作者:[[想夏]] この物語は[[雪の降り積もる朝]]のサイドストーリー + アフターストーリーにあたります。 読んでいない方は違和感を感じるかもしれません。 コメントを残してくださった方、本当に感謝です。 -------- 「今日も寒いなぁ。……雪は全く止みそうにないし」 今日の学校は、雪の影響で休みになった。 俺は今、下校中で信号に引っ掛かっている。 「帰ったら早く炬燵に入ってゲームを……ん?」 後ろで気配を感じた。さらにひんやりと冷たい感じが…… ――どくん 身体中に電撃が走る。心臓が跳ねる。跳ねる。跳ねる。真冬だと言うのに、身体が熱い。 初めて会ったというのに、何故こんなにも身体が反応しているのだろう? 彼女は俺と進化前は同じ種族のグレイシアだった。 全体が青を基調としていて、綺麗なひし形の形をした耳、少し大きめな尻尾。 何よりも、少し釣りあがって凛とした目。 彼女のその目を見れば見るほど、俺に流れている電気は蓄電し、さらに大きな電流が走る。 そして、彼女の周りの空気は雪の結晶が光で煌いていて、彼女をより輝かせていた。 信号が青になった。 彼女は俺が見とれている事に気付く。俺の鼓動は一層跳ね上がる。 しかし、すぐにつんとそっぽを向き、すたすたと立ち去ってしまった。 俺の心は落胆した。と同時に気付いた。そして認めた。 ――俺は彼女に&ruby(かんでん){一目惚れ};したのだと。 ------- 俺の周りは、その日から変わり始めていたんだ。 気付き始めたのはその一週間後。 「よお、最近楽しそうじゃん。何かあった?」 俺の唯一無二の親友、ルカリオのディムに変化があった。 ディムは、普段は大人しい奴でぱっとしなさそうな奴だ。 だけど、こいつは大事にするものはとことん大事にする。 自分の思った事をしっかりと形にしてから伝える。だから心にも思っていない中傷は絶対に口にしない。 そんな稀に見ないとてもいい奴だ。 「まぁ、な」 今日の反応はいつもと違った。俺と極力目を合わせないようにし、心なしか顔が赤い。 「怪しいな。好きな人でもできたか?」 「なっ!? そういう訳じゃ……」 図星か。ディムが好きになるってよっぽどの子なんだろうな。 「やっぱりな。顔に幸せですって書いてあるし」 俺の方はって言うと、あれ以来一度も会えない。出会った時を思い出すだけであの感電が起きるだけだ。 情報収集を出来る限りのネットワークを拡げて調べてはいるけど。 「実は……」 ディムはその女の子の事を一部始終話した。驚いたのは、俺と同じ日に一目惚れをしたこと。 でも、そのあとの展開が二匹の間でまるで違っていた。 本人は気づいてないが、かなり急接近だった。二匹で一緒に登下校する仲って……かなり仲良いだろ! 俺なんか一言も話してすらいないのに、羨ましい、羨まし過ぎるって。 「なるほどな。ついにお前にも春が訪れたわけだ。それで相手の名前は誰だよ。」 「……リンって名前の子。」 わお、かなり可愛い事で有名じゃん。 「ああ、あいつか。確かに可愛いよな。結構男子からモテるし。」 「リンのこと知ってたのか?」 逆に……今まで知らなかったのか。……まぁ、ディムらしいと言えばらしいけど。 「当たり前だろディム。知らない奴はほとんどいないぞ。2つ隣のクラスにいて、学年で一番可愛いってほどじゃなくても、性格が良いからかなり人気だぞ。狙ってる奴もかなりいるし。」 そういえば、確かにそんな噂がたってたな。リンちゃんが誰かと一緒に学校通ってる! って。 そいつ、確か大声で泣いてたな。 「なるほど。最近一緒に登校してる男子がいるって噂がたちはじめたけどお前だったのか……」 確かにお似合いなんだけど、こいつ、鈍感だからこれからが大変だろうなぁ。 「このクラスにも狙ってる奴はいるから気をつけろよ。俺はお前の恋が実るように出来るだけ応援するからさ。」 「ああ、ありがとな。」 「ディムー、いるー?」 ディムの顔に戦慄が走った。気をつけようと思った矢先だもんな。 あぁーあ、後の祭りだな。 ……そういえば、リンちゃんの友達にグレイシアの女の子がいたような。その線で一目惚れの子を調べてみるか。 -------- 「おっす。」 「おう、レクじゃん。どうしたの?」 