*黒き&ruby(からだ){軆};と白き&ruby(こころ){志}; 第1話 [#z7f9242e] これは私がスペードの時に書いていた作品です。現在投稿されている12話を全て修正してから上げるつもりでしたが、手違いで投稿してしまいました、申し訳ありません… 作者:[[トランス]] [[まとめ>黒き軆と白き志]] ※&color(red){流血、グロテスク表現があります。};苦手な方は↓より引き返してください。 [[トップページ]] ---- 厚く空に張り巡らされた暗雲。それらは空中で互いにぶつかり合い、鈍い光と共に重く響く音を放っている。そんな薄暗い空の下には、絶望に心を漆黒に染められた、1人の幼い子供がいた… 「あ…ああ…」 子供は目の前に突き付けられた現実に、小さな心をズタズタにされていた。 頭の中では信じたくない、信じるなと、拒否している。でも心の中では理解してしまっている。そんな矛盾した感覚が子供の中で渦を巻き、更に追い込んでいく。 暗雲に覆われた空も、追い込まれてゆく子の心に呼応したかの様に、ぽつぽつと冷たい雫を落とし始めた。 「何で…?どうして…」 次に心の内にせり上がってきたものは疑問。理解し難い現実。何故自分が?そんな考えばかりが頭を過る。自分はなにもしていない。それなのに、何故こんな仕打ちを受けなければならないのか。次から次へと浮かび上がる疑問に、彼の幼い頭は答えを見出だすことも出来ずに混乱していた。 雨は収まる事をを知らない。それは子の考えが浮かび上がる度に激しさを増し、堪らなくなって心の隅に追いやる度に、空は光を放ち嘶く。冷たい雫は風に運ばれ洞窟内にも侵入し、岩壁に飛び散った大量の血を流していく。 「ねぇ…何でそんなところで寝てるの…?起きてよ…母さん、父さん…」 雷鳴はその子を嘲笑うかのように唸りを上げ鳴り響く。降り頻る雨音とそのやかましい雷鳴が、目の前の光景を現実味の無い、ふわふわとしたものにさえ見せてくる。そのせいで、幼いその子の頭には、何が起きたかまだハッキリとは理解出来ていなかった。 そっと、倒れている両親の下へ近付く。真っ赤に染まった土の上で伏せる2つの身体は、ぴくりとも動かない。動く様子すら、全く無い。しかし洞窟の中は薄暗く、その全身を見ることは出来ない。 その時、ひときわ大きな音と共に、雷鳴が鳴り響いた。すぐ側の森にでも、落雷したのだろう。轟音が鳴り響くと同時に、洞窟内が一瞬だけ、昼間のように明るく照らし出された… ──倒れている両親の頭は、原型を留めていなかった。 ---- 「うわあぁあぁぁあぁぁああッ!!!」 レノは自分の悲鳴で目を覚ました。 「…ハァ…ハァ…」 その青い体は汗だくになり、顔を覆う黒い毛も濡らしていた。首を飾る紅石も、濡れてキラキラと輝いている。 「……。」 レノは身体を横たえたまま長い首をもたげ、ゆっくりと辺りを見回す。 目の前は真っ黒い毛で覆われている為物質をはっきり視認するのは難しいが、光を感じることは可能だ。住居の洞穴の入り口から、眩い光が差し込んで来ている。山の側を飛んでいるのか、マメパトの鳴き声も聞こえてきた。 (夢か…) 最近、過去の残酷な出来事の夢をよく見るレノは、軽く溜め息をつくと体を起こした。 ──ここはイッシュ地方…カントーやジョウト、ホウエン、シンオウといった、互いに寄り添い合っている別地方と違い、それらと少々距離のある地域だ。その為かイッシュ地方のポケモンはみな警戒心が強く、別地方のポケモンを酷く拒む傾向がある。他のポケモンは寄せ付けない上に、自ら別地方へ渡ろうとする事も滅多に無いため、イッシュ地方は同じ国でありながら他の地方とは別世界の様なところがある。 モノズという龍の子、レノが住むのは、そのイッシュ地方の北部に位置する巨大な山、革命山である。周囲は頂に掛けてまるで雛壇の様な構造をしていて、外側から登るのはほぼ不可能だ。昔から険しい山だったのだが、この様な形状になったのには訳がある。 革命山は人間達の間ではチャンピオンロードと言われるだけあり、トレーナーならば必ず訪れる場所だったのだ。来る日も来る日も大勢の人間が険しい坂道を登っていく内に坂は磨り減り、やがて高い崖へと変わっていった、という事だ。 