writer is [[双牙連刃]] もの凄く久々の古本店更新です! お付き合い頂ければ幸い……早速↓からスタートです! ---- 仮に考えてみよう。もし俺がこいつを拾ってなかったら、俺は普通の古本店の店主でありポケモンと接する事も無かっただろう。 そこには穏やかながら退屈極まりない生活が待っていただろう。本に囲まれながら、たまに来る客を相手にするような、な。 だが、今俺はこいつが居る所為でそんな生活とは無縁な事になっている。……というか、なんでこいつは俺の布団に潜り込んでくる! 「ん~……」 そして何故俺に抱きつく状態になっている! なんかどんどん状態がおかしな事になってないか!? 「おいこら、月夜。起きろ」 「ん~? ……ん~」 なんで更に体を寄せるのか。問いたい、問いただしたい。 「いいから起きろっての。動けんだろうが」 「別にいいじゃないか。君と私の仲だろう?」 「起きてたんかい! っていうか、俺とお前の仲は居候と家主だろうが!」 「酷いな、もうかなり一緒に暮らしてるじゃないか。いい加減私の事も居候から昇格させてくれてもいいんじゃないか?」 「何にだよ」 「妻とか」 寝ながら吹かされました。妻ってお前、ミュウツーだろうが! こっちはごく一般的な人間だっての! でなんで馬乗りな状態になってんだ! そんな気は俺には無いぞ! 「君なら……私は……」 「お、落ち着け月夜。朝から何をしようとしてるんだお前は!」 「……ふふっ、そんなに慌てるとは、私の事をまんざらでもなく思っているのかな?」 「ぬぐっ、そ、そんな事ある訳無いだろ。いいから朝飯の用意するぞ」 「そうしようか」 ま、まったく……これで脈拍の上がってる俺ももう手遅れかもしれないな。なんとも思ってないとはもう言えないだろう。 するっと布団から出ると、月夜はいつも通り伸びをする。……よく見たら月夜の布団が無い。つまりわざわざ片付けてから俺の布団に入ったと。 もういいか。俺も自分の布団を片付けるとしよう。朝飯食って、今日も仕事だ。 ---- さて、今日も今日とて店番が主な仕事な訳だが、今日はちょっと特殊な仕事が待っているんだ。 で、それの準備の為に月夜も働かせている。仕事の内容は簡単だ、数冊の本をこの町の図書館に買い取ってもらうって言うだけ。 なんでも、この店の本の中には貴重な本もあるらしく、たまに図書館の人間が来てそれを買っていくんだ。まぁ、貴重と言ってもその傷み具合なんかによって買い取られるかは変わるんだが。 今回は別地方の歴史を纏めてある本を何冊かお買い上げだ。一応読んでみたんだが、俺としてはあまり興味を引く内容でもなかったな。 「んで、お前は読んでないで本の整理をしてくれっての」 「ふむ、歴史を纏めた書籍というのもなかなか面白いものだな」 「さいですか……」 ぱたんと本を閉じ、埃なんかを払って最後に大きな傷みなんかが無いかをチェック。ま、どれも概ね問題無いだろう。 整理した本を大きめの鞄に入れて、肩に掛ける。後は小脇に挟むようにすれば落とす事も無いだろう。 「よし、それじゃ行くか」 「了解だ。図書館か……ここよりも蔵書量は多いのだろうな」 「当たり前だろ? ここはあくまで売られてきた本が集まってるだけだ。向こうは意図して集めてるんだから桁違いだって」 俺の話を目を輝かせながら聞いてらっしゃるよ月夜さん……。こりゃ、配達行ったら今度図書館に行くようねだられそうだな。 まぁ行かなきゃならないんだから行くがな。月夜は置いて行こうとしてもどうせテレポートしてついて来るだろうし。 ここから図書館までは歩いて大体45分ってところか。バスを使えば早いんだが、月夜が居るからな……まぁ、ゆっくり歩いていってもいいだろ。 空は晴れ渡り……とは言えない程度の薄曇りってところか。曇ってるって言っても、雨が降るほど厚い雲じゃないから大丈夫だろ。 流れる人混みは軽く俺達を眺めて通り過ぎていく。