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雨の季節に の変更点


第二作目です。一作目同様更新は遅いです。

注意:このページを&color(Red){作者に無断で複製又は更新しないでください};。

*雨の季節に [#fa7e30a6]

孤独って何?
いったい何を持って孤独って言うの?
人生を大きな湖と例えると、滴る水は湖に解けてしまえば見えないもの。
孤独もこれと同じでちっぽけなもの。
僕は今までそう思っていた。



ポチャ・・ポチャ
あ、雨だ。
そういえば、このごろ雨降ってなかったけ。
えっ、自己紹介ぐらいしろよって。
う~ん、自己紹介って苦手なんだよね。
僕の名前は、サータ。
住居はこの近くだよ。今は、川で石切して暇つぶしてるけど。
種族は、ラグラージ。
これと言って特徴は無いけど、あえて言うなら右耳のところに切れ込みがあるぐらいかな。
さて、雨も降ってきたし家に帰りますか。
帰路について、間もなく雨が強くなってきた。
いくらタイプが水だからと言っても、雨はやっぱりいやだ。
家につくころには体中びしょびしょになっているのは言うまでも無いけど。
体を乾かしてから、郵便ポストへ目を移すとムクホークであろう者が飛び立っていったのが見えた。
ムクホークさん大変だなーと思いつつも、外の郵便ポストへ行く。
多少濡れはしたが大したほどではない。
手紙は1通だけだった。
〔結婚披露宴ご招待〕
と書かれていた手紙には驚かなかったが、送り主にびっくりしてしまった。
「へ~。ジュカイン結婚するんだ」
ジュカインとは高校時代の親友でよくつるんでは先生に怒られた。
その後、自分は医学科あいつはあいつで植物学者になるって言って
それぞれ違う道を進んだんだんだっけ。
あっ、すいません僕は現在医学部在籍中で来年で卒業です。
とは言うものの、まだまだ医学の知識には疎いですし、研修でも小さなミスを連発したりと
とても卒業までいけるかどうか心配です。
考え事してたらお腹がすいてきた。台所にあるきのみでも食べますか。
そう言って台所の木の実が置いてあるところに向かった。
シャリ、シャリ・・・
「ふう、美味しかった。明日学校から帰ってきたら木の実採りに行かなくちゃ」
そう呟いて、早々と寝床に着いた。


「え~我々の体というのは・・・」
いつもの授業だ。
僕が医学部に進んだのは、両親を病で亡くしているからだ。
自分が5歳のとき両親は原因不明の病にかかった。
この病は、感染症ではないため面会は許されてはいたものの、弱り行く自分の両親を見るのは
当時5歳の自分にとって、とてもつらかったのを今でも覚えている。
母は病の進行が早く、僕が5歳の誕生日を迎えて半年もしないうちにこの世を去った。
一方、父は抵抗力が強かったのか僕が6歳の誕生日を迎えるその日まで生きながらえていた。
運命の日。父は、僕に今でも意味が分からない言葉を残した。
「汝、人の孤独を知らんとしろ。それすなわち、自分を知り他人と共存すること・・・」
この言葉はいったい何のだろう?
その疑問を常に持ち続け今に至るわけです。
こんな過去から、僕は両親がかかったこの病を直せるようにしたいと思い医学部に入った。
「・・今日はここまで」
先生のサーナイトが号令を告げると教室がざわつき始めた。
「さて、木の実採りに行きますか」
家にいったん帰ると張り紙がしてあった。
どうやら、迷子(?)を探している母親のものらしい。
レントラーか・・この辺じゃあんまり見かけないな。しかし、家に無許可で張り紙を貼るかな・・。
張り紙をはがしゴミ箱に捨てると、急いで支度をして木の実を採りに出かけた。
このレントラーが、自分の運命を左右するとも知らずに。


