黒物語 第1章 6話 [[Glacier]] モルやフレイヤと話したあの夜、あれからは何事もなく、俺達は昼には会場のある街に着くことができた。 「クロ、大会はいつからなんだ?」 「貼ってあるポスターによると、明日の朝からだね。」 「少し時間があるな。」 「今回は"トレーナー"がいるから、ボールを投げられたりしないだろうから。少し街を見て回ろうか。お金はすこしならあるわけだし。」 フレイヤとモルは怪しまれないように街に入る少し前から人間になってもらっている。 「フレイヤ、辛くないかい?」 「私は大丈夫よ、流石モルちゃんねどこからどう見てもポケモントレーナーよ」 人間がたくさんいるのに違和感なく溶け込める高度な変身も流石メタモンと言ったところだ。 「私、お腹が空いたわ。どこかで食事にしない?」 「そうだね。あと、今夜の宿も探そうか。」 ---- 俺等は会場から近い宿を見つけてそこの食堂で食事をとることにした。 「ところでクロ、まさか後ろ足で立って相手を殴って倒すとか考えてないよな」 気になっていたことだ。 「それが手っ取り早いんだけどね。でも、目立ってしょうがないでしょ。だから普通に戦うべきなんだろうけど」 「あー……なるほどね」 フレイヤが思い出したように頷いたことで察した 「ブラッキー本来の戦い方、か。」 「そこだよね。今考えてるのは、アイアンテールでゴリ押そうかと思ってる」 「クロ、あれあったでしょ。麻痺眠り毒その他もろもろをまとめて引き起こすすごい技」 「なにそれこわい。」 「パッと見どくどくにしか見えないわよ、あれ。使えるんじゃない?」 「そうだね。当たれば勝てる技だからね。ブラッキーにぴったりの戦い方だね。」 とんでもない会話なのに馴れてしまっている自分が少し可笑しく思えてくる。 俺はみんなが食べるのを終えたのを見て 「食事も出来たし、街でも歩かないか?」 俺が言った瞬間フレイヤが目を輝かせて 「それなら!あそこの服屋に行ってもいい?今だから出来ることをしてみたいの!」 「今、着ている服はモルが頑張って維持してるのに近いから服は助かるね。」 「モルちゃんも綺麗な服試してみたくない?」 『そうですね、それだと助かりますし。おしゃれも試してみたいです。』 「そうと決まれば私達は服屋にゴーね!」 ---- 長い時間を生きてる僕にとっても今この時の記憶はずっと色濃く残るだろう。 信じられる仲間がいるから 長い間1人だったから 寂しかったんだ。 こんな時間がいつまでも続けばいいのに でも、僕は、 この体じゃ…… ---- ――ねぇ、ねぇったらクロ」 「ん。あぁ、ごめんね考えことをしてたんだ。」 目の前には白を貴重にした布をリボンで纏められた綺麗な服をまとった人間の姿のフレイヤ(とモル)がいた。 「ねぇ、この服綺麗でしょ?」 「うん……とっても。」 「ふふっ、良かったわ」 「俺から見ると、お似合いのカップルに見えるぜ」 「あら、嬉しいわねぇ」 「ふふ、そうだね僕は……。」 「クロ何か言った?」 「いや、何も言ってないよ。」 ---- 『本戦出場の16匹が揃ったぁぁぁぁ!』 まさか、予選がバトルロワイヤルだなんて……。 縛りがある僕には辛すぎるよ。 まぁ、怪しい光を撒きながら逃げ回ってたんだけどね。 「クロ、体力は大丈夫?」 「ははは、僕を誰だと思ってるんだい?大げさに言ってもここで負ける訳がないよ」 「うん、そうね。じゃあクロ、頼むわよ。」 「はいはい、ご主人様。」 トーナメント初戦は……。 キリキザンか、本来の悪タイプなら相性は最悪だね。 予選でも1匹に3撃以上食らわせずにダウンさせてたから目立ってた、きっとよく鍛えられているだろう。 ---- 『1回戦ポケモントレーナー フレイヤ対ポケモンレンジャー ニグマ』 ポケモンレンジャー……か、嫌いな奴らだ、あんまり派手には動けないね。 