ミュウツーは目立つだろうけど、のんびり俺の横を浮いてついて来る様子からか、極端に驚かれるような事は無くなったかな。 『穏やかな日だな……こうしていると、瞼を閉じたら気持ち良く眠れそうだ』 「まったくだ。日差しも強くないし、昼寝するなら良いだろうな」 足取りは軽いけど、気持ちゆったりとしたものに変えて町中を歩いていく。俺みたいにポケモンを出したまま一緒に歩いてる人はまばらだが、それでもこうして落ち着いて見ると結構居るもんだな。 そうしてしばらく歩いていると、まぁいつも通り引き止められた。月夜へのバトルの申し込みだな。 結果は言うまでもないだろう。あぁ、バトル後のやり取りについてはまちまちだな。普通にバトルが終わった後みたいに賞金を払っていくトレーナーも居れば、逃げるように去っていく奴も居る。別に俺がどっちでもいいからそのまま見逃してやるけど。 「つ、強い……」 『お褒めに預かり光栄だ。なんてな』 「これでも一応ミュウツーですからね。では、失礼」 ……あ、そう言えばこの前俺も正式なトレーナーのライセンスは取得したんだったな。だからもう賞金を受け取っても後ろめたく思う必要も無いのか。今更ながらあれの存在の事を思い出した。 そういや言及されなかったから思いもしなかったけど、トレーナー登録されたんなら余計にこいつをボールに入れた方がいいんだろうか? ……面倒だし、別にいいか。 『ん? どうかしたかい?』 「いや別に。そういや俺も今は正式なトレーナーだったんだなーって」 『そう言えばそうだったな。警察より認可された正式なトレーナー、運転免許証で言うゴールド免許のようなものだったか』 「……何時そんなの覚えてくるんだお前は?」 『君がライセンス取得時に貰った書類に書いてあったじゃないか。見ていないのかい?』 あ~、そう言えばそんなの貰った気もするな。途中まで読んで面倒になって止めたんだったっけ。 『呆れたな……君は今、現行犯等に対してなら一部の警察権を行使出来るんだぞ?』 「え、そうなのか?」 『そうなんだ。警察官が来るまでの身柄の拘束、及び犯人拘束時のポケモンでの戦闘等が容認されているんだ。まぁ、その辺りは私が把握していればいいだろう』 「だな。任せるわ」 『君に何かあれば、私は大手を振って君を守れるという事だ。お得じゃないか?』 へぇ、それは確かにいいかもな。まさかそんなおまけがあったとは思ってなかった。 『代わりに、警察からの応援要請があれば手を貸すのが義務だがな。警察も面子があるだろうし、これは早々無いとは思うがね』 「ま、何かある度に幾ら警察公認トレーナーとは言え一般人の手を借りてたら、そりゃ警察の名折れだわな」 『そういう事さ』 っていうか、俺が言ったのはゴールド免許の方の事だったんだがな……。まぁ、国語辞典やら広辞苑やらを暇な時に読んでるようだし、その中にあったんだろ。 しかし、ポケモンをこいつしか連れてない俺が持ってていいライセンスなのかね、それ。なんかペーパーテストだけで受かっちゃったけど。いや、普通のトレーナーになるにはペーパーテストすらないんだからテストがあるだけいいのか? 中には、ポケモンが好きだって言う理由だけでトレーナーになる奴も居るくらいだからな。それよりは、きちんとテストをパスしたトレーナーの方が頼れるか。 なんて考えながらまた歩を進める事にした。……そうだ、帰りにポケモンセンターに寄ってトレーナーカードに写真を入れるか。いつまでも写真無しじゃ締まりもないし。 ちょっとくらい寄り道しても、どうせ店に来る客なんてたかが知れてる事だし。店主の俺が言うのもあれだが。 『しかし、そのライセンスでどうにかならないものかな。いちいち私を見て勝負を仕掛けてくる輩をあしらうのも面倒なんだが』 「それは無理だろ? 公認トレーナーだから勝負しないなんて道理は無いだろうし、お前が滅多に居ないポケモンなのが悪い」 『むっ、酷い言い方をするな。