ディムが、リンちゃんとデートする約束をした次の日。質問攻めを受けているディムを置いといて、俺は情報収集に向かった。 目標はもちろん、リンちゃんの友達であるグレイシアのレイア『様』だ。 噂を繋げてみると、どうも『様』がついているらしい。……良い予想が全くできない。 正直、同じグレイシアであって欲しくない気もする。いや、して欲しくないと断言する! でも……あのそっぽを向いた態度からすれば、あのグレイシアの可能性が……高い。 という事で、百聞は一見に如かず。彼女を垣間見てみようと、レイア様と同じクラスの友達を尋ねたのだ。 「いや、ね。そっちのクラスにレイア、様? って子がいるのを聞いた訳よ」 あくまで、俺が一目惚れしたグレイシアを捜してる、なんて事がばれないように。 「ああ、確かにいるな」 ん? こいつ、ちょっと震えてない? 「なんか、面白そうな噂だから来ちゃった」 「と、とんでもない!」 「……どしたの? なんかあった?」 「いや、見に来るなんて狂気の沙汰だよ! レイア様を知らないだろ!」 「そんなに酷いのか?」 「あ、当たり前だろ! 彼女のあの冷たい鋭い目を見たことないだろ!」 見たことないから見にきてんじゃん。 「あれで一睨みされてみろ。一気に奈落の底へまっ逆さまだよ! 軽い気持ちでデートに誘うなんてしたら、心を凍らされるぞ!」 Oh,I see,I see. 「要するに、全てお前の体験談なわけね」 「わ、悪いか!」 「いや、サンキュー。情報ありがと」 とりあえず、お前の二の舞にならなくて済むしね。 「んで、彼女は?」 「ああ、窓際にいるよ」 「ふむふむ。どれどれ」 ――きた。 あの感覚が鮮やかに再現された。しかも、今度は息をする事を忘れるというオプションつきで。 思わず、息を飲んでしまった。 「レク、どうした?」 「ん? どうしたって?」「いや、身体が麻痺したみたいに動かないからさ」 「俺が麻痺するわけないじゃん。電気タイプだぜ? 蓄電もちだぜ?」 「いや、そうだけど」 「なら」 「レイア様ー」 誰かがレイア様に話しかけていた。運が良い。レイア様の事を知れるチャンスだ。 「様ってつけないでって言ったでしょ? 何度言ったら分かるの?」 「あ、ごめん……。それでこの前の事なんだけど」 「この前の事?」 あ、首を傾けた。きょとんとした顔、可愛いー。 「うん、今度一緒に遊びに行かないかって話」 「ああ、その事」 突然すっと目が細くなり、鋭くなり、可愛い顔がものすごく怖くなった。でも、可愛いのは可愛いなあ。 「何であんたと一緒に遊ばなくちゃいけないの? そこまで親しいわけでもないでしょ?」 「いや、親しくなる為に一緒に遊ぼうと」 「そ・れ・に、様つけるようなあんたなんかと一緒にいたくないわ」 「いや、でも」 「でもじゃないわよ。さようなら」 そう言って、どこかへ立ち去ってしまった。 ……。 言葉が出なくなりそうなほど、かなり見事な攻撃だった。普通、あそこまで言えないだろ。 「ぉーい、レクー? レクー?」 「はっ!」 「おい、本当に大丈夫か?」 「何が?」 「いや、呼んでも返事しないからさ」 ……集中してて、全く分からなかった。思考がかなり飛んでたな。可愛い連発してたし。 「サンキュー、さっきのやりとり見てだいたい分かったよ」 「だろ? 怖かっただろ?」 「うん。でも面白かったよ。じゃな」 「おう、レイア様には気をつけろよ」 ふぅ、とりあえず分かった事が三つだな。 まずは、彼女はあまり馴れ馴れしいのが嫌い。 周りからモテて 『様』づけ厳禁 こんなもんかな? うーん、一目惚れして後悔しそうかも。 と、廊下を歩いていたら、リンちゃんとレイア『さん』がいた。 「もうー、聞いたよ。またきつい言葉を言ったんだって?」 「だ、だってあっちが」 「だってじゃないでしょ? だから周りに誤解されやすいんだよ。本当は優しいし、一緒にいて楽しいのに」 「うん、これから気をつける」 「うん、やっぱりレイアはそんな素直な所が一番だよ!」 「リンの前だから素直になれるんだけどね。いつもありがとう、私の親友!」 そう言って、レイアさんは、俺が見る初めての笑顔を作った。 彼女の笑顔がかなり眩しく見えた。俺のフラッシュ以上に、まともに直視出来ない。 