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飛んで火に入る夏の鼠 の変更点


*飛んで火に入る夏の鼠 [#we61e70e]
Writer:[[Vanilla]]
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「人間の住処には、決して近寄ってはいけませんよ。我々コラッタなど、人間の手にかかってはひとたまりもないのですから……。」
先生の話はいつもつまんない。
頭のいい僕は、つまんないことや嫌なことはしない主義だ。
僕は楽しいことだけをやる。だって、その方が楽しいじゃないか。

僕はそんなに怖がられている人間が、どれだけ凄い存在なのか、ちょっと気になって行ってみることにしたんだ。
それは、ちょうど今日みたいに月のまんまるい夜のことだった。

ヤミカラスとヨルノズクが支配する時間、僕は近くにあった適当な家に入ってみた。
人間は時にポケモンを家で放している、なんてことも聞いたんだけど、どうやらその気配は感じられない。
僕は神経を鋭くさせて、家の状況をくまなく調べた。
そうして調べて調べて調べ尽くすと――僕はニヤリとした。

                          ▼

僕は頭がよかったから、人間の住処で暮らすことを覚えたんだ。
ここは外と比べたら天国さ、年中食べ物を探して回らなきゃならない外と違って、ここじゃ人間が勝手に食べ物をよこしてくれる。
僕は一週間人間の行動を観察して、夜には決まった場所で寝ることや、朝には決まった時間に出かけることが分かった。
それさえ分かってしまえば後は話が早い、人間の居ない時に僕は食べ物をいただいてしまうわけだ。
パンにご飯、果物にジュース……人間の食べ物は、それまで食べてきたどんな草や木の実よりも美味しかった。
久々に仲間に会って一緒に食事をした時は、僕は以前こんなに味のしない不味いものをありがたがって食べていたのか、と愕然としたね。

僕が人間の家で暮らして驚いたのは、他にも沢山ある。
中でも凄いのが、レイディオ、とかいう箱だね。
この箱のレバーを操作すると、色々な音が箱から飛び出してくるんだ。
しかも、その音はいつまでも終わることなく、そこに誰か居るかのように喋ったり、歌を歌ったりするんだ。
僕はこの箱の、太陽が七回沈むごとに流れる、日が落ちる頃にかかるお話と歌が好きだった。
お話も歌も、何を言っているのかはほとんど分からないんだけど、そこではエリスっていうニャースが喋ったり歌ったりして……彼女の声は、とても僕の心を感動させた。
とにかく優しくて、とにかく綺麗で、とにかく心を掴んで放さないんだ。
僕は毎日彼女のことばかり考えていた気がする。

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でも、夏が真っ盛りになって、暑くて仕方がない今日は、彼女のことじゃなくて食べ物のことを考えていたんだ。
困ったことに、どうしてか人間は最近どこにも行かないで、ずっと家の中にいる。
しかも食べ物の側からなかなか離れないものだから、僕はほとんど飲まず食わずだった。
彼女の歌も、聴こうにも人間が出かけないので聴けない。
この家は最初と比べて、随分と住みづらくなったものだ。どうしてだろう?
外に行けば食べるものが無いわけじゃないけど、なんだかそれをするのは嫌でたまらなかった。
とにかく、群に戻るのは最後の手段だ。
僕の居場所は、彼女の歌を聞けるここにある。
そして、いつかまた歌を聴くために、僕は……今は、なんとか食べ物を手に入れることを考えないと。

考えて……

考える……

どうすればいいのかを……

考えて……お腹空いたなぁ

考えるだけでもお腹が空く……

――と考えていたら、気がつくと人間の居ない向こうの部屋からずいぶんといい匂いがする。
僕は足音を立てないように注意しながら、はやる気持ちを抑えて、部屋に駆けだした。
部屋に入ると、そこには小さな箱のようなものがあり、その箱の中からとてもいい匂いがした。
「や、やった!!」
しまった……僕は喜ぶ余り声を出してしまった。
咄嗟に物陰に隠れる。
「気付かれてはいないかな……たぶん」
僕は隠れながらも食べ物のことで頭が一杯だった。
そうだ、すぐそこに食べ物はあるんだ。
気付かれたとしても、口に含んだまままた隠れればいいんだ。
もしこの機会を逃したら、次はいつになるか分かったもんじゃない。
――僕のハラは決まった。

