ポケモン小説wiki
鷲の目 の変更点


#include(第十六回短編小説大会情報窓,notitle)

&size(25){鷲の目};
作者:[[カナヘビ]]

&color(violet){※官能的な表現があります};
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「迷ってること?」
「うん」

 ヒノヤコマが鳴き始めてからまもなくの早い時間帯。白波打ち付ける浜辺にて、あまりに対照的な男女の声が聞こえている。
「すうごくはきはきしたヒトでねえ、君が欲しいみたいなことを散々聞かされたんだよねえ。なんだかあ、ぼくが?いいこたいちらしくてさ、それでついてこないかって言われてるんだあ。楽しそうだし、あのヒトも気になるし、どうしよおかなあって」
 伸びた口調のヤドンは、とぼけたような表情。
「まさかそういう相談だとは思わなかったわ……」
 はきはきと話すシェルダーは、うつむくように上部の貝を下ろす。
「だいたいどういうこと?あんたが欲しいなら、そのトレーナーあんたを捕まえればいいじゃない。それに、スカウト早々いい個体値ってどういうこと?なんで分かるの?わけわかんないわよ。あたしなら即断ってるわよ?」
 けたたましく貝を開閉しながら主張する。今にも舌((本来の貝とシェルダーは相違点が多いので、舌、目その他の器官はシェルダーオリジナルで存在すると解釈した。))が伸びて、ヤドンの顔についてしまいそうだった。
「でもさあ」
 他のポケモンならば唾が飛び散っているであろう距離で、意に介さずヤドンはのほほんと言う。
「トレーナー付きのポケモンになったらさ、名前がもらえるかもじゃない」
「あー……なるほど、そういうことね」
 場所を選んだわけではないようだが、周囲には誰もいない。開けた場所ではあるが、閉じた空間のように声が響いている。
「ぼくもねえ、シェリーみたいに名前がほしくてさあ」
「あんたの名前くらいあたしが考えたげるわよ。それじゃあダメなの?」
「う~ん、なんか違う気がするんだよねえ。シェリーだって、そのあたりの誰かに名前もらったわけじゃないでしょお?」
「そうだけど……」
 シェリーは考え込むように貝を閉じる。
「ほらさあ、だいたい産んでもらった親とか、捕まえてもらったトレーナーに名前もらうじゃない?みなしごなんかは違うかもだけど、どうせならぼくはトレーナーからもらってもいいかなあって」
「あんたみなしご同然でしょ……」
「まあ、そうだけどねえ」
 ヤドンののんびりとした口調は、シェリーを度々疲れさせてしまう。マイペースであるにもかかわらず、時折ついていくことが困難になる。
「名前ももらえるし、トレーナーのもとにいるのもいいと思うんだけどお。でも、そうなると、君と離れないといけないじゃない」
「あたしと?まさか、それで迷ってるの?」
 シェリーは大きく貝を開いた。
 あいも変わらずのほほんとして、心の内が読めない表情ながらも、ヤドンはsジェリーをまっすぐに見ている。
「ぼくがここにいるとさあ、いつも君が会いに来てくれて。出会ったのは成り行きだけど、君とはずっと一緒にいたいなあって思ったりするんだあ」
「あんた、そんなこと思ってるの?」
「いつも引っ張ってくれるし、何より可愛いし」
「な……!」
 驚愕のあまり、思い切り噴射してヤドンから遠くに離れてしまうシェリー。しかし陸であるためそこまで遠い距離ではなく、ヤドンの明らかにのろまな足でも到達に3分ほどしかかからなかった。ヤドンが近づいても、シェリーは貝を固く閉じたままだった。
「ば、バカ!可愛いわけ……。そ、それにあたし、引っ張ってなんかないわよ!見ればわかるでしょ!?手や触手があるわけじゃないんだから!」
「精神面の話だよお」
「精神面って……いつ……」
「いつもだよお。君と話してるだけで、なんか元気になるんだあ」
「何よそれ……」
