#include(第三回仮面小説大会情報窓・エロ部門,notitle) 仮面を……パァァァァァジ! 書いたのはね、[[こいつ>双牙連刃]]でーした。 結果は4票で六位タイ。票が入っただけでもありがたいです! ありがとうございます! ---- 前脚いてぇ~。いやもう全身痛い。絶対に無理があるんだよこの体で山登りとかさ。 やりたくてやってるんじゃないんだよ? 俺だって本当だったら家でごろごろしながら平和を享受したいんだよ!? でもそうも言ってられないのっぴきならない事態が俺には発生してるんだ! この山登りもその為にやってるんだ。 もうすぐ頂上……そして夜明けだ。夜通し登ってて疲れがピークだ。脚がプルップルする。 でもやっと……頂上に立ったぞー! おっしゃー! アルコ山も俺の足元に屈した! 俺ってば最強ね! あぁ、朝日も昇ってくる……ここは一つ、勝ち鬨を上げるっきゃねぇな! 朝日に向かって息を溜~め~て~! 「目的が……ちげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぞぉぉぉぉおおぉ!」 朝日に栄える俺の慟哭……そう、俺の目的は山登り自体じゃない。この山である物を手に入れる事。 喉から前脚どころか全身が出るほど欲しい物がここにあると聞いて登ったのにまったく無い! 登れば必ずあるって言われてるほど有名な産地なのに無い! うぅ……俺は何時になったら出会えるんだい? 教えておくれマイフェアレディ……。 ~進化する事、しない事~ 「で、そのまま見つからずに結局帰ってきたのかよ」 「うっせぇ! この脚じゃ山掘る事も出来ないから帰ってきたんだ! もし掘れたら山穴だらけにしてでも見つけてきたっての!」 くっそぉ……目の前でニヤニヤしてるヘルがーを俺はボッコボコにしても良いだろうか? 俺の不幸を餌に笑いやがって……。 いやぁね? でも、笑われるのも仕方ないんですよ。俺があれを探して旅に出るのはもうかれこれ……10回目? うん、そんくらい。 探すのは俺に限った事じゃない。俺の種族は進化する為に誰でも探す。の・だ・が! 俺は運が特に無さ過ぎる! 俺の村にも俺と同じ種族の奴はもちろん居る。そして俺より年下なのに皆進化してる。……欝だ、死のう。 冗談は置いといて、マジで進化しないと俺ヤバイの。見た目が永遠の子供なんて嫌じゃー! 「でも不便だよなー。炎の石が無いと進化出来ないなんてよ」 「まったくだよ。進化分くらいの力内包しておけよ俺の体!」 なんて自分の体にダメ出ししても意味が無い。こればっかりは生物としての性質だから自分でどうにか出来る訳じゃないからな。 「それにしても、同い年なのに大人の仲間入り出来ないのは可哀想だな」 ……お前は今、俺の逆鱗に触れた。その先に待つのは……進化前のポケモンにメタクソにされるという悲しい現実だ。 「クロ……神に祈る間をやろう」 「あ……ま、待てセキ! 今のは口が滑って言っただけで」 「知るか! 星になれ!」 かち上げるようにして顎に頭突きを食らわせ、頭が浮いたところで今度は腹の下に駆け込み飛び上がるようにして体当たり。 浮き上がったところに……渾身の火炎放射を叩き込む! 「おげぼぁ、あじゃじゃじゃじゃ!」 「ちっ、帰ってきたばかりだからこの程度が限界か」 本気なら喋れないくらいに大ダメージを与えれるコンボだったんだけど、まだ動けるか。仕方ないとはいえ、やり足りねぇ。 「おま……え……手加減……しろ……」 「ふん、半分も力出してないっつーの。村でだらだらしてるからこんくらいでそんなになるんだ」 「こんな強いロコンありえねぇよ……」 好きでロコンのままな訳じゃねぇぇぇ! 俺だって本当はとっくに進化してる筈だったんだよ! 石が……炎の石が手に入ってたらお前なんかよりずっと早く進化してるわえ! くそぉ、進化してぇ……小さいからって馬鹿にされる生活から早く脱却してぇよぉぉぉぉ! 「おーいクロ、交代だ……って、んな!? なんだおい!」 「おぅ? 誰だお前?」 「お前こそ誰だ! 誰か来てくれー! 侵入者だー!」 うっわぁお。知らん奴から侵入者扱いされたし! この村の仲間だっつうの! ……二ヶ月くらい留守にしてたけど。 おっとっと、皆集まってきちまったよ。やっべ、こそっと戻ろうと思ったのに完全にバレるわこれ。 「ゴコウ、侵入者はどこだ!」 「こいつです! このロコンがクロを!」 「おいっすー。おやっさんただいまー」 「……セキ? お前セキか?」 「他にこんなガラの悪いロコンが他に居るなら違うかもな」 ふぅ~、一番最初に駆けつけたのが知ってるポケモンでよかったぞ。 ブーバーのガインさん。俺が村で悪戯したら逆さ吊りにしてお仕置きしてくれるナイスミドルだ。 「で、こいつ誰?」 「あぁ、クイタランのゴコウ。一ヶ月くらい前に村に来てな、それからここで暮らしてるんだ」 ほーん。つまり俺が旅してる間に村に居ついたわけか。通りで知らない訳だ。 そういや丸々二ヶ月居なかったんだよなー。思えば遠くに行ってたもんだ。 あいつのとこにも後で行かないと。帰ってきたら顔見せる約束だし。 「え? このロコンは侵入者じゃ?」 「違う違う。まぁ、お前が知らないのも無理は無いな。こいつ、殆ど根無し草みたいなもんだし」 「うっせぇ、ほっとけ!」 「後の事は俺がしといてやろう。ほれ、会いに行かないといけないんだろ?」 「あ、サンキュー。そんじゃ行くかな。……あ、ゴコウさんだっけ?」 「な、なんだよ?」 「……今回は俺も初顔合わせだったから許すけど、次俺の事見て騒いだら、こいつと同じ道を辿る事になるぜ?」 名前通りに黒くなってるヘルガーを前脚で小突きながら言ってやれば……おぉ、青ざめてる青ざめてる。 「馬鹿な事言ってないで早く行けって。ゴコウもあまり真に受けるなよ? 本当にする気は無いんだから。……出来る実力はあるけどな」 「ひ、ひぃぃっ! ごめんなさい!」 おやっさんのこういうところ好きだわー。俺の言ったジョークをパワーアップさせてくれんだもん、ノリが良いぜ。 