「い、いきなりそんな事言わないでよ。恥ずかしいって」 分かった事、三つ追加。 レイアさんとリンちゃんはかなり仲が良い事。 レイアさんはツンデレ。 そして、 いつか、俺の手で彼女を笑顔にさせたいって事。 うん、これら六つは重要事項だな。 -------- 「ばっかだなあ。もう少し先に行けただろ」 「先って?」 週が明けた月曜日、俺はディムの近況報告を聞いていた。 かなり進展していた。かなり二匹は仲が良く、ディムよりもリンちゃんの方が積極的だった。これはもう、両想いと言っていいと思う。 「キスに決まってるだろ、キ・ス。それも分かんないのかよ、この純情奥手野郎が! お前は初恋体験中の乙女か!」 「いや、まだ会って間もないし、そんな感じじゃなかったから」 それなのにこいつときたら……。分かっていた事だけど、ディムはか・な・り鈍感だった。リンちゃんがディムに気があるのは誰が見ても分かるだろ。 「お前から聞いている限りそういう雰囲気だったの。それに、会った期間じゃなくて気持ちだろ? 俺だったら攻めにいってるな。そんなだと、リンちゃんに飽きられるぞ」 ディムにはかなりのチャンスがあるんだ。もし俺がその立場だったら、絶対に無駄にしない。 俺なんか、まだレイアさんと喋った事ないのに……。 ……あれ? ディムの話を聞いて一つ気になった事がある。何でリンちゃんはこんなに積極的なのかだ。 俺の情報によると、リンちゃんはクラスではおとなしい方らしい。しかもディムの言う通り、出会って間もないはずだ。何かリンちゃんを積極的にする理由があるのだろうか? ディムが傷付くような理由じゃなければいいけど……。少し、親友の為にも聞いてみないといけないかもしれない。 「ちょっといい? ここにルカリオのディムって人がいるらしいけど誰かしら?」」 この凛とした声は! 振り返ってみると、やっぱりレイアさんだった。 「おい、あのグレイシアって噂のレイア様じゃ……」 「本当だ。またディムがらみかよ。あいつ何であんなに美人と知り合いなんだ?」 皆が『様』付けをして、野次馬をしてくる。よし、俺のライバルになりそうな奴はいないな。 というか、これはレイアさんに話しかけられるチャンスかもしれない! 「こいつがディムだけど、何か用か?」 俺の声裏返ってないよな? さっきから心臓が高鳴って仕方がない。締め付けられて、熱いものが込み上げてくるような感覚が襲う。 「へえ、この人がディム…まあまあってところね」 レイアさんはそう言って、ディムをまじまじと見つめる。かなりディムが羨ましかった。 「俺に何の用だよ」 「別に。ただどんな人か見にきただけよ」 一方のディムは、レイアさんを怪訝そうな顔で見る。かなり険悪な雰囲気だった。 ……ディムに、レイアさんに一目惚れしたって言うのはまだ先の話になりそうだな。 「こんなところにいた。なにやってるのよレイア」 かなりナイスタイミングでリンちゃんが教室に入ってきた。 「別に。あなたの会話にいつもでてくるディムって人が誰か知りたかっただけよ…リンならもっといい人を選べるんじゃない? 例えばこのサンダースとか」 ……へっ? お、俺? 一瞬、思考が完全に停止した。 お、お、おっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ! レイアさんの俺に対する第一印象、悪くない! 「別にいいじゃない。レイアには関係ないでしょ。」 っとと、頭おかしくなってる場合じゃないか。ディムは話についていけてないし、会話に加わらないと質問もできないし。 リンちゃんがディムをどう思っているのか分かるチャンスだし。 「ちょっといいかな? お2人はどういう関係で」 始めはこんな質問からかな? 俺は初対面だから、二匹の関係知らないと思うはずだし。 「えっと、ディムこの人は?」 「ああ、俺の親友のレク。俺が一番信頼を置いているやつ。ところで俺も2人の関係を知りたいんだけど……」 や、やめろよディム、恥ずかしいじゃないか。 「うん。この人は私の友達のレイアって言うの。ごめんね。いきなりでびっくりしたでしょ?」 よし、自己紹介が終わった所で聞いてみよっかな? 