レノの住居は、大体八号目辺りにある小さな洞穴である。昔はもう少し広い洞窟に住んでいたのだが、1人になってからは此方へ越してきたのである。 レノはお座りの体勢のまま、暫くぼーっと目の前の空間を見つめていたが、突然彼の頭に声が聞こえてきた。 【おはよう!目覚めは…あんまり良くないみたいだね。】 「!?」 頭の中に直接響く声に驚き、レノは辺りを見回すも何もいない。 【驚いてるみたいだけど、時間がないから単刀直入に言うね。今日中に君の友達と一緒に“帰らずの洞窟”に来てほしいんだ。分かった?必ず今日中に来てね!!】 レノが何を言えばいいのか分からず口をパクパクと開閉している内に、声は途切れてしまった。 ──僕はまだ、夢を見ているんだろうか。 いや、ハッキリと聞こえたのだ目はちゃんと覚めている。けれど、全く聞き覚えのない声。一体何者だったのか… 「おーいレノー!起きてるかー!?」 その時、外から聞き慣れた声が聞こえた。入り口の方に顔を上げるとそこには、一匹のワシボン。全身から生える青い羽毛は陽射しを浴びて艶やかに輝き、頭部から胸部を覆うふわふわとした真っ白い羽毛は風でもさもさと揺れている。 「おぅレノ!どうした?そんな顔して」 「…あぁウォルか…おはよう。いや、今ちょっと変な事があって…」 レノの友人らしいウォルというワシボンは、好奇心旺盛なのか、レノの言葉を聞いた途端にその瞳を瞬く間に興味の色に染め上げていた。 レノは先程の出来事をウォルに話した。悪夢を見て目が覚めた事、そうしたら突然聞き覚えの無い声が聞こえたという事。 内容を聞き終えたウォルは首を傾げて考え始める。 「うーん、全く聞き覚えが無いんじゃ誰って特定すんのは難しいなぁ…。やっぱり一番手っ取り早いのは行ってみることだな。“帰らずの洞窟”に。」 「やっぱり…」 確かにウォルの言う通りなのだが、レノには2つ不安があった。 1つ目は、その名の通り今まで入った者は誰一人戻って来なかったと言われる“帰らずの洞窟”に、入りたく無いという事。2つ目は、もしかしたら凶暴なポケモンの罠だったりするのではないか、という不安があるという事。 レノの様子を見て彼の考えを察したのか、ウォルはレノを励ますように足でレノの後ろ足を軽く蹴って言った。 「大丈夫だって!多分その『もう1人の友達』ってのは、オイラのことだろう?だからオイラも着いてくからな!」 ウォルの言葉を聞いて、レノは先程の言葉を思い出す。確かに、『もう1人の友達』と言われれば真っ先に候補に上がるのはウォルだ。二匹は幼馴染みで、二匹とも幼い頃に両親を何者かに殺害され、今までお互いに助け合って育ってきたのだ。お互いの事は良く解りあえるし、仲だってかなりいい。他に友達はいるにはいるが、レノにとってはウォルだけが本当の友達と呼べるものだった。 ウォルにも関係することとなると、尚更気になる。ウォルの言う通り、これはもう行ってみた方が早いだろう。思い立ったレノは立ち上がると、ウォルの方を向き笑い掛ける。 「…そうだね。少し不安だけど、行動しなきゃ始まらない。行ってみようか。」 笑い掛けられたウォルはニカッと破顔してそれに頷き、2人は洞窟に向かうことにした… ---- 帰らずの洞窟は、革命山頂に、何時の間にか出来ていた巨大な洞窟だった。革命山に住むポケモン達には当然、興味を抱いた者も多く、今まで様々なポケモンが入っていったのだが…それきり、帰ってきた者はいなかったのだ。 登山用に造られた、山の内部の砂利道を登りながら、そんなことを考えていたレノの不安はだんだんと大きくなっていた。 しばらくして、二匹は山の頂にたどり着く。レノの住居からは二号分程で、尚且山の内部から登った為大した時間もかからず、体力もあまり減らすことなく着くことが出来た。 頂に到着してまず目の前に飛び込んできたのは、麓から拡がる樹海の景色。思わず崖の端へ駆け寄った二匹は、横に並びながらその美しさに見とれていた。 遠くの空を、スワンナの群れが飛んでいる。 一面に広がる密林の中には、此処からでも沢山のポケモンが見えた。 昇ってきた太陽から降り注ぐ陽射しをがキラキラと光り山肌を温めてゆく。 