さて、ちょっと集まっちまった奴らから「お帰り~」のラッシュを受けながら村に入っていく。……はぁ、あんまり目立った帰り方はしたくなかったんだけどな。 俺の名前は「セキ」。ちょこっと話には出たから分かってるだろうが、牡のロコンをやってる。 遊び盛りのお子様……じゃあない。他のポケモンならもう進化してるか、近い内に進化するような年だ。 現にさっきのクロ、村の縄張り番をしてたヘルガーは幼馴染って奴だ。進化してからは、あんまり付き合って馬鹿やる事も無くなっちまったけどな。 因みに今から会いにいく奴も幼馴染だ。心配性な奴で、俺が旅から帰ったら必ず顔見せるように言われてんのよ。 「あなたは……セキ?」 「げっ」 先に煩いのに出くわしちまったか……まぁ、村の前であんだけの騒ぎになってたんだから出てくるわな。 「げっ、とはなんですか。まったく、その様子ではまた炎の石も手に入れられていないようですし、いつまで心配をさせるつもりなんですか」 「してくれなんて言ってねぇでしょうに。俺だってもう子供じゃねぇんだよ」 「説得力の無い見た目をしてて何を言ってるんですか。育ての親として、進化するまでは子供として扱わせてもらいます」 け~っ! ったく、余計なお世話だっての! 俺はもう腕っぷしならこの村一だい! あぁ、今話してたのはこの村のまとめ役。俺の育ての親でもあるキュウコンさ。進化しなくても俺はいっぱしにやれるって言ってんのに何時までも子供扱いしやがる。 なんで「育ての親」なのかって? 簡単さ。俺は自分の親に捨てられてたんだ。 なんでも、この村に旅して来た番いのキュウコンが、「自分達では育てられないから」とかって置いていったのが俺のタマゴだったらしい。 んで、種族的にその頃違和感無く育てられたのが今の村長だけで、俺はそのまま村長に育てられたって訳。 「ぐぅ~、今度行った時はぜぇったいに進化して帰ってきてやるからな!」 「期待しないで待ってますよ。ところで、またすぐに旅立つんですか?」 「ん? そうだなぁ……まぁ、ちょこっと村に居ようかな。あんまり離れてると帰って来た時に騒ぎになるし。今みたいに」 「なるほど、侵入者の件はあなたが勘違いされたという事ですか。間違えたのは……ゴコウですね」 「ご明察。だから侵入者なんて居ないから、これ以上騒ぎになんないようにしてくんない?」 「やっておきましょう。これからあなたは?」 「野暮用って言えばわかるっしょ?」 「……そういう事ですか。彼女もいつも心配してくれてるんだから、必ず会いに行くんですよ?」 「言われなくてもこれから行くっての」 はぁ~、やっとお小言終わりっと。だから騒がれたくなかったんだよ。バレないようにフラフラしてようと思ってたのに。 まぁいいや。どうせ顔は見せに行く気だったし、遅いか早いかの違いだ。今は目的地にさっさと行こう。 村長と会ったところから更に歩いて、懐かしい匂いを辿っていく。二ヶ月も離れてると、村に居るだけで懐かしく感じるぜ。 まぁ、村って言ってはいるけど、別に囲いがある訳でもなんでもない、森の中に集まって暮らしてるだけの場所なんだけどな。基本的に寝起きは自分の決めた木の下なんかにしてるだけだし。 で、俺の目当ての木が見えてきた。ここまで来ると、あいつの匂いもはっきり分かる。 「あら? あんたセキじゃない! 、まーだちっちゃいままなのね。可愛い可愛い♪」 「っとぉ、なんだサキ姉ちゃんか。脅かしっこ無しだぜ。それに可愛い言わないでくれよ」 横から急にムクッと出てこられると本当にビックリするぜ……。そして自然な動きで俺の頭の上に前脚を置かないでくれ。 このポケモンは、サキって名前の牝のグラエナ。この村は、炎と悪タイプの混成種族で出来てんだ。 俺が会いに行く奴の姉に当たるポケモンさ。俺も何かと世話になってる。 「もう、そんなに可愛いんだから進化なんかしなければいいじゃない。そうすれば、あの子だって寂しがらないのに」 「そうはいかんでしょ。あいつだってもうすぐ進化だろ? 俺だけしなかったら、あいつにまで馬鹿にされちまう」 「それはまず無いと思うけどね……あ、今から会いにいくんでしょ? ならいつもの所に行ってみなさい。空見ながらあんたの事待ってるだろうから」 「マジで?」 「もう日課みたいになってるからね。牝の子にそんなに想われるなんて、あんたもやるわよね~。何処までやったの?」 「あいつは俺の幼馴染。それ以上の関係はございません」 「あらそうなの? ……マーキングしとかないと、どっかの牡に持ってかれちゃうわよ~? あの子、かなり人気あるんだから」 「あいつが好きになった奴になら俺は別に何も言わないって。あんまりからかわないでくれよ、もう」 「……もう、はこっちの台詞よ。鈍いんだから」 ……ん? 最後に姉ちゃんが何か言ったみたいだけど聞こえなかったな。なんだかな? まぁいいや。あいつの居る場所は分かったし、さっさと行こう。 ---- 緩い上り坂を登って、森が終わる場所。さっきサキ姉ちゃんと別れた少し先になる。 ここは、少し特殊な場所なんだ。といっても、俺と……あいつにとってだけどさ。 ここにあいつが居る時に、必ず言ってやる言葉がある。俺とあいつが始めて話しした時に、一番最初に掛けた言葉。 「……そんなところから飛んでも、お父さんやお母さんには会えないぜ?」 「……分かってるよ、そんな事」 あの時はこんな返しが出来るような状況じゃなかったっけか。ずっと泣いて、目の周りをぐしゃぐしゃに濡らしながらこっちを振り向いた……だったかな。 病気でこいつの両親が亡くなった時だったから……今でもはっきり覚えてる。 森の一部の木の実が毒素を抱えちまって、それを偶然食っちまうとなる病気……罹るほうが難しいって病気に、こいつの両親は罹っちまった。そして、そのままな……。 先に両親が毒見したお陰で、サキ姉ちゃんやこいつは助かったけど……結果、小さいこいつ等は両親の居ない生活を余儀無くされたんだ。 「その分だと、元気そうだな」 「そっちもね。