「へえ、レイアさんはわざわざ友達の気に入ってる人を見に来たんだ」 レイアさんとリンちゃんが同時に顔を赤くした。 「べっ別に気にしてなんかないわ。たまたまこっちのほうで用事があったからついでにきただけよ」 レイアさんが恥ずかしがる所も可愛いなあ。……って変態か俺は。 ディムもリンちゃんを見て、俺の事を好きなのかもしれないって思って顔を赤くしてるし。 「おい、3人とも顔真っ赤だぞ」 「うっうるさいわね。行くよリン」 え? もうちょっと話したいことがあったのに。……もしかして嫌われた? 「えっ、待ってレイア……じゃあね。ディム。また放課後に」 「あっああ。またな」 まあ、とりあえずはディムとリンちゃんの仲がもっと進展しそうだし、リンちゃんもディムにかなり惚れてるって分かったからよしとしますか。 「これで分かっただろ。リンちゃんはお前のことが好きだって」 「なんとなく分かったよ。………ありがとなレク」 ……俺の方は相変わらず進展しないけど。 -------- 「レク、ちょっといいか?」 翌日の朝、いつになく真剣な顔で、ディムが話しかけてきた。 まさかとは思うが、振られたなんてことはないよな? リンちゃんの昨日のあんな反応見たら誰だって……、いやでも、今のディムの顔は。そんな思いを俺の頭で巡らすほど、かなり深刻な話題を話す表情だった。 内容は、確かにかなり重大な告白だった。良い意味で。 ディムがリンちゃんと付き合う事になった。 今回もリンちゃんの積極的な行動によるものだった。なんと、ファーストキスもしたらしい。かなり羨ましくて、嫉妬したくなりそうだったが、何より一番表にでた感情は、 「お前ら、とうとう付き合う事になったのか! 良かったな!」 祝福。だって、俺の一番の信頼している親友が、彼女できたんだからな。すっごい嬉しいこと、だろ? 「ああ、付き合える事になったのは、レクのおかげだよ。ありがとな」 「俺じゃないって。リンちゃんのおかげだろ?」 実際、俺がいなくとも自然とくっついていただろう。 「まあ、そうだけどな」 でも、一つだけ、気になる事があった。 「でも、少しだけ言っていいか?」 「ん?」 「ほとんどリンちゃんが勇気を出しただけで、お前から何か行動を起こしてないんじゃないか? それって、男として情けなくね?」 「うっ……」 ディムが受け身になっているだけだったこと。 こいつの欠点を一つ挙げるとしたら、自分に自信を持てないこと。もし、自分から告白し、OKの返事がもらえたのなら、リンちゃんから好かれてる。求められてるって自信が持てたかもしれないけど、このままだと、いつかディムは自信を持てなくなるんじゃないか? そんな気がしたんだ。 「はあ、いいのかよそんなことで。これじゃすぐに飽きられるぞ。……まあ、リンちゃんはそんなことしないだろうけどな。とにかく、デートとかはお前からしっかりリードしてやれよ?」 俺なりの叱咤激励とともに、リンちゃんはお前の事がかなり好きだから、自信を持てって意味で言ったんだけど、通じてるかなあ? 「ああ、これからしっかりやってみるよ」 ……心配だ。ちょっと、デートを上手くやれるか、尾行しないとな。……はは、自分の方は全然進展ないのになにやってんだか。でも、親友が心配だから、しばらくは。 「それでよし。まあ今はとにかくおめでとう。……俺もそろそろ彼女作ろうかな」 それにしても、ディムとリンちゃんかあ、二匹を見てると、俺もレイアさんとそういう関係になりたいなとか思ってしまう。 「おーいレク、ディムってリンちゃんと付き合い始めたのか?」 突然、クラスのやつが声をかけてくる。……ちょうどいい。どうせばれるんだし、このクラスには悪いやついないし、みんなでディムを祝ってやるか。 「ああ。こいつ付き合い始めたぞ。良かったよな!」 「お、おいレク」 「本当か? あのリンちゃんがなあ……。良かったじゃねぇかディム。おめでとう!」 この後は、男子も女子も交えて、祝賀会へと発展した。 ま、俺までうじうじしててもしょうがない。こうやって明るくしてれば、ディムとリンちゃんの関係も、俺の恋も、なんとかなるさ! その日の放課後、俺はディムとリンちゃんの尾行を開始することにした。 「あ、ディムーー!」 「リン! 待った?」 「ううん。今私も来たところ」 今は学校の下駄箱。