&size(25){遥か全てを超えて 序}; ---- 幼いポッポやムックルがさえずり、気持ちのいい朝を伝え始める。 森はにわかに活気を帯び、緑の葉は水蒸気でほのかに空気を揺らがせる。 豊かな森は何の変哲もなく見えた。中に住むものからすれば。 もちろん誰もが知っている。この森の、この島の異常さについては。 この島は絶空の孤島である。 ほとんどが緑に覆われ、広くはなくとも深みのある自然。 森のはずれには、少しのスペースにまばらながら雑草が生えていた。 「お呼びでしょうか、天龍神様」 レックウサはとぐろを巻くように浮かんでいた。レックウザは非常に大きく、孤島など一撃で破壊してしまいそうだった。 「よくぞ来てくれた、侯爵」レックウザは親しみをこめて言った。 レックウザの前の大地に立っているのは1体のドンカラスだった。普通よりかなり大きめ体つきで、老人のような雰囲気が漂っている。左目にはモノクルのようなレンズがつけられていた。そばにはやる気のなさそうな表情のカモネギが&ruby(はべ){侍};っている。 「天龍神様、私ごときをそのように呼ぶ必要はありますまい」侯爵と呼ばれたドンカラスが言った。 「そなたの呼び方に他に適切なものはないであろう?」レックウザが言った。 「ニウル・イリエニス公爵やゾーイは呼び捨てているというのに・・・」 「クィドやゾーイはそなたとはキャリアや品格が違うであろう?そなたは我が敬意を表するに値するポケモンだ」 「勿体のないお言葉・・・」 「では、本題に入るとしよう」 空気は重量をまし、カビゴンのように彼らにのしかかっている。無神経にもカモネギは欠伸をしていた。 「またもや干渉が始まった」レックウザが言った。 侯爵は目を大きく見開き、カモネギは盛大にずっこけた。 「ま、まじかよ!?嘘だろ!?」カモネギがどら声で叫ぶ。 「ジノン、口を慎め」侯爵が注意した。 侯爵は何か考えているようだった。 「それは本当なのですか?」 「然り」 「しかし、前回の干渉では、彼らの活躍により世界の消滅はまぬがれたはずでは?」 「然り」 「さらに、現在は&ruby(さんぜ){三世};は程よく統合し、干渉は発生しないはずでは」 「今回の干渉は三世が原因ではない」 「なんですと?」 「さらに言えば、この世界が干渉を受けているわけでもない。この世界が干渉しているのだ」 「!!」 侯爵は目を細めた。彼の頭では何かが回っているようだった。 「この世界が干渉する余地のある世界・・・。もしや、真のポケモンの世界」 「おそらくはな」 「だとすると、今度はその世界が危険ではないですかな」 「その件でそなたを呼んだのだ」 「成程」 侯爵は一呼吸おいた。 「つまり、&ruby(ふたたび){二度};彼らを招集せよと?」 「頼めるだろうか?ギルバート・フォン・クロウフォード侯爵」 「・・・」 侯爵はジノンのほうをむいた。ジノンは準備万端といった様子だった。 「ジノン。至急、カイガ、チャルコ、アレスの3体をドミニュス山に招集せよ」 「合点!!」 ジノンはクキを嘴にくわえて猛スピードで飛んでいった。 「創造神様に会うのも久方ぶりだな」侯爵はポツリと言った。 レックウザは相変わらずとぐろを巻いて浮かんでいる。 「侯爵、彼らは、どのようなポケモンなのだ?」レックウザは聞いた。 侯爵はレックウザを見た。表情は変わっていない。 「よろしいでしょう。彼らは、私にたくさんのことを話してくれました。彼らに聞いたこと、彼らの体験したことを、ジノンが戻ってくるまで話すとしましょう」侯爵が言った。 「そうか。それでは頼む」 絶空の孤島は、彼らの声を拒まず、静かに浮いていた。 ---- #pcomment()