お帰り、セキ」 「ただいま、マナカ」 ポチエナのマナカ。俺の幼馴染の一匹で、同じく村長のところで世話になってた事がある。今は俺もマナカ達も村長の所を離れてはいるけどな。 上り坂の先にあるのは……崖。小さい頃、両親を失ってすぐのマナカがここに向かっていったのを俺が見かけて、追いかけて来た場所。 最初に掛けた言葉で分かるよな? こいつは……両親の事を追いかけようとしたのさ。俺が止める形にはなったけど。 それからは馬鹿な事考えないように傍に居てやった事もあったな……なんてこたぁない、親の居ない自分と、近いもんを感じたのかもしれねぇな。 マナカの隣まで行って腰掛ける。眼下に広がる森が、日の光を浴びて光ってるように見えるぜ。 「怪我、しなかった? アルコ山まで行くって聞いたけど」 「擦り傷ぐらいならもう慣れっこだ。それ以外にでかい傷は受けてないよ」 「そっか……よかった」 笑い顔を横目に見ながら、しばらくは何も話さなかった。ここに居る時はいつもそうだ。 こいつな、他の奴が居る時はいつも笑顔で居ようとするんだ。心配掛けないようにか、気を使ってかは知らんけど。 で、ここで俺だけになると心配な事とか悩んでる事とかを話してくる。そういう場所なんだ、ここは。 だから無理に話もしないし、俺も話しかけない。こうやってぼ~っと出来るのが大事な場所なんよ。 「でもセキが隣に居てくれると、ここに居るのもちょっと違うな。なんだか、安心する」 「そうかぁ? 俺が居るとやかましいんじゃねぇか?」 「そんな事ないよ。……やっぱりまだ私、何処かでセキに頼っちゃってるところがあるんだと思う。甘えちゃうような年じゃないのにね」 「気にすんなよ。俺なんぞが出来る事なら幾らでもやってやるから、何時でも言ってこいよ」 「うん、ありがとう」 寧ろ自分だけで抱え込まれたらこっちがはらはらしちまう。ここで何があったかを知ってる分な。 それに……恥ずかしながら、マナカを見てホッとした自分が居るんだよ。やっと帰ってきたってな。本当は、小さい頃から一緒って理由にかこつけて甘えてるのは俺なのかもしれねぇ。 俺が居る所為で、マナカは他の奴と良い仲にならないんじゃねぇか、てな。そんな事を思いだしてからだ、旅に出てる期間を増やしたのも。んなの俺の杞憂なのかも知れねぇのにな。 「さーて、顔見せもしたし、ちょっくら寝るとするかな。行こうぜ、マナカ」 「え!? あの……」 「? 何変な顔してんだよ? こんなとこに居てもする事無いだろ」 「そ、そうだね」 いきなり挙動不審になったな……どうかしたのか? ま、いいか。 因みに俺の住処にしてる木はこいつらの寝てる木の隣。何処にしようか迷ってたら半強制的にそうさせられた……。丁度良い洞があったから良かったんだがな。 少し駆け足で追いかけてくるマナカを待ちながら、登ってきた上り坂を下っていく。今日は休むとして、明日からはなーにするかなぁ。 ……ってわけで、俺の住処に戻ってきたんだが……。 「マナカ……俺の鼻がおかしくなってなければなんだが、お前、ここ使ったか?」 「あ、え~っと、お姉ちゃんとケンカしちゃったりした時にちょっと……」 やっぱりな。俺が居なかったのに妙に綺麗になってるし、中の空気が違う。 俺の匂いより寧ろ、マナカの匂いのほうが強いんだが。どんだけここで寝泊りしたんだか。 別に荒らされてるわけじゃないからいいか。嗅ぎ慣れてない匂いなわけでもないし。 いや~、でも慣れ親しんだ住処はやっぱりいいな。何処で寝ても、ここまで落ち着く事はないぜ。 「ほーん、まぁいいや。じゃ、俺寝るから。起きてほとぼり冷めてたらだらだらするかね?」 「ほとぼり?」 「村の奴に聞いてみろよ。くっだらない事だけどな」 「セキ、帰ってきて早々に悪戯でもしたの?」 「俺だってそこまでもうガキじゃねぇって。そんじゃ、お休み」 「あ、うん。お休み」 俺の寝る時の基本スタンスは……オープンマイン! 丸まって寝るのって体疲れね? って思う。 旅してる間は腹上にして寝るなんて出来ないから、今日はのびのび寝るぞー、超寝るぞー。 起きたら……飯でも探しに行こう。 「ぐすっ……だぁれ?」 「んと……村長のところに居るロコン」 「どうして……ここに居るの?」 「ん~、泣きながらこっちへ走ってく牝の子を追っかけてきた」 「……放っておいてよ」 「いいよ。ここじゃない場所に居るなら」 「なんで、ここはダメなの……私は、ここに居たいの」 「だって、危ないし」 「分かってるなら、何処か行ってよ」 「行くよ、君が行くなら」 「放っておいてよ! お父さんとお母さんのところへ行くの!」 「だから、行けないったら」 「うっ、うぅぅ……うわぁぁぁぁぁん!」 結局、あの日は暗くなってもマナカはそこを動かなかったんだっけ。で、俺もそれに付き合ってて、探しに来た村長達にがっつりお説教喰らったんだったかねぇ。 久々だったから夢にまで見るとは……もうちょっとマシな励まし方はなかったもんかね? 昔の俺よ。 「ふぁぁぁぁ……っと、おっほ、真っ暗じゃねぇか」 どうやら夜中に目ぇ覚めちまったみたいだな。変な時間に寝るもんじゃねぇや。 もう、まんじりとも寝れる気がしねぇな。でもこの時間に出掛けるのはなぁ……。 属に言う、大人の時間って奴なんだよ。分かるだろ? 今出歩けば、夜の闇の中で生命の神秘って奴が繰り広げられてるのに出くわすのはほぼ間違いない。はっきり言うが、この村の牡はスケベだ。 一緒にするなよ? 俺はそういうんじゃないからな。ガキだって言った奴は明日の朝に消し炭になってると思えよ? でも喉は渇いたし腹は減ったし……背に腹は変えられない、か。川までの最短距離を行こう。 洞を抜け出し夜の森……旅慣れてるってのは便利なもんで、夜目は結構効くようになったぜ。 ……周りで音は聞こえない。ってか聞こえたらまず居るのはサキ姉ちゃんと誰かだろうな。考えないようにしとこう。 川は俺の住処の裏手。ちょっとだけ離れて流れてるところがあるのだよ。だから割と暮らすのには適してんだよなーここ。川の近くには木の実在りやすいし。 