ポケモン小説wiki
間違いだらけな少子化対策 の変更点


#include(第三回仮面小説大会情報窓・エロ部門,notitle)

BL注意

by[[座布団]]


「ご主人、しょうしか問題ってなあに?」
その事件のキッカケは弟がそんな疑問をもったことからだった。近所に住んでいるおぼっちゃまから何度も巻き上げた金で買ったグレーの色をしたソファー。その私欲の塊の上でしっかりとお座りしていた弟のイーブイが右隣に腰掛けている主人に向かって興味津々に質問した。因みに弟と言っても血の繋がりはない。彼も俺も別々の場所で捕らえられた元は野生のポケモンだ。まあ、同族とあって今となってはこのように本当の兄弟のような仲だ。事実、彼も俺のことを兄と呼んでくれる。朝食を終えた弟と自分と主人と呼ばれた若い人間の雌。その三人でくつろぎながらテレビという箱を眺めていた。適当な番組だった。その中の人間達が弟が言う少子化問題とやらについて話し合っている。人間二人が乗るように設計されているソファーは一人と二匹が乗っかれば流石に狭さを感じる。いずれ弟が進化をすれば誰かが座れなくなるだろう。それはそれで何だか寂しかった。普通に座っても窮屈なのに俺なんかは、ねっころがりながらよく喋るおかしな箱を無関心に眺めていた。そのせいで後ろ脚は弟の尻尾を潜り人間の背中にまで伸びている。
「少子化問題ね。うーんと、簡単に言えば子供が少なくなることよ」
主人は弟の頭をかるく撫でながら弟にも分かるように、ではなく主人が持つ最大限の知識を得意げに説明した。
「なんで子供が少なくなっちゃうの?」
当然この弟がそんな粗末な説明に満足する筈がなかった。弟は少しでも興味を持ったことに対してはしつこく知りたがる。それが俺達をいつも苦しめるのだ。しまった、と言いたそうな顔をする主人。だいたいそうなることを予想してた自分は巻き込まれないように少子化問題について黙々と語る箱に目をしっかりやった。
「え、えーとね。なんで子供が少なくなるかというと…なんでかな…」
当然、主人も詳しいことなんて分からない。当然だ。今はこうして主人の両親から譲って貰った家で落ち着いている。しかし、何せ、半年程前までは旅と言う名の放浪記を繰り広げていた馬鹿だ。料理などの生きる術には長けているには違いないが、勉学に励まなかった結果、世間には疎い。そのため、定職と言う物には着けず、アルバイトと言うもので金を稼いでいた。金が貰えるならどちらでも良い気がするのだが、それでは駄目らしい。そもそも、俺だってバトルに勝つことで賞金を貰う方法以外はあまり知らなかった。主人のことをあまり悪くは言えない。主人の両親もよくこんな娘に家を譲ったものだ。直接会ったことはないが、その人達は人間の言う金持ちの部類に入るのだろう。俺と弟意外の仲間も、この生活が安定するまでは主人の両親の元に預けられた。俺もそちらに行きたい想いもあるのだが、主人が俺と弟だけは手放さないつもりらしくそれは叶わない。嬉しいやら悲しいやら。得意げだった主人の姿を思い返すと妙に滑稽に思えた。依然、巻き込まれないように画面を観て
いるが主人の回答の方が気になり箱からの音声は耳に入らない。
「…ちょっと、サンダース。そんなに脚のばしたらイーブイが窮屈でしょ」
突然の矛先の変更に思わず二人の方を向いてしまった。主人は逃げるように問題の矛を自分に向けてきたのだ。さっきから脚なんか伸ばしていても誰も気にしなかったのだが自身が危うくなるとすぐこれだ。
「イーブイ狭いか?」 
「ううん、平気だよ。ねえ、お兄ちゃん、しょうしか問題ってなんで子供がすくなくなるの?」