木の実がなっているところへは、川を伝って行くと僕の場合は速い。
基本的には何でも食べるけど、どちらかと言うと甘いものが好き。というより、根っからの甘党。
ジュカインからは「将来、医者になったとき医者の不養生って言われるぞ」と言われたほどだ。
木の実がなっているところへついたは良いけど、何か様子が変だ。
森になっているこの一帯は、普段ならかなりの量の人が木の実を取りに来ている。
しかし、誰もいない。
薄気味悪いので、さっさと木の実を採って帰ろうと思いいつもどおりモモンの木の実のなっている
ところへ向かった。
雲行きが怪しくなってきた。
いくらなんでも、もう床が冷たくなっているこの時期に二日続けて雨は無いよね。
案の定雨が降ってきた。
自分が水タイプとはいえ、地面タイプも入っている。
こういう時、自分のタイプの組み合わせは全く持って利点が無い。
と、思っていると空がわめき出した。
絶えず、あまり心地よくない音が上空で鳴り響く。
「雷だけはやめて」
そう心で祈っているのとは裏腹に目の前が光った。
雷が下から上へ上っていく。
ん、下から上へ上っていく?
「おとなしく捕まりな」
「あそこへは・・もう戻らない」
あれは、張り紙のレントラーじゃ・・・。
と言うことはあの目の前にいるドサイドンが母親?
・・と言う空気ではないな。
見るからに、レントラーは傷だらけだ。
とすると、彼は追われている?
ガサ・・・
「誰だ!そこにいるのは!」
しまった。目の前の茂みに体が。
ドサイドンはそういうやいなやいきなり破壊光線で攻撃。
僕は、基本バトルはしないんだけどそうも言ってられない。
すかさず、ハイドロポンプで鎮火。
「大人が冷静な判断ができなくてどうするんですか!」
そう言ってお次はハイドロカノンをお見舞いしてやった。
普通はよけれるのに、なぜかジャストミート。
ドサイドンは水に飲まれながら意味不明な奇声をあげ気絶した。
ドサッ・・・
あっ、それよりこっちのほうが重要だ
「これはひどい傷」
足からシッポにいたるまで傷の無いところは無かった。
雨で血は流れていくが、かなりの出血のはずだ。
こちらも、気絶している。
誘拐みたいで気が進まないけど、速く治療しないととにかくやばい。
そう思って川に飛び込み彼を背中に乗せその場を去り、自宅に向かった。


ふあぁ・・・
良く寝た。って今何時?
壁にかけられた時計は夜の10時をさしていた。
あたりは、夕方の雨が嘘のように静けさと闇が包み込んでいる。
僕は、余程疲れていたのかベッドに寄りかかって寝ていた。
いつもなら、いすぐらいには絶対座るのに。
スー・・スー・・
規則正しい寝息。
余程疲れていたのかな。すごい気持ちよさそうな顔してる。
ちょっぴり羨ましい。僕は、基本寒いのは苦手だからここ最近は良く眠れなくて。
彼をここにつれてきてから、医学生の持てる知識をもって治療をした。
とりあえずは容態は安定している。
ところで、医学生って医療行為してよかったけ?
そんなことを考えていたら、彼が目をあけた。
と、次の瞬間。
突然、僕に向かって電撃が発せられた。
今はじめて、自分が地面タイプを持ち合わせていて良かったと思った。
眩しさで目を瞑った。
目を開けた時、彼は目を鋭く完全に威嚇の目で僕を見ていた。
「僕は何にもしないから・・・」
言い終わらないうちに彼は僕に飛び掛ってきた。
完全に夕方のときのやつと同類だと思われてる。
「分かった。分かったから。僕は玄関で寝るから!」
そういって、毛布を一枚取って一目散にその場を離れた。
風邪引かないといいな・・・。
それにしても、彼の目は尋常じゃなかった。
それでいて、悲しそうにも見えていた。
彼は、一体なんで僕に襲い掛かってきたのだろう?
ガタガタとゆれるドアを背に僕は眠りについた。