                          ▼

一目散に僕は箱の中に駆け込み、餌を齧り――かじり、かじる……あれ……?
餌はすぐそこにあるのに、そして僕はそこにたどり着く十分な力を込めて飛んだのに、その一歩手前で地面にお腹をくっけてじたばたとしている。
あぁ、お腹が減りすぎて力が入らなかったんだ。
まぁ、幸いにも人間がこっちに来る気配は無いし、これはゆっくりとご飯をご馳走になるのも悪くはない。
さぁ、立ち上がって餌を食べよう――たべよう、たべる……あれ……?
前にもこんな事を思ったような気がする。ちょうど今と同じ体勢で……。
どういうことだろう、体と床がくっついて全然離れようとしないんだ。
前足も、後足も動かない。右も左も。動くのは目と舌と耳だけだ。
ちょうど僕はうつ伏せの状態で、大の字に床に張り付いて、そして何故か起き上がれない状況に置かれている。
着地の時にどこか痛めたのか、とも考えるが、どこかが痛むわけじゃない。
空腹で体が動かないのかと思えば、四肢に力を入れることはできるし、力が入っていることも分かる。
それでも僕の体は、どうやっても動いてくれないんだ。
なんだろう、これは?今までにこんな目に遭ったことがない。どういうことだろう。
僕はとても焦っていた。このままだと、餌どころかここから動くことすら、もうずっとできないんじゃないだろうか。
そんなのは嫌だ。絶対に。
彼女の、エリスの歌を、僕は聴かないといけないんだ。

と、目を前足のほうへやると、手がプルプルと動きながらも、床から伸びる変なネバネバしたものが起き上がるのを阻止しているのが見えた。
このネバネバが、僕から自由を、エリスの歌を、食事を奪っているんだ。
あぁ、こんなネバネバなんて、自慢の前歯で噛み切ってやりたい。
……でも、顔を近づけようにも、首が伸びないんだからどうしようもない。
こうしている間にもお腹はどんどん減ってゆく。
早くこのネバネバを何とかしないと。
……でも、どうやって?
どこも動かすことができない状態を、自由な状態に戻すには、どうやればいいの?
僕は誰に聞けばいいの?

あぁ、気をしっかりと持つんだ。
僕は一人で生きていくと決めたじゃないか。
僕は誰にも聞かないで、この状況を切り抜けるしかないんだ。

                          ▼

……でも、どうやって?
前にも同じことを思った気がする。ちょうど今と同じ体勢で……。
お腹が空いてきた。いや、空くなという方が無理だ。
目の前にご馳走を並べられて、でもそれを食べることはできなくて、ただ見ているだけ……そんな状況でお腹が空かないわけがない。
あぁ、もう僕はこうしてどれだけの時間を過ごしたのだろう。
それを伝えるは、ここから見上げられる窓の外に広がる空だけだった。
空にはまんまるい月が浮かんでいて、何も言わず、助けてくれるわけでもなく、ただこっちを見つめていた。
そういえば、前にもこんな月を見た気がする。今とは全然違う体勢だった……。
今とは全然違う気持ちで、あの時は希望が目の前に広がっていた。
今はどうだろうか、あぁ、今は――あぁ……。

あぁ、いやだいやだ。もう、嫌なことしか頭に浮かばない。
喉が乾いたとか、飢えて死んでしまうとか、こんな物食べようと思わなきゃよかったとか。
どんなに考えたって、僕の体がこのネバネバによって動けないという事実だけは変わらないんだ。
僕はこれから、どうなるんだろう。
それを考えるだけでも恐ろしい。