そういう奴には……こうだ』 ……なんで首に腕を巻いて抱きつく形になったし。 『せいぜい目立って、君の収入源にしてやるからな』 「あのな……ただでさえ目立つんだから止めろっての」 『これは君の言動への仕置でもあるんだから止めないよ♪』 妙竹林な事をいきなり始めるもんだなこいつも……もういい、気にしないで行くとしよう。 少し首を動かして後ろにある月夜の顔を見ると、なんでか嬉しそうに笑ってた。やれやれ、喜びどころがよく分からんなぁ。 気にしても始まらないか。とにかく歩を進めよう。 その後は特に何も無く順調に歩いてきた。どうやら、図書館も見えてきたようだ。 ここの図書館って結構デカイんだよな。三階建てで、敷地面積は普通のビル四つ分くらいだったかな? 蔵書量もそれに伴って凄い数になってたか。そこまで詳しくは知らないが。 で、ここの蔵書がまた数冊これで増える事になる、と。とりあえず中に入って、受付へ行くとするか。 『お、おぉ~!』 「……流石に感動しても声は出さなかったか」 『そんな抜かりを私がすると思ったかい? でも、これは凄いな!』 やっぱり喜びますよね、時間さえあれば常に本を読んでたいポケモンですもんね、月夜さん。 こんなに本に興味を持つポケモンがかつて居ただろうか。俺が知る中では居ないな、うん。 「とりあえず、なんか読んでていいぞ。多分、本の査定でしばらく掛かるだろうし」 『よし、行ってくる!』 早っ。まぁ、あんな目立つ奴は探せばすぐに分かるだろ。それよりも、俺は本を納めないとな。 「すいません、よろしいですか?」 「はい、貸出希望の方でしょうか?」 「いえ、私は沖宮と申します。こちらでお買い上げ頂いた本を納めに参りました」 「あ、はい。話は伺ってます。それでは、本をこちらに。よろしいですか?」 「はい。こちらになります」 鞄に入れていた本を受付の女性に渡した。これが後は査定されて、後払いの金を受け取れば商談成立ってことだ。 「それでは査定が終わりましたらお呼び致しますので、どうぞごゆっくりお寛ぎを」 「そうさせてもらいます。では」 これ、館内アナウンスで呼ばれるんだよな……それが実はちょっと恥ずかしかったりする。なんか、迷子で呼ばれてる感じがするんだよなぁ。 さて、それじゃ時間を潰すとするか。なんか俺も読んでるとするかな。 まぁ、毎回そんな事を思いながら本を眺めてたら査定が終わるんだが。さて、どうするかな。 とりあえず適当に歩いてみた。惹かれるタイトルっていうのはたまーに見つかるんだが、俺ってその惹かれる事があんまり無いんだよなぁ。 しかし、この静かさは嫌いじゃない。なんというか、落ち着く静かさって言うのかな。図書室とか図書館で勉強をするとはかどるなんて聞くけど、俺は本当にそう思う。 店とはまた違うこの静けさで、なんとなく時間がゆっくり流れてる感覚になるんだよな。 こういう場所を利用する人は大体同じように感じるのか、騒ぐ奴が居ないのもまたいい。まぁ、常識の無い奴もたまに居たりはするんだが。 ……ん? あれは……月夜じゃないか。結構うろうろしてたと思ったが、この広い図書館で探しもしないで会えるとはな。 静かに何かの本を読んでるみたいだな。こうして見てると、まるでそこに居るのが自然なみたいにこの空間にマッチしてるように見えるから不思議だ。 この棚は……童話や物語を綴った本を収められてる棚みたいだな。やっぱりこういうの好きなのか、あいつ? あ、月明かりの夜がある。これが切っ掛けで月夜の名前が決まったんだよなぁ。まぁ、家に帰れば普通にあるんだけどな。 「ふぅ……」 ん、どうやら持ってた本を読み終わったみたいだ。こいつ、結構速読なんだよな。それで内容を覚えてるのは流石ってところか。 溜め息ついてるが、近くに俺以外居ないんだから平気だろう。なんかしんみりした雰囲気になってるが、何読んでたんだ? 「陽平……」 「呼んだか?」 