寒くて、寒くてぜんぜん眠れなかった。
一方彼はと言うと、昨日見たのと全く同じ顔ですやすやと寝息を立てている。
患者には優しくだけど、さすがにこれには参ってしまった。
でも、寝顔は見ていて飽きないな。
昨日の、強面はどこへやら、凛々しさの中にもかわいらしさが垣間見えるその顔は・・・
って僕は何時からこういう趣味を持ったんだ。
相手はあくまでも雄だ。
こういった感情は持たないほうがいい。
そう言い聞かせながら、朝食とは言っても昨日かろうじて採れたモモンのみを食べ、
彼の分は・・・ジュカインから貰った貴重なシトの実を2個置いて早々と家を出た。
普段は使わない遠回りの道を歩いてみることにした。
もちろん泳いだほうが速いけど、そんなことしたら参考書等々が大変なことになってしまう。
早くついた分暇だ。
何せ、いつもより1時間以上早くついたのだから当然と言えば当然だけど。
「サータ。今日はずいぶん早いわね」
入ってすぐ、博士に会った。
昨日の、最後の授業のサーナイトのパート博士だ。口調から想像できる通り女性です。
主に心理学が専門のようで、講義もそれに順ずるもの。
講義だけでなく、付属病院で診察も行っている。
ふと、僕の頭にはあのレントラーが思い浮かんだ。
もしかしたら、博士はあのレントラーのような人たちに会っているかもしれない。
僕は、思い切って聞いてみた。
「先生、些細なことなんですけど・・」
「珍しいわね、あなたの質問なら大歓迎」
先生方に気に入られているのは確かだけどあまり気に入られすぎても
身動きとりずらい時あるんだよな。
そんなことは今はどうでもいいだよ!。話をそらすな自分。
「博士は、・・その、極度におびえた患者とどのようにして接していますか?」
「う~ん、たとえばどんな感じの子」
ここで現実をそのまま言うことには抵抗があったけど、言わないと帰ってからの僕の生活が危うい。
「いきなり電撃を発したり、自分を威嚇して来たりするんです」
パート博士は、語尾が現在形になっていることには気付かなかった。
少し考えて博士はちょっと意外なことを言った。
「抱きしめてあげる。それが一番効果的かな」
普通、見ず知らずの人にいきなり抱きつくのはどうかと思うところがあると思う。
それをさらっと言ってくれるから、思わず面食らってしまった。
「いやいや、別に変な意味にとらないで。でも、そういう状態の時こそ
 誰かのぬくもりが欲しいと思うし、優しくされると誰だっていやな気しないでしょ」
簡単なようで結構難しいと思われる。
でも言っていることは、的を射ている。
やってみよう、そうすれば彼は心を開いてくれるかもしれない。
「有難うございました。いい勉強になりました」
「いいのよ・・ってやっば、こんな時間。あなたも急がないとおくれるよ」
時計の針は非常に意地が悪い。
初冬の風が吹き付ける。でも、この風はどこか暖かかった。


