#include(第二回仮面小説大会情報窓・非エロ部門,notitle) この小説には、&color(Red){血の表現};があります。苦手な方は、バックバック。 **陽の光 [#qfa789c4] お父さん、お母さんどこに行くの。 おいていかないで。 放してよ、僕は行くんだ。 押さえつけられて身動きが取れない。 目の前で何かが刺さる音がした。 赤い液体が飛んだ。 恐怖で足がすくんでしまった。 人が死ぬのを見るにはまだ幼すぎた。 心は漆黒に染まった。 何時しか光は届かなくなった。 光さえ冷たいものとなってしまった。 「ふぁ~」 余りにも早すぎる起床のため、幾分頭に霧がかかったような状態だ。 朝日がまだ昇っていない頃、黒いマントとシルクハットを被り玄関から外へ出る。 四足歩行ポケモン用に被りやすい形状にしてあるため、多少形が歪ではあるが被り心地は申し分ない。 暦の上では今日から春なのだがとてもそうとは思えない程、気温が低く起きるのがつらい。 街道をしばらく行って、路地を曲がる。 薄暗い道を行くと、酒場を模した扉が見えてくる。 無論、こんな人通りの少ない場所で酒場の経営が成り立つはずが無い。 扉を開けると、鈴がカランカランと音を立てる。 すぐ見える階段を少しずつ下ると、少し開けた場所に出る。 「おはようございます、頭領(リーダー)」 「おや、今日は早いじゃないかアダム」 もうそこは、酒場では到底ありえないような地形をしている。 ここは受付(のようなもの)で、ここから8本の通路が薄暗い中を突き抜けている。 頭領が座っている後ろの戸棚には、何千という鍵が並べられている。 「早速で悪いんだが、今日からお前が担当の奴だよ」 そういって、資料と313とかかれた鍵を渡された。 この施設は、奴隷商人が一時的に奴隷を預ける拘束のための施設だ。 奴隷は、競売にかけられるまでここで生活する事となる。 立ち止まり、右前足でもらった資料を掴み目の前に寄せる。 種族はリーフィアのようだが、それよりも変異種という表記に目が留まった。 変異種とは、通常の色違いのポケモンとは異なった変化をする種のことだ。 種によって変化は様々だが、例えば黒の炎を出すブースターなどが例として挙げられる。 無論の事ながら、商人の間では通常ではありえない値で取引される。 生まれる確立は、1/希少種が生まれる確立 ぐらいなのだから当然といえば当然だ。 自分の仕事は、奴隷を出来るだけ平常心で競売に出すことである。 奴隷は道具にしか過ぎないという考えが一般論だ。 しかし、売り物にならなくなられては困るということで作られたのがこの施設。 心を平常に戻して、すこしでも自殺をさせないようにする。 正直奴隷商人は嫌いだし、憎んでさえいる。 それもそのはず、目の前で両親が殺されたのだから。 さて、暗い話はさておき今の状況を考えよう。 いきなり襲い掛かられることも珍しくない。 扉を開けた瞬間殺されかけたことも何度かある。 変異種と対面するのは当然のごとく初めてであるから、とりわけ不安が大きい。 お前が平常心が保てなくてどうするんだとよく言われるが、どうしようもない 自分は心配性なのだ。 「進化の道が違うだけだから上手くやれるよ」 自分がここに向かう前、頭領に言われた言葉だ。 確かに種族はブラッキーだけど、それとこれとは話が違うような・・・。 白銀の扉・・・だったのだろうが今は錆び付いて面影ひとつ無い扉の前に立つ。 313の番号が扉に刻まれており、それがどこか重く見える。 生唾を飲み込み扉を開ける。 ソファー・ベッドがある以外何も無い、殺風景な部屋だ。 明かりは、ろうそくが2・3本あるぐらいで薄暗い。 錆びつきは、部屋の内部までは侵入してないようだ。 「こんにちは」 「こ・・・こんにちは」 初対面の挨拶がいきなり戦闘から始まることも珍しくないため、身構えていた。 しかし、その心配は杞憂に終わったようだ。 まぁ、ここまでしっかり挨拶されると調子が狂ってしまうのだが・・・。 ところでこのリーフィア、本来緑色である部分が紅葉したように赤く染まり、目の色は少しくすんだ栗色をしている。 「暗い青色・・・ですね、あなたの心」 心の色? 心に色なんて存在しないし、第一目には見えないものだろう。 彼女にはそれが見えると言うのだろうか。 突然、彼女は何かに襲われたように怯え、震え始めた。 「す・・・すいません!心を覗くようなまねをして・・・」 今にも失神しそうな震え様である。 奴隷と言う立場である彼女は、以前買われたところでひどい目にでもあわされたのだろう。 それを考慮すると怖がられるのも無理は無い。 凝視しなくとも分かる、体中にある傷がそれを物語っている。 横目で彼女を見る。 「ひっ・・・」 「何も危害は加えませんよ。安心してください」 怯えさせる気は全く無かっただが、逆効果だったらしい。 