[[雷の鳴るところライコウあり]] 作[[呂蒙]] ここのところ雨が続いている。一日中シトシトと降る雨ではなく、数時間の間にバケツをひっくり返したような雨が降り、しばらく止んで若干の晴れ間が見えたかと思うと、すぐに暗くなりまた雨が降る。この繰り返しである。なんでそうなるのかは知らないが、雨が嫌いな人や炎タイプのポケモンにとってはつらい時期である。 ある日の夕方のことだった。この日も例によって強い雨が降っていたが、夕方になるとぴたりとやんだ。晴れ間が雲の隙間から顔をのぞかせている。 「お、止んだみたいだね。今のうちに早く帰ったら?」 「そうですね。さようなら法先生」 カンネイは言葉を交わすと、連れているギャロップにまたがり、大学を後にした。別にポケモンに乗って学校に来るのはいけないことではないのだが、こうしているとやはり目立つ。ギャロップも周りからじろじろ見られているのが嫌で、深く息を吸い込むとそそくさとその場を離れた。 「しかしなぁ、カンネイ」 「ん?」 「あのじろじろ見られるのは何とかならないか?」 「まぁ、そう言うな。みんな悪気があってやってるわけじゃないから」 「だけどよぉ……」 ギャロップもそれ以上のことは言えなかった。風はともかく炎タイプにとって雨は大敵であった。何不自由なく暮らせて、雨がしのげる快適な空間に身を置いていることがどんなに恵まれているか分かっているからだ。 湿った空気がねっとりと肌にまとわりついてくる。それを振り払うようにギャロップは駆けた。ほどなくして家というか屋敷につく。三階建てで建物の面積もさることながら、中心部からそう離れていないのにもかかわらず、広い庭がついている。これで空気が澄んでいれば最高なのだが、それは贅沢というものだ。家の中にカンネイが一足先に上がり、ギャロップの脚について泥を落とす。そして、ギャロップも家に上がる。 両者が部屋でくつろいでいると再び雨が降ってきた。空を黒雲が覆い、たちまち大雨となった。こうも雨が降っていると、湿気もかなりのものとなる。カンネイがエアコンのスイッチを入れる。が、おかしい。エアコンが動かない。 「あれ、あれ? エアコンが動かないぞ?」 「おいおい、ウソだろ?」 ギャロップも暑いのは我慢できたが、湿気は我慢できなかった。体にまとわりついているようでその感覚の苦手なのである。 「電池が切れたんじゃねえのか?」 「昨日取り替えたよ。本当に故障したっぽいな」 「おいおいおい、冗談じゃないぜ」 いくら便利な文明の利器があっても動かないのでは意味がない。 そんな彼らをあざ笑うかのように雨は激しさを増し、雷まで鳴り始めた。辺りに轟音が鳴り響く。と、その時部屋が白い光に包まれたかと思うと、耳をつんざくような音が家を振動させた。 「カンネイ、近くに落ちたっぽいな」 「だな」 カンネイが庭を見ると、庭に植えられている一本の木が燃えていた。どうやら木に直撃したらしい。この雨なので他の所に燃え移る心配はなさそうなので、雨が止んだら木がどうなってしまったか見てみることにした。しばらくすると、雨が上がった。 カンネイとギャロップは、庭に出た。木は無残に焼け焦げてしまっていた。これだけやられてしまってはもう復活は無理かもしれない。かわいそうだが掘り起こして処分するより他になかった。と、焦げた木の傍の植込みの所に何かがいた。 「おい、何かいるぞ」 「へ?」 ギャロップが「それ」に近づく。カンネイも恐る恐るギャロップの後についていく。 見てくれは牙が立派な虎のようだが……。どうも「それ」は気を失っているようだ。お互い顔を見合わせるカンネイとギャロップ。 「お、おい、どうするよ、カンネイ」 「……見なかったことにしよっか?」 「う、ん、まぁ、野生だろうから自然の中で生きさせてやるのが一番だからな」 そそくさと玄関に向かう二人。しかし世の中運の悪いことは立て続けに起こるものだ。「それ」がカンネイたちに声をかけてきたのである。 「ど、どうする」 「良心が痛むけど、シカト?」 しかし相手も引き下がらない。素早い動きでカンネイたちの前に回り込んだ。 「ねぇ、お二人さん」 「何だよ」 庭の木を燃やされて、ご立腹のカンネイ。口調がやや乱暴になっている。 「ボクちん、しゅぎょーちゅーでさー」 「で?」 「火傷しちゃったから、薬とかもらえると嬉しーなー」 訳を聞くと、そいつはライコウというらしい。といってもそいつはまだ子供で、一人前の雷神になるためにあちこち旅をして修行するらしい。