「いけ!キリキザン!ぶっ殺せ!」 「ザン!」 相手は物騒な言葉を叫びながらキリキザンをボールから繰り出す。 「クロ、お願い!」 「…。」 『バトル開始!!』 審判の合図と共にキリキザンが飛びかかってきた。 が クロは一瞬で消え、 キリキザンの腹部にはクロのアイアンテールがめり込んでいた。 「キッ…!?」 何が起こったのかわからないキリキザンは鳴き声にも聴こえない悲鳴を上げ、ダウンした。 『勝負あり!勝者、フレイヤ』 ほんの数秒の試合だった、観客は驚き、歓声を上げた。 「クロ、怪我は……ないわよね?」 「うん。さぁ、次だ。」 相手のポケモンレンジャーは舌打ちをしてキリキザンをボールに戻していた。 その後の2試合も、クロが数秒で敵を倒してしまった。 ---- そして、決勝。 相手はルカリオ。 だが、ただのルカリオではなかった。 『おっと!これはメガシンカだぁぁぁあ!』 実況の叫びと歓声も最高潮の中。 相手は立っていた。 クロの一撃をルカリオは見切られ、受け止められた。 そんな中でのメガシンカである。 「クロ、今がチャンスよ」 (分かってる、相手が完全に力を出す前に) クロは背後に回り込みアイアンテールを後頭部に撃ち込んだ。 今度は確かに入った。入った筈だが、倒れない。 そして振り向きざまにクロにアッパーを食らわせた。 「っ――(まさか、メガシンカがここまでなんてね。)」 「クロ!」 フレイヤが叫んだ瞬間 ルカリオのインファイトがクロをしっかり捉えていた。 (ダメージを受けるのも久しぶりだな) クロは表情は変えなかったが内心、運が悪ければ……と思っていた。 『ブラッキー硬い!まだまだ余裕そうだ!』 インファイトを撃ち終わり、半歩下がったルカリオの顔面にアイアンテールを食らわせ。さらに、地面に特製のどくどくをばら蒔いた。 ルカリオはそれでも発狂でもしているかのようにクロにけしかかっていった。 クロはそれを避けようとしたその瞬間 転んだ。 一瞬理解出来なかった。 自分のどくどくに滑った訳でもない、 クロが足先を見るとそこは毛の上からでも見えるほど腫れていた。 フレイヤの位置からは見えていた。 ルカリオが放った波動弾がクロの足に当たったことに。 だが、波動弾程度ならクロの体にここまでのダメージが来るはずもなかった。 それはクロの一瞬の気の緩みから、急所に当たり関節がズレたものだった。 クロがこけた瞬間、ルカリオはインファイトを連打した。 それは見ているフレイヤには辛いものであった。 「ッの野郎。」 クロがフレイヤの辛そうな表情を見て自分の足の関節を自力で入れ。 立ち上がった。 次の瞬間にはルカリオは倒れていた。 『な、何が起こったのかは分かりませんが。勝者フレイヤ!』 ---- 「クロお前、本気で殴った?」 エッジが疑問そうに聞いてくる 「本気って程でもないけど。少し強めにね。モルとフレイヤが辛そうだったから早めに終わらせたかったんだ。」 「目にも止まらないとはこのことだね。」 「フレイヤ、賞金は貰ったんだし、表彰式は出る必要はないよ。行こうか。」 (人間の視線が嫌いだ。) ---- 「フレイヤ、モルお疲れ様。」 ポケモンセンターで借りれる1部屋でフレイヤとモルは変身を解いて元の姿に戻っていた。 「んんー。モルちゃんがしっかり固定してくれたとはいえ、後ろ足だけで立つのは腰と足に来るわね…」 フレイヤはそう言いながら尻尾で腰をさすっている。 「……zzZ」 エッジはエッジで寝ている。 「で、クロ。欲しかったものは買えたの?」 「うん、手に入ったよ。」 クロは荷物の中から四角い端末を取り出した。 「世界の最新の地図、ニュース、時間がこれでわかるんだ。これで旅が楽になると思うんだ。目的地までの最短ルートも知りたいしね。」 「私にも扱えるものかしら?」 