「へっ!? な、ななななん!?」 「何驚いてるんだよ? で、どうした?」 「な、んでもない! ただ、呼んでみただけなんだ!」 明らかに慌てて手を振ってる様子からして普通じゃないがな。浮いてる本は……ロミオとジュリエット? 聞いた事はあるが読んだ事は無いなぁ。 俺が見てるのに気付いたからか、本は慌てて棚に戻された。そんなすぐに戻さなくてもいいのにな。 で、なんで俺の方をチラチラ見てくるんでしょ? なんか妙に顔も赤いし。 「ど、どうしたんだこんなところへ?」 「いや別に? 査定を待ってる間に何か読もうかと思ってな」 「そ、そうか……」 落ち着いてきたかな。っていうかナチュラルに喋り過ぎだろ。誰かに聞かれたら面倒だろうに。 「で? 俺に隠すような内容なのか? ロミオとジュリエットって」 「いや別にそういう訳ではないんだが……その……」 「その?」 「き、君はこの本の内容を知っているか?」 「いや、知ってるのは題名くらいだな。あーでもなんか、悲恋の代名詞だとか言われてる物語だったか」 「あぁ……結ばれる事の難しい間柄の両者が恋をし、最後は小さな誤解から、心中のような結果になってしまったという悲恋の物語だよ」 ふーん、なるほどね。そりゃそんなの読んでたらしんみりした雰囲気になっても間違ってはいないわな。 心中か。そんなに誰かの事を好きになったのなら、その想いを貫けばいいと俺は思うんだがなぁ。 「……君は、どう思う? この物語の事を」 「いやどうって言われてもな? 俺は読んだ訳じゃないし……まぁ、強いて言うなら」 「言うなら?」 「俺は誰かを好きになったら、心中なんてしないで傍に居てやりたい。死後の世界で、なんて寂しいだろ」 俺がそう言うと、月夜は少し驚いたような顔をした。そして、その後にふっと笑ってみせた。 「……どうやら君は、ロミオにはなれないタイプみたいだな」 「悪かったですねーっと。ロマンより現実主義なんでね」 「いや、悪いなんて思ってないさ。寧ろ、安心した。好きな相手の為に命を落とすなんて……悲しいからな」 あぁ、間違いない。……でも、好きな相手に先立たれたりしたら、どう思うんだろうな。 不意に、思い出したんだ。爺ちゃんが亡くなった後の、婆ちゃんの事を。凄く……寂しそうだったのを覚えてる。 だからか、追いかけるように婆ちゃんも亡くなった。きっと……向こうで今も、爺ちゃんと一緒なんじゃないかな。向こうなんて、あるか分からないけど。 「……? 陽平、どうかしたのか?」 「あ、いや……ちょっと、な」 心配そうに俺の顔を覗き込んでる月夜の声で、俺は現実に戻って来た。……寂しい、か。 「……なぁ、月夜、お前は……」 簡単な疑問を月夜に投げかけようとした時、急に館内アナウンスが流れ始めた。呼ばれてるのは、俺の名前だ。 「ん? 君が呼ばれてるのか?」 「あ、あぁ、多分本の査定が終わったんだ。受付へ行ってくる」 「そうか。なら、私も行こう」 「いいのか?」 「あぁ。用件が終わったのならもう帰るのだろう? ならば一緒に居た方がいいだろう」 そうだな。ふむ、なんだか今日は素直だな。 ついて来るって言うなら別に構わない。月夜を連れて受付に戻るとするか。 ……ん? 受付に戻って来たんだが、なんとなく見覚えのある人が居る。確かあれは、ここの館長さんじゃなかったか? あ、こっちに気付いたっぽい。 「あぁ、沖宮さんのお孫さんだね。お久しぶり、で分かるかな」 「はい。祖父母の葬儀でお会いした限りかと」 「覚えていてくれたんだね。……沖宮さん達の事は、私は今でも残念でならないよ」 白髪で丸メガネを掛けた老練そうな男性……確かに爺ちゃん達の葬儀で焼香していたのを覚えてる。 「今は君が、沖宮さん達のお店を継いでいるんだったね」 「あ、はい。祖父達のように上手く店を切り盛り出来てるかは分かりませんが」 「……ありがとう。あの古本店を、あのままで相続してくれて」 「え?」 