#include(第八回短編小説大会情報窓,notitle) よお。俺はジュカイン。ホウエン地方出身の中学生なんだが、親の仕事の都合で急遽イッシュ地方に引っ越す事になっちまった。 お陰でホウエンのダチ達とは全員お別れだし、イッシュの生活にも慣れなきゃいけねえし、正直大迷惑だ。面倒くせぇけどしょうがねぇ。適当にやるだけさ。 よお。俺はジュカイン。ホウエン地方出身の中学生なんだが、親の仕事の都合で急遽イッシュ地方に引っ越す事になっちまった。 お陰でホウエンのダチ達とは全員お別れだし、イッシュの生活にも慣れなきゃいけねえし、正直大迷惑だ。面倒くせぇけどしょうがねぇ。適当にやるだけさ。 そんなこんなで俺が高校生になった春、イッシュにある某高校に進学し、校庭の催し物をぶらぶらと見て回ってる。 暦は四月。新入生が一斉に入学してくるシーズンだから、校庭の敷地内で運動会のテントみたいなやつを沢山張って学校総出で部活の勧誘会が行われている。皆必死に部員を獲得しようと勧誘してるが滑稽だねぇ。 俺は高校に上がるのと同時にイッシュに進学して来たから海外留学みたいなもんだが、そもそもホウエンの中学だった時は部活なんか入ってねえ。面倒臭ぇし。強いて言うなら帰宅部だ。 じゃあ俺はその間何してたかって言うと、森の木の枝の上で昼寝したり、ダチと裏路地にある違法営業のゲーセン行ったり、砂漠の秘密基地に『まじ基地』って名前付けてダチの基地と魔改造合戦したりしてたな。いやー、楽しかったなあ、ハハハハ……。 ……もうあいつらとは会えねえけどな。 チッ、嫌な事思い出しちまったぜ。兎に角俺はホウエンから持って来た小枝を葉巻の様に口に咥えながら、うっかり勧誘されない様に一定の距離を保ちつつ、あちこちの部活のテントを遠巻きに見て回って冷やかした。ある程度見て回ったらそれにも飽きたので、さっさと校庭から出てトンズラこくする事にした。 ところが、だ。 「ねえねえ! そこの新入生、ちょっと待ってよ」 背後から真面目系な雄の声が聞こえたので、やれやれ、さっさと断ってやろうと踵を返して振り向いたんだが、面食らった。 背後から真面目系な雄の声が聞こえたので、やれやれ、部活ならもう入ってますと言って断ってやろうと踵を返して振り向いたんだが、面食らった。 すらりとした&ruby(じょせい){雌性};的な乳白色と白藤色の体躯に、手をすっぽりと覆う膝まで垂れ下がる振袖、頬からは先端がクリームイエローの細長い髭が伸び、瞼は振袖の先端と同じ白藤色で合わせたセクシーアイシャドー。そんな容姿をした美しいポケモンが、入部届けと思われる紙を挟んだクリップボードを持って俺の前に駆け寄って来たのだ。 「ええと……」 「君、もう部活入ってる?」 「入ってねえが」 その言葉を聞いた瞬間、奴の顔がぱあっと明るくなった。 しまった、不意を突かれて本当の事を喋っちまった。そう心の中で後悔しても後の祭りな訳で。 「じゃあうちのサッカー部に入ってよ! 君は結構良い体格をしてるから、うちに入れば大活躍間違い無しだよ。お願い! ね? ね? ね?」 「おわっ!? 抱き付くな、気持ち悪い!」 奴に某カプコンの格闘ゲームの様なサバ折りを決められ、ぎりぎりと締め付けられる。思わず口に咥えていた小枝を地面にポロッと落としてしまった。 後、俺の頭上にはなぜか黄一色の横棒体力ゲージが浮かんでいる。それが奴にふん、ふん、と締め付けられる度に、ゲージの左端から連動する様に黄一色だったのが少しずつ血の様な赤で塗り潰されていく。慌てて振り払おうとするが、俺がいくらやつの腕の中で暴れても全くホールドが解ける気配が無い。 「くそっ……。こいつ、雌みたいなくねくねした体してる癖に力が強ぇ!」 ――数分後。 「うーわ、うーわ、うーわ……」 俺は情けないエコーが掛かった断末魔を上げながら宙を舞うと、地面に粗大ゴミの如く転がった。頭上のゲージはもう血一色に染まっている。 情けないエコーが掛かった断末魔を上げながら俺の体が放物線を描くと、地面に地響きを立てながら倒れて土煙が舞った。頭上のゲージはもう血一色に染まっている。 「入部ありがとう! 早速明日から練習だから、絶対に遅刻しちゃだめだよ。じゃあ、また明日なー」 瀕死寸前までサバ折りされて、強制的に入部届けを書かされた。 そしたらあいつ、めちゃくちゃ喜びやがって、二度目のサバ折りで止めを刺された。 さっき気付いた。