「モルと一緒なら使えるんじゃないかな?」 そのモルは今、僕の足を治している。 「クロもダメージは受けるのねぇ。」 「まぁ、この世に完璧なんてものがあるわけないからね。」 モルが僕の足から離れて 「おとうさま、足治りました。」 「あぁ、ありがとう。」 「では、私は先にお休みさせていただきます。」 外は既に真っ暗で、時間は9時をまわっていた。 「じゃあ、私も寝るわ。クロ、お休み。」 「ふたりともお休み」 クロはモルとフレイヤが寝たのを確認してそっと外へ出ていった。 ---- 外は街灯の明かりで道はあかるいものの、人は数えるほどもいなかった。 「さてと。」 クロは歩いてすぐ、人がまず来ないであろう路地に入っていった。 その瞬間、クロの後ろから飛んできた刃物が頬を掠めた 「やっぱり、つけてたのかい。」 クロは人の言葉で話した。 すると、ゴミ箱の影から人が現れた。 街灯のない路地で月明かりに照らされたのは 大会の1回戦でキリキザンを繰り出してきたポケモンレンジャーだった。 「やはりか。」 ポケモンレンジャーの男はそう言ってモンスターボールを5つ取り出した。 「ゆけ!お前達!」 男がそう言ってモンスターボールを投げると ニダンギルが4体にキリキザンが出てきた。 「これはまた……」 クロは顔を顰めた ポケモンの目が正気でないからだ。 クロは背後からの攻撃を飛んで避けた。 先ほど頬を掠めた刃物もニダンギルだったようだ。 「ブラッキー、規格外の強さ……、ポケモントレーナーに化けたポケモンと大会にか。」 ポケモンレンジャーはスタイラーに表示されたポケモン図鑑を見てニヤついていた。 「お前を捕獲すれば俺は昇進間違いなしだ。」 そう言ってポケモンレンジャーはニダンギルに指示をし、クロはニダンギルに囲まれてしまった。 「A.B.C.D.Eアタックだ」 その指示と共にニダンギル5体が一斉にせいなるつるぎを繰り出してきた。 ニダンギルの特性はノーガード、ニダンギルは防御なんてそっちのけで攻撃のみに集中してくる。 確実に攻撃を当てて消耗させていく作戦だろう。 クロはニダンギルの刃が当たる瞬間アイアンテールで攻撃を受けて防御した。 が、その瞬間上からキリキザンが迫ってきていた 「キリキザン、ハサミギロチンだ」 クロは目の前のニダンギルを咄嗟につかんでキリキザンの前に放った。 ニダンギルはゴーストタイプなのでハサミギロチンで倒れる事はない 相手は体制を立て直して、再び攻撃を仕掛けてきた。 クロはニダンギルにあくのはどうを当てるが、何故か倒れない。 「ニダンギルは特殊攻撃に弱いはず……なぜだ…?」 クロが全力を出すと周りに被害が出るため加減しているが、ニダンギル程度なら確実に仕留められるはずである。 「どうせ捕まっちまうんだから教えてやる。そいつらはうちの支給ポケモン科が改造で作り出した規格外のニダンギルだ。失敗作もたくさん出来たがな。」 そう男は言いながらもニダンギル達に指示を飛ばして 「お前、不死身なんだってな!政府の奴らはお前を極秘で探してるんだぜ」 「……っ。」 クロは猛攻を必死で処理していく。 「案外手こずるな。こいつも使うか。」 男はスタイラーをキャプチャモードに切り替えてクロに狙いを定めた。 「アレは……」 クロはスタイラーから微弱に発せられている嫌なものを感じ取った。 「キャプチャオン」 スタイラーから放たれた独楽のようなものがクロを囲もうとする。 クロは自身の周りにあくのはどうを放った。 「おっと、危ないな。だが、それに気を奪われてる暇があるのか?」 クロの死角に迫っていたニダンギルがクロの脇腹を貫いた。 「!?」 「お前の負けだよ」 男はクロが一瞬無意識になった隙に2回クロをキャプチャした。 ---- 体が重い。 普通のスタイラーなら僕をキャプチャした程度では、なんともないはず。