主人にしてやられた。ヤツの作戦は予想以上の出来だったようだ。期待で瞳を星のように輝かせて、その大きなフサフサの尻尾をゆっくりと左右に揺らしている弟のイーブイ。その質問に俺のトゲトゲとした鋭い耳が無意識にピクリと反応する。質問するのが癖、と言うよりは知ることが趣味になっている。知ることの楽しさをしっているのだ。そして、そのための情報収集がこの質問の嵐だ。
「え、えーと…俺はちょっと分からないなぁ。ごめんな」
その返答を聞くなり少し残念そうな顔をされてしまった。瞳には幼いながらも明らかに無知な兄と主人に対しての落胆の色が伺える。その奥で自身が矛先から外れたことに安堵の表情を浮かべている主人。自身が弟にその程度の人間だと思われている可能性があることに愚かにも気づいていない様子だった。普通はトレーナーがパートナーであるポケモンに対していろいろと人間の暮らしについて教えるものだ。その知識が無くそれをもう一匹のパートナーである自分に押し付けるなど心底あきれる。少し腹が立ったので主人の側にあった左脚を少し伸ばしてヤツの腰のあたりにくっつけた。不意に当たった脚に反応する暇も与えずそこに電気を流してやった。
「きゃっ!いたっ!」
パチン、という音がして主人が飛び跳ねた。あまりにも驚いたらしく、そのままソファーから派手に転げ落ちた。家が微かに揺れた。
「だ、大丈夫!?ご主人!」
「大丈夫、大丈夫。ご主人はあのくらいじゃ怪我なんてしないから」
弟も主人の突然の転倒に驚いたらしく、関心があった箱から転げている主人に目移りしていた。身体を起こしてから、こんな主人を心配する心優しい弟の頭を撫でてやった。見下ろすと電撃を浴びせたところさすりながらこちらを睨む小さな主人がいる。
「いったーい!何すんのよ!サンダース!」
「気分だよ気分」
おどけたように言ってやると自分達の目線よりも少し身長が小さくなった主人は頬を膨らまして言った。
「イーブイはこんなにいい仔なのよ。あんたも少しはイーブイを見習いなさいよ!」
「俺は捕まったときから見習えるのはお前だけだったんだぜ」
「どういう意味よ」
かなり丁寧に説明したつもりだったのだが、コイツのおつむが良い出来ではない。俺はため息を吐いてから付け加えた。
「お前がもっとしっかりしてたら良い仔になれてたかもな」
「うっ…それは不甲斐ないトレーナーで悪いとは思ってるわよ。アンタ達にももっと楽な生活して欲しいし…美味しいものだって食べさせてあげたいし…」
意外にも謝罪を述べて口をつぐんでしまう主人。そんなことを言われたから、冗談が過ぎた気がして気分が悪い。それとは反対だが嬉しかった。いつも忘れがちだがコイツはよく俺達のことをよく考えてくれていた。こんなのでもと言ったら失礼だがやはり彼女は俺達の大切な主人なのだ。目の前にひょこっと出ている主人の頭を右前脚でポンポンと叩いた。忽ち怪訝そうな顔をした主人が口を開いた。
「ちょっと、くすぐったいわ」
「良いだろ別に優しくしてやってんだから」
「さっきは痛くしたくせに何なのよ全く。あー、お尻がまだ痛い」
「はいはい、うるせえな……なあ…」
「ん?なに?」
「別に今でも野生の頃に比べれば幸せな生活させてもらってるよ」
「…で?」
「……ありがと」
「…あんた…何か悪いものでも食べた?」
「お前が作った朝飯しか食ってねえよ」
礼なんか言ったら恥ずかしくなってきた。主人なんか俺から突然そんなことを言われたからきょとんとしている。主人から前脚を離して視線もテレビに向けた。画面に映るその男がほくそ笑んでいるのは気のせいだろう。
「ねえ、サンダース?」「なんだよ」
俺は視線を男から離さないで答えた。
「こんな私でもこれからも一緒に居てくれる?」