この殺風景でごつごつとした岩山も、朝日と夕日を浴びた時は見違える程に美しくなるのだ。 「さてと…行くか!」 「…そうだね。」 やがて、満足したウォルが切り出し、二匹は本来の目的の為にさっと振り返った。 そこには元来た道へ続く入り口と…それの一回りは大きな口をあけた洞窟の入り口があった。 まだ入ってすらいないというのに周囲に漂う空気は明らかに危険な雰囲気を醸し出しており、その空気を敏感に感じ取ったレノは更なる不安感を覚え、すぐにでも此処から立ち去りたいという感覚に駆られた。 しかし、ウォルは逆にその好奇心に火を点けられたようで、希望に満ちていた目を更に輝かせていた。 「すげぇなっ…早速行こうぜ!」 「ちょ、ちょっと待ってよ、あの帰らずの洞窟だよ?もう少し慎重にさ…ちゃんと気持ちを整えてから…」 「いいから!早くいくぞッ!」 「うわっ…こら、離せ!」 とうとう痺れを切らしたのか、ウォルはレノの忠告も聞かずに嘴でレノの尻尾をくわえ飛び上がると、洞窟に向かっていった。 レノは暴れるが、ウォルはそれをものともせず洞窟に入っていく。既に自分より重いレノを、嘴の力だけで軽々持ち上げているのだからお分かりだろうが、ウォルはかなりの力もちである。 確かにこれなら素早く洞窟の奥に行けるが、何時何が起こるか解らない。奥へ奥へと進んで、大量の敵に襲われたら絶対に逃げられないだろう。それに、此処に呼び寄せたのは見知らぬ相手、十分に注意しなければならない。 レノはウォルを止めようと、必死に抵抗を続けるが、ウォルは全く動じない上に興奮していて周りがよくみえなくなっているようだ。こうなったら探索しきるまで止まらないだろう。 レノは溜め息をつくと抵抗を諦め、ウォルに身を任せた。 ──狭い洞窟内にウォルが羽ばたく音が響いて、驚いたコロモリ達が甲高い声で鳴きながら逃げていく。既に大分奥まで来ていたらしく、その声は岩壁に反響し暫く響いていた。視界には後ろに流れていく岩の道が続くばかりで、更に何度も跳ね返る声を聞いている内に、眠ってはいないがレノの意識は別の方へいっているようだ。 「のわぁっ!」 「うわっ!?」 と、突然ウォルが勢いよく後ろにとんだ。何かにぶつかって跳ね返ったようだ。地面にうつ伏せに倒れたレノは、ようやく止まったことでこれ幸いと、直ぐ様尻餅をついているウォルに向き直り、再度注意を施す。 「だから言ったじゃん…此処は本当に慎重に行った方が…」 そこまで言って、ウォルの異変に気付く。 ウォルは何故かひきつった顔で洞窟の奥の方を見上げていた。何かと思い、反射的にそちらを向いたレノもぎょっとした。 何故なら── そこには傷痕の残る硬い鎧の様な鱗に身体を覆われ、巨大な牙を携えた、オノノクスが立っていたからだ。 「なっ…何だよコイツーッ!」 ウォルが思わず叫び声を上げた。 ---- ──オノノクスは二匹をひと睨みすると、鋭い爪を突きだして襲い掛かってきた! 「うわぁっ!」 「ひえぇ〜!」 オノノクスが放った“ドラゴンクロー”は、二匹が先程まで立っていた岩の地面を粉砕した。 「何だよレノー!なんでアイツオイラ達に攻撃してくるんだよぉー!」 「ウォルがぶつかったからでしょーッ!だから慎重にって言ったんだ!やっぱり罠だったんだよぉ!」 二匹は必死に元来た道駆け戻りながら大声で叫ぶ。が、当然相手もみすみす帰すつもりはないらしい。 「逃がさん…」 オノノクスは二匹を逃がすまいとその大きく、重量感のある足を持ち上げ、そのまま勢いをつけて地面を踏み込んだ! 衝撃で地面が大きく揺れる。 「っ!?」 「レノッ!」 突然の揺れに足を取られたレノはその場に転倒してしまった。飛行しながら先へ進んでいたウォルは慌てて旋回し、レノの尻尾をくわえて再度飛び立った。しかし── 「!っぅおっとぉ!」 少し先の岩の天井が崩れ、落下してきたのだ。幸い素早く動くことの出来るウォルはなんとか急停止して落下してきた岩をかわせたが、出口が岩で完全に塞がれてしまった。 「くそっ…。こうなったら戦おうレノ!」 「た、戦うったって…僕たちじゃまるで敵わない相手だよ…?」 ウォルは気を奮い立たせ戦闘体勢に入ったが、レノは自分達との格の違いに、怖じ気付いてしまっていた。 