 伏し目がちに貝を開いていく。こんな話をしていても、ヤドンの表情はあっけらかんとしていた。
「うん、可愛い」
 顔が見えたとたんに、ヤドンの顔は笑顔になった。
「ひっ」
 思わずまた貝を閉じてしまう。恐縮しているようなその状態を、ヤドンはニコニコしながら見ていた。
「なんであたしなんかを可愛いなんて……。あんたが可愛いなんて思う女なんていくらでもいるでしょ?世の中って広いのよ?あたしを基準にしちゃだめよ」
「世の中って、シェリーは知ってるの?」
「ここら辺の海くらいは知ってるし、あとちょっとだけアローラの海も知ってるわよ」
「すごいなあ。そんなシェリーはやっぱり可愛いなあ」
 恐る恐る貝を開いていくシェリー。なんの抵抗もなく誉め言葉を言うヤドンは、変わらずにニコニコしていた。
 ◇
「1つ聞くけど、あんたはトレーナーについていきたいって気持ちがあるのね?」
 まだ開ききらない貝越しにシェリーは聞く。
「うん」
 ヤドンは答えた。
「その調子だとあんたは知らないみたいだけど……。あんたがヤドランやヤドキングに進化するときって、あたし達シェルダーが関係してるのよ」
「そうなのお?」
 ヤドンは首を傾げた。
「やっぱり知らなかったのね……。例えば、尻尾にかみつくとヤドンになるわ。あと、なんだったかしら……、何かの道具を頭に乗せて、そのうえでかみつくとヤドキングになるのよ」
「そうだったんだねえ」
 表情が分かりにくいヤドンだが、その目は明らかに輝いていた。
「じゃあ、じゃあさ。もしかして、ついてきてくれるのお?」
 半閉じの狭い貝の視界から、横目で海に目をやるシェリー。いつも泳いでいたはずの海が、今はさらに輝いているように見えていた。
「あんたがヤドンだからね。シェルダーとしては意識せざるを得ないし、もしかしたらそうなるかもって思ってたわ」
 閉じっぱなしにしていた貝をおもむろに開ける。丸に点の入ったような目同士が見つめ合った。
「でも、あたし達は進化もできるの。大きくて綺麗で立派なパルシェンになって、それはそれはイケメンと番になりたいって思うこともあるの。まあ、今のあたしは全然そういう出会いはないんだけどね」
「そうかなあ。てっきり、彼氏がいるもんだって思ってたよお」
「彼氏いたらあんたの所に毎日来ないわよ」
 照れくさくなったのか、開いていた貝が若干閉じる。
「あんたとは中々長い付き合いだし。諦観するのは早いかもしれないけど、あたしと付き合おうなんて男はいないだろうし。あんたとくっついてもいいのかなって、最近思ってたわ」
「そうなのお?嬉しいなあ」
 ヤドンはにじり寄る。
「ええ……。まあ、いいわよ。でも……あーもう!優柔不断ね!」
 シェリーはじれったそうに貝を開閉させている。
「せっかく友達がこうやって相談してくれてるのに、こんなに優柔不断でどうするのよ!一生のことかもしれないけど、こんなに気持ちがもやもやするのは嫌よもう!」
 シェリーは独りで憤慨していた。特に誰かに対して怒っているわけではないので、ヤドンはのほほんと様子を見守っていた。
「気が早いかもしれないし後悔するかもしれないけど、今からあんたにくっつくわ!あーだこーだうじうじするのは嫌よ!」
「え?今?」
 答えを待つまでもなく、シェリーはみずでっぽうを吹き出し、反動を使ってヤドンの後ろに回り込んだ。気力なさそうに、誘うように地面にべったり降りている尻尾がそこにあった。
「なんかだらんとしてるわね。まあ、いいわ。」
 考える間もなく、シェリーは一気に尻尾を挟み込んだ。
「うわ、なにこれ……。心地よすぎでしょ。噛みつきたくなるわけだわ」
 挟み込んだ尻尾の肉はドククラゲのようにぷるぷるで、いつまでもかみついていたいと思うほどだった。
 しかし。
「あれ……進化しないわね」
 あまりの心地よさに緩めたりきつく締めたりを繰り返しているが、一向に変化が起きない。
「うーん、なんか気持ちいい」
 感覚が鈍いゆえか、ヤドンは痛覚ではなく快感のように感じているようだった。