一歩踏み出すと一歩遠ざかり、また一歩近づくとまた一歩遠ざかり・・・。 ここまで綺麗に拒絶されるとかなり落ち込む。 飛び掛ってきてくれた方がよっぽど性質(たち)が良い。 思わず溜息が漏れる。 しょうがないので、僕は一旦部屋を出ることにした。 彼女の瞳に僕をどのように写したのだろうか。 怪物だろうか、それとも悪魔だろうか・・・。 どうにもこうにもあれだけ震えていては話もろくに出来ない。 とりあえず受付に戻ってきたのだが、大して良い方策が思いつくわけでもなくただボーっとしているだけ。 「どうだい初めて見た変異種の感想は」 「いったって普通で逆に驚きました」 正直な感想である。 頭領は、煙草をふかしながら笑った。 「そりゃそうだ、変異種って言うのは外見以外通常種となんら変わり無い。連中は物珍しさで高値をつけるが私はそれが気に食わんね」 葉巻の煙を溜息とともに吐き出す。 「命の価値を見誤ってる奴隷商人は、大嫌いだ。だから、品質を高めるとかそういうのじゃなくて次の悲劇まで束の間の休息を与えるのが 私たちの役目なんだよ」 「心得ております」 この仕事は結果として奴隷商人とつながりを持つことになるため、結果として奴隷商人と同じ扱いをされることが多い。 しかし、ここの施設の本質はそこら辺にある養護施設となんら変わりないのである。 ここで一つの疑問が浮かんだ。 なぜ奴隷なんてものが生まれるのか。 この仕事をしているとと時々頭をもたげる疑問である。 「一つ質問して宜しいでしょうか」 「珍しいじゃないかい。あんたから質問だなんて」 「僕は全能ではありませんよ」 「いつも私の言うことを聞いてばかりいているから、私がお前から質問することが珍しいと言うんだ」 自分ではそうでもないのだが、どこかで自分から行動することを避けているらしい。 困った癖だ。 「奴隷はどうして生まれてきてしまうんですか」 「お前はどう思うんだい、アダム」 「誘拐等にあって気がついたらそうなっていたと思うのですが・・・」 そう言ったら頭領が笑い出しちゃいました。 「あんたも馬鹿だね。奴隷商人が全員が全員誘拐犯じゃなかろうに」 「頭領、珍しく言った意見なんですから笑わないでくださいよ」 「アダム、奴隷はね、心をなくしたものが行く着く言わば終着点だ。そして邪な心の持ち主が最後の仕上げをする。そうすればただの操り人形と化した奴隷が完成する。私もその現場を見たことがあるよ。でも絶対に見ない方が良いよ。残酷すぎる、自分まで心を失ってしまうぐらいに」 頭領の口調が途中から哀願するような口調に変わったような気がする。 気のせいだろうか。 「もうこんな時間かい。ほら、持ち場を離れすぎだよ」 そう言って、戻りなと目で合図した。 ちらりと受け付けの後ろにかかっている時計に目をやる。 大体7:30をさしている。 街では威勢のいい掛け声が鳴り響いて一日の始まりを告げているのだろうが、ここは何せ地下である。 どんなに耳を澄ましても、街の声など聞こえるはずも無い。 受付には唯一電灯があるがこちらも白熱電球一個であるため大して明るさに変わりない。 僕は言われた通り、313番の部屋に戻った。 横を通るとき頭領の瞳が光っていたのはなぜだろう。 「入りますよ」 扉を開け、中に入ると彼女はまだ震えていた。 まずは落ち着いてもらはなければいけない。 少々の時間を使い考えた末、少しオーバーかもしれないが行動してみることにしてみた。 何より、自ら行動することを心がけなければ頭領にまたあんなことを言われてしまう。 彼女に向かって僕は一歩を踏み出す。 予想は出来ていたが、彼女は近づくとそれに合わせるように僕を避けるかのように後ずさりをした。 いや、実際避けていたのだろう。 ここでよく考えて欲しい、ここの部屋の広さは大して広くないのである。 そうすると、どうなるか。 結果は簡単で、いつか壁に阻まれて身動きが取れなくなる。 彼女もさすがにそこまでは考えていなかったらしく、壁に体が当たって身動きが取れなくなるとうずくまってしまった。 僕は彼女の頬に顔を近づけ、自分の傷にそうするように一度だけ優しく舐めた。 そして、一言「怖がらなくて良いですよ」と言った。 彼女の恐怖感が少しだけ和らいだようだった。 先ほどまでの震え様から、小刻みな震えに代わっていることがそれを物語っている。 少しだけ鉄を舐めたような味がした。 すぐに血の味だと分かる。 不思議とこのくらいの事だったら恥らうことなく出来てしまうのである。 今は亡き母親が泣いていた僕を慰めるときいつもそうしてくれたように。 彼女は驚いたように顔を上げ、僕の瞳の奥を見つめた。 整った顔つきに程よくふくらみを持った唇、無駄な脂肪が一切無い体つき。 どれをとってもこの薄暗い地下施設には不似合いだった。 それほど、可憐で洗練された美しさを持っていた。 そう思えば思うほどなぜか先程の行動に恥ずかしさがこみ上げてくる。 