今日の最後の授業は木の実についてだった。
その中で聞かなきゃ良かったと思われるものが一つだけあった。
「最近、若き天才ジュカインが改良に成功した『シトの実』には、
 精神を落ち着かせる効果がある。反面、そのときの気持ちによって味が左右されるため、
 場合によっては強い痺れの作用が起こるため使用するときは注意が必要」
すっかり忘れていた。
送られてきたときそんな注意書きがあったような。
もし、彼にこの作用が起きたらパート博士に聞いたことを実践する前に信用を失い
すべてが水の泡となる。
それだけは、絶対に避けたい。
僕は、いつもは使わない川を使って帰宅した。
荷物には『泡』のコーティングかけた。
維持するのが難しいから、普段はあまり使わないんだけど。
それよりも、彼が心配だ。
できる限り早く家に着きたい、そう思って泳ぐ速度を上げた。
僕は、心配性ではない。
でも、自分のせいで誰かが体調を崩すのは絶対にいやだ。
それでも、家に着いたのはいつもとあまり変わらなかった
でも、家に着いて僕の苦労はなんだったんだと思った。
木の実には口はつけてはあったが一口かじった程度だった。
何も無くてよかったど、一口だけじゃなぁ・・・
何よりも先生に言われたことを実行してみたいけど、どうやって?
まず話しかけよう。
寝息が聞こえないから、多分寝たふりだろうけど。
「ねぇ、起きてるでしょ」
図星をつかれたようで、耳がピクッと微動した。
「何で、追われてたの?」
返答までに少し時間がかかるだろうと思って少し間をおいたが、
夕暮れの静けさが辺りを包むばかり。
多少なりとも、心を開いてくれないとこちらとしても気まずい。
彼は、そっぽを向いたまま何も言わない。
僕がもう一回話しかけようと思ったとき、やっと彼の口が開いた。
「私にはかまわないで」
その声は、絶望と悲壮が入り混じったようなとても悲しいものだった。
人はどうしたらこんな声が出せるのだろうか。
彼の過去は、話してくれないことには分からない。
ん・・ちょっと待て。
今、「私」って言わなかった?
「ねぇ、今『私』って言わなかった?」
気持ちをそのままに、問いにした。
もし、雌だったら失礼だとかそんなこことは考えなかった。
「あんた、医者なのに雌雄の区別もつかないの?」
どうやら本当に雌らしい。
痛いところを突かれたけど、失礼きまわりないことを言った僕にも原因がある。
でも、これじゃあ博士が言っていたことなんてできない。
雌にはめっぽう弱くて全く免疫が無いのに、抱きつくなんて考えるだけで卒倒しそうだ。
とりあえず、謝罪の言葉を・・・
「ごめん。でも・・・」
その先を言う前に、彼いや彼女が早口でまくし立てた。
「これ以上話さないで。自分以外の人とは関係を持ちたくないの。」
彼女は、やはり過去に何かがあったようだ。
こんなにも拒絶されたことは今までで初めての経験である。
だからこそ、彼女と打ち解けたい。
悔しさもあるが、それ以上に今朝の考えが頭の中を交錯する。
そのためには、彼女の過去を知る必要がある。
そうしなければ彼女の気持ちは分かってあげられない。
ぎしぎしと軋む窓の音が鮮明に聞こえてくる。
早く話し出さないと、聞く機会を失いそうな気がする。
そんな気がした。
「お願いがあるんだけど、聞いてくれないかな」
「嫌といったらどうする気?」
「聞いてくれるだけでいい」
しばらくまた窓の軋む音が流れた。
返事が無いので話し始めることにした。
「君は、どうしてドサイドンなんかに追われてたの?」
少しおいて彼女は答えた。
「・・・私はあいつの性奴隷だったから」
性奴隷。
その言葉は、聞いたことがある。
主の欲望のためだけに、望んでもいない行為をさせられる人たちの総称だ。
奴隷と言う言葉自体嫌いである。
人の命を、軽く見ている気がしてならない。
「何で、奴隷なんかに・・・」
「そうするしか、生きる道が無かった・・」
そういわれてしまうと、余計につらくなってくる。
返す言葉は見つからない。見つけられない。
静寂は長くは続かなかった。
彼女はやけになったのか、それとも、今までの思いを吐き出してしまいたいのか。
とにかく分からないが、まだ完治していないはずの体を起き上がらせて僕のほうを見て話し出した。
直視されるのはただでさえ恥ずかしいのに、それが意識している雌ともなると頭の中が
ぐるぐると回転しだすのだが、彼女の顔が真剣そのものだからがんばって耐えた。
「あなたは『孤独』を味わったことはある?」
孤独。
一度経験した。両親がこの世を去ったとき。
そして、父が残した意味難解の言葉にも出てきた語句だ。
「ありそうね。あそこの写真、あなたのお父さんとお母さんでしょ」
そう言って、もう黄ばみ始めている写真が入った写真立てを示した。
見ているとつらくなるから、伏せておいたのに。
「いいよね、少しの間だけでも人の温もりが感じられて。
 私はね、親の顔を見たことが無いの。
 生まれたときにはもうこの世に両親はいなかった。母は私を産んだと同時に
 父はそれより前にこの世を去った。それでその後、おじさんに預けられたの。
 それが、始まりだった。
 そのおじさんが私の人生を狂わせたの。
 奴隷商人だと知るのにはそれ程時間はかからなかった。
 それから、ずっと各地を転々として・・・
 あのドサイドンのところへと流れ着いたの
 私は処女だけは、頑なに守ってきた。
 いつか私を受け入れてくれる人が現れたときのために。
 でも、あのドサイドンはそれを壊そうとした。
 だから噛み付いて、逃げ出したの。
 それで・・・」
「追われてた」
「私を買う人はみんな私を道具のように扱った。
 私は、それが悔しくて悔しくて・・・」
震えてる。
それはそうか彼女の負った傷は『孤独』では言い表わせられない。
深く暗く開いた穴。
その穴は、確実に僕よりも大きい。
すると、彼女ははっとしたよう立ち上がってふらつく足を踏みしめてその場から離れる。
「見ないで。泣いてるところは誰にも見せたくない」
僕は、できることならこの場で思いっきり泣かせてあげたいと思った。
でも、それは彼女自身が許さなかった。
「見ないでって言ってるでしょ。早くしないとまた電撃浴びせるよ!」
彼女の剣幕に押されて、慌てて寝室から出てドアを閉めた。
するとほとんど同時に、押し殺したようなすすり泣きの声が聞こえてきた。
僕は、ドアごしにその音を聞いていた。