「おかしいわね……。試しに頭に行ってみようかしら」
 名残惜しげに尻尾から離れ、再び頭のほうへ移動する。尻尾に噛みつかれたのがよほど心地よかったのか、ヤドンの顔は溶けてしまいそうに蕩けていた。
「えい!」
 飛び上がって噛みつこうとするも、頭が大きすぎて貝が開ききらない。貝の先端で、まるでマッサージのように小さな開閉をしていた。
 しかし、貝の一部しか触れていないというのに、ヤドンの頭の心地よさは全身に伝わっているようだった。尻尾とは比べ物にならないが、いつまでもここにいたいと思わせるなにかがあったのだった。
「頭もいーなー」
 一方のヤドンも、今度は本当にマッサージのような刺激を送られていてリラックスしていた、いつもだらしなく伸びている体はさらに伸び、砂浜と同化しそうになっていた。
 しかし、肝心の進化は一向に訪れない。互いに心地のよさばかり感じて、求める変化は全く発生しないのだった。
「なんで進化しないの……?頭はともかく、尻尾もだめなんて……」
 頭を貝でむにむにと押し込みながらシェリーは考える。
「じゃあさあ」
 ヤドンが声を発すると同時に、シェリーの体に浮遊感が発生する。まもなく、頭からはなされ、心地よさが離れていく。
「な、なに」
 ヤドンの念力に浮かされているようだった。浮いているシェリーを見て満面の笑顔を向けたあと、ごろりと仰向けになった。
「え……」
 シェリーは見たことがなかったが、すぐに察知した。ヤドンの後ろ足の間からそそりたつ、ピンク色の大きな、もう1つの尻尾のようなモノ。当然だが尻尾ではなかった。
「えへへー、尻尾とかがあまりにも気持ちよくて、こんななっちゃったあ」
「ちょっと……なんのつもり?」
 念力に捕まったまま、もう1つのシッポに近づかされるシェリー。尻尾と頭もたいがいだったが、この目の前のシッポも負けず劣らず立派で、魅力的に見えた。
「う……す、すごいわね」
 何も考えられず、思わずひと舐め。
「ふわあああああああ」
 ヤドンが矯正をあげて悶絶すると同時に、シェリーの頭にも10まんボルトが走った。ヤドンにくっつくという本能のもと、シッポをひたすらに舐め続ける。
「なあにこれえ」
 舌から伝わる快感は、尻尾や頭とは比べ物にならない。ヤドンは当然だが、シェリーもまたそうだった。舐めている、ただそれだけで心地よかった。尻尾とは違うシッポとはいえ、同程度にぷるぷるした表皮と、皮下の明らかな肉厚さが、舌を伝って全身に伝播していた。
「ふう、なんか、ぼうっとするわ……。疲れる……」
 シェリーは疲れて舌を止める。ヤドンも意識がもうろうとしているはずだが、そのサイコパワーだけは保ち、シェリーを浮かし続けていた。
「ねえ、シェリー」
 ヤドンは息も絶え絶えに呼びかけた。
「尻尾でもなくて、頭でもなかったらさあ。ここかもよお」
「え?」
 突然の発言にシェリーは戸惑う。確かに、このシッポは、ヤドンの体のどのパーツと比べても圧倒的に魅力的で、目に入れたその時からずっとかみつきたい衝動があった。
 しかし一方で。ここに噛みついて進化してしまった場合、シェリー自身が一生ヤドンの外性器として過ごすことになる。そんなことは生き物としても、シェルダーとしても、女としても嫌だった。
 普段ならば決して噛みつこうなどとは思わない。だが、これの前に尻尾や頭を経由してきたせいで、シェリーの頭は思考が充分に働いていなかった。嫌な一面もあるうえで、彼女の中で湧き出る本能を優先したいという気持ちが、圧倒的に大きかった。
 気が付けば、ヤドンのシッポの目の前に移動されていた。浮かされていて、後はかみつくだけ。ヤドンとしても、そして雄としても、シッポはあまりにも魅力的で、大きかった。
「えいっ」
 本能の赴くまま、シェリーはシッポを挟み込んだ。
「うわああなにこれええ」
「ひいっ……うそ……」