いつもならこんなこと無いのに・・・。 今度は自分がうずくまってしまいたい気分だ。 「あの、怪我してるようなんで手当てしますね。ちょっと待ってください」 語尾の方は聞き取れなかったかもしれない。 それぐらい早口でそう言って部屋から飛び出してしまった。 僕は彼女の傷を一つ一つ消毒していく。 しかし、これ以上の治療は出来ない。 商人側からの命令である。 自腹を切って薬を買う手もあるのだが、商店では奴隷商人の関係者に関わりたくないという思考が根付いていて、簡単には買えない。 すなわち、奴隷には治療のひとつも受ける権利が無いのである。 彼女の震えは小さくなってはきているものの、まだ僕を警戒しているらしくこちらを見てはすぐにどこかを向いてしまう。 僕が「他に痛いとこはありますか」と聞いても返答してくれない。 空気が重い。 物音が何も聞こえない。 ここは地下であるため気温の変化を受けにくいため、常に冷気が漂っている。 彼女は、治療をしている最中一言も発しず、ただ下を向いて首をカクンカクンしている ソファーというには語弊があるのかもしれないほど、傷だらけで埃っぽいそれに僕も座る。 座ったと同時に、彼女がゆったりとした振り子のように僕のほうに倒れてきた。 寝息が聞こえる。 それにしても、何時から眠っていたのだろうか。 恐怖心から少し開放されただけなのに眠ってしまうなんて。 彼女の傷はどこまで深いのか、正直見当がつかない。 僕の気持ちとは裏腹に非常に気持ちが良さそうにしている。 彼女の毛の質感は、自分の毛の質感とはまるで違う。 綿飴が自分の肩に乗っている感覚である。 でも、それに加え骨が肩に当たっているような感覚でもある。 食事もまともに取っていないのだろう。 僕はそっと綿飴のような毛をを撫でる。 まるで、小さな葉を優しく包み込むように。 紅葉したそれはロウソクの温かみがほんのりと伝わって来るようで、心が満たされていくような感じがした。 「う~ん。くすぐったいです」 「すいません。起こすつもりは無かったのですが」 「いえ、それよりも有り難うございました、傷の治療」 彼女は両手両足を見回して、言った。 「気にしなくても良いんですよ。僕は当然のことをしたまでですから」 「優しいんですね」 少しの間彼女の瞳がこちらを向く。 僕の胸の鼓動が病気にでもかかったように早くなって行く。 「もう少し寝ていいですか」 「え、ええどうぞ」 再び柔らかな毛が触れる。 あれ、何だか瞼が重くなってきたな。 僕も疲れているのかな。 少しぐらい寝てもいいかな。 お休み、リーフィアさん。 外はまだ寒いのかな。 でも、こうしていると暖かいね。 季節が巡って梅雨も明けた頃、僕は久しぶりに家へ戻ってきた。 さすがに6ヶ月も空けると空気がよどんでいて埃っぽい。 6ヶ月間は、どこで生活をしていたのか。 実のところ、あの地下施設の一角にある個室で寝泊りをしていた。 僕は労働者としての待遇が取られるため、生活に不自由することは無かった。 帰宅道中、毎年のことだが季節の移ろいの速さに驚き、同時に急激な変化に体が耐え切れず調子が悪くなる。 つい最近まで風が音を立てて吹いていたのに、今となっては太陽が痛いほど照り付けてくるのだから調子を崩さない方がおかしいだろう。 玄関に着くと同時に、気を失ったように眠ってしまった。 そのため、体中に汗が染み付いている。 ガラス戸を空けて、部屋の中に空気を送り込む。 蒸し暑いが、この部屋には丁度良い風である。 ガラス戸から出て小庭に出る。 月は非常に鋭く、どこへでも突き刺さりそうな形をしている。 僕は、地面に腰を下ろした。 月が僕の模様の色と同化して美しく輝いている・・・はずなのだが、僕の模様は青色だ。 そう、僕は希少種と呼ばれる部類に入るのだ。 僕たちの元、イーブイと言う種族は遺伝子が不安定で突然変異を起こしやすいと頭領から聞いた。 しかし、僕たちのように通常とは異なった者は表の世界に行けば、迫害を受け追放される。 その記憶が蘇ってくることもある。 もしかしたら、自分も彼女のようになっていたのかもしれない。 もしそうなったのなら、自分も・・・。 「やめたやめた。悲しくなってくる」 溜息が漏れる。 立ち上がり、シャワーを浴びに行った。 久しぶりの我が家に帰ってきて心休まる時間が少しばかり取れたかな。 蛇口を閉めて体を乾かしベッドに一直線に向かう。 何もすることが無いときはとにかく眠ることにしている。 布団に包まり今朝頭領に言われたことを思い出す。 『あんた疲れてるみたいだから、一回家に戻りな』 今までそんなことは無かった。 最長で、あの施設の中で1年を過したことがあるのだから。 奴隷に万一のことがあったとき対応できるようできるだけ施設内で過すように、という規則がある。 その規則を定めたのは頭領本人なのになぜ僕を帰宅させたのだろうか。 別段施設内にいたとき調子が悪いわけではないし、そういった素振りを見せた覚えも無い。 