今度は主人からの突然の質問に俺が驚かされる番だった。今更そんなことを言われても困る。答えはとうに出ているのに俺は素直じゃなかった。弟に助けを求めようとしたのだが、彼はこちらのやりとりには目もくれていない。ひたすら画面に食いついたままだった。俺もそれに視線を合わせたまま観念した。
「…ああ」
「ほんと?」
「本当だよ」
「ほんとにほんとに本当?」
「諄いな…死ぬまで居てやるって言ってるだろ」
俺の性格上そんなことを言った次の瞬間にはどうしようもなく体温が上昇する筈だったが、その暇もなく俺の身体は勢いよく上を向いていた。
「いやーん、サンダース大好き!!」
主人が突如俺を押し倒したのだ。そのまま両腕を俺の背中に回すと頬を胸元に擦り付けてくる。丁度、人間が背もたれに寄りかかるような格好にされた。
「ばっ…!馬鹿!!やめろ!!」
「すっごいチクチクするけどやめないもーん」
俺がこんな羞恥に耐えられる訳がない。身をよじるのだが体重の勝る主人には無意味だ。流石に爪を立てるわけにもいかず、この状態では電気の加減も巧くできそうにない。背中の棘は主人の腕を上手く避けてソファーに突き刺さっていた。幼さの残る無邪気な笑みを振りかざし俺を襲う主人。鼻に直接付く主人の牝の匂いが脳を嫌でも焦がす。空をもがく四脚の肉球からじっとりと汗が噴き出した。我ながら呆れる。俺は主人に欲情していたのだ。それが具現化されないように前脚を股の間に滑り込ませてギュッと押さえつけた。
「ラブラブだね」
そんな辛い状況に切り込んだのは弟だった。アレを押さえつけつつ主人の顔を片方の前脚で無理やり押しのけ弟を見る。彼はその歳には似合わない生意気な笑みを浮かべていた。彼なりの冗談のようだが、俺にとって切られた場所は例えるなら心臓だった。それで分かったのが、先程ずうっとテレビに集中していたのは演技だったということ。主人や俺がこんななのに、この仔はなんでそんなに大人なのだろうか。思わず力が抜けた。主人の顔面が再び胸に落ちてきた。テレビ歓声が上がったのは偶々な筈だ。今度は突然主人自ら顔を上げた。
「イーブイのことも、だーい好きだよー!!」
そう言うと俺に右腕を回したまま左腕を弟の背中に回すと俺と同じ様に押し倒した。
「わっ…!離してよ、恥ずかしいよ!」
弟は素直に恥ずかしがり訴え、もがくが結果は俺の二の舞に終わった。俺と弟の間に顔を埋める主人に対して、純粋な弟とは違った感情を抱いている自分が恥ずかしかった。
「あれー?サンダースも恥ずかしいの?」
鼻が当たってしまいそうな距離で主人がこちらを向いた。心臓が飛び出しそうになった。主人は表面上のことを言ったのだろうが、その時の俺にはそれが真の意図を見破った呪文のようにしか聞こえなかったのだ。
「肉球が真っ赤だよ?」
次の一言でそれが深い意味を持たないと分かる。そうすると、何故だろう沸々と怒りが湧き上がってくる。俺は後ろ脚を一度畳む。それから主人の下に脚を忍び込ませて勢い良く伸ばした。
「とうっ!」
「げふぅっ…!!」
丁度、腹部に当たった。肺に入っていた空気が押し出される音が露骨に聞こえた。不意打ちを食らった主人は、抱えていた俺と弟から剥がれて腹を押さえて床にうずくまった。テレビから笑い声がこぼれる。さっきからまるで向こうの方がこちらを観ているようで気味が悪い。
「うぅ…今度は何よ…ただ抱き付いただけじゃない…」
「それをやめろって言っただろ」
「そんな…か、…か弱い女性に手をあげるなんて…最低よ…」
「脚だよ脚」
再び小さくなってしまった主人を見下ろした。先程のように直ぐに立ち上がるだろう。そんな俺の考えとは裏腹に主人は呻きながらじっと動かない。しまった、今度こそやりすぎたかもしれない。そんな焦りのせいか、忽ちアレの気配は収まった。仰向けのままだった体勢を戻す。それと同時に弟が直ぐにソファーから飛び降りて主人の元に寄った。