聴覚だけは全開にして、軽く小走りに川まで歩く。歩く。……走る。 予想はしてたが……あまり聞きたいとは思わない声が辺りからするぞ。見に行く? そんな事は断じてしない! さっさと川で水飲んで、木の実探して帰るか。 「ん、ふぁう!」 「と思ったらここもかよ……」 いえい、川の上流のほうで絶賛盛り中でした。モウカザルとドンカラスか? 火の所為でやってる事が見えるんだが。 ははっ、下流であるここで、奴等がフィーバーしてる横を通ってきた水を飲めと? 御免被る。 水は諦めるか……全力で舌打ちでもしようかと思ったが、あんまり雰囲気を壊すのは野暮だな。 ならば、水分を補給出来るような木の実を探せば良いだけの事よ! 出来ればモモンの実なんかがあればいいんだが……。 うぅ、俺の精神が蝕まれていく……この事実を知ってしまった幼き日の俺は、この声を皆が苦しんでるんだと思って大層泣きながら村長のところへ行ったもんだよ……。 今なら分かる、何故村長がもんの凄く複雑そうな顔をしていたのかが……事実とは、時に残酷だぜ。 なんて自己を悟りのオーラで包んでたら木の実発見! しかもモモンの実! 俺グッジョブ! さーて回収だー。周囲、周囲……気にしない! 「ふふっ……モモンの果汁でぬるぬるだね」 「や、舐めちゃ……」 ……帰ろう。大丈夫、泣いてない。全然泣いてない。例え木の実を手に入れられなくても、俺は泣かない。 木の下で何やってんだよ……皆がしてるからって貴重な食料を己の楽しみに使うのはどうかと思うんだよね俺は! はぁ~、……落ち着こう。大丈夫、夜が明けてしまえば全ては元通りになるのだよ。そう、夜明けを待てば良いのさ……。 あぁ、結局何もしないで戻ってきた。旅の道すがらの静かな夜が恋しい……。 「寝ちまおう……何もかも忘れるんだ……」 洞の中にころんと転がる。腹減ったなぁ……。 はぁ~ぁ、動き損だぜ。……えぇいちらつくなさっきの映像共め。俺にはあんな事をする相手なんて居ないんだ、虚しくなるだけだろ……泣いてないんだからな! そして出てくるなマナカ! あれは幼馴染! それでしかないの! くそ、中があいつの匂いする所為で変な事想像するんだ! 心頭滅却、心頭滅却……。 「ん……」 「…………」 落ち着け。まずは落ち着け。 この洞の中には俺しか居ない。そう、俺しか居ないんだ。 今のは俺が軽く寝返り打って声が出ただけだ。 でもなんか寝転がったときにふわふわっとした物に触れた気がするし、なんか洞の中の匂いが濃くなった気がするんだが! そーっと触れたほうに視線をやると……。ぶふぅお!? 「ま、マナカ! お前なんでこっちに居るんだよ!」 「んん、ふぅ……ん」 ちょっ、ね、寝返りすんなー! そしてなんで俺の上に乗っかるー! これ、構図的にやばいだろ! いや、俺が牡でマナカが牝だから逆か……ってそうじゃねぇよ! 「起きろってマナカ、ちょーい!」 「くぅ……」 動いたら変なところに触れる事になりそうだし、かと言ってこのままじゃ不味いし……。 でも……温かい。誰かと寝るなんて、最近はとんと無かったしな。 マナカ、良い匂いだ……。このまま寝るのも、いいかな……。 「……また、泣いてるのか?」 「…………」 「村長が、飯の時間だってさ」 「なんで……」 「ん?」 「なんでセキは、放っておいてって私が言うのに、私の傍に来てくれるの? 皆は、そっとしておこうって言うのに」 「知ってたのか?」 「うん……前にちょっと聞いた」 「……なんでだろうな。放っておいたらいけない気がした」 「どうして?」 「だって……寂しそうだったし」 ---- 本当に寂しかったのは……俺だったのかもな。だから、似た境遇になったマナカを、放っておけなかったのかもしれん。 朝か……ん? 何も乗ってない……普通に寝てたのか? じゃあ、あれは夢だったのか? いや、でも今昔の事夢に見てたよな? あれぇ? ……まぁいいか。そういや腹減ったな。朝飯探しに行くか。 洞から抜けると……朝日が全力だ。まっぶしいのぉ。 まだうろうろしてるポケモンも居ないし、川のほうに行くか。 鳥ポケモンの鳴き声しか聞こえないな。すげぇ静かだ。 さて、川に到着……ん? 先客が居るみたいだな。誰か水浴びしてる。あれは……。 「なんだ、随分朝早いじゃねぇか」 「! セキ? そっちこそ早いじゃない」 「まぁ、俺は腹減って起きただけだからな」 深い川じゃないから中まで入っていけるんだ。俺もついでに水浴びするかな。 「よっ、と」 「きゃ……」 「あ、すまねぇ」 飛び込んだら予想以上に水が撥ねちまった。マナカにかけるつもりは無かったんだが……。 「やったわね? それっ」 「うぉっ!? 冷て!」 「あはは、お返しよ」 ぬぅぅ……やっぱり炎タイプにはどんな水でも冷たく感じるぜ。我慢出来ない事は無いけどな。 「ちぇっ、わざとじゃねぇってば」 「分かってるよそんなの」 笑うこいつの顔……なんかいつもよりかわ……いやいやいや、夢の所為でどっかおかしいみたいだな。ちょっと頭冷やそう。 そのまま川に仰向けに寝そべる。こんな事出来るくらい浅い川なんだ、ここ。 「どうしたの? こんなところに寝そべったりして」 「ん? このほうが気持ち良いじゃねぇか。嘘だと思うならやってみろよ」 「ん~、じゃあ」 俺の横で、マナカも寝そべる。ぎりぎり耳に水が入らないから、こうやってるのが一番気持ち良い水浴びの仕方なんだよ。 このまま少し呆けてよう。青空が綺麗だ。 「……ねぇ、セキ」 「ん? どうした?」 「進化って……必ずしなきゃいけないのかな……」 「進化? 当たり前だろ? じゃなきゃ見た目、子供のままじゃねぇか」 「そうだけど……それって、駄目な事?」 「あん?」 そりゃ、そうでもいいなら俺もわざわざ石探しに行かなくて済むから楽だけど……。 周りの奴が認めないだろうな。それに、見た目で馬鹿にされるのは続くだろうし。 「駄目じゃない……って俺は言いたいけど、やっぱり駄目だろ。皆、進化して大きくなるんだ。