「あの古本店はね、沢山の人の想いが詰まっている大切な場所なんだ。……いずれ、君にも分かると思うよ」 あの店が……? 沢山の人の想いが詰まってるって、どういう事なんだ? 爺ちゃん達からそんな事聞いた事無いけど、館長さんは何か知ってるのか? 「そうそう、君が持ってきてくれた本は全て買い取らせてもらうよ。しかし、カントーやフィオナ地方の歴史書があの古本店にあるとは思わなかったよ」 「うーん、確かあれは最近買い取った本だったと思います。その所為でしょうか?」 「なるほど、源九郎さんはあまりそういった本を買い取らない人だったからね。君が店主になって変わった点ということか」 俺が店主になって変わった? いや、特にそんな気は無かったんだけどな。 ただ、爺ちゃんからはお前が思った通りにやってみろってずっと言われてたけど……うーん? 「ところで気になったのだが、そのポケモンは?」 「え? あ、こいつは……」 いつも通り居候って言おうとして、俺はそれを躊躇った。 『そろそろ居候から昇格して』『妻とか』、そんな今朝の月夜とのやり取りが頭をよぎった。……妻なんてものにする気は無いけど、もう……居候じゃなくてもいいんじゃないか? でも、それならなんて言えばいいんだ? パートナー? 相棒? ……何か違う気がする。 ……そうだ、それならとりあえずで良さそうなものがあるな。それで言えばいいか。 「……俺の店の助手、ってところですかね」 「助手? ポケモンが?」 「えぇ、これでも結構色々器用で、ある程度仕事を任せてもこなせるんで」 「なるほど、それで助手か。私はそこまでポケモンに詳しくないが……優秀なポケモンも居るようだね」 「優秀さなら、こいつはかなり飛び抜けた方だと思います」 なんせ、伊達でもミュウツーだからな。強さも能力も折り紙付きだ。 おいおい月夜、尻尾が触れてるのがバレバレだっての。分かり易い奴だな。 「……どうやら、心配せずとも大丈夫そうだね。源九郎さんが君を選んだのも、間違いでは無さそうだ」 「あの、先程から気になってはいたんですが、どうして祖父の名を?」 「源九郎さんは、私がこうして生きている切っ掛けをくれた方なんだよ。っと、その話はまた追々聞かせてあげよう」 ん……どうやら館長さんを呼んでる職員の人が居るみたいだ。少し、立ち話が過ぎたかな。 館長さんは仕事に戻るらしいから、本の代金は受付の人から受け取った。……これで、ここでの用件は一先ず終わった訳だ。 でも、気になる話を聞いた。俺の店の事、爺ちゃんの事。そして、館長さんと爺ちゃんの関係か……。 気にはなるけど、館長さんも忙しそうだ。今日のところは引き上げよう。 図書館から出ると、町の喧騒がいつもよりざわついて聞こえるな。まぁ、静かなところに居たんだから当たり前か。 『なかなか面白い話を聞かせてもらったな』 「あぁ。あの店、爺ちゃん達の時には何をやってたんだろうな……」 『それもそうだが……陽平? 私の事を少しは認めてくれたんだな』 「居候から昇格しろって言ったのはお前だろ?」 『ふふっ、助手か。まずは一歩前進だな』 聞いちゃいねぇよ。まったく、こんな事で舞い上がられても困るんだがな。 で、またするっと首に腕を巻いてくるんかい。本当にこの体勢好きだな。 『助手なら、もう追い出される心配は無いな』 「ふん、何もしないならクビにして追い出すからな」 『などと言って、本当は君も私と居てまんざらじゃないんだろう?』 「やかましいわい。あ、それとこれからポケモンセンター寄ってくからな」 『ふむ、トレーナーカードに写真を入れるのかい?』 「よく分かったな、その通りだ。それじゃ行くぞ」 『あぁ、任せるよ』 任せるって事は、俺から降りる気もこの抱きついてるような状態も止める気は無いと。しょうがない奴だな、まったく。 やれやれ、こんな上機嫌にするつもりは無かったんだが、なってしまったものはしょうがない。