「ご主人?…ご主人、ねぇ大丈夫?」
弟はうずくまる主人に繰り返し問う。時折こちらを睨む瞳は俺の気を縮ませる。そんなに怒らないでくれ、俺だって多少の罪悪感に苛まれているのだから。怒りはどこから湧いたのだろうか。分からない。いや、何も分からないことはない。俺は本当は気付いて欲しかったのかもしれない。俺が心の内に本当に抱えているものを。だが、性格上それを察してくれた所で俺が怒らなかった保証はないが。もぞもぞと虫ポケモンのような動きをしながら主人はゆっくりと顔を上げた。
「そうだ…買い物行かなきゃ」
そんな素っ頓狂な発言に安堵したと言うより、呆れてしまった。何故このタイミングで買い物なのかと。主人は立ちあがるとイーブイを抱き上げてソファーに座らせて頭を撫でた。
「で、結局腹は平気なのか…」
「全然平気よ」
無事だと分かると、素直じゃない俺はやっぱり悪態を吐いてしまう。
「随分と筋肉質で丈夫な身体なこと」
「あんたのへなちょこキックなんて誰が食らっても痛くも痒くもないわ」
「その割にはうずくまってたくせに」
「あんたが素直に謝るのを待ってあげたのよ」
本当は先程礼が言えたときのように素直になりたかった。だが、バトルの指示以外で上から物を言われるのはどうしても気にいらない。
「あー、はいはい悪うございました」
その言葉を引き金に主人がすっくと立ち上がった。遂に怒ってしまったのだろうか。俺は若干後悔しながら少し身構えた。隣のイーブイが溜め息を吐いたのがはっきりと耳に刺さる。
「仕方ないわね、サンダース!」
「な、何だよ」
「…あんたをお昼ご飯抜きの刑に処す!!」
訳の分からない判決と共に俺の鼻先に主人の指がビシッと当てられた。それに反応する暇もなく、そのまま強い力で鼻先を押されて俺は再び倒された。その上、腹の上にイーブイが添えられる。主人が乗せたのだ。
「イーブイ、お兄ちゃんのこと押さえときなさい」
言うが速いか主人はテーブルの上の財布を尻のポケットにねじ込んだ。キョトンとしながらも一応俺のことを抑えるイーブイは何とも不憫だった。主人はそれを尻目に親指を立てると玄関に走った。
「はっはっは!!、空腹と言う名の地獄で自分の罪を悔やむことねサンダース!!」
可愛い弟に抑えられて、追いかける気は起きない。途中何かにぶつかったらしく大きな音を立てながら玄関が開けて閉められた。主人がいなくなると途端に家の中が静まった。主人が怒らなかったのは幸いだが、その代わり何とも哀れな気がしてならない。ぶつけられた何かが暫く転がる音がしたが。それも止み静かになったリビングにはテレビの音声だけが流れていた。昼飯のことを若干心配しながらイーブイを退かそうと前脚で押した。だが、彼は動かない。先程よりも強い力で俺の下腹部を抑えてジッとこちらを見つめている。
「イーブイ?そろそろ退いてくれないか」
そう言うと弟は一回テレビの方を振り返ったがやはり退かない。普段、素直な彼が言うことを訊いてくれないのは可笑しなことだった。何か理由があると確信した俺は再び口を開いた。
「どうした?具合でも悪いのか?」
頭を撫でてやりながら優しく問う。飽くまで彼の方から理由を話してくれるまで待つ。主人が俺達に使う常套手段だ。それが効いたのかイーブイは首を横に振ってから意を決したように言った。だが、それはとんでもないことだった。
「あのね…お兄ちゃん、僕達で子供を作ろうよ」
言われた瞬間はそれが良くは理解できなかった。それを見抜いてか、イーブイは続けた。
「ほら、テレビでやってた少子化問題。僕達もそれを食い止めないと」