そして、次に浮かんだのは彼女の言葉。 『ゆっくり休んで下さい。熱っぽいのに無理して私のこと色々してくれたんですから』 彼女といるとき気がつくと彼女を凝視してしまっていたことが多々あった。 それがなぜなのかは分からない。 彼女のことを考えると、自分がそれまで相手にしてきた人たちとは違った感じがする。 考えれば考えるほど訳が分からなくなる。 僕はそこで考えるのをやめた。 彼女を救ってあげたい、でも何もしてあげれない。 彼女を分かってあげたい、でも分からない。 頭の中にその考えが渦巻いて、頭がどうにかなりそうだった。 何時か自分から離れていってしまうと思うとただ悲しくて、苦しかった。 僕は、考えたことを忘れようと必死に目を瞑った。 眠れないのは分かっているのに・・・。 「全く、荒れた夢の中だな」 また、あなたですか。 「またとは何だ」 悪夢を見せにやってきたんですか。 「あのな、俺たちの種族は別に『悪夢』だけを見せるんじゃないぞ」 分かっているよ。夢の中に入り込む能力があるだけだあって、好き好んで悪夢を見せるわけじゃないんでしょう。 「よく分かっているじゃないか」 こいつは、ダークライ。 最初に現れたのは、両親が殺されて一週間した夜のこと。 両親が、商人側に加担していたこと。 それを裏切ったために殺されたこと。 事の真相を、幼い僕には理解できないような語を並べて説明してくれた。 それからというもの、事あるごとに現れるのである。 今日はどのなご用件でしょうか、ダークライ。 「ここ最近、心が疲れていないか」 そんなこと無いと思いますが。 「自分では気付いてないと思うが、お前は心に重い病気を抱えている」 ・・・??? 「それは、俺にも特定は出来ない、言いたかったことはそれだけだ」 ちょ、ちょっと待ってください。訳が分からないです。 「言ってもらわないと分からないことではないはずだが?思い当たることがあるはずだ」 思い・・・当たる・・・こと? 「おっと、こんな時間だ。毎度のことだが睡眠時間の半分ぐらいを削らせてもらった」 そ、それはないでしょ。 「おい!ダークライ!」 そう言ったときには、もう目が覚めていた。 「どうしたんだい。せっかく家に帰らせてやったのに逆に疲れてるじゃないか」 「大丈夫です。心配しないで下さい頭領」 昨日があのような状態であるため熟睡できるはずが無い。 急激な気温の変化にさらされたのと寝不足とが手を組んで、自分の頭を鈍器で殴ってくる。 ようは、もの凄く頭が痛い。 「おい、忘れ物だよ」 「ふぁい、・・・痛っ!」 頭領、鍵は大切に扱わないと駄目ですよ。 振り向き様に、頭領が投げた鍵が僕の頭に直撃した。 「余計頭痛が酷くなった気がする・・・」 「ボーっとしてるからだ。さっさと行きな!」 頭領やけに今日は気が立ってるな。 触らぬ神に祟りなし。 僕はその場から即座に退散した。 「失礼します」 「はい」 彼女は扉の前にいた。 僕が来るのが分かったのだろうか。 「わっ!どうしたんですかその目のクマ」 「いや、昨日考え事をしていたら眠れなくなってしまいまして」 あなたのことを考えていましたなんて口が避けても言えるはずもなく、僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。 「本当に大丈夫ですか。無理しなくて良いんですよ、私は所詮は奴隷の身ですから」 「どうしてそんなことを言うんですか!」 本来、声は反射では発することが出来ないのだがこのときは反射といっても良いくらいの間しか空かなかった。 「いや、その、えっと・・・」 次の言葉が見つからない。 そのとき。 目の前が歪んだ。 寝不足が祟ったようだ。 鈍い音が部屋に響いた。 気がついたらベッドの上にいた。 部屋からは出ていないようで、薄暗い天井が目の前に広がる。 背中に何か当たっている感触があるので寝返りを打ってそちらの方を向くと、紅葉したような色の耳がこちらを向いていた。 彼女の顔が自分の目の前にあった。 胸の鼓動が早くなる。 顔が自然と熱くなる。 こんなにも近くに、手を伸ばせば届く位置に彼女はいる。 彼女の方に右前足を伸ばす。 頭を綿飴を触るかのように優しく撫でる。 彼女は、ただ静かに寝息を立てている。 自分より重い僕をここまで運ぶのは相当大変だっただろうに。 「くすぐったいですよ」 「すいません」 前にも、こんなことがあったような・・・。 本当に僕は、物覚えが悪いというか、何と言うか・・・。 「少しお話があります、聞いていただけますか」 「ええ、どうぞ」 何の話なのだろう、改まったような様子を伺うと重要な話であると事は間違いなさそうだが。 「あなたが帰宅した後、ここの頭領と思われる方に私の出発日時を伝えられました。」 えっ。 「丁度今日から4ヶ月後の早朝だそうです」 「そうですか・・・」 固まってしまった。 