 尻尾や頭とは比較にならない。挟み込んでいるだけで全身のシナプスが暴れ、身体を突き破らんばかりの勢いで巡る。ほのかに彼女の雌性生殖器((本来の貝とシェルダーは相違点が多い(ry))も熱くなり、それもあいまって中身から全てが熱かった。
「我慢できない……」
 本能のまま、挟み込んだシッポを挟み緩め、しごいた。
「ああああああひいいいいい」
 情けない悲鳴を上げながらヤドンは喘ぐ。シェリーはひたすら快感を与える。時折舌で舐めつつ、体の心地よさを求めながら。
「もうだめだあ」
 ヤドンが言うとともに、シェリーの顔面には至近距離から白濁がぶちまけられた。
「ひう……」
 それが合図だったかのように、シェリーは開閉を止めた。白濁はべとべとしていたが、シェリーは不快感などは覚えていなかった。
「我慢できない……」
 ヤドンの声と共に、突如としてシェリーはシッポから引きはがされた。貝に直接念力があてられ、無理やり限界まで開けられる。
「いった……な、何を」
 そのまま近づいていき、貝の下蓋と舌の間にシッポが入っていく。
「ま、待って!いくらなんでもそれは!」
「痛かったらごめんねえ」
「そもそも体格差が……!」
 シェリーの制止も聞かず、念力によって圧倒的に優位なヤドンは、本能的に位置を察知した、あまりに小さな雌性生殖器((本来の貝とシェルダーは(ry))へ、一気に突き立てたのだった。
「きゃああああああああ!!」
「すごいやあ、気を失いそうだよお」
 サイズなど気にされず一気にすっこまれたシッポは、交尾のために脈打っていた。あまりに大きなモノが入ったにもかかわらず、シェリーの体にはほとんど痛みが発生していなかった。
「ひっぎ、いっぎ!」
 あまりにも乱暴に挿入が繰り返される。念力でやっているということもあってか、ヤドンは加減を知らない。しかし、中で擦れるたびにシェリーの体は熱く、たぎっていく。
「こんな可愛い子と交尾できるなんて、幸せだなあ」
 息絶え絶えながらもヤドンは言った。
 シェリーはもはや意識も朦朧としていた。交尾であると同時に、相手がヤドンであること。タマゴグループこそ違うものの、あまりに自身にあっている男と、多少強引ながらもまぐわっている。快感や熱は飽和し、あとは発散されるだけになっていた。
「なるほど……ぎっ!あたしは、ひあっ!あんたの女になるのね……ああっ」
 念力の上下運動のペースが速くなる。ヤドンが事を急いで乱暴にしていたのだった。
「ふっぐっ!」
 激しすぎる運動に、ついにシェリーは絶頂に達し、失神した。
「ふわあ」
 最後にシェリーの体が押し込まれ、今度はシェリーの中で白濁が放出された。無論入りきるはずもなく、大いにあふれてしまう。
「はあ、はあ」
 疲労の末。ヤドンもまた気を失う。
 ◇
「おーい、大丈夫かー」
 ヒトと思しき男の声。全身を襲う倦怠感の中、ヤドンとシェリーは同時に目を覚ました。
「まったく一体なにがどうしてこうなったのかは知らないけど、後処理はしておいたよ」
 片膝をついた男は薄汚れた白衣を着ていた。見るからに痩せているが完全にインドアというわけではなさそうで、白地の下からも引き締まった筋肉が確認された。
「あ、トレーナーさん」
 ヤドンはうつ伏せに転がる。
「こ、このヒトが?」
 シェリーはいぶかしげに男を見た。白衣のせいか、あまり真っ当にはみえない。しかし髭も伸びていなければ髪も短く、印象としてはそこまで悪くない。
「とりあえず、色々汚れやにおいが付いたままじゃ話もできないから、起こす前に全部処理しておいたよ。そのほうが君たちも気まずくないだろう?」
 男の問いかけに、シェリーははっとして情事のことを思い出す。否、思い出しきれず、貝を固く閉じてしまった。
「いいさ、交尾は恥ずかしいことじゃない。うちのポケモン達もよくやってるしね。でも、ヤドンとシェルダーが交尾するなんて話は初めて聞いたなあ」
「えへへー、シェリーがあんまり可愛いもんだから」
「なるほど、このシェルダーはシェリーというのか」