テレビは既に別の話題に切り替わっていたが、先程は確かにイーブイが釘付けになっていた少子化問題とやらをやっていた。
「僕達の間に子供が出来れば、それは立派な社会貢献だよ」
そんな純粋な眼を向けられても困る。彼は根本を間違えているのだ。やたらと知識を持っているくせに、肝心な所は何だか忘れている。新しく覚えたことに夢中になりすぎているのだろうか。やっぱりまだまだ幼い仔ということだ。俺はそれに安堵した。
「だから…」
「イーブイちょっと待った」
だから、俺は一旦彼を制止させた。
「あのな、少子化問題は人間達の問題だから俺達には関係のないことだぞ」
とりあえずそれっぽいことを言ってみたのだが、やはりそこの所の知識は明らかにイーブイの方が詳しかったようで。
「それは違うよお兄ちゃん」
それはあっさり否定されてしまった。
「僕達はご主人がいるから良いけど、野生のポケモン達はそうもいかないんだ。人間達が沢山自然を壊すせいで食べ物も住む場所もどんどんなくなっているんだよ。そうなれば厳しい環境だから必然的に番は少なくなっちゃうし子供を産めたとしても弱肉強食の世界は更に激しくなってるから子供が生き残る確率も低くなってる。例え少子化にはならなくてもポケモン達の数が減ってるのは事実なんだ」
「そう…なの……」
「そうじゃなくても僕達の種族は元々個体数が少ないんだ。だから僕達の間に子供が出来ればきっとこの先役に立つよ」
自信満々に説明するイーブイには感服した。だからこそ何故もっと肝心な所に気づかないのか不思議でしょうがない。
「だから…」
「でもな、イーブイ?」
俺はイーブイを再び制止した。クリクリとした大きな瞳には密かに不満が募っていた。だが、根本的に無理なものは無理だ。兄としてそれくらいは教えてあげられる。
「牡同士じゃタマゴはできないだろ」
そう、一番大切な彼が忘れている事実だ。思い出させてあげるだけでいい。彼にはそれが効果抜群だろう。だが、彼は、そんなことか、と言わんばかりに一つ溜め息を吐いた。
「それはやってみなきゃ分からないよ」
「ふぇ?」
情けない声が出た。無理もない。物知りな彼からは予想だにしない受け答えだったのだ。
「や、やってみなくちゃ分からないってどういうこと?」
俺はよく分からなくなって少々焦りながら訊いた。イーブイはまたしても自信満々で答えた。
「僕も最初は牡と牝からしかタマゴはできないと思ったよ。でもね、ポケモンの中には性別が無い仲間達もいるんだよ」
「そ、それで?…」
「そんな彼らでもちゃんとタマゴは出来るんだよ。だったら牡同士でももしかしたらできるかもしれない。そう思ったんだ」
イーブイの瞳は期待で輝いていた。彼の言ったことは分かったが、それが不可能なことには変わりない。
「イーブイ、できないものはできない」
「何で?最初から無理だと決めつけたら何もできない、ってお兄ちゃん良く言うくせに」
「うっ…えーと…それはバトルの時でだな…」
旅をしていた頃の主人の口癖が移ったものだ。見事に掬われてしまった。話を変えるしか逃げる方法はない。
「分かった、それは俺が謝る。でも、どうしたらタマゴができるかなんて分かってるのか?」
流石の物知りと言えど、歳が歳だ。性交まで詳しいことは知る筈がない。
「おちんちんをあなに入れて、せいしって言う物を出せばいいんでしょ」
「えっ…」
言葉は拙いが的は射ていた。何故、そんなことを知っているのかと訊く前に彼が下腹部でもぞもぞと動いた。途端、俺の背筋がビクッと震えた。彼が触ったのは身体の中でも数少ない肉が剥き出しになっている部位、お尻の孔だった。
「あなは此処だね」
「何でそんなこと知ってんだ!?」
「ご主人に訊いたんだよたんだよ」