その物陰に隠れて、俺は二匹を見ている。なんだか、背徳的に感じるが、友の心配でここにいるんだ。やましい所は決してない。 ……二匹のキスを見たって、役得ってやつだよな? 俺は周囲を見渡す。次に隠れる所、俺を怪しんでるやつがいないか、確認してっと。 ふと、反対側の下足箱に目をやると、淡い青色の尻尾が、ご機嫌よさそうに揺れているのが見えた。 ……あれって、 「……もしかして、レイアさん?」 レイアさんはビクっと体を痙攣させ、まるで壊れかけたロボットのように、カクカクと顔をこちらへ向けた。 息を吸い、何かを叫びそうだったので、俺は前足を口にあて、『静かに』というジェスチャーをした。 ……いろいろ叫びたいのはこっちも同じだよ。 俺は電光石火で、あちら側にばれないように急いで反対側へ移る。 「……驚いた。何でレイアさんがここに?」 少し声のトーンを落とし、レイアさんに聞いてみる。 「それはこっちのセリフよ。あぁ、驚いた」 「俺だって驚いたよ。まさか俺と同じように尾行しているレイアさんがいるんだもん。心臓がバクバクいってるよ」 今、レイアさんの隣にいることでさらに……。 「わ、私はリンが心配で……」 「へぇー、俺も同じだよ。お互い気があうな」 「あ、あなたと一緒にしないで!」 レイアさんが叫んだ。……まずい! 俺はあちら側に気付かれないように、レイアさんを押しこみながら少し離れ、その後にレイアさんの口を前足でおさえた。 「ん? リンどうした?」 「んー……、何でもない! ……確かに聞こえたんだけどなぁ」 ……あ、危なかったー。 俺が息をほっとつくと、レイアさんが俺の脇腹を小突く。 ……今気付いた。今の二匹の状況に。俺が何を押さえているか。 「うわっ。ご、ごめん」 す、スゲー恥ずかしい。レ、レイアさんの口をずっと触ってたなんて。でも柔らかかったなあ……、って違う違う! レイアさんは少し顔を赤らめ、 「ま、まあ、状況がじょ、状況だから仕方ないけど……き、気を付けなさいよね」 「わ、わるい」 「ほら、リンたちが行くわよ。詳しい話は後にして、追いかけましょう!」 「あ、ああ」 とりあえず、ディムとリンちゃんを追いかけることにした。 よく考えれば、これってラッキーな状況? ディムたちに追いつき、俺たち二匹がいろいろ落ち着きを取り戻してから、それぞれの状況説明をした。 「なるほどねぇ。あなた、ディムのことをよく知っているわね」 あまりお互いのことを知らないのに、早くもレイアさんはディムを呼び捨てだ。まあ、そういう物怖じしない性格だから、こうやってお互いに何の遠慮もなく話せるんだけど。 「まあ、ずっと親友だからな。そっちは?」 「私はただ心配なだけよ。リンは付き合うの初めてだから心配で」 「へぇー。そういえばリンちゃんは何でディムを? 一目惚れだとしたら、あそこまでアタックしないような娘に見えるけど」 「何であなたに親友の好きになった理由を言わなきゃいけないのよ。リンが恥ずかしがると思うから、例え知ってても言わないわ」 「知っててもって事は、知らないのか」 「す、少しなら知ってるわよ! 昔、何かしてもらった事があるぐらいわね! でも詳しい事は『ふふ、まだ内緒だよ』って言ってくれないの!」 「え!? リンちゃんはディムと会った事があるのか? でも、ディムは初めて会ったって言ってたぞ?」 「みたいね。『ディムは覚えてないみたいだけどね』って言ってたわ」 「ふむ……」 初耳だぞ。ディム、あんな可愛い娘との初対面忘れてんのかよ。 「……そういえば、言っちゃったな」 「何をよ?」 「リンちゃんがディムを好きな理由」 レイアさんはやっと気付いたようで、今さらになって慌てだす。 「あ! ……だ、誰にも言わないでよ? リンが悲しんだら、私が許さないんだからね!」 レイアさんの慌てる姿、可愛い! 前足の片方をわたわたして、尻尾をぶんぶん回して……。癖になるかもしれない。 「言わないって。そんな人を貶めることはしないよ。ディムも怒りそうだしな」 「……ディムにも言わないでよね?」 「分かってるって」 レイアさんがほっと息をつく。どうやら他人が言ったことはちゃんと信用するみたいだ。またレイアさんの良い所を発見できた。 