黒物語 第1章 5話 [[Glacier]] 「ふむ……。」 僕は悩んでいた。 「どうしたのクロ、難しい事でも考えてるの?」 「いやね、旅をする上で僕は地図を持ってなかったんだけど。荷物も増えるし。だけど先ほどみた、ニンゲンの店の張り紙を看てね。」 「へぇ」 「とても小さい端末状のものらしいんだ。まぁ、この中では僕しか使えないけど。それなら荷物にもならないかなと思ってさ。」 「なら買えばいいじゃない?」 それもそうなんだけど。 「...高いんだよ。」 「クロもお金たくさん持ってなかったか?」 「エッジの成長のためのドリンク買ったりしてたし、別件で少し使っちゃってね、ニンゲンのよく言う金欠状態なんだよ。」 「そうなのか、んーと」 木の実を売っても対したお金にはならないだろうし。どうしたものやら。 「あら、ならトレーナーにポケモンバトルで勝って賞金を貰うなんて方法もあるじゃない?」 「ダメだ、君たちを戦わせるなんてリスクが高すぎるだろう?」 「戦うのは私達じゃないわよ?」 「どういうことだい?」 「クロ、あなたが戦えば良いのよ。」 何を言い出すかと思えば…… 「無理な話じゃないか?僕しかトレーナー役を出来ないじゃないか」 「あら、私にだって出来る事よ?」 「なっ……薄々勘づいてはいたけど。モルに協力してもらうつもりじゃないだろな。」 「さすがクロ、私の考えはお見通しね」 こんな早い段階でモルにお世話になるとはね…… モルはメタモン。だから変身を使えば大概の生き物には変身出来る。 そして、モルは他の生き物から少し血を貰うことで色々な事が出来る。 「モルか…、モルに話を聞いてみよう。」 荷物の中に一つだけ入っているモンスターボール。僕はそれのボタンを押して中からポケモンを出した。 「おはよう、モル。」 出てきた真っ白なメタモンはあくびをして。 「おはようございます、おとうさま。」 僕の事をおとうさまと呼ぶ。 「おはようモルちゃん私のこと覚えてる?」 「はい、フレイヤさん。お久しぶりでございます。そちらのグラエナさんは初めましてですよね。お名前を伺っても宜しいでしょうか。」 「は、初めまして。エッジと申します」 モルの丁寧な言葉使いにエッジも困惑してるのかな。そんなことより。 「モル、起きたばかりで申し訳ないんだけど。お仕事を頼んでも良いかな?」 「はい、何なりとお申し付けください。おとうさま!」 モルの調子は良さそうだね。 「な、なぁクロなんでモルはお前のことおとうさまって呼ぶんだ?」 「それはね」 「おとうさまはモルの事を救って下さいました。今まで奴隷の様な扱いを受けていたモルにとてもお優しく接していただき。まるで父の様な暖かさを感じたので。おとうさまとお呼びしているのです」 「なるほど、クロは優しいんだな。」 「モルはメタモンとしては異質で、野生では生きていけない……。誰かが側にいてあげないといけないってこともある。」 「はい、おとうさま」 「話が逸れたね、モルお仕事はフレイヤを核にニンゲンに変身して欲しいんだ。ニンゲンの言葉は忘れてないよね?」 『はい、おとうさま。』 モルはニンゲンの言葉で返事をしてくれた。大丈夫そうだ。 「モルも良いと言ってくれたみたいだし。あとはどんなトレーナーと戦うか、だね。」 そこら辺にいるトレーナーにバトルを仕掛けても貰える賞金は知れているとして。 「その辺、私に抜かりはないわよ。私が何年生きていると思ってるの。ニンゲンの、言葉が話せなくとも。文字くらいは読めるわよ。」 「で、その案は?」 「二つ先のニンゲンの街。そこで大会というものが行われるらしいわ。そこで勝てばたくさんのお金が貰えるの。」 「なるほど、大会が行われるのか」 フレイヤにしてはなかなかの考えで、正直僕もびっくりしたよ、ニンゲンの文字が読めるようになってたなんて知らなかったしさ。 「そうと決まれば、早く向かいましょ?大会は4日後よ?」 「えっ?」 間に合わなくは無いと思うけど。 「じゃあのんびり、急ごうか。」 ---- ~12時間後~ 「おとうさま」 移動のためにピカチュウの姿に変身したモルが唐突に口を開いた。 