しばらくは付き合ってやるとするか。 助手、か。居候よりは立場は上だろうが、それでこいつは納得するんだろうか。今は喜んでるが……。 そして、俺は……それで納得出来るんだろうか。月夜との関係を……。 朝のあれで、嫌でも思い知らされた。俺は、言葉でどうと言ってても、朝の月夜の行動で僅かに期待していた。馬乗りにされて期待する事なんて、他にある訳が無い。 相手はミュウツーで、でも俺の事を慕ってて。俺は人間で、こいつの事を意識してて。でもそれ以上を踏み込む勇気も無くて。 どうするのが1番いいんだろうな。俺は、どうすれば……。 ……止めよう。今は、これ以上考えても埒があかない。ただ、こうして感じるこいつの温かさに触れられればそれでいい。 時間は、まだまだある。答えを焦ることなんて、きっと無いよな? ---- ポケモンセンターなんて初めて入ったが、まさかトレーナー登録者用に写真を撮るサービスなんてのまであるとは思わなんだ。まぁ、入れる写真持ってこなかったから助かったけど。 が、お陰で現像から写真を入れるまでの間ここで待たされる羽目に。俺が連れている奴がこいつで、かつここはトレーナーが集まる=どうなるかはもう知れた事だろう。 そう、注目の的だ。これなら警察署で入れてもらった方が良かったかもしれん。 『なんとも……落ち着かないな』 「多分、もう二度と来ないだろうな……」 はい、こっち見てないで自分の用件を済ませて下さい皆さん。見てもなんにも出ませんよ。 これ、ここから出たらまたバトルとかじゃないだろうな? 声掛けられても仕方ないかもしれんけど。 「沖宮さーん。トレーナーカードが出来上がりましたよー」 「おっとやっとか。やれやれ……」 呼ばれたんならさっさと行こう。ここはどうやっても落ち着けそうにない。 しかし、なんでこのポケモンセンターの受付の人は皆ジョーイって呼ばれるんだろうな? どう考えても女医じゃなくてナースだろ。いや、どうでもいいか。 「はい、こちらになります。でも凄いですね、オフィシャルトレーナーカードなんて滅多に見れないですよ」 「まぁ偶然取れてしまったようなものなんですけどね。……へぇ、貼り付けるんじゃなくてカード自体にプリントされるような形になるんですね」 「えぇ。それでは、これからもポケモンセンターのご利用、お待ちしております。いつでもどうぞ」 無い事を願いたいところだな。しかし、オフィシャルトレーナーか……そうやって聞かされると、ますます俺がなって良かったのか疑問だなぁ。 ま、これでやっとトレーナーカードとやらも完成系だ。晴れて面倒事は無くなったと、いやぁ良かった良かった。 受け取ったカードを財布に仕舞って、軽くジョーイさんに会釈してポケモンセンターを出た。……絡まれるかと思ったけど、そうでもないみたいだな。 『ふむ……どうやら受付で話していた事が効いているようだな』 「? どういう事だ?」 『オフィシャルトレーナーというのは、一般のトレーナーからしたら警戒対象のようだぞ? ポケモンへの知識等がよほど無ければなれないものではあるしな』 普通はそうだろうな。誰でもなれる一般トレーナーと違って、曲りなりにもテストをパスしなきゃならないんだし。 おまけに連れてるのはミュウツーと来れば、普通に考えて無謀を冒す奴なんて居ないだろう。これは思わぬ約得だ。 おまけに連れてるのはミュウツーと来れば、普通に考えて無謀を冒す奴なんて居ないだろう。これは思わぬ役得だ。 ……まぁ、俺の場合バトルは月夜に任せっきりだから実技試験とかあったら終わりだったがな。 あの後、実里さんにその辺は聞いてみたんだ。実技試験とか無しにこういったものになっていいものなのかって。 そしたら、連れ歩くポケモンには個人差が出るものだし、公式トレーナーに求められるのはバトルのセンスよりも良識を持っているかだからペーパーテストだけでいいとかなんとか。