ただはっきり言って、このオノノクスに勝てる確率は万に一つもないだろう。一発目の“ドラゴンクロー”の破壊力、二発目の足止めの為の“地震”から“岩雪崩れ"の合わせ技。たった二発でこれだけの力を見せ付けられたのだ。戦闘経験の薄い自分達が敵うはずがない── 消極的な考えばかりが脳裏を過り、レノの踏ん切りを利かせなくしてゆく。そんな逃げ腰になるレノに苛立ちを感じたのか、ウォルはとうとう一匹でオノノクスへと向かっていった。 「ならレノはどっかに隠れてろよッ、アイツを倒すくらいオイラ1人で十分だッ!」 そう叫び、連続で“エアスラッシュ”を放つ!しかし、オノノクスは避けるどころか、防御しようともしない。 “エアスラッシュ”はそのまま真っ直ぐにオノノクスへと向かう。しかし次の瞬間、ウォルの予想を遥かに越えた事態が起こった。 「うっ嘘だろ〜!?」 何と、オノノクスの強靭な身体に逆にエアスラッシュが弾き飛ばされてしまったのだ!更にオノノクスは動揺し隙だらけになっているウォルに向けて太い尻尾を振るい弾き飛ばした。 「うわあぁッ!」 「ウォルッ!!」 “ドラゴンテール”をまともに喰らったウォルはレノのすぐ側まで転がって来た。オノノクスにとっては軽く弾いた程度だったようだが、体の小さいウォルにとってはダメージは大きかったようで、既に気を失っていた。 「よくも…よくもウォルを傷付けたなッ!!」 血は繋がっていなくとも、自分の兄弟的存在であるウォルを傷つけられたことに怒りを感じたレノは、全身に龍の波動を纏い、オノノクスに勢いよく突進した。 ──ドラゴンタイプの技のでは高威力の“ドラゴンダイブ”。これは、レノの捨て身の賭けだった。 レノの両親は、本来のサザンドラには無い、特殊な力を持っていた。それは『レノの一族』に言い伝えられている特別な力。戦闘に特化した肉体の反応。 普段戦っていない間にも体内に力がどんどん溜め込まれるらしく、いざ技を発動した際にそれは解き放たれ、技が凄まじい威力になるのだ。 しかし、“ドラゴンダイブ”は元々高威力の技。その威力が飛躍的に上がるには自分にも大きなリスクがある。つまり、これで決めなければ次はないかもしれない。 「うおぉおぉぉおッ!!」 レノは咆哮し、オノノクスに全力で突っ込んだ!!辺りに衝突の轟音が響き、爆煙が上がった。 「ッ…。」 確かに手応えはあった。レノは自分に返ってきた強いダメージに辛そうにしているが、攻撃が当たった感覚はあった。注意深く、立ち込める煙に目を凝らす。 ──もうもうと立ち込める煙の中に、オノノクスのシルエットが少しずつ浮かび上がってきた…! ──ああ…こんなところで死ぬのか。昔から災難な事ばかりだとは思っていたけれど、まさかこんなに早くに命を落とすなんて。 …でも、これでもう誰も怖がらせる心配はなくなる。この力のせいで、周りは皆僕を恐れていたし、まだ上手くコントロール出来ないから、護ることなど出来やしない。寧ろ巻き込んで、傷付ける。 これはそんな僕に天からのお告げなんだ。僕はやっぱり…両親と一緒に死ぬべきだったんだ。何より、あの時は僕自身死にたいと思ってたじゃないか、これで母さんと父さんの所にいける。抗う必要なんて── 抗う必要なんてない。そう考えようとしていたその時、ある考えが頭の中を過った。 でも、此処で自分が死んだら、ウォルはどうなるか。…あのままでは逃げられるとは思えない。そうなったら…ウォルも、殺される…? 嫌だ。ウォルには生きていて欲しい。生きる希望を失っていた僕を励まして、ここまで育ててくれたのは他でもない、ウォルだ。自分だって辛かった筈なのに。僕を何時でも支えてくれたんだ。 僕は…ウォルを護るって誓ったんじゃないのか。 ウォルを死なせる訳にはいかない。ウォルが死ぬなんて、絶対に、嫌だッ…! まだ死ぬわけにはいかないと、レノは痛む身体を無理矢理立たせる 「ううッ…」 「ぅ…、!?レノ!?」 その時、ウォルが目を覚ました。投げ飛ばされた程度だったから、回復が早かったらしい。気が付いたウォルは、煙の向こうで佇むオノノクスと、自分の前でフラフラになっているレノを見て目を丸くしていた。 レノは構わず、攻撃しようとオノノクスに近付こうとした。けれど。 「っ──」 思いのほか、ダメージが大きかったらしい。