今頃、俺の昼飯をどうしようか考えてる主人を恨んだ。トレーナーとして何故もっとしっかりと教えといてくれなかったのか。いや、そもそもイーブイが自身で考えた答えが今の状況だ。主人にも止める術はない。だが、肛門を触られた羞恥心からくる怒りは主人にぶつける他なかった。俺はイーブイを腹の上から退かそうと身体を起こそうとした。だが、身体はソファーにくっ付いたまま剥がれようとしてくれない。どうやらパニックのせいで背中の毛が広がってしまったらしく深々と刺さってしまっているのだ。身体の構造上どうしても前脚が背中の方にとどかない。身体を振ってもイーブイが乗っているせいか殆ど動けない。彼は着々と準備を進めていく。俺の上から降りて直ぐに俺の後ろ脚に前脚をかけた。
「お兄ちゃん脚開いて」
「む、無理だってこんなこと止めようよ」
俺は固く後ろ脚を閉ざし続けた。
「大丈夫だよ。ご主人は気持ちいいことだって言ってたから」
「そう言う問題じゃなくて!!…」
「も~しょうがないな」
イーブイは呆れたように言うと後ろ脚を開きにかかった。前脚に力が伝わったのが感じられた。慌ててそれに抗うのだが彼の力は物凄いものだった。あっと言う間に後ろ脚は左右に開かれてしまった。あの小さい身体のどこにそんな力があるのだろうか。前脚と同じで普段はその方向には良くは動かない作りだ。当然痛かった。その痛みのせいで後ろ脚の力は全く抜けてしまった。丸見えだ。普段は体毛に隠れて見えない筈の性器も彼が言うあなも。全てがさらけ出されてしまった。羞恥心で顔が染まっていく。背もたれに寄りかかっているので、弟が俺の身体を見るのが嫌でも見えてしまう。尻尾でもあったらまだ色々と隠せた。だが、それは進化と共に失ってしまった物だった。この身体がこんなときに不利な状況に陥るなんて、思ってもみなかった。
「まずはおちんちんを大きくしないと」
イーブイは前脚を掛けたまま自分の性器を俺の股にすり付け始めた。それも主人から教わったのだろうか。今はどうでも良かった。この状況から解放されることを刹那に願った。
「あ、おっきくなった」
だが、現実は非情だった。見るとイーブイの股の間にはピンク色の小さな肉の棒がピョコンと顔を出していた。頼みの主人は帰って来る気配がない。そもそも、彼を叱ればそれで済むことのような気もするが、どうにも俺は弟に対して甘い兄らしい。
「じゃあ、入れるからね」
イーブイが腰をゆっくりと突き出す。情けないくらい小さな声で、やめて、と言ったが、それは既に彼の耳には入らなかった。彼の肉の棒が容赦なく身体を貫く。
「ぐっ!?」
痛みが身体を駆けた。身体を引き裂かれたくらいに思った。全く持って初めての経験なのに全く下準備をしなかったのだから当たり前だ。
「わぁ…ご主人が言った通り気持ちいいや」
対するイーブイは初めての感触が気に入ったのか俺の表情には全く気づく気配がない。
「この状態で腰を動かせばせいしが出るんだよね」
仕舞いにはそんなことを言って腰を引き始めた。
「あぅ…いたぃ…」
当然、スムーズにはいかない。異物を吐き出そうとお尻が締まりそれが更なる痛みを引き起こす。それの痛みがあと少しで消えそうになると、またもや身体の奥まで突かれた。それを幾度も繰り返した。そのたびに俺は情けなく悲鳴を上げた。だが、それすらも弟の耳にはとどかなかった。荒い呼吸のまま黙々と腰を振り続けた。暫くして、結合部から水音がし始めた。恐らくは俺の身体から分泌されたものだ。痛みが面白いように薄れていく。それに伴いイーブイの動きが速くなった。
「いっぱいヌルヌルしてきた…なにこれ…さっきより気持ちいい…」
彼はもはや本能のままに動いていた。牡が相手とは言えやってることは性交だ。知らず知らずの内に野生の感覚が目覚めているのだろう。だが、相手の俺はそうはならなかった。ただ、理性を保てた訳ではない。もっと悪い方えと進んだ。