だけどね……僕は頭がいい。
頭のいい僕は、つまんないことや嫌なことはしない主義だ。
そうさ、嫌なことはしなければいいだけの話だ。
そして僕は、すぐにはできないだろうけど、考えることをやめることにした。

                          ▼

考えることを完全にやめる少し前、どこか遠くで、エリスの声が聞こえたような気がした。

「エリス? 君なの?」

僕はぼんやりと、彼女の声を今度は聞き取った。

「そう、私はエリス。私の歌をいつも聞いてくれてありがとうね」

そう言うエリスの声は、あの箱から聞いた時と変わらぬ、優しくて綺麗な声だった。

「でも、ごめんね。もう君の歌は聴けないみたいだ」

僕は泣きそうな声を出しているような気がした。

「……悲しいわ。とても」

彼女も泣きそうな声を出しているように聞こえた。

「そうだ、エリス……こんなこと聞くのも変だけど、僕がここから自由になる方法って分かるかな?」

そうだ、ここから開放されれば、また聞くことができるんだ。

「フフ、残念だけど……私はあなたの意識が創っている幻想に過ぎないのよ。あなたの知らないことを知っているわけが無いじゃない」

彼女は、僕にはよくわからない言葉を言った。

やっぱりあの箱から聞こえるお話と同じように、僕は彼女の言葉は分からないんだ。
何だか、体が今までよりずっと重くて、でも何だか軽いような――よくわからない感覚に包まれた。
ただ、僕はどこか遠くへ行く――そんな予感が、とても確信に近い予感だけがあった。

「あぁ、エリス……ごめんね。もっと君の歌を聴きたかったのに、もう、僕は――」

僕は泣いているのか、それすらもよくわからなくなっていた。

「いいえ、あなたは私の歌を聞き続けるわ。ずっと――」

そして歌うエリスの声は、あの箱から聴いた時と変わらぬ、優しくて綺麗な女声だった。



おわり

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あとがき(あとがきはネタバレを含みます。)
さて、作品ではとてもお久しぶりです。改めてVanillaです。
考えて見ると、このWiki(スレ)に住み着いてから完成させた作品はこれが初です。
……これはひどい。

それはさておき、この話は通学の際に思いついたものでした。
私の出すゴミ捨て場のひとつ隣のゴミ捨て場は住民のモラルが無いのか、ひどく散らかった有様で、袋に入れて捨てるべきなのにそのまま捨ててあったり、可燃ゴミの日なのに缶ビールやペットボトルが捨ててあったり、時には椅子やらベッドやらまでが捨てられる始末……でして。
今日もひどい有様だなぁ、と、ざわざわと嫌な気分になりながら見ていると、一際目を引くアイテム……ねずみとりでした。
そのねずみとりにはやっぱりネズミのイラストが描かれてて、ネバネバしたものが体に絡み付いて動けなくて涙目になっている、というもので……そのイラストが余りにも可愛かったので、お持ち帰り……はしませんが、強く印象に残っていたのです。
そして朝の通学電車……肩身を狭くして揺られていると、ふとネズミのイラストが頭に浮かび……
「!!」
という具合にスピリチュアルな感覚がアタシの体を駆け巡ったわけでございます。

……どうでも良いですね。
ところで、大方完成した後に、話にリアリティを出そうかと鼠についても少し調べたわけですが、鼠は人間の食べるものは何でも食べ、警戒心がやはり強いそうです。
なので、ねずみとりを仕掛けてもなかなか掛からない。
そこでどうするかというと、餌となる要因を全て片付けて、鼠を空腹にさせる。
そして、ねずみとりの場所は固定して置いておく。(別の場所に新しいものがある警戒される)
すると、空腹に耐えかねた鼠は罠に引っかかる……というものが載ってまして、若干参考にしました。