孤独。
僕のそれは、人生を大きな湖と例えると、葉から滴る水のように解けてしまえば見えないもの。
でも、彼女のそれは黒く濁った色水が渦を巻いている。
もう二度と元には戻れないほどの深い傷を負っている。
僕にも、一度だけそんなことがあった。
両親をなくしてすぐのとき。
6歳という、まだ親を亡くすには早すぎる年齢だった僕にとって、
生みの親がこの世にいないと言う実感は余りにも残酷すぎた。
丁度彼女と同じように、周りに危害を加えて
『自分自身が雲になれたらこんな思いしなくて済むのに』と思っていた時期があった。
でも、そのとき支えになってくれたのは、僕を引き取ったおじさんだ。
僕がいくら暴れようとも、ふさぎ込もうとしても、
いつも傍に、いつも面と向かって僕を見てくれる。
そんな、心遣いは僕の心の薬となった。
そんなおじさんも、去年死んでしまった。
今は、身寄りは誰もいない。
・・・あれ。
僕は、眠ってしまっていたのか。
もうすすり泣きの声は聞こえない。
代わりに、心地よい静寂が辺りを包んでいる。
彼女と面と向かって話をしなくては。
じゃなきゃ、この体には熱すぎる気持ちをずっと抱え込んだままでいることになる。
一目ぼれしたのはまだ勘違いをしていたころだったけど、彼女の話を聞いているうちに
彼女の力になりたいと思う気持ちがいっそう強くなった。
だからこそ、彼女に僕を見て欲しかった。
重い扉を開けた。
目の前にはあの時と同じ姿があった。
そのまま見ていても時が経つのを忘れそうだ。
そのくらい、僕にとっては彼女と言う存在が魅力的だった。
女性関係が全く無いわけではなかったが、やはり長く見ていると顔が異常に火照る。
でも、僕は次の行動に出る。
本当にこれはやめようかと思ったが、彼女にどんなことをされてもいいと言う覚悟で行った。
ベッドは二人用なので横に寝ても問題ない。
生唾を飲みつつも、彼女を起こさないようにゆっくりベッドの中に入る。
多少体制を整えてから静かに彼女のほうを向いた・・・つもりだった。
でも、それでも一瞬だけ彼女の顔がしっかり見れた。
「自分が何してるか分かってる?」
飛び上がってしまうかと思った。
今自分がしていることは、彼女の気持ちを完全に無視している行動であることは重々承知のうえだ。
でも、それでも・・
彼女の気持ちを楽にしてあげたい。
しかし、そんな気持ちをまるで知らないかのように彼女はそっぽを向いてしまった。
「寝込みを襲うなんて趣味悪いよ。それに出てってていったよね。」
すごい剣幕にまたも圧倒されそうになったが、今度は引くわけにはいかない。
「電撃を浴びせるなら浴びせてもいいし、噛み付きたいなら噛み付けばいい
 それでも僕はここを離れない」
彼女独特の匂いに頭をクラクラさせていたが、いつもより格段に落ち着いていた。
「どうして私にそんなに親身になるの?」
「僕も君と同じだから」
「ただの同情だったら、今すぐ私から離れて」
「離れない。絶対にね」
「どうして!どうして、あなたは・・ぐず・・そんなに・・。」
すすり泣きの声は、近くで聞いているとこっちまでつらくなってきそうだ。
僕は、同情だけでここにいるんじゃない。
それを分かって欲しかった。
「ねえ、こっち見て」
僕の言葉に反応してくれるかどうかすら危うかったが、きちんと向いてくれた。
それでも、涙は止まっていない。
自分から、頼んだものの思考回路が暴走しているのかとまっているのか分からなくなってくる。
涙を浮かべた目は、月明かりを反射して真珠のよう。
でも、心は黒ずんだまま。
それでは、輝きが半減してしまう。
僕は彼女に身を寄せた。
そして、鬣に手を回し僕のほうへ引き寄せた。
彼女は、抵抗した。
電撃を何発も何発も放ったが、僕が電気を吸収してしまうため周りのものには何とも無い。
彼女の息遣いが荒くなっているのが直に分かる。
「おどろかないでっ・・」
近づかないでと言う意味なのか最後の抵抗は噛みつきだった。
これは効いた。
なにせ、急所である手を噛み付かれたのだから痛いのも当然だ。
でも、我慢した。
すべては彼女のために。
痛みをこらえ、さっきの言葉を繰り返した。
「言ったよね、どんなことをされても僕は絶対離れないって」
すると、徐々に抵抗が弱くなってきた。
まだ少しすすり泣きしていたけど、その目の焦点は確実に僕のそれと一致していた。
彼女は噛み付いたところから牙を離した。
少量とはいえないが、止血で何とかなる。
「その言葉信じていいの?」
「疑ってもいいよ、でも僕は絶対に離れないだって僕は君のことが・・」
「好きだからでしょ。」
そのとき、彼女の顔が綻んだ。
「い、・・・いつから」
驚きから腕が解けてしまったが、ほとんど同時に彼女は僕に身を寄せてきた。
「私の寝顔覗き込んでたでしょ」
「あ・・うう、ごめんあれはその・・」
「急に気弱になっちゃって。さっきの勢いはどうしたの?」
まともに答えられない。
今度こそ、頭がおかしくなりそうだった。
くすくすと笑う彼女は、さながら一輪の向日葵のようだった。
すでに季節を過ぎ、咲くことの無いその花は、着飾らない美しさを秘めていた。
「あなたは、絶対私を裏切らないって信じてる」
「何があっても、君を守るよ」
「あなたに裏切られたら今度こそ・・・グス・・私は・・ヒック」
泣かないで欲しいけど、今は思いっきり泣かせてあげよう。
「胸借りるよ」
彼女は今までの思いをすべて吐き出すかのように泣いた。
一人でつらかったのは君だけじゃない。
本当は、僕もつらくてつらくて仕方がなかったんだよ。
ねぇ、一緒に泣こう。
そしたら、きっと楽になるから。