今までも同じように思った奴が居たかもしれないけど、そのままで済んだなんて話は聞いた事無いし」 「そう……だよね」 水に浸けてた前脚を持ち上げて、空へ伸ばす。このままじゃいられない。他の奴に置いてかれて……俺はまた、独りになる。親に捨てられた時みたいに。 「でも、もし許されるなら私は……進化したくない」 「え? なんで?」 「……この姿で、ずっと過ごしてきたから。辛い時も、楽しい時も」 「……それも、そうだな」 進化したらもう、この姿には戻れない。それはちょっと……残念かもな。 今までずっと、この姿で生きてきたんだよな。そう思うと、マナカの気持ちもよく分かる。 「でも、中身は変わらないんだ。そんなに大した事じゃないだろ」 「そうかな……本当に、変わらないのかな」 「?」 「私は……怖いの。自分の大切な物も、進化して変わっちゃうんじゃないかって」 「……変わりゃしないさ。それが大切だって、ずっと思えるんならな」 「……そっか、そうかもね」 「あぁ。さて、そろそろ出るか」 「うん。……セキ、ありがとう」 「大した事は言ってねぇよ」 こうやって笑い合えるのも、変わらねぇ……変えやしねぇさ。進化してもな。 水に浸かるの、ちょっと長かったかな。少し冷えた。 「仲良いわねー、あんた達」 「いっ!?」 「お、お姉ちゃん!?」 「あんた達が悪いんだからね? 水浴びに来たら、入りにくい雰囲気出してたんだから」 「いや。別にそんな事はねぇよ!」 「そうよ! セキとただお話してただけだもん!」 おいおい、何時から居たんだサキ姉ちゃん! 俺ら、相当恥ずかしい感じだったぞ! まさか全部見てたのか!? 「まぁいいわ。セキなら、村の他の牡とかよりずっと頼りがいあるだろうし、末永くお幸せにね♪」 「そ、そんなんじゃねぇったら!」 「ほんとー? 体からマナカの匂いさせながらじゃ説得力無いわよー?」 「せ、セキほら行こう! もう、お姉ちゃんも水浴びしたばかりでそんな訳無いんだから嘘つかないでよね!」 「……あら? そういえばそうね?」 後ろからマナカに押されるようにして川を後にする事になった……。え、俺の体、水浴びしてもマナカの匂いすんの? あの洞に居るだけでそんなに匂い移ったのか? ……まさか、あれは……夢じゃない!? でも、マナカは川に居たし……朝は普通に俺だけだったし、マナカが居たような痕跡も無かったしなぁ。 分からん事を考えてもしょうがないか。まぁ、横にマナカ居たんだし、それをサキ姉ちゃんが勘違いしたんだろ。 にしても、慌てたな。声掛けてくれてればこんなに動揺せずに済んだのによぉ。マナカなんか顔真っ赤だそ。 「おい、大丈夫か?」 「へっ!? ななな、何?」 「驚き過ぎだろ……それに、顔赤いし」 「だ、大丈夫。すぐに落ち着くから」 「そうかぁ? あ、俺、朝飯探しに行くからここで別れるわ」 「手伝おうか?」 「いやぁいいよ。そんじゃ、また後でな」 「分かった、またね」 飯探して動き回ってれば体はあったまるだろ。うし、行くか。 そういや……夢の通りだったら、あの辺りに行けばモモンの木があるはずだよな……。確認がてら、行ってみるか。 方向感覚はかなり良いほうなんだぜ、俺。じゃなきゃ毎度毎度村に帰ってこれないし。 で、夢ではこの辺を抜けたところに……。 「……無い、か」 モモンの木があった筈なんだけど、木はあっても実がねぇな。一晩で無くなる数では無さそうだったし、やっぱり夢は夢か。 ……一応、あれがあったであろう跡も探してみたが、無いっぽいし、分からん。 そんな事より飯だ飯。若干当てにしてたモモンの実が無かった以上、他の実を早く探さんと。 探してー、探してー……お? 見た事無い木の実発見。 「おや、お客さんかな?」 「おろ? こんな所にムクバードなんて住んでたのか?」 木の実の生ってる木に、一匹のムクバードが泊まってる。敵意は……無いっぽい。 「いやいや、住んでるのではないのですよ。丁度、木の実が生っているのがここだったので立ち寄ったのです」 「ふーん、この木の実、見た事無いんだけど……なんて言うんだい?」 「これですか? ヤチェの実と言います。少し渋くて酸っぱい独特の味ですが、慣れると美味しいですよ」 ほーん。どっちも嫌いじゃないし、貰っていくかな。 「へぇ~、食えそうだな。貰ってっていいかい?」 「どうぞどうぞ。元々ここに自生した木のようですから」 「そいつは助かるよ」 「あぁ、木の高い所の実のほうが美味しいですし、ちょっと待ってください」 ふわっと降りてきて……五つも実を置いてくれたぞ。親切なポケモンだなー。 お礼言ったら、どういたしましてって言って飛んでいっちまった。……本当に親切だ。 「あ、忘れてました」 「うお!?」 「その実には、体温を高める効果があるので、あまり暑い時には食べないほうがいいですよ。それと、時々おかしな事を起こす実もあるそうなので、食べ過ぎは厳禁です」 「お、おぉ、忠告どうも」 ……びっくりしたー。まぁ、木の実には何かしらの効果があるのは分かるし、気をつけないといけないのはどれも変わらんわな。 早速一個……む、言われた通り癖のある味だな……まぁ、不味くはないし、腹が膨れればそれでいいか。 二個も食えば満足だよなぁ。珍しいし、後のは持ってくか。お、体もぽかぽかしてきたし、良い感じだ。 ---- さて、だらだら戻ってきたぞっと? なんだ、村長が俺の住処の前に居るぞ? 「どうかしたのか?」 「あぁ、帰ってきましたか。いや、少し様子を見に来ただけですよ」 「なんだよ、なんかあったのかと思うじゃねぇか。脅かしっこ無しで頼むぜ」 「それはごめんなさい。そういえば、まだ朝早いですが何処へ?」 「行ってたかって? 朝飯探しに行ってたんだよ。そうだ、一個どうだい?」 折角三つもあるんだから村長にもやろう。世話にはなってるし。 「これは?」 「ヤチェの実って言うんだとさ。森ぶらぶらしてて見つけたんだ」 「ほう……味は?」 「ちょい渋くて酸っぱい感じ」 「なるほど、後で頂きましょう」 実は村長、渋い味の木の実好きなんよ。