途中で力尽きたレノは、崩れるようにして倒れ込んでしまった。 それを見たウォルは直ぐ様身を起こすと、倒れたレノの前に立ちはだかり、オノノクスから庇うようにした。 「やめろ!これ以上レノを傷付けたら許さないッ!」 ウォルは必死で叫ぶ。 ──オイラが弱いばっかりに、レノを傷つけてしまった。 レノは、弱虫の癖にオイラを護ろうと強がってて。オイラが護らなきゃって思って、今まで一緒に過ごしてきた。でも、オイラも強がってただけで。時々挫けそうになった。そんな時でもレノはずっと、オイラの側にいてくれた。 レノはオイラの生きる希望だ。大切な家族だ。これ以上、傷付けさせる訳にはいかないッ! オイラは昔、大事なものを護れなかったんだ。だからこれからは…みんなみんな、絶対に護り通さなきゃならないんだ。 アイツみたいな奴が、もう出ないために…! その一部始終を観ていたオノノクスは、突然声を上げて笑いだした。 「っ…??」 突然笑いだしたオノノクスを見て、キョトンとするウォル。 「成る程。確かにティニ様が目をつけただけの事はあるな…。」 オノノクスはそう呟くと、自分の身体についた埃を払い、ゆっくりと背を向ける。そして首を捻って振り返ると、ウォルについてこいと指で示し、洞窟の奥へと進んでいった…。 「え……?」 何がなんだか解らなかった。自分達を食べようとしていた訳ではないのか?と、ウォルは首を傾げる。 そうこうしている内に、オノノクスはどんどん奥へと進んでいる。どのみち逃げられないのだから、ここは大人しく従った方がいいだろう。 ウォルはレノを担ぎ上げると、低空飛行でオノノクスの後を追った── ---- やがて、洞窟の一番奥に着いた…のだが、ただ岩壁が広がっているだけの、何もない場所だった。こんなところで何をするのだろうかと不安になるウォル。背に乗せたレノを護るように翼を被せ、オノノクスの大きな背を睨み付ける。 まさか、もう逃げられないように奥まで連れ込んだんじゃないか。そんな恐ろしい考えを振り払って、ウォルはオノノクスの行動を見守る。 すると、ウォルが警戒していることに気が付いたのか、オノノクスは振り返ると、微笑を浮かべながらウォルに言葉を掛ける。 「案ずるな。私はお前達を試しただけだ」 「試した…?」 ウォルはオノノクスの言葉に怪訝な顔をして、首を傾げる。試したとはどういうことなのか。 そんなウォルを無視して、オノノクスは再度岩壁と向き直ると、壁に向かって言葉を投げ掛けた。 「…ティニ様、二匹をつれて参りました。」 「ありがとうバノン♪」 誰もいる筈のない岩壁から明るく元気な声が聞こえたかと思えば、今まで岩の壁だったところが、サー…っと消えていった。そこには更に奥に道があるのが見える。幾つか分かれ道になっているようだ。 その広いスペースには、優しい檸檬色をベースとした身体に大きなオレンジ色の耳と青く透き通った目が印象的なポケモンと、全身灰色の毛に覆われた狐のようなポケモンがいた。しかし、狐のようなポケモンには、左耳が無かった。 ウォルは生き延びる為に戦闘で優位に立って闘えるよう、色々なポケモンの知識を集めていたことがあった。その為、狐のようなポケモンは先程の岩壁の様子からして幻影を操ることが出来るゾロアだとわかった。しかし、もう一匹のポケモンは見たことも聞いたこともない。しかしその澄んだ青い瞳を見ていると、何だか気分が落ち着く。 バノンと呼ばれたオノノクスは、そのポケモンの前へ近付き、跪いた。あの強いオノノクスでさえこんなになってしまう程とは、一体どれだけの力を持っているのか…ウォルは驚きを隠せなかった。 「う、うぅん…」 「!レノ、気が付いたのか!」 その時、レノが漸く目を覚ました。ウォルは喜びの声を上げながらレノを地面に下ろす。目を覚ましたレノはまず側にいたオノノクスに驚き、そのオノノクスを手懐けている二匹を見て驚き、混乱している様子だ。 そんなレノに、ウォルは飛び掛かるようにして抱き着いた。 「このやろう…心配かけさせんなよっ…馬鹿」 「ウォル…」 ウォルは心の底から安堵したのか、目頭にじわりと涙が浮かんでいた。突然の事で驚いたが、レノはウォルの温もりを感じて、落ち着きを取り戻した。 