あれから、早一ヶ月がたった。
彼女の名前は、両親から一回はつけられたのらしいのだが、
その後の環境の影響で忘れてしまったらしい。
僕は彼女に名前をつけて欲しいと頼まれた。
主従関係みたいで余り気が進まなかったけど、彼女の頼みなので快く引き受けた。
トコー。
彼女の種族名の「レントラー」のどれかの文字と、
楽譜記号のコーダマークの頭文字。
それで思いついたのがこの名前。
彼女には、今までの旋律から違う道を歩んで欲しい。
そういう願いを込めてこの名前にした。
話は変わって、1週間ほど前ジュカインの結婚式に行ってきた。
もちろん、二人で。
そのときジュカインが彼女に何を吹き込んだか知らないけど、
その翌日の晩から彼女が僕の寝込みを狙って襲ってくるようになった。
まだ、同棲という関係上とりあえずは彼女をなだめているが、何時まで続くかは分からない。
「サータ、何ボーっとしてんの」
「ごめんごめん、考え事してた」
頭の後ろに手をやって、へへっと笑って見せた。
「最近考え事多いよ。悩みがあるならお互いに相談しようって言ったよね」
「本当に大丈夫だから」
「本当?」
「つまらない嘘もつかないって約束したよ」
今は、あの日石切をしていた川原に来ている。
向こう岸では、近所の子供たちが遊んでいる。
すると、彼女がさっきの返事の変わりに僕の肩に寄りかかってきた。
「いいよなぁ。子供は」
「やっとその気になった?」
とんでもなくは無い。むしろ欲しいのだ、子供が。
でも・・・
「だから、いまはだめ。1ヶ月後に結婚式挙げてから。」
子供をなだめるように言った。
「分かってる」
しばらく、そのままじっとしていた。
初冬の風は冷たかったが、それでも太陽の光は暖かく川のせせらぎは絶えず流れる。
「ねぇ、サータ」
「なに、コトー」
ー私を助けてくれて有難う。
ーどういたしまして。

二つの滴る水は溶け合い1つとなり、また違う運命の旋律を奏でていくだろう。





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~あとがき~
今回、第二回目と言うこともあり少しは上達したかと言うとそうでもなく、むしろ悪化している
自分の小説に悲しんでいる今日の作者です。
性奴隷となり各地を転々としていく中で心身ともに疲れ果てたレントラーと
幼きころ難病で両親をなくしたラグラージを登場人物としたわけですが、
彼らにことごとく振り回され文章が今ひとつになってしまいました。
登場人物についていけるよう勉強の日々が続きそうです。
最後になりましたが、この小説をお読みくださった方と僕をこの世界へと引き込んだ三月兎先生に
感謝の意を込めてあとがきとしたいと思います。


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〈簡易版ノベルチェッカーの結果〉
       【作品名】雨の季節に
【原稿用紙(20×20行)】35.1(枚)
      【総文字数】9662(字)
        【行数】455(行)
    【台詞:地の文】20:79(%)|2029:7633(字)
【漢字:かな:カナ:他】32:62:2:2(%)|3139:6041:272:210(字)
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コメントありましたらお書きください。



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