どうしてこんなに急に別れを告げられなければいけないのだろうか。 昨日の夜、ダークライに言われたことさえも分かっていない状況である。 頭の中で勝手に記憶を塗り替えて、今の言葉を嘘にしてしまえば良い。 そうしたかった。 でも、余りにも痛烈なその言葉は僕の記憶から離れようとはしなかった。 不意に地面に水滴が落ちた。 この施設に雨漏りなど存在しない。 それなのになぜ水滴が。 見ると、彼女は小さく嗚咽しながら・・・。 泣いていた。 また、奴隷の生活に戻らなければならないのだ。 その恐怖心からなのであろう。 小さな嗚咽からは生まれようも無い震えが、彼女を襲っていた。 今までは襲い掛かられたことはあるのだが、泣かれたことは全く無い。 僕は何とかして慰める方法を探した。 何か無いか、何か・・・。 一つだけある、しかしそれを果たして、好意を自分に寄せていない異性にやっても良いものなのだろうか。 答えに行き着く前に僕は彼女を抱きしめていた。 彼女は何時か枯れた葉のように散って僕の眼の届かないところに、消えてなくなってしまうかもしれない。 手放したくない。 自分勝手な思い、それでもその思いが抱きしめる力をより一層強くする。 抱きしめてしばらくは嗚咽を続けていた彼女も、何時しか嗚咽を止め落ち着いた息を取り戻していた。 しばらくの静寂。 二人の呼吸がより鮮明に聞こえる。 顔が不思議と熱くなる感覚にまたしても襲われた。 『自分では気付いてないと思うが、お前は心に重い病気を抱えている』 やっとその意味がわかってきたような気がする。 僕は、彼女のことを・・・。 「ブラッキーさん」 「何でしょうか」 「その、そろそろ放してもらえないですか。気恥ずかしいというか・・・」 「す、すいません!何も考えずに・・・」 「良いですよ。ブラッキーさんには自分に素直になっていて欲しいですから」 そう言って、軽く僕に向かって微笑んでくれた。 彼女は何でこんなにも明るくいられるのだろう。 投げ出してしまいたいぐらい苦しい生活のはずなのに、そしてもうすぐその生活に戻らないといけないのに、どうして・・・。 「ブラッキーさん、私の顔に何かついていますか?」 「い、いえ何も・・・いや汚れが結構」 彼女の顔を凝視してしまったようだ。 「あなたを運ぶときに汚れちゃったみたいですね。でも大丈夫ですよ」 「気になるでしょうから、お風呂入りますか?」 「そうさせていただけるなら、ぜひ」 そう言って、ベッドから降りた。 お湯の流れる音。 半透明のガラスから聞こえてくる。 変に緊張してしまうのを何とか抑えながら、ガラス戸越しにいる僕。 施設の一番奥にある、比較的清潔感の漂う浴場。 此処だけにはきちんと照明がついている。 もちろん、安全面を考慮してのことだ。 「熱すぎませんか」 「大丈夫ですよ」 ふと、思い出す。 『暗い青色・・・ですね、あなたの心』 心の色。 彼女には見えるのだろうか。 「リーフィアさん」 「何でしょうか」 「前に、僕の心の色を暗い青色と言っていましたよね。あれはどういうことなんですか」 「う~ん。人に説明するのは難しいんですが、その人の人柄、気分、そう言った物が色として私には見えるんです。あのときのブラッキーさんの色は暗い青色でしたから、何か悲しいことがあった直後だったんじゃないですか」 「そうなんでしょうか」 「私の経験上そうなります」 少し間をおいて僕は話し始めた。 「強いて言えば少しこの仕事に嫌気がさしていたことですね」 「この施設にですか」 「いえ、違います。この施設に運ばれてくる人たちは、何かの理由で主従権を、買い手が放棄した人たちが集まります。買い手の人たちは、手放す前に何とかして自分の言うことを聞かせようとします。そのため、もう希望の光など到底届かないことがほとんどなのです。自分の無力感で押しつぶされそうになるんです」 湯船につかる音。 またお湯が流れる音。 「でも私は違いましたよ。私は生まれた当時から[色覚異常]という病気((色がまったく識別できないほか、弱視などの症状が出る病気。彼女の場合は幸いにも視力は良い))を持っていて、見えているのがモノクロの世界なんです。今まで転々としてきて、結果的にこの施設に流れ着いたのもその理由です。そしてこの施設で、自分の命を絶とうとそう決めていました。でも、ブラッキーさんは私に普通の人と同じように接してくれました。それが私には嬉しかったんです」 「だから、僕が来るときは笑っていてくれるんですか」 「意識はしてないんですけど、自然と口元が緩んでしまうのかもしれないです」 鮮明に思い出される、彼女の笑顔。 本当につらいのは自分なのに、何事も無いような笑みで僕を迎えてくれて。 その儚くけれども、今まで見た笑顔の中で心の底から微笑んでいる健気な彼女。 僕のこの気持ちを、彼女に伝えたい。 無力感とはまた違う、押しつぶされそうな感覚。 