ウォルの翼に抱かれながら、レノは泣きそうなウォルの顔を見て話しかける。 「…ウォルがいけないんだろ…何時も形振り構わず敵に向かっていって…もう少し落ち着いてよね…でも」 そこまで言って、レノはウォルの背中に首を預ける。 「護ろうとしてくれて…ありがとう…ごめんね、護れなくて…」 「むっ…お、オイラはべつにっ…」 レノは倒れた時、まだ少しだけ意識があったのだ。その時、ウォルが自分の前に立ちはだかって、護ろうとしてくれたのを、僅かながら見ていたのだった。 面と向かって(顔を合わせてはいないが)お礼を言われたウォルは照れているのか、顔を赤くして目を逸らす。同時に翼に力を込めて、更に強くレノを抱き締めた。 「謝る必要なんてねぇよ。オイラの方が護ってやれなくてごめん。何時も護ってやってるのにな…オイラの方こそ…ありがとな。」 「…ウォルこそ謝らないでよっ…それに、もう僕はウォルに頼ってばかりいたくないんだ」 「へへっ、お前が1人でやってけるとは思えないけどなぁ〜」 「なっ、そんなことないよっ」 二匹はちょっとした言葉を交わし合って、改めて仲間の大切さを噛み締めていた。が、そこにいるのは二匹だけではなく。 「あの〜…」 「「へっ??」」 「もう話に入ってもいいかな…?」 「「あ、はい…」」 気まずそうな様子で語り掛けてきたオレンジのポケモンの言葉に、周りにポケモンがいたことを思いだし、慌てて離れる二匹。顔が真っ赤だ。 「じゃ、早速…」 そのポケモンは苦笑いをしながらも、大きく息を吸い込んで、言い放った。 「やぁ!待っていたよ!レノにウォル!」 (えっ、そこからですか(なのか)…?) 「「…」」 無理矢理何事も無かったように繋げようとした相手に、レノとウォルは心の中でほぼ同じように突っ込みをいれる。バノンとゾロアも、何も言わないが少し呆れたような表情をしている。 「こっ、細かいことは気にしない気にしない!それよりぃ、これから話す事は真剣に聞いてほしいんだ。あんまり時間もないからさ…ね、ねっ?」 四匹の視線を感じたポケモンは、『失敗した』という顔をしたが、これ以上は恥ずかしいのかそのまま話を続けようとした。まぁ大した事ではないか、と、レノ達も冷たい目で見るのをやめ頷くと、ポケモンの言葉を待った。 ポケモンは何とか切り抜けた安堵に溜め息を1つすると、大きくそのまま深呼吸をして、真剣な表情になる。 「いい?凄く唐突で悪いんだけど、驚かないで聞いてほしいの。実は…」 「「……」」 さっきとは打って変わり、自棄に真剣になった相手をみて、レノ達もごくりと生唾を飲み込む。しかし、ポケモンが言った言葉は、レノ達には思いもよらないことだった… 「今から3ヶ月後に…イッシュは崩壊する。」 ──小さな物語の歯車は既に、廻り始めようとしていた。 to be continued… ---- 一話目に三話分の挿入と加筆&修正をしました。まだまだおかしな部分が多いですが(汗) 苦情や質問、誤字脱字の報告、コメントなど何かありましたら此方にお願いします。本当に描写下手なのでアドバイスをして下さると助かります。どうか宜しくお願いします。 #pcomment(コメント/黒身白心1,,above); ---- &counter(total); &counter(today); IP:125.192.34.95 TIME:"2014-07-01 (火) 18:56:47" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?cmd=edit&page=%E9%BB%92%E3%81%8D%E8%BB%86%E3%81%A8%E7%99%BD%E3%81%8D%E5%BF%97%E7%AC%AC1%E8%A9%B1" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Linux; U; Android 4.2.2; ja-jp; F-04E Build/V10R41A) AppleWebKit/534.30 (KHTML, like Gecko) Version/4.0 Mobile Safari/534.30"