その辺結構アバウトみたいだな。 まぁ、子供でもなれるトレーナーよりは上位に位置してるのは確かだ。正直、あのテストに合格出来る子供とか将来有望過ぎるだろう。 『まぁ、君の場合どうであろうと私が居るんだ。心配など無いよ』 「そりゃどうも……」 『早くまた助手から昇格させて貰わねばならない事だしね』 ま、まだそんな事企ててたのか……しばらくは助手止まりだぞ。今までだってしばらく居候だったんだからな。 『しかし助手の次となると……やはり人生のパートナーしか無いな』 「お前はな、朝から一体何があったんだ? いやに積極的と言うか何というか」 『誰かと共に居たいと思うのはおかしな事だろうか? 私はそうは思わないが』 「はぁ……こんな冴えない古本屋の店主をそんなのに選ぶ事も無いだろうによ」 『でも君は、この世で初めて私を救ってくれた人間だよ。私にとって、理由はそれで十分さ』 ぬぇい、前に回り込んできて意味深に上目遣いをするない! まったく、公共の面前で何をしてるんだ! とにかく止めさせて、さっさと店に戻ってまた商売せんとな。……客が来るかは分からんけど。 「分かった分かった。とにかく帰るぞ」 『そうしよう。今日はもう特に何かする事は無いんだな?』 「無いな。店番して終わりだ」 そう言って歩き出すと、やっぱり俺の首は月夜の腕に包まれました。もう面倒だからこのままでいいか。 ふぅ、特に絡まれる事無く帰ってこれるとやっぱり楽だな。店の方は、変わりないようだ。変わってたら一大事だな、そもそも。 しかし、あの図書館に行った後だとやっぱり狭くて本が所狭しと詰まってる感じだな。ま、俺はこの感じも嫌いではないが。 さて……いつものカウンター奥の椅子に腰掛ける。本に整理はある程度してたし、今日はもうのんびりして過ごしてしまおう。 月夜も首から離れて、いつも通り本を読み始めるようだ。本当に好きだなぁ。 ふと時間を見ると、帰ってきたばかりだがもう昼飯時だった。そんなに腹が減った間隔は無いが、どうするかな? 「月夜ー。お前、昼飯食いたい?」 「ん? あーこんな時間だったのか。いや、今日は特にそんなに空いた感覚も無いから、夕食まで食べなくても問題無いよ」 「そっか。なら店開けたばかりだし、昼飯無しでいいな」 「うん、構わないよ」 なら、のんびりと本でも読んでるとしますかね。さて、何を読むかな。 ん? なんか本が目の前に……。 「なかなか面白かったが、いかがかな?」 「……はぁ、ありがとさん」 やれやれ、読めっていうなら、これでいいか。 何なに? 最強と呼ばれた男の物語? なんじゃこりゃ。 ま、熱心な読書家のオススメだ。とりあえず、読んでみるとするかね。 ---- ~後書き~ うーん、久々に執筆するとキャラの感じを取り戻すのに大分時間が掛かりますね……少しずつお互いを認め惹かれ始める二人の物語、まだまだ続きます! #pcomment IP:180.47.204.90 TIME:"2014-03-13 (木) 23:11:59" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E9%99%BD%E3%81%A8%E6%9C%88%E3%81%AE%E5%8F%A4%E6%9C%AC%E5%BA%97%E3%80%80%EF%BD%9E%E5%BA%97%E4%B8%BB%E3%81%AE%E8%8B%A6%E6%82%A9%E3%82%92%E5%88%86%E3%81%91%E5%90%88%E3%81%86%E8%80%85%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BD%9E" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; rv:27.0) Gecko/20100101 Firefox/27.0"