このまま彼女が僕から離れていってしまうのは、僕には耐えられない。 「リーフィアさん」 「はい」 「出発する日の前ちょっと出かけませんか」 「そんなこと出来るんですか」 「やろうと思えばやれないことは無いんですよ」 外は師走も近づいてきた頃のはずだ。 「布を頭から被って着いてきてください。商人に見つかると面倒なので」 「本当に良かったんですか?いまさら心配しても遅いですけど・・・」 頭領を説得するのには全く時間がかからなかった。 何しろ第一声が『自分の好きなようにすればいいじゃないか』なのである。 いくらなんでもここの施設は(商人側の)規則を破りすぎではないのだろうか、と思いたくなる。 酒屋を模した扉を開けると、鈴の音とともに体に冷気の鞭があたる。 寒さを通り越して痛みが走る。 ここは緯度的にかなり北のほうに属するがために、この季節でも氷点下まで気温が下がることは珍しくない。 そのため路上生活者の凍死が急増する時期でもある。 「着いてきてください」 彼女を連れて行く場所、それは僕の思い出の場所。 両親とともに行った、最初で最後の場所・・・。 小高い丘に大樹が一本そびえ立つだけの、悪く言えば殺風景な場所だ。 「静かなところですね」 「星とかの色も見えないんですか?」 「星って、あの空に浮かんでる点見たいなものですか」 「そうです」 施設から出荷先へと輸送されるときは大抵の場合気絶をさせる。 もし万が一奴隷が逃げ出して団結し、施設ごとつぶそうとしたときのためだそうだ。 (商人たちは実は奴隷が怖いのでは・・・?) その所為なのか、幼い頃から奴隷の身である彼女たちは一般に知られていることでも知らないことが多い。 僕たちは天に届くのではないかとも思う大樹に自らの体重を預けた。 「結構冷えますね・・・」 「寒いですか?」 「平気です」 「体震わせてまで嘘つかなくていいのに」 彼女は図星をつかれたような顔をして、必死で言い繕おうとしている。 僕はそんな彼女の方へ前足を伸ばし--。 抱きしめた。 「大丈夫です!本当に大丈夫ですから放してください!」 二度目の抱擁は、まずかっただろうか。 「暴れないで下さい。こうしていると暖かいでしょう」 最初こそ抵抗していた彼女だが、だんだんと抵抗の力は弱まって次第に止まってしまった。 不意に、胸に冷たい感覚が走った。 「本当に暖かいですね。ずっとこうしていたい位です。それでも、この願いは叶わないんですよね」 少し嗚咽の混じった声が僕の胸元から聞こえてくる。 胸がしっとりと濡れていく。 明日にはもうこの柔らかな毛に触れることも出来なくなるんだ。 そう思ったら僕を縛っていた紐がいっそうきつくなってきた。 そして、その紐は耐え切れずにプツンと小さな音を立てて切れた。 目の前を雨粒が落ちて、彼女の頬を伝う。 ここは大樹の下なのになんで雨粒なんかが。 またひとつ、またひとつ目の前を雫が通る。 粒の大きさは次第に大きくなって音が立つのではないのかと思うほどだ。 この暖かさに触れることが出来なくなってしまうことに泣く事しか出来ない自分が余りにも無力で小さい存在に思えて・・・。 「ブラッキーさん?なぜあなたまで泣くのですか」 「あなたが僕の前から居なくなってしまうと思うと悲しくて」 「私は消えて当然の存在なんですよ。そんな人に悲しむなんて・・・」 おもむろに、切り出した。 「リーフィアさん僕の目を見てください。大事な言葉ですから」 彼女の顔がゆっくりとこちらに向く。 僕の瞳と彼女の瞳が互いに互いを映す。 上目遣いで見つめてくる彼女の目は夜空に負けないくらい、美しく輝いて見えた。 あなたとともに過していると、なぜか今までとは違った感覚に襲われるんです。胸を押しつぶされるような感覚に襲われるんです この気持ちを伝えてしまったら、彼女が僕から離れてしまうかもしれない。 それでも伝えなきゃ、もう次は無いのだから。 「僕は最初のうちは訳が分からず、この苦しみがただの苦痛でしかありませんでした。でも、今やっと分かったんです。あなたは消えて当然の存在なんかではありません。僕にとって掛け替えの無い大切な人です」 僕はそこで一呼吸置き、溜め込んでいた自分の気持ちを吐き出した。 「あなたのことが好きです」 彼女は状況がうまく飲み込めないらしく、瞼(まぶた)を閉じたり開いたりしている。 「私なんかを好きになっちゃ駄目です。あなたは、私なんかよりもっとずっと幸せな人生を送るべきです。それを私が壊してしまうことなんて出来ません」 「僕の人生なら壊してくれてくれてかまいません。でも、それでも僕と・・・僕と」 決して叶うことの無い、そうと分かりながら言葉を紡ぎ出す。 それでも、ついに止まってしまった。 俯いて泣く事しか出来なくなってしまった。 月の傾きが大きくなってきた。 夜は次第に更けていった。 何も喋らず、ただ啜り泣きをしながら彼女を施設に戻しその場から逃げ出すようにして自宅へ戻った。 