 貝越しに視線を感じ、シェリーはますます開けることができない。
「シェリーから聞いたんだけどさあ。ヤドンって、尻尾か頭に噛みついて進化するんでしょお?でもぼく、どっちに噛みついてもらってもダメでさあ。アソコも試したんだけど、やっぱりだめでさあ」
「それで交尾に発展してしまったのか」
 男は小さく笑う。もはやシェリーは貝を開けようとしない。
「まあ、それで進化しないのは当然さ。なぜなら君は、ガラル地方のヤドン。このガラルに適応した、普通のヤドンとはちょっと違うヤドンだからね」
「ガラル?」
 聞いたことがない言葉を聞き、シェリーは蓋を開ける。
「あたし、アローラから連れてこられたかと思ったらすぐに逃がされたから、ここがどこだか知らないのよ。ここはガラルっていう地方なの?」
「うん、そうだ。なるほど、アローラから来たシェルダーだから、ガラルのヤドン及びヤドランのことも知らなかったと」
「ガラルのヤドン……もしかして、進化方法違うの?」
 シェリーの問いかけに、男は微笑みながら白衣のポケットに手を突っ込んだ。でてきたのは、橙色の花と枝を編み込んで作られたブレスレットだった。
「なにそれ……無性にかみつきたいわ」
「これはガラナツという植物のブレスレット。君の言う通り、本来シェルダーは尻尾や頭に噛みついて進化するが、これをヤドンの前足につけ、その上でシェルダーがかみつくことで、ガラルのヤドランに進化するんだ」
 男はヤドンに目配せをする。
「僕は君についてきてほしいとは言ったけど、進化まで急ぐ必要はない。このシェリーの生活もあるし、のんびりと決めてもらいた。僕としては、着いてきてほしいんだけどね」
 ヤドンとシェリーの視線がぶつかる。
「シェリー、どうする?」
「どうするってあんたねえ」
 シェリーはあきれている。
「言ったでしょ?決めたって。うじうじあーだこーだ言うの嫌だし、あんたとくっつくって。今更変えるのも性に合わないわよ。そ、それに、あ、あ、あ」
 シェリーは勢いよく貝を閉じた。
「あ、あんなことしたんだから!もう他の男のところなんていけないんだから!責任とってよね!」
「うわあ、ありがとう」
 ヤドンは満面の笑みで、男に顔を向ける。男は理解した様子うなずいた。
 ヤドンの左前足をもちあげ、優しくブレスレットを通す。ガラナツの香りが、ヤドンの鼻をくすぐった。
「うわあ。見てみてえシェリー」
 シェリーは貝を開けた。まるで常にそこにあったかのように、当然のようにブレスレットが巻かれていた。それは、まるで誘っているようで。
「えいっ」
 ひとっ飛びでたどり着き、勢いよく挟み込んだ。
「なんか……いい」
 シェリーが感傷に浸る間もなく、ヤドンの体に変化、否進化が訪れる。だらしのない体はいずこへ、すっくと立ちあがり、シェリーの体も取り込まれ、巻貝の形へと変化した。
「おめでとう」
 男は進化を見届けて拍手する。ヤドランは慣れない体をきょろきょろと見ていた。
「なんか、体が重いな。う、むずむずする。シェリー?」
 心なしか口調もはっきりとしている。
「大丈夫よ……。体は違和感しかないけど、満たされてる。時々噛みつきたくなるわ」
「ええ、どういうこと?」
 おもむろにシェリーがかみつくと、ヤドランの頭が瞬間的に活性化する。まるで周囲の時間が止まったように見えるなか、虚空に左腕を構え、毒液を発射した。
「すごいや。一瞬、みんながみんなぼくより遅く見えたよ」
 突発的な速さに驚きつつ、シェリーに目をやる。
「変なの」
 互いに話す中、拍手を終えたトレーナーがヤドランの頭に手を置いた。
「番とまでは言わないけど、これで君たちはパートナー。文字通り、片腕だということだ」
 男の言葉が、ヤドランとシェリーの心に反芻する。互いに進化し、一心同体になったという実感が、ようやくわいてきたのだった。
「これからもよろしくね、シェリー」
「勢いでこうなっちゃったけど、もう後悔しても遅いわね。一生、あんたの片腕として生きていくわ」