「もぅ、私の、馬鹿」 「……ところでさ、レイアさんって誰かと付き合ったことあるの?」 「な、何でそんなこと突然聞くのよ?」 「いや、リンちゃんは付き合うの初めてだからって言ってたから、レイアさんは付き合った事あるのかな? って」 「……ないわよ」 よしっ。なんだか知らないけどかなり嬉しい気持ちが勝手に膨れ上がる。別に過去に好きな相手がいたって気にしないのに。 「……どうせ私なんて、誰も見てくれないわよ」 「……どういう意味? レイアさんは周りからモテているみたいだけど」 「じゃあ、あなたは様をつけてくる相手が好きって言って、OKだすの?」 ……なるほど。要するにレイアさんは、ちゃんと向き合ってくれる相手がいないって言っているわけか。 「私の性格があまり好かれないのは分かっているわよ。でも、自分を偽ってまで、相手と笑っているのはもっと嫌」 「……俺は嫌いじゃないけどな。その性格」 「え?」 「いや、嫌な事は嫌。好きな事は好きってきっぱり言える所。そういう、自分をしっかり持ってるっていう感じがさ。もっと誇っていいと思うけど?」 「……うん。あ、ありがと」 今言えるなら言いたい。「好きです」って。でも、もっと仲良くなって、もっと好きな所を見つけてからじゃないと、レイアさんは信じてくれないような気がしたし、上手くいかないような気がした。 「あなたが二番目かもしれない。私にそんな事言ってくれるの」 「え?」 「リンの次。なんだか、あなたとは仲良くできそうだわ」 また、感電した。笑顔に。前にも笑顔は見たけど、今度はたまたまじゃない。俺に向けられた笑顔。 今はまだこんな関係でもいいかもしれない。隣でこんな笑顔を見れたら、こんな楽しく会話できたら。 そして、俺のライバルが見つかった。 相手は可愛くて、人気者で、俺の親友の彼女。 そう、リンちゃん。レイアさんにとって、俺が彼女と同じ、いや、それよりも大事になった時、初めてレイアさんに告白できるのかもしれない。 「あ、リンたちが喫茶店に入ってく。早く行こう」 「なあ、そういえばさ、何で俺をあなたでしか呼ばないんだ? 名前でいいじゃん」 「ああ、そういえばそうね。……私の気が向いたらね!」 それまで、冗談を言い合いながら、レイアさんの横で、レイアさんの笑顔を見ていよう。こうやって、ディムとリンちゃんを二匹で尾行して。 それでも不思議だなぁ。俺、ツンデレ属性持っているわけじゃないはずなのに、あのツンと笑顔のギャップ、かなり好きになってきた。レイアさんと一緒にいるの、かなり楽しいって思い始めているし。 --------- こうした日々が何日か続いた。 俺の予想は、気苦労だったのか、進展は遅いが着実とディムとリンちゃんの仲は良くなっている。彼女と付き合い始めてから、ディムはよく笑うようになっていった。 一方、俺の方はというと、 「はあ、何であんたと一緒にクリスマスに歩かなきゃいけないのよ」 レイアさんとは仲が良くなった……のかな? まず、あなたからあんたって呼び名になった。 「じゃあ、リンちゃんとディムを尾行するの止めればいいじゃん。俺はこのまま続けるつもりだけど」 俺も、レイアさんに対して色々と言えるようになった。 「私は続けるわよ。あんたが止めなさいよ」 俺は不本意だけど、いつの間にかこういう関係になっちゃったんだよな。……はあ。前途多難な恋だよなあ。 「なら、このままでいいじゃん。お互いに止めたくないんだからさ。まあ、一匹で尾行するより、二匹でした方が楽しいじゃん。レイアさんは一匹だと見つかる可能性が高いしさ」 相変わらずなのは、俺がレイア『さん』と読んでしまうこと。言い方を変えたくても、今さらって感じがするんだよなあ。 ……ん? うじうじしたディムの性格が移った!? 「う……。ま、まあ確かにそうよね。&size(8){でも、やっぱりクリスマスは恋人とデートっていうのが、憧れるじゃない……};」 「ん? 何か言ったか?」 「な、何でもないわよ! ほら、あの喫茶店にリンたちが入ったわよ!」 「あ、ああ」 最後の方が聞き取れなかった。 たまに、レイアさんはそうやって何かぶつぶつと呟く癖があるのだが、いつも聞き取れないのだ。まあ、俺に対しての愚痴だったなら、面と向かってズバズバと言うのがレイアさんなのだから、あんまり気にしてないが。 ……それにしても不思議だ。好きな相手だと言うのに、相手に気を使おうとか、カッコいい自分を演じようとか思わない。むしろ、ありのままの自分を出してる。しかも、こういう言い合いが物凄く楽しい。 俺はふと、喧嘩するほど仲が良いってのを身体で理解したような気がした。……レイアさんが俺の事をどう思っているのかは分からないけど。 いいよなあ、ディム。羨ましい。 「凄く、仲良いよな……」 「そうよねぇ。ディム、最初は根暗でリンの事を任せられないって思ってたけど、今は凄く明るくて、優しい彼氏になったわよね。いいなあ、リン……」 もしかして、新たなライバルは親友? 「へぇー、今のディムがレイアさんのタイプ?」 「いや、ちょ、ちょっと待って。何で私がディムを好きなのよ?」 「いいなあ、リンって言ってたから」 「違くて、ああいう関係が良いなあって私も思っただけっ! 何でそうなるのよ!」 またいつものようにからかうと、レイアさんは片足と尻尾をぶんぶんと振る。おまけに首まで。……やっぱり可愛いなあ。 「ああ、そういう意味だったのか!」 「もう……。あっ! ねぇねぇ。このショートケーキ、美味しいわよ」 「マジで? 俺にもちょうだい!」 「嫌よ。間接キスになるじゃない」 「別にちょっとくらい……」 「だーめっ。そういうのは彼女が出来てからしてもらいなさいよ」 「ちぇっ」 俺はレイアさんが彼女になって欲しいの! 俺はレイアさんにそっぽを向いた後、ディムとリンちゃんの会話に耳をそばだてる。 「今日も楽しかったな」 「えへへ、そうだね」 「本当、リンと付き合い始めてから、時間が経つのが速く感じる」 「うん、私もそう思う。もっとディムの側にいたいよ……」 そしてディムとリン、お互いの目線が絡み合う。お、クリスマスだもんな。キス、普通はするよなあ。 何だかんだ言って、俺たちはディムとリンちゃんのデートを毎回尾行しているが、キスシーンを見たことがないのだ。そうなると、どうしても見たくなるわけで。 ……甘かった。 やはり、ディムとリンちゃんだった。お互いに目を伏せて、しばらく照れて、はにかみ笑い。 こういう焦れったい純愛も嫌いじゃないけど、むしろ好きだけど、クリスマスだろ!? キスの一つぐらいするんじゃないの、普通? 「本当、ああいうお互いがお互いの事を想い合ってますって関係、羨ましいわね……」 いつの間にか、レイアさんもあの二匹を見ていたようだ。 まあ、確かにな。……でも今一瞬、ディムの顔が曇る。レイアさんには分からなかったほどの一瞬。 また自己評価を低くしているな。そのせいでまた、自分からすることに躊躇っている。だから、俺は尾行をやめる事ができない。 俺はレイアさんがディムとリンちゃんを見ている内にショートケーキを食べようと……。 「あ! だから駄目だって言ってるでしょ!」 「ひぎゃ」 氷の礫をやられてしまった。 「油断も隙もないわね。暫くその氷を食べてなさい!」 「ちぇー」 間接キスは諦めて、レイアさんが作った氷を口でしっかりと味わう。……ひんやりとして美味しい。 「ちょ、ちょっと、本当に食べないでよ」 レイアさんが慌てていた。……? 「だって食べてろって言ったじゃん」 「そ、そうだけどぉ」 「美味しいかったよ」 俺はニカッと笑ってみる。 「……!」 あ、赤くなった。こうやって表情や行動が変わるのが可愛いんだよ。 「&size(8){は、は、は};」 「……は?」 「&size(8){恥ずかしいから……やめ、なさいよぉ};」 「事実を言っただけだけど?」 レイアさんは顔がポンっと鳴るのが聞こえそうなほどブースター並みに顔が真っ赤になった。 「……もう! 何であんたはいつもそうなのよ!」 「ん?」 俺は首を傾げる。 「まるで、恋人、同士、じゃない!」 だから俺はそれが希望で。 「じゃあ、なっちゃう?」 「だ、か、ら! そういう冗談はやめてって言ってるでしょ! いくら友達でも、それは軽すぎるわよ!」 ……毎回本気なのになぁ。俺って軽いってよく言われて、本気だと思われないんだよなあ。 「むぅ……、ほら、ディムとリンちゃんにばれちゃうから」 「ぅぅ!」 レイアさんにとって、俺は友達でしかこれからもない。