今も渋いって聞いた瞬間に尻尾がぴくっと反応して、今はゆっくり揺れてる。 用は本当に無かったみたいだな……実を受け取ったらさっさとどっか行っちまった。……あれは、後なんて言わずにすぐに食うな。 あ、副作用の事話さなかった……まぁ、なんともないだろ。 あと二個は……一つは昼飯で、もう一個は……後で考えよう。 マナカ達の木のほうには……誰も居ないか。ん~、帰ってきたばかりだけど、どっか行くか。 で、出てきたんだが……おやっさんと遭遇しました。おやっさんはこの村の治安維持の為に見回ってるから遭遇しない方が難しいけど。 「おやっさんおっすー」 「おうセキ。……お前、昨日の夜に出歩いてたか?」 「ん? 出てないけど?」 「そうか……」 なんだ? 何かあったのかね? って、朝から俺こんなんばっかじゃないか? そんなに神妙な顔してる訳じゃないし、そこまで重い話ではないだろうけど。 「大した話ではないんだが、昨日の夜に……」 「うん」 「マナカが村の中をうろうろしてるのを見かけてな。お前が夜に誘いでもしたのかと思ってな……」 「ふーん……なにぃ!?」 「何か、迷ってるような感じだったんで気になったんだ。その分だと、お前は関係無いみたいだな」 「朝会ったけど、全然変な様子は無かったぜ!?」 「そうか? じゃあ、見間違いだったのかもしれんな。まぁ、それだけだ。気にするな」 気にしますけど! マナカ、何やってたんだよ……。 うーん、でもこれで、昨日の夜のが夢だったって証明にはなるか……。うろうろしてるもんと一緒に寝れるわけないし。 でも何してたんだろうな……もしかして、良い仲の奴が出来たとか? おやっさんは見間違いかもとは言ってたけど、気になる……。 いや、誰と付き合おうとマナカの自由だし、俺が心配するのはお門違いだよな。……昨日サキ姉ちゃんにカッコつけてあんな事言ったのに何やってんだ俺は。 気にしないでおこう。そう、そうしよう。 ……くそ、それでもマナカを探してる俺カッコ悪! 何やってんだろ。 気にしないで散歩しようとしてんのに、気がついたらマナカが居ないかとか考えてるし、昨日の夜何してたか気にしてるし……。 俺だって分かってるさ。自分がマナカの事を好きな事くらい。 でも、進化出来ないからって子供扱いされる俺なんかと付き合うのはマナカに良くないと思ってたんだよ。 だから苦労するって分かってる場所にでも行ってたんだ。進化さえすれば、胸を張ってここに居られるからよ。 でもそれが出来ない。だからこんなにぐずぐずする事になるんだ……。本当に、嫌な体だぜ……。 マナカ……居ねぇな。……下手に探し回るよりも住処に居たほうがいいか? 入り口の辺りに居れば帰ってきたのも分かるし。 ……そうしよう。闇雲に探し回っても見つからないだろうし、歩き回るたびにもやもやしてくる。 でも……マナカに会って、俺はどうするんだ? もし、マナカに本当に付き合ってる奴が居るとしたら? うぅ、頭痛くなってきた……マジで帰ろう……。 「セキ、何処行くの?」 「ん? 進化する為に炎の石を探しに行くんだ」 「そう……なの」 「おいおい、そんな顔するなって。そんなに長く行く訳じゃないし」 「でも……」 「約束は忘れた訳じゃないって。そんなに心配なら、なるべく早く帰ってくるからさ」 「……分かった、帰ってきたら……会いに来てね。私、あそこに居るから」 「わぁかったよ。必ず行く」 約束って……? あれ? なんか、飛んでる? なんだったっけ、マナカとの約束……いや、何かしたのは覚えてるぞ。 ってか、俺は今何処に居るんだ? むー、全く覚えてない。 「……き……セキ……」 ん、誰かが俺を、呼んでるぞ? 「セキ……セキ!」 この声は……。 「大丈夫!? しっかりして、セキ!」 「マナカ……か?」 「セキ! 目を覚ましたのね!?」 目を開けたら……涙目のマナカが目の前に居た。 しかもここ、さっき歩いてたところじゃねぇか。なんで俺、こんなところで寝てたんだ? 周り見たら、村長におやっさん、クロまで居るじゃねぇか。 「どうしたんだよ皆してこんな所に」 「どうしたじゃありません! あなた、自分がどうなってたか分からないんですか!?」 「へ? どういう事?」 「俺が見つけた時は、ピクリともせずにここで倒れてたんだぜ?」 「今の今まで死んだように、な」 「……マジで?」 全員頷いたし……どういうことだ? ……待てよ? 確かヤチェの実をくれたムクバード……あの実にはたまにおかしな効果がある実が出来るって言ってたか。 原因がそれしか思いつかないし、多分、それにあたったんだな? うわ~、無駄な幸運。こういうので発揮されないで石探してるときに発揮されてくれよ。 「あ~、体に変なところがあるわけじゃないし、もう大丈夫だ。悪かったな」 「それで済ませるつもりじゃないでしょうね? 倒れた事実がある以上、あなたの住んでる洞までは運びますからね」 「いや、俺も帰ろうとしてたし、もう歩くのも平気……」 「だとしても無理はするな。大人しく運ばれろ」 おやっさんに捕まって、強制的に村長に乗せられた……。むう、四対一に逆らおうとしても無駄か。 「にしても、どうして倒れたんだよ?」 「よくわかんねぇな。なんか、頭が痛くなったと思ったらそこから記憶無いし」 「そんな状態で大丈夫なんて言ったんですか……全く、そういう時は進化してるしてないに拘らないで他者を頼りなさい」 「いや、頭が痛くなってすぐに倒れたっぽいし、痛くなったのも急だったからどうしようもなかったんだよ」 「……そんなに疲労してたようには見えませんでしたが、体は正直だったという事ですかね」 ヤチェの実の事を知らん皆には、やっぱり旅疲れが原因として一番確立が高いんだろうな。 ……まぁ、少なからずちょこっとはあるかもな。 そういや、マナカが全然喋らんな。起きてすぐ見た時は泣いてたようだし、けなされてもおかしくないんだが。 厳重警備で進んできて、俺の住処が見えてきた。着くまで常におやっさんと村長にお説教を喰らうこの状態……二度となりたくねぇな。 