 和気藹々と話す両者。男はヤドランの頭に乗せた手をおろした。
「そういえば、名前が欲しいっていってたね。君にはまだ、名前がついてないって」
「うん」
 男はヤドランをまっすぐ見た。今でこそ、ヤドン系統ののほほんとした顔をしているが、先ほどの毒液の発射の際に見せた目は、何よりも鋭かった。
「例えるとそうだな、まるでムクホークのような……。いや、これはさすがにベタだな。どちらかといえば、バルジーナ。獲物を狙う、ハンターのような……」
 男は大きく頷いた。
「今日から君はイーグルアイ。『片腕のイーグルアイ』だ」
 2、3回瞬きをする。今まさに彼に、正式な名前が付けられたのだった。
「か、かっこいい。すごくいい名前だよ。どう、シェリー?」
「まあ、あんたにしてはかっこいいんじゃないの?
 大いに満足そうにヤドラン――イーグルアイは頷いた。
「それにしても、『片腕の』っているの?」
 シェリーが聞く。
「僕のポケモン達はそういう感じで名付けてるんだ。そのほうが愛着が出るし、なによりバトルに映える」
「あっそう」
 男は右手を差し出す。イーグルアイは笑顔で左腕を差し出し、握手をした。
「これからよろしく。そしてようこそ、イーグルアイ。そして、シェリー」
「こっちこそよろしくだよ。トレーナーさん」
「よろしくね。あたしもがんばるけど、トレーナーもこいつを……イーグルアイをよろしく」
 握手が終わり、男は白衣のポケットからネットボールを取り出す。
「それにしてもシェリー」
「何?」
 イーグルアイの突然の呼びかけ。
「巻貝の君も可愛いね」
「ばっ……!」
 動揺のあまり、イーグルアイの腕を激しく噛んでしまう。
「うわ、痒い!」
 痒さのあまり、左腕を大きく振り回す。その軌道にはトレーナーが。
「あっ」
 避ける間もなくわき腹に命中し、吹っ飛ばされて男は倒れこむ。
「あ、トレーナーさん?トレーナーさん!?」
 シェリーが酷く赤面しているとは知らず、イーグルアイは男に呼びかける。

 気が付けば夕日も沈もうという遅い時間帯。黒く染まりつつある波の打ち付ける浜辺で、あまりにのんびりとした、それでいてどこかはきはきとした声が聞こえていた。

 END
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 あとがき
 第5世代から毒タイプ統一を使ってる身としては、毒・エスパーはとても微妙な構成です。もともと毒タイプはエスパーが怖くないうえ、エスパーのサブウェポンを持つのはぎりぎりゲンガーもしくはロズレイドくらいですね。
 でも、その微妙な構成をもってあまりある固有技の性能、特性の運ゲー性など、キョウさんいわくの「変幻自在の妖しの技」を引き継ぐ素晴らしいポケモンです。
 そんなヤドランを、原種も含めていずれ書いてみたいななんて思ってましたが、案外早く使えたので満足です。
 
作品について
「かた」っていわれて、ヤドランは片腕にシェルダーついてるなあとか安直なことを思いついて構想に。設定は二転三転した末に今に落ち着きます。本当はエロくなかったはずなんですが、いつのまにかこんなことに……
 じゃあいざ書こうと思ってキーボードを叩くも……まあものの見事に書けない。どうしようと悩みながら、時間はあっという間に締め切り当日に。
 こりゃいかんと気合をいれ、なんと本作の9割以上の文字数を半日弱で書き進めてしまいました。おかげで、もともとない文章力は更に壊滅的になり、ご覧のあり様に。いやあ酷い……。
 それでもなんと2票頂きました。慈悲深い方に感謝です。
 コメント返しさせていただきます。

 >>甘いボーイミーツガールに、種族名で呼び合うポケモンとしての価値観と、
 トレーナーによって名付けられる個体名という、
 価値観の織り交ぜられた人とポケモンの共存する世界観を感じました。
 美味しいカップルに一票!