で、雨が降ってきたので木の下で雨宿りをしていたら、木に雷が落ちて、その電流でついでに感電してしまったらしい。ついていないというか、そういう理由なら仕方ないか。他人様の敷地内に勝手に入るのは問題だが。両者は納得したが、ここでギャロップが鋭い質問をぶつける。 「ん? ちょっと、待てよ。雷神ってことは電気タイプだろ。雷に打たれたぐれーで、そんな怪我するかよ?」 「ボクちん、まだ子供だから強くないし、さっきの雷は多分、こないだ修行をさぼったのがバレちゃって、多分、天に変わっておしおきの……」 「……」 何と迷惑なお仕置きだ。燃えてしまった木を弁償してほしいくらいだ。十年かけてやっとあれだけの大きさになったのに、一撃で炭になってしまったではないか。ギャロップの質問は続く。 「おまえ何歳?」 「6歳!」 「胸張って言うことじゃねえだろ……」 ギャロップはバカバカしくなって質問を打ち切った。何と迷惑な6歳児(?)だ。かつて、象の重さをはかる方法を考案した6歳児がいるらしいが、まったく、雲泥の差とはこのことか。続いてカンネイが怒りを抑えて質問をする。 「で、あちこち旅して修業の成果は?」 「えっへん、雷が使えるようになった」 ライコウなのだから、最初から雷など使えそうな気がするが、やはり修行しないと使えるようにはならないらしい。 「やって見せよっか」 「ん、本当にできるんなら、ね」 どうせ不発に決まっている、カンネイとギャロップはそう思っていた。が、予想に反して雷は起きた。そして轟音を上げて落ちた。カンネイの家に……。 「ね? すごいでしょ」 「ああ、確かにすげえよ。すごい迷惑だ。二度と使うな」 ギャロップはそう毒づいたが、ライコウには聞こえていなかったようだ。ギャロップの思うところ「使える」と言っただけで、使いこなせるわけではなかったのだ。止めればよかったとギャロップは後悔した。カンネイはただ深いため息をつくばかりであった。とっととこの「破壊神」を追い出さなくてはならない。ゴム手袋を何枚も重ねて手にはめた重装備で薬を塗ってやると、ライコウはお礼を言って出ていった。 「ふぅ……」 「やれやれ、だぜ」 ああ、何だか今日は無駄に疲れたな……。いつもは元気なギャロップも今日はぐったりしていた。 翌日、カンネイとギャロップはいつものように大学から帰ってきた。部屋に戻ると、何故か壊れているエアコンがつくようになった。昨日家に落ちた雷のせいだろうか。あのライコウもいいことをしてくれるもんだな、と思ったのつかの間。部屋のドアをノックする音が聞こえた。 「あのライコウが戻ってきたのか?」 「まさかぁ……」 恐る恐るドアを開けるカンネイ。しかし外にいたのは使用人だった。何故か申し訳なさそうな顔をして立っている。 「……どうしました?」 「実は、キッチンのクッキングヒーターが壊れて料理ができない状態でして……」 「ああ、電気式のやつね。また新しかったじゃないですか。欠陥品だったのかな?」 「いえ、昨日雷が落ちた時に過大な電流が流れたのが原因でして……。もしかすると、他の電化製品にも影響が及んでいるかと」 「……あ、じゃあ自分の部屋のやつを調べてみますか」 カンネイはドアを閉めた。十中八九、いや百パーセント昨日のライコウの仕業だ。なんてことしてくれやがったんだ。試しにテレビのリモコンをいじってみる。が、テレビはつかなかった。 カンネイはドアを閉めた。十中八九、いや百パーセント昨日のライコウの仕業だ。なんてことしてくれやがったんだ。朝気付けばよかったが、朝食はいつも途中で買って、学校で食べているのだ。とにかく他は大丈夫かな? 試しにテレビのリモコンをいじってみる。が、テレビはつかなかった。 カンネイがギャロップに言う。 「今、やつが目の前にいたら?」 「大文字、火炎放射、炎の渦、後ろ脚で蹴りを喰らわしてもまだ足りない」 「ふ、そうか……」 「頭に来るのは分かるけど、もう忘れようぜ」 「え?」 「思い出すだけで腹立つから」 「原辰徳?」 「……」 「ふん、冗談の一つでも言わないと頭の血管が切れちゃいそうだよ、この湿気でただでさえ不快だというのに」 そして、カンネイとギャロップは夕食にありつくために湿気で重い空気が立ち込める中、レストランに向かって歩いていった。 その道のりで両者は口には出さなかったこそ同じことを思っていた。 (あの野郎、二度と来るな) と。 何とか、季節ネタが完成。ライコウファンの皆さんごめんなさい……。 感想、指摘などはこちらまで。コメントお待ちしております。 #pcomment(ライコウのコメントファイル,5,)