「しばらく大人しくして体を休めなさい。うろうろするんじゃありませんよ」 「へぇへぇ……」 「……いまいち信用性に欠けますね。やはりついていましょうか……」 「あ、あの……」 ずっと押し黙ってたマナカがやっと口を開いた。……このタイミングで話し出すって事はやっぱり……。 「セキには私がついていては駄目ですか?」 「マナカ? ……あなたが良ければ、お願いできますか?」 「はい!」 ……俺に拒否権は無いだろうな。無駄な事はしないでおこう。 マナカと並んで、俺を運んできた三匹を見送る。心配して集まってきてくれたんだ。悪い気はしない。 でも体は大丈夫だしどう……うおっ!? な、何が起こった!? 急にマナカに突き飛ばされたぞ!? 俯いてるから顔が見えねぇし、なんだってんだよ?! 「セキの……馬鹿……」 「えっ……ちょ、おい……」 な、なんで乗っかる? ……泣い、てるのか? 「凄い……心配……したんだからね……ぐすっ」 「うっ、それは悪かったけどよ、朝会った時は元気だったしそこまで心配する事ねぇじゃねぇか」 「……お父さんも、お母さんも、そう……だったもん」 あ……、そうか、倒れてる俺の姿が丁度親父さん達の姿に重なったのか。 親父さん達はマナカ達の目の前で倒れて、そのまま……だからな。 「……ごめん」 「セキまで居なくなったら、私……どうすればいいの? もう、あんなに悲しいの……耐えられないよ」 俺は……マナカにとって、そんなに大切な奴になれてたのか……なのに俺は……。 あ……。 「ねぇ」 「ん?」 「セキは……いつまで私と一緒に居てくれるのかな……」 「なんだよ急に?」 「だって、セキにも好きなポケモンがいつか出来るかもしれないじゃない。その時、私はどうなってるのかなって」 「さぁな? でも、今のままだったら心配する事無いぞ」 「どうして?」 「危なっかしくて、俺がほっとけねぇよ」 「も、もうお父さん達を追いかけようとなんてしないよ」 「そうじゃねぇよ。俺が居なくなっても、ちゃんと笑ってられるようになってなきゃ、お前辛いのに押し潰されちゃうだろ」 「そ、そんな事、無いもん」 「本当かー?」 「……そんな事言うなら、セキがずっと一緒に居てくれればいいじゃない」 「そうだな……そん時は、そうするか」 「え!? いいの?」 「今更だろ? 今まで、殆ど一緒に居たんだからそれが続いていくだけだし」 「そっか、それもそうだよね」 「あぁ」 「じゃあ、約束しようよ」 「何を?」 「これからも、ずっと一緒に居ようって。置いて居なくなっちゃったりしないって……」 「する必要あるのかぁ?」 「あるよ! セキってほっといたらどっか行っちゃいそうだもん!」 「わ、分かったって……じゃあ約束な。これからも、俺はお前の傍に居る。勝手に居なくなったりしない」 「うん! ……約束、忘れないでよ?」 「忘れないってば!」 「……馬鹿だよな、俺。俺が居たんじゃ、お前が他の奴と付き合えないとか勝手に思い込んで……」 「そんな事……」 「そう、そんな事……望んでなかったのにな……」 「……私は! セキと……セキとずっと一緒に居たいの! それだけで……いいの……」 思い出した、約束……。マナカはずっと前から言ってくれてたんじゃねぇか。俺と一緒に居たいって。 俺が馬鹿だったから、その約束の重みを理解してなかったんだ。あの約束をした、マナカの気持ちを……。 「進化の為に旅に出るのも、本当は行ってほしくなんかなかった……そのまま、セキが帰ってこないんじゃないかと思って……」 「だから、朝の話か」 「うん……」 「ははっ、偉そうに言っておきながら、進化する前に変わっちまってたら世話ないわな」 「セキに甘えたままじゃいけないとは思ったよ? でも私には……セキがもう傍に居てくれないって決まった明日は、耐えられないの」 涙が溢れて濡れたマナカの頬を、そっと舐めてやった。くすぐったかったかな? 「俺にとって大事なのは、進化する事なんかじゃなかった。……お前と一緒に居られる事だったんだよな」 「セキ……」 そこから、お互いの口が重なるのに時間は掛からなかった。 本当なら、進化したポケモン同士でしかしない事……でも、俺達は引き返す気は無い。 お互いに口を離して顔を見合ったけど、マナカもそのつもりみたいだ。 「マナカ……」 「うん……セキとなら……私……」 マナカが俺から降りて、仰向けに寝てこっちを見てる。俺も、覚悟を決めよう。 夜に様子は見た事あるけど、自分でいざするとなるとどうすればいいか分からないぞ。なんか妙に体が熱くなってるし。 心臓の音が煩いくらいだ。普段はもっと簡単にマナカに触れられるのに、今は本当に触れていいものか分からない。 ま、まずは目の前にあるマナカの腹を……撫でてみようか。 「はんっ……ぅ……」 「うおっ、大丈夫か?」 「だ、大丈夫。ちょっとどきどきしただけだから」 緊張して、触れた前脚が痺れてる気がする。でも、もっと触れたい。 ゆっくり、マナカの腹を撫でていく。触れる度にびくっと跳ねて、息をする度に上下してるのが分かる。 軟らかいな……それに、いつもとは違う不思議な匂いがする。頭がぼんやりしてくる……。 この腹に……顔を埋めたい。 「ひゃん! はふぅ……」 「温かい……気持ちいいよ」 「そんなにお腹弄っちゃ、あっ、んん!」 覆いかぶさるように、マナカの上に乗らせてもらった。触れ合うだけで体が熱くなっていって、血が、体中に巡っていく。 マナカの耳……鼻……首筋……全部に、触れたい。 「んっ、耳なんか舐めても美味しくないよぉ」 「いいんだよ……俺がやりたいんだから」 きゅっと目を瞑ってるの可愛いな。もっと見ていたい。 耳から少しずつ、舐める位置を下にずらしていく。小さく声を漏らしながら、それでもマナカは嫌がってはいないみたいだ。 首を通り過ぎて、胸を滑り、腹を這い……もっと下へ。 「そ、そこは!」 「……駄目、か?」 こっちを向いてた顔が赤くなって、ふいっと横を向いた。恥ずかしいのは変わらないんだな。 でも、いいって事だよな、これは。 