を僕は捨てていなかったので、少し削ってナイフにしてみた。 切っ先は鋭利で、刃は冷たい。 ……散々、人間がどうのこうの言っておいてなんだが。 僕が一番業が深いのかもしれないね。 ---- まず僕は、都市にあるポケモンの処分場に行くことにした。 この処分場は行く宛のなくなったポケモンが殺処分される場所である。 トレーナーが逃がしたりしたポケモンは強すぎたりして、危険であったり、自然や生態系を壊す恐れがあるからである。 僕はこういう身勝手な人間の行動も嫌いだが、仕方の無いことではあるとも思えてきてしまう。 嫌気が指す。 やがて処分されたポケモンの死骸が転がっている、廃棄物置き場をみつける。 施設の人間たちは全員眠ってもらっているので。 欲しいものだけ貰っていくことにした。 最近、とても沢山動いているせいか、すこし体が軋んで来るなぁなんて、オーダイルの死骸を運びながら海の上を走っている。 僕はパルキアに力を貸してもらっている。 亜空切断なんてものを使えるほど強くはなく、せいぜい自分の体の周りの空間をちょっとだけ歪ませたり、捻ったりする程度だけど、これを応用すると早く動けたり、海の上でも走ったりできる。でもこの力を使うととっても体が疲れてくる。 おかげで転んだりもするんだよね。 海の上で。 そんなこんなでいろいろなものを僕は集めた。 オーダイルの表皮を鞣したものや バンギラスの表皮、ガブリアスの腕鎌やカイリューの鱗皮。 使えそうなものはすべて集めた。 どれもポケモンの無念が伝わってくるものばかりだが、僕はこれを使って、人間に復讐をするのだから、無念も晴らされることだろう。 ---- 4回の夜が過ぎた 彼らを使って僕は体をダメージから護る鎧のようなものを作った。 鎧と言っても、とても軽いものだ。 しかしとても強いもので、多分爆撃にも耐えられるかもしれない。 ポケモンの死体は丁寧に埋葬した。 鎧を作りながらも、深海の圧に耐えるとか標高の高い場所に行くとかを繰り返してまぁ、少しはマシな状態に体も仕上げた。 既に、3週間が経とうとしている。 これ以上は僕が持たない。 ---- シンオウ地方よりはるかに北の氷に閉ざされた大地の真ん中に白い建物が建っている。 周りには何もなく、白いだけ。 僕はその建物の前にいた。 見張りや警備といった類のものはないようだ。 まぁ、この極限環境下での事だからだろう。 さて、ここからどうするか。 作戦と言ったような賢いものは用意していない。 それほどに僕は気がたっている。 もとよりここの人間は皆殺しにする予定である。 どうせなので正面から突っ込むことにしよう。 厚く重苦しい扉を蹴りで吹き飛ばし中に侵入する。 内部には警備がちゃんといるようで、すぐに銃を構え発砲してきた。 鎧は銃弾をしっかり弾いてくれた。 僕は自身の出せる全力で人間に近付き首を裂いていく。 壁や床、空気までが血飛沫で染まる。 それでも僕は復讐をやめない。 1通り殺し終わると僕は先に進む。 当たり前のことだが、後には戻れない。 戻るつもりもない。 少し進んだところで見たことのある姿が現れた。 例の改造ニダンギルだ。 しかし今回はニダンギルに混じって数体ギルガルドもいるようだ。 僕はあくのはどうを前方に向けて放射する。 ニダンギルとギルガルドには効果が抜群の攻撃だ。 だが、敵対する剣達は多少怯む程度でダメージがないようだった。 怯む程度で充分だった。 5秒経たずに過半数のニダンギルをへし折った。 油にも血漿にも似た無機物なポケモン特有の体液が滴る。 それでも感情を持たない剣は僕に攻撃をしてくる。 1度に攻撃されたため、鎧が少し欠けて、露出してる部分が少し切れた。 ここでまた僕の意識が薄くなっていった。 ---- 正気に戻ると、 施設内の生命はほぼ全てなくなっていた。 どうやら、研究材料のポケモンは襲撃があった時点で毒殺されるようだ。 僕は最深部の部屋に足を踏み入れた。 僕は目を疑い声を発して驚いた。 「なんてことだ……」 目の前にあったのは 生きているのかわからないポケモンが液体の中にある総長。 足元に散らばっている紙切れが視界に映った。 「生きたポケモンを核にした爆弾……?こんなものが……許されるはずが、」 ピッ 機械音が鳴った後、目の前の爆弾のカウントが2秒になった。 身体中が戦慄した。 ---- 9話に続く。 (我ながら酷い。) 誤字等の指摘はコメントにお願いします。 #comment