そのときは突然に訪れた。 次の日の早朝、僕は複雑な心境で施設に向かっていた。 彼女をさらってどこまでも遠くへ行ってしまおうか、そう考える自分もいる。 施設に着くと、意外な一声が商人から浴びせられた。 「おい、商品はどうした」 「はい?」 確かに昨日は・・・。 「とぼけんじゃねえぞ、どこ見てもいねえじゃねえか」 扉を体当たりで壊し、階段を駆け足で降りる。 驚くべき光景だった。 部屋の鍵が全て無くなっており、扉も全て開いていた。 「誰がこんなことを・・・」 「誰がこんなことを・・・じゃねえよな。どう落とし前つけてくれるんだ?」 僕に何をしろというのだ。 「何もしてくれなそうだな、とりあえずお前の命で勘弁してやる。じっとしてろ」 ここでじっとしてるのは、馬鹿ですよね。 動きが単調すぎてつまんないです。 体当たりだけで倒せてしまった。 いったい犯人は誰なのだろうか。 「いや~お見事だ、アダム」 「やはり、頭領あなたですか・・・」 「分かっていたのかい、それじゃあ問題ない」 「なぜこんなことをしたんですか」 「前に嫌いだって言っただろう、商人は。それだから金奪ってそれでこの仕事から足を洗おうって決めていたのさ」 そんなに高らかに笑われても反応に困るんですけど。 「そんな難しい顔しなくてもいいんだ、ほらお前の彼女も助かったことだし」 「彼女・・・リーフィアさんは今どこにいるんですか」 「さぁ、私には分からん。何せ鍵を開けただけだ、その先のことは知らないよ」 「そんなの無責任で・・・」 そこまで言って言葉が出なくなってしまった。 薄暗くて気付かなかったが、頭領の前足、口元いや全身が返り血で朱に染まっていた。 夜のうちに何があったのかは否が応でも想像できてしまう。 「どうして彼女にそこまで固執するんだい」 「うっ、頭領には関係ないです」 「関係無いが、ちょいと気になったもんで聞いただけさ」 「真剣に聞いてくださいよ。両親を亡くして、あなたに引き取られました。それからというもの病気一つせず育ちました。ですが、僕自身は永遠に暗闇にいました。両親を失った悲しみから抜け出せずにいました。心の何処かに両親の温もりを忘れられない自分がいました」 「そんなときに担当になったのがあの子だと」 「はい。今まで奴隷と呼ばれる人々に触れあう日々を続けてきて、その傷ついた体を見る度に昔の記憶を思い出してしまって何度も投げ出そうと思いました。しかし、彼女は違いました。確かに昔を思い出しました。でも、悲壮とはまた別の感情が込み上げてきて彼女をどうにかしてここから、この暗闇から出してあげたい。何時しかそう思うようになっていきました そして僕も、彼女と触れるたびに心に光がさすような感じがしてきて、満たされていくような感じがするようになっていったんです」 「ふ~ん」 何ですか、その顔は! 不敵な笑み。 「そこまで、熱く語ってくれるとは思わなかったね」 否定も出来ず、次に発する言葉も見つからず・・・。 僕は、よく分からない胸の動機に思わず下を向いてしまった。 「昔からアダムはすぐ顔に出るな、しかし素直でよろしい」 「でも、結果として彼女は助かったんですね、良かったです」 「・・・丘の上」 え? 「昨日の晩あんたたちが行った丘の上にいると思うが、違うかね?」 「行ってみる価値はあると思います」 「それじゃあ行きな」 「有り難うございます」 階段を駆け上がり、今は無き扉を潜り抜け丘に向かった。 「あの子を見ていると、昔を思い出すよ。さて私たちも行こうかコスタ」 「気付かれませんでしたね」 コスタと呼ばれたボーマンダは、体を擦らせながら頭領を乗せ施設の出口へと向かった。 頭領の予想通り、彼女はそこにいた。 大樹に身を預け、空を見ていた。 夕焼け空に解けてなくなってしまいそうだった。 「リーフィアさん」 「わぁ!びっくりするじゃないですか」 「すいません」 風が吹き抜ける、僕らを包み込むようにして。 「何だか助かっちゃったみたいですね」 「そうですね」 「どうして、頭領さんは私たちを逃がしたりなんか」 「正直分かりません。でも、あなたはもう一度違う人生を歩んでいけるんですよ。やっと陽の光が当たる世界に出られたんです」 「こうして助かった命、あなたと一緒に歩もうかな」 「え・・・?」 「昨日の言葉忘れたわけじゃないですよね」 「ええ、まぁ」 「あなたのこと好きになっちゃいけないと思っていましたから。でも、奴隷から解放された今何にもとらわれること無いんですよね」 「はい」 「あなたと一緒にいさせてください」 必死な顔がすごくかわいい。 「駄目でしょうか」 「駄目なんていいませんよ。ありがとう」 「御礼なんて言わないで下さい。何だか照れます」 彼女の頬が一段と赤くなっている。 多分僕もそうなのであろう。 