舌を更に滑らせて……後ろ足の間へと入っていく。マナカの……大事なところだ。 舌で輪郭をなぞって、そこで一旦顔を離させてもらおう。幾ら一緒に居たと言っても、こんなところをまじまじと見た事なんか無いからな……見てみたくなった。 そこの周りだけ毛が薄くなって、割れ目が分かる。いつもは毛が立ってるから見えないんだろうけど、今は俺が舐めてたからよく見える。 荒くなった息遣いは聞こえるし、脚がぴくぴく痙攣してるところを見ると、マナカもしっかり反応してるみたいだ。 とろっと、割れ目からは雫が染み出てきてる……それを舌で掬って、溢れている先へと舌を伸ばしていかせてもらう……。 「あ……駄目、や、あぁ!」 軟らかくて、温かくて、さっきからの不思議な匂いも濃く感じる。これが牝のなのか……。 俺の奴も、さっきから起き上がってその姿を晒してる。……今俺が味わってる、この場所に入りたいが為に。 「お、おあひく、なっひゃう……あふ……うぁ」 マナカは体から力が抜けてるのか、俺の舌の動きに合わせて体を震わすだけで、もう脚にも力を込められないみたいだ。 「駄目、なにかきひゃう……でひゃう……う、はぁん!」 口の中に匂いが拡がって、あったかい物が溜まってきた。 知ってる。牝が気持ち良くなって、牡を受け入れる準備の為に出るもの。愛液とかって言ってたっけな。それだ。 ちょっと粘り気があって、なんともいえない味がする。飲み込めないようなものじゃないな。 口に入ってるのを溜めて、マナカの割れ目から口を離した。 「ふぅ、ん……そんなの汚いよ……吐き出しちゃって……」 そうは言われたが……そのまま喉の奥に通しちまった。 「あ……」 「ふぃ~……ははっ、これで中までマナカの匂い、染み付いちまったかもな」 「は、吐き出しちゃえばよかったのに」 「……俺なりの、マナカと一緒に居たいっていう印みたいなもんかな。なんて……」 「……馬鹿」 「今更言われなくったって、自分でも分かってるって」 俺が笑ってみせたら、恥ずかしそうにしながら……マナカも笑ってくれた。 ---- 「セキ……私にも、セキと一緒に居たいって言う印、くれる?」 「それは……」 「ここ……セキのを、お願い」 自分で後ろ足拡げて、俺に見せるなんて……普段のマナカなら、絶対にしないだろうな。 俺が前に進んだのを見て、マナカは無防備な状態になった。……ありがとう。 もう自分でも驚くくらいに大きくなったそれを、マナカの割れ目に当てた。あと一押しすれば、中に入っていくことになる。 「マナカ……大好きだ……」 「私もだよ……セキ……」 割れ目を拡げながら、俺のモノがマナカの中へ沈んでいく。軟らかい壁に包まれて、気持ち良さで腰が抜けそうだ。 吐く息と一緒に、力も抜けていくような感じがする。 「うっ、あ……」 「はぁっ、はぁっ、だい……丈夫……か?」 「セキこそ……辛そう、だよ?」 「平気……だっての」 壁から来る締め付けで、心地良さが絶え間無く押し寄せる。 ……少し進んだら、中で何かにつかえたぞ。力を込めればいけそうだけど……。 「大丈夫……痛くても、セキになら……」 「……分かった。やるからな」 「うん」 力を込めて……そこを、抜ける! 「うくっ、あぁぁ!」 「大丈夫か!?」 「ひぐっ、うぅぅ……」 前脚でマナカを抱え込んで、落ち着くまで待とう。今無理をしたら、マナカが壊れちまう。 よっぽど痛かったんだろう、嗚咽としゃくりあげが続いてる。 ……少しずつ、治まってきたな。 「まだ……痛むか?」 「少し、治まってきた。お腹の中が、あったかい……」 抱いた時に、そのまま奥まで俺のモノは納まった。今、マナカと一つになってる……。 「もう、平気。……私達、繋がってるね」 「あぁ……動いても、いいか?」 「……いいよ。もっと、セキと繋がりたいもん」 マナカの頭を撫でて、ゆっくりと腰を浮かしていく。絡みついた愛液と、少しのマナカの血が見えた。すまないな……。 そして、中へと押し戻す。吸い付くように擦れ合う感触が、なんとも言えない心地良さを与えてくる。 息が、荒くなっていく。だんだん、マナカ以外のものが見えなくなっていく……。 「はくっ、あ、は、セキ、セキぃ!」 「俺は居るよ、ここに、居るよ」 口付けをして、お互いを確かめ合うように舌が絡み合う。 深く繋がれるように何度も腰を振って、マナカの中を染めていく。 そっか……俺今、幸せなんだ。マナカと繋がれて……これからも一緒だって、誓い合って……。 ずっと無くならない、消えない繋がり……俺がずっと探していた、本当に大切なもの……。 進化なんかしなくても、ずっと、変わらずそこにあったもの……。 マナカ……やっと本当に、お前の傍に居てやれるよ……。 「出す、からな!」 「来てぇ! 私と、ずっと……!」 「一緒だ! んぅ、ああああああああ!」 「んく! はぁぁぁぁぁあん!」 そう……ずっと……一緒に……。 「……進化って、なんなのかなぁ?」 「さぁ、な。よく分かんねぇや」 「大人になるって事?」 「どうだろう? ……そもそも、進化したら大人なんて誰が言い出したんだろうな」 「分からないよ……多分、皆知らないよね」 「だろうな。……でも、進化は区切りとして丁度良かったのかもな。体は大きくなるし」 「そうだね。でも……」 「大事なのは、進化する事じゃない」 「うん。進化しても、進化しなくても……」 大切なものを、大切だと思い続けられる事……それが出来ればきっと、進化よりも大事なものが見えてくる。 「俺達はずっと一緒だ、マナカ!」 「うん!」 ~進化する事、しない事……終~ ---- コメント欄を設置~。 投票時にコメントをしてくれた皆様、簡単な返事になってしまい申し訳ありませんが……ここでお礼を申し上げさせて頂きます。 遅筆作者双牙連刃、お楽しみ頂けました皆様には誠に感謝の言葉しかございません。次回大会など開かれるのならば、より一層、お楽しみ頂ける作品を書けるよう活動を続けたいと思いますので、拙い作品達をこれからもよろしくお願いします! #pcomment