鼠と言えば猫ですが、実家の飼い猫は良く鼠を狩っていたものです。
年に2~3匹は捕まえていたような。ワイルドワイルド。

そんなわけで、ご拝読ありがとうございました。
また宜しくお願いします。

10/31 Vanilla

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ノベルチェッカー
作法を守らないのは仕様です><

【作品名】 飛んで火に入る夏の鼠 
【原稿用紙(20x20行)】 14.9(枚) 
【総文字数】 3844(字) 
【行数】 166(行) 
【台詞:地の文】 8:91(%) 
【ひら:カタ:漢字:他】 64:2:28:4(%) 
【平均台詞例】 「あああああああああああああ、あああ。ああああああああああ」
一台詞:30(字)読点:28(字毎)句点:37(字毎) 
【平均地の文例】  ああああああああああああ、ああああああああああああああああ。
一行:31(字)読点:26(字毎)句点:33(字毎) 
【甘々自動感想】
暗めの雰囲気が良い作品ですね!
ショートショートぐらいの長さだったんで、すぐに読めました。
男性一人称の現代ものって好きなんですよ。
一文が長すぎず短すぎず、気持ちよく読めました。
それに、地の文をたっぷり取って丁寧に描写できてますね。
「そうだ、エリス……こんなこと聞くのも変だけど、僕がここから自由になる方法って分かるかな?」って言葉が印象的でした!
あと、文章作法を守ってない箇所がちょくちょくあったように思います。
あと、空行が多かったように思います。
これからもがんばってください! 応援してます!
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コメントを頂けると筆者歓喜します。
- 正にタイトル通りの結末、ですね。しかしながら一言で説明出来ないような不思議がちらほらと。&br;単純に鼠に対しての皮肉……なんて考えれば一番楽なんですがねぇw&br;実家の飼い猫さん、有力ですねぇ。我が家の猫は、残念ながらモグラばかり狩っていました。 --  &new{2008-11-01 (土) 00:17:29};
- うちの子達なんか轢かれていた鼠しか狩って来ませんでした。&br;世の中そんなに甘くない、ですか。 --  &new{2008-11-01 (土) 19:27:03};
- 私の家の猫は毎日のように狩猟してきますww最後が少しかわいそうですね --  &new{2008-11-01 (土) 20:06:23};
- >00:17:29 の名無しさん&br;タイトルがネタバレ、というのは考え物かもしれません……ただ、他にしっくり来るものが浮かばなかったというか。&br;皮肉のために悪い結末だったというよりは、前向きに生きたけれどダメでした、という感じで……&br;無難な道を選べば幸せが待っていたかもしれませんが、敢えて挑戦をする、というところに彼の個性を置きました。&br;&br;ウチの猫は狩る能力には一際長けてましたね。スズメもたまに狩り、カラスや蜂にまで喧嘩を売るという。&br;ただ、威勢は良いけど喧嘩のほうは弱い感じでした。&br;モグラは狩るどころか、私自身生で見たこともないですね。しかし、あなたの猫さんは逆に凄いような……。&br;&br;>19:27:03 の名無しさん&br;やはりイエネコとして暮らすと野性味が落ちるのでしょうかねぇ。&br;しかし、その場で食べずにワザワザ飼い主に見せるというのは可愛いものです。&br;&br;>20:06:23 の名無しさん&br;なんと毎日とはww狩られるほうの繁殖力も異常ですねw&br;最後は自分で書いていてもかなり切なくなってしまいました。&br; -- [[Vanilla]] &new{2008-11-03 (月) 20:33:02};
- 最終的にコラッタは、死んでしまったのですか?                 --  &new{2009-08-05 (水) 14:03:29};

#comment

IP:125.13.222.135 TIME:"2012-07-17 (火) 18:11:38" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E9%A3%9B%E3%82%93%E3%81%A7%E7%81%AB%E3%81%AB%E5%85%A5%E3%82%8B%E5%A4%8F%E3%81%AE%E9%BC%A0" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"

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