「そういえばあなたの名前聞いていませんでしたね」 「僕はアダムと呼んで下さい」 「私は・・・」 「名前ありませんでしたよね」 「はい」 「でしたら、『ミルト』なんてどうでしょう。温厚とかって言う意味でこの地方では『陽の光』を表すんです」 「それじゃあ、ミルトでよろしくお願いします。アダムさん」 僕は家路に着こうとした。 そのとき。 「おーい、お二人さん」 上空から頭領の声が聞こえる。 見ると、ボーマンダの背中に乗っているではないか。 「ご苦労さん」 「お安い御用です」 相変わらず、人脈が広い。 「頭領たちはこれからどうするんですか?」 「さあね。とりあえず、こいつと一緒に何処か遠くへ行こうと思う。おまえたちは」 「まだ分かりません。でも、もう一人でいることはなくなるんです。ミルトがいてくれますから」 「良かったじゃないか。そうそう頼み事一つ聞いてくれないかね」 「何でしょう」 「あんたの家に泊めてくれないかい。今日はもう暗いから明日出発することにしたんだ」 「元は頭領の自宅ですから、もちろんいいですよ」 「そりゃ助かる。コスタ、三人ぐらいだったらいけるかい」 「大丈夫だと思います」 「二人の結婚祝いもかねて、今夜は宴会と行くか!」 「と、頭領!」 「ハハ、お前をからかうと本当に面白い。では行こうか」 フワリと体が浮いたかと思うと強引に背中に乗っけられそのまま自宅へと向かった。 その日の夜は人生の中で一番楽しい夜だった。 「早くしないと置いてっちゃいますよ~」 「待ってくださいよ~」 「待ちませんよ、早く早く~」 また季節が巡った。 今は入道雲が空高く泳いでいる時期だ。 あの後色々と考えたのだがどうしても良い案が決まらず、こうして放浪の旅を続けている。 僕の家は頭領に明け渡してきた。 頭領本人は親友であるというボーマンダと一緒に宅配業務を行っているらしい。 木々に光が反射して、快晴の空に星が瞬いているようである。 「着きました」 「やっと森を抜けましたね、もうへとへとです」 「休憩取りましょうか?」 「そうします」 木陰に座ってさっき採った木の実を食べる。 「ミルトさん 「何でしょう」 「このまま放浪の旅を続けて意味があるのでしょうか」 「と言いますと・・・」 「明日何が起こるかも分からない状況の中で、この旅を続ける意味があるのかと・・・。 「だから意味があるんです」 「どういう意味ですか?」 「明日何が起こるかわからない、だから今日を実感できるんだと思います」 「フフ、ミルトさんらしいですね。それじゃあ行きましょうか」 「えっ、もう行くんですか。早いですよ~」 「さっき僕をおいてきぼりにしようとした罰です」 「そんな~」 「冗談です。もう少し休みましょう」 「やっぱりアダムさんは優しいです」 「そうでしょうか」 「アダムさん有り難う」 彼女がすっと近づいてきて僕の頬に・・・。 「す、するならちゃんと言ってください。心の準備が・・・」 「言ってもやらせてくれないですから」 彼女が少し頬を膨らませて言う。 そんな姿も、僕には愛らしくて純朴さに満ち溢れたものに見える。 全く、次は無しですよ。 「分かりました」 「では」 「行きましょう」 陽の光を全身に浴び僕らは歩みを進める。 誰の心にも闇はある。 誰の心にも悲しくつらい過去がある。 それでも一度だけで良い、顔を上げて前を見て。 暖かい陽の光が、もしかしたらあなたを救ってくれるかもしれないから。 ------------------------------------------------------------------------------------------ 〈簡易ノベルチェッカーの結果〉 【作品名】 陽の光 【原稿用紙(20×20行)】 55.7(枚) 【総文字数】 15077(字) 【行数】 700(行) 【台詞:地の文】 37:62(%)|5635:9442(字) 【漢字:かな:カナ:他】 33:62:1:2(%)|4976:9446:253:402(字) ------------------------------------------------------------------------------------------ ~後書き的なもの~ [[紅蓮]]です。 第一回仮面小説大会で、[[常緑樹]]に感動してこの世界に飛び込んだことをよく覚えています。 今回は閲覧者としてではなく、著者としてこの大会に参加しました。 結果はともかくとして、とても楽しめた大会でした。 最後になりましたが、読んでくださった方へ感謝をして後書きとさせていただきます。 ------------------------------------------------------------------------------------------ コメント等ありましたら。 #pcomment(コメント/陽の光,10,below);