 →→ポケモンって、創作の上では野生でも名前持ってたりしますし、名前つけられて初めて名前が付くようなのもいます。そういう所の曖昧な境界線を逆手に取ったっていうのもありますね。その上で、作者的な都合でガラルヤドランを捕まえさせてしまったという事情がありますw
タマゴグループこそ違うものの、この2体は割と書きやすかったです。

 >>何の気なしにかわいいって言ってしまうヤドンくん……罪作りな漢よ。いいキャラして
 おりました。そのくせ自分は鈍感なんだよな。こういうタイプの攻め、自分が好きなだけの
 かもしれないのですけれど。
 シェルダーにはパルシェンに進化するほか、ヤドンに噛みついてヤドランかヤドキングにな
 るという道があるんですねえ。ある意味分岐進化というか、パルシェンになるにも水の石が
 必要ですし、ヤドンと一緒にヤドランになるためにはコミュ力を鍛えてヤドンと仲良くなら
 なきゃいけないですし、ヤドキングになるにはさらに王者の印を探さなきゃならない。その
 相手がガラルヤドンだった場合えだを集めてブレスレットに加工して……、と、難易度で進
 化先が変わるような気さえしました。種族の特徴がうまく物語に活かされているうえ、それ
 だけではなく作者様のヤドンシェルダーに対して溢れ出る愛が伝わってきましたよ。
 進化するにあたって噛みつくと気持ちいい、というのがもう面白いんですけど、そこからの
 官能への誘導がとても自然で面白かった。そんでエッチなんですよ……ヤドンとシェルダー
 で官能的になると思います? なるんですよねぇこれが。ヤドンくんのほほんとしてますが
 まさか攻めだったとは……。シッポに噛み付いて進化してしまった場合のみじめさと葛藤す
 るも、本能と誘惑に負けてご奉仕してしまうシェリーちゃんかわいいね……。こういうとこ
 ろに意外性持たせてくれるの楽しいです。あの舌ぜったい性感帯でしょ。しかもそのまま念
 力でこじ開けられての体格差交尾も許しちゃうの、彼女ぜったいマゾっ気あるじゃん……ガ
 ラルヤドランに進化してから銃口にちんちん突っ込むような自慰されて悦んでそう。
 →→可愛い女の子には可愛いっていうのが漢ですからね。鈍感でも可愛いものは可愛いのです。
上にも書いた通り、ガラルヤドランに進化させるための過程というのもありましたが、それにあたっていくつかのパーツを経由することにはなるなあと思っていました。そうして書いているうちに、なんだかいかがわしい方向に……w
実のところ、シェルダーが噛みついての進化には特に同意は必要ないらしく、昔々のアニポケでも、ロケット団が無理矢理進化させようとしたあげくシェルダーが勝手噛みついて進化するという描写がありました。このことから、シェルダーにはヤドンの尻尾やその他に噛みつく本能のようなものがあると解釈した次第です。図鑑にも甘みが出てるとか書いてますし、ヤドランのほうもまんざらでもないのでは?と思ってたらこんなのになりました。
個人的に、シェツダー系は受け方面のマゾっ気はあるなあって思ってます。貝のポケモンって大方そんなイメージがry
個人的に、シェルダー系は受け方面のマゾっ気はあるなあって思ってます。貝のポケモンって大方そんなイメージがry
自慰は腕の可動域的に難しそうかな…と思いましたが、シェリーが無理矢理おねだりとかしたら頑張るのかもしれないですねw

コメントありがとうございました!


 みなさんからの感想、指摘、評価、重箱の隅つつきなど、何かあればなんでもお寄せください。
 カナヘビはみなさんの言葉を真摯に受け止め、より良い作品作りにむけて精進していきます。
#pcomment(片腕コメントログ,10);

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