そう言われているようで……。 いつか、絶対それ以上の関係になりたいって思わせてやる! 『ごめん』は俺の今の好きって気持ちを、自分で否定しているような気がするから、言わないでおいた。 「ったく、だからあんたはディムより先に彼女ができないのよ」 「いやっ、それはないから! 俺は好きな相手がいるから遅いだけで、あいつよりモテている自信あるから!」 「それっていつも聞くけど、いったい誰なのよ?」 「……まだ教えられない」 「まだってことはいつか教えてくれるのね! いつか絶対に暴いてやるんだから!」 「そんときはレイアさんも教えろよ」 「いやよ。そもそも私には好きな相手がいないし。だから、教えられる前に絶対に自分で尻尾を掴まえてやるんだから。というか、ディムは好きな相手と結ばれているんだから、やっぱり負けてるんじゃない」 「……むぅ」 「それに、好きな相手がいるんだったら、やっぱりさっきの発言は嘘だったのね!」 「いや、だからそれは」 「それは?」 「……ノーコメントで」 「ほら、やっぱり! ということで、ここの喫茶店はあんたの奢りで」 「えっ!」 「乙女の心を踏みにじったんだから当然でしょ。……すいませーん、おかわりお願いしまーす」 「まだ食うの!?」 結局今日もディムとリンちゃんはいつも通りで。 俺とレイアさんもいつも通りだった。 --------- それからまた少し月日がたった。外の気温がどんどんさがっていき、肌を突き刺すような寒さが続いていた。そして……、外の景色は暗く、グレーっぽくなっている。暗雲がたちこめていた。 ここ最近、俺は学校の用事があって忙しく、レイアさんとの尾行ができない日が続いていて、確かに充実はしているのに、何か味気ない日々で。 そして悪いことに、ディムの顔から笑顔が消えてしまっていた。声をかけてみても、あいつは上の空。心ここにあらずって状態だった。……リンちゃんと喧嘩したのかな? 放課後、あいつはいつもよりも速く帰っていく。本当にどうしたんだろ? 「おいレクー、レイアさまが呼んでるぞー」 ……レイアさんが!? まさか告白……って違う違う。ディムのこと、だよな。 「ちょっと待っててって言ってくれる? これ片付けたらすぐに行くから!!」 すぐに仕事を終わらせて、レイアさんが待っていると友達が示した教室に向かう。 その教室は真っ暗で誰かがいる気配がなかった。 「あいつ、嘘ついたのか……?」 教室を覗いてみると、レイアさんは ……確かにいた。 「レイア……、さん? どう、したの?」 電気を点けず、明りは、雲にほとんど遮られた日の光しかない教室で、レイアさんが、泣いているレイアさんだけがそこにいた。 いつもの凛とした、明るいレイアさんはそこにいなかった。いつも俺と張り合っていたレイアさんが、想像できないほど……、脆く、崩れ落ちそうで。声を押し殺して泣いていた。 「レク……? どうしよう。私、二人の関係壊すようなことを、今までしてたのかもしれない」 「どういうこと?」 「だって……。最近ディムがリンに会わないのは知ってる?」 「いや。浮かない顔してるのは知ってるけど」 「ディム、リンにしばらく会えないって言ったんだって。リンは何でそう言ってるのかは分かってないみたいだけど、『俺がリンとつりあえるように』とか、『周りから見ても付き合ってるのはおかしく見える』とかって言ってたみたい。私、最初にそんなこと言っちゃったから」 ……なるほど、ね。 -------- 最初ってタイムスタンプ押せないんですね(汗 かなり遅くなるので期待せずに見守ってください。 まだまだサイドストーリーは続きます。 -------- 感想はこちらにお願いします。 #pcomment IP:125.13.214.91 TIME:"2012-08-07 (火) 18:15:12" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E9%9B%AA%E3%81%AF%E5%85%89%E3%81%A7%E7%85%8C%E3%81%84%E3%81%A6" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"