あいつ、イッシュ種のコジョンドってポケモンだ。 親父ィ……俺をこんな変態オカマ野郎なんかがいる学校に進学させた事を、絶対に許さねーからな…………ぐふっ。 YOU LOSE 翌日。 「サッカー部へようこそ! 歓迎するよ」 「はぁ」 気の抜けた声を返す。俺は早速校庭脇にある部活棟二階の部室に顔を出した。 いや、別にすっぽかしても良かったんだが、入学早々他の生徒とトラブル起こすのはまずいしな……。ま、いざとなりゃ適当に理由付けて退部届け出してやる。昨日の件もあるし、やられっぱなしというのも気に食わなねえしな。 今は部員全員を集めて集会が開かれている。自己紹介や今後の抱負、練習スケジュールなど、粛々と式が進んで良く。 以外だったのが、昨日俺をノックアウトさせたこいつがサッカー部のキャプテンだったという事。大体スポーツのキャプテンってもっとこう、胸倉掴んで「お前やる気あんのか? あ?」とムクホークみたいに鋭い目で威嚇してくる様な攻撃的な奴のイメージだったから、なんか以外だな……。 それにしても。 「部員、少なくね?」 部員は俺も含めて丁度十一匹。一匹でも欠ければ人数不足で試合できねーぞ。雌マネージャーとかいないから雄だらけでむさ苦しいし、俺以外の新入部員はやる気なさそうなグレッグルやナマケロとかだし。 「マイナーなスポーツだからね。優秀な人材はみんな他の部活に引き抜かれちゃうんだ」 コジョンドが少し残念そうに答える。 そういや校庭の勧誘会を見て回った時、バスケット部やアメフト部のブースに黒山の人だかりが出来ていた。ホウエンでは人気のサッカーも、イッシュではそれほどでも無いって事か。だから昨日、藁をも掴む思いで俺に入部させたって訳ね。 集会が終わり、暫くの休憩時間を挟むと、コジョンドがサッカーボールを持ってやって来た。 「そろそろ練習を始めようか。ジュカイン、付いて来て」 「ん? ああ」 俺はサッカーグラウンドのゴールポストの前まで連れてこられた。 「君は最終進化系な上にとても体格が良いからね、秘密兵器を使って練習してもらうよ」 「君は最終進化系な上にとても体格が良いからね。秘密兵器を使って練習してもらうよ」 「秘密兵器?」 するとコジョンドは今まで右脇に抱えていたボールを俺に向けた。 「通常の十倍の重さの〝超サッカーボール〟」 大層なネーミングだなオイ。 「昔、僕らの先輩がこいつを使って特訓してインターハイに行った事があってね。近年は優秀な部員がいなくて使いこなせなかったんだけど、君なら出来ると思うんだ。どう? これを使って特訓してみない?」 インターハイ……、要するに全国大会の事か。 試しに手に持たせてもらった。見た目は普通のサッカーボールだが、両手で持った瞬間ずし、と重量感を感じて腕が下に引っ張られ、慌てて堪えた。幸い弾力性はそのままみたいなので、蹴って怪我する心配はなさそうだ。まさに修行アイテムって所だな。 「ほーう」 「僕もそれを使って一緒に頑張るから一緒にインターハイを目指そう。頼んだよ、エースストライカー・ジュカイン」 そう言われるとふつふつとやる気が湧いてきた。エースストライカー・ジュカイン。良い響きだ……。 ホウエンのダチ達はいねえし、他にやる事も無えし、断る理由は無い、か。肝心のサッカー部のキャプテンがオカマ野郎なのがなんかむかつくが、これも何かの縁だ。体を動かす事は得意だし、サッカーに青春を捧げるのも悪く無い。 よし、いっちょやってみっか! 俺は一念発起し、早速練習を開始する事にした。定位置に着き、ゴールポストと、地面に置かれた超サッカーボール、それぞれの位置を確認する。 狙いを定めると数歩助走を付け、ボールにタイミングが合う様に右足を振り抜き、渾身のシュート。遥かなるインターハイへのゴールを目掛けて、最初の一歩となる第一打を解き放った。 カッ。 サッカーボールを蹴った瞬間、ボールが白く輝く。 次の瞬間、凄まじい爆風と爆音が巻き起こり、俺の姿が凄まじい爆風に包まれて消失した。 「「ジュ、ジュカイーーン!!」」 近くにいたグレッグルとナマケロが漫画みたいに目玉を飛び出せて口をあんぐりと開けている。 もくもくと暫く爆煙が続いて晴れると、俺は全身黒コゲになって立っていた。黒と黄緑が混じった体からは所々ぷすぷすと焦げ音がして、アロマキャンドルに似たスパイシーな香りを放っている。 もくもくと暫く爆煙が続いて晴れると、俺は全身黒コゲになって立っていた。