なのだが 「このスタイラーは特別製だからな。」 心を見透かしたかのように男が言う。 「不死身のブラッキー【NS-01】もこれで終わりだな。」 2匹のニダンギルが僕を拘束しかけた時、 その時、男の体は吹っ飛んでいた。 「クロ!」 男を吹き飛ばしたのは1匹のグラエナ エッジだった。 「昼寝しすぎて夜中に起きてみればこれか、クロ。本気を出せばこんな奴ら……」 エッジの言う通り、本気を出せば確実に勝てる。 現に今も全力をだそうとしている ただ、キャプチャを受けてから体に力が入らないのだ。 「エッジ、逃げろ。今の僕は……」 僕のためにエッジが死ぬ事はない。 ただ、 「逃げるわけないだろ、クロが。目の前でクロが負けそうだっていうのに!」 ニダンギルが男を支えに行ったのが見えた。 「エッジ!早く逃げろ!僕は死なない!早く逃げろ!」 僕は力の入らない重い体に鞭をうってニダンギルを蹴散らして、エッジのもとに近寄る。 「エッジ、」 そう、僕が口にした瞬間。 ニダンギルの1対が僕の足を払った。 突然のことに僕は体制を崩してしまう。 その瞬間、 「エッジ!!!」 エッジの後ろにはキリキザンがハサミギロチンを構えていた。 エッジは僕の声が届いた瞬間、反射なのか上に避けようと飛び上がった。 が、それは最悪の避け方であった。 「…待て、…やめろ、エッジ!」 エッジはキリキザンに切り裂かれて落ちた。 地面に叩きつけられ、動かないエッジ。 エッジを切りつけた自身の腕の刃の血を払って落としながら近づいてくるキリキザン 僕の意識は途絶えた。 ---- 「よくやった、キリキザン。ブラッキーの方も気絶したようだ。これでミッションコンプリートだ。」 ニダンギルを杖のようにしてクロに近づく男 そして男は、動かなくなったエッジの体を 「このクソ犬が!人間にたてつきやがって!」 蹴り飛ばした。 バキッ…ゴキッ……… 男の背後で何かが折れる音がした。 男は、ブラッキーが動けないように念を込めてキリキザンが骨を折った物だと思った。 この状況でもう動ける訳がない。 そう考えていた。 男が振り向くとそこには。 刀身を折られ、断面から体液を流す3対のニダンギルであった そこにはクロの姿はなく。 チクッとトゲが刺さった痛みの次に、 自分の体が逆さまに見えた。 ---- 僕の意識が戻った時。 あの体の重さや脱力感はなく。 周りにポケモンと人間の死体だけが足下にあった。 「……エッジ」 そんな中、僕はエッジの動かない体を抱き。 「エッジ」 エッジの名前を呼んだ 「エッジ」 返事はない。 「エッジ」 胸が痛くなる。 「エッジ」 頭の中が真っ黒になってくる。 「…エッジ」 昔に枯れたと思っていた涙も溢れてくる。 その時、ピクリとも動かなかったエッジの口元が動いた。 「……。」 声は出ていないが。 僕の名前を呼んだ。 「エッジ」 僕は何も考えられなかった。 僕は自分の力を使い、エッジの傷を自分の体に移した。 この力を使うのは2度目だ。 そもそも、もう使う筈などなかった。 エッジが声を出さずにつぶやく 「…………―。」 僕はその動きから言葉を聴きとって。 もう、動くことのないその亡骸を抱いて。 泣いた。 どれだけ泣いただろうか。 涙が流れなくなった頃に、僕はふと、ポケモンセンターへ向かった。 あと数分で日が昇る。 モルとフレイヤはまだ寝ているだろう。 ポケモンセンターの一室に帰ってきて 僕は端末のメモ機能を立ち上げ。 まだ寝息を立てているふたりへメッセージを残した 僕はそれだけ終えると、フレイヤの前に荷物を置いて。 「さよなら」 ポケモンセンターを後にした。 自分の血でエッジが汚れないようにエッジを抱え、僕は走った。 やらなくてはならない。 そう決意を決めた。 7話に続く (誤字等の指摘はコメントまで。) #pcomment