「んっ!!」
痛みと入れ代わりに襲ってきたのは明らかな快楽だった。それは小さくてまだとるに足らない物だった。しかし、俺の羞恥心を極限まで掻き立てるのはそれだけで十分だった。
イーブイが腰を振るにつれてその小さかった快楽はみるみる鋭さを増していく。
「ん…く…はぁ…あ…」
声が抑えられない。イーブイの肉の棒が腸壁を撫でる度に押さえられいる脚がビクリと跳ねる。いつの間にか俺の股の間にはイーブイと同じようにピンク色の肉の棒がそそり立っていた。その割れた口からはテラテラと光る透明な液体が止めどなく溢れ出ていた。
「はっ…お兄ちゃんも…気持ちいいでしょ?」
「いや…だ……あ…あ」
それには答えられなかった。イーブイは恍惚とした表情だった。彼はまだいい。何とでも言い訳のしようがある。俺はどうだろうか。理性はあるくせにお尻に弟の性器を挿入されて喘いでいるのだ。完璧な変態じゃないか。これが、痛みを抑える為の身体の機能なのか。それとも、適応力の名残なのか。どちらにしても今はこの身体を恨んだ。
「はぁ…う…なんか…変な感じがしてきた…気持ちよくて…ん…なんか出そう」
イーブイが初めての絶頂に達しようとしていた。それは俺も同じことだった。
「これ…で…せいしが出るんだよね…ん…」
「ひっ…やだ…あ…おかしくな…る…あう…」
自慰行為とは比べ物にならないくらいの快楽。その波が身体を呑み込んでいく。身体が自由ならば俺は暴れていた。快楽が強すぎて辛いのだ。
「や…気持ちよすぎて…とまんないよぉ!!」
「ふぁ…あ…あ…うあぁあ!!」
互いに限界だった。イーブイはキュッと目を瞑っていた。俺の身体はガクガクと震えが止まらない。知らず知らずの内に彼の肉の棒をリズミカルに締め上げていた。耳に入る水音が精神も犯してくる。快楽に耐える為に口をギュッと閉ざすが、彼が肉の棒を打ち付ける度に声が漏れる。そして遂に限界がやってきた。
「あ…あぁぁあああ!!」
「んぁああぁぁぁ!!」
快楽が弾けた。全身の筋肉が収縮する。悪寒にも似た震えが脳天にまで達した。目の前の世界が揺らいだ。肉の棒から勢い良く飛び出した精液が顔まで飛び散る。体内に新しい何かが流れ込むのをハッキリと感じた。永く太い絶頂の中思い浮かんだのは主人の顔だった。「はあ…はぁ…これでタマゴができるね…」
「う…はぁ…はぁ」
暫くして呼吸が整うと、イーブイは腰を引いて肉の棒を抜いた。彼が放った精液がゆっくりと逆流してソファーを汚した。彼の目は疲れきっていたが何とも嬉しそうだった。俺は答える気にもなれなかった。時折、快楽の余韻で身体がピクリと跳ねる。未だに俺は身動きが取れない。
「お兄ちゃん…僕…すごく眠い…」
そう言って目を擦るイーブイは次の瞬間に俺の精液まみれの腹に倒れこんだ。そのまま寝息を立て始めたのだ。俺だってこのまま寝てしまいたかった。だが、主人が帰ってくる前には後始末を終えなければならない。まずは刺さった背中の毛をどうにかしなければならなかった。自由さえ手に入れてしまえばある程度の隠蔽工作はできる。まずは気を落ち着かせよう。そう思い深呼吸などもしてみるが心臓の鼓動がゆっくりになることはなかった。そして、玄関の扉が開く音。
「たっだいまー!!」
意気揚々とした主人の声が家に響いた。絶望と言う言葉が相応しい。ビニール袋の擦れる音が恐ろしく感じられた。もう、諦めるしかなかった。
「いやー大量大量、スーパーで安売りしてたからこんなに…」
リビングに入った主人の声が途中で途切れた。両手のビニール袋が床にどさりと落ちた。
「あ、あんた達…いったい何を…」