黒と黄緑が混じった体からは所々ぷすぷすと焦げ音がして、野菜炒めの様なスパイシーな香りを放っている。 状況が呑み込めずにきょろきょろと周囲を見渡すと、ぺしゃんこになったサッカーボールと、なぜか黒焦げのビリリダマが気を失って倒れていた。 何だ、何が起こった? 「おやおや、ビリリダマ君を足蹴にするとは酷い人だねぇ」 ハッとなってコジョンドの方を向く。コジョンドはニヤニヤしている。それからビリリダマの方を向く。瀕死なのか、ピクリとも動かない。再びコジョンドの方を向いた。 ハッとなってコジョンドの方を向く。コジョンドはニヤニヤしている。続いてビリリダマの方を向く。瀕死なのか、ピクリとも動かない。再びコジョンドの方を向いた。 ハメられた……のか? すると一連の様子を傍観していた上級生のドゴームが呆れ気味に言った。 「馬鹿だねぇ。うちのキャプテンの通り名は〝中二病貴公子〟。特性悪戯心な訳でも無いのに大の悪戯好きで学校内でも有名だから、奴の言動には一々警戒するのがベターなのによ」 そう言って嘲笑ったのだ。なん……だと……。 するとコジョンドが業とらしくグーとパーをぽんと合わせて納得サインをした。 するとコジョンドが業とらしく手のひらに拳をぽんと打ち付けて納得サインをした。 「そうか、何か思い出すと思ったら、イッシュ名物『やめたげてよぉ! シリーズ』じゃないか。君はイッシュに馴染もうと体を張って笑いを取ってくれたんだね。これからも宜しくね、げしげし・ジュカイン君☆」 ぷっちん。 俺の中で何かが切れた。何も言わずにゆらりとコジョンドの方を向く。俺の顔は黒く塗りつぶされており、表情は窺えない。 俺は闘争本能の赴くがままに気を高め、顔の前に両腕をガッ、とバツの字に組む。 俺は闘争本能の赴くがままに気を高め、両腕を勢い良く顔の前で交差させてXの字に組む。 すると俺の両手首に生えている小葉が光り輝き、大型の新緑に輝く双鎌が飛び出した。 緑豊かな草木の生命力を、全てを切り裂く光鎌に具現化させる技、リーフブレード。 交差させた腕を解くと、俺は静かに息を吐きながら下半身を沈めて臨戦態勢を取った。 脚は大地を力強く踏みしめて血管が浮き上がり、ぎし、と軋む。 まんまと玩具を手玉に取り、ニヤニヤと嘲笑っていた悪童コジョンドも流石に身の危険を感じたらしく、焦り出す。 「ちょ、そんな怒らないで。これは新入部員歓迎のジョークだよ! ジョークジョーク、イッシュジョーク☆」 顔を引きつらせて冷や汗掻きながら両振袖を左右に振ってイヤイヤをし、見苦しい言い訳を並べ立てるコジョンド。 刹那。 「おこじょーーーーーー!!!」 リーフブレードの斬撃音と、オカマ野郎の断末魔が校庭上の澄み渡った青空に吸い込まれた。 ---- 後書き 事の発端は、漫画でサッカーボールに犬を詰めてグレイトボールというネタがあった事を思い出し、じゃあマルマインを詰めたらどうだろうと思ったのが切っ掛けでした。 そんな書き始めをしたもんですから、内容は自然とギャグ小説に。唯のおふざけですし、他の作者様方の知的な小説の数々を見て0票も覚悟してましたが、結果は2票。全体的に票が満遍無く入ってるみたいですし、読者様方の好みって十人十色なのでしょうかね? 兎に角、得票は得票、有難く頂きます。 それと今読み返すと別に長々とした解説いらなかったですね。 推理小説とごっちゃにしてテンポを悪くしてしまいましたし、蛇足だったと反省してます。 お陰で良い経験になりました。読んで下さった方、ありがとうございます。 コメント返信 &color(silver){>こういうの好きです (2015/09/20(日) 10:29)}; ギャグ物はお好きですか? 私もです() この分野では定番の、ネタキャラが攻撃食らって絶叫というのを一度やってみたかったんですよ。 &color(silver){>ジョークというレベルをはるかにこえているでしょうwww やり過ぎワロタwww 面白かったので1票入れます。 (2015/09/21(月) 22:55)}; ネタがネタなので少々過激過ぎたかもしれませんw コジョンド氏の話によると、「当初はマルマインを詰める予定だったんだけど、大きさを調べてみたらバランスボールぐらいでかくて入らないと判明したので、仕方無くビリリダマで妥協したんだよね~」との事です(汗) #pcomment()