「なんだい?」 「歩き続けですが、休憩されては如何でしょう。」 「僕はまだ、」 ……あぁ、そうだ。 長らく1人だったからね 「今日はこのへんで休もうか。」 ---- 俺はクロに着いてきて正解だったのだろうか。 まだ短いが一緒に歩いて来てそう思い始めた。 俺はクロのおかげでほかの奴らと同じかそれより少し強いくらいにはなれた。 だが、それでも俺は弱い。 クロにフレイヤの足元にさえ及ばない。 それに、 「眠れないのですか?」 後ろにはピカチュウの姿をしたモルがいた。 「少し考え事をね」 「その考え事とは劣等感の事ですか?」 「…………」 「あなたが歩いているのを見ていて、時折悲しそうな顔を見せるのです。」 「俺はそんな顔をしていたか…」 「そして、おとうさまとフレイヤさんを見て下を向く動作も。」 「なんでもわかるんだな、君は」 「いろいろなことをおとうさまに教わりました。最低限の戦い方や話し方。世界の事も。」 「君は……。クロを知っているかい?」 「その質問は、とても答えにくいですね。でも、おとうさまの事はよくわかります。」 「あなたは、何かを見たのではないでしょうか?」 「あぁ、そうだよ。俺はクロが崖から落ちて、全身を地面に打ち付けられているのを見た。」 「なるほど。」 「その後、5分くらいかな。何事もなかったかのように起き上がって。また崖を登ろうとするところまでね。」 「おとうさまは見られたのを知っているのでしょうか?」 「再び、崖を登り始めようとしたところで話しかけたから。見られたのは気づいてないんじゃないかな。」 「おとうさまは死なないのを見られるのは気にしてはいませんが。気付いていないかも知れませんね。」 「その後、フレイヤとクロが話してた話でクロがフレイヤの祖母の頃から生きている事になるのに気付いてしっかりと理解したよ。クロは少なくとも1万年は生きているんだろうってね。」 「もっと長いですね。今日を合わせて、1兆2億5万3千6百85日ですね。」 「そんなに……。」 「七つの神と獣が出てくる神話を聞いた事はありますか?」 「うん、とても老いたコータスから聞いたことがあるよ。」 「その神話が書かれたのはいまから1兆1億年前です。」 「つまり、神話に出てくる獣は……」 ハッとしたようにエッジは言った。 「おとうさまの事です。」 「つまりクロは神様の力を持ったポケモン……。」 「そうなりますね。」 「ところで、モル。君はなぜ、そんなにクロのことに詳しいんだい?君はそんなに長い時間を生きているとは思えないんだ。」 「私は30年前に生まれたんです。おとうさまは自分の事は喋りませんでしたが、記憶は見ました。」 「記憶を?どうやって?」 モルは少し間を置いて 「それはちょっと言えません。」 「無理には聞かないよ。」 「――あなたは絶望を経験しましたか?」 「絶望?」 「そうです、絶望です。例えば、愛する者を目の前で殺された。とか」 「……。」 「思いつきませんか?」 「いや、一つだけあるよ。これは僕だけしか知らない。だれにも言ったことがない。」 「おとうさまは絶望や深い悲しみを経験した者に近付いてしまう呪いか何かを貰ってるみたいですね。」 「?」 「私は多くのポケモンの絶望と痛みの元、作られました。フレイヤさんは深い悲しみを。」 「呼んだかしら?」 いつからいたのかそこにはフレイヤがいた。 「あれ、クロは?」 「仮眠中よ」 「クロはいいポケモンよ。優しくて、強くて、夜の方もとても上手いわよ。私が本気で襲わないと乗ってくれないけど。」 「へ、へぇ」 「――&size(10){そして静かに怒っているのよ};……」 「何か言いました?」 「いえ、気のせいじゃない?」 6話に続く。 (96の日出し投稿しないと不味いかなと思い、1日かけて書き上げました。いろいろ展開速すぎて後に自分が困ることになりそうですが。書きはじめた以上は完結させます( '-' ) 誤字ってるかもしれませんが……。誤字や、おかしな表現は指摘して頂けるとありがたいです。) #pcomment