目の前の驚愕の光景に主人は言葉を失っていた。羞恥心でどうかなってしまいそうだった。俺は今にも泣き出しそうなのをぐっと堪えて口を開いた。
「あの…さ…抜いてくれないか?」
「え…?…もう抜けてるけど…」
主人は明らかに俺の精液の流れ出しているお尻のことを言っていた。泣くのを堪えるのも限界だった。
「違くて…背中の毛がソファーに刺さって抜けなくて…だから動けなくて……そのせいで…そのせいで…」
声が震えていた。情けないほど涙が溢れて流れる。こんな姿を見られ、主人に軽蔑されたかと思うと悲しくて悲しくて仕方がなかった。だが、主人の反応は意外なものだった。
「泣かないで。大丈夫だから、ね?身体洗ってあげるから」
俺の頭を笑いながら撫でてくれた。それから身体に付着した精液をなんの躊躇いもなく拭き取る。起きそうにないイーブイをソファーの上に移動させて俺のことを引き抜いてくれた。それからシャワーで身体を洗われた。今はドライヤーで体毛を乾かしてもらっている。
「熱くない?」
「うん…」
主人の顔がまだ見れないでいた。
「弟に良いようにされちゃうなんて…」
「うるさいな…アイツすごい力なんだぞ…」
「ああ…あの仔ブースターになりたいって言って私達に内緒でトレーニングしてるのよ」
なるほど、だからあんなに力強かったのか。
「それにしても、あんたイーブイに甘すぎ。少しは怒りなさいよ。そしたらこんなことにはならなかったでしょ」
「元はと言えば、お前がイーブイに牡同士じゃタマゴができないことを教えなかったのが悪いんだろ。しかも俺の身動きを封じたのもお前だ」
「何よそれ…あの仔牡同士でもタマゴができると思ってあんたを襲ったの?」
「そうだよ…それにテレビの少子化問題の影響もだよ」
「…社会貢献?」
「そう言うこと」
ドライヤーのスイッチが切られた。それと同時に正面に回り込んだ主人が突然俺に抱きついた。驚いて暴れそうになったが、なんとか持ちこたえた。
「ほんとに大丈夫だった?」
主人の声は弱々しかった。
「な…何だよ急に」
「だってサンダースが泣くなんて…相当辛かったんだよね。ごめんね。ダメなトレーナーで…」
抱きつく力が強くなった。主人らしくない。俺はどうもこういうのには弱かった。
「だ、ダメじゃねえよ!!…お前はいつも俺達のことを良く考えてくれるし…他にも…その…」
言葉が上手く繋がらない。せっかく洗って貰ったのに肉球は汗でベトベトだ。ふと、主人が顔をあげた。ようやく目が合った。
「サンダース暖かい」
主人が微笑んだ。それがとても嬉しかった。
「…ドライヤーしてもらったからだろ」
「違うわよ。あんたが優しいからよ」
「う、うるさいな」
「素直に喜びなさいよ…ありがとね。お昼ご飯食べよっか」
「おう…」
結局、お昼ご飯は食べられるようだ。



この後、珍しく主人はイーブイを叱っていた。牡同士じゃ子供が出来ないこともしっかり教えていた。彼も反省している。
「分かった?イーブイ。牡同士じゃタマゴは絶対にできないの」
「…お兄ちゃん…ごめんなさい」
「大丈夫だよ」
「ご主人?」
「なあに?」
「じゃあ、ご主人とお兄ちゃんとなら子供はできるの?」
イーブイの少子化問題ブームは暫く続きそうだった。テレビから笑い声が聞こえた。主人と俺は互いに顔を真っ赤に染めた。

__________



みなさんお疲れ様でした。エロの描写はやっぱりまだ難しかったです。

BLが苦手な方にも読んでもらえて嬉しいです